第135話 2008年 ①意識
2008年
錬が目を覚ましたその年の12月初め、普通に歩けるまでになった。
年末前辺りには退院できるらしいとのことで、リハビリを続けていた。
ほぼ1年寝たきりの状態であった錬。
寝たきり状態が続くと関節など可動範囲が狭くなったり、筋肉が無くなってしまうなどあるのだが、不思議とそれがあまりない感じであった。
見舞いに来ていた皆んなは何も言っていなかった。後ほどリハビリの際に疑問に思い担当の看護師に聞いてみると、入院してから1ヶ月後、見舞いに来た家族の方が初めに関節が萎縮しないよう先生に許可をもらい負担がないように体を動かしてくれていたとの事だった。
それに続くように見舞いに来た友人達も毎日変わりがわりにやっていたとも言っていた。
錬「感謝しかないな…」
看護師「それに、皆さん同じような事口にしてましたよ?」
錬「同じような事?」
看護師「はい、皆さん口々に『こんな事でしか役に立てない』って」
錬はフッと笑う。
錬「気にしなくていいのにな…」
看護師「色々聞きましたけど、信条さん凄い偉業を達成されてたんですよね」
錬「俺だけの力じゃないですよ…皆の協力がなければ難しかった事が多すぎますし」
看護師「さて、お話はこれくらいにして次行かないと怒られちゃう!それじゃ、リハビリの先生が来るまで大人しくね」
錬「はい、ありがとうございました」
そういうと、血液採取などを行った看護師は病室を後にした。
それから暫くして、リハビリの先生がやってくる。
先生「やあ、気分はどうだい?」
錬「いい感じです」
先生「それじゃ、リハビリ室に行こうか」
錬「はい!」
今日のリハビリが開始される。
それから一時間後、リハビリは終了し錬は先生より話しかけられた。
先生「お疲れ様。今日でリハビリは終了するよ」
錬「えっ?本当ならもう少し必要じゃ…」
先生「本当ならもう少しゆっくり時間をかけてなんだけどね。君には驚かされるよ。回復力もさながら他の先生から聞いていた通りだったよ」
錬「それはどういう…」
先生「まぁ、細かいことは気にせず。私もいい勉強をさせてもらったということだよ!とにかく、この数週間お疲れ様!退院も近いはずだけど、退院してからも検査の時は経過も見たいから一応こちらにも来てほしい」
錬「わかりました。この数週間ありがとうございました!」
錬は先生へお礼を言うとリハビリ室を後にした。
それから退院までの数週間、面会に来た人達と他愛もない会話をしながら過ごしていた。
病院の談話にふらりと向かうと、そこには数人の先客がいた。テレビでは瀬那と遙の二人がライブ会場で歌っている様子が流れていた。
錬「頑張ってるみたいだな…」
そんなことを呟くと同じ階に入院している患者のおじさんから声をかけられた。
「おっ?同じ階のにいちゃんじゃねーか!テレビに映ってるの、にいちゃんのコレか?」
おじさんは右手の小指をクイクイ動かしている。
そんな話に談話室にいる全員がバッと錬とおじさんの方を振り向く。
錬「ち、違いますよ!その子は知り合いといいますか、なんと言うか…」
「なんでぃ。つまらんな〜。でも、二人で来る時もあったが、一人で来るのをみかけた気もしたんだがなぁ…。ここ最近は見かけてないが…」
錬「そ、そうだったんですね。情報ありがとうございます…」
他の人の視線に耐えきれず、錬はその場からそそくさと立ち去っていった。
病室に戻ってから、錬は瀬那の事を考えていた。
いつの間にか隣にいる事が心強いと感じていた彼女。
1年前のあの出来事で更にその想いが強くなっていると自分の中で感じていた。
だが、自分の中の想いが恋人としてのパートナーとしてなのか、戦いの場を共にして信頼できるパートナーとしてなのか理解出来なかった。
錬「…あーっ!もう!モヤモヤする!」
前世でも今世でも恋というものはした事はあったが、こんなにはっきりしない気持ちは初めてであった。
そんなモヤモヤした想いを抱えたまま、錬は退院の日を迎えたのだった。
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