第111話 時限

未だその力を発散させている飛燕であったが徐々にその機体の限界が来ていた。

所々に機能不全が起ころうとしていたのだ、それに呼応するかのように錬の体にも限界が訪れようとしていた。

初めは目や鼻から血が流れていたのだが、ついに吐血し始める。

しかし、そんな自分の様子も気に留めることもせずひたすら目の前の敵の残骸を攻撃し続けていた。

そんな飛燕に近づく小さな影…ハクに乗った瀬那であった。

マナの流れというものは見えない瀬那であったが、飛燕に近づくにつれて異様な感覚が襲ってくるのがわかった。そして、ハクもそのことを感じ取ったのか少し怖気づいてしまっていた。



瀬那「ごめんねハク…。怖いかもしれないけど、もう少し近づける?」

ハク「ヒヒン!」



瀬那の思いに応えるようにハクはゆっくりと飛燕に近づいていく。



瀬那「錬さん!お願い止まって!もう終わったんです!」



近くで通信を試みるが振り向くことも手を止めることもなく同じ行動をとり続ける。

何度も諦めず声をかけるが、その効果はなかった。



瀬那「急がないと錬さんが…」



焦り始める瀬那、それを他所に飛燕には再びマナが集まり出し始めた。



ハク「ヒヒーン!」



ハクもそのことを察知し瀬那に警告を出す。



瀬那「大丈夫だよハク…。でも、もう時間もない…皆や私の声も届かないなら…」



瀬那はスッと目を閉じ、両手を祈るように胸の前で組むとゆっくりと歌い始める。



瀬那「♪~(お願い、錬さん…私の…皆の声を…想いを聴いて!)」



瀬那の歌は周りに響き渡る。

そして、先ほどまで同じ行動を繰り返していた飛燕がその手を止める。



錬『ジャマヲ…スルナ!』



次の瞬間、飛燕はマグネスを攻撃していた手を近くにいたハクに向けて振り下ろす。

とっさのことにハクは反応できず飛燕の攻撃を回避できなかった。

だが、その攻撃は間に入った黒い影が防いだ。



ウル「バカ野郎!錬!今お前が攻撃しようとしたのは誰かもう一度見てみろ!」

錬『ジャマ…ヲ…うぐっ…うがああぁぁぁぁ!』


飛燕はその手を止めると頭を抱えるような仕草をし、マグネスの上から転げ落ちる。

苦しむ様子を見せる錬と飛燕…しかし、マナの流入は止まろうとしていない。



黒鋼:いかん!このままでは動力炉が暴発する!マナの…魔力の流れを抑えなければ!

ウル「くそっ!錬をコックピットから引きはがすか!」

黒鋼:ダメだ!そんなことをすれば今ギリギリで制御されているかもしれない魔力が一気に暴発して辺り一面消し炭になるほどの威力の爆発が起きてもおかしくない!

ウル「錬を正気に戻しつつ、その魔力を消費させるしかないのか!」

黒鋼:生命反応も徐々に弱くなってきている…。このまま長引けば全て最悪の方向へ行く…。



そんな会話をしている時、瀬那がウルに話しかける。



瀬那「私に…私に少し時間をくれませんか?」

ウル「何をする気だ?」

瀬那「私に考えがあるんです…」

ウル「わかった…。ダメだったら強行手段に出る…そのつもりでいろ」

瀬那「はい…」



瀬那はハクに飛燕に近づくように促すと、再び祈るように目を閉じ歌い始めた。



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