第6話 2年前… since 1997 ②

渉は頷くと彩芽を連れその場を後にする。

その後、すぐにダンジョンから3人の青年たちが出てくるのを確認できた。紗菜はその青年達に懇願するように泣きながらすがりつく。


紗菜「お、お願いします。友達が!魔物に!」



森の方を指さす少女に3人の青年は顔を青ざめた。

巨体がなぎ倒した木々を見て、3人は何がダンジョンから出てきたのだろかわかっているようであった。


??「まさか、さっきのベヒモス…仕留めきれてなかったのか!」

??「だが、何故ダンジョン外に…」

??「過去の文献でもダンジョンから出るときもあると見たことはあったが…だがグズグズしてる暇はないな!急いで追いかけなければ!」



3人が紗菜をなだめ、駆け出そうとした瞬間、ズガン!と物凄い音と共に魔物の咆哮が聞こえる。

3人のうちの1人が無事でいてくれよと呟き駆け出して行った。





錬「ハァ、ハァ…」


森の中を駆ける錬。相変わらず後ろではベヒモスが木々をなぎ倒して追ってきている。そろそろ、祠の近くに差し掛かろうという時だった。

ズザーッ!

錬の足がもつれ転倒する。


錬「くっ…」


すぐそこにはベヒモスが迫っていた。

ここまでかと錬は覚悟したが、その時ベヒモスは何かにおびえた様に錬の目の前で止まったのだった。


錬「何が…?」


一瞬何が起こったかわからなかったが、次の瞬間に錬に語り掛けてくる存在がベヒモスをおびえさせたのだと理解できた。


“人の子よ。助かりたいか?”


その存在の問いかけにこくりと頷く錬。


“では、おぬしは何を我に捧げる?”


様々な考えが廻ったが、今の錬に出せる答えは“命”か自身に宿る“魔力”この2つしか思いつかなかった。


錬「魔力を…」


“良いのか?魔力を我に捧げると、おぬしは一生魔法が使えなくなるやもしれぬぞ?”


一生魔法が使えなくなる…確かに嫌だが、助かるのであれば命にはかえられない。魔法が使えない世界にいた頃の記憶がある錬には、こちらでも魔法が使えないだけと割り切ればなんとかなりそう…そうこの時は思っていた。後にこの選択が周りを巻き込む一大事の一つになろうとは。


それにベヒモスを何とかしなければ近くの町にも被害が及ぶ。そう考えると迷っている暇はない様に感じた。



“後悔はないな?では、契約成立だ。呼ぶがいい我の名を…我の名前は”


錬「呼びいでよ!天照あまてらす!」



錬が契約したのは日本の神話にある神…天照大御神。この世界でもその名はあり存在していた。

呼び出された天照は灼熱の魔法で錬の目の前にいたベヒモスを焼き尽くす。

その巨体は断末魔を上げると、大きな音を立てて地面に伏した。

その様子を確認した錬だったが、突如脱力感に襲われその場に倒れた。


“本当であれば一度きりなのじゃがな…今回は特別じゃ。5は呼び出しに答えようぞ。必要な時にまた呼ぶがいい…”


薄れゆく意識の中で錬は天照の言葉をしっかりと刻みつけた。


その後、青年たちによって発見された錬は病院に運ばれ様々な検査を受ける。身体的には異常はなかった。魔力測定の際、以前あった膨大の魔力は全く感知されず医者や病院に在中している魔法師たちも首を傾げたほどであった。

錬自身もこの事に関して大人たちになんと聞かれようが、わからないの1点張りで通していた。

退院後に実父とすったもんだがあり、叔父に引き取られることとなる。

実家からは少し離れはしたが同じ町内なのでそんなに気になりはしなかった。

だが、学校生活などは激変したと言っても過言ではなかった。今まで膨大な魔力があり好成績を残していたのが魔力がなくなったことで、魔力が一番低い生徒より魔法の実技授業の成績は落ちていた。救いと言えば、筆記の方はまだ好成績を残せていたことである。

また、使い魔等の契約を行う授業では一番下級な使い魔でさえ呼び出しに答える事はなかったため、ある意味で魔法関連の事には今後携われないのではないかと先生達の間で話合われた。

この突然の変わりように他のクラスメイトや先生達ですら錬の扱いに困ってしまっていた。

当の本人はあまり気にする素振りは見せていないが、周りの錬の見る目が変わっていく事にある2人はとても、心を痛めていた。



※ちなみに何故使い魔等の契約が出来なかったのかは後日、錬は知ることとなる。

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