十一話 光正学園案内ツアー②
「あれ? 蓮は?」
追いついたものの、そこには蓮がいなかった。
てっきり芹崎さんを追いかけたものだとばかり思っていたのだが、違ったのだろうか?
「蓮君は来ませんでしたよ? 祐也君と一緒にいたのではなかったのですか?」
「いや、それが途中で別れたんだよ。てっきり、芹崎さんのところに行ったのかと思ったんだけど……」
言いながら、俺は辺りを見回す。
すると、楽しそうにお喋りをしている男子グループが目についた。
その中には蓮の姿がある。
「あいつ……」
蓮のいた男子グループは、いわゆるスクールカースト上位の奴らが集まったグループだった。
昔はああいう奴らを嫌ってた蓮が、今では仲良さそうに会話をしている。
……いい意味で、変わったんだな。
俺自身、今までずっと俺にべったりだった蓮が他の人達と仲良くしているのは嬉しい。
ちなみにべったりと言っても、子供っぽく引っ付いてくるわけではなかった。
蓮は元々、周りを酷く怖がる人間だった。
信頼できる人間も俺しかいなく、小さい頃から蓮はずっと俺の隣にいた。
そんな時からすれば、今の蓮はすごくフレンドリーになったと言える。
蓮のことを心配していた俺は、今の蓮の姿を見ることが出来てすごく嬉しかった。
「……祐也君?」
俺が蓮のいるグループを見つめていると、ふと芹崎さんに声をかけられる。
視線を移すと、そこには俺の顔を覗き込んでいる芹崎さんの姿があった。
「あぁ、ごめん。ちょっとボーッとしてた。……行こうか」
「……はい!」
俺が頭を掻きながら言うと、芹崎さんは微笑みながら返してくれた。
◆
俺たちは昼食を取ったあと、再び学園内を歩き始めた。
二階の音楽室から始まり、コンピューター室、家庭科室、美術室、理科室と、朝の失敗を活かして少し急ぎ足でまわっていった。
「——主なところはこれくらいかな。なんか他に気になる場所とかがあったら聞いて。教えられる範囲なら教えてあげるから」
「はい。あの、ありがとうございます。せっかくの昼休みの時間を割いてしまって」
「いいんだよ。俺だってこれがなかったら暇だったから」
会話をしながら、俺たちは廊下を歩いていく。
後は、自教室に戻るだけだった。
昼休みも終わりに近づき、なんとか時間内に案内を終えることができた俺はほっと安堵の息をついていた。
……のだが、どうやらもう一山ありそうだ。
「——ねぇねぇ君。こんなところで何してるの?」
「こんなヒョロヒョロな男と一緒にいないで、ちょっと俺らと一緒においでよ」
前方から二人組の男が近づいてきた。
……そうか、ここは四階。
三年生教室のある階だったな。
「あの、えっと……」
芹崎さんは、男たちから言葉を浴びせられ一歩後ずさる。
「おい、ちょっとそこどけよ」
言いながら、一人が俺の肩を突き飛ばそうとした。
が、俺はその手を寸前で交わす。
「なっ……!?」
男の手は、そのまま虚空を引っ掻く。
その手を横目で見ながら、俺は芹崎さんを守るようにして、男たちと芹崎さんの間に腕を滑り込ませた。
「やめてください。彼女が怖がっています」
頭を貫こうかという勢いで、俺は男たちを睨みつける。
「なんだよお前。俺らはその女の子を誘ってるだけじゃん」
一人が体制を崩している中、もう一人がそんな言い訳をしてきた。
芹崎さんを怖がらせておいて、この男は何を言っているんだ?
自分のことしか考えていない低能が。
「それが彼女にとって怖いんです。彼女は先輩方についていくことを望んでいません。そろそろ昼休みも終わりますし、さっさと教室に戻ってください」
「何勝手にその子の気持ちを知ったつもりでいるんだよ! こいつ、調子に乗りやがって……!」
さっき俺の肩を突き飛ばそうとした男は、俺の言葉が頭にきたのか、拳を俺の方に突き出してきた。
慣れていないのか、男が繰り出してくる拳の速度は遅い。
……こんなの、簡単に受け止められる。
俺は男の拳を手のひらで受け止めると、そのまま男の手首を掴み、捻り上げた。
「がっ……!?」
手首に走ったであろう衝撃で、男はうめき声を上げる。
それを傍観していたもう一人の男は、顔に動揺を浮かばせながら一歩後ずさった。
「あんまり大事にはしたくないんです。分かったなら、早くどっか行ってください」
ぶっきらぼうに、俺は吐き捨てる。
「……おい健人、もうやめようぜ」
「クッソ。なんだよあいつ!」
傍観していた男が手を出してきた男を俺から引き離す。
男は手首をさすりながら愚痴をこぼして、男と一緒に教室へ入っていった。
「……やらかした」
男たちの背中を見送りながら俺はつぶやく。
正当防衛とはいえ、俺はあの男に手を出してしまった。
もう辞めようと思っていたことなのに、頭に血がのぼるとついつい手が出てしまう。
……それよりも、芹崎さんは大丈夫だろうか。
俺は焦って、芹崎さんの顔に視線を向けた。
芹崎さんは、特に何か表情を浮かべることはなく呆然としていた。
「……芹崎さん、大丈夫? どこか怪我してない?」
俺の声で、ようやく芹崎さんは表情を取り戻した。
「あっ、はい。特には。……それよりも祐也君」
そう言って、芹崎さんは辺りを見回す。
その視線に引っ張られるように、俺は芹崎さんの視線を追いかけた。
すると、そこには俺たちを囲んでいる生徒たちの姿があった。
表情から、あの男たちの連れではないのだろう。
友達がやられて苛ついているというよりも、どこか関心の目で見られているようだ。
その目に、俺は強い不快感を覚えた。
「……芹崎さん。申し訳ないんだけど、早くここを離れたい」
「っ、はい!」
そうして俺たちは階段を降りて行く。
自教室に戻ったはいいものの、噂が広まっていたのか、そこでも関心の視線を浴びせられた。
どうしようもなくなった俺は芹崎さんに断りを入れて、一人教室を出るのだった。
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