不敵

「なにそれ?」と私。

 タカサキカンノン……?

「それが多分、あいつの名前。似てる。元は信仰の対象の、単なる像みたいだ」

「なるほど」


 私はアクセルを踏み込んだ。


「それなら、なんとかやれるかも!」


 純然たる兵器として生まれた代物ではないのなら、要するにあれはハリボテだ。

 つけいる隙は必ずある。

 あるはずだ……!



 土煙の中に人影を発見し、メイが引き上げた。アキラだった。からだ中薄汚れていたし、ところどころ血がこびりついていたけれど、大きな怪我は負ってないようだった。


「姐さーん」とメイに抱きつくアキラにムッとしながらハンドルを捌いて、カンノンに衝突する手前を、迂回するようにして背後へ回り込んだ。


 だが人型に見えるのはあくまで形だけで前も後ろもあったものじゃない。進路を読まれないよう右に左に蛇行しながら、光線を避け、いったん立て直すべくお尻を向けて思い切りアクセルを踏んだ。


「あんた以外は⁉︎」とメイ。

「大丈夫、何人か手や脚を焼き切られた者はいるけど、離脱したはずだ」

「そこらじゅう毛が焦げたり毟れたりしてて、なんだか捨てワンコみたいね」


 私がからかうと、メイとは打って変わっての態度で姐さんには関係ねーだろ、と云われた。可愛くない奴ぅ。


「モヒカンが言ってた、あれはきっと機動部を担う無人兵器を破壊すれば、大した脅威じゃないって」


 あら賢い。

 あんなのを目の前にして逃げ回りながら、そんな冷静に判断できるなんて。


「ふひっ、楽しみが増えたわ」

「ユイ、ヨダレ、ヨダレ!」

「——って、モヒカンくんは無事? そもそも名前モヒカンなんだ……?」

「奴は荒事苦手だし、知識があるから基本的に前線には出ないで指令役だ。無事……なはずだよ」


 あんなヒャッハーな見た目で 後方待機 腕に覚えなしとは。ギャップ萌えだな。

 それはそれとして。

 実際問題、どうやってあれを破壊すればいいのか。


 もし私たちに無人航空機を制御できるような術があれば、空から爆撃して破壊することも可能かもしれない。あとは——


(高い敵の急所は足、か。定石だな)


 けれどモヒカンくんがその場にいて、そんな単純なことに気づかないはずがない。


「これまでの攻撃手法は⁉︎」

 私の剣幕に小さくヒッと云いながら、

「最大火力はランチャーで、狙ったのは足場です……」

「ふむん。それ以上の火力は実際用意するのは難しいよね……。むしろよくあったわね、そんな代物」

「ここには、アレがあるから」

「アレ?」


 なにやら暗い表情のアキラへ問いかけ、ああ、と気づく。女王機関クイーンプラントか。

 何か含むところがあるらしい。

 そういえば電車の時も一瞬、こんな顔したことあったな、アキラ。


(しっかし、通常兵器が効かないときたかあ……参るな……)


 無人兵器群だってごく一部の例外を除けば、ちゃんと通常兵器は効く。小型のモノなら口径にもよるが銃だって効くし、大型のモノでも対戦車砲でたおせる。ましてやモルタルだかコンクリートだかでできているだろう像に効かないなんてことが——


「シールドか……」


 ごく一部の例外というのがそれで、防御に特化した奴等がいる。物理的防御ではなく、振動波を利用し、接近するものを粉砕し無力化するという兵器が。


 シールド持ちのせいで何人が犠牲になったことか。腕に自信のある男女なんにょが返り討ちにあったという話も数知れず、だが——


 私は口許が緩むのを感じた。


「大丈夫、やれる」


 確信を持ってあたしは云った。

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