白衣の像

 メイがエースの称号を得る頃には、もう余すところ数機の無人兵器が存在するだけになっていた。

 アキラ達以外にも勿論参加者はいて、タブレットを通じての情報によれば予想以上に軽傷で済んでいた。

 十人程の死者と二十名余りの負傷者を軽傷と呼んでいいのなら。


 けれど、これまでの大量無人兵器群と我々の対戦の記録を参照するなら、間違いなくそれは軽傷だった。ほぼ無傷と称してもいいぐらいの。


 予想通り天井に大穴の開いたヒュードロ2号(だっけ?)の車内で私たちは笑いあった。


「なんとかなりそうだな」


 すっかり煤けて美人が台無しになったメイを横目で見ながら、私は鼻唄混じりにハンドルを切る。ダッシュボードに設置されたタブレットから判断して、標的が3体固まったほうに向かうのが正解だろう。


 え、私が運転してるのがおかしい?


 急に同調もしていない乗物を器用に運転するような能力はないけれど、ちゃんと機関の振動数を読み取り、操作部の遊びや直進性の程度を把握してからなら、私にだってそれなりに操作はできるのだ。


 メイに攻撃に集中してもらうにはそれが一番だし、私たちはこれまでそうしてやってきた。


「それにしても倭香保の義勇軍、思ったより優秀だったね」


 こんな平和な街で、どうやってモチベーションを保ち、どうやって訓練してきたのか。そこに必要なのは、想像力と有事に備える不断の努力が必要となる。簡単なことじゃない。


「そんだけ町を愛してるんだろ」

 ぼそっとメイが云った。


 結界1とモヒカンくんがいっていた周囲には未だに無人航空機ドローンが幾体も待機していたが、結界の内側に入ってくる気配はないようだった。


 町を捨て逃げようとした住民を抹殺するために待機しているのか、それとも本能がそれ以上の侵入を躊躇わせているのか、機械ではない私にはわからない。

 あるいは無人多脚機を殲滅したら、そこから今度は不利な空中戦を強いられる可能性もある。


 ただ、そのセンはまずないだろう。

 もしその気があるのなら、待たずに突入してくればいいのだ。


「ユイ、ユイ!」


 メイの声に思案の淵から引き上げられた。

 もう目標地点まであとわずかという地点。


「ヤバいかもしれない……」


 弱気になるほど身軽すぎる状態でもないメイが出すとは思えない、不安な響きがあった。

 タブレットに意識を向けながら前方もきちんと視野に収めていたはずの私だったが、メイが何に反応したかはわからなかった。

 またメイにしか視えない光学迷彩に包まれた敵か何かだろうか、と考えてから——


 私も身震いした。


 タブレット上では単なる光点にすぎなかった、3つのうちのひとつが、明らかに私たちの知ってる無人兵器とはスケールをたがえていた。


 私は、それを建物か何かだと勝手に思い込んでしまっていたのだ。


 小型のモノはそれこそ猫ぐらいの大きさの奴等もいれば、大型のモノは象(想像上の動物で、ヌエ麒麟キリンと並んで人気がある宗教的アイコン)ぐらいある——というのが、これまでの私たちの認識だった。


 だが、通常の多脚のような機動力はなさそうなものの、畏怖を覚えるほどの存在感のあるソイツは、軽く三〇米を越える高さを持ち、時折、光線を地に向かって放っていた。


 土煙りが走り、爆発が連なる。


「あれは……どうすりゃいいんだ、なあユイ!」

「そんなこと云われても、あたしだってわかんないわよっ!」


 アクセルを緩めて立ち止まるか、さもなくば思い切り踏み込んでUターンしたくなる気持を無理やり抑え込んで、私は前進した。


「タカサキ……カンノン……?」


 手持ちの端末スマフォを検索したメイが、抑揚のない声で云った。

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