無人兵器群と異成人

 女俺機関クイーン・プラントとは、かねてから噂されていた、 無人兵器群 ノーマン・イクイップメントを産みつづける移動式無人工場を指す言葉だった。


「ほんとにあったの……?」

「まあ、でなきゃ、大戦が終わって長いというのに、あんなにピンピンとアレが暴れてるわけもない、か……」


 無人兵器群は、最初は大戦時に某大国がやぶれかぶれで放出した実用に耐えない代物だった。最後にでっかい花火をぶち上げ、その国は自爆したが、その最期っ屁よりも最悪だったのが、無人兵器群のAIはどんどん進化し、自らを改良、増殖しはじめたことだった。


 勿論、花火のほうもなかなかに悲惨な成果を生み出した。黒い雨、遺伝子の変質、地を這う生き物の大半を絶滅させ、空を飛ぶ小鳥などという可愛らしいものは全て地に堕ちた。マオターレンや烏みたいな、しぶといのは除いて、ね。


 しかし異成人ミュータントはそうして生まれたものではなく、あれは生き残った人類の最後のあがきだった。大戦の始まる少し前に流行った疫病、それに対抗すべく生まれた医療が、放射能に蝕まれる、わずかな人類を救った。


 人が、体内で、自らの機構を使い生体ナノマシンを生み出すという技術。全人類に行き渡るほどのナノマシンを作り出す体力を奪われた、人類にとってそれは最後の希望だった。


 半ばやけっぱちの賭けは成功した。ただし、それには重大な副作用があった。それが異成人ミュータント化する、ということだった。


 生体ナノマシンの無限増殖であったり、暴走であったり、——あるいは過酷な環境を生き抜くための最適化であったりもしつつ。


 いま存在する異成人は、当時から生き残るごく少数の長命種エルダーと、大半を占める隔世遺伝で出現する変異種イレギュラーから成り立っている。

 たとえばアキラは典型的な変異種だろう。


 話が逸れた。

 要するに私たちは――


 衰退する人類とは違って、ますます数を増やし続ける、食物も睡眠も休養も必要とせず、ただ生物を殲滅することだけに全精力をそそぐ機械群を相手に、必死に滅亡を先延ばしにしているだけなのだった。


 ただ機械とはいえ、いや機械だからこそ 本 能 プログラムは絶対で、母なる機械に向かって攻撃をしかけてくる、などということはありえない。


 それが女王機関の心臓部コアを用いた、結界の正体だった。


「そんなカラクリがあったのね……異様に牧歌的すぎると思ったわ」

 私は半ば感心し半ば呆れて云った。


「そんな小難しい話はどうでもいいじゃねーか!」

 アキラが脳筋ぶりを発揮する。

「それよりどうやって倭香保を守るかだ!」


「そうだな、アキラのいうとおりだ。モヒカンの心配もわかるが、それよりも、だ」

「武器なら用意して、そこの茂みにある。数足りねえかもしれないが」

「ありもんでやるしかないね」


 モヒカンくんが小型のタブレットを私たちに寄越した。

「かろうじて結界3は破られてません。きっと本能に強く反するのでしょう。でも、それがいつまで持つのか、それともこれ以上は侵入レイドできないのかはまったく未知数です」


「全滅させりゃいいんだよな、この輪っかと輪っかの間の奴等を」

 ケイが云って、私を呼ぶ。石段から縁へと足を運び、そこは奇しくもあの黒猫がいたあたりだった。

「ヒュードロマークII! 出番だぜ!」


 茂みへと飛び込み、次いで高出力を思わせるパルスのようなものが私の耳を襲う。思わず耳を塞ぐ私に、アキラが何かを云った。油断してた。爆音すぎるだろ!


 聞き取れなかったけれど、私はこくんと頷きケイの車へ押し入る。同時に、いまはまだオープン仕様ではないケイの新しい車は、道なき道というか荒れた斜面を駆け降りた。

 戻ってきたら、アキラに大人のキスを教えてあげよう——


「おまえ、良からぬことを考えてるな?」

 メイのセリフに私は、

「てへ(*´∀`*)」

 シリアスモードは長くは続かないんだなあ。お腹が減ったんだなあ。

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