女王機関

 と、ついついシリアスだったらこういう具合なんだろうなあ、という妄想を語ってしまったけれど、実際はこうだった——


 朝早くでなかったのは幸いだった。街中に響く警鐘と騒がしい様子。朝に弱い私は、あくびを噛み殺しながらメイの姿を探した。

 早速諦めて、顔を洗おうと洗面所に向かったとき、メイと出くわした。


 どこかへ行っていたらしいメイは、出入り口のドアをつかんだまま、おいおい、おひいさんは呑気だねえ、といった。


「何があったの?」

「無人兵器群が押し寄せてきた」

「え、どこに?」

「ここだよっ!」

「大丈夫?」


 私は不安になった。その意図を知ってか知らずか、大丈夫じゃねーよ、と笑いながら云ったメイを見て、あ大丈夫だ、と思った。

 いつものメイだ。


「車、調達してきた。アキラたちも来てる! あたしはやれることをやれるうちにやってくるから、ユイ、おまえも支度しとけ」


 メイが竹皮の包みを放り投げる。


「あら、おにぎり」

 腹が鳴る。


「いま食べちゃっていいの?」

「ほんとおまえって奴はさあ」

「ふふっ」

 

 ドアがバタンと閉まり、私は顔を洗うために洗面所へと入った。ついでにトイレも済ませた。手持ちの武器のチェックをした。スカートはやめて、動きやすいホットパンツにした。そういえばメイも革パンツ姿だった。観光だといいながら、アレを持ってきているとは。激しい抗争のときの一張羅。


 単に手持ちの服を全部持ってきていた、の可能性もあるか。そーゆーのこだわらないクチで服に関しちゃミニマリストだしな。


 しかし、この街でどれだけ武器を調達できるのか。こんな平和な街にそんなに武器があるとは思えない。いや、こんなご時世に平和を保っていたからこそ、守るための用意も万端だろうか。


 私とメイは荒事は決して苦手ではないが、得手不得手はある。タイマンなら断然私の方が得意だが、多対数の制圧であったり無人兵器の破壊ということであればメイにはまるで敵わない。


(というより、あいつがプロフェッショナルすぎるんだけども……)


 そういう意味では、この場にメイがいることはこの街にとっても僥倖のはずだ。


「——私たちのせいでないなら、だけどね」



 昨日、私たちがバスを降りた石段前は、最前線ではなかったけれど、なかなかの鉄火場だった。

 メイと合流して向かったそこに、アキラたちがいた。


「よう、姐さん方、意外と早い再会だったな」

「ムダ口叩けるぐらいには、まだ余裕があるってことだな」

「ところが、そうでもないんですよ」

 モヒカンくんが割って入る。


「結界1の周りには無人航空機が二〇機以上、それはいいんですが結界3付近にまで多脚クモが来てるんですよ!」


「結界3ってのがこのあたりか?」


「そうです、こちらは十機近く……でも問題は数じゃないんです、結界1の内側にまで機械どもが来てるほうが問題で」


 なるほど、と私は思った。平和は偶然作られたものではなく、見えざる努力によって作られていたのだ。


「結界ってのは具体的に何?」

 あたしはモヒカンくんに訊いた。


女王機関クイーン・プラントの、心臓部コアです」

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