第28話 保険医の思い出
おっかなびっくり綿菓子にかぶりついた保険医は、もぐもぐしたのち表情をほころばせた。
「こんな味がしてたんだね。昔おかあさんにねだった時に、想像していた味とは少し違うや」
そしてぽろっとこぼれる過去話。
ほほえましい思い出話だ。
「そのお母様は、今の先生が困った大人に育ったのを見て、さぞかしとても嘆かれるのでしょうね」
「そうだね」
けれど、保険医の横顔がほんの少しだけ寂しそうに見えたのは気のせいだろうか。
なんとなくきまずくなったので、ハンカチをとりだして、それをぬぐってみた。
「口の端についてますよ」
やってみて、これってヒロインがやるような事では、と愕然とする。
違うんですノワールさま。
私はノワール様一筋ですから!
浮気とかじゃないんです。
保険医は私がしまおうとしたハンカチを手にとって、自分のポケットにしまい込んだ。
「これはあらってから返すよ」
「え、はい」
あれ?
絶対にからかわれると思ったのに。
ちょっと意外な反応だ。
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