第26話 わたスイーツ



 私達が立ち止まると、店主のおじさんが頭を掻きながら、安さの理由を述べてきた。


「素材の発注を間違えちまってな。痛ませるのも可哀そうだから、無理やりさばいてるのさ」


 苦虫をかみつぶしたような表情。


 その様子は演技には見えない。

 どうやら本当に困っているらしい。

 もうけよりもまず、食材の廃棄にかかるデメリットを消したいようだ。


 おじさんは「それに」と続ける。


「せっかくなら、無駄にしたくないだろ。食べ物を無駄にしたらばちがあたる」

「それは同意ですわね」


 それならば納得だ。


 何事も無駄にするのはよくない。


 しっかり最後まで使わなければ。


 そんな私を見て「お嬢様らしくないなぁ」と保険医が横で呟いていた。


 お店で売られているのは、わたがしにビーズサイズの小さな飴玉をくっつけたものだ。


 インスタ映えとかいって、前の世界の女子高生が見たらもりあがりそうだ。


 この乙女ゲームの世界では、子供や女性に人気の、屋台で食べられるメジャーなスイーツだ。


 綿の実からとりだした、わたを使った甘未となる。


 このスイーツには、そこら辺に生えている綿の木(ヤシの木みたいなの)からとれる素材を使用していた。


 けれど育て方や土地によって甘さや味が違うらしい。


 このお店のは、三つほど離れた村からとりよせたもののようだ。


 豊富な水資源のある村で、まろやかな味の綿の実ができるとか。


 わたスイーツは、異世界ならではの食べ物だ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る