309話 非日常の飲み物
第311章
「ではさっそくこの僕にとって非日常の飲み物、真っ黒なコーヒーの中に白いミルクが入っている飲み物、いただくとしよう」
「大げさな言い方だね、アラン」
「そうですね、大げさな表現です、ドロンさん」
アランドロンはゆっくりと注意深げにカップからすすった。
「うーん、なるほどね、こういう味だったか」
「まさか、ミルクが入ったコーヒーを今まで一度も飲んだことなかったということはないでしょう、アラン」
「そうですよ、そんなことありえません、ドロンさん」
「もちろん小さい子供の頃は飲んだことあるかもしれないけれど。子供の頃は苦いものは嫌だからね。しかし最近はまったく飲んだことがないから、どういう味だったか忘れていたよ」
「じゃあ思い出した、アラン」
「なつかしい味でしたか、ドロンさん」
「たしかに舌が覚えていたようだ」
「おいしかったでしょ、アラン」
「そうですよ、おいしくないわけありません、ドロンさん」
「もちろんおいしかった。それはこの街ブレストにいるからだと思う。非日常の夢のような世界にいるからね。しかし日常の平凡で退屈な世界に戻ったら、やはり今君たちの前にあるその真っ黒な飲み物のほうがいいよ」
「そういうことね、アラン」
「そういうことですか、ドロンさん」
「今度は君たちの番だ。さあ飲んでみて」
「ではいただきます、苦そうだな、アラン」
「本当に苦そうですね。ではあたしもいただきます、果たして飲めるかな、ドロンさん」
藤枝とジャンヌの二人が恐る恐るカップに口をつけた。すると二人とも一瞬顔をゆがめた。
「どうだね、おいしいだろう」
「ああ、にがいにがい、アラン」
「やはりにがいですね、ドロンさん」
「だからその苦みがおいしいのだよ」
「やはりこの真っ黒な飲み物はあたしにとっては非日常な飲み物だね、あなたの前にあるミルク入りの方がいいね、アラン」
「そうです、あたしもです。このミルクが入っていない真っ黒な飲み物はあたしにとっても日常的な飲み物ではありませんでした、ドロンさん」 つづく
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