306話 時間の使い方
308章
アランドロンは鈴を鳴らした。すると店員が藤枝たち三人のところにやってきた。
「注文が決まりましたか」
するとアランドロンが返事をした。
「はい、お願いします。カフェノワール二つと、カフェ・ノワゼット一つお願いします」
「かしこまりました」
店員が立ち去ると、また藤枝たち三人だけになった。
「この注文をしてから運ばれてくるまでの間、これがとても重要な時間だ」
「どういうこと、アラン」
「そうです意味がわかりません、ドロンさん」
「店の中に入って注文するまでの時間、これはすべての客にとって同じ時間だ。つまり何を注文しようかとあれこれ考えている時間だということ」
「ああそういうことか、わかった、アラン」
「ああそういうことでしたか、わかりました、ドロンさん」
「そして注文した飲み物が運ばれてきたら、その後の時間、これもみんな同じだ」
「注文した飲み物を飲むことだからね、アラン」
「そうですね、せっかく注文したのに飲まないで帰るということはありませんけれどね、ドロンさん」
「しかしこれらの時間の間の時間、つまり飲み物を注文してから運ばれてくるまでの間の時間、これだけは客にとってみんな違う。特に一人で来る客の場合、その人の個性が出ておもしろいと思う。店の中を見回している人だとか、雑誌や新聞を読んでいる人だとか、何もしないでボーとしている人だとか」
「たまには寝ている人なんかもいるね、アラン」
「そういう人は少し仮眠したくてカフェに来た人なのかもしれませんね、ドロンさん」
「同じ時間なのに人によってその使い方がみんな違う、これがおもしろいのだ」
「そういうことに興味があるのなら、小説家に向いているよ、アラン」
「文学というものは、人を扱うものですからね、ドロンさん」
「では僕は何か文学賞を目指そうかな」
「そうだねそれがいいと思うね、アラン」
「がんばってください、ドロンさん」
「今は注文したのが運ばれてくるまでに僕たちがすることは、一人ではないからやはりおしゃべりだね」
「そうだねそれしかないね、アラン」
「そうですね、それしかありません、ドロンさん」 つづく
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