305話 今の気分

第307章

「では僕はカフェ・ノワゼットにするよ。ミルク少しがいいね。たくさん入れるとコーヒー牛乳みたいになってしまうからね。それではせっかくのコーヒーの味がだいなしになってしまうからだ。コーヒーはやはりあの苦みの味がいいのだ。あのせっかくの味、あの苦みの味これを味あいたいのだ」

「あたしはカフェ・クレムだね。あのコーヒーの苦みの味もいいけれどミルクとあの苦みが一緒になった味がもっといいと思うね。コーヒーの中にミルクを入れるというよりも、ミルクの中にコーヒーを入れるということ、あたしはこっちの方が好きだね、アラン」

「あたしもカフェ・クレムがいいです。あたしも基本はコーヒーよりもミルクの方がいいです。コーヒー牛乳、最高じゃあないですか、ドロンさん」

「好みの問題は人それぞれだからな。僕は今はカフェ・ノワゼットを飲みたい気分だけれど、普段はねミルクは入れないで飲むのが好きなんだよ。あの苦みが最高だね」

「ではどうして今はカフェ・ノワゼットなの?どうして今はミルクを入れて飲みたいの?アラン」

「そうです、どうして今はミルクを入れて飲みたいのですか?ドロンさん」

「どうしてなのかなあ、自分でもよくわからない。もしかしたら非日常の世界に今いるのかもしれない。日常の世界、つまり僕の自宅のことだよ。自分の自宅にいるときは本来の自分でいるのが普通だ。本当の自分ということだ。しかし今僕たちがいるこの街は初めて来たところだ。夢のような世界だ。だから本来の自分とは違うまったく別人格の人間になれたような気分がするからだ」

「だからミルクを入れたいわけか、アラン」

「別人格になるとミルクを入れたくなるのですね、ドロンさん」

「ミルクを入れることによって、別人格になったことをアピールしたいのかもしれない」

「じゃあ、あたしは今はミルクを入れないでブラックにしてみるよ、アラン」

「ではあたしもブラックにしてみます、果たして飲めるかわかりませんけれど、ドロンさん」   つづく


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