283話 水滴の付いた窓ガラス 

第285章

 船の窓ガラスに次第に波のしずくがかかるようになった。かかったしずくは線を引きながら下へと流れ落ちていった。このような光景が窓ガラスで見られるようになってきた。

「見てみて、この窓、実にいい景色だね」

「あいかわらず海しか見えないじゃないの、どこがいい景色、アラン」

「そうですよ、船が出航した時からずっと同じ景色じゃないですか、ドロンさん」

「この水滴のついた窓ガラスだよ」

「それがどうしていい景色、アラン」

「そうです、どうして水滴のついた窓ガラスがいい景色なのかわけがわかりません、ドロンさん」

「窓ガラスについた水滴、実にいい景色ではないか。透明なガラスの板にまた透明な水滴、こういう光景を見ると清涼感を感じることができるからだ。だからこれと似たような光景、雨の日の自動車の窓ガラスも僕の好きなものだ」

「なんでそういう光景がいいのかやはりわからないよ、アラン」

「そうです、わかりません、ドロンさん」

「ではここでわかりやすいたとえを」

「なあに、アラン」

「なんですか、ドロンさん」

「ジュ―スを飲むとき、コップの周りに水滴がついているのとついてないのとで、どっちを君たちは飲みたいかね」

「ああそういうこと。確かに水滴がついているほうが何となくおいしそうだね、アラン」

「そうですね、コップの周りに水滴がついているほうが、おいしそうにみえますね、ドロンさん」

「コップの周りに水滴がついていると、コップが水で洗い清められているイメージがあるからではないかと思う」

「洗い清められているというイメージということか、アラン」

「そういう心理ですか、ドロンさん」

「水滴がついていないと何となくほこりっぽいといた感じがしないかね」

「そんなこと考えたことないね、アラン」

「あたしもです、今初めてです、そういう感じ方もあるのかということを知ったのは、ドロンさん」

「だからこういう水滴のついた窓ガラスを見ていると、洗い清められているイメージがあるため、実に爽快な気分になれるのだよ」

「わかったよ、アラン」

「わかりました、ドロンさん」   つづく





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