280話 本当の海

第282章

「かなり沖に出てきたな」

「波も次第に出てきたね、アラン」

「しかもだんだん高くなってきましたね、ドロンさん」

「これこそ本当の海だ」

「波がある海がね、アラン」

「しかも動きがダイナミックな海がですね、ドロンさん」

「そうだよ、やはりこういう海でないとだめだね」

「砂浜沿いの海は、あなたにとって本当の海ではないみたいだね、アラン」

「海水浴場の海は、海というより水たまりということでしょうかね、ドロンさん」

「それにしても船の中ってやはり乗り心地がいいね。この柔らかな振動が実にいい。上に上がったり下に落ちたり、左に揺れたり右に揺れたり、こういう振動でしかもソフトだからね」

「船酔いはしないの、アラン?」

「そうです、こういう振動が苦手な人もいます、ドロンさん」

「僕は大丈夫だよ。子供のころから船は好きでよく乗っていたから、こういう振動にはなれているからね。君たちはどうなの、こういう振動は好きなほうか苦手なほうかね」

「あたしは大丈夫だね、アラン」

「あたしも平気です、ドロンさん」

「そうだろうね、そうでなければ海軍に入ろうとはしないだろうからね」

「船酔いなどしていたら務まらないからね、アラン」

「そうですね、ドロンさん」

「電車の揺れも僕の好きなものだけれど、こういう船の揺れといい、電車の揺れといい、乗り物の揺れというものはどうして人間と相性がいいのだろうかね」

「これは人間の生まれながらの性質なのかもしれないね。赤ちゃんを見ればわかるよ。赤ちゃんを抱っこするとき、動かすじゃない。両手で赤ちゃんを抱いて左や右にゆすったりするでしょう。このように揺れというものは人間に心の安らぎを与えてくれるものなんでしょうね、アラン」

「そうですね。それに子供の遊具を見ればわかります。揺れというもの起こさせる遊具というものが必ずありますでしょう。ブランコ、シーソー、これらの遊具は代表例ですね、ドロンさん」

「ブランコにシーソーか、ずいぶんなつかしい遊具だな。そうだな、僕は今ブランコやシーソーに乗っている気分だ」

「だから、気分がいいんだね、アラン」

「そうですね、気分がよさそうですね、ドロンさん」   つづく

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