273話 船の中へ

 第275章

 船が桟橋に横付けされると先輩上級生が藤枝たち受験生に向かって言った。

「では君達、この船に乗ってください。ブレストの波止場を通ってブレスト駅に戻れます(On traverse la rade de Brest pour retourner à la gare) 船でのお帰り楽しんでください(Profitez bien du retour en bateau)」

 藤枝たち受験生は一列に並び一人一人船に乗り込んでいった。藤枝たち三人の番になった。

「ここの船の乗る所、この場所が僕の好きなスポットだよ。船の側面が波でゆらゆら上がったり下がったり向こう側に遠ざかったりこちら側に近づいてきたりね」

「どうしてこういうところがいいの?アラン」

「そうです、訳が分かりません、ドロンさん」

「ちょっとしたスリルを味あえるではないか。うまく乗り込めるだろうかというスリルがね。じっとしていて向こう側がまったく動いてなければこういうスリルなど味あえないじゃないか」

「ああ、そういうこと。だったら列車でもいつもスリルを楽しんでいるようね、車両同士の連結の部分。アラン」

「列車の連結されているところ、あそこもゆらゆらしてますからね、ドロンさん」

「そうだよ。あの列車の連結されているところの台形の形をした鉄板の渡り板、あそこを渡るときがスリルがあってとても楽しいのだ」

「ブレスト駅に着いたらそこからまた列車に乗れるね。これから先スリルだらけだね、アラン」

「ブレスト駅からパリまでスリルだらけですね、ドロンさん」

 三人は船の中に入っていった。船の中は座席が進行方向に向かってずらりと並んでいた。藤枝、ジャンヌ、アランドロンの三人の席は一階で進行方向に向かって右側の窓際になった。

「さてこれからいよいよ楽しい船旅が始まるな」

「ここに試験を受けに来たかいがあったね、アラン」

「そうですね、たとえ不合格だったとしてもいい思い出になります、ドロンさん」

「さあ、これから見れる景色が楽しみだ」   つづく

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