267話 部屋退出
第269章
「さーこれですべて終わったね。あとは迎えが来るまで。この部屋ともこれで最後だね。あともう一晩ぐらいここにいたいけどね」
「ジャンヌさんはまたここに来るんじゃないですか」
「そんなことわからないよ。やれることは全力でやったけど合格できるかはもちろんわからない。たとえ不合格でもできるだけのことはしたから、悔いはないけれどね」
「あたしも後悔はありません。ですからたとえ不合格でも納得できる不合格です。とにかくこの部屋の中にいられるのはあと少しだけですから、出ていく前にもう少しよく見ておきましょう」
「そうだね、もう二度とこういうところには来れないかもしれないからね」
二人はあらためて部屋の中をじろじろ見渡した。
「ベッドとロッカーがあるだけの部屋。テレビもラジオも何もない部屋。こういう部屋の中で生活したのは初めてだよ。さすが軍の部屋だけあるね」
「観光ホテルではありませんからね。しかし窓からの眺めは実に最高ですね。大きな海が広がっていて、この景色だけは世界中のどんな豪華なホテルもかなわないと思います。今までこういう場所で生活できたのもいい思い出です。やはり海が見える光景というものはいいものだと思います。普通は自分の家から海が見えないからわざわざ海を見るために出かけていくわけです。しかしここはそういうことをする必要はないわけです。部屋の窓からすぐに海を見ることができるわけですから」
「あたしもシェルブールという海の近くの町に住んでいるけど、自分の部屋からは海は見えないからね」
「自分の部屋から海が見えるということは、なんだか特別なところに住んでいるように思えます。普通の街の中に住んでいるという感じではありません。夢の世界にでもいるような感じです。普通の街というのは平凡でどちらかというと退屈なイメージがあります。しかし窓から海が見えるところに住んでいると、なんだかこれからいいことが起きそうでわくわくした気持ちになれます」
この時先輩上級生が部屋の中に入ってきた。
「ではこれから帰宅してもらいます。部屋から出てください」 つづく
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