第２６４章

「電車の中から見える景色はどういうものですか」

「普通の住宅街です。海や湖、山、草原といった光景ではありません。ただの平凡などこにでもあるような住宅街です。海だとか湖、山、草原、このような景色が車窓から見えれば誰でももちろん楽しくなるでしょう。しかしただの住宅街です。それなのにどうして楽しくなるのかですが、静止画像ではなく動画を見ているようだからです。静止画像ではどんなに素晴らしい画像でもいつまでも見続けるということはできません。一定の時間的制限があります。海、湖、山、草原といった素晴らしい風景でも静止画像ではいつまでも見続けることはできません。しかし動画はそうではないからです。次から次へと変化していきます。これが楽しいのです。平凡な住宅街でもそれが動画になれば素晴らしい風景になるのです。電車の中から見える風景は平凡なものを素晴らしい風景にしてくれるのです」

「駅を降りてここまで歩いてきたそうですが、その間のことを話してください」

「駅の建物を出ますと大きな自動車道路がありました。そこの横断歩道を渡りその大きな自動車道路に対して九十度の角度で伸びている道路の歩道を歩きました。しばらくすると目の前に川が見えました。今まで歩いてきた道はそのまままっすぐに川に向かっていました。もちろん橋がかかっていました。しかしその橋はわたらず、橋の前で右側に曲がっている道に入りました。その道は川沿いに続いていました。川を左側に見ながらそのまままっすぐに歩きました。しばらく行くと右側に曲がっている道が見えました。しかしその道には行かずそのまままっすぐ歩きました。そこから少し歩いたところにまた右側に曲がっている道がありました。そこで今度はその道に入りました。その道をそのまままっすぐに歩いていくと、右側におしゃれな建物がありました。そしてその建物の中に入りました。その建物がここなのでした。それで今現在私はここにいるのです」　　　つづく