191話 面接で聞かれること 14

第193章

「受験生の素質に関する質問はこれで以上ですか。何しろ自分の欠点を明らかにしたのですから、これでもう十分ではないかと思いますから」

「今度の質問は受験生の素質そのものではないけれど、その人の人生観とかそういう感じの質問がされるよ」

「受験生が世の中をどのように見ているのかというようなことですか」

「そうかもね。こういう質問だよ。『この世の出来事はあなたにとってたやすいですか』(Vous arrive-t-il de faire des choses de façon non rigoureuse?)」

「さすがにたやすいとこたえる受験生はいないと思います。普通の人であればですが」

「では君はたやすいとこたえることができる普通の人ではない人とは、どういう人なのかね」

「すべてのことに優秀であらゆることに恵まれている人だと思います。こういう完ぺきな人はこの世はたやすいのではないでしょうか」

「そうなのであろうか」

「どうしてですか。こういう人は何も問題なく生活できると思います」

「我々は上を見たがるもんだよ。山登りをするときを考えてみるとわかるよ。山登りをするときは必ず上を見て登る。だから頂上がまだまだ先だと満足できないわけだ。今まで昇ってきた下を見るとかなり登ってきたことがわかっても、決して満足はできない。だからもし頂上まで昇ることができなかったらどうだろう。おそらく不満になったり、失望したり、がっかりしたり、こういう気持ちになってしまうと思う。こういう気持ちになった人にとって、山登りはたやすいことですかと質問したらどうこたえるだろうか」

「山登りはたやすいことですとはこたえられませんね」

「そうだね。その人は確かに頂上まではたどり着けなかった。しかし頂上の近いところまではたどり着くことができた。その場所は地上にいる私たちから見ればとても高いところなのだ。頂上とほとんど同じくらいの高さだから、地上にいる我々から見ればその登山家にとって山登りはたやすいことだと思える。しかし本人はそうとは思ってはいないわけだよ」   つづく

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る