159話 今度は藤枝の番

第161章

「次、藤枝有紀子」

 試験官が言った。

「はい」

 藤枝はこう返事をすると、床に四つん這いになった。そして腰を宙にあげて体全体をななめ水平にした。手のひらを前後左右に少しずつ動かしながら体全体の位置を調整していった。そして体をゆっくりとおろしていった。床すれすれまでおろすとすぐに体を腕を伸ばして持ち上げた。一回目、二回目、三回目。ペースはゆっくりだった。しかし四回目くらいから次第にペースが速くなってきた。五回目、六回目、……回数が増えていくにしたがってどんどんと加速度的にペースが速くなっていった。彼女も17歳女子の平均回数を簡単に超えることができた。

 しかし十五回くらいを過ぎると次第にペースが遅くなっていった。それ以降回数が増えていくにしたがって、ペースが遅くなっていった。しかしペースが遅くなっただけでまだまだ余裕であった。二十回を超えることができた。しかしここで急にさらにペースが遅くなってしまった。ペースが遅くなってしまったというより、ほとんど停止してしまったというほうがいいのかもしれない。しかしまだかろうじて継続はしている。だから停止という言葉はまだ使えないであろう。はたして藤枝もジャンヌと同じ三十回まで持ちこたえられるであろうか。

 しかし二十五回。ここで藤枝は完全に体が停止してしまった。彼女のもともとの目標は二十六回であった。夢の中で日本のスポーツジムでも二十六回出来ることを目標にして練習してきたわけであった。だからあと一回である。あと一回で目標に達成できるわけである。彼女もそのことを思い出してあと一回、これだけは絶対にやろうと必死の思いで両方の腕のひじを曲げて行った。体が床すれすれまでおりて行った。しかし懸命に両方の腕のひじを伸ばして行った。ついに体を完全に持ち上げることができた。目標を達成することができた。しかしここで新しい目標ができた。それは三十回である。できればジャンヌと同じ三十回をやり遂げたい。藤枝はそう思い、腕をまた曲げて行った。体が床すれすれまで下りて行った。ここでまた懸命に腕をまっすぐに伸ばそうとした。しかしもう伸ばすことができずそのまま床に体がついてしまった。これを見て、試験官が判定を下した。

「藤枝有紀子、二十六回」   つづく

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