131話 サーカスの話

第133章

「では私もそのロープを買ってもっと練習してみます」

「そうですね、毎日練習するのがいいと思います」

「ロープを使用した運動というと私はサーカスを思い出してしまいます。綱渡りだとか、ロープを使用して、空中で自由自在に体を動かすことができる、これはただロープを昇るだけの能力以上ですね。先生」

「そうですね、ロープをただ昇ればいいというものではありませんからね。例えば輪にしたロープに右足の関節の部分だけで頭を下にしてぶさ下がり、背中を反対方向に曲げてぴんと伸ばした左足の足首を両手でつかむ格好(CERCEAU)だとか。こういうのはもはや芸当だからですね」

「それとよく似た格好にはこういうものもありますよね。左足の関節の部分だけで頭を下にして輪にしたロープにぶら下がり、背中を反対方向に曲げて90度くらい関節部分で曲げた右足の足首を両手でつかむ格好(TRAPÈZE FIXE)というものです」

「よく知っていますね」

「はい、私はサーカスが好きだからです。もちろん自分でやるのではなくただ見るほうだけですがね」

「そうですか、私もサーカスは好きです。私も練習してますよ。一本の普通の垂れ下がったロープ、布切れで包まれているロープですがそれを右足の腰の付け根の裏側から腰の裏側全体をロープで通して腰の左側に出して、その布切れで覆われたロープを左手でつかみ、頭を地上方向の下側に向けて、上方向にあげた左足の関節の裏側でそのロープを挟んで空中で静止する格好(CORDE LISSE ET TISSU)だとかです」

「さすがに先生はすごいですね。サーカスの芸人になれますね」

「いえそんなに甘くはありません。サーカスの世界で活躍していくためにはただ練習すればできるようになるというものではありません。もって生まれた才能とでも言いましょうか、素晴らしい平衡感覚、最高の運動能力がやはり必要だと思います」

「やはりそうでしょうね」

「サーカスの話になってしまいましたね。ではまた練習に戻りましょう」

「ああ、サーカスの話のほうがおもしろかったのに……」

「今は藤枝さんの練習が優先です」

「わかりました」   つづく

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