11話 水泳も100メートルがんばる

第13章

 藤枝有紀子は、英会話教室での授業が終わると今度は水泳教室に飛んで行った。

「藤枝さん、今日はずいぶん早いのですね。まだ藤枝さんの練習の時間ではありませんよ」

「先生、もうのんびりしてられなくなりました」

「どうかしたのですか」

「一日も早く泳げるようにならなくなってしまったのです」

「だいじょうぶですよ、藤枝さんはここに入学したときに比べてずいぶん水泳がうまくなったではありませんか」

「ずいぶんではだめなのです。完璧に泳げるようにならないとだめなのです」

「ハハハ、そういえばもうすぐパリオリンピックがありますね。そうですか、パリオリンピックにでも出たいのですか」

「パリオリンピックではありません。ブレスト、ランべオックオリンピックです」

「そういうオリンピックがあるのですか?」

「はいあります。ですから何とか早く完璧に泳げるようにしてください」

「わかりました。ではまだ時間が早いですが、少し練習しましょうか」

「お願いします、先生」

こうして彼女はさっそく練習を始めた。

 水泳教室での練習が終わり、彼女が自宅に着き玄関のドアを開けるやたおれこんでしまった。

「有紀子どうしたの、だいじょうぶ?」

母親が心配そうに駆け寄ってきた。

「水泳教室でかなり飛ばしてきたから」

「そんなにたおれるほど練習しなくても……」

「もう時間がないから、のんびりしてられないよ」

「水泳大会でもあるの?」

「似てるかも」

彼女は台所に行きさっそく始めた。

「マカロン作るのかい」

「そう」

「疲れているんだから少し休んだらどうなの」

「マカロン作れば疲れがなくなるから」

 彼女はマカロンを作り、出来上がるとそれを持って自分の部屋に入った。部屋の中に入るや『トップガン』の映画を見ながら、マカロンを食べ始めた。マカロンを食べ終わると、彼女はスーツケースを押し入れから引っ張り出した。そしてふたを開け、そのスーツケースの中に衣類を入れていった。そして彼女のところに送られてきたEOPAN・FRの受験票もスーツケースの中に入れた。すると彼女はそのまま寝てしまった。   つづく

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