第16話 屋上の前



 順子がいるハズの教室はもぬけの殻だった。


 だから、彼女を探すために床につけられた後を追っていく。


 途中で赤い線がまじりはじめてそのひっかき傷のようなものをおいかけていったら、屋上へたどりついた。


 けれど、外には出られないから扉はあかない。


「傷は、掃除道具入れの中に続いているみたいだな」


 屋上前の空間には、掃除道具入れがぽつんと置いてあった。


 そして、そこまで私達が追ってきた傷は、小さな箱の中へ続いている。


 私達は顔を見合わせる。


 どうしてもあけるのをためらってしまうのだ。


 理科室でうえつけられたトラウマが心をさいなむ。


 人体模型が動いた時の光景が脳裏によみがえる。


「俺が、あける。東子は下がっててくれ」

「でも」

「東子が意外に怖がりだってこと、知ってるし」


 私は、ためらいながらも一歩だけ後ろに下がる。


 本当に、ここで西野に任せて良いのかと思う。


 学校がこうなってから、ずっと西野にたよりっぱなしで情けなくなってきた。


「大丈夫だ。いざって時は、東子の事は俺が守るから」


 西野は安心させるように笑いかけてきた。


 けれど、私は……。


「ごめん」


 私は、何もできなかった。


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