第10話 人体模型



「あれ? 理科室にこんな模型あったっけ?」


 部屋の奥で、順子が首をかしげている。


 それは、授業で生徒達に人間の体の構造を教えるためのものだ。


 人体模型。


 それは、七不思議などで、よく動くとか飼育小屋の動物を食べるとか噂されているもの。


 けれど、この学校にはそんなものはなかったはずだ。


 順子はそれを興味深そうに眺めている。


「変なの? 先生のだれかが、知らない間に運び込んだのかな」


 そして、その人体模型に触れようとした。


 特に警戒することなく。


 順子は振り返って、私達に尋ねる。


「ね? 見た事ないでしょ」


 それは、うかつな行動だった。


 なぜなら、人体模型がゆっくりと動き出したからだ。


「っっ! 順子! 後ろ!」


 私は人体模型を指さして、注意する。


 西野が慌てて「離れろ!」と叫んだ。


 しかし、事態がのみこめていない順子は「どうしたの?」ときょとんとした顔で、伸ばした手で模型に触れている。


「あれ、この模型あたたか」


 何かをいいかけた順子だったけれど、次の瞬間彼女は何も言えなくなった。


 動き出した人体模型が、順子に襲い掛かったからだ。


「きゃっ」


 襲われた順子は、地面に押し倒される。


「えっ、いやっ。なんなのこれっ!」


 そこで、自分を襲ったものの正体を知った順子が、ひきつった悲鳴をあげた。


「だれかっ、たすけっ!」


 助けを求めるよにこちらに視線を向けるが、私は動けない。


 それどころか、早く逃げなくちゃと考えていた。


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