第9話 理科室



 そんな中、理科室の前を通りかかった。


「ねぇ、この部屋ならマッチとかなくない?」


 順子がそういって、部屋を指さす。


 西野はその言葉の意味がよくわからなかったようだ。


「えっ、マッチ?」

「そう、マッチ。だって寒いじゃん」

「そうかな」


 腕をこする順子に、西野は首をかしげて不思議そうな顔をする。


 西野は、寒さに強いから特に違和感を感じていないのかもしれない。


 反対に順子は寒さに弱い。


「マッチで暖をとってみるの、おもしろそーじゃん。一度やってみたかったんだよね」


 順子は、楽しそうにそういって、理科室の扉をあけてしまう。


 なんだかマイペースすぎる。


 今の状況、あんまり大ごとだと思っていないのかもしれない。


 危機感が少ないのだろう。


 マッチなんかで、暖をとれるわけがないと思うけれど、順子はそういう事は気にしていないようだ。


 興味がある事は、すぐに飛びついていってしまう人間みたい。


「マッチ、マッチ~。どっこにあるかな~」


 鼻歌を歌いながら、部屋の中の棚を漁っている。


 西野が「あんまり好き勝手しない方が」と言っているが、聞いていないようだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る