第三章:月を穿つ箒星、螺旋潰えて
03-01 ハッカの森と夕暮れ空のインターバル。
ハッカの森の異変と消滅をどうにか阻止することができた勇者一行は、新たな仲間セルバと共によじの国へと足を踏み入れる。国と国との境界線を越えることは世界を跨ぐことと同じだ、プルガリオ王国の土地とは全く違う空気に一行は新鮮な予感と共に敷かれた道を進んでいく。
南に広がるのは広大な草原と開かれた大空に浮かぶ浮遊島の数々、その南東沿岸部には常に夕暮れの色を持つ独特の気候が出迎える。サンセットバレー、貿易機関五つ色の浜商会のうちの一つとしてこの大陸の玄関口となる巨大な港湾である。ここには多くの物品と情報が集い、その中でも飛空艇と呼ばれる空を駆ける船が行き交う通過点だ。よじの国そのものが冒険者を纏める役割を持つ土地柄、このサンセットバレーには多くの冒険者が集い旅立っていく。冒険者の多くはここで初めて大陸の土を踏み、夕暮れの先にある夜を越えたものだけが真の自由を手に入れる。そんな試練の始まりとも言える場所へ向かう傍ら、勇者一行の話に魔法馬車の霊馬は耳を傾ける。徐々に確かとなっていく戦いの重みを感じながら。
「セルバちゃんが仲間になったのじゃ! と言うわけで、そろそろガチ目にお互いのスキルを確認しておこう!! これまではわしとクリスくんだけじゃったからお互いアドリブでドリフト決めてもカバーできておったが、三人となるとそうも行かなくなってくるからの!!」
「話は分かったけど、どうしてそんなに必死なんだ?」
『ハッカの森での戦いで途中落ちたのかなり気にしてますね。あれ、結果的にクリスくんが一人で全部対応した形になりましたし』
「あぁ……別にいつものことだからいいんだけどな」
「クリスや、一人に背負わせるのはいつだって心が痛むものなのだ。これからは私もサポートに入るからそうそう一人にはさせないのだ!」
「よく言ったセルバちゃんよ! ここからはパーティとしての動きを意識していくのじゃ、そうすれば作戦の幅も持たせられるからの」
「なるほど。そう言うことなら分かったよ、それで……スキル確認だっけ。どこから確認するの?」
「そうじゃのう、賢者!」
『では僭越ながら私が情報管理をしましょう。では、まず皆さんの武装を含めた戦闘スタイルを教えてください』
「わしは王家の大剣じゃ、近接はこれ一本じゃぞ! 昔ながらのスタイルじゃ」
「あ、やっぱりそうなんだ。サブウェポン持ってないんだね」
「見たところ重量制限に引っかかりかねない武器のようだし、その分を全部メインに突っ込んでいるのだな。パワーを信じるとは賢いのだ」
「そうじゃろうそうじゃろう。パワーは力なのじゃ」
「あれ、でも魔法使ってるよな。何だっけ……」
「バフ型の魔法と、王家の宝石魔法じゃな。王家の魔法は練り上げるのに時間がかかるのがネック……というか、魔法全般的にそうじゃからの。だがその分の火力と恩恵は確保しておる。じゃから基本的には状況を見つつどちらかにスイッチする形になるの」
「物理火力と魔法火力の欲張りセットかぁ、あぁでも状況見ながら後出しってことだと一人だけ能動的に動くのは苦手ってこと?」
『そうですね。冒険者界隈では“ダブルス“と呼ばれるタイプで尚且つ、相手の動きを潰してその上から圧倒的な火力で押しつぶす形になりますから』
「うわ絶対相手にしたくない」
「なるほどなのだ、パスカルは元々協力する前提の構成なのだな」
「うむ! 次はクリスの番なのじゃぞ」
「あ、うん。分かった」
「って言われてもあまり意識したことがないんだよね。えっと武装は……致命が二本と、直殴り用の両手剣が一本と……」
「ちょっと待つのじゃ、致命担当に白銀のナイフは見たことあるからよいがその二本目の致命いつの間に仕込んでおったのじゃ」
「え、最初から仕込んでたよ。どっちも致命特化させてるからその辺の雑魚なら確一でやれる計算」
『おおよそ勇者から出ちゃいけない単語出てきましたねこれは』
「うわ左手の小手なんか変じゃなとは思っておったがそれパイル(*小手の中に飛び出す杭が仕込まれたもの)か!? 背中から心臓ぶち抜くためのあのパイル!? 白銀のナイフも異様な火力しとるなと思っておったが、こわ……最近の勇者こわ……」
「そも直殴り用の剣と言ったそれ、勇者の剣ではないか? ……あぁ、分かったのだ。クリス、勇者の剣と適性があってないのだな」
「うん。神の紋章の力で装備はできるけど、補正が合わないんだ。だから特効以外は信用してない」
『勇者の剣をギミック解除にしか見てない勇者は歴代初めてかもしれませんね、なるほどなるほど』
「む、しかし補正が合わないとは不思議なこともあるものじゃな。勇者に合わせて形を変える剣なのじゃが……まぁよいか、それでもクリスくん自身の技量で押し返せることは分かっておるからの」
「クリスは魔法に関しての覚えはあるのか?」
「探索向けのものを少し。戦闘に関係しそうなものは……戦技になるけどタゲ取りと戦意上昇系ぐらいかな、一応スタンスもあるけど最終手段だし」
『最終手段とは』
「一時的に痛覚を切って理性吹っ飛ばしながら突っ込むやつ、数分後前借りした分の反動もらって僕は死ぬ」
「マジの最終手段じゃのそれは」
「まぁそんな感じのロマン砲みたいなデメリット馬鹿が複数かな」
「一体何の神の祝福を受けたらそんな呪いまみれの構築になるのだ……?」
「ともかくそんな感じ」
『なるほどなるほど。ではメインウェポンは? あるのでしょう、一人でレザーナの隙をこじ開けた本命が』
「えっ今までの全部サブの話?」「あぁ……そういえばものすごくとんでもないのを投げていたの、クリス」
「これ。処断の黒針含めて処断の暗器、数があるから割愛するけど……まぁ、その、接近戦で弾きながら部位破壊をしつつ確実に取りにいくスタイルだよ」
「完全にソロで大物をぶっ潰しにいくスタイル――!! お主ほんとどこから……んん、まぁそのあたりはお主のタイミングで話してくれればいいんじゃが、あー……今までの戦い方の意図が分かった気がするの」
『限界ギリギリまでサブで相手を追い込んで、確実にキルを取れるところまで来たら一気に暗器を打ち込んで削り落とすタイプですか。一種のトラップ型ですね、踏んだら最後逃げる手段もなく完封する……そのための勇者の剣ですか』
「ハマれば絶対的だが意図が露呈してしまったら苦しくなるタイプなのだな。かといって受動的ではなくペースを組んで相手を巻き込んでいく、と。使う武器はともかくやることはスタンダードなのだな」
「切り札までは温存しつつ継戦するから、そうなのかも。けどこれからは勇者の剣主軸も練習するつもり」
「そうか、開拓していくことはよいことじゃ! 打ち合い稽古ならばいつでも付き合うからの、遠慮せずに言うのだぞ」
「ん、分かった」
『では次はセルバ様ですね』
「私の番なのだな! 私は見ての通り弓使いなのだ、それといくつか精霊を媒介にした支援魔法も使えるのだ」
「一番素直な形のレンジアタッカーじゃな、弓はどういったタイプじゃ?」
「狙撃できるが、一番得意なのは複数を相手にした早打ちなのだ。弓矢はエナを使って錬成するから矢切れは基本的に心配しなくてもいいのだ」
「矢切れ考えなくてもいいのは強いね、あぁそうか即打ちできるしこのメンバーの中だと唯一の遠距離アタッカーになるのか」
『それに精霊魔法となれば軽い応急処置も可能でしょう、支援寄りなのはありがたいことですね』
「英雄として戦っていた時代も元々は軍勢を率いての戦いだったからその影響なのだ、だから安心して最前線で暴れまわっていいぞ。私が全部見ておくし全部カバーするのだ」
「うむうむ、頼りにしておるぞセルバちゃん! 後方がいてくれるのならわしが前線にスイッチできる機会も増えるの」
「最悪僕たちで引きつけて単独行動もできる、のかな。色々やれることが増えそうだね」
「そのあたりは要練習なのだな、ここからみんなで距離感を掴んでいこう」
『連携に関しては後々詰めていきましょうか。セルバ様、他に覚えていることはありますか』
「そうだな……あ、動物たちともある程度会話できるのだ。それと冒険者たちが使う汎用魔法もある程度覚えているぞ」
「基礎魔法?」
「連絡用の鳩手紙や、衝撃を防ぐ防護魔法のことじゃの。わしら勇者にはある程度の魔力の方向性がある故汎用魔法は習得が難しいところがあるのじゃが、セルバはその括りではないからの。他のフォローに長けると言うのはそういった点もあるのじゃろうな」
「これでも眠りに着く前は多くの旅をしたから当然なのだ! ただ難点は私はエルフ、さらに王の血族が故に疫病や呪いなど土地に影響がでる不可視の災害とは相性が悪い。時と場合によっては満足に動くことはできないかも知れない、すまない」
「種族的な問題だしそれは仕方ないよ、何かあったら僕たちでカバーしよう。……あれ、王の血族がそう言うのに弱いっていうのは賢者さんにねじ込まれたから知ってるけどパスカル王はそういうのないのか?」
「む? わしは元気じゃからの! そのあたりは心配せずともよいぞ!」
「おぉさすが黄金の海の王なのだ! その精神力、セルバも見習っていきたいのだ」
「参考になるかなぁ」『特例ですしね……』
「エナの特性も色々あるが、武装スタイルはこんな形なのだ。どうだろうか」
『はい、ある程度みなさんのことは把握できましたので大丈夫です。ありがとうございました。戦闘面に関してはサンセットバレーに着くまでの間に詰めていきましょう』
「うむ!」「はーい」「分かったのだ!」
「そういえばサンセットバレーからの道筋ってどうなってるんだ?」
「うむ、まずサンセットランディングに向かってスノーソルト山方面の飛空艇を捕まえるところからじゃな。大昔は航路がなかったのじゃが、今はあちらに向けても船が出ておる。魔王の関係で閉じているかもしれぬがあそこにはフリーの飛空艇乗りがたくさんおるからの、捕まらなかったらそちらの線を使ってスノーソルト山に向かうぞい」
「山に着いたら境界の灯台から魔界へ、ということなのだな。今の魔界がどうなっているのかはわからないが、気を引き締めていかねばなるまいな」
『少なくともここ数十年魔界は沈黙状態にありましたからね、サンセットバレーで十分準備をしておきましょう』
「うん、分かった。準備、か……」
「あの街なら大抵のものは揃うぞい、何か予定があるか?」
「魔の針対策で魔防アクセが欲しいんだよね」
「む、それはセルバも欲しいのだ。もう、あのような瘴気に当てられるわけにはいかないのだ……」
「うむ確かにそうじゃな。魔の針とは森の件で確実に敵対状態になっておるし、その辺りの対策も準備しておこう。それとニコラスから貰ったコネもしっかり活用していくかの、ベンタバールじゃったな」
『もらえる情報はきちんと貰っていきましょう。ベンタバール、最近頭角を示し始めた大物狩りのハンターだそうですよ』
「へぇ、大物狩りかぁ。会えるといいな」
「……ニコラス、か」
「? どうした、セルバちゃんよ」
「いや、……森であった時少し違和感というか……今に思うと様子が記憶と違うような気がしてな……」
『あの方今かなり忙しい仕事をしていますからね。抱え込んでいることも多いでしょうし、それが原因では?』
「そういえば詳しく聞きそびれたけど、ニコラスさんってどういう仕事の人なの?」
「うーむ、何とも言い難いところはあるのじゃが……調停者というべきかの。冒険者の中でも各地のトラブルを解決することを中心にしておるものたちの一人じゃろう、何かしら目的はあるようじゃがはっきりせん」
「つまり……人助けがお仕事と」
『そうなりますね』
「ふむ……あいつらしいといえば、らしいのだ。が……」
「引っかかるかの」
「あぁ。……何だか思い詰めてるような気がしたのだ、何事もなければいいのだが」
「そのうちまた会った時に聞いてみようよ。何かあれば連絡くれるって言ってたし、対面で会う機会もあるんじゃないかな」
「そうだな。今は自分の目的の集中するのだ、早く力をつけて魔王を倒さねば」
「うむ。一緒に頑張るのじゃ! そのためにも特訓するぞい!」
「あぁ! よしクリス、あとで一戦付き合うのだ!」
「えっあ、うん。わかった、やろうか」
『その様子映し絵に撮らせてもらいますねー!! やったー!!』
「焼き鳥にするぞいLEDバード」
『やーーーーーーっっっ!! まだそうなるわけにはいかないですね!!』
魔法馬車は草原の道を往く。その大空には、先行く不安を捉えるかのように巨大な魚の影が泳いでいた。
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