003 使用人の雇い方


 召使い、すなわち使用人。

 この二人は俺に使用人を雇えと言っている。


 何故か?


 もちろん、魔導学校に入学するのに使用人は必須ではないし、俺が自炊できるのはさっき二人に話した。

 簡単に言えば、「格式を上げろ」ということだ。


 田舎では「耕地面積の大きさ=身分の高さ・富の多さ」だったように、

 都会では「使用人の多さ=格式の高さ」となっている。

 自分に使える使用人の数が多ければ多いほど格式高いとされ、それが異性であればなおよし。


 だが、普通平民は使用人なんて雇わない。

 格式云々は貴族の話だ。

 だから本当は俺には関係のない話・・・


 なのだが、魔導学校に通っている生徒のほとんどが貴族だ。

 貴族は権力争いが大好き。

 「俺はお前らより上だ」とか、

 「あいつは俺よりも上だから今はいい顔しておこう」とか、

 そんなことばっかり考えているらしい。


 そして、その格式の高さの基準となるのが使用人というわけだ。

 入学と同時に使用人の多さでカーストが決まり、いじめが起きたりするらしい。


 つまり、俺みたいな使用人の一人も持たない平民では

 「お話にならない」

 ということだ。


 おばあさんが不機嫌な様子だったのは、そういった魔導学校の現状が気にいらないからだった。


 セグ姉さんは、


「少しでも足しにして」


 と銀貨2枚をくれた。

 どうやら買いに行くしかないらしい。



-----



 さて、街に出たはいいものの、どうしたらいいものか。

 いやまあ、選択肢は一つしかないんだけど。


 一言で使用人と言っても、2種類ある。


 一つは高級使用人。

 つまり、執事やメイドのことだ。

 礼儀作法や家事をしっかり叩きこまれたプロ。


 いいね。

 俺もきれいなメイドさんを雇ってみたいよ。

 毎日眼福だろうね。


 しかしそれは叶わない。

 「高級」使用人、だからね。


 そしてもう一つが下級使用人。

 端的に言えば、奴隷のことだ。

 こっちはプロではないが、安い。

 手持ちのお金でも買えないことはない。


「うーん・・・」


 しょうがない。

 奴隷だな。



-----



 やってきたのは奴隷市場。

 街の中でも端の方で、薄汚い場所だ。

 檻や荷車の中にたくさんの人がいる。

 大方、借金や人攫いでここにきたのだろう。

 時々叫び声が聞こえる。

 「調教」というやつか?


 ウロウロしていると、男が話しかけてきた。


「坊ちゃん。こんなところで何してるのぉ?」


 瘦せているが、服はわりときれい。

 腰には大量の鍵。

 多分奴隷商人だ。


「使用人を雇おうと思いまして」


 商人がヘラヘラ笑いながら肩に手をまわしてくる。


「おいおい。本音を言いなよぉ」

「は?」

「とぼけるなよ!ホントは自分だけの雌豚が欲しいんだろ?」


 うぬぬ。

 確かにそういうことを期待してないわけじゃないが・・・


 いかん、顔に出そうだ。

 ここは一つ煽ってみるか。


「んーでも、俺好みの雌豚なんていますかねぇ」

「言うねえ」


 商人は檻を指差した。


「あの右の子なんてどうだ? 銀貨8枚。まだ処女だぜ」


「こっちは旧貴族の娘だ。貴族を好き放題にできるなんていいだろ?」


「あいつ、かなりの美人だろ? まあもうヤラれちまってるけど・・・」


 一人ずつ紹介していく商人。

 熱心に説明しているが、途中から俺の興味は別の方に移っていた。


「あれって」

「ん? ああ、あれがいいのかい?」


 俺が興味を持ったのは、獣人だ。


「どっかの食料庫を漁ったんだったかなあ。俺も他の商人から買ったから詳しくはしらん」


 一人、鉄の檻に入れられた獣人の女。

 しかもかなり人間寄り。

 肌は褐色で、毛の色は白。

 耳としっぽの形状から見るに、犬あるいは狼系だろう。

 俺が見ているのに気づくと、歯をむき出して威嚇してきた。


 ごくり。


「お。坊ちゃんはこういう強きな女が好きなのか」


 好き、というか興味がある。

 だいたい獣人なんて初めて見た。

 そして目を離せない理由が他にあるとするなら・・・


 身体付きがエロいと思う。

 そこそこ大きな胸。

 健康的に引き締まったお腹。

 腰巻きから覗かせるムチッとした太もも。


 獣人ありかも。


「ちなみに、彼女はおいくらで?」

「えー。銀貨3枚だ」

「やっす!!」


 思わず大声が出た。


 さっきの人間の女の子で銀貨8枚だったはずだ。

 獣人ならもっと高くなるのが普通じゃないのか?


「今セール中なんだよ。なかなか買ってくれる人がいなくてね」


 商人の話によると、獣人というのはあんまり売れないらしい。

 まあ少し考えればわかる話だ。


 獣人の膂力というのは、到底人が勝てるものではない。

 一流の剣士でも勝てるかどうか。

 拘束具や檻も並のものではダメで、近づけば指を食いちぎられる恐れもある。

 当然、こんな危険なものを買いたいという人もいない。

 だから商人としては早く売っぱらいたいのだろう。


「じゃああの獣人で」

「え?お前正気か!?」


 なんだよ。

 さっきまで買わせる気満々だったじゃねえか。。


「正気ですよ」

「・・・わかったよ」


 商人はドン引きしながら誓約書を渡した。


 安心しろよ。

 俺魔法使いだから。


 そう、いくら強いといえ、獣人は魔術を使えない。

 もし襲われたとしても抵抗できるぐらいの力はある。

 逃げられたらどうしようもないけど。

 いや、いっそのこと逃げてくれ。


 誓約書にサインし、銀貨3枚と鍵を交換する。


 自分で開けろってか

 まあそれだけ怖いってことなんだろうな。


 檻に近づき、鍵を開けた。


 ほら、逃げるなら今のうちですよ。

 ぶっちゃけ奴隷なんか買いたくないんだ。

 お前ならオストロルから簡単に逃げられるだろ?



 しかし、檻から出てきた彼女は驚くほどにおとなしかった。

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災厄の落とし子 KJ @kjdy

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