002 星の子


「ふぅ、ふぅ」


 流れ星は爆音とともに目の前の山に落ちた。

 俺はそれを見つけようと走っている。


 ウへへへッ!

 こんなチャンスは滅多にないぞ!


 え? 

 なにをそんなに興奮してしているのか、だって?


 おいおい!

 流れ星が落ちて来たんだぜ!

 神秘が落ちて来たんだぜ!

 そりゃあ興奮するってもんよ!


 急げ!

 俺が第一発見者になるんだ!


「このへんだったよな・・・」


 結構大きかったはずだ。

 すぐに見つかるだろう。


「見えるものは真、あるいは光。我に従え」


 呪文を詠唱して光源を作り、辺りを照らす。


 あった!


 ボコボコとした窪みがたくさんある巨大な岩。

 間違いない。


 ああ天よ!

 我に啓示を・・・


 ビキビキッ


 え?


 岩に亀裂が入り、どんどんと崩れていく。


 ま、まだ触って無いのに。

 まだ神秘に触れて無いのに。


 そんな俺の思いとは裏腹に、岩は崩れきってしまった。


 ああ、せっかく神秘が。

 と思ったが、何か残っている。


 人だ。


 恐る恐る近づいてみる。


 間違いない

 人間だ。


 それも男。

 年は俺と同じぐらいだろうか。

 てか、めっちゃ美男子じゃね?

 危うく惚れそうになったんだけど。


 いやいや。

 そうじゃない。


 青年の上半身を起こし、肩を叩きながら呼びかけてみる。


「おーい、聞こえますか?」


 数回呼んだが反応がない。

 脈はあるので死んでるわけではない。


「よいしょ」


 俺は青年を背負った。


 とにかく、街まで運ばなくては。


 結構重いが、大丈夫。

 山育ちだからこれぐらい慣れてる。



-----



 街へ向かっていると衛兵たちに出会った。

 流れ星の件で調べにきたらしい。


 まあ、あんだけでっかい音がしたんだ。

 俺以外にも気付く人は大勢いただろうな。


 衛兵たちに事情を説明すると街に入れてくれた。


 まあ、意識不明の青年と、その青年を救おうとした人をほったらかしって訳にはいかないもんな。

 俺を追い返した衛兵も「なにかあった時の責任は私がとる」っていってたし、真面目な奴なんだろう。


 俺はすぐにばあちゃんの友人のところに行こうとしたが、


「日が明けたらにしなさい。今晩は二人とも教会にいるように」


 と言われたので、今日は教会でお泊りだ。



-----



 目が覚めた。


 窓から陽射しが射しこんでいた。

 いつもなら日が昇る前に目覚めるのだが、長旅のせいか、久しぶりのベッドのせいか、ぐっすり眠っていたようだ。


 荷物を持って部屋を出る。

 廊下を歩いていたシスターさんに挨拶し、質問した。


「あの~、昨日運び込まれた人ってどうなってます?」

「彼は・・・まだ起きないわ」


 どうやらまだ眠っているらしい。

 無事を祈っておこう。


 シスターさんに出口を教えてもらい、俺は教会を後にした。



-----



 オストロルの街並みは美しかった。

 石と木で作られた家の並びはまるで城壁のようで、田舎の平屋しか知らない俺にとっては圧倒的だった。

 大通りには露店が立ち並んでおり、食料だけでなく彫刻や本、さらには魔術器具も売られていた。

 やはり、この地方最大の都市だけある。

 もっと色々見たいな。


 そんな感じです観光気分で散策しながら歩いていたら、目的地に到着した。


「あら~。あなたがゼオくん?」

「これからお世話になります」

「まあまあ。とにかく入って! あ、私のことはセグ姉さんって呼んでいいからね」


 まず出迎えてくれたのが、中年の女性。

 名前はセグというらしい。

 さすがに「姉さん」は無理が・・・いやなんでもない


「お母さん! 来たわよー!」

「はいはい。わかっとるわい」

「あ、どうも初めまして」


 奥の部屋から出てきたおばあさんが多分ばあちゃんの友人だろう。


「あいつは元気にしてるかい?」

「毎朝斧を振って薪を割るぐらいには元気ですよ」

「はぁ・・・ あいつも変わらんのお」


 そう、ばあちゃんは毎朝薪を割っている。

 そんなの俺に任せてくれればいいものの、


「これが健康の秘訣じゃ!」


 と言って話を聞かない。


 まあそれで元気に過ごしてくれるんだったらいいんだけどね。


「どうぞ」

「ああ、ありがとうございます」


 お茶を出された。

 ん、この匂いは・・・


「気づいたかい」

「ええ、毎日飲んでますから」


 ばあちゃんがいつも入れてくれるお茶だ。


「これ、お母さんがブレンドしたお茶なのよ」

「え! そうなんですか!」


 ふむ、どうやら相当仲が良いみたいだ。



 それからはばあちゃんの話をしたり、田舎の話をした。

 どうやらばあちゃんは昔すごくキレやすかったらしく、領主に殴りかかったり、畑を荒らした獣を生きたまま焼いたりと「ヤバい奴」だったらしい。

 だが孫、つまり俺が産まれてからは大分ましになったそうだ。


 なんてことを話していると、こんなことを聞かれた。


「一人できたの?」

「ええ」

「・・・一人で住むの?」

「そうですけど」


 セグ姉さんがおばあさんをチラッと見る。

 おばあさんはむすっとした顔をしている。


 え、なんかまずかった?


「あの~、雇った方がいいわよ」


 ああ、なるほど。

 しかしやっぱりそうなるのか。


「やっぱり雇ったほうがいいんですかね。召使い」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る