001 オストロルよ、こんにちは

城塞都市オストロル

魔術師を目指す者にとっては憧れの場所だ。

そして今、それが俺の目の前に現れた。


「噂以上だな」


高くそびえる城壁

中央にどっしりと置かれた宮殿

そして少し奥に見える魔導学校


「えっと~、あれが天文台かなあ」


で、山頂から遠眼鏡を覗きながらニマニマしているのが俺、ゼオライト。

産まれてから15年の天才魔術師だ。


え?

自分のこと天才って言うのはイタイって?

地元では実際に言われてたんだからセーフだろ。

まあ、30人ぐらいの住民の中では一番魔術が使えたってだけなんだけどね・・・


断じて自惚れてるわけじゃないぞ。

自惚れてたら魔導学校に入学しようなんて思わないだろ?


「よし!いくか!」


俺は一人で大声を出し、気合いを入れた。

目的地が見えてきたとはいえ、もう一山超えなければならない。

そろそろ日が暮れるころだ。

急いだ方がいいだろう。




さて、オストロルに入ったらどうしようか。

ばあちゃんの古い友人が空き家を用意してくれているから住む場所は問題ない。

となると食べ物か。

さすがに友人様も俺のメシのことまでは援助してくれないだろう。

何か仕事を見つけなければならない。


候補はある。


一つ目は家庭教師。

これが一番儲かるだろうが、まあ無理だろう。

何故か?

一言でいえば身分の差というやつだ。

基本的に家庭教師を雇うのは貴族たちだ。

あの貴族たちが平民である俺を雇うだろうか?

いや、ないな。

食料と交換で子どもたちに勉強を教えていた田舎とは話が違う。


二つ目は魔導学校の教授のお手伝い。

お金を稼げて勉強も出来て、まさに一石二鳥!

が、これも厳しい。

理由は家庭教師と同じ。

教授だってコネが欲しい!

雇うなら平民より貴族のご子息!

って、ばあちゃんが言ってた。


最後は冒険者ギルド。

危険だが金のためならしょうがない。

魔導学校は2日授業で2日休みの繰り返しだからそこそこ稼げるだろう。

・・・ぶっちゃけ苦しいな。

都会は田舎と比べて物価が高いらしいし。


やれやれ


せっかく魔導学校に通うことになったというのに、メシの心配をしなきゃいけないなんて。

都会に出るっていうのはそういうことなんだろう。


なんて思っていると大きな門の前に着いた。

街の入り口だ。



-----



ちょっと遅かった。

街に入ろうとしたら、


「日が暮れてからの通行は認めていない!」


と門の前で衛兵に言われた。


そんなのないよ・・・


五日間も歩いて来たんだ。

だいぶ疲れてる。


・・・賄賂とかどうだろうか。

いや、逆効果だな。

怪しい奴だと思われても困る。

ここは清廉潔白にいこう。


しょうがねえ

木の枝でも集めて焚火でもするか



幸いにも目の前は山だ。

木の枝はすぐに集まった。

後は火をつけるだけ。


よっと


ボッと木の枝に火をつける。

辺りがフワッと明るくなった。




火はいい。

暗いところを明るくしてくれるし、暖かい。

それに、なんか落ち着くだろ?

優しくて、包容力があって・・・

とにかく、生きるためのエネルギーを分け与えてくれてる気がする。


「君、魔法使いだったんだな」


火に思いをはせてると、後ろから声がした。

振り返ると若い衛兵がいた。

俺を追い返した奴の後ろで申し訳なさそうにしていた人だ。


「いや、さっき指から火を出してたから」

「ああ。 まあそんなところです」


衛兵はゆっくりと近づいてきて焚火の前に座った。


なんだ

ちょっと語り合いましょうってか


「凄いじゃないか、君! 今の無詠唱だろ?」


褒めてくれた。

正直嬉しい。

でも謙遜しておこう。


「これぐらいなら簡単ですよ。それに、この街では珍しくもないでしょう?」

「いやいや! 初めて見たよ」

「あ、いま嘘つきましたね!」

「そそんなことないよぉ」


嘘つくの下手か。

いきなり動揺しすぎ。


「衛兵さん。ホントのとこ、どうなんです?」

「・・・」


若い衛兵は「はぁ」とため息をついて話し始めた。


「この街には毎年たくさんの魔術師見習いがくるんだ。でもすぐに出て行ってしまう人がほとんどでね・・・」

「なぜ?」

「自分よりもすごい奴がうじゃうじゃいるのを知って、やる気を無くしてしまうみたいなんだ」


そうか


俺もそれは覚悟している。

が、いざそんな奴らを目の当たりしたら、

きっとガックリしちゃうんだろうな。


「とにかく! 君には自信を持ってほしかったんだ」

「お気遣いありがとうございます」

「うん。じゃあ僕は仕事に戻るよ」


衛兵は立ち上がり、去っていった。


「あ! あと魔物とか出てきたら遠慮なくよんでくれ!」

「ああ、それは助かります!」


ふぅ


見上げると星空が広がっている。

指で星をなぞってみる。

なにも起きない。


「あ」


流れ星だ。


すーと、ゆっくりと、

流れ星が俺の真上を通りすぎようとしている。


きれいだ


でもなんか変だな。

あまりにもゆっくりすぎる。

しかもどんどんゆっくりになっていく。



もしかして、

落ちてきてない?

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