災厄の落とし子

KJ

000 プロローグ


「神秘の始まりは星である」


 賢者アンゲートの言葉である。


 太古、人々は天体を見て季節を知り、進むべき方向を示した。

 星の動きの規則性を探るために数学が生まれ、あるいは星に物語を見出したものもいた。

 星によって生活が作られ、学問が生まれたのだ。

 まさしく、星は天からの贈り物である。

 

 そしてその贈り物の中でも、最も優れたものが『魔術』である。

 

 伝説によれば、ある魔族が星を指でなぞっていた時、魔術が生まれた。

 魔術は魔族の間に広まり、神をも超える力となった。


 しかし魔族は更なる力を求めた。

 自らの神だけに止まらず、この世界の全てを支配しようとした。

 そのためには、もう一方の半球も必要だ。

 魔族たちは北上した。

 未だ観測できていない星を見るために。


 これがセイエナ大戦の始まりである。



-----



「うらあああああああ!」


 見渡す限り死体が転がっている砂漠。

 そこで双剣を握り締め戦う男がいた。


正義をデュオレス正義をデュオレス正義をデュオレス!!」


 襲い来るゴブリンたちを斬り刻みながら戦場を駆けていく。

 彼の衣服は血にまみれ、剣先は欠けていた。

 腕には無数の傷がついており、力むたびに出血している。


「もう終わりか貴様らァ!このビヨンに挑む奴はおらんのかァ!?」


 ゴブリンたちを狩り終わった男は天に向かって吠えた。

 すると凄まじい轟きとともに地面が揺れた。


「なんだァ?」


 空に彗星にようなものが無数に飛んでいた。 


「けっ!魔導砲か」


 彗星は彼の上空を飛んでいき、南の丘に当たる。

 激しい爆発が起きた。

 その余波が男のところにまで飛んで来た。


 男は丘に向かって走った。

 再び味方の陣営から魔導砲が放たれるが気にも止めない。


「どうせなら、かっこよく登場してやろうじゃねえか」


 剣を身体の前で交差する。

 そして詠唱を始めた。


「汝、槍となるか剣となるか。我は塔、あるいは砦!」


 彼の周りに魔法陣が出現し、彼を中心にあらゆる方向に回転しだした。

 そしてそれは白い球体となった。


 魔導砲が着弾する直前に、彼は丘に突っ込んだ。

 丘にはゴブリンの集団や兵器が置かれていたが、青い閃光とともに消し飛んだ。

 同時に彼を覆っていた球体も割れる。


「かあ!あぶねえ!」


 男は剣を持ち直し、正面を向いた。

 そこには魔人がいた。


 人の2倍近くある背丈。

 白いローブを羽織っており、フードからは2本の角がちらりと見える。

 両手には太刀、いや彼らにとってはただの双刀に過ぎない。


「出たな、大物!」

「……」


 男は剣で斬りかかった。

 魔人はそれを刀で弾く。

 男はその衝撃で吹き飛ばされた。


「へっ!流石白布だな」


 男は体勢を立て直すと、剣を逆手持ちした。


「我らの剣と魔の師。そうたやすく討ち取れるわけもないか。だが…」


 男の剣が黄金に光る。

 それに呼応するかのように、魔人の双刀も赤黒く燃え始めた。


「もう終わりにしよう、白布」


 今度は魔人から斬りかかってきた。

 男はそれをかわし、反撃に出る。

 お互い刃が交差する。

 そこからは激しい闘いが始まった。


 男は素早い連撃で攻めるスタイルなのにたいして、魔人は踊るように刀を振るう。

 また魔人は魔術で槍を召喚し、男に向かって放ち、地面からは火柱を立てるなど魔術も使ってくる。

 男はそれを剣で弾き、魔法壁で防ぐ。


 しかし、全ての攻撃に対処できるほど彼の体力は残っていなかった。

 魔人の強打をもろに受け止めてしまった。

 ぐらりと身体が揺れる。

 魔人はその一瞬を見逃さなかった。


「ぐあああ!」


 男の右腕が切断された。

 苦痛の声を上げる。


 しかし、男は耐えた。

 切り落とされた右腕から剣を取り、口に咥えた。

 そして魔人の太刀を受け止めた。

 足が地面にめり込む。

 

「ぎぎぎ…」


 再び魔人が攻撃を仕掛けてくる。

 男は左手の剣で太刀をはらうと、股下に潜り込み、足首を斬った。

 そのまま背後に回り込み、双剣の柄頭同士をくっつけた。

 すると柄が伸び、両剣となった。


「ふぅん!!」


 両剣を槍術の要領で振り回す。

 突然の間合いの変化に対応出来なかったのか。

 魔人は腹を斬られてしまい、体勢を崩した。


 男は跳んだ。

 そして両剣を魔人の胸に突き刺した。


「これでェ、終いだァ!」


 鍔を踏みつけ、刃をさらにねじ込む。

 大量の血が噴き出た。


 魔人の身体は次第に脱力していき、やがて地に伏せた。


 その瞬間、西の方で大きな爆発が起きた。

 そして幾万の魔法陣が空を覆った。


「…戦いが、終わったのか」



-----



 ストロマイトとイングの両雄による魔界将軍の封印。

 そしてジャマル砂漠の奪還によって、835年にわたるセイエナ大戦は終結した。


 この戦争によりあらゆる文明は破壊され、両軍ともに多くのものを失った。

 人も、故郷も、星も。



 そして時は流れ、再び星が現れた。

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