最終話:5本・10本の槍の教え
その後、倭国へ送った兵は倭国に先に渡っていた袁家の兄弟たちを打ち破って、彼等は九州から追い出されて東へ逃げていったようだ。
しばらく様子を見たが戻ってくる様子もないことから逃走中にのたれ死んだか、大和朝廷を作り上げたか知らないが、その後倭国へせめてくることはなかったので派遣した兵は引き上げ後は卑弥呼に任せた。
「とりあえず九州が落ち着いてりゃ問題ないしな」
火山灰やシラス台地などの影響で農耕にむいていない南部の熊襲や隼人との小競り合いはその後も続いたようだが北九州自体は落ち着いたようだ。
日本や朝鮮南部、揚州や交州、更にはベトナムやマレー半島、インドとの交易を発展させるために湊の整備も行わせた結果、砂糖や香辛料、香料や茶、綿などの南方の特産物もはいってくる量が多くなった。
「まあ陸路で運ぶより海路のほうが多く運べるのは当然だしな」
陸のシルクロードの方も北方の遊牧民族が多くいる草原の道、今までいちばん多く使っていた中央の乾燥地帯のルートであるオアシスの道、インド南端を通る海辺の道の3つのルートも整備されそちらからの交易品も流通している。
まあローマの鉛入りのワインや鉛や青銅の酒杯の輸入は禁止したけどな。
「甘くてうまいからって毒入りを飲む気にはなれんしな」
そのうち、孫も結婚して子供が生まれ、俺はひ孫の顔を見ることもできた。
「まあ、ここまで生きれれば十分だろうな」
おれは息子たちを全員呼び寄せた。
「皆よく集まってくれた、そろそろ俺も年だしこの世から旅立つことになるかもしれぬ。
故にその前にお前たちに伝えておこう」
集まった皆が顔を見合わせているが俺は構わずに続けた。
「今の董家が在るのは聖帝がおられたからこそである。
故にお前たちはその恩を忘れずに、今後も一致団結して聖帝に仕え、国を安定させ、常に3つの鏡を見て己を正すことを忘れぬようにせよ」
そして俺は、1人1本ずつ槍を渡した。
「皆その槍を折ってみよ」
息子たちは不思議そうにしながらも槍を折ってみせた。
「では董超、槍を5つ重ねて折ってみよ」
「は、はあ? しかし、其れはどう考えても無理ではございませぬか?」
「良いからやってみせよ」
俺に言われて董超が実際に折ってみようとしたがやはり折れなかった。
俺はそれを見ていった。
「うむ、お前たち分かったか。
一本の槍であれば力を入れればたやすく折れるが、5本束ねていれば容易には折れぬ。
同じく兄弟それぞれがバラバラでは容易に敵に討たれようがまとまれば容易に討たれることはない。
皆が心を一にして力を尽くしてこそ社稷を堅固にすることができる。
皆で聖帝陛下を守っていくのだぞ、良いな」
皆は俺に平伏していった。
「は、必ずや末代までこの教えに従う事を誓います」
「ああ、これで俺も安心して死ぬことができるな。
ああ言っておくが……」
俺は皆の前で5本の槍をまとめて握ると、最大限の力を込めてそれを折って見せた。
「時にはこういった馬鹿力のものが出ることも忘れぬほうが良かろう。
だが10本槍であれば折れることはない。
他の家の者たちとの協力関係も忘れるでないぞ。
何よりも民衆に恨まれ、へそに火をつけて燃やされるようなことは決して行なうな。
後、殉死は無駄だ、絶対やめさせよ」
そこで董超が言う
「父上のお言葉ありがたく思います。
しかしそこまで元気であるのに安心して死ぬとおっしゃるのはいかがなものでしょう?」
普通に考えて槍5本をへし折る人間がもうすぐ死ぬとか言っても説得力はなかったか。
「いやもう俺もいい加減いい年齢だし?」
次に董越が言った。
「今父上が死んだら聖帝陛下も悲しみましょう。
もっともっと長生きしてください」
「あ、ああ、たしかにそうかもな。
もう少し健康に気をつけて生きるようにしよう」
そして結局は華陀の定期的な診察や薬の処方もあって、その後もしばらく生き恥をさらすことになっちまった。
なんかもうすぐ死ぬからなんてやったのがちょっと恥ずかしかったが、子供から孫へ無事に相国の地位も引き継がれ、俺が生きている間は大きな反乱や災害もなかったから良かったけどな。
そしてこのあと聖漢は長きに渡り平和な時代を過ごすこととなった。
「うむ、願わくばこの大陸に平和が少しでも長く続くように願おう」
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