やっぱ稗粥くらいまずいと口が受け付けなかったか
さて、最後になるがもっとも厳しいときの庶民の食事を食べてもらうことになった。
木製のおわんに入ってるのは雑穀の稗に細かく切って干した大根と大根の干した葉っぱかな?
大根は根菜類の代表とも言えるが、ビタミンC、カリウムや消化を助け胃腸の働きを整えるジアスターゼを含み、栄養的に優れた野菜で生でも食えるし煮物や漬物にしてもうまい。
その葉は根よりも栄養価が高く、カロテン、ビタミンC、食物繊維などが豊富とこちらも普通に食べる。
この後漢末には畑で普通に栽培されている代表的な野菜だ。
春蒔き大根は春に種をまき、2ヶ月後の初夏に収穫する。
秋蒔き大根は晩夏に種をまき、およそ2ヶ月後の晩秋に収穫する。
ただし、大根を栽培するためには土を深くまで細かく砕いて耕さねば根が十分肥大しなかったり岐根になったりしてしまうので、掘り起こしの作業が大変な作物でもある。
冷涼な気候を好み、耐寒性があるが凍害を受けるので凍るほど寒くてもだめ。
生で食べれば身体を冷やし、火を通して食べれば身体を温める薬効もあり、大根おろしが様々なものに加えて食べられるように薬味としても使えるなかなか優秀な野菜だ
「ではいただきましょう」
俺がそう言うと天子は浮かない顔で言った。
「これを朕が食せねばならぬのか?」
「庶民の生活を知るには大事なことかと」
俺はそういった後で木の匙でそれをすくい口にした。
「ふむ……」
ぶっちゃけて言えば味もなにもないのが稗でうまくはない。
特にのどを通るときの感触はあまりよくないんだな。
「まあこんなものか」
粟や麦、米と食べ比べれば一目瞭然だが稗というのは味気なく食感も良くはない。
だからこそ家畜の飼料や救災食物としてしか作られなかったんだが、俺は小さい頃からそれなりに粟と稗を混ぜたものも食べ慣れてるから普通に食えるけどな。
他の雑穀とともに少量を米に混ぜ合わせて食べるくらいならばまだいいのだが、稗だけは流石にきついかなと思うが。
とはいえ大根が入ってるだけまだましだと思うがね。
本当の飢饉のときは
そんな事を考えていたら献帝は一口だけ口をつけて、椀を投げ捨ててしまった。
「こんな家畜の餌など天子たる朕が食えるか!」
そしてそれをかばうように王允が言った。
「天子の言われることはもっともである。
なぜこのような家畜の餌を食べる必要があるのだ。
天子には天子にふさわしい食べ物というのがある」
はあ、やっぱだめだなこいつも。
「そうかわかった、これにて今回の視察は終わりとしようか」
張邈も蓋勳も明らかにそれ見たことかという目で俺を見ている。
史実では董卓を暗殺した王允は呂布を奮威将軍に任じ、董卓の残党狩りを行なって董卓の一族を皆殺しにした。
その後呂布をはじめとする多くの者が、董卓の部曲の涼州兵たちを特赦するよう提案したが、王允は「年に二回特赦を出すことは慣行に背く」と拒否し、追放を決定し、さらに呂布らが、董卓の財産を協力した兵たちに賞与として分け与えるよう提案したが、王允はこれも拒否した。
また董卓に厚遇されていた蔡邕が恩を感じ、董卓の死に嘆き悲しんでいた事に対して投獄し、獄中で歴史書の編纂を行おうとした事に対しても、死罪をもって対応した。
現実的でないこのような固定観念に囚われた融通の利かない対応が命取りとなり、李傕・郭汜ら涼州出身者は降伏を願い出たが、王允が許さなかっため、李傕・郭汜らが賈詡の助言により都に攻め入ると、徐栄は戦死し王允に反発した胡軫・楊定は裏切って李傕・郭汜に合流、王允・呂布らは敗北し、長安に入った李傕・郭汜らは董卓暗殺に加担した周奐・崔烈らを次々と殺害、王允の一族も皆殺しとなった。
王允は宦官の不正とずっと戦ってきたが、漢室そのものを見限っていたわけではないのだな。
「さてどうするかね……」
まあ、一縷の望みをかけては見たものの、ある意味やっぱりかではあるんだよな。
結局、天子であるからいついかなる時でも天子らしくしなければならないという考えを持つものがはべっていれば変わるものも変わりようはないんだが。
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