黎陽に対しての攻撃のために双方の軍が集結した

 官渡砦の顔良を降伏させた呂布は北西の敖倉、南方の許昌、東の陳留の補給線を確保させると、兵に十分な食料と休息を与えてから白馬をあっさり落として黎陽へ向けて進軍を開始した。


「さあ、我らの手で黎陽をおとすのだ!」


 ほぼ同時に洛陽から黄河を渡って孟津をおとした董旻と、并州の韓遂やその下にいる麴義なども壺関から、黎陽方面へ進撃中だ。


 黎陽は白馬の黄河対岸にあり、冀州における袁紹の最重要拠点の1つで、袁紹の本拠地である鄴の南の最終防衛線となる城塞都市でもある黄河を渡った先の橋頭堡として重要な場所。


 史実においては建安7年(202年)に袁紹が最期まで後継者を明確に指名することなく病死したが、もともと袁紹は河北3州を息子と甥に分割統治させていた。


 長男の袁譚は青州。

 次男袁煕は幽州。

 甥の高幹は并州。


 現状では


 長男の袁譚は青州。

 次男袁煕は名目上は幽州だが実際は冀州北部まで追い出されている。

 甥の高幹は兗州から逃げ出して袁紹のもとにいる。


 そして、どちらにせよ三男の袁尚は袁紹とともに冀州におり、袁紹は袁尚を後継者にしようと考えていたようなのだが、郭図・辛評は袁譚を後継者に推し、衆目も年長の袁譚支持であったが、逢紀・審配は、郭図・辛評との対立などもあり、袁尚を後継者として擁立した。


 袁紹の死後、青州にいた袁譚は青州から鄴へ引き返してきたが、後継を宣言する袁尚に反発して黎陽に駐屯し、車騎将軍を自称した。


 そこへ曹操が黄河を渡って黎陽を攻撃すると、袁譚は袁尚に危急を告げ、袁尚は審配を鄴の守備に残し、自ら袁譚を救援し、力を合わせて曹操と対峙した。


 黎陽での戦いは9月から翌年の2月まで続いたが、袁譚と袁尚の連合軍は敗退、黎陽は陥落し二人は鄴へ逃亡した。


 このとき曹操軍の諸将は勝利に乗じて鄴まで攻め込もうと主張したが、郭嘉が「袁紹は二人の子を愛して嫡子を立てなかった。郭図・逢紀が彼らの謀臣となっており、そのうち抗争が始まるに違いない。追い詰めれば助け合うだろうが、泳がせれば争いの心が生ずるだろう」と言うので、曹操は南方へ引き揚げ荊州の劉表を攻撃し、新野の劉備と戦うことになる。


 そして、袁譚は”我が軍の甲冑が精巧でないため曹操に負けたのだ。いま曹操軍は撤退しようとして兵士どもは帰郷の念にかられている。彼らが渡河を終えぬうちに包囲すれば大潰滅させられるぞ。この機会を失ってはならん”と袁尚に告げたが、袁尚は彼を疑い、軍勢を貸すことも甲冑を換えてやることもしなかった。


 そのような状況で郭図・辛評は激怒する袁譚に”先公(袁紹)が将軍を外に出して弟を先にしたのは、みな審配の差し金ですぞ”と袁譚はその通りだと思い、そのまま軍勢を率いて袁尚を攻め、外門において戦ったが、敗北して南皮に逃亡することになった。


 史実においてその後兄弟が和解することはなく曹操は兄弟を各個に撃破して袁家は滅亡し、曹操は河北を制圧して統一に手をかけたかというところで赤壁の大敗北を喫する。


 呂布は黄河を渡ると斥候を放ち情報を集めた。


「主将は沮授、そして元服した袁紹の三男の袁尚もいて、軍師は審配か」


 史実において沮授は袁紹軍の監軍(総司令官)として冀州などを統一する際に大きな功績を上げている男であり、官渡の戦いのときに軍権を分散させられなければ結果が変わっていたかもしれない人物であり、審配も戦いにおいて曹操を苦しめた数少ない人物である。


 そしてそのうちに董旻・韓遂・麴義といった面々と合流し軍勢は5万にも膨れ上がった。


「おひさしぶりですな。

 董(旻)大将軍、韓(遂)将軍」


 董旻は呂布の言葉にうなずく。


「うむ、洛陽を注する場所として最低限でも復興させるのには苦労したが、その甲斐もあってようやく冀州に手をかけられたな」


 韓遂も笑っていった。


「山を超えてここまで来るのはいささか大変だったが皆無事でよかった」


 そして呂布は言った。


「では我々は今後董(旻)大将軍の指揮下に入りましょう」


 董旻はうなずく。


「うむ、よろしく頼むぞ」


 そのような雰囲気の中で呂布を睨むものがいた。


「あれが呂(布)奉先か」


 それは麴義であった。


 彼は董卓の陣営にて最強武将と言われる呂布をライバル視していた。


 そして董卓と袁紹の両陣営の一大決戦が始まるのであった。

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