どうやら袁紹は冀州での決戦を考えているようだ。

 さて、将軍達が出立し、それぞれ成果を上げたとの報告が上がってきた」


「董(旻)大将軍は洛陽の守備隊を蹴散らし無事制圧したとのことです」


「呂(布)将軍は敖倉を攻撃し無事制圧したとのことです」


 俺はそれらの報告へうなずいた。


「うむ、今までは放置しておいたが司隷は冀州を攻撃するには抑えておかねばならぬ場所。

 特に敖倉を無事抑えたのは良いことだ」


 俺の言葉に賈詡や荀彧がうなずいた


「そうですな」


「しかし、袁紹は冀州に兵を集め我々が遠征で疲れ糧秣の補給に困ったところで迎え撃つ考えであろうな」


「それもあるかもしれませぬし幽州や并州も我らの勢力下でありますならば冀州を手薄にすることもできますまい」


「うむ、それもあるであろうな」


 司隷の河南の中央あたりにあるけい陽・成皋は楚漢戦争での楚軍と漢軍の戦闘の最前線地域であったが、その北にある食料貯蔵庫である敖倉は物資集積地として重要な場所であった。


 大軍を運用しようとするならば当然大量の兵糧やそれを運ぶ大車と呼ばれる輸送用馬車の部品などが必要だが、食料や部品を風雨やネズミなどから守ったりするにはそれなりの建物が必要だ。


 しかし、基本的には合戦のときに急造で作る食料貯蔵は基本的に周囲も木の板の壁で造られ、そうと呼ばれる食料貯蔵庫は方形の木造の建物だ。


 なので奇襲によって防御用の外壁ごと焼き払われることも少なくなく袁紹と曹操の官渡の戦いでも烏巣の食料貯蔵庫のことを曹操に投降した許攸が場所を教えたため、曹操の焼き討ちによって食料庫を焼かれて袁紹は撤退せざるを得なくなった。


 しかしもっとしっかりした食料貯蔵庫もありきんと呼ばれるものは木の柱に土をかぶせて円筒形の建物にしたもので、外観的には牧場の牧草を貯蔵するサイロみたいな感じだが、これ一つで2000名の兵士の食料を一カ月確保できるような大型のものだ。


 これは県や郡などの年貢を貯蔵するためにも使われているな。


 しかしながらこれを作るにはとても時間がかかるわけで、中に食料がなくとも交通の要衝でちゃんとした土壁や水濠などの防御施設がある場所に食料貯蔵庫である囷がたくさんある場所を制圧できたのは補給の関係から重要なのだな。


 史実では反董卓連合軍に加わっていた曹操が袁紹に敖倉をおとしてを拠点にすることを進言しているが袁紹を始めとしてだれもそれに従わなかったし、その後は董卓が洛陽を焼いて長安に遷都すると、反董卓連合軍の内ゲバで司隷そのものが戦いの主要な場所にならなくなったこともあって敖倉の名前が出ることはなくなってしまうのだが。


 袁術や袁紹はともかく皇甫嵩はその重要性をわかっていてもおかしくないが、状況が状況だったから多数の守備兵をおくという余裕もなかったような気はする。


 そして現状の袁紹は司隷の土地は北は并州、西は司隷三輔、南は荊州、東は豫州とすべて俺の勢力圏に包囲されている状況であり、なおかつ首都としての機能をほぼ失い価値を失った洛陽を含めてその場所を死守する必要性も感じないだろう。


「決戦は冀州が舞台になりそうであるな」


「さようですな」


 決戦に向けて3ヶ月分位の食料は計画的に集めて大車で携行させているから突発的な事態が起きぬ限りは食料面での問題は起きないはずだ。


 そして、荊州や揚州など後方からの輸送で敖倉などの中継集積所に集め貯蔵し、前線へもきっちり補給線をつないで兵站任務を行なわせれば遠征側でも問題は出るまい。


 元々秦の時代から輸送路はある程度整備されているのだが、その維持整備に携わる兵も重要になってくるだろう。


「後は南方の異民族で袁紹の調略に引っかかるような連中がいないことを願うばかりだな」


 異民族への高圧的な態度を俺は取ってはいないが、世の中目先の利益で造反をするものもいるからな。


 袁紹へ大部分の将兵を振り向けている機会に……などと考えるやつが絶対でないとは言えないが、その場合は駐屯軍に早急に鎮圧させるしかあるまい。

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