閑話:袁術の最後

「くそ、どうしてこうなった!?」


 袁術は霊帝の死後の政治闘争の勝ち組であったはずが、いつの間にか獄に入れられていたのだった。


 霊帝の死後に何進の軍閥、何苗と何皇后の閥、董重と董太后の董閥、蓋勳達の4つの集団が相争い、まずは董重によりまずは何進や袁隗は宮中へ呼び寄せられ殺害され、袁紹は汝南へ逃亡した。


 しかし、何苗が董重を捕らえ殺し、董太后は病死した。


 そして、何苗と何太后は何進の配下だった兵を率いた袁術により殺され、少帝も弑逆されると、蓋勳や皇甫嵩の伯父である皇甫規などは危険を感じ洛陽から逃げ出した。


 それにより袁術は実質的な権力を手中にした。


「ふはははは、肉屋ごときが大きな顔をするからこうなるのだ! 確かな血筋を持つ俺こそが洛陽の主にふさわしい」


 袁術は三公の司空となり娘を新たなる天子の后として入内させた。


 続いて入朝する際に小走りせず、殿上で剣を帯びる事を許された。


 さらに袁術は一族は老若男女の別を問わず、皆貴族に叙されて封土を与え、政務を宮中ではなく自分の邸宅で行い、官僚たちも袁術の邸宅へ報告に行くことになった。


 袁術は天子や宦官を通さずに政務を執って好き放題をした。


 もともと横柄な性格であり、よく豪華な馬車に乗っていたということから「路中捍鬼袁長水」と呼ばれていたというが、外出の際は皇太子や皇子が乗るのと同じ金華青蓋の車に乗り、天子に擬した衣服を身にまとった。


「ふふふ、どうせ天子は使うわけではないのだからせいぜい俺が使ってやろう。

 そのうち俺がなるのだしな」


 そして持ち込まれた木材などを不当に安く買い取って高く売りつけると、贅を極めた。


 自らは大邸宅に女性数百人を抱えて侍らせ、高級な牛肉や米を余るほどに食卓に並べ、食いきれぬと厠に投げ捨てて豚の餌とした、その一方で一般の民衆は酷税に飢え凍えて食料不足に陥り、人が人を食らう有り様だった。


「ははは名家の俺たちには当然の権利だ」


 しかし朝廷の財政難は深刻だった、寒冷化による干魃や蝗害や水害も重なって、華北では大飢饉が頻発し桓帝と霊帝の政治により反乱が多発すると国庫は底をつきかけていた。


 さらに袁紹とその仲間が一派が袁術に造反すると、人口が多くて豊かとみられている中原からの税収が入ってこなくなり、更に董卓が袁紹と連絡を取り兵と兵糧の支援を袁術に対して拒むと司隷東半分と豫州の一部からしか入らなくなった。


「くそ、ならば奪うまでよ」


 袁術は兵を率いて豫州や兗州で掠奪を行い兵糧をかき集めたが、冀州に攻め込んだところで袁紹と黄巾残党の前に破れ兵は散り散りになり、袁術は洛陽へと命からがら逃げ出した。


「くそ、妾の子ごときに」


 そして洛陽の門で彼を出迎えたのは皇甫酈と武装した兵士だった。


「袁術、今回の敗戦により天子の兵を損なった貴様を逮捕する」


 驚いた袁術は周りの兵士にどなった。


「な、何を言っているのだ、この痴れ者を捕らえよ」


 しかし兵たちは冷たい目で袁術を見据えて彼を打ち据えると獄に放り込んだ。


 獄囚では冷めたくず麦の粥のみしか出されなかった。


「何だこの扱いは! 私ははちみつ入りの水を所望するぞ」


 牢屋番があざ笑いながらいう。


「馬鹿かお前は、泥水でもすすっていろ!」


 そして袁術が処刑される時が来た。


「せめてもの情けで棄市とすることになったことに感謝するが良い」


 後漢における死刑は公衆の面前で鉞で胴体を両断する要斬と公衆の面前で刀で首を切り落とす棄市との2種類で、罰としては要斬のほうが重く棄市が軽いものとされていた。


 斬首される直前に袁術は、


「この袁術ともあろう者がここまで落ちぶれてしまうとは!」


 と怒鳴り、その直後に首を切り落とされた。


 そして、袁術の一族は皆殺しにされて首をさらされ遺体には火をかけられた。


 暴食で肥満した袁術のへそに誰かが燭台の芯をさしてそこに火をつけるとそれは三日三晩に渡って炎をともし続けたという。


 なんともあっけなく醜い最後であった。

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