180年前半頃の宮廷やあちこちの様子

 この頃の後漢王室は楊賜や蔡邕の失脚により、霊帝に諫言をできるものは、宦官である中常侍の呂強や郎中の審忠しんちゅう・尚書の盧植など数が少なくなっていっていった。


 王甫と段熲が死したものの、劉郃・陳球・陽球・劉納などが曹節により処刑され、国の南北のあちこちで異民族を中心に反乱の火の手が広がっている。


「官位を売って銭を手に入れても、それを反乱鎮圧に費やしていては意味がないではないかと思うのだがな」


 盧植はそう言って大きくため息をつく。


 その霊帝は、侍中の楊奇ようきにたいして「朕は先帝と比べてどうみえるか?」と尋ね、それに対し楊奇は「陛下と桓帝を比較するのは、虞舜と唐堯の徳を較べるようなものです」と答えた。


 桓帝は既に「漢を傾けた皇帝」という評価がなされており、端的に言えば”お前は桓帝と同じだよ”と答えたわけである。


 霊帝は「さすがだな」と一見度量の大きい言葉を返したが、不機嫌になり二度と同じことを聞くことはなかったという。


 霊帝は彼なりに漢室復興のためを思って行動しているのではあるが。


 そもそも先帝である桓帝が漢室の財貨を食いつぶし跡を継ぐことができる男子がいなかったために、第12代皇帝として選ばれたが家は貧乏で後ろ盾となる人物も竇皇后や大将軍・竇武以外におらず12歳と幼い状態で即位をさせられたがその直後に宦官と外戚の争いが起こり、逆賊である外戚によって宦官含めて皆殺しにされると思った霊帝が、宦官が逆賊から自分を守ってくれた恩人であると思っても仕方のないところである。


 そしての外戚といっしょに反逆した者たちが党人と呼ばれる儒学者たちであるという認識にいきつき儒学者は信用ならないとも思ってしまったのも仕方ないことであろう。


 本來であれは政争などに関わるはずがなかった霊帝には宮廷に関しての政治の知識もなかったのだから。


「朕はいったいどうすればよいのだ?」


 鴻都門学を設置して儒学者でないものを引き上げようとしたのも儒学者がはびこる状況をなんとかしたかったからだが、そもそも宦官を信じすぎていたのが過ちであったであろう。


 また売官も反乱の鎮圧に対しての出費の財源とするものであったのだが、その売官により反乱が頻発するという矛盾に気がつけないのは、すべての報告を宦官を通して行っていた以上仕方ないものとも言えるかもしれない。


 霊帝は宮廷の外がどうなっているのかを知らなすぎたのだろう


 ちなみに売官の金額は売官の相場には二千石(郡太守クラス)で2,000万銭、四百石(県丞クラス)で400万銭で正規の推挙を受けた者も規定の半額程度の金額が徴集され、支払う財力がない者には、金額を2倍とすることで後払いも許されている。


 そのため、宦官の一族や濁流派の豪族からは任官後に民衆から搾取してその支払いに充てる者が続出した。


 この金額はもともとの身分などによっても変わり曹操の父である曹嵩は、1億銭を払って三公である太尉の位に就いたが、その財貨をどうやって得たかは察してもらえるだろう。


 だから彼はのちに殺されるのであろう。


「よし、郡太守になれたからには支払った銭の分を取り返さなければ」


 民衆は無駄に高い税や兵役労役などで大いに苦しんだ。


 そしてこんな状況では中央朝廷から妖賊と呼ばれる宗教の乱立は避けられなかった。


「ああ、こんな毎日はもう嫌だ!」


 建寧年間(168~171年)に東方の冀州では張角の太平道が起こる。


 その後瞬く間に信者を獲得してその勢力を拡大していた。


 太平道は医療の手当や食料の供給連帯で一般民衆の心をつかんでいて張角は各地に弟子を派遣して積極的に教えを広めて回ったため、その信者は東部を中心に青州・幽州・徐州・冀州・荊州・揚州・兗州・豫州の8州に広がった。


 その勢いを恐れて霊帝に諫言するものいた。


 まずは熹平5年(176年)に楊賜が拡大しつつある太平道の危険性を上奏したがそれは取り上げられることはなかった。


 その後も何名かが危険性を訴えたが、霊帝は全く取り合わなかった。


 だが民衆の怒りは確実に貯まっていた。


 その結果が光和7年・中平元年(184年)の黄巾の乱・五斗米道の乱につながるのである。


 ”蒼天すでに死す・黄天まさに立つべし・歳は甲子にありて・天下大吉とならん”

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