何のために私は生きる

 悠々と海を泳いでいたら、いきなり周囲を網で囲まれた。

 気づいたときにはもう遅いと悟った。

 ほかのたくさんの魚とともに網にかかったまま、船にさらわれてしまったのだ。


 私は船から降ろされると、氷が敷き詰められた白い箱に入れられ、フタを閉められた。

 箱の外でおじさんたちが、何やらやり取りをしている。

「今日の仕入れ代です」とか「確かにお支払い確認いたしました。それじゃあお受けとりください」とか言っていた。

 どうやら売られたようだ。


 私は箱ごと誰かによって、トラックらしきものに積まれ、長い間そいつに揺られるはめになった。

 気がつけば私はまな板の上にいた。

「今日も新鮮な寿司をお客さんに届けるぞ」


 白い服を着たお兄さんが、包丁を振りかざす。

 こんな恐ろしい光景は、私にとって何回目だ。

 いつになったら、人間として生かしてもらえるんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る