蓮はウチの床屋じゃないとイヤらしい

 松山蓮は、幼少期からウチの床屋の常連客だった。

 何でも私じゃないと、髪の毛を切ってもらうのがイヤらしい。

 だから蓮がお店に来たときは、私がいつもつきっきりだった。

 そのとき私がほかのお客さんの担当をしていたら、蓮は素直にその仕事が終わるのを待っていた。


 蓮は高校生になってから、私の床屋に来なくなった。

 高校入学を機にちょっと遠くへ引っ越したからだ。


 しかし蓮は1年生の終わりごろに、私のお店へやって来た。

「どうしても、美幸さんに切ってもらいたかったんです」

 そう言う彼の髪の毛は、腰近くまで伸びきっていた。私はほほ笑みながら、いつもの調子でこう告げた。

「わかった。ちょうど空いている席があるから、おかけになって」

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