金の壺

「これじゃカップラーメン一杯も買えない……」

 夜道の中、仕事帰りのサラリーマンである寛一は財布の中身を見て嘆いた。


 そのとき、寛一の正面から、いきなり雲的なものに正座で乗った魔人が飛んできた。

 魔人は寛一の真ん前にピタリと止まった。

「ちょっと、いきなり何ですか」

 寛一は驚いた様子で問いかける。

「私は魔人だ。何かお悩みのようだね。言ってごらん」


 寛一はとまどいながら、意を決したように口を開いた。

「奥さんからのお小遣いが毎月少なくて、今も金欠で……」

「それならわかったぞ。これでも売ればいい」

 魔人は寛一と同じ目線まで降りると、抱えていた金の壺を渡した。実に豪勢な輝きで、高級っぽい。

「いい結果を願うぞ」

 魔人は颯爽と夜空の彼方へ消えた。


 翌日、質屋から出てきた寛一に笑顔はなかった。

「あの金の壺の価値、奥さんの小遣いの半分以下かよ。何で底にちっちゃい穴が空いてたんだ……」

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