異世界の魔王に、最強の『回復スキル』を譲渡したら世界中から追われるようになったので逃亡します。~それでも俺は仲間達と一緒に世界を回るんだ!
あずま悠紀
第1話
「俺の名前は『山田健三』だ。職業は無職。趣味はアニメを見ることとゲームすること。あとはまあ小説を読んだり漫画を見たり。そういう普通の男子高校生をやっていたわけなんだけれど――ちょっと訳あって今は絶賛逃亡生活を送っている最中というわけなんですよ。いやぁ困っちゃいますねほんと」
場所は、王都の外にある草原地帯。
その端の方に位置する林の中である。
目の前には二人の少女がいる。どちらも年齢は十六歳ぐらいだろう。二人とも美しい容姿をしており、金髪の長い髪がよく似合っていた。
「そうなのか?よく分からないな」
一人目の彼女は少しばかり困惑顔で、
「私は【ルア】と言う。見ての通りこの国の王女をしている者だが、まあそのことはあまり関係はないな」
そしてもう一人はもう一人の少女の隣に立っていて、こちらを見ながら笑顔で言うのだ。まるで人形のように愛らしい顔つきをした女の子であるのだが、どこか底知れないような感じがあった。年齢的には十代前半かそこらのように見えるのだが――
(こいつ一体、何者だよ?)
警戒する気持ちも勿論あるのだが、それ以上に強い好奇心のようなものを感じるのだ。ただそれだけでここまで来てしまうほど、自分の好奇心は強いものだろうか?
(うーん)
ただ単純に、彼女の美貌に惹かれたという可能性もありそうだが、しかしそれにしても疑問は残る。自分が今いる場所はかなり遠いはずだし、そもそもどうしてこの場所へ来ることが出来たのか。まさか空を飛んでやって来たなんてことも無いだろうし、そんな能力を持っているならわざわざここまで逃げてこなくても良いわけだからだ。だとするとやはり彼女が凄まじく優れた魔法の使い手だという可能性が高いように思えるが――しかし仮にそうだったとしてもこんなにも幼い見た目をしている少女がそこまで強力な魔法使いになれるものだろうか。いくらなんでも無理があるのではなかろうか?などと考え込んでいるうちに少女達が続けて話しかけてきた。
「さてそれでは自己紹介も終わったことだし――そろそろ話してくれないか?君はなぜこんなところにいたんだ?」
金髪の少女ルアさんが聞いてくるのだが。
しかしそれに答えようとしたところで気が付いたことがあったので確認をしてみることにする。それは彼女達に質問を投げかけたいと思った理由であり原因でもあることだったりするのだが――
「ちなみに君達はどこからやってきたんですかね?ここは王国のはずですけど。というよりここって異世界じゃありませんか?」
「「異世界??」」
二人が声を合わせて言う。
あれ?異世界というのはやっぱり違う意味だったのかしら。いやでもそんなことは無いと思うんだけど。でも一応聞いておくかと思いもう一度同じ言葉を尋ねてみた。すると――、
「すまない。何を言っているのか良く分からなかったんだ。とりあえず詳しく説明してくれないかな」
金髪の王女様(多分そうだと思うんだけど)が言ってくるのであるが。その口調に違和感を覚えてしまう。なぜならばその言葉は明らかに日本語の発音とは異なっていたからだ。つまり彼女は日本語で話していたわけではないということになる。そうなるとやはり先ほどの「え?」という言葉が「どういうこと?」というようなニュアンスの言葉であったのかもしれない。いやそもそもあの会話の流れ自体おかしい気がしてくるぞ。だって自分はただ単純に自分の名前を名乗るだけのことをしているだけのつもりだったのだけれど。なのに相手はいきなり変なことを言い出してきたのだ。
『貴方は一体誰なんですか?』みたいな感じだったのかもしれないな。
(となるとやっぱり異世界なのかな。ということは俺以外にも誰かがいるのかな?)
いやいや。ちょっと待った!落ち着くのよ自分。まずはこの世界が地球ではない可能性があるのかどうか確かめなければ。もし地球でないのならば異世界であることはまず確定となる。
それから――そうだな。目の前にいる二人についての情報を整理しようか。
名前は『ルア』『王女』というキーワードだけ覚えていれば後は大丈夫だと思う。というかさっき『異世界』という単語が出てきたことから考えるにこの世界で生きている者達にとっての一般的な単語なのかもしれない。なのでおそらく間違い無いはずだが。
それで次は――
(この子達の外見については特に何も言うことはないかな。綺麗だし美少女と言ってもいいのではなかろうか。年齢は――まあ中学生くらいに見えるからな。十代中頃と思えば十分すぎるのでは。それに何やら魔法を使えるみたいだしね。
髪の色は金に近い色だけど――これは染めているのかな?だとしたら随分と大胆不敵な人達だなぁ。でも金髪とか銀色って地毛だとどうしても傷んでしまいそうだし、何かそういう特別なケアがあるのかもしれないな。うん。髪の色についてはその程度で構わないだろう)
問題はその服装なのだが。これまた不思議な格好をしているものだな。ファンタジー作品に出てきそうな雰囲気はあるのである。しかもそれが王女と魔法使いの組み合わせというだけで十分に映えるわけだから、この世界ではこの手の衣服が流行している可能性は高そうでもあるな。あともう一つ気になっているのは――この子の耳の先が尖っていることだ。どう見ても普通ではなかった。いやまあ人間じゃない可能性もあるけど、それを確かめるためには彼女に聞かなければいけないことがあるので保留にしておこう。あと、もう一人はどうなんだ? 彼女の場合は耳が長いというわけでもなく普通の人間のように見えるのだが。まあよく見ると肌が少し白かったり瞳が大きかったりなど、他の箇所と比べてみれば少しばかり異なる部分もあるのだが。ただこの世界の種族が皆そのような特徴を持っているのだと言われればそれまでである。しかしそれにしたって――まあいい。とりあえず今は話を先に進めようか。そしてその後、今度はこちらの番となり二人の名前と職業を聞くことが出来た。金髪の方が王女で名前は【ルア】。もう一人銀髪の子の名前は【ミルル】と言ったらしい。そしてこちらの自己紹介が終わると――王女がこちらに向かって問いかけてきたのだ。
「なあ健三君、さっき君は『ここは日本じゃないのか?』みたいなことを聞いてきたけれど、あれは何のことだ?君はひょっとして異世界からやって来たんじゃないのか?」
「ん?」
思わず首を傾げてしまった。異世界から来た?一体何の話だろうか?確かに俺は異世界から召喚されて来たのだが。しかしこちらの世界に来てしまったのにはきちんと理由があり、決してこちら側からやってきた訳ではないのだが。そのことを説明しようと口を開きかけると――その前に少女の台詞が続いた。
「いや健三君が『異世界』という言葉を口にしたときの反応が、明らかに私達とは別の文化圏から来ているという感じだったのでな。だからつい、そうなんじゃないのかと思ってしまったんだよ」
どうやら自分が思っていたよりも反応が出ていたようだ。というかちょっとばかり迂闊な言動だったか。どうしよう?適当に誤魔化しておくべきなのだろうか?いや別にこちらとしては嘘をつく必要は無いのだけれども。
うーん?どうしたらいいのか?と困っていたところ――、
「あのね!ルウはね!実は凄いの!!」
もう一人の少女――確かミルと呼ばれていた子がそう言いながら飛び跳ねていた。というかなんで俺の方を見ながらそんなこと言うんだ。いや褒められているのかこれは。だとすると悪い気はしないのであるが。しかし本当にどうしてなんだろう?不思議で仕方が無い。というより彼女の年齢がもっと低かったり大人っぽければ、まるで母親と子供のようにも見えたことだろうが、この容姿でそれを行うのだからもう完全に意味不明だ。
「えへへ♪」
彼女は何故か楽しそうに笑みを浮かべている。
「ねえ!ルウのことも褒めて!ルアのことも褒めるの!」
「いやあの」
なんでそんな話になるのだろうか。全く意味が分からない。というかさすがの自分もそこまで言われてしまうと困ってしまう。しかしそこで金髪の少女が、まるで母親のかのように少女の頭を撫でながら言った。
「駄目だよミル。あまり我がままを言うもんじゃない」
「だってだって!!ルアだって健ちゃんのこといっぱい見てたじゃん」
少女は頬を大きく膨らませて、
「なんかルアはズルい」
などと言っているのだが。
そして王女はその様子に対し困った表情を見せつつこちらへと向かって言ってきた。
「まあまあそのように拗ねなくても良いだろう。ほら、私が君のことを褒めたらきっと彼女も喜ぶはずだ」
「は?いやちょっと待って下さいよ」
「うむ。私は【ルア】だ。よろしくな」
「は、はあ」
いきなり何だよ。さっき自己紹介したばっかりじゃないか。
しかしそんな俺の困惑を無視して金髪の彼女は言葉を続ける。
「君は凄いな。あんな一瞬の会話でそこまで見抜かれてしまうとは」
「は?」
一体何の話をされているのだろうか。
全然意味が分からないので黙っていると――、
「さてでは本題に入ろうか。まず君についてだ。名前や出身世界などについての質問をする前に、君が今現在どのような状況にあるのかを説明しておかなければならないな。君はおそらくこの国の住人ではないだろう?」
「はい?まあその通りですけど。てかいきなり何を?」
「うむ。ならば単刀直入に聞こうか。
君がここに来た理由についてだが、一体どういうものなのか教えてくれないか?」
「ああ、そういう意味ですか」
それは正直ありがたい情報である。異世界召喚について説明しろと言われたって俺だって詳しいことなど何も分かっていないのだ。なのでここは素直にお願いするとしましょうか。そんな風に考えた俺は――
「まず自分は日本人で、ここは異世界であるということですよね?」
そんな風に伝えたところ――
「ふぅん。なるほどな。
いやしかし、まさか異世界からやってきた者がこんなにもあっさりと答えてくれるとは思わなかったぞ。てっきり色々とごまかされたり、面倒なやりとりがあったりするものかと覚悟していたのでな。助かるぞ」
「いえいえ。自分だってこの世界を色々知りたかったんですよ。ただ現状については良く分かってなくてですね。とりあえず自分のことを色々と聞いてくれるとありがたいという気持ちだったんです。あとは質問に対する返答はその都度、後で詳しくするんでとりあえず先に進んじゃってくださいな」
と、伝える。というよりこの場においてはそれがベストだと思うのだ。なにせこちらは何も知らないわけだし、向こうが求めているのは情報の類であって自分との対話はそのための準備に過ぎないのだ。ならばまずはそちらを進めてもらうのが筋というものではないだろうか。それに自分としてもまだ聞きたいことは沢山あるのだ。むしろここからが本当のスタートと言えるだろう。
というわけで、まずは異世界における通貨価値について聞かねば。それから俺の職業についてと、今後の方針についても決めなければ。
(しかし俺みたいな人間が異世界召喚されるなんて、どういう設定になっているのかね?まあ勇者じゃないので『普通の高校生をやっていた』というのが合っているのかもしれないが)
そんなことを考えているうちに話は進んでいく。
俺についての話題がひと段落ついたので今度は王女の方から様々な質問を受けた。この国のこと。俺のような存在のことや『回復スキル』というものが存在することなどなど、そういった内容だ。あとついでに『魔王』がどうとか言っていたことについては深く尋ねられなかったのでスルーすることにしたのだ。というかこの人らって本当に何者なんだろ。何やら色々な意味で気になって仕方がない。
ただ、それらの話をしていく過程で――王女と魔法使いの二人組が何を目的に旅をしているのかということまで知ることができたのである。それによると彼女たちの目的は『世界中を回っている』ことらしいのだ。これはつまり『魔王を倒すための人材を探しているのだ』という話であり、さらに付け加えると『もし勇者が居なかった場合、自分達がその役割を務めるために修行をしてきているのだ』と言っていたのだ。
な、なんと!?い、いやまあ別にそのくらいの動機はあってもいいのか。それに俺を召喚したのが彼女達の目的だとすると、そういうこともあるかもしれない。いやまあ実際のところは全く分からないのだけどね。でもそういう可能性も考えられるだろうということだ。
(でもそうなると――どうしようかなぁ)
俺はそんなことを考えてしまった。というかそもそも俺は『異世界』からやって来た訳じゃないのだが。どうやら二人は『こちら側の存在ではない人間』として、勝手に解釈しているようなのだ。これってもしかして不味いのだろうか。ただこちらとしては下手に否定することもできないというか、余計な疑惑を招く可能性もあるのである。うーん、どうしたらいいのやら。とりあえずこちらの世界で一般的な価値観がどの程度のものであるのかを確認しないと駄目だな。
あと、こちらからもいくつかの疑問をぶつけてみたところ、どうやらこの国の名前は「エアルトリア王国」というものであり、かなり栄えている方だということが分かった。まあ王女と王女の側近らしき子も可愛い顔をしていたからね。それも当然なのだろう。というか俺の感覚で言えば王女の年齢的に『姫様が遊びに出かけている』という状況なのだが。もしかしたらお忍びというやつなのだろうか? それと「魔法」という言葉が聞こえたので、これも尋ねてみたところ。この世界に存在している魔法の仕組みと使用方法を教えてくれたのであった。
簡単に言うなら魔法を使うためには魔力が必要なのだが、この世界には魔族が存在しているらしく、彼らは人間の血肉を好むため魔族は危険な生物として忌避されやすい存在でもあるのだという。しかし同時に、そんな彼らの体には特別な能力が宿っていて、その力は人間の常識を覆すような強力なものを持っているのだと。だから魔族の身体を切り刻んだり焼いたりしたところで意味は無く、倒すならば首を切り落とすのが一番の方法なのだとか。ただしそう上手くはいかないというのもあって、普通であればそんな化け物を相手にすることはほぼ不可能なのだと。そして――、
「魔族は強大な力を持っております。だからこそ、彼らに対抗するためには特殊な力を持つ存在が必要となるのです。魔剣に認められ、契約することで『魔王軍と戦うことができるようになる人間』のことです。そして私達が探しておりました『最強の『回復スキル』』を持つ『勇者』はそのような者達のことを指すのですよ」
そんな話を聞かされたのである。ちなみにこれは彼女の言葉だ。
しかしそんなことを言われても俺にはまだピンと来ない。なぜなら、俺にとってみれば「そんな話、初耳なんだけど」って感じだったからである。だって俺はそんな話をこれまで耳にした覚えは無い。いやそりゃあ確かに俺達はこの世界のことについて何も知らずに生きているけれどさ。それでもいきなりこんなことを言われれば誰だって驚くし混乱もしてしまうだろう。だから少しばかり動揺してしまっていたのだが、しかし、 そこで突然、目の前の少女の口から思いも寄らない一言が放たれた。
「さてそれではそろそろ、貴方の実力を見せていただきましょうか」
え? と一瞬思ったのだ。いきなりそんなこと言われても困る。というかこの子はいきなり何を言っているんだ?そんな風に思ってしまっていたのだ。だっていきなりすぎるだろ。脈絡が無いというか。しかも俺に対して何をさせようっていうんだ。
なので――
「あの」
一応、そうやって話しかけたのだ。そして俺の言葉に反応して金髪のお姫様は言った。
「ああ。言いたいことは分かるよ。急にそんなこと言われて、一体何が始まるのかってことでしょ?」「はい」
俺は小さくうなずいてそう言った。すると少女は――
「うむ。ならば分かりやすく説明してあげよう」
などと言ってきた。
そして続けて言ったのだ。
「君、確か名前は健斗君って言ったよね」
「はい」
「じゃあ健斗君。今からちょっと私と戦ってみてくれないかな?」
「は?」
いやいやちょっと待ってくれよと、そんな言葉が出そうになるのを抑えてから俺は王女へと向かって問いかけてみた。
「いやそれは流石にまずくないですか?」
「うん。君にとってはそうかもしれないけど、実はこの国って今ちょっとピンチでね」
「へ? 何がですか?」
意味が分からなかったので、素直に尋ねると彼女は笑顔のまま答えてきた。
「君、この国がどういう国か知っている?」
「は? いえ知りませんけど」
というか知らないのは当たり前だと思う。というかそもそも国の名前すら知らないのだ。だから俺が知らないのは仕方がないことだと思ってもらいたいところなのである。ただ、それを言ってもこの子が納得してくれなさそうだと思った俺は「はあ」と生返事をするだけにとどめておくことにした。
しかしそんな風に適当な態度を取っていたせいでなのか――、
「ふむ、そうか。まあ良いだろう」
なぜか彼女はそれで納得してくれたようである。
だが、問題は解決していなかった。
「まあでもあれだよな」と、俺に向かって彼女が続けたからだ。
「この国の王になるべき人物の伴侶として相応しいかどうかを確かめる必要があるのも事実だ。というわけで健斗君。とりあえず戦ってみることにしようか」
「はい?」何がというわけでなのだろうか。まったく分からないんですが? しかし王女様がこう言ってきたということは、こちらの気持ちを無視して強引に進めようとしているということで、つまりはもう断れそうに無いということだ。なのでここはとりあえず受け入れるとしておく。それにこちらにも色々と質問したいことが残っているのだ。だからこの場においては彼女に従う方が無難だと思う。ただ――、 一つだけ問題があって、俺は戦いの素人で、しかも武器の類を持っていないのである。素手で女の子とやり合うのなんて生まれて初めてだし、どうすれば良いのか分からない。
でも俺が戸惑っていると、彼女は笑みを浮かべたままでこちらを見つめてきて、
「なあに心配することはないぞ?私が持っている杖で軽く叩くだけだからね。それなら怪我もするまい。まあもっとも君のステータスが高ければそんなことは関係ないのかもしれないがな。どうする? 私の申し出を受けてくれるか?受けてくれぬと言うのなら仕方がないが」
そんな言葉を続けてきたのである。
(えー?)
なんだこの理不尽は。なんで俺の方に拒否権が存在していないのだ。まるでこちらの心情など考慮しないような言動だなと思いつつ、だけど王女に逆らうわけにはいかなくて、結局「はい分かりました。やらせていただきます」という答えを返すことになる。ただ、そうなると気になったのが自分の装備に関してだった。なので、王女に向けて尋ねてみることにした。
「えっと、ちなみに俺って今から何着ればよいでしょうか?」「ん?」
彼女はこちらの顔を見ながら目を丸くさせて首を傾げた。
それから数秒の間を開けて――、
「ふむ、まあ別に鎧や兜が必要という訳ではない。普通の服で構わないさ。あ、ただしその剣だけは持っていて貰おう。そのほうがイメージが付くだろう」
と、そんな返答があった。
だから俺は――、
「はあ、わかりました」
そう答えるしかなかった。すると少女はその反応を見て嬉しそうな顔になり、
「では行こうか」
と、告げて俺を連れて歩き始めたのであった。
(いやいやいや)
俺は困惑したままで彼女の後ろを付いて行くのであった。しかしそんな風に戸惑っている間に俺は自分の身なりがどうなっているのかを確認しないままであったのだ。でも、それが失敗だったことは後になってすぐに分かったのだけどね。
ただ、そんなこんなありつつも俺は彼女の提案を受け入れていたのであった。だってここで断るとか絶対にあり得ないだろ。そんなことをしても良い結果になるとは考えられないのである。そしてこの世界の常識や価値観がどういったものであるかもまだ良く分かっていない状態だ。だからとりあえずは彼女の要求にしたがってみるべきなのだと判断したのである。しかしそんな俺に対して王女が「おいで」と言い出した瞬間、目の前の空間に突如、扉が出現して――「あ、あの」と声を上げた時にはもう遅くて――、俺は彼女に手を引かれるまま扉の中に入ってしまったのだった。
で――「おお!」
扉を通り抜けた先は――『訓練場』のような場所に変わっていた。
「ここって一体どこなんだよ」
そう口にしながら俺はキョロキョロと周囲を見渡した。そこには俺と似たような年頃の男達が何人も存在していたのだが、彼らは全員が全員、俺達の存在に気づくと目を大きく開いて驚きの表情を作り固まってしまったのであった。だから俺は慌てて「お、お邪魔しました」などと挨拶をして逃げ出そうとしたのだが、王女に腕を掴まれてしまい「大丈夫」という言葉をかけられてしまう。いやしかし、と思わなくもないが相手はこの国の王女であり俺はただの一市民なのだ。そう考えると、ここで無理に逃げようとするのも良くないように思える。
しかしだからといって俺にできることは殆どない。なので――しばらく黙っていたら。やがて兵士達が集まってきて王女の周囲に集まってきたのである。その中には俺のことを呼び止めた女性の姿もあった。
彼女はこちらのことを一睨してから「姫様にご迷惑をかけるとはどういう了見ですか」という感じの台詞を口にしてくる。俺はその言葉にムッとして、そして思わず何か言い返しそうになってしまったのであるが――、 それよりも先に王女が言ったのだ。
「いいじゃないか」
と、楽しげに。
すると――
「しかし姫様――」「私に任せなさい」と、そこで俺の腕を引っ張った女性が反論しようとすると、それを途中で止めるようにして彼女は言った。「うむ」
そのやり取りを聞いてから俺は思うのだ。この人は本当にこの国の王族なのかと。
「さて健斗君」
彼女はこちらに向かって微笑みながら口を開いた。
「とりあえず準備は整えたし、そろそろ始めるとしようか。ああ心配する必要はないぞ?君はまだ学生らしいし、そんな君に対して本気で殴るなんて真似をする気は無いしね。ただ――」
そして彼女は、こちらに近寄ってくると手を伸ばしてきたのである。
俺はビクつきながらもそれを受け入れた。
そのまま肩にポンと手が乗せられると、
「少しだけ痛くなってしまうかもしれないが、そこは許してくれよ」
そんなことを耳元で言われたのだ。なので俺は、(え?マジですか?)という疑問を視線に込めて彼女へと向けるのである。すると、彼女はクスリと笑ってからこちらを見返してきた。
そんな俺と少女のやりとりを見聞きしていた兵士の人達から「なにやってんだあいつ?」「馬鹿じゃないのか」などといった発言がちらほらと漏れ出てきたのが聞こえた。そしてそれらの呟きが耳に入ってくる度に俺は居たたまれなくなって、
「はあ」と溜息まで漏らしてしまったのである。
「じゃあ始めようか」
と、彼女が言ってからすぐのことだった。いきなり背後から大きな声が飛んできたのだ。それは若い男の声だった。俺は驚いて振り返り、そこに立っている人物を見た。
(あれは――誰だっけか)
そう思いつつまじまじと見つめていると――その男は続けて言う。
「ああ失礼」
そして――続けて、彼はこうも言ってきたのだ。
「君の名前は確か、健斗君と言ったかな?」
俺は「え?」と、一瞬言葉に詰まる。
でも、すぐに思い出す。そうだこの人――、 俺は「はい」と返事をする。すると金髪の少女も「ふふ」と小さく笑みを浮かべてからその男へと向き直って、彼の名を告げた。
「やあ久しぶりだね。健斗君は知っていると思うがこちらは私の幼馴染みのアルフォンスだよ」
それを受けて、その男性は――「初めまして」と、丁寧に頭を下げてきて――
「私はアルフォニア王国の第二王子をしているアルフォンスと申します」
そんな自己紹介を行ったのである。
***
異世界からの召喚者。
その存在を初めて目にしたときの感想を述べるのであれば――まさに『異常』の一言であった。私の目の前で今、一人の男子高校生らしき人物と対峙しているのは間違いなく異世界からやって来た勇者様であるはずなのだが、それにしてもこれは何なのだろう?と、不思議に思ったのも仕方のないことだと言えるだろう。
(それにしても――)
どうしてこんなことに。そう考えずにはいられない。本来なら王女様のお傍で彼女を守ることが自分の仕事だというのに、今はどうしてかこんなところに居るのだから。でも――
この方がきっと良いのだろうな。とも、思う。なぜなら――
(それに、勇者様なら問題無いだろうし)
だって彼はとても強い。
この国でもトップクラスの戦闘能力を誇る戦士の私が見ても明らかである。おそらく――彼が本気で戦うところを実際に目の当たりにしたならば――私なんてあっさり負けてしまうのではないかなと思ってしまう程にその実力は高いのだと思う。ただ、だからといって私が勝てないというわけでも無い。そもそも彼とまともにやり合おうとなんて微塵も思ってはいないのだしね。私が気にすべきなのはあくまで王女であるあの子なのである。だから――まあ今回は問題無いか。
そんなことを思っていれば、私のすぐ近くでは王女とその婚約者が楽しげな笑みを浮かべながら二人の少年を見つめていた。
そして私は思う。
これから一体どうなってしまうのだろうか。
***
俺は困惑している。
いや、俺だけでなくこの場にいるほとんどの人間――王女と向かい合う俺以外の人間達も同じ心境であったはずだ。
そんな中――「はいはい皆さん静かに。まずはこの子が貴方達の相手をしてくれるのです」と、王女が口にした。その言葉に対して、その場にいる全員がポカンと口を開くことになった。だってその言葉の意味を理解しようとすればするほど頭の中はこんがらがっていくばかりなのだ。でも――
「あのー?」
そこで俺は声を上げた。
「俺のステータスを鑑定するとか何とか仰っていた気がするんですけど」
すると、その言葉を受けた相手は笑顔のままで、でも少しだけ驚いた顔を作ってこちらを見つめてきた。その視線に俺は――
(ん?)
と思ったのだけど。
すると王女はその口を開いて、こう言ってきたのである。
「へえ、君ってそんなに賢いのか」
そしてさらに彼女は「ふふふ」と、小さな笑い声まで口にしたのだ。
でも俺は「いや」と言い返したかったのだが――ここで余計なことを言い出して彼女の機嫌を損ねるような事態に陥るのはまずいなと判断して口をつぐんでしまったのであった。しかし、そうはいってもこのまま何もしないという訳にもいかないので――俺は続けて質問を口にすることにした。つまりこの世界は一体どこでどういう仕組みで、自分は一体何をどうしたら良いのですかと。
すると、王女がまた少し驚いた表情を見せた後に「ううん?」と言って首を捻る仕草を行い、その後「ははは」と楽しげに笑い出した。それから彼女は――
「じゃあとりあえず試してみて」との言葉を投げかけてくると、右手を前に突き出してこちらに向かって伸ばしてきたのだ。俺はそれを見て――(なになに?これってやっぱり戦闘訓練的な何かなんでしょうか?)とか考えてしまって戸惑っていたのだけれど、とりあえず言われるままにその手に自分からも手を伸ばすことにした。
で、そうしたらその手を掴まれた。
(えっと?)と、思いながら俺はされるがままになって――そして――「ええ!?」という感じになったのだ。
すると――いきなり王女がこちらに向かって引っ張ってきて俺のことを抱き寄せたのである。そして――
「わわわ!」と、思わず変な悲鳴が出てしまうような状況に。
(ちょ!近いって!!)
そして――そんなことを考えてしまえば当然のように体が硬直してしまっていたのだが、彼女は構わずこちらのことを抱え込んだまま歩き始めて、俺をどこかへと連れ去ろうとし始めてしまったのである。
「え、ちょっと待って!」と、俺は慌てて声を上げようとするが――
でも――王女は止まらない。だから俺は仕方なく大人しくついて行くしか無くて――
そのまま――「よし到着」などと彼女が口にするまで、俺は王女に抱きつかれ続けていたのであった。
で――到着した場所。それは先ほどまでの俺がいた空間とは異なる別の部屋だった。そこにはテーブルと椅子が並べられていて――俺はそこに座るようにと指示される。俺は「はい」と小さく呟いてそれに従う。そして――
「さっきのは何です?あれはまさか――」
「そう。スキルだ。しかも君は私と同じ『固有能力』を所持しているみたいだね」
「同じものを持っているからといってそれがイコールで同格ということにはなりませんよね?その証拠に――」
「うむ。君の『回復魔法』は『回復スキル』として発動していた」
「それなのにどうして?」
「理由は簡単だよ。君の方が私のよりもずっと優れているからさ」
彼女はこちらに微笑みかけてから言った。「だって私は『全耐性』と『状態異常耐性』、『物理ダメージ軽減(極)』『自動HP再生』を保有していたんだ。でも君は違うだろう?その分君は強力な力を有しているんだよ」
俺はそこで改めて考える。俺の固有能力が王女のものと同等以上のものだとすると――
俺がこの異世界にやってきた目的は達成できなくなってしまうかもしれないな。なんて思ったり。
しかし――そんな風に色々と考えてみたところで現状が変わるということは無かった。だからもう開き直ることにして、王女との話を進めることに集中することにする。で――俺達は二人きりの状況で対面し、会話を行っているという状況である。なので、そのように彼女と向き合っている中で俺は彼女に尋ねる。「それで?」と。
そしてそれに対して彼女も答える。「うむ」と小さく呟きつつ。
「健斗君がこの国に来るまでに起こったことについては理解出来たかな?」
「はあ」俺は相槌を打つと「それは分かりました」と答えた。
そうすれば「よろしい」と、彼女が答えてくれた。で――続けて、王女が口を開く。
「ではここからは私が健斗君を鍛え上げるということで」
そう言われた瞬間に俺は「は?」と、思わず呆けた声を出してしまったのだ。で――俺は続けて、
「それは何故?」
と、問いかけた。すると、彼女がこう言葉を返してきたのだ。
「君が強くなることは良いことだ」と。
続けて――こうも言ってきた。だって――
異世界から来た人間はこの世界で英雄となる運命なのであるから、そうなるべきなんだと。
俺はそれを「ええ~っ?」と思って聞いていたのである。だって――だって異世界ってそういう設定のやつでしたっけ。
***
***
***
俺は混乱してしまっている。異世界というのはやっぱり何か違う意味だったのかしら。いや、そもそも勇者なんていう単語が出てくる時点で間違っている気がしてくるんだけどなあ。それに、それにだよ?そもそも王女ってのも何だか変な気がしてきてしょうがないのだ。だってさ、だってあの人って、王女って身分でありながら、あんな――あんなお方なのだ。正直に言えば王女としての気品や威厳といったものに欠けまくっていると思うのである。いやもちろん美人ではあるよ?綺麗だし可愛いとも思うけど、でも、あの人が俺の知っているお嬢様であるはずは無いと思う。俺の記憶に間違いが無いのであれば、王女はもっと高貴な存在のはずなのである。
で――
でも、まあ良いか。別に今さらだしな。俺はそう思ったのでそれ以上深く考えないことにしておく。だって今はそんなことより優先して確認すべき事柄が存在しているのだから、まずはそれを済ませてしまわないといけないだろうしな。
俺は「ふう」と、一つ息を吐く。
それから俺は視線を移動させる。まず、目の前に立つ人物に対して「あなたが王女の婚約者でしたか」と、伝えることにした。その言葉を受けて相手の男は――「ええ」と答えて。
「私はアルフォニア王国第二王子を務めているアルバートと申します」
その人はそんな自己紹介を行ったのである。
ちなみにだが俺はその男性に見覚えがある。というのも以前街に出た時に、偶然遭遇する機会があったからである。まあそんな機会が何度もあってたまるかという話であるが、しかしその時にはちゃんと話した訳でもない。向こうからは何度か話しかけられてきたけど、俺の方はそこまで積極的に関わっていこうとは思っていなかったので、特に気にしなかったというだけのことである。それにあの時の彼は俺に対して「失礼します」みたいなことを言いながら去っていっただけである。ただそれでも――俺はこの人のことを少しだけ思い出したのだ。だってこの人は王女のお見合い相手として紹介された内の一人で――
その顔立ちはそれなりに整っていて格好良い部類だと俺は思うのだけど、しかしこの世界には顔面偏差値の高いイケメンが多いようなので俺としては特別目立つ程でも無いというのが本音だ。
ただ――
俺の中でのこの男の評価は高い方だと言えるだろう。
なぜならば――王女の彼氏候補の中でもトップに君臨するだけの人物であるのがこの男の印象であったからだ。だから――
(そんな男が一体どうして?)
俺はそう思って首を傾げることになった。そんな反応をする俺に王女が説明をしてくれた。
「君はこれからしばらく私達と共に過ごすことになる」
と。そんな内容のことを言ってきたのである。だから俺はそれを聞いて「へえ?」と思ったのだ。
でも――そこで疑問が生まれる。それじゃあその期間、この人達と行動を共にすることになるというわけなのか。俺はてっきり王都を出て別の場所に旅立つものとばかり思っていたので「ふうん」と思わず呟いていた。
「えっと、俺を鍛え上げるってのはその話ですか」
俺は続けて尋ねてみた。すると、相手からの返答は、
「それもですが他にもいくつか」
そんな感じであった。
「うーん」俺は小さく首を捻ると、そのまま考える仕草を取る。で――その姿勢を保ったままで口を開いて――「それはどんな修行ですか?」と質問をした。すると――
「それは健斗さんが望めばどんなものであろうと」
相手が笑顔を浮かべたままでそう言ってくれた。
そして俺が続けて「例えば?」と訊ねると――「それは当然」と言ってきたのだ。だから――「ああ」と呟いた。「ええ」と。
そして彼女は続けた。「『回復魔法』を使って貰うことになります」と。
「なるほど」俺はその言葉でようやく納得できたという気持ちになった。確かにそれならば自分の力で戦えるようなものではないからな。だからといって素手で女の子と戦うってのも嫌な感じではあるが。
「『回復スキル』を扱える人間は限られているのです。なのであなたのような貴重な人材に、こんな風に頼むしかありません」と彼女は続けて言うと「お願い出来ませんか?」と問いかけてきたのである。そしてその問いかけに対する俺の反応はというと――「ええっと」というものであった。そして、そこで王女はさらに続ける。
「もちろん報酬を用意しましょう」
そう言われて――でも俺の思考は停止することはなく、すぐに次の言葉を思いついたのだ。というか、最初からこの答えしか無いだろうと分かっていたことでもある。だから俺は王女にこう答えたのである。
「いえ、お金はいりません。というかお金が欲しいとも思いませんし」
と、そんな風に俺は伝えた。すると、それを聞いた王女はとても驚いてしまったようだ。目をぱちくりとさせてしまったのだ。しかし俺は構わずに言葉を続ける。
「それに――もし本当に王女の恋人として相応しい能力を身に付けられるのなら俺は構いません。是非こちらこそよろしくお願いします」
と、そんな答えを口にしていた。
それに対して「え?」「あ?」などと声を上げている王女とアルバートの姿が見えた。どうやら俺の言葉の内容が信じられなかったみたいである。で、結局彼らは俺が本当にそれで構わないと思っているのかどうかを確認してくるのだが、
「俺は問題ないです」「はい?」と返されてしまった王女とアルバートである。でもってその後、さらにこう言われるのだ。「それで?いつ頃から?」と。なので――「早い方が良いです」と答えた俺。それに対してまた驚かれたけども、でも、その日のうちに行われることとなった。
***
場所は王宮のとある部屋の中である。
そこでは王女様と二人のお付きの人間による話し合いが行われている最中であり――その光景を俺はただ眺めているというか、見学しているだけという状況になっていた。まあ、正直に言えば俺はこの場に必要な存在ではないのだろう。だから仕方が無いと思うし――そもそも俺がここに招かれた理由がちょっとよく分からない状況になっているんだよな。というかむしろ、王女達の方で何か問題があったから俺を呼び出して強引に話を進めることで、俺に何かをしてもらいたいという思惑が働いていたのだろうと考えると色々と見えてきそうな気がしてきたりするんだけど。
ただ、とりあえず、この王女達が俺に対して何を望んでいるのかは知らないけれど、俺に何かして欲しいという要求があることだけは確かなようで、しかもそれはとても重要そうなことのように思われるのである。
しかし――だからって、いきなり剣で切りかかって来るとかはないよね?と、そんな風に思ったりしてしまう訳で、どうにも理解に苦しむところだ。でも、とにかく今はそういうことになっているからしょうがないな、と、俺は諦めることにした。それに俺も、色々と話を聞かなければいけないこともある訳だし。ただ――
まずはこの王女と、そしてこのアルバートと呼ばれる人物と会話を行ってみるか。
というか俺は、今まさに、その真っ只中に立っている状態だった。
***
「私は君に回復魔法の扱いを教えることは出来るが、その力を自在に操れるかと言えば――」
王女様がそう言ったので、俺は「いいえ、そうじゃないです」と言葉を返す。続けて――「ただ、回復を扱えれば良いんです。それが出来ないならそもそもそんな力はいらないのだから」と言い切った。そうすれば王女は驚いたように表情を変えてしまうのだ。で――続けて、彼女が俺に何か言葉を放とうとしたタイミングでアルバートの方を見てみると――彼の方は特に何の動揺を見せること無く冷静なままだったので――まあ、やっぱりこういうことなのだろうと理解することが出来たのである。つまりはそういうことなのだろうと。
だってさ――王女様にも俺に力を与えた張本人だという自覚があったのだろうと思うんだ。そうでなければ王女様がここまで驚くことも無かったはずだからな。それに俺に対してあんなことを言わなかったことだろう。あんなに真剣な顔をして。でもまあ――それでも俺は王女が何を考えているのかについては察することが出来る。だから王女が「私があなたに」と口を開いた時――「俺は大丈夫です」と遮るように言葉を挟んだのであった。それから「王女の力では俺の望みには足りないでしょう」とも伝えてやった。そうすると王女が俺に対して何かを言いかけるが、しかしそれを最後まで聞くつもりはなかった。だから――彼女の発言を無視する形でアルバートへと顔を向けたのだった。
すると彼は――
「私達王族では、あなたの望むレベルまで回復魔法を行使することはできないと思います」
と、はっきり口にしたのである。その口調は穏やかで優しくもある。まるで王女の気持ちを慮っているような感じであるし、実際、その通りに彼は動いているのだろうなと思った。で、そのあとで彼は俺に向かってこんなことを言ってきたのだ。
「ですが、もしも私の力を貸していただけるのであれば、この世界の誰もが成し得ていないであろう偉業を成し遂げることが出来るのではないかと」
それはつまり、この国の誰であっても到達することが出来ないような高みへ俺を導くということなのか。あるいは俺にこの国の王になる為の素質が備わっていることを、このアルバートという人物に見出されたのだとしたら――とんでもなく面倒臭いことになるのではないか――と。だから俺はそんなことを思って警戒したのだ。すると、俺の表情が硬くなったことに気がついたアルバートがこう言って来たのである。
「別にそんな大それたことを望んで欲しいなどとは思っておりませんよ」と。続けて「そうではなくて」と言った後で――「もしそうなのだとすれば」と。
だから――俺と王女達はしばらく無言のまま視線をぶつけ合うことになる。で、そのまま少し時間が流れていくのだが――
やがて俺の緊張も解れていって「ふう」と息を吐き出してから、ゆっくりと口を開くことにする。
「分かりました。俺はあなたに協力します」と。そして――「それで――具体的に俺はどんなことをすれば?」と。そうやって話を進めた方が手っ取り早いだろうと判断したからだ。だから――俺はアルバートの言葉を受け入れることにしたのである。で――
「ありがとうございます」
彼がそう言って俺に頭を下げて来たので「あはは」と苦笑してしまった。すると――「あはは」と笑いながら王女が口を挟んできたのだ。そして――「その話は私も参加させて貰う」と。そう言って彼女は立ち上がると俺の前にやってきてから俺の手を取ると「よろしく頼むぞ」と言ってきたのだ。なので俺は――はい――と素直に返事をしていた。
***
そんな訳で――こうして王女と俺との間で交わされた契約が果たされることになるのだが、でもって――『回復スキル』の扱いを学ぶための修行が開始された。で、王女との付き合いが始まってからは――
俺はアルバートと一緒に魔法学園に通うようになったのだ。
ちなみにこの世界において『魔法』というのは一般的なものであるらしくて――『スキル』についても同じことが言える。というより魔法も『回復スキル』も『攻撃スキル』も基本的には誰でも扱えるような技術なのだという。もちろんその才能があるかどうかはまた別問題としてだが。
で――その日。
俺は朝起きてからベッドの上に横になってボーッとしていた。というのも、今日これから『勇者召喚』が行われるということで俺はその手伝いを行う為に、王宮から呼び出されたのである。その関係で俺の部屋を訪ねて来てくれる人がいるのだ。
「えっと、準備は出来ているか?まだならすぐに整えるから待っていて貰いたいんだが」
扉の向こうからそう呼びかけられた。
「もう済ませてあるから」と伝えると――「そうか」という返事と共に一人の男が部屋の中に入ってきたのだ。
「じゃあ行こうか」と声をかけてきた男。そいつは金髪の髪をしていて爽やかな笑顔を浮かべているイケメンな男性だ。で、俺と同じ歳に見えるから同年代の男子ということになると思う。ただ、そんな彼も既に鎧を着て武装していた。というか、そんな彼に付き添われるようにして俺もこの部屋に訪れており――そんな状態で「行きましょう」と、もう一人の少女の声がかかった。
「はい。でもって」
「おう、そうだな」
「ええ、その通りですわね」
二人の少女はお互いに微笑みあう。
それから――二人は俺の顔を見ながらこう言葉をかけて来たのだ。
「ようこそお越しくださいました」と、王女が代表して。そして、その後でアルバートが言うのだ。
「こちらの姫様も君に会いたがっていたんだ。仲良くしてくれ」
そう言われて、俺は小さく「はい」と返事をする。そうすれば二人共「良かったです」「安心しました」などと声を揃えてくれた。でもって、俺のことを気にかけていたと王女様は言ったけども、でもさすがにちょっと照れくさかったりする訳である。だから――ちょっと頬を赤らめていると思うんだけど、でもまあ、そんなことどうでもいいか。というか、今はそれよりも先に進めないといけないことがあったのだから。だから俺は「さっさと向かいましょう」と促す。
「そうだな」
アルバートが同意してくれた。
なので、早速移動することにしたのである。
◆ この世界には魔法というものが存在するわけだけど、でも――魔法を使う際には特殊なアイテムが必要だったりするんだよな。まあ魔法を扱う際に使う道具なのであって、魔法の効果を強化するようなものとかではないんだけれど。で、そういった魔法の発動を助けるために使う道具が――
『聖杖(せいじょう)』と呼ばれているものらしい。
という訳で――『勇者』を召喚するための儀式が行われる場所は、俺達が住んでいる王都から離れた森の中にある大きな広場で行われているとのことだ。そこに移動するまでに結構な時間がかかるんだけども――その途中で馬車に揺られている間も俺はこの国についてのことを王女達から聞いていたのだ。例えば王女の名前はルシアと言う名前で年齢は十七歳で俺とは同年代だということだ。ちなみに俺が十八歳であることを告げたら驚いてくれたりもしたんだけども。他にも王女という立場であることやアルバートとは兄妹関係であるということから分かるとおりに王族の方々については顔も知っていることが多いから簡単に紹介しようか。
ただ、まあ俺の場合は基本的にこの世界の人間には見えないらしいから。
そのことはアルバート達からも説明を受けていた。俺が普通の人間が扱うような魔法を扱えないのと同じように彼等にも普通に魔法を使って戦うことは出来ないということだった。それは王女も同じで、彼女の場合は魔法の扱いに関していえば俺の遥か上をいくような実力の持ち主だということだ。
で、この国の名前について。この国の正式な名前はアルフォード帝国といってこの世界に五つ存在する国々の中でも上位に位置しているほどの大きさを誇る大国である。で、その帝国は魔王軍と呼ばれる存在が出現をした際に真っ先に動き始めたのがここである。だからこそこの国の王様である帝王様が皇帝を名乗っており、その皇帝は他国よりも優れた能力を有しているのだと評判な訳である。でも、この国は他の三国と比べるとそれほど豊かでもなければ領土が広いということもないのだ。その理由として考えられる理由は二つあって、一つはこの国は王国と呼ばれる国家の一つでもあるということがあげられるだろうか。で、もう一つの理由が――この国に『回復スキル』を持った者がいなかったからなのだとアルバートが教えてくれた。つまりは、回復役がいないということ。でもって、それはこの世界での常識であり、それ故にこの世界では『回復魔法』というのは特別な魔法として知られている。だから『回復スキル』を欲しがる人はいても『回復魔法』そのものを必要とする人が極端に少ないのが現状だった。で――俺が今、この国にやってきた理由もそれであった。俺に与えられた力というのが『回復スキル』だったということもそうなのだが、それに加えて回復役として求められているのだから。だから王女達と一緒にやってきた訳で。で――その目的の為に王女は魔法学園に通っていたのだが、まあ色々とあったようで退学させられたと、そんな感じだった。
そんな感じだったのだ。
そんな話をしている内に森の近くにある目的地に到着したのであった。
***
俺が今回この場所に来た目的は、『勇者召喚の儀式に参加する』ことと――そしてもう一つがこの場に存在しているという神殿を探すことである。
「確かあちらの方角にありましたわよね」
王女が指を差しながらそう言ってくる。そして――
「ええ、そうです」
アルバートが肯定するように言葉を返したのだ。なので、俺もそちらに目を向けたのだけれども――確かにそこには巨大な建物が建っており――しかし、かなり古びていたのだ。そして、何やら建物の中から嫌な雰囲気のようなものも漂ってきていたような気がした。で、そんな場所の近くに王女と俺達は向かっていったので――少し不安になりつつもあった。というより――やっぱり嫌な予感しか抱けない。なんでこうも上手く事が進まないのだろうと不思議に思う。だって俺は今までの人生で何かしら上手くいかなかったことなんてないはずだから。
「大丈夫ですから」
隣にいる王女様がそう言ってきた。彼女は微笑んでいる。
そうやって励まされて俺は「はい」と答えるしかない訳で――本当にこんなことで成功するのか疑問が募っていくばかりだったのだが――結局その疑問を解消することが出来ないまま神殿の入り口に到達することになる。
***
神殿の内部に入る前に俺達の方の準備は完了したということでそのまま中へと入ることになった。そうすると建物の内部に広がっている光景が視界に飛び込んできて――思わず息を飲みそうになったのだ。なんせそこは、凄まじく汚くて薄暗い雰囲気を醸していたから。それに床や壁の至るところに汚れや傷が目立っている。そして埃の臭いもするから息苦しいことこの上なかった。
「酷い有り様なものでしょう」王女の言葉には自嘲めいた感情が含まれていたと思う。そんな風に思える言葉を口にした後で、彼女は言葉を続けた。「ですけどこれが今のこの国の現実なのです」
そんな風にして王女は話し始めたのだ。
そして彼女は俺に向かってこう尋ねてきたのだ。
「貴方もお気づきでしょうが」
王女様が口にされた言葉はまさに的確なもので、俺が思っていた通りの内容でもあったので素直に「はい」と返事をしていた。ただ、それでもやはり王女から発せられたその問いに対しての返答としては「はい」という言葉以外に思いつくことがなかった。だから、それ以外の回答を思い浮かべることができなかったので――「はい」と答えた。そうすれば彼女からは更に「私も貴方と同意見です」という台詞が返って来たので、「どういう意味ですか?」と聞き返すと、
「ここは『勇者召喚の儀』を行う為の場所であると同時に、生贄を捧げて魔獣を呼び出す為の場でもあるのです」
王女はその事実を教えてくれた。「勇者召喚の儀」を行う際には神殿の奥に眠っているという聖遺物を使うことになる。で、それを行えば強大な魔力が発生するのだとか。そうすることによって――呼び出される存在こそが「魔王」であるとされているのだそうだ。だから勇者が召喚されることを願って行われるのが「召喚の儀」。そして、魔王の降臨を願う儀式を行っているのがここということだそうだ。まあでも――この辺りの事情も事前に聞かされていたことなんだけどな。ただ――この神殿に関しては「この有様だからな」とアルバートも補足してきた。そんな状況であるにも関わらず――『勇者召喚』の儀を行うことについては「それが国の定め」なんだと王女は説明してくれた。ま、そういう決まり事なのだろうな。
で、その儀式が行われる日は定期的に訪れている。今日がその日だということだった。それでこのタイミングでやって来たのは『回復スキル』持ちである俺を迎え入れたかったからとのことだ。
王女様からの説明は一通り終わり――今度は俺から王女様達に尋ねたいことがあるから聞いてもいいかと確認を取ってから――『勇者召喚』について色々と聞かせてもらうことにした。で、この世界に「異世界人」と呼ばれる者達がいるということを説明してもらうことになったのだ。というのも、そもそも「異界」とは「こちら側とは異なる世界のことである」という考え方が古くから存在しており、そして実際に『勇者』や『回復魔法』といったものが存在していたりするのだから『異世界』が存在しても何らおかしいものではない。で、俺のような者が現れるのが普通らしい。俺以外にも――
例えば――剣崎(けんざき)という名前を持つ少年や。
例えば――天城(あまぎ)という名前で呼ばれる少女とか。そういった人物が確認されているそうだ。
あと他にも――と色々説明してくれたのだが、その殆どを俺は知らなかったので正直驚いたというか、なんというかさ。で――まあ、俺みたいなのはそんなに多くはいないのだそうな。『勇者召喚』によって呼びだせる人間も限られているとのことだし。その限られた人間は、例外なく『特別な力』を持っているんだと。『勇者』と呼ばれている俺の場合は回復能力らしいのだけれども。
そんな訳で俺が王女から教えられることは教えて貰った後で、王女から質問をされたりした。ちなみにこの場に俺と一緒にやってきてくれたメンバーは、アルバートやクレアさんの二人だけではなく、この国に存在する騎士団に所属する人間だったり、この国の宮廷魔術師だったりもしているのだということを改めて説明してもらった。まあ要するに――『回復スキル』を持っている俺の面倒を見るという意味合いもあるのだと王女から説明を受けたりした。俺にとっては有難いことでしかなかったんだけどさ。
***
「あっちにある祭壇に近づかないようにして下さいね。もし近づいた場合――どうなるかも分かりませんので注意をしておいて頂きたいと思います。では、これから『回復スキル』をお渡しします」
『治癒スキル』を使えるようになるには特別なスキルを持っていなければならないらしいのだ。俺の場合はそれに該当していたらしいのだが、その特殊なスキルというものが何であるかについては分からない。まあでも王女の話を聞く限りはそんなに大きな期待は出来ないかもしれない。だって俺のステータスは一般人レベルだしな。
で、まずは俺に『ヒール』の呪文を掛けると彼女はそう言って来た。それに応じて――俺達はその場に立ち止まったのだ。それから少しの間を置いて王女は俺に向かって両手を伸ばすように促してくる。そして彼女は俺に向けて「目を閉じてください」と伝えてくる。言われた通りにすると――唇に触れるものがあったのだ。それは柔らかいもので――何かが押し当てられているということはすぐに分かった。だけど抵抗しようとは全く思わなかったからそのまま受け入れることにした訳で。
ただ、『スキル譲渡の儀式』という行為が一体何を意味しているのかということまでは分からなかったから内心で困惑している部分は存在していた。
そうやって混乱していたのだが――王女様から解放された頃にはもう既に何が起きているのかは理解出来るようになっていた。だから「これは――?」と思いつつ自分の身体に起こっている異変について尋ねてみると――王女は笑顔でこう答えたのだ。
「私が持つ『回復スキル』の一部を分け与えただけですよ。そのスキルがあれば傷の治り具合は早くなりますし、病にも掛かりにくくなるはずです。だから今後の戦いには欠かせないスキルになるとは思いますよ」
そうやって彼女は告げた。でもその顔に浮かんでいた表情は明らかに「心配です」と言っていたのだ。俺だってその気持ちはよく分かるのだ。だって『勇者』として選ばれた存在とはいえ、特別な力を宿していた訳ではないのだからな。むしろ普通の人間のレベルから比べたら少し下回っているんじゃないかと思っているくらいなのだ。
だから俺は、そんな彼女からの言葉に――「ありがとうございます」と答えるしかなかったのだ。
そうやって『スキル譲渡の儀式』を終え、準備万端になった俺達は王女と一緒にこの国で最大級を誇る建物へと向かった。そこは、俺達が目指している目的地でもあったからだ。
そして辿り着いたのが――神殿の奥地だった。
その場所までやってきたのだけれども、中は薄暗い感じで埃っぽかった。しかも――嫌な感じも漂っている訳で、本当にこの場所で大丈夫なのかと思ってしまう程であったのだ。そんな場所に存在している神殿の奥部へ続く階段。その手前にまでやってきた時に――
「あれは――」
アルバートが指を差してきたのだ。その先にあるものは、この空間の最奥部から伸びてきたであろう長い通路であり、そこには誰かが倒れていたのだ。それも一人じゃない。何人かだ。
で、彼らは――ボロボロの姿になっているのが見て取れるから――もしかして、と思った俺は駆け足で彼らの元に駆けつけていくことにした。そうすれば、やっぱり見覚えのある顔を目にすることが出来て、
「おい! 生きてるか!?」
「うぅ――」
「しっかりしろ!」「ああ――」「死ぬんじゃねえぞ」
俺の呼び掛けに応じた人達の顔には生気があまり無いように見えたのだ。で、彼らの状態を見れば怪我をしていた。傷だらけで出血をしている者も中にはいる訳で――とにかく酷い有り様だった。で、俺はそんな状態の彼らを抱え起こすことにした。
すると――
俺が抱え起こそうとした人物は苦しそうな声を上げ始めた。そして同時に「逃げろ!」と大声で叫んだ。そして、その直後に彼は意識を失った。
で、他の者達も同様だ。同じように苦しそうにしていた。ただ、それでも俺にはやらなければいけないことがあったので――どうにか気合を入れて行動に移ったのだ。そうしなければ死んでしまう可能性があったから。だから必死になって動いたのだ。で、その結果――全員の容態を確認することができたのだが、残念ながら――誰も彼もが死にかけていて危険な状態だった。このまま放置していれば助からないことは明らかで、放っておくのであれば今直ぐに手当てを始めないといけない状態。
そこで俺は王女に振り返ってみたのだ。彼女ならきっと――この状況をなんとかできるはずだから。そうすれば助けられるのは確実で――だからこそ助けを求めようとしたのだ。
「『勇者』さん?」
だが王女の方は、こちらが何か言い出そうとしていることに感づいたようで――怪しげに微笑むと「どうかしましたか?」と聞いてきた。それに「お願いがあります」と言えば――彼女はこちらの申し出を受け入れる姿勢を見せてくれた。そうしてくれたお陰で――『回復魔法』の使い手がいなかった場合、俺は『ヒール』を唱えることで仲間達を救い出せると分かったのだ。
だから、後は――この場の全員に『ヒール』を唱えれば解決することだな、と思っていたのだけれど、ここで俺はあることに気づいてしまったのだ。俺自身が『スキル』を使用できるのは、どうやらとてつもなく限られた状況下でしか使えないものらしい、ということだ。その理由というのが――『スキル』の使用に必要なのが『スキルレベル』というもので、このレベルが高いとそれだけ効果が大きくなる。つまり、低レベルの『スキル』だと効果が薄いということだ。なので『回復スキル』の場合で考えてみようと思う。レベル1の状態だとどんなに『ヒール』を唱えたところで瀕死の状態から回復させ続けることは不可能である。そんなことは誰にだって分かりそうなものだからな。
というかそもそもだ。『回復スキル』の習得方法は「回復系のスキルを習得して使う」か「戦闘で経験を積んで取得するかの2つしか無い。どちらも難易度は高過ぎるし現実的じゃないから俺のような人間が『回復魔法』を手に入れることは難しい筈。でも――王女様の話によれば俺の場合は『スキル』そのものを譲ってくれるみたいだから『回復魔法』さえ手に入れば俺の望み通りになる訳だし。
そして俺が『回復魔法』を覚えるためには何が必要かと言うと、そのレベルが10あればいいらしい。というか、それ以下だと俺の場合は意味がないのだそうだ。理由はよく分からないのだけれども、とりあえずそう教えられたので素直に受け入れるしかないか。というかレベルが5と6の間くらいに上がったのも偶然なんだよなぁ。まあ、そういうものだと考えればいいだろうけど。
そんな訳で早速実行に移るとしよう。
まずは、さっき俺が確認した限りでは、『ヒール』を唱えられるのは3回までが限界だと思う。それを越えた回数を使うつもりはない。なぜなら、回復系魔法の使い手はそう多くないという話だったから。この人数を回復させただけで『回復スキル』のレベルが上がったらラッキーくらいに思っていた方が良いかもしれないから。あと、実際に俺の回復力が上昇しているような感覚もあったのだ。で、『勇者』の能力のおかげもあるのか――
『スキル』を使ってみて分かったことがある。それは回復系のスキルというのは本当に凄いもので、普通に使うよりも数段早く、回復量も多いことが分かった。俺自身はそう思っていなかったが、この場で『勇者』と呼ばれている俺にしか回復させることができない状況だった訳だから仕方ないか。そう考えることで自分を納得させたのだ。そして何度繰り返しただろうか――俺が『回復魔法』の呪文を唱え続ける間にも回復していく人が増えていき、最終的には皆の身体を癒すことが出来た。
そして全員が無事に息を吹き返した後――俺達は改めて話し合いの場を持つことにした。何故そうなったかというと、今回の一件については国王である父君に伝えて貰わなくてはならないからだ。そして、その際に、自分達で調査をするということも同時に伝えることになったのだ。というのも俺達は国に仕える騎士や魔術師の類であって冒険者でもなければ軍人でもないのだ。その辺の判断が出来るとは思えなかったからな。
で、その結果――国に仕えていることを利用して色々と情報を得ることが出来るようになったのだ。具体的には、王都に存在する図書館で調べ物をしたりとか、王城にいる人に事情を話したりとか、まあ色々あったのだ。ちなみに俺が『勇者』であることが関係していたりもする。というのも俺の父親は『英雄』であり、その『勇者』と縁があることが重要だったのだ。まあそれはともかく、この国ではそれなりに重要な存在となっていることが役に立ったのだった。
***
それから一週間ほどが経過した時――
「ようやくだな」
俺はクレアさんと一緒に『迷宮』と呼ばれる遺跡の中に入るところであった。そして、そこに潜む化け物を倒せばこの国は安泰だと言われた訳だ。だから――
俺達が今現在、何に困っているのかについて語っていこうかな。その前に一つ。『魔王』という単語を知っているかどうかの確認だけはしたい。もし、この世界の住人にそれが何のことなのか分かって貰えたならば――『魔王』と戦うことになるかもしれないのだからな。
「『魔王』という奴を知ってるか?」
だから単刀直入に尋ねたのだ。
すると――
俺の目の前にいた彼女は驚いた顔でこう言ってきた。「もしかして勇者さんの世界の人ではないんですか?」
で、俺はその問い掛けを受けてから少し考えた後に――彼女の言葉にこう返答することにした。「勇者はいるんだが――」と前置きをした上で。その続きを口に出したのだ。「『勇者』として選ばれた人間がいるのは日本だ。ここは違う場所だ」
そう答えてから俺は続けて言う。「それに、俺が元々いた世界でも魔王は存在するからな」
そんな俺の言葉を聞いて彼女は「そうですか」と答えた後に――こんな話を切り出してきた。「実は私達はこの国に召喚された異世界人で――この世界にやってくる時に『神族』を名乗る人物によって与えられた力が『スキル』というものになります。で、この力を扱える人間は『勇者』と呼ばれる訳ですが――この世界における『勇者』には色々な意味合いが込められています。その一つが、『神の使徒』としての役割があります。『勇者』がこの世界に現れて、この世界で危機が訪れようとすると現れるのです。そして、世界を救って欲しいと懇願するんですよ。でも『勇者』は普通の人間がなれるような存在ではありません。だからこそ――『勇者』に選ばれる条件は特別なものである必要がありました」
「特別なもの?」
「はい。そうです。『勇者』となる者は『スキル』を習得できる才能がある者であることが求められていました。『スキル』を習得できる素質が無い人は『勇者』に選ばれない仕組みになっていたんです」
「なるほど」
「で、『神界』に住まう神々が『勇者』を選んでいる訳ですが――『スキル』を与えられるのと同時に、ある役割を与えられることになります。それが『魔族の殲滅』ということになります。『魔王』が率いる集団は強大な力を持っていて――『魔王』が存在する間は、他の勢力も沈黙を守っているという状況になっていますからね。とにかく危険な相手なのです。ただ――ここ数百年の間、そんな状態が続いていたこともあって、『魔王』の存在は噂話の範疇に留まるようになっていたんですが――最近になって急にその存在が大きくなってしまったという訳で――『魔王』が復活したという情報が入ってきてしまいまして」
「なに?」
俺は眉間にしわを寄せながら――彼女に「詳しく教えてくれ」と言ってみることにした。
で、その結果――「実は――『勇者』が選ばれていたらしいんですよ。で、今回現れたのはどう考えても本物だったのですが、肝心の本人は何故か『神族』の力を得ていなかったみたいなので、偽物の可能性が高いという話になっていて――本物の『勇者』と戦える程の実力者がいないということで放置されていたようです」
彼女はそう口にしてから俺の方を見てくると笑顔になったのだ。それも満面の笑みという奴だ。その瞬間だったと思う。彼女が可愛く見えてきたから。そうして見つめられている内に気付けば彼女を抱き締めてしまっていたというか――抱きしめてしまったのだ。だから慌てて離れたのだけれど――
その途端――頬を赤く染める彼女を見て俺はまた胸を打たれる感じがしたのだった。まあ結局そんなことをしても何も変わらない訳だが、そんなことを気にしていても仕方ないので本題に入ることにしよう。で、そんな話をしながらも遺跡の奥へと進んで行った訳なのだが――やがて俺達は広い場所に出たのだ。その場所は天井もかなり高く、部屋自体も広くて壁や床も真っ白な造りになっている所だ。ただ、何かの仕掛けがあって――そこから『ゴーレム』が出現。襲い掛かってきた。そして俺達の前には二人の『スキル』所持者が現れ――『スキル』を使い始めたのである。
***
「ふぅ」
一息吐いておくことにする。
すると、すぐに――、
「お疲れ様です。ルア様」
「ああ」
隣を歩くクレアさんが声をかけてくれたのだった。そして俺はそのことに嬉しさを覚えつつも言葉を返しておいた。だってそうだろ? 彼女と二人っきりで旅をするということはつまり――
俺がクレアさんをデートに誘った結果だからだ。
「あの、それでですね。私はルア様とこうして二人で一緒に過ごせるだけでも幸せなのですが――せっかくの機会だから『迷宮』を踏破してみたいとも思っていまして。ですからもう少し先に進みませんか?」
そう言ってから、俺の顔をチラリと見つめて微笑んでくれたのだ。
そんな表情を見たからか、自然と心が落ち着く。
すると――そこでふと気づくことがあった。
それはこの遺跡に居ると、俺と同じような感覚に陥る人が何人か存在していることだ。
「なんだこれは――」と戸惑いを覚えるような。
そんな感情を抱いている人の姿が見えたのだ。
さらに俺と同じように落ち着かない人もいるようで――その辺については同じ日本人だからという理由で納得することも出来た。しかし一方でこの遺跡で何が起こっているのかについては全く想像も出来ないまま時間だけが過ぎていったのだ。
まあとりあえず今は考えないことにしておくとしよう。いずれにしろ俺の『スキル』を使ってどうにかすることが出来ればいいだけだからな。そんなことを考えているうちに目的地へ到着することが出来た。
***
「さあ着いたぞクレアさん」「これが――『迷宮』ですか。なんていうか不思議な建物ですよね」
「うん。不思議だよな」
「はい。不思議ですよ」
そう返事をしたクレアさんはとても可愛かった。
俺の心の中でそんな風に思える程だ。だからついつい彼女の手を握ってしまう。そうしていると彼女は俺の方を向いたのだが、恥ずかしさに耐え切れなくなったのか俺の腕を軽く叩くと、俺から離れてしまったのだ。
でもってそのまま歩いて行くので――俺もそのあとに付いていくと、そこには何も無かった筈の場所に大きな建物が建っていたのだ。しかもその建物の扉を開ける前に彼女は振り返ると、こう言ってきた。「ここまで来れば大丈夫かな。それじゃあそろそろ手を離してくれる?」と。だから素直に手を放すことにした。そうしたら――、
「ありがと」
俺に向かって笑ってくれるのだ。とても素敵な笑みだったと思う。だからもっと見ていたい気分になるものの、それは我慢するべきだと思って、気持ちを抑え込んだのである。
そしてそれから彼女は目の前のドアノブに手をかけて開くと中に入って行ったのである。俺はそのあとを追っていった。そして室内に入り、正面にあるカウンターまで辿りつくまでの間に俺は色々と確認を行う。クレアさんとは離れての行動だったが、まず最初に目に付いたのが『ステータスプレート』の存在だ。俺が元居た世界では学生が持つものとしてメジャーなものではあった。しかし、こちらの世界では違うのかと思いクレアさんの様子を窺うと――やはり持っていないようで興味津々の様子を見せているようであった。なので俺は声を掛けてから彼女に近づいて行って、その『ステータスプレート』を手に取った。で、そこに表示されていた文字を確認する限りは――『ステータスプレート』の機能自体は俺の元居た世界と似たようなものであったのだ。
ただ、『職業』とかは『戦士』という戦闘に特化したものばかりだし、『魔力量』も普通なら100はあるだろうに50程度しか表記されていないのだ。
「『鑑定魔法』とかもあるようだが――俺には効果がないな」
俺は独り言を漏らしつつ――今度はこの世界の通貨であるらしい『金貨』と『銀貨』を確認した上で――俺達がこの『神殿』にやってきた理由を思い出したのである。
「俺がここにやって来たのは、この場所で『スキルブック』を購入するためだ。『スキルブック』はこの世界でスキルを習得するために必要なもので――まあ『スキルブック』があれば誰でも使えるという訳ではないらしい。だからこの『神界』に住む人達にとって必須な道具というわけだな」俺はそう口にしながら改めて周囲を見渡してみる。そうすることで視界に映る情報を脳内に記録していく。「それにこの世界の住人は、生まれた時から『スキル』を使うことができる。『神族』と呼ばれる特別な者達だけに与えられた能力で、彼らは自分の体の一部を切り離して他人に与えることが出来るんだ。例えば俺達で言うところだと――この世界で生活している人間には『血族』と呼ばれる特別な繋がりを持った相手がいる。でもってその相手に対してならば『ギフト』を与えることも可能で――」とそこまで口にして気がついたのである。
俺は自分が手に持っていたものをよく見てみた。そして気づいたのだ。
俺の手にはいつの間にか『ステータスプレート』があって――その画面に『ギフト一覧』と書かれていたことに。それを目にしたことで思いだしたのである。俺は元の世界で『神様転生』というものを経験していたことを。だからなのか――『異世界にやって来ると必ず持っている『ギフト』という能力を最初から所持していた』ということになっていたのだ。だから『ステータス』を見るだけでその『神族』という存在のことが分かるし、どういう力を与えてくれる存在かも分かってしまったのだ。まあ、そんな『スキル』のことも思い出したところで、
「なるほどね。そういうことか。だったら――これを買う必要があるということなんだね」と口にしてからクレアさんが『ギフト』の確認を行っていたことを思いだす。
なので『ギフト』を確認してみると――案の定『神界通販カタログ』なる代物が表示されていた。で、俺の意識の中には確かに『スキルブック』のことが刻まれていて――その『神界通販カタログ』にも記載されているようだった。なので、俺は早速クレアさんに『スキルブック』について教えることにした。そうしないと話が進まないからだ。
で、クレアさんはすぐに俺が伝えた内容を理解してくれたようである。
すると俺達はお互いの意思が通じているので――『神界』の人らしくない動きでその場を後にすることにしたのだ。そうして俺達は『勇者』が潜んでいると思われる部屋を目指すことにする。
***
「ルア様! 気をつけてください! その部屋から強い反応を感じます!」
そう言ってクレアさんは剣を構えるのだが――部屋の中にいる勇者と思しき人物に視線を向けたところで動きを止める。というのも勇者の姿を見て固まってしまったというか、どうやら驚いた様子を見せていたのだ。そういえば彼女の名前はクレアというのだっけ? とここで気がつく。俺は彼女をフルネームで呼んだことがなかったのだと。まあそんなことを考えていても仕方がないので部屋に入ると勇者の前まで移動することにする。すると向こうもすぐにこちらに気づいてくれて話しかけてきたのだ。「貴殿らは一体何者なのだ?」
「私は『聖王国』で姫騎士をしている者です」と彼女が返事をした直後だ。「待て――その前にどうして君の姿が見える?」「『ギフト持ち』のあなただからこそ私の姿がはっきりと見えているのです」「『神界』から『ギフト』を与えられた者の他にも『神界』の住人が来ているのか!?」「はい」「それは確かなのか? だがしかし君は普通の人間のように見えるぞ」「ルア様がお守りくださっているのです」「そうか、ルア様が守ってくれているのか――だがしかしそうなると――あの『ステータスプレート』に書かれていることは事実なのか。つまり私と同じ日本人であるということだ」「え? 日本人? あの、あなたは一体誰なのですか? ルア様がお世話になった御方だというのであれば礼を申し上げたいのですが――申し訳ありませんが今は少し余裕が無い状態でして」そこで彼女は困ったように笑った。「そのようだな。君の背後にある気配に警戒心を抱いているようだからね。それにその奥にいる男からも凄まじい殺気が伝わってくる。そのことからも分かる通り、私が此処に来た理由は――その日本人である彼を守ることだ」
俺はその言葉を耳に入れてから『ステータスプレート』を取り出す。
で、表示されている情報を見ると、目の前に居る女性の名前は「小鳥遊 愛理沙」となっているようだった。年齢は15歳で『剣士』と表示されていた。またスキルの欄には『スキルポイント10』『体力自動回復Lv5』と記載されていたのだ。しかし『スキルレベル』と書いてあるものが『2』のままであることに、何か意味があるのだろうかと考えつつ次に目を向けていく。
「『ステータスポイント10』は俺の持つ『スキルブック』の効果だな」と呟く。
そうしてから視線を戻した時だ。『神界』から来たらしい『勇者の小鳥遊 愛理沙』と名乗る女性は俺に向かって頭を下げて来たのである。
「ルア様のお仲間でいらっしゃるのですね。ご助力を感謝致します」
「いいよ別に。気にする必要はないさ。だって『神様転生』ってのを経験した俺は『神の如き強さ』を持ってるって話だからな。まあ、俺としては元の世界に帰れるのなら何でもするつもりではいるけどな」と口にしたところで、
「それについては『ギフト』に頼らない方法をこれから探しましょう。その為には先程も口にしましたが、『迷宮』の奥に存在しているという迷宮の主を倒す必要があるでしょう。そして迷宮の主たる迷宮魔王が迷宮内で得た経験値が蓄積され続けている間に倒す必要があり、更に迷宮内に設置されている『迷宮核』と呼ばれる装置を破壊することが出来れば迷宮そのものが崩れてしまうのだと思います。ただこれは憶測でしかありませんが――恐らくはそういった方法になるはずですよ」
『ギフトブック』によって表示された情報を見ていた俺に向かって、彼女は説明してくれるのであった。
そして俺達と彼女で話し合った結果、まずは目の前に現れたこの勇者である『小鳥遊 愛里紗』と共にこのダンジョンに挑んでみることに決めた。で、その『勇者』の能力はというと、俺の『ステータスプレート』に表示されている内容とはまるで異なるものだった。というのも『ステータス』に表示される項目が俺の『スキル』とは全く異なるもので、それが意味するものは『スキル』とは全く別のものということが推測できたからである。まあ俺の『スキルブック』には記載されていない内容だったってことでもある。
『勇者』の『ステータス』にはこんな感じの文章が載っていたのだ。
――――――『勇者』の『ステータス』
Lv:99
体力 :12000/3600
魔力 :8500/6300+1000
物理攻撃力:25700
魔法攻撃力:15800
物理防御力:25900
魔法防御:24400
敏捷性:29200
器用度:15750
――『ステータスポイント残:999』
――特殊アビリティ『聖勇者』LvMAX取得 【『ステータス補正(大)』効果中】
◆『ステータス成長率強化』、『HP上昇強化』、『MP成長率増加』・『魔法攻撃威力増強』◆ ◆『アイテムボックス』Lv9取得可能◆ そしてこの『勇者』のレベルは『999』である。
これを見る限り俺の『神速スキル』や『転移スキル』は役に立たない。俺の『ギフト』が生かされないのだ。
『神族』というのは『スキルブック』を使ってスキルを獲得することによって成長するようだが――どう考えても『ステータス』の成長率が低すぎる。俺の持っている『ギフト』でさえも俺自身には適用できないのだから――俺の能力よりも遙かに高い『ステータス』を持っている彼女に俺は『神界通販カタログ』から購入した『ステータスブック』を使用してみたのだが、その結果分かったことは――『神速スキル』と『アイテムボックス』は『勇者』専用アビリティらしく、彼女のレベルがカンストしている以上、俺には習得できなかったのだ。ちなみに俺の場合だと『勇者召喚に巻き込まれた一般人枠の異世界人』ということで――普通なら有り得ないはずの能力が発現していることが確認できているのだが、それにしてもレベル99というのがどれだけ低いか分かるというものだ。
しかも、だ。この世界の人間は誰もが例外なくレベルアップすると必ず『ステータスアップ系アビリティ』『アイテムボックス収納数拡張系アビリティ』『能力獲得系アビリティ』を習得できるわけではないようだ。
だからこの『勇者』の小鳥遊さんにもそういった恩恵が与えられなかったようで、俺と同じく特別な能力を何も持たなかったようである。まあ元々持っている特殊な力だけでも十分過ぎるくらい強いわけだし、それで問題は無いのかもしれないが。
まあそういうことで俺は『スキルブック』から手に入れた『スキル』を使うことがまったく出来ないということが証明されてしまったのだ。
で――『スキルブック』を俺にくれた神界の人は、俺が元の世界に戻るために必要な条件が、
『勇者』と協力してこの『神域の迷宮』を攻略することだと言ったのだ。で、この『勇者』と行動を共にしているのが俺の仲間のクレアさんで――彼女はクレアという名前で神族の血を引いている『人間種』の女性だ。見た目だけじゃなくて性格も可愛らしくて優しくて――正直なところかなりタイプである。
となれば俺とクレアさんで『勇者と協力』していれば、いずれは元の世界に戻れるんじゃないかと考えたのだ。だが、その方法は分からない。そもそも俺は元の世界に帰るための手がかりを持っていないからだ。
そこで『勇者』に質問をすることにした。すると彼女が教えてくれたのは――『勇者』の使命とは何なのかという話で、それを知れば俺達の行動原理がハッキリするのではないかと教えてくれたのだ。
その話をしてくれたのは良いんだが、その内容はあまりにも壮絶だった。何しろ、世界を救う為に魔王と戦って、世界を滅亡の危機から救うためにその配下と戦う必要があるなんていうとんでもない内容の話だったのだ。
「私はね、日本で生まれたごく普通の女の子なんだ」
小鳥遊さんの口からは、そんな言葉が出てきた。「だからね――私の生まれ育った国が突然滅ぶとか言われても、実感がないんだよ」
彼女の口調は悲痛で、表情も曇っていた。まあいきなり国を滅ぼしかねない存在が現れて「今すぐにでも退治しないと危険です!」みたいな事を言われたところで、素直には信じられないと思う。特に俺なんかは日本で生まれ育って――家族と一緒に生活していたのに――急に「この国から立ち去らないと危ないかもよ」と言われても、そう簡単に納得することはできないだろう。まして相手は魔物のような怪物ではなく、あくまでも人間の形をしている存在なわけで、とてもではないが戦う気など起きそうもないのだ。むしろ逃げだしたくなる気持ちだって出てくる。それでも何とか頑張って戦おうという意志を持ち合わせているのは、やっぱり小鳥遊さんの性格が理由なのではないだろうか。
そう思いつつ、今度はこちらの自己紹介をすることにして口を開いた。俺の名前は佐藤健三だと告げる。歳は21歳で、会社員をしている。
そして次に仲間の名前を口にしようとした時だ。俺はそこで言葉を切った。というのも『勇者の小鳥遊 愛理沙』の背後にいた少女の存在に気がついたからである。
「ええと――」
「初めまして――私の名前は『白雪姫乃』と言います。小鳥遊 愛里紗と同じ世界で暮らしている日本人で――」
と彼女は挨拶をする。その様子はとても落ち着いていて、どこか神々しさを感じるものだった。「ああ、そういえば君も一緒に来たんだろう?」
「えっ?そうなのかい?だったら――」
俺の問いかけに対して小鳥遊さんが声を上げた時だ。
――ズドォン!! という音と共に大地が大きく揺れた。そして「な、何が起きたんですか!?」と俺達の周囲に居た兵士達の誰かの声が上がった。俺はすぐさま『ステータスプレート』を確認していた。そこに書かれていた内容に思わず目を見開くことになる。そこには――
『モンスター:魔王軍幹部「邪神」Lv:998』と記載されていたのだ。「な、なんで魔王軍のトップがここに居るのさ!どうして――」
俺は叫んだ。「だって奴等は、もう倒したはずだろうがよぉ!!」
その叫びに応えるかのように地面から巨大な腕が出現した。それも複数体――全部で5本の巨大で鋭利な爪を有した手が地面の中から飛び出して来たのだ。更にそれとは別に空からは大量の火の雨が降ってきたのだった。
それを確認した兵士達は慌てふためきつつも必死の形相になりながら剣を振り始めた――ってあれ?この兵士たちって『聖属性』が付与されているんじゃないのかよ? そう思っていると俺の隣に立っていた女性騎士が、「あちらは心配なさらないで下さい」と口にしてきた。
「我々の部隊は聖騎士団の中でも『聖戦士団』と呼ばれており、聖女様の力を付与されています。つまり、この世界の人類最強クラスであると言えるわけです。ですのであの程度の敵に負けることは無いですよ。ただ、勇者様達だけは守らせて頂きますけどね」と口にした直後だった。彼女の体が輝き始める。
すると、どういう仕組みになっているのかさっぱりわからないけれど、彼女の周りに光の膜が出現したかと想えば俺や小鳥遊さんを含めた全員の体がその光によって包み込まれたのだ。
そして――次の瞬間、俺達は空を飛んでいた。正確に言えば落下し始めたので――
俺は即座に『転移スキル』を使用してその場から姿を消した。で、他の連中が地面に叩きつけられないように配慮したのだ。
しかし俺のスキルによる転移の発動よりも先に、
「お、おいおいちょっと待ってくれぇーッ!」
と叫んできた人物が1人だけ存在していたのだ。それが誰なのかというと――俺がスキルを使用する直前に聞こえてきた声は間違いなく男性のものであったし、それに、だ。
俺の『転移スキル』で転移したのは『勇者』とその仲間の2名だけだった。それ以外の人間は俺の視界内に存在しないのである。
なのに――何故だ。
俺は今、確かに地上に向かって落下中だった。
だが、目の前には『勇者の小鳥遊 愛里紗』の身体があったのだ。しかも俺が咄嵯の判断で『転移スキル』を使用せずに助けたおかげで、彼女は意識を失っていないようである。
で――問題はその後なのだ。俺は自分の『スキル』で転移したつもりだった。だから、まさか『勇者』の身体に触れてしまうなんて想定外過ぎる出来事が起きるとは思ってもみなかった。いや、普通は思わないと思うんだ。だから俺は「な、なんだこれ!」と思わず叫んだのである。
で――現在、だ。俺と勇者の小鳥遊さんとが密着する形で抱き合っていたのだ。彼女の大きな胸に俺の顔が押し付けられているのが分かったのである。というか彼女の心臓の鼓動が早鐘のように鳴っていることが俺の耳には伝わってきてしまっているのだ。で、俺は俺で、彼女の柔らかな胸が頬に当たる感触を楽しんでいる自分に気がついて激しく狼 突していた。
だがしかし、そんなことをしている暇など無かった。
俺達が今落ちている先――その場所がどうなっているかと言えば、そこは巨大な空洞の内部だったのである。しかもその奥には無数の骸骨が転がっていたのだ。恐らくこの空洞は何かの遺跡のような場所で――その遺跡の地下にこの大広間が存在しているらしい。
俺と小鳥遊さんがその部屋の中心部付近に墜落してしまった理由は、
「くそ、こんな時に」
「ど、どうしたの?」
「ああ、勇者の小鳥遊さんには伝えておく必要がありそうだね。これはきっと『魔王』の仕業だと思うんだ」
「はぁ!?何でこの世界の人間が魔王なんて呼んで恐れられている存在の干渉を受けているわけ!?意味分かんないし!」
まあ確かに小鳥遊さんの言う通り、魔王なんて存在を人間側の視点で見てみると『災厄をもたらすもの』以外の何者でもないわけだし。
「それで、これから私達、どうなるわけ?」
不安そうな口調で言う小鳥遊さんに向けて口を開くことにする。ちなみに『勇者』の仲間は3人とも無事に保護することに成功したのだが――何故か気絶していたのだ。俺も人のことは言えないかもしれないが、かなり頑丈に作られているはずの鎧を身に纏った状態でも衝撃は相当なものだったのかもしれない。
とりあえず今は安全な場所に避難させるのが最善策だろうと判断して『勇者の仲間』と『王女の護衛』をしている人物達に声を掛けることにする。すると彼等は素直に俺の指示に従ってくれたので助かったのだ。
で、だ。その『王女の傍にいた護衛達』は――全員が男性ばかりだった。なので、俺と勇者の小鳥遊さんとを睨み付けているような感じがしたのだ。何せ――今の俺と彼女は非常に密着していて――要するに男女の絡み合いを間近で目撃するような格好になってしまっているのだから。そのせいもあって「何をやっているんだ」と言わんばかりの雰囲気で見られてしまったのである。でも仕方が無いじゃないか。こうなった経緯は不可抗力だと思ったのだけどね。
そう思いつつ、今度は小鳥遊さんへと話しかけた。彼女は顔を真っ赤にしながらも真剣な顔つきになり、そして大きく息を吸い込んだ。「私の身体は――魔王と敵対している組織の長に狙われているんだ」と言った。
「それは私だけじゃなくて『勇者』の私も含めてのことなんだけどね。私の『回復能力』って奴が欲しいからさ。そんな訳で魔王軍に攫われそうになっているってことなんだよね。だから、私の身体に気安く触れるなってこと」
「あ、そういうことなの?なら問題ないと思うよ。今こうして私達が落ちているこの場所も『魔王』が作り出した世界だから」と小鳥遊さんが説明をしてくれると、その直後に『勇者』の『ステータスプレート』に変化が現れたのだ。『モンスター:魔王軍幹部「邪神」Lv:999』と記載されていたのが、いきなり文字化けを始めたのである。
『邪神
レベル:0 』
そして俺達の眼前に出現したその文字を見て――小鳥遊さんは唖然とした様子になった。
それから小鳥遊さんが言った。「どういうことだろ?さっきまであんなに強かった相手なのに、今は『0』だってさ」と。
そこで俺は『鑑定スキル』を使用してみた。すると小鳥遊さんの『ステータスプレート』に記載されている『職業』欄に「???」としか表示されていなかったのである。「もしかして――」と口にしながら、今度は自分の『ステータスプレート』を確認することにしてみる。すると――やはりというか何というか、小鳥遊さんと同様に俺の「???」と表示される部分が増えていたのだ。
そして俺は、そこで初めて自分が「『異世界人』で無いのではないか」と疑いを持ったのであった。
俺は『勇者の小鳥遊 愛里紗』から話を聞くことにした。「えっと、小鳥遊さんだったかな。君の所属について教えてくれるかい」
「『神聖国家セイクリッド』の聖女で――元、日本という国で女子高生をやっていた。あと――今は勇者をやっている。ただ、この世界の人達にとっての『正義の味方』というわけではないみたい。というか『勇者』って何だよって言いたいよ!」と吐き捨てるように言葉を口にしたのである。「そう、だよね」俺は彼女の意見に同意せざるを得なかった。
何故ならば、俺も同じ気持ちだったからだ。
「あ、ところで君は『勇者のクラスメイト』だったんだよな。ってことは君は『勇者』がどんな風に振る舞っているかとか分かるんだろう?ちょっとでいいから聞かせてくれないかな」
「え、ああ、まあそれくらいだったら別に構わないけどさ」と口にした直後だった。突然俺達の周りに白い光が発生したのである。で、光が収まった直後、「ふっ、流石は我等と同じ存在、といったところですかね」と聞き覚えのある声色の声と共に姿を現したのは――魔王だった。
彼は俺を見つめながら微笑みかけてきた。で、「まさか貴様とこのような再会をするとはね。だがそれもこれも、全ては必然――『聖剣召喚スキル』を使用して『勇者』の身体を奪い取れれば、の話ですけどね」と言い放ってきたのである。
俺はその発言を耳に入れて、思わず「え、な、なんですと!?『勇者』の体を奪う!?一体どういう意味なんだ?」と言ってしまったのだ。で、その反応を見た魔王が、一瞬呆気に取られたかのような表情を浮かべた後、ニヤリとしたのだ。
「はは、これは傑作ですね。まさか本当に何も知らずにここまでやって来たと言うのですか?」
その問いかけに俺は無言で首を縦に振った。すると彼は大声で笑い始めたのである。で、そんな彼のことを勇者が睨み付けた。
「魔王ッ!お前の戯れ言には付き合ってられないわッ!」
「戯れ事だと?」と口にした途端――
魔王の姿が消えたのだ。まるで空間の中に消えていったかのように。でもその次の瞬間には別の場所に魔王が出現したのである。しかも魔王の手には俺が『転移スキル』によって移動させた小鳥遊さんの体が握られていたのである。しかも魔王はその手を握り潰そうとした。
だが、
『転移スキル』を使用した直後の出来事だった為に、俺はその攻撃に対処できなかったのだ。
「あ、危ねぇー!」と叫び声を上げてしまった。で、それと同時に小鳥遊さんが手にしていた『勇者の武器』――「聖なる槍」を振りかざすと魔王の腕を斬り落としたのである。その結果として小鳥遊さんは解放された。だが、俺達は魔王の攻撃をまともに受けてしまっていたのである。
小鳥遊さんが魔王に殴りかかる。
が、 彼女の拳が届くよりも先に、魔王の掌が彼女に突き刺さり、そして弾き飛ばしたのだ。
そして魔王はそのままの勢いを利用して回し蹴りを放つと、吹き飛ばされた彼女に対して追撃を仕掛けようとしたのであるが、そこに割って入るような形で俺が介入することにした。魔王の放った回し蹴りを受け止める形で。だがその衝撃は想像以上に大きかった。だから、その一撃を受け止められた直後には後方に吹っ飛んでしまっていたのだ。「ち、くしょう」と口走る。で、その直後だった。「ぐはぁ!」と悲鳴を上げて魔王の口から血反吐が噴き出した。
何が起こったのか?と疑問に思ったのも束の間、俺と勇者の攻防が繰り広げられている間にこちらへ駆け寄ってきていた勇者の小鳥遊さんによる飛び膝蹴りを食らってしまったのである。
「う、おおお」と苦痛に耐えつつ、俺はどうにか体勢を整えて着地をしたのだが――『魔王軍』の者達も動き出し始めていたので俺は戦闘に参加することにした。といっても、魔王を相手にするのは無理だったので、俺は彼等の動きを止めるように立ち回ることに徹することにする。勇者の小鳥遊さんの方にも意識を向ける余裕が無かった為だ。『魔王軍』に背後を取られてしまった場合に備えて、常に気を張っていなければならなかったからである。それに――
魔王は「邪魔をするな」と言いたげに俺のことを見据えてきた。で、俺の方に歩み寄りながら、手を伸ばしてくるのだ。当然俺は回避しようとした。でも駄目だったのだ。魔王の手が俺の顔に直撃するとそのまま俺の首が胴体から離れていってしまって――死んだ。
気が付いた時、そこは薄暗い森の中の開けた場所で――『魔王』が居座っていた場所だった。で、そこで目を覚ました俺に声を掛けてきたのが――
『勇者の小鳥遊 愛里紗』だった。
彼女は泣きじゃくりそうな顔をしながら、俺に向けて言葉を紡いだのだ。
「あ、良かった、生きていたんだ」
そんな彼女に向かって「あの魔王はどうなったんだ?」と訊ねると――「あのままだよ。私が君を助けに行っている間に逃げられちゃってさ」と口にしたのだ。そこで小鳥遊さんから「私としたことが油断したんだよね。だから助けに来てくれたお陰で命拾いしたってわけ。でさ、お願いがあるんだけどさ。私の身体に付いて来てもらってもいいかな?これから私の仲間になる人に紹介しようと思ってさ」と言われてしまった。
まあ俺自身に断る理由はなかったので「分かりました」と答えると、彼女はホッとしたような顔をした後、「それじゃ早速行こうか」と口にすると俺を引っ張り歩き始めたのである。
そうして暫く歩いているうちに――『勇者パーティー』の『魔法使い』で『元』日本に住んでいたという『橘 真希(たちばな まき)』さんと出会うことができたのであった。
それから程なくして俺は――勇者の『ステータスプレート』を入手したのであった。
*
***
<おまけ>【ステータスプレートについて】
1~9までの『レベル』や各項目の能力数値を表示することができるステータスカードのような道具。但し、自分の『固有スキル』を登録したりステータスを偽装するような機能は存在しない。
2。1と同様の機能を内包した『スマートフォン型』と呼ばれる魔導具。『勇者召喚』された時に自動的に支給されるものでもある。
俺は今、この『異世界』にある「聖都セイクリッド」のとある宿屋のベッドの上に横になっているところだ。ちなみに勇者の小鳥遊さんから譲ってもらった「勇者の服」と『アイテムボックス』の中に収納されていた俺自身の持ち物である「学生服」「ワイシャツ」というのを身に付けたままである。
何故なら俺は「聖女の小鳥遊さん」から「魔王軍」に『勇者』の体を乗っ取られる危険性があるので俺の側にいて監視をしておきたいと提案を受けたからだ。なので俺の『異世界生活』は小鳥遊さんの『異世界ライフ』を手助けするという方向で決まりそうだな。
しかし、まさか俺と同じ世界からやってきたという『異世界転生者』とこんな形で再開することになるとは思いもしませんでしたなぁ。あと俺の『勇者召喚』に巻き込まれてきたのであろう人達が沢山いるということが分かって嬉しかった。特に同じ日本人が近くにいたということが分かったことが何よりもありがたいことだと思う。
それと勇者の小鳥遊さんから聞かされたのは、彼女が召喚される直前、つまり日本にいた頃、魔王が俺と同じように『勇者召喚』されて現れたという事だったのだ。それで――
勇者は『聖剣召喚スキル』という『聖剣』を呼び出すスキルを使用できるスキルを所有しているらしく、そのスキルを用いて魔王を倒すべく『魔王討伐の旅』に出たとのこと。
ただ『勇者の武器』は全部で四本存在するそうで――その内の二本が「『勇者』の体」と同化してしまい『勇者の身体』を奪うことができなかったらしい。そして残った二本の内の一つが――この俺が所有している「『神滅兵器』デュランダル」ということになるのだ。この話を聞くと俺は「え、マジで!?」と驚きの声を上げることしかできなかったのである。で、その反応を見てから勇者は言葉を続けると――
『勇者の体』は残り一本しかないが、それとは別に魔王軍側の「『魔王』の魂」を封じ込めることができる「魔封じの石」というのも存在しているので、『勇者』が『魔王』を封印することができたら、残りの『勇者の武器』と『魔封の石』を使って完全に『勇者』の身体と『魔王の身体』の両方を消滅させることができるだろうと教えてくれたのだ。その説明を聞いた俺は「な、成程」と言ってから、こう思うのだった。「魔王軍の狙いはそこにあったんだなぁ。でもその作戦、失敗するんじゃない?」と。
で、俺は彼女に魔王と『勇者』の関係について質問すると「あ、魔王と『勇者』の関係ね。その件に関しては、また改めて説明するよ。でね、魔王に奪われないようにするためにはまず『勇者の肉体』を手に入れる必要があってね、それをするためには、この聖剣が必要になってくるんだよ。あ、でも、安心してね。君に魔王の器になれなんていう事はしないからさ。私は君と一緒にいられるだけで嬉しいし。それに――君は優しいからね」
その発言の後で彼女は照れくさそうな笑みを浮かべていたのだけど――俺がそんな表情をしている彼女に「ありがとうございます」と口にしたら、その顔色が曇り始めてしまったのだ。だからその変化の原因はなんだろう?と思った俺がその理由に気が付くよりも早く――「ううん、いいんだ。そんなに気にしないで」と勇者に言われてしまったのである。
「それよりもそろそろ出発しましょうか」と口にするなり、勇者が立ち上がるとそのまま外に出て行ってしまった。
俺は勇者の姿が見えなくなったのを確認してから「あーあ、振られちゃった」と苦笑いしながら呟いたのである。それからベッドの脇に置いてある『勇者の服』と『勇者の槍』を手に取ったのだった。で、勇者の後を追うように部屋の外に出る。廊下を進み階段を下る。するとそこには俺のことを待つ勇者の姿があった。彼女は俺が目の前までやって来たところで足を止めると口を開くのだ。
「ねえ、これから私達が行くのはね――」
「はい」と答えると、俺は彼女が指し示した方向へと視線を向けるのだった。その先にあるのは、この建物の出入口に当たる大きな扉であり、勇者がその扉に手を掛けると――俺に向かって微笑んできたのだった。で、その後で勇者が「行こうか」と言った瞬間、巨大な鉄の塊が地面に落下するような轟音が響いた。
「なんだ?今の音」と俺は思わず口にしていたのだが――次の瞬間には建物が大きく揺れたので何が起こったのかを理解するのに時間は掛からなかった。
要は、勇者の仲間が建物に侵入してきて戦闘を開始したということだ。
俺は「急ごう!」と声を上げる勇者に続いて、勇者と共にその場から飛び出したのであった。で、俺達は建物の外に出て周囲を見渡すのだが――
既にそこでは激しい戦闘が行われていた。俺達が出てきたのは裏路地みたいな所だったが、それでもかなりの広さを持った広場になっていたのである。なので戦闘はそれなりに広いスペースで行われているわけだ。ただ――
勇者の仲間である『勇者パーティー』の魔法使いで『元』日本に住んでいたという『橘 真希(たちばな まき)』さんと、その仲間である『元魔王幹部』の女性と――勇者とその仲間の男性三名が戦っているという状態だった。まあ彼等のレベルを考えれば負けることは無いはずなのだが――
勇者の仲間の男性は、どうやらかなりの実力者だったらしく『橘 真希(たちばな まき)』さん以外の二人を手玉に取っている状況で――
しかも俺も知らなかったことだが――勇者の小鳥遊さんが『勇者の装備』を装着していて、それに呼応する形で『勇者の小鳥遊 愛里紗』が「勇者の槍」を所持しているというのに――勇者はその力を使いこなしていなかったのだ。
俺が「あれって勇者なのか?」と首を傾げながらそんなことを思っていると――
いつの間にか俺の傍に寄ってきていた『聖女』の小鳥遊さんが声を掛けてきたのである。
「真司君」
俺は彼女の方へと振り返ると、「はい」と返事をした。で、彼女は俺のことを真っ直ぐに見つめながら「今から私と一緒に『勇者』を倒しにいこう」と言い出したのである。それを聞いて――
「あはは、勇者様と『勇者』を混同させちゃダメですよ」
そう口にしたのだけど、しかし小鳥遊さんは全く引くつもりはないようだ。
「違う。だって彼は――」
そこまで言いかけた時――俺と小鳥遊さんの前に一人の少女が立ち塞がってきた。そうして――
『聖女の勇者』が俺に向けてこんな言葉を口にしたのであった。
「やあやあいらっしゃい、そしてさようなら――って感じかな?」
勇者はニヤリと笑みをこぼした。
「やばいな」俺は勇者の言葉を耳に入れてそう思った。というのも『魔王軍』の『魔将ベルゼブブ』を倒した後で俺はレベルアップしているし、それに勇者から譲り受けた「聖槍デュランダル」もあるのだから『勇者』相手とはいえ遅れを取るようなことはないと思うんだけどさ――
問題は勇者の側に『魔王軍四天王の一人』が居るというところだ。
つまり俺は今から魔王の『四天王』を相手にしなければならないのである。それも、たった一人でだ。
俺は勇者の方を見ると「ちょっと待っててくれないか?」と言ってみたのである。
そうすると勇者の側に控えている魔法使いの男性が「お前の望み通りにしろ」と口を挟んできた。なので勇者は俺に対して笑顔を見せると「了解」と答えたのである。そこで俺に近づいてきてきた勇者は――
俺の手を取り、その手の甲に唇を押し当ててから言葉を続けていく。
「それじゃ行こうか」
そして彼女は、俺を連れて移動を開始しようとしたのである。しかしそれを阻止せんとばかりに俺と勇者の前に現れてきた者達がいた。それは『魔王の幹部』であり、『四天王』の一人である『元』日本に住むという『魔人族』の男と、そして『魔人族』の男が召喚してきた『魔王軍』の兵士達だ。その数にして数十人は下らないほどの数になるだろうか。俺は「はぁ」と溜め息を吐き出すと、手に持っていた「聖剣」に魔力を込めることにした。すると聖剣は眩く光輝き始めたので――
そのまま聖剣を横薙ぎに一閃してみたのである。すると聖剣が通った道は一瞬だけ光が灯ったのだけど――その直後、聖剣から凄まじい衝撃波が発生し、その波動が光の刃となって『魔王軍』の兵に襲いかかったのだ。そして『聖剣』から放たれた斬撃の衝撃が襲い掛かった『魔王軍』の兵士達は吹き飛ばされてしまったのである。その結果、俺と勇者の周囲は一気に綺麗に整理されてしまった。そんな様子を目の当たりにしていた魔法使いの男は呆然としていて言葉を発することすら出来ていない状態になっていたのだ。そして――
俺はその魔法使いの男から視線を外すと、目の前で俺に微笑んでいる美少女の姿を視界に収めることにした。その美少女こそ、魔王の側近として暗躍をしていた存在であり――魔王に最も近しい存在であるはずの勇者本人だったのである。俺は彼女に向かって言うことにした。
「あー、その――えっと、本当に、貴方なんですよね?その見た目は――でも――」
「うん。そうだよ」と彼女は嬉しそうな笑みを見せてから、こう言葉を続けてきたのだ。
「この姿になったのは『魔王討伐の旅』に出掛けた頃だよ」
勇者は自分の容姿が変わった理由についての説明を始めると、こう話を続ける。
「私が『魔道具』で自分の姿を変えたんだ。その当時はね、今の私の容姿とは違ったんだ。でもね――『魔道具』が発動した時の私には、その魔道具の力に抵抗することができなかったんだよ。『魔封じの石』の影響もあって、ね。で、その石に封じ込められていた『魔王』が解放されて、そいつから『魔王の力』を受け取っちゃったんだよ。だから――私の姿は変わっちゃったんだよ」
彼女は俺に「これがその時の私の姿なんだ」と言ってみせた。
その勇者は背丈が150cm程しかなくて、顔立ちも子供のような印象を受けた。髪の毛の色も銀色になっていて――正直言って幼くなった印象が強かったのだけど――でもそんな風に見えたとしても彼女の身体からは途轍もない力が感じられるし、俺に分かるのはそれくらいである。なので俺は目の前に立つ勇者に向かって言った。
「それで俺の所にやって来たんですか?俺の持つ『回復スキル』目当てですか?」
すると勇者は俺のことを真っ直ぐに見据えながら笑った。
「うん。そういうことだね。『魔王の器』の君がいれば『聖女』である愛里紗が居なくても問題は無いんだ」
彼女は笑った後に「ただ――愛理紗がね」と口にする。
その『勇者の小鳥遊 愛里紗(ことり ゆうしゃのことり ありさと)』はというと、既に勇者の仲間の男性と共に俺の敵と戦っていた。そして彼等は勇者と魔法使いの男の援護もあり、俺の敵を一方的に蹂躙していたのである。ただ彼等の表情が険しいのは――勇者の仲間が『元』勇者であることに起因しているようだ。
彼等の会話がここまで届いてくる。俺は意識を集中して彼等の声に耳を傾けることにする。そうすることで俺に聞こえて来たのはこんな感じの話だった。
「勇者の力は使わないのか?」
勇者の仲間は、勇者に向かってこんなことを口にしているようだった。勇者はというと「今は必要ないかな」と言っているみたいである。すると俺と対峙することになった魔法使いの男性はというと、勇者に向かって不満を口にし始めるのであった。
「それじゃ『聖女』がいなくて良いんじゃないか?それに、その力があれば魔王なんて倒せるだろ?どうして使おうとしない?いや、そもそも『魔王の器』だっけ?それなら魔王の力は扱えるんじゃないのか?」
彼の質問を聞いた勇者は、少し考えた素振りを見せた。で、そのあとで――
「私は魔王を倒せないよ。愛里紗と一緒に戦って初めて勝てるかどうかってとこじゃないかな」
「いやいや!魔王を倒すために召喚されたんだろ!?なのに何言ってんだよ!」
彼は勇者にそう言い返したのだが、その勇者からの返答は、魔法使いの男性が予想もしていないようなものだったのである。
「違う。魔王を倒したら愛里紗との時間が無くなってしまうかもしれないでしょ?」
勇者の言葉を聞いて俺は首を傾げてしまう。「どういう意味なんだろう?」と俺なりに解釈をしようとしたのだけど、どうにも上手く出来ないでいた。すると魔法使いの男性が――
「魔王を放置しておくと危険だと思うけど?」
そんな感じの言葉を口にしたのである。すると勇者はクスッと笑ってからこんなことを言った。
「だから大丈夫だってば。そんなに気になるんだったら――貴方達が守ってくれたらいいじゃん」
「あー、そういうことか。確かに、俺達の出番か」
「ああ、そうだな。任せといてくれ。それに――もう『聖剣』を持っているお前達がいるのなら、『聖女』だって要らないかもな」
そう口にした彼等に、勇者はこう答えたのである。
「そうかなぁ。『魔王』を倒さない限り――また同じことを繰り返すだけだと思うけどね。それに『魔王』が復活しなくなったって、この世界には『魔物』が存在しているわけだし。『魔物』を根絶やしにすることが出来たら、それはそれでも構わないんだけどさ」
「ま、それもそうか」
そう言葉を口にした勇者達は俺の方へと向き直ると――戦闘を開始した。その戦いの中で俺は勇者と一対一の対戦をする流れになったのである。そして俺は聖剣を手にして、勇者との一騎打ちを開始することになった。その瞬間――
俺は目の前に立っている勇者が「別人」になっていることに気がついていた。その理由というのが『聖剣』を所持していたからだ。俺は勇者から聖剣を奪うような真似をした覚えはないし、だからこれは俺の知っている勇者ではなくなっているということなのだろうか? ただ目の前に居る人物は俺の良く知る勇者ではなく――勇者に似た何か別の人間だということだけは分かったのである。で、「その正体は?」と考えてみた時、すぐにある仮説が思い浮かんできた。そしてそれが正解だと言うように俺は口を開いた。
まず確認をしておきたいのが、勇者の『魔剣デュランダル』だ。あの聖剣と魔王の『聖槍デュランダル』は同じ「魔王の武器」である。その二振りの聖槍が存在するということは『魔王』の復活を意味しており、だからこそ『魔人族』は魔王の復活に備えていたのだ。だが勇者の持つデュランダルに関しては俺の知らない事実があった。『魔王の器』の勇者が所持していることでデュランダルは本来の姿を取り戻した――と。それは何故かというと――『魔人族』が勇者に『聖剣』を与えたからであろう。そうすることで本来の姿を取り戻すことになるから。
「なるほどね」と俺は呟いてから――聖剣を構えなおす。そして俺は「ふぅ」と小さく息を吐き出してから目の前の『勇者の成り果てたモノ』を睨みつけたのだ。すると彼女は嬉しそうな笑みを見せてきてから、こう言葉を返してきたのである。
「ようやくやる気になってくれたね。私に勝って『魔王の器』を受け継いでね」
彼女はそう口にすると聖剣を振り上げてきた。俺の『魔剣』と『聖剣』が激突すると激しい金属音が周囲に鳴り響いた。そして俺の身体に強烈な衝撃が走ったのだ。俺は歯を食い縛りながら衝撃に耐えたのだけど――『魔剣』を通して俺に伝わってきた情報は凄まじいものでもあった。俺が『勇者のステータス画面』を確認した時には分からなかったのだが――彼女の強さとでもいうべきものが数値化され、そして表示されることになったのだ。
彼女のレベルは「100」になっていたのである。
つまり――彼女の本当の実力は『魔王』に匹敵する力を持っていたということになる。しかし、それだけで彼女がここまでの強さを手に入れることが出来るのかと疑問を抱いた俺がいた。そんな考え事をしていたのが原因となったのだろう。勇者の攻撃がまともに命中してしまう。俺は後方に向かって吹き飛ばされた。その結果、背中から壁に衝突することになる。俺は苦悶の表情を浮かべながらも「なんとか」意識を保つ。そして目の前を見つめて、改めて思ったのだ。
「やっぱり強いよ。貴方の本気は――」
俺は壁から背を話すと体勢を整えてから再び勇者の方に目を向けた。
勇者の姿を見ると彼女は聖剣に視線を向けていて、そして彼女はその聖剣に向かって手を伸ばそうとしていたのであった。まるで「吸い込まれるようにして」と言ったほうが分かりやすいだろうか。そして次の瞬間――勇者は『聖剣』を掴んだのである。しかも――
「えっ?ちょっと、嘘、待って!」
俺が目にしたのは驚愕の光景であった。
彼女は慌てるような声を出すのだけど――俺はその時に見たものが信じられなかった。何故ならば勇者の手元に引き寄せられていたはずのデュランダルが彼女の手の中にあったからだ。そしてその光景を目の当たりにして俺は「あっ」と短く声を出してしまったのである。すると勇者はそれを察したのか俺に向かってこんなことを伝えてきた。
「『聖剣の使い方』について説明した方がいい?」
「ううん、いい。もう理解したから」
俺は首を横に振った後に、こんなことを思っていた。「やはり俺が考えていたことは正しかった」と。そして同時にこうも思ったのである。『聖剣』とは所有者に絶大なる力を与え、それを自在に操ることが出来ればどんな強者であろうと倒すことができる――と。そう考えるだけで「俺も使えるようになるのなら欲しい」と思うくらいだ。だが、そんなことを考えるのは止めておくことにする。そんな力があれば、それはそれで問題が生じてくると思ったから。
『勇者の力を悪用するような人間が現れないとも限らないのだから。いや、むしろ簡単に扱えてしまうのであれば、それは脅威となり得る可能性すらある』
と。
俺は目の前の勇者の姿をもう一度見やる。そして思う。彼女は自分の身体が既に『勇者の肉体』ではないと自覚していないのではないかと。いや――おそらくそうなのだろう。勇者の魂が勇者の肉の中に収まっているだけだと考えているようだ。ただそれでも俺は確認したいことがあったので彼女に尋ねた。「どうして勇者としての力を使って戦わないのか?」と。すると勇者はその理由について答えてくれた。
「貴方が言った通り、私は魔王を倒しても元の世界に戻れないのだから」
勇者の言葉を聞いてから、俺は納得するしかなかった。彼女にとってはこの世界で生きていく方が大切だったのだ。そして、この世界を守るために戦うことを決めたのだ。
「だから私は貴方と勝負して勝つつもりなんだ」
「そういうことか。じゃあ、遠慮はいらないんだね?」
「もちろん。私の全力をぶつけるから」
「そっか。じゃあ――本気で戦わせてもらうね」
勇者の言葉に答えると、俺は意識を集中して『勇者』の姿を見た。
勇者は俺の構えに少しだけ驚いたようではあったけど、その反応はすぐに微笑に変わる。
俺達二人はしばらく沈黙を保った。そして俺が「いくよ」という言葉を発した後、先に攻撃を仕掛けたのは俺の方だ。聖剣の力を使うためにもまずは相手の能力を知る必要があったから、攻撃を行うと同時に、俺は「鑑定眼」を発動させる。そして勇者の「勇者のステータス」を確認しようとしたわけなのだけど――残念なことに『魔剣』に備わっていた特殊能力のせいで上手く発動しなかった。どうやら聖剣と魔王の武器である『魔剣』には特別な力が備わっているようである。そんなわけで俺の能力は上手く使えなかったので――今度は『魔王の加護』を使用して勇者に攻撃を仕掛けた。
聖属性の攻撃を勇者にぶつけると――彼女の纏っていた『光魔法障壁』が消滅するのが見えた。そのお陰もあってか勇者に直撃することこそ無かったのだが、勇者は地面に転がされる。
『これで勇者の『勇者補正』による身体能力上昇分については相殺出来たか?』
俺はそんなことを思いつつ地面を蹴り飛ばすと、倒れている勇者の元へと向かう。するとすぐに勇者は立ち上がり『聖剣』を握りしめながら俺に向かってきた。俺の予想に反して――『聖槍』を使ったりしないのだ。まあ、あれだけの力が発揮できれば『聖槍』を使わなくても勝てると判断したのかもしれないが、俺は油断をせずに勇者の攻撃を防いでいく。
聖槍デュランダルを手にした状態での一撃は非常に強力ではあったけど――俺はそれを回避して勇者の背後に回ると聖剣を斬り付ける。だが、それは聖剣で受け止められてしまい。俺達の武器は再びぶつかり合う。その反動によって互いの動きが止まり、一瞬の静寂が生まれた。その瞬間に俺は目の前にいる相手を見て「この子を倒すには聖剣を奪い取って、そして破壊する必要がある」と理解したのである。しかし、そんな隙が勇者にあるはずもなかった。だから俺は勇者に対して『魔剣』を振り下ろすと彼女は『聖剣』で受け止めてきた。
俺達はしばらくの間は互いに武器を押し込もうとするのだけど、中々決着がつくような状況にはならずにいた。だから――『勇者補正』に『聖女』の『聖癒魔法』の二つを同時に使用出来る状態を維持する必要があるなと考えた俺は『回復』と『浄化』を交互に使い始めた。その結果――
俺の傷が癒され、そして逆に体力を回復することに成功する。しかし――勇者も同じ事を考えていたらしく『魔剣』を受け止めた直後に、俺に向かって『治癒』と『解毒』を行ってきたのである。その結果、お互いの回復量が増加してしまったのだ。
ただ――それだけならば、お互いに何も気にすることはなかったはずだ。だが、そこで予想外の出来事が起きることになる。それは――勇者の『聖剣』の能力の一つでもあるのだと思う。それが何であるかは分からないが、それは俺にとって非常に不味いことであったのだ。何故ならば俺の体内に入った聖剣が「魔素を取り込んでしまったのである。その結果、俺の身体に変化が訪れる。
「これはまずいな」と思いつつも勇者の攻撃を受け止めるしかない。そして俺自身も『勇者の聖剣』の影響を受けているようで、徐々に身体の自由を奪われつつあったのだ。だが、「このまま終わる気はない」とばかりに、俺は全身に力を込めたのである。そして俺は勇者の聖剣を思い切り振り払った。すると聖剣を握っていた勇者の腕が宙に舞い上がる。
「えっ?ちょっと!うそ、腕が!?待って!」
俺の攻撃によって腕を切断されてしまった勇者は慌てて後退しようとしたのだ。しかし――既に遅い。
勇者は足下がおぼつかない状態であった。だから――
「悪いな。俺はまだ負けたつもりは無いんだ」
そう言葉を口にすると、俺は勇者にとどめの『聖撃』を叩き込んだのである。俺の攻撃は勇者に命中したが、勇者はそれでも倒されずに「くっ、負けちゃうか」と呟いてその場に倒れる。そんな彼女の身体からは光の粒のようなものが立ち上ぼり始めていた。そんな彼女の元に近づくと――
「ごめんなさい。私に勝った人が現れた時は貴方に託してってお願いされてたのに、負けるなんて」
「そうみたいだね。でも安心して。貴方の意思を継ぐことにするからさ」
俺の言葉を聞くと勇者の瞳に涙を浮かべてから彼女は静かに笑う。それから勇者の表情が変わると、俺の目を見つめてから「頑張って」と一言。そして、その直後から勇者の姿が光に包まれて、やがて消滅したのである。俺の手の中には一本の美しい装飾が施された短剣が存在していた。それを確認してから俺は小さく息をつく。とりあえずこれで勇者との一件に関しては終わったと言えるだろう。
聖女の加護を持つ王女の身体が光の粒子に変わっていき、俺の持つ聖剣の中に入っていく光景を見ていた俺は「うむぅ」と小さくうなり声を上げていた。聖女の力は勇者よりも強いとは聞いていたが、実際にその光景を目の当たりにしてしまうと驚くしかないという気持ちがあったからである。そして聖女が「聖女としての使命を果たすことが出来た」と喜んでいる姿を眺めた後、今度は俺が勇者として認められた。いや、俺の場合は認めさせられたと言うべきか。とにかく勇者として認められる儀式が行われたのである。そして聖剣デュランダルの能力を確認していると「この剣があれば勇者でなくても世界を守れるかも」と思うことになった。
というのも聖剣デュランダルの能力は凄まじいものであり「あらゆるものを斬り裂ける」と書かれていたからだ。聖属性の力で強化されていた俺の攻撃力を遥かに上回る攻撃力を持っているように思えたのである。
聖女は『聖剣』の力を使って戦えるようになりたかったのか、聖剣デュランダルに吸い込まれて消えた。勇者の方は俺に「後は任せたよ」と言って消えていった。だから俺は二人の望み通りに戦っていこうと決意したのだ。ただ――俺が持っているスキルの中で「一番強い」と思えるのは「鑑定眼」であったから、まずは「鑑定眼」の力を高めていくことにした。すると俺は新しい称号を手に入れることになって、新たな能力を得ることが出来た。
俺の目の前に現れたのは――『異世界の魔王』と書かれたプレートと『異世界の大魔王』と書かれているプレートの二つだ。そして次のページは空白のままとなっているのだが、そこには俺が新たに獲得した能力が書いてあるようだ。俺は早速「鑑定眼」の力を使ってみることに。
すると――俺が「鑑定眼」の力を試そうとしたところで、先程と同じように突然プレートが出現すると勝手に俺の前に移動してきた。どうやら俺が能力を確認したいと思っていたことが「鑑定眼」の力に伝わり、その結果プレートが出現したようである。しかも「鑑定眼」で「大魔王」と表示されたものには「大魔王」に関する詳しい情報が分かるようになっていたので便利になったと思ったものだ。ただ――
「大魔王」については色々と分かったものの「大賢者」についての記載が無かったことから「どうやら『大魔王』は大賢者ではないらしい」ということを俺は理解することになった。つまり俺の師匠にあたる存在が大魔王と呼ばれる存在である可能性が高くなってきたわけである。
大魔王の称号は色々と特殊な力を有しているのは確かだった。ただ大勇者については特に何かしらの情報を得られるようなことはなかった。そもそも大勇者についての情報が無いのだから仕方ないけどね。それと俺が手に入れたのが大魔導師と大勇者であることを考えると、俺自身がそのどちらかになれるのだろうかと考えると疑問しか浮かばなかったのである。
『まあ――今の状況だと無理か』
現時点では「大勇者」の実力があるのかどうかすら分からない状況だったから、もし「鑑定眼」に何か変化が起きなければ、俺は大魔王になることは出来ないということなのだろうと、そこで納得したのである。まあ、俺が「鑑定眼」をどれだけ使えるかによって、これから先に起こるかもしれない出来事に対してどう対応すれば良いのかが決まるといっても過言ではないだろう。
だから俺はこの日を境に『大勇者』を目指すようになったのである。そしてこの日から「鑑定」と「魔眼」の能力を使うようになるのだけど、それはもう少し先の話であり――『俺にもっと時間があって欲しい』と切実に願ったのも事実である。
◆ 私は王女として育てられている間は常に「勇者様に相応しい女性になれ」と、その一点ばかりを周囲から求められてきました。勇者のパートナーである『聖女』の務めが大変であるというのは知っていましたが、それ故に私が勇者様と結ばれるような関係になりたいと思っておりました。それに勇者様なら、きっと私の想いを受け入れてくれるはずですし、そうなれば『勇者のパーティー』のメンバーだって私を中心に集まってきてくれますから。しかし――そんな日々はもうすぐ終わってしまうのです。なぜなら今日、ついにこの世界には『魔王』が出現してしまい、そして勇者様は魔王討伐に向かうことになり、この国から居なくなってしまうでしょうから。
そんな不安を抱えていた時に、この国の王が「勇者殿がお帰りに」と告げてきたことで「遂にその時が来てしまったのですね」と思わず涙を流してしまいそうになりました。でも――まだ終わりではありません。むしろ始まりに過ぎないとも言えるのでしょうか。何故ならば勇者様と一緒に旅をしたメンバーは全員『勇者の聖剣』の中に入ることになったのですから。これは素晴らしいことだと素直に感じたのです。だから『私』という個人は残ってしまっていても『勇者』は残るので大丈夫だろうと考えていました。しかし、現実は違ったようです。
勇者様に倒された『大魔王』の亡骸を『浄化』したことで、勇者様の中からは『聖剣』と『聖槍』だけが残り、そして他の方々はその中に吸収されるように入ってしまったので、残されたのは勇者様だけになってしまったのでした。その結果――勇者である筈の少年は『勇者では無くなって』しまい、その力の大半を失うことになるのである。
だが、それでも諦めない者が居たのは、彼が『勇者の剣』を手にしていたからである。だが『勇者』である彼に残された力は少ない。そこで少女は『聖女』の力で勇者をサポートすることを思いつくことになる。『回復』と『解毒』が使える聖剣の持ち主は貴重であると考えたからだ。
こうして少女は「勇者と共に戦いたい」と、そう願い続けたのである。
俺達の前に現れた勇者と名乗る少年と聖女のやり取りを見ていて「ふーん」と呟いた俺だったが――その後、何故か俺の視線は『勇者』に向けられたまま固定されてしまうのであった。というのも――『聖女の勇者』と名乗った彼は金髪碧眼の女性を連れている。ただ、連れられている方は――どこか気品を感じさせる佇まいを見せているのだ。
(何というか、こうなるんじゃないかと予想してたことが現実に起きちゃったな)
俺は心の中で苦笑してしまう。というのもこれこそが俺の望んだ展開でもあったからである。だからこそ俺は「よし」と呟いて気持ちを引き締めることにしたのだ。そんなことを考えていると、いつの間にか二人の元まで辿り着いていたのである。そして聖剣デュランダルを構えると――俺と向かい合うように立っている彼の顔をジッと見つめてみた。するとその顔を見た瞬間――
俺は自分の身体が硬直しそうになってしまう。
「嘘だろ?」と内心では思っていたのであるが、すぐに『勇者の顔は変わっていない。勇者の聖剣から現れた女性が『大魔王』を倒したのだから、勇者と『聖女』は共に居るのが正しいのかもしれない』と結論を出した。だから「まさか俺の前に再び現れようとはね」という思いを抱きつつ、彼に話しかけることにする。
「勇者さんよ、俺に用事があるってことは――『大魔王』に負けたことを認めるというわけかい?でも俺は貴方を責めたりするつもりは無いんだけど」
俺は勇者に対し挑発するように言うと、聖剣デュランダルに意識を集中させて聖属性の力を集めていくことにした。俺の魔力が徐々に光へと変化していくのを感じた勇者は少し驚いた表情を浮かべると――、
「おいおい、待ってくれ。俺は別に君と戦いに来たんじゃないぞ」と言って両手を上げてくる。そんな彼を見ていた俺の頭に――『本当に戦う意思がない?』という言葉が浮かんできたのだ。その考えを頭から追い出した俺は「俺の目の前に聖剣を持って現れたのに、その口ぶりじゃまるで俺に会いたくなかったみたいじゃないか」と言ってやる。
すると俺の言葉を聞いた勇者は「えっとだなぁ」と困ったように頭を掻くと――聖女に目を向けてから「俺達はこれから旅に出るつもりだ」と口にする。
俺は「ほぉ」と声を上げて、勇者に質問することにした。
「どうして俺達の目の前に現れたんだ?」
俺の問いかけを受けた勇者はすぐに返事をする。
「ああ、それは聖剣の力さ。どうやら俺の意思とは無関係に、俺の傍に現れるみたいなんだよ」
俺にそう説明すると――勇者は自分の腰に装着されている聖剣にチラリと目を向ける。すると――勇者の聖剣から光の玉のような物体が出現したと思うと――それが人の姿に変化していく。
俺は目の前で起こった現象を目の当たりにしていたのだけど――それよりも俺の目は自然と勇者の持つ『聖剣』へと引き寄せられるのである。すると『勇者が持つ聖剣からは何か不思議な気配がしている』と感じたのだ。
(あの勇者が持っていた『勇者の剣』も相当な物だったよな?)
俺はそんなことを考えながら勇者の話を聞く。ただ――俺の視線は相変わらず勇者が身に付けている聖剣に向けられており――そこから視線を逸らすことが出来なくなっていたのだ。俺は『勇者の持ち物に吸い寄せられてしまう』と、そのことについて説明しようとしたのだけど――上手く話すことが出来なかったのである。そんな時だ。
俺の目に飛び込んできたのは、もう一人の『大魔王(と思われる人物)』であった。
「うっ」と思わず言葉に詰まってしまう。なぜならば『彼女』はあまりにも美しい容姿をしていたのである。
金色の長い髪を持つ『絶世の美女』と表現するのが最も正しいのだろうか。
ただ、俺は彼女を前にしても不思議と警戒心というものを抱かなかった。何故ならば『勇者の側に控えていた彼女は間違いなく高貴な存在だ』と思ったからである。それに加えて『聖女』の『力』を感じ取ることが出来たことからも――『彼女もまた勇者の聖剣が作り出した存在なのだ』ということは理解できてしまったのだ。
そして、彼女の美しさは外見だけのものではないことも理解できる。それは――彼女の瞳には深い『知慧』が込められていることが感じられたからである。それに加え、彼女の立ち振る舞いからも知性を感じることが出来たので――彼女が「大賢者」と呼ばれるような存在であると、俺の本能は訴えかけてくるのであった。しかし『賢者』と呼ばれる存在であるにも関わらず――俺に『大魔王』と呼ばれることになってしまった存在であることに間違いはなかったようだ。何故ならば俺に話しかけてきた際に「私は賢者の――」と言いかけた後に「あ~やっぱり大魔王の方がいいよね」と言ったのだから。
ただ、見た目通りの『年若い少女』にしか見えなかった。しかし、それは当然のことだと、そこで気づく。なぜなら『聖剣に宿っていた精霊』であるのだから『人間とは時間の感じ方が違っている』はずであり――見た目通りの年齢でない可能性は極めて高いと言える。それこそ俺の想像を超えた年齢かもしれないし、逆に『俺より幼くて、この世界で言えばまだ生まれて間もないような』子供という可能性も否定できない。
まあいい、どちらにせよ今はそんな些細なことを気にするような場面ではないのである。そんなことを考えているうちに『鑑定眼』を発動させた俺であったが――『大魔王』の名前を知ることは出来なかったのである。これは恐らくだが、名前を隠しているというわけではないだろう。もしそうであれば既に俺には正体がばれているはずであるからだ。つまり『鑑定眼』が通用しない相手というのは、少なくとも『勇者』よりも上位の存在だということが分かり――正直ゾクッとする思いを抱く。しかし、それでも俺は――目の前に立つ女性を見据えると、「俺は君の名を知りたいと思っている」と告げたのである。そんな俺の言葉に対して女性は微笑むと「私の名は――『メイ=レイアス=ハーレクイン』と申します。お好きな呼び方で結構ですよ」と言ってきた。俺は女性の言葉を聞いて、一瞬『この子、もしかすると俺の知っている歴史上の人物なんじゃないか?』と考えたけど、残念なことに心当たりは無かった。
俺と大魔王を名乗る金髪碧眼の女性はお互いの顔をジッと見合うと――無言のまま対峙し続けることになる。すると俺の耳に『聖女の囁き』が聞こえてきたので確認してみることにする。すると彼女は――「メイ様に見惚れるのは良いのですけれど、あまり時間は残されていないと思いますよ」と口にしたのだ。俺は『何で俺がそんな風に見られなきゃならないんだ?』と思いつつ、勇者達を見ると勇者と目が合った瞬間「うげぇ」という声が自然と漏れてしまう。
その理由はもちろん、勇者の身体から『凄まじい殺気』が溢れ出していたからである。だが――俺はその殺気を目にしたと同時に――勇者から感じられる『違和感のようなもの』について、ある推測を立て始めていた。そして――
勇者の殺気によって大魔王が怯えるような仕草を見せていたが、すぐに立ち直ってみせたため――そこで俺は確信する。
(こいつら――俺を殺す気が無いのか?いや、殺す気なら俺達の前に現れた時に、問答無用で殺しにかかっていた筈。なのに、俺達が会話を交わせるくらいの時間を与えてやれる余裕があるということは、俺達に何らかの『取引』を提案しようとしているのか?)
俺は目の前に立つ勇者と聖女の様子を観察する。
(ただ、俺の考えが正しかったとして、一体何を求めているんだ?)
そんな疑問が浮かび上がった。
(まさか勇者様、聖女と一緒になりたいという願望があって、俺の『聖剣スキルを奪い取りたい』と願ったりしてないよな)
なんて冗談を心の中で思ったのである。そんな考えを抱いた直後、目の前に立つ二人の姿から『勇者の剣から現れる女性の事を思い起こしてしまったのだ。だからこそ俺は『もしもそうなのだった場合』のことを思って――心の中に焦りが生まれた。そして同時に――勇者と聖女の思惑を看破してやろうと、俺は思考回路を全力回転させてみたのだけど――どう考えてみても答えが見つからない。
なので、まず最初に俺は勇者に話しかけてみることにした。「勇者さんはどうしてこんなところに?」と、そして次に――、
「ところでさっき、勇者さんの聖剣に居た綺麗なお姉ちゃんはどうなっているんだ?」と訊いてみた。
すると聖女は少し恥ずかしそうにして「ええっと」と言葉を詰まらせると、チラリと勇者の顔に目を向けたのである。すると――「聖女、余計な事は言わなくていいぞ」と聖女に向かって釘を刺したのである。そこで俺は勇者の言葉の意味を理解すると――『この人は、聖女と結ばれたいと考えているのか』ということを直感的に察してしまった。すると途端に、俺は勇者を睨んでしまうのである。俺にそんな態度を取られた勇者は「おや? 君は何をそんなに警戒しているのかな」と言ってくる。そんな彼の表情からは、俺が警戒している理由について一切気づいていない様子だったのだ。だから俺は「勇者、お前に聞きたいことがある」と言ってやったのである。
「なんだよ、いきなりかしこまっちまって」
俺のそんな言葉を聞いた勇者は苦笑すると――「なんだかよく分からねえが、あんたから感じる威圧感っていうのかね。そういうものは、まるで――俺の命を狙う刺客のように感じられちまうな」と言う。俺は勇者の言葉を聞き流しながら『どうしてこいつはこう、いちいち人の神経に触ることを平然と言ってくれるんだよ!』と思ってしまいイラついてしまったのである。なので「それは俺の質問に対する回答にはなっていないだろ」と言い返すと、
「ああそうかもな。悪いが俺は自分の気持ちを隠すのが得意じゃないんだよ」
と勇者が返してくるのであった。
「それで――さっきの話に戻すが、どうしてこの場所に来た?」
そこで、今度はこちらから話を切り出す。すると勇者は俺の目をジーッと見てくると――真剣な口調になって語り出したのである。
「ああそうだな。あんたが『聖剣の所持者(候補者)』だから教えておくよ。聖剣を所持している『聖剣の所持者(候補者)』を、魔族は必ず殺しに来る。そして聖剣を手に入れようと襲ってくるんだ」
「なぜ俺が『聖剣の所持者』だと分かる?」
「そりゃあ分かるだろ。だって、そんな格好をしているのは、その聖剣に選ばれた人間しかいないはずだぜ。それに――俺は見たことがないタイプの武器を装備している。それが聖剣だと分かるのも当然だろう」と答える。そんなやり取りの最中、聖女は俺達の話を聞いていたらしく、何かを考えるような顔になると、「確かに、私も聖剣の所持者は何度か目にしたことがあります。それこそ数えきれないほどに」と、口にしてきた。その言葉で俺は確信してしまう。
やはり『聖剣は人を選び所持することができるアイテム』であると。
ただ『何故俺が選ばれたのか?』という点については未だに不明だけど。
「勇者様が聖剣に選ばれる前――先代の聖剣は『勇者が選定の儀を受けた時』から既に『大魔王を倒す力を有している存在』を選ぶようになっていました。しかし今回は――今までと違っています。それは勇者様のお側にいるメイ様の力によって――今回の『魔王討伐』の難易度は大きく跳ね上がっているからです」
と聖女は告げる。俺は彼女の発した「魔王を簡単に倒せなくなるから」という台詞を聞いて「どういうことだ?」と、思わず呟いていた。だが、そこで勇者が俺に対して――「簡単な事だよ。あんたは今の時点で『魔王』に狙われている可能性が高いというだけのこと。だが魔王にとっては聖剣の力は絶大であり『聖剣を持つ存在』を放置しておく訳にはいかない。そこで魔王は、聖剣の所有者である『聖剣の所持者』を殺そうとするわけだ」
と説明をしてくれる。そこで俺は勇者の言ったことが真実なのかを確かめるべく――
「魔王って、あの魔王の事を言っているのか?」と問い質す。すると――「当然、それ以外のどの『大魔王』のことを指していると思うんだよ。あんた、頭は大丈夫か?」と言いながら首を傾げられた。俺はそんな仕草を見ただけでムカついたのだが――なんとか堪えると、勇者の口から放たれたことを信じた上で質問をする。
「魔王はこの世界を滅ぼそうとしていたりするのかい?」
俺がそう言うと勇者は俺のことを見つめた後で、「当たり前だろうが! 世界を滅ぼしてしまおうと考えていた大魔王が一体どこに居る!」と断言してきたのである。そんな感じで話が進んでいき――勇者と俺との間で情報交換がされていく。その結果として分かったことは――俺達の世界とは違った法則で動いているらしいこの世界のことについて、ある程度理解することが出来た。まず第一段階としては――俺達がこの世界で魔王と呼ばれる『勇者にとって倒すべき大魔王』と、勇者自身が『勇者として認定される』以前に対峙した事があるということだった。ただ――、 勇者が倒したのではないらしい。そもそも、勇者は「大魔王は魔王を操っている」と言っていたのだ。つまり、勇者は大魔王を討伐したのではなく、大魔王と戦わされているのだと口にした。だから勇者は自分の敵が誰であるのかが分からない状態になっているとのこと。勇者自身も自分が戦う相手について詳しいことを知らないようだった。ただ――
勇者は、かつて自分と一緒にいた聖女も『大魔王』に命を奪われていたのだと、悲しげな顔を浮かべつつ語ってくれたのである。
(つまり――勇者が戦った相手というのは、おそらく『メイ=レイアス=ハーレクインという少女』だった筈)
だからこそ――勇者は『メイ=レイアス=ハーレクイン』の魂を持った聖女を欲しがっていたのである。
(いや待て、そう言えば勇者は――『大魔王はメイ=レイアスを殺した』と言っていたけど、メイの肉体が死んでいたかどうかは一言たりとも口にはしていない)
俺はそこまで考えて、嫌な予感を覚えた。なので聖女に目を向けると――
「ええ。勇者様の言葉は事実ですよ。私は実際にその光景を目にしています。聖剣に選ばれてから、私の目で確認する術がありませんでしたので、断言は出来ませんが――間違いなく聖女であった頃の『私』は――一度殺されています」と彼女は語ったのである。
すると俺は『もしかすると俺にも可能性があるのか?』と不安になってしまう。
勇者が口にした通り、もしも本当に『俺』が選ばれてしまっているとしたら、その可能性は非常に高いのかもしれない。なにしろ、この身体は『大魔剣』のスキルを使用できる程なのだから。
(いやいや、そんなまさか)
そんなことを考えてしまう。
だって――もしも『俺が勇者の聖剣に宿ることになるのか』と考え始めたら――恐ろしくなってしまったからだ。
(もしそんな事態にでもなれば――)
俺は勇者に殺されかねない。いや殺されるだけでは済まないのかもしれない。だって勇者は聖女のことを愛している。そしてその愛する女性の中に存在する自分の存在を認めようともしないのならば――俺を殺しにかかる可能性も十分に考えられるからね。だから俺は『絶対にそれだけは避けなければ!』と思ったのだ。
なので、俺の方からも聖女と勇者に提案を行うことにした。
「二人共、俺に少し考えさせてくれ」
そう伝えると、勇者は不思議そうな顔をして「なんのつもりだ?」と尋ねてきた。なので俺は――
「少しばかり状況を整理したい。俺の持っている『異世界の大魔剣』はどう考えてもおかしいんだ。そんな力をこの世界で使える人間は居ない筈だ。それに、そんな『常識外れ』の力が、聖剣とセットで現れたとしよう。そうなれば、必ず『何者かが俺に接触を図ってきたのではないか?』と考えるのは普通じゃないか? しかも、この世界には存在しない技術で作られた聖剣と大魔剣なんだぞ。それを俺が偶然入手したと思わない方がおかしくないか?」
そんな感じに勇者に言い聞かせるように言葉を重ねていく。すると彼は――
「なるほど。確かに、言われてみればあんたの言うとおりだな」と呟くと俺に向かってこう言葉をかけてきたのである。
「いいぜ。あんたのその意見は最もだと思う」
勇者は素直にこちらの意見を受け入れる態度を見せてくれた。
なので、とりあえずホッとする俺だったが、すぐに気合いを入れる。
なぜなら、勇者は続けて――「だけど――その件については、もう遅いぜ」と言ったのである。俺の目の前には『魔王を倒した時に回収した聖剣と大魔剣が安置されている祭壇』が存在していて、その上に置かれた台座の上には俺の聖剣と大魔剣が置かれており、さらには台座の周囲に聖女の結界が張り巡らせられていたのだから。
勇者はその結界を『メイ=レイアスの力を使って解除すると――』俺の方に視線を向けてくる。だから俺も仕方なしに「ああ、これは俺が触っても発動したりはしないようだし、壊せないようになっているんだろう?」と尋ねると、勇者は苦笑しつつ「まあそうだ」と答えてくれる。そして勇者はこちらに背を向けながら言葉を続けてきた。
「それなら話は簡単だ。『聖剣に選ばれた所持者』は――聖剣に選ばれた人間を殺すことで、聖剣を手に入れることが出来る。そして『魔王を打倒する力』を手に入れた人間もまた聖剣を所持していることになる。つまりは――そういうことさ」と、勇者は聖剣を手にした後、鞘から引き抜く。
「俺は聖剣に選ばれた勇者だ」
そんな台詞を勇者は口にしながら――聖剣を高々と掲げた。
「俺は魔王を倒すためにここにいる」
そんな勇者は――大声を上げる。すると、それに応えるように、どこからか雄叫びが響いてきて、大地が激しく揺れた。
「勇者様――」
聖女は不安そうな表情で勇者を見つめると、そのまま彼に近寄っていく。そして勇者の背中に触れようとするが、しかし、勇者はそれを拒絶すると――大声で叫んだのである。
「メイ!」と。
その瞬間――聖女はビクッと身体を震わせると――
「は、はい!」と返事を返す。
それから勇者と聖女の間に緊迫した空気が広がっていったのである。
(勇者のやつ。聖女を本気で怒らせるつもりなんじゃ)
勇者が本心では何を考えているのかなんて分からないけど――少なくとも俺から見れば、聖女に対する態度が酷くなっているような気がしていた。だからこそ勇者の狙いに勘付いた俺は――慌てて動き出した。勇者の視界に入らないようにして。勇者が聖女を殺そうとしたら困るからな。なにしろ『俺は大魔王の所持者である』という事実をまだ誰にも伝えていないから。
「ちょっと待て! 俺の話はまだ終わっていないぞ! 俺は、俺自身の力じゃ魔王を倒すことは出来ない。でも、お前達の協力があれば――あるいは」と叫ぶと、俺は勇者に詰め寄る。「勇者」と彼の名を呼びながら駆け出すと、その勢いのまま、拳を突き出すが、それは避けられてしまった。それでも勇者の身体に手が届く距離にまで近づくことは出来たのだが――そこで俺は勇者の瞳が金色に輝き始めているのを確認した。なので俺は『勇者に殴りかかったことを誤魔化すために』こんな質問をしてみる。「魔王って何なんだよ! そもそも勇者ってのは何の為に存在しているんだよ!」と。すると――
「そんなことも知らんのか! 馬鹿なのか!」
そんな答えが返ってきた。俺は思わずイラっとするが、なんとか我慢した。ここで暴れてしまっては意味が無いのだから。
「勇者ってのはな! 世界を魔王の手から救うために召喚される存在だ!」
そう口にした勇者は――『メイ』と呼んでいた時と同じ口調で聖女に向けて「大丈夫。何も問題はないよ」と言い聞かせるように声をかける。
「はい」と小さく答えると聖女は勇者に身を寄せていく。まるで恋人同士の抱擁のように。
俺はその光景を見ながら――『大魔王と大魔王の配下が倒されるべき魔王なのかどうかについて考える』という作業に意識を集中させるのだった。
『異世界』において魔王と勇者は敵対関係にあるらしい。なので俺としては『もしも魔王に滅ぼされるような世界ならば、いっそ滅びちまえ!』という考えを持っていた。しかし実際にその魔王を倒してみたら、この世界に存在していた勇者の敵が――どうも違う相手なんじゃないかという疑問を覚え始めたのだ。
というのも、聖剣を手にいれて『勇者になったらしいアルバート』に話を聞く限りでは――勇者は『大魔王と呼ばれる存在に命を狙われていた』のだという。
(いや、待ってくれ)
だとすれば、俺が戦った大魔王とやらは、勇者が倒すべき本当の『魔王』ではなかったのだろうか? となれば『俺は本当に勇者が倒すべき相手を倒してしまったのか?』と思い始める俺。だが『そんなことはない』と断言することも出来るだろう。なんせ俺は勇者の目の前にいる『異世界の大魔剣の所有者となったメイ=レイアスを殺せば、その所有権を奪う』ことが可能だと感じているのだから。
その気になれば『勇者の持っている聖剣だって俺のモノにしてしまえる筈』だと考えているからだ。しかし、俺には『勇者がそんな行動に出るとは思えないな』という思いがあった。なにしろ俺は今まさに――聖女を庇おうと必死になって勇者の前に立ち塞がったばかりなのである。
勇者は聖女のことが好きだ。だからこそ、彼女は勇者が俺に対して攻撃を仕掛けることを良しとはしないはずだ。もしも仮に『俺が聖剣の所持者になり得た場合、それを奪おうとするのではないか?』と考えていたら、まず間違いなく聖剣を奪われてしまう可能性が高い。勇者には聖女が居ればいい。俺が大魔王だと言う事実を知った以上、そんな危険な男と一緒に居る必要もなくなる。
そうなれば勇者は聖女を連れて『この場から逃げ出す可能性だってある』と思っていた。
(いやいや、勇者だけじゃない。大魔王に勇者の居場所がバレたら困るだろ? 俺は勇者と違って、異世界の知識なんて殆ど持っていない。だから『この世界のどこかに存在する筈の大魔王の根城』を探し出せるはずもないのだ。そうなったら確実に殺されるだけだ。
だけど聖女を連れ出すことに成功すればどうなる?)
勇者がこの世界で大魔剣を手放してしまったら――当然、大魔剣の力は失われることになるだろう。そうなれば大魔王といえども『大魔剣の力を封じた上で、勇者を殺さなければ』この世界を好き勝手に蹂躙するような真似は不可能となる筈である。
そして俺と聖女の二人に勝てるほどの戦力があるとすれば――
「まさか――」
そこまで考えた所で俺は――勇者の背後に立っている女性に目が留まる。彼女こそが大魔王なのではないかと俺は気付いたのである。なにしろ彼女の外見は他の人間と比べても飛び抜けて美しいからね。そんな彼女が、大魔王の容姿に似ている。だから間違いないと思う。
(それなら俺はどうするべきなのだろうか? 俺の正体を明かすべきか、それとも――黙っていた方がいいのか)
俺はそんなことを考えると――とりあえずは『今は様子見に徹することにしたのである。
「あんたに一つ確認したい」
俺は勇者に向かってこう言葉を紡いだ。「なんだよ」と返答してくる勇者。
なので俺は、自分の中に残っていた疑問を口にする。
「魔王を倒したのはいいが、これからどうやって生活していこう」と、そう告げたのである。勇者は『何を言ってんだこいつは?』といった表情になると、こう言葉を重ねてきた。
「そりゃあ冒険を続けるしか無いんじゃないか?」と。その答えを聞いて『まあそりゃそうだ』と俺が内心で納得した直後――「いや」と勇者は否定の言葉を返してきたのである。「あんたには、その必要はない」と言ってきたのである。そして「俺は魔王を退治したんだ。そしてその力を受け継いだのだから」と続けて、こちらの反応を確認するような態度を見せてきた。
「どういう意味だよ?」と俺が問いかけると、
「簡単な話だ」と勇者は言ってくる。「あんたが勇者の力を使う限り、魔王軍が現れることは無い」
勇者は自信満々な表情でこちらの顔を見てくる。
俺は「ああ、確かにそれはありがたいけどさ」と言葉を返した。
それから少し迷ったが、俺は勇者が口にしていた提案を受け入れることにした。なにしろ勇者に『魔王を打倒できる力』が継承されていたとしたなら、俺にとってはかなり都合の良い展開になると考えたからである。
(それにしても『大魔王の肉体を持つ大魔剣』を手に入れた後でよかった)
もしも『大魔王を討伐した後なら大魔王に成り代わって勇者に倒されてしまうところだったと俺は思ったのだ。もし大魔王のままであったなら、俺は勇者の『力を継承する権利を手に入れる』ことが出来ないのである。そうなってしまうと、この世界に勇者としてやって来たとしても、その能力を行使することは出来ないのだから。なので勇者と接触する前に聖剣を手に入れることが出来たことは幸運以外の何物でもなかったと俺は考えている。
もしも『魔王の肉を喰らってしまった状態』のまま、この世界に召喚されたら、その時点で俺は勇者に殺されてしまう未来が確定してしまっていた。だからこそ俺は勇者が口にした『魔王を倒すと現れるとされる大義名分を手に入れることが出来るかもしれない手段が存在する』という話に乗ることにするのである。
「分かったよ。それじゃあさ――俺は勇者と行動を共にさせてもらうぜ」
そう言い放つと俺は『ステータスプレート』を操作し、『スキル』欄から『魔王の配下』を消し去ったのであった。それから――「俺はアルバートっていうんだ」と名乗る。すると、聖女の方も「メイです」と名乗った。そんな感じにお互いが自己紹介を終えたところで、俺は勇者に向けて「それで俺が『勇者様』と呼ぶべき相手はどっちか決まったかい」と尋ねてみる。すると勇者は、こちらのことを睨みつけると「あんただ」と言い放った。「でも俺にだって勇者としての役目を果たすという大事な仕事があって――」と言いかけるが――勇者はそれを遮るように口を開いた。
「それは大丈夫」
彼は『メイ』に話しかけるような口調でこう言ったのである。「勇者ってのはな、魔王を倒しても別に問題はねえのさ。なんせ勇者には『次代』を生み出すという大切な役目も担っているからな」俺はそんなことを言い出す勇者を見て――思わず笑ってしまいそうになる。なにしろ今の勇者は『魔王を殺せたのだからもう俺の勝ち!』とでも思っているような顔をしているのだから。そんなことを思いつつ俺は「そいつは何よりだな」と勇者に向けて呟くのであった。
こうして俺は勇者の仲間に加わることになった。だが勇者達は旅を続けながらも色々と準備をしていたようで、特に食料の面では苦労したようである。なにしろ『聖女』と呼ばれている女性が持っていた『無限収納』の鞄が凄いものだったらしくて、そのおかげで食糧の補充に関しては全く問題が無かったのだけれど、それでも常に持ち運び出来る量は限られるわけだ。そうしたこともあって――「俺にも何か仕事をさせて欲しいな」と言い始めた俺。それに対して勇者は「そういえばあんたは魔王を倒したんだよな」と言い出したのだ。「えっと、そうだな」と答えてから「それがどうかしたのか?」と訊ねてみた。
すると勇者はこんな話を始めた。
この世界に勇者は『三人』存在しているのだという。
そのうちの一人が『この勇者』である。
残りの二人は『この勇者が倒した大魔王を崇拝する一派』と『大魔王を倒した勇者と敵対する派閥の魔王』とに分かれているのだという。この二つの勢力は敵対関係にあるのだが『勇者がこの勇者の身体の中に居続ける間は』大義名分を失うことはなく、この世界を好き勝手に暴れ回ることはないだろうというのが現在の状況らしい。
俺は「なるほどねぇ~」」と呟いた。勇者が聖剣の力を使いこなせるようになったのなら、俺にとっては好都合だ。その聖剣の力で魔王が現れないようにしてしまうことも出来るだろう。そう考えた俺。だが――「俺に魔王が復活するように誘導しろってか?」そう考えて俺は苦笑いを浮かべるのである。勇者は『そんなことも出来なくはないだろ?』といった目つきでこちらの目を覗き込んでくるが、残念ながら俺にそんなことは出来ない。なにしろ俺には『大魔王を裏切るような意志は無いのだから』だ。だからこそ「俺は勇者に聖剣を譲ると決めてたから、この先どんなことがあろうとも、勇者には俺の力を使って貰うぜ」と告げる。すると――「お前みたいな奴がいるなんてなぁ」勇者は自分の力に酔いしれるようにしてこう言ったのである。そんな彼を見て俺は思うのだ。もしも勇者が自分の意思に従って動くなら俺としてはありがたいと。俺が望む『異世界転生による世界支配の未来像』とは、勇者が自分の都合でこの世界を動き回ってくれる未来なのだから。
しかし――そうなると勇者は聖剣をどう使うつもりなのだろうか? と、俺は疑問を抱く。聖剣を手にしたことで大魔王が復活することを阻止するのならば分かるが、聖剣を手にしておいて、この世界のどこかに存在する筈の大魔王を探すつもりなのかと思ったのである。
だから勇者に向かって俺は尋ねた。
聖剣をどのように活用するつもりなんだと。
そうしたら勇者は――「魔王の復活を止める」と、はっきりと口にしたのであった。どうやら俺の推測通り、この勇者は大魔王を探し出して倒すのではなく、封印するという手段を選んだようであった。そして俺に対して『大魔王がこの世界で力を取り戻した場合』について説明し始めたのである。この世界で力を取り戻すには『大魔王』を討伐しなくてはならない。だからこそ、まずはその魔王を復活させないようにすることが最優先となるだろうと、そう口にしたのである。「つまり俺に魔王を見つけ出せということだよな?」と確認する俺。
そんなこちらの言葉に勇者は大きく首を縦に振った。そしてこう告げたのである。
「そうだな。だが――」
そして勇者は言葉を繋げた。魔王の配下が魔王の肉体を取り込んだ場合の話をしてくれたのだ。それは、大魔王の力を得た配下達にとってみれば『魔王を復活させることなど朝飯前である』と、そういうことであるらしい。だからこそ魔王の力を手に入れた存在が現れた時、勇者はその存在に『聖剣の力を使うな』と警告する。もしも聖剣を使った場合、大魔王が復活してしまいかねないからだ。だからこそ魔王は見つけ出さなければならないのだと、彼は語ってくれたのである。そうして俺と勇者が今後の方針を確認していると、聖女がこちらに近づいてきて、声をかけて来た。
「これからよろしくお願いしますね!」彼女は笑顔で挨拶してくる。
それに俺は答え――
「ああ、こちらこそ宜しく頼むよ」
そんなふうに言葉を発したのであった。そうして、この世界にやって来た最初の目的を果たしたところで――、
「そうだ」
俺はある事実に気付いてしまった。なので聖剣の所有者に向かって「あのさ」と言ってしまう。「あん?」と返事をする勇者。その表情には不機嫌さが見て取れるのであるが、まあ、そんなことにいちいち構っていてもしょうがないので無視をして言葉を続けた。「勇者には、この聖剣を『魔王』と戦わせる為に使って欲しいんだが――いいかな?」と。すると――勇者は驚いた顔になった後にこう告げてきたのである。
「それは俺も同じことを考えたことがあるんだ」と。だがそれは無理だったと口にする勇者。
「どういうことだ」
俺がそんな風に質問をすると、勇者はこの聖剣の力を使えば『勇者の力を宿したままで魔王を倒すことが出来る』ということを話してきた。魔王の『スキル』を消し去ることが出来てしまうという話であった。それは勇者が持つ大義名分として、これ以上のものは無いと思うのだけど、それでも俺の提案が受け入れられない理由は、勇者が口にした次の言葉で理解することができた。
魔王の『力を受け継ぐこと』によって得られる力では、魔王の持つ『スキル』を奪うことはできないのだと、勇者は語ったのである。
こうして、俺は魔王討伐を諦めることになるのであった。
勇者と共に旅を続けながらも、俺の目的はあくまでも『魔王の配下に魔王を倒させて、その配下の身体に乗り移ってこの世界の支配者になること』であった。だから魔王が復活したりしないよう、勇者の力が有効活用出来るようにしたいと考えて行動していたのである。だが魔王討伐を目指す勇者にとっては、俺の目的こそが受け入れがたいものだったらしく、聖剣を使っての魔王の捜索には協力しないと言い出したのだ。
そうすると、魔王が復活する可能性がある中で勇者が一人で行動し、万が一にも魔王の配下に取り込まれたりした場合には『俺が元の世界に戻ることが出来ない可能性が残ってしまう』。だから、魔王を探さないのであれば勇者と同行し続ける必要はないだろうと考えた俺は、彼に別れを告げて一人旅を始めることにしたのだった。そして――、 俺達は森の中で野営をしていたのだが、俺は夜中、目が覚めた。勇者が見張り番をしており、彼の近くではメイが横になっている。ちなみに聖女の姿は見当たらなくて――おそらく森の中に散歩でもしているんじゃないかという印象を受けた。そこで何気なしに俺は勇者に声をかけてみることにする。「勇者、起きているかい」と。そうしたところ――勇者から「起きてるぜ」という言葉が返ってくる。
「眠れねえのかい」
俺の方から勇者へ、こう語りかけた。
すると彼は「ちょっと違うな」という感じのことを言ってきたのである。
「あんたが眠っていないような気がしてな」
そんな感じのことを勇者は言ってくれた。だが――「どうしてそう思った?」と俺の方が訊ねる。勇者は自分の勘だけで、そう言ったのかと思っていたからだ。だから勇者の口から飛び出したのはこんな台詞であった。勇者が聖剣の力を行使すると、相手の考えが読み取れるのだと、そして俺が眠りについた振りをしていたと分かるのだと、そんなことを口にしたのだ。「それじゃあ俺の心を読んだって訳か」思わず苦笑いを浮かべながら言う俺。それに対して勇者は無言で小さく首を縦に振るだけだった。それで少しの間だけ沈黙の時間が流れたのだが――「そいつを仲間以外には秘密にしているのか」と、今度は俺が口を開くことになった。
そうやって勇者のことについて質問をした。そうしたところ、彼が『大魔王を倒した』という『伝説の英雄』だということを知るに至ったのであった。だからといって俺の勇者に対する態度は変わらないし、むしろ聖剣の力がある分だけ、今までよりも強い信頼を置くようになっているくらいである。
そう考えている俺に対して勇者はこう口にした。「なあ、お前の『回復魔法』について、もう少し詳しく教えてくれないか」
こうして俺は勇者と二人で夜の闇が明けるまで、話し合いを続けていくのであった。
勇者と一緒に行動をするようになって分かったことが幾つかあった。その一つが『俺の回復魔法の効果が他の人間よりも多いのではないか?』ということである。勇者がこの世界で一番だと思っている大魔王は『この世界で最高の力を持っている者』という意味であり、それはすなわち『魔王のステータスをそのまま受け継ぐことで、大魔王になる』ということであったのだ。
つまり大魔王を打倒した場合に勇者が得るものは『自分の持っている全ての力を引き継いだ状態での大魔王』となるのだから――俺からしたら大魔王というのは『自分と同等の力を持つ存在』ということになる。だからこそ、そんな相手を前にして、この勇者と聖剣は一体どのように戦うつもりなのかと、俺は疑問を抱いたのである。
そんな状況下の中で勇者に言われたことが一つ。『大魔王の『回復能力』を奪ってみてくれないか』というもので――「俺がそんな真似をすれば、魔王と全く同じ状態になってしまうぞ」と告げる俺に対して勇者は、俺と大魔王との違いを説明した上でこう口にしたのである。大魔王の能力は俺の知っているものとは違っていて――、 俺には『相手を回復させることしか出来ない回復スキル』と、大魔王には『他者に『呪う』力を付与することが出来る力』とが備わっているのだと説明したのである。だからこそ『魔王の呪いの力を奪い取れ』と言われても俺にはどうすることもできないのだと、勇者はそう説明したのであった。そして続けて――「もし可能ならば大魔王を封印する手伝いをしてくれ」と、そんな言葉を付け加えたのであった。俺は大魔王と戦う気など最初からなかったので、大魔王がどんな『力』を使おうとも関係がないと、そう思うようになった。だから――「任せておいてくれ」と、俺はそう答えたのである。そうして俺と勇者との協力関係が成立した。
しかし、そうなると勇者と二人きりという状況で旅を続ける必要はなくなってきたなと思い――俺は「どこかの町に移動してそこを拠点に活動をすることにしたいんだけど」と、提案することに決めた。そうすると勇者は「そうだな」と口にした後、こちらに視線を向けてから言葉を発して来たのである。
「この町に滞在しようと考えているんだが、どうだい」と、そんなことを言って来たのだ。だから俺はその申し出を受けることにして――翌日からは町の中で活動するようになるのだった。そうやって暫くの間は勇者と二人で町中で過ごす日々を過ごすことになるのである。
ただ――そうやって生活を続けている中で、勇者と聖女との距離感が変化したことには俺も気付いていた。
まずは勇者である。彼は俺が思っていたよりもずっと普通の青年だった。もちろん俺がこれまで会ってきた人達と比べれば圧倒的に格好いいとは思えるのだが、それでも俺が抱いていたイメージほど、特別な存在ではなかったのかもしれないと、そんなことを考えるようになったのだ。そして、勇者と共に行動する聖女についても、俺はそう考えるようになっていた。
彼女はとても美人なのだけど――なんとなく残念な美少女という感じであったのである。そう思って観察をしていると、彼女は結構ドジを踏んでいる場面に遭遇することがあった。そんな彼女はいつものように『勇者と聖剣』を大事そうに抱えていて、そして町の市場を歩いている時、商品を物色している途中で突然立ち止まったかと思うと、次の瞬間、足元に石畳の隙間に足を取られてすっ転んでしまったのである。
勇者と俺と聖女の三人で買い物に出かけていた時の出来事で、勇者は咄嵯の判断で彼女を助ける為に動き、聖剣は聖剣の方も勝手に聖剣の力を発動させて――結果――聖剣は聖剣の使い手の意思とは無関係に力を発揮して、勇者と俺を巻き込んで、地面へと叩きつけるのであった。その結果として聖剣の力によって勇者と俺は意識を失ってしまい――その光景を目の当たりにした周囲の者達から注目を浴びることとなるのである。
聖剣の力を使ったことによって、勇者と俺はしばらくの間は目覚めることはなかった。ただ幸いなことに勇者と聖剣は頑丈であった為、特に問題が生じることはなく数日が経過した後に目を覚ますことになるのだけど――目が覚めてすぐに勇者と聖女はお互いに顔を見合わせて、そして聖女は勇者から顔を逸らした。勇者はというと――何が起きたのかについては理解できている様子で――「気にしなくて良い」とだけ口にすると、それから勇者と俺は、その日のうちに再び出掛けることにする。それから――しばらくした後にまた、聖女が勇者の前ですっ転ぶという出来事が起きる。そうして聖剣の力を制御できていない勇者と聖女は、またしても周囲の人々や店先で商売をしていた店員さんなどから注目を浴びて恥ずかしい思いをすることになるのであった。そしてその後には俺と聖剣と勇者と聖女の四人で、酒場に飲みに行くことになった。そこで聖剣の暴走については「よくあることだ」という話になり、その後は普通に酒を飲み交わす。そうやって時間が経過すると、夜も更けてきたので、そろそろ寝る時間になったかなと思って――聖剣に「お開きにするよ」と告げたところ、俺達に向かって聖剣はこう語りかけてくる。「今日はとても楽しかったです。勇者様が私のことを受け入れてくれたことも嬉しくて――本当に幸せでした」そうして聖剣は勇者の聖剣に抱きついた。
勇者と聖女に迷惑をかけてしまったので「聖剣をこのまま持って行ってもらっても良いからね」と伝えたところ――勇者から思いっきり殴られてしまう。それで俺達はそのまま解散となり、そして俺達はそれぞれの部屋に戻っていった。
次の日、聖剣は「これからは気をつけないといけません」と反省の言葉を勇者と俺に伝えてくれていたのだが――勇者と聖女がお互いの顔をちらりと見ては照れ笑いを浮かべるような場面を目撃してしまうのである。だから聖剣が何かしらの行動を起こして、今回の騒動を引き起こしたような気がした。しかし俺は、それをあえて勇者に確認することはしなかったのであった。なぜなら、そんなことを聞くまでもなく、二人が上手くいきそうな気がしたからだ。そうして二人の関係は更に親密になっていって――、 そして、そんな風に時間は流れて行き、やがて俺と勇者は一緒に旅に出ることになったのである。
それは聖剣に「俺を旅に連れて行ってくれ」と言った時のことであった。俺は大魔王を探すために勇者の旅についていくことを決めていて――それを聞いた勇者の方も、最初は「お前を大魔王の所に送り込むつもりはない」と言っていたのだが――、結局、最後には俺の提案を受け入れることにしてくれたのである。それで俺は、旅の荷物をまとめて出発することにした。その際に、勇者が用意してくれていた『俺が着れるサイズの装備一式』を身に着けることになる。それらは俺が『元いた世界』にあったものと比べて非常に品質が良いように思えたのだけど、「この世界で手に入る素材を使っている」という言葉を信じることにした。勇者にそのことを尋ねるのであれば『大魔王を倒して手に入れたもの』と答えてくれるはずだと想像したからである。
勇者と二人で旅立つことを決めた後は、二人で行動していく中で必要な物資を買い揃えていくこととなる。そして二人で話し合いながら、どのように移動をしていくかを相談していき、ある程度、計画を立て終えたところで俺と勇者は王都を出発するのであった。それからは俺と勇者が協力して道の開拓を行い――そして時には盗賊に襲われたりしながら、少しずつではあるが確実に前に進んでいったのである。
道中、勇者は何度も俺に謝罪の言葉を口にすることがあった。それは大魔王のことや大魔王から奪った力に関してのことであり――そして、それらについて俺が「俺に話したいことがあるなら聞いてもいいよ」と言ってくれた時もあったので――俺と勇者との間で大魔王に関する情報を交換し合うこともあった。勇者は大魔王のことを「この世界で唯一の魔王だと思っていたんだけど――実はそうじゃなかったらしい」と語ると、その正体を教えてくれたのである。それは『大魔人』という存在であり、かつて俺が出会った『異世界からの訪問者』達が召喚される原因を作った存在であり、この世界の魔王と呼ばれる存在と対等以上の力を持つ存在だったのだ。その話を聞いた後、勇者は「どうしてそんな化け物が、大魔王と一緒になって大暴れしているのか」とか「そんな奴をどうやって倒すんだ」みたいなことを俺に質問してきたけど――俺としては「大魔王を倒せばどうにかなると思うよ」と、そう口にするしかなかったのである。そして――勇者の気持ちを理解しつつも俺は『勇者に協力する気がないからこそ大魔王と戦う必要はない』と考えていたのだ。だからこそ俺は大魔王を倒す手伝いをする気はなかった。勇者に「魔王と大魔王の違いは何か知っているか」と聞かれても「俺が持っている大魔王の能力を奪ったから同じことが出来るようになっただけだよね」と、そう答えるだけで――それ以外では勇者の質問に対してまともに回答することはなかったのである。
そんな風にして勇者との日々を過ごすこと数日――俺と勇者が二人で町を移動すると、そこには既に先客の姿があり、俺は思わず息を飲んでしまう。だって――そこにいるのが王女だったのだから――、 勇者と共に町を出発して数日後――俺は町の人達に別れを告げると勇者の案内によって目的地へと向かって進み始めた。勇者の言う目的地とは――彼が大魔人との戦いで命を落とした町である。勇者は、その町で暮らしていた家族の元に墓を作りたいのだと語っていて――俺はその申し出を断ることができなかったのだ。そして勇者は俺を連れて行くことを最後まで反対していたけど、最終的に折れることになってしまったのだった。
そんな訳で俺と勇者とで町に辿り着くと――町には人が住まなくなってかなりの年月が経過していると思われる建物が目立ち、町の中には人気がなかったのである。俺と勇者はそんな町の中を進むと――とある家の前までやって来た。そこは勇者の家で――俺にとっては初めての訪問になるのである。
勇者の家に足を踏み入れた時――家の中にある物はほとんど残されていなかった。家具などもほとんど持ち出されてしまっているようで、室内は空っぽの状態になっている。それでも生活感は感じられるのだ。テーブルの上にはまだ料理をされた状態で皿が残っている食器類があるし、壁に掛けられている服も洗濯されて干されている状態である。それに部屋の片隅にあるベッドの上は綺麗に整頓されていた。まるでつい最近まで誰かが寝泊まりしていたことを思わせる状況になっていて――そして俺は、そこで一人の女の子が暮らしている光景を容易に想像できてしまうのであった。きっと勇者が亡くなってしまえば、この家に帰って来る者はいないと思う。
勇者の家に入ると、俺はまず初めに『大魔人から奪った回復スキル』を使ってみることにした。この世界に来る直前に、勇者から教えてもらった方法を思い出したからだ。そうすると目の前に光の渦が発生して、そこから一人の女性が現れた。それが大魔人であった。
彼女は二十歳ぐらいの外見をしている美しい女性で、黒髪の女性であった。肌の色はとても白くて手足が長い体型をしている。身長は百六十センチメートルあるかないかといった感じで、顔立ちも端正な感じに見えて、目元や口元のパーツは完璧に配置されているように見える。つまり美人な感じであった。そんな彼女が黒いワンピースを着用していて、その衣服の下にはかなり魅力的な肉体を隠していることを、俺は一目見ただけで理解してしまうことになる。ただ――残念なのが胸部が小さすぎるということだ。そうして、とりあえず彼女に向かって自己紹介をしてみたのだが、しかし反応はない。しかし勇者が話しかけると大魔人は笑顔で彼に駆け寄ったのである。
「久しぶりね」
「ああ、そう言えばお前がここに居たのは何日ぶりなんだ?」
勇者と話をしている間に、俺は彼女に視線を向けると『ステータス』を確認してみる。すると彼女の名前や年齢などが判明した。そして勇者との関係についても理解することができた。
勇者と彼女の関係がどうなっているかというと――、 彼女の名前はアリアナと言い、年齢は十七歳で、勇者が生きていた時代には十六歳だったようだ。勇者は彼女が生まれた直後に勇者としての力を発現していて――そして、その力で大魔王と対等に戦えるほどの実力を得ていたのである。だから、そんな彼は『この世界を平和にする』ことを目的に活動していたらしく、そのために大魔王と戦って、そして――死んでしまったという訳だ。その後――彼女は残された子供を守るために大魔王に戦いを挑むことにした。しかし戦いの中で重傷を負い、意識を失いかけた時に俺と出会って大魔王に能力を奪われたらしい。そうして、そんな俺が勇者に力を返してやったことによって、彼女は無事に助かったというわけだ。それから勇者が俺の所にやってきた後は、俺は彼とともに行動することになった。そんな流れで今に至っているようである。
勇者は大魔人の事を『自分の娘』と、そんな風に語るのだけど――俺としては大魔人に親がいるのかどうかを疑問に思っていた。だって大魔人って人間とは違う存在であるはずで――俺の認識が正しいとするならば、大魔王の配下的な存在として存在しているはずだからね。そんな風に考えていたのだが――どうも勇者が話している内容から判断する限りだと、大魔人も『勇者が大魔王と戦った時代の時代から存在する』みたいである。それなら確かに俺が想像するような存在がいても良いのかなって、そう思ったのであった。だから大魔人を俺が「お姉ちゃん」と呼んだとしても特に問題はないだろうと、俺はそんな風に考える。
ただ、勇者は俺の言葉を聞いて微妙な表情をしていたのだけど――でもまあ、そんなことは気にせずに俺は「お姉ちゃん」と彼女を呼んでみたのであった。
大魔人が「あなたが噂の聖剣使いさんね」と俺のことを見て言ってくる。
俺はそれに対して――「そうだよ」と答えてやった。
そして俺は「俺は君を大魔王の手から救う為に大魔王と戦い続けてきたんだよ」なんて説明もしてやる。それを受けて大魔人は「ふーん」と、そんな相槌を打ってきたのである。それなので俺は「大魔人という魔王の眷属がこの世界で悪さをしていないかを確かめながら旅を続けている」という目的も合わせて伝えることにする。そうしたら勇者は少し驚いていたようだけど――、
「私の名前はアテレア。あなたの言っていることは正しいかもしれないわ。この世界に来てからの私の主は――もう大魔王ではなくなってしまったのよ」
大魔人――いや、アリアナはそんなことを口にするのである。それで俺は――、
「え? そうなの? それじゃあ――大魔王を倒さないと世界が滅んじゃうんじゃないの?」
そんな質問を投げかけてみるのであった。
俺の問いかけに対してアリアナが返答してくる。
「大丈夫よ。この世界は大魔王の力で保たれていたのよ。でも、今は違うの」
それなら良かったと、そう思うと同時に「そうか」と呟きもする。
それから「ところで――どうしてこの町に戻って来たんだ?」
と、俺は質問を続ける。すると大魔人は俺のことを真っ直ぐに見つめてからこう言った。
「ここに住んでいた人達は、私が魔王だった頃に仕えていた人々の末裔なのよ」
その言葉で俺は納得をする。そして同時に『やっぱり勇者の子孫なのか』とも考えてしまったのである。だから「そうか」と、それだけ答えておいた。すると大魔人は、
「ねえ、勇者様、これからどうするつもりなの? また一緒に大魔王とやらと戦おうと考えているの?」
そんなことを尋ねてみせるのであった。そんな彼女に対し、勇者は「まさか」と答える。「もう戦う理由がないよ」
「そう。じゃあ――この世界にいる必要もないわよね」
「そうかもな」
二人の会話から分かるのは、大魔王が大暴れをしているのに『勇者』が『大魔王』と戦う気がないということである。大魔王を討伐しなければ人類は滅びるしかないと思っていた俺にとっては驚きの出来事であった。大魔王と大魔王が戦った時代がいつごろなのかまでは分からないけど――少なくとも勇者はその頃から大魔王と戦っていたのだと思う。そして、勇者が魔王に勝っているからこそ、今も魔王が大暴れしている状態が続いている訳である。そう考えると、勇者は『魔王を倒す』ことを目標に生きて来たような印象があった。だから――そんな彼があっさりと、そして興味なさげに『この世界に生きている必要がない』と言うことが意外だったのである。しかし、
「俺はお前をこの世界に置いて行きたくないんだが――お前はどうしたいんだ?」
勇者はアリアナに向かって、そう尋ねるのだった。
勇者に問われてアリアナは自分の胸に手を当てると、ゆっくりと語り出す。
「そうね。私は――このままどこかの山の奥で暮らして、誰にも迷惑を掛けないように生きるのも悪くないかな、とは考えているの。ただ、それは――ちょっと嫌でもあるの。何故だか理由は分からないんだけど、誰かと一緒に暮らしていた頃の記憶がある気がして、どうしても寂しく感じてしまうみたいなの。きっと今の私が誰かと暮らしていたら、とても楽しく暮らすことができると思うわ。だって私は、あの時とは違って、一人きりでいる訳ではないのでしょう? それに私を助けてくれる聖剣もあるしね」
そこで一旦言葉を切ると――アリアナは俺の方に視線を向けてくる。
「あなたには感謝しているわ。大魔人だった時の記憶が戻ったおかげで、今、自分がどれだけ愚かしい真似をしたのかを理解したの。それに私に新しい名前を授けてくれたことも嬉しいわ。アリアナという名前は嫌いではなかったけど――正直言うと『アリアナという名前以外、思い出すことができないのよ』と、そんな気持ちになっていたの。だから『アリアナ』という名前を捨てて『アテテア』と名乗っても良いかしら?」
アリアナ改めアテテアが、そう提案してくるので――
「ああ、勿論構わないさ。俺は『アテ』って呼んでも良い?」
俺は彼女にそう確認すると――、
「ええ、構わないわ。じゃあ、改めてよろしくね」
そんな挨拶をして彼女は俺に右手を差し出してきたので、俺もその手を握り返した。すると彼女はとても綺麗な笑顔を浮かべる。そんな彼女の顔を見て――なんとなくだけど、『ああ、やっぱり綺麗な子だな』と思ってしまう。そして同時に、そんな美少女とお知り合いになれただけで凄く嬉しかったのだ。しかしそんな風に喜んでいてばかりはいられない。勇者のこともあるので――俺としては、彼の今後がどうなるのかということについて確認しておきたかったのである。そうして――俺は勇者に向かって「今後のことを話し合いたいから家に入ろう」と提案した。勇者の方もそれに賛成してくれた。そうして――俺達は家の中に入って行ったのである。
神殿の中に入ると、まず最初に俺の目に入ったものは床に描かれた大きな魔法陣であった。
その魔法陣の真ん中に立って勇者の方を向き「この模様って何か意味があるの?」と、俺は質問した。すると勇者は「さあ」と、そんな素っ気のない返事をしてくる。そして「さてと」と声を出した後、こちらに向けてこんな話をし始めたのである。
「アテレア。これからのことなのだが――」
その台詞に被せるように「ええ、その話はもういいから」というアテの声が聞こえてきた。それを聞いて勇者は「そうか」と答えてから「そうだな」と言葉を紡ぐ。
「それなら少しの間だけ別行動を取らないか?」
勇者の提案に対して俺は首を傾げることになる。それなので――勇者に「なんで別行動を取るの?」と、そう尋ねたのだ。そしたら彼は――
「いや、俺はこの町に住んでいる人々に色々と話を聞きに行こうと思っているんだ」
「でも――勇者が町に住む人達に危害を加えようとしてるって話もあったでしょ? なのに話を聞くつもりなの?」
「そういう意味では問題ないだろう」
勇者はそんな風に答える。俺はそんな彼に「え? そうなの? それならまあ良いんだけど」という返答をする。それを受けた勇者は俺の顔を見ながら笑みを見せると、こう言ってきたのである。
「アテ、アテテラ、アティレタ。この三人が一緒では流石に俺も身動きが取れなくなってしまうだろう」
それを受けて俺は「あ、それもそうだね」と同意の言葉を口にしてしまう。
それから――俺が「でも――どうして三人が一緒にいるのがマズいの?」と質問すると、勇者がこう答えてくれた。
「アティレタはこの世界に存在する大魔人が誰なのかを確認して回っている最中なんだ。つまり大魔人を束ねている奴がどこからかやって来たことになる」
「へー、大魔人の王がいるの?」
俺は何となくそう質問してみることにする。すると勇者は、俺のことを見つめながらこんな事を言って来たのである。
「大魔王のことは覚えていないのか?」
それを受けて俺は少し考えてみることにする。そして――勇者の台詞を思い出してみた。するとそこには確かに魔王が出てきていたのである。
「確か大魔王のことを倒そうとしていたのが大魔人で――魔王っていう悪い魔物がいたんじゃなかったけ? ただ――魔王って存在が実際にいたのか分からないんだよね。その証拠になるようなものは何もなかったし」
そんなことを考えていたら自然とそんな発言をしてしまった訳だが、それを聞いた勇者はすぐに納得をしてくれたようだ。ただそれでも気になったことがあるようで、「そもそもなぜお前はその『悪そうな名前の魔王』と戦おうとしていたのだ?」なんて疑問を投げかけてくるのであった。そんな彼に対して俺もまた説明を行う。といってもそんなに大したことを喋ったわけではない。
「俺は異世界から来た人間だったからさ、自分の住んでいる世界を救う為に魔王と戦ってたんだよね。でも結局魔王を倒すことはできなかったよ」
「それで今は俺達の世界に居続けているというわけか」
俺の説明に対して、勇者がこんな反応を示してくれる。だから俺は「そういうこと」と相槌を打った。そうした後で今度は俺の方が質問を行ってみる。
「そういえば――俺の世界に魔王っているの?」
「魔王? いないぞ」
勇者は即座にそんな答えを口にする。
「そうなんだ」
俺は勇者のその発言に「ふむ」と納得をする。しかしその直後、彼は「だが」と口にするとこんなことを言い始めたのである。
「お前達のように異なる世界を行き来する者達もいるみたいだから、俺達が知らないだけで、そういった者が存在しているのかもしれないな」
そんなことを言われたら俺は少し混乱をしてしまう。
そして――『そうか、勇者のいた世界で魔王は存在しないけど、俺が住んでいた世界の他の国には魔王が存在したりする可能性もあるのか』と考えてしまうのであった。しかし勇者の発言について詳しく聞きたかったので、そのことについて尋ねることにしようかと思ったのだが――その時――背後で物音がしたのである。
俺がそちらの方に振り返ると――アテが「お帰りなさいませ」という言葉を漏らしながら勇者に頭を下げていた。
「ただいま」
勇者は笑顔のままそう答える。アテが頭を上げたタイミングで勇者は彼女に声を掛ける。
「今戻った」
そして「留守中に何か変わったことがあったのか?」と、尋ねかけた。しかし、そこでアテレが口を挟んできた。
「別にないわよ」
「そうなのか?」
「うん。だから私は部屋に戻るね。ミルルちゃん、今日は私の部屋に来てくれるかな? 二人で一緒にお茶でも飲もうよ」
そんな誘いを受けた彼女は「もちろん喜んで!」と元気よく応じる。アテとミルウはそのまま家の方へと戻っていく。二人の姿が見えなくなるまで待ってから俺は再度勇者に話しかけた。
勇者はアテが歩いて行った方向に視線を向けながら俺に向かってこんな言葉を発してくる。
「お前はもう少しここでアテと一緒にいた方がいいかもな」
「どういうこと?」
「俺がいない間に、またあいつが何をするのか分かったもんじゃないだろ?」
俺はそれを受けて「う、ん。それはまあそうだけど」と言葉を返してしまう。
すると勇者は「じゃあ――お前も少し付き合ってくれ」と言うと、俺を連れて町の外へと向かって歩き出すのであった。そうして神殿から外に出た俺達はしばらく歩くことになったのだ。そしてそのまま町を出て草原の方へと向かったのである。そして草原に着くなり勇者はこちらを向く。そして「このくらいでいいだろう」と言って俺と向かい合ったのだ。そうしてから勇者はゆっくりと話し出した。
「これからちょっとだけ俺の昔話を聞いてくれないか?」
俺はそれに素直に応じることにした。
「良いよ」
「ありがたい」
「でもなんで?」
「なんでだと思う?」
逆に問い返されてしまったので、勇者の意図が全く分からなくなった俺は困り顔を浮かべるしかなかったのである。そんな状態の俺を見据えたままで勇者がさらに話を続けていく。
「これから俺はアテレに嫌われないように、彼女の前だと絶対に『アテレ』って呼べないんだよなぁ」
「え?『勇者様』とかじゃなくて? どうして?」
俺のその言葉を受けて、勇者はとても爽やかな笑顔を見せてくれたのである。それから――
「その辺りはアテと俺だけの思い出にしておきたいというか――誰にも言う気がない話ってことで察してくれないか?」と、勇者は言葉を紡ぐのであった。
それを聞いて俺は勇者に対してこう質問することにした。「あ、ごめん」と。そうして勇者は語り始めるのである。勇者と魔王がかつて出会った時のことを。そうして俺は、魔王との馴れ初め話を聞き始めたのだ。そうして彼は――自身の身の上話をしてくれたのであった。
*
* * *
俺の生まれ故郷は小さな村であった。そこにあるのは大きな川であり、その川の上流では多くの人達が暮らしているのが確認できた。その村の周辺は木々に囲まれているのが特徴で――森の中を抜ければ山があり――そこに行けば鉱山だって存在していたのだ。そんな場所で俺は生まれ育ち、大人になって、結婚し、子を育て――という風に日々を送っていったのである。
そして俺にも子供が産まれて、その子も成長していって、やがて結婚をし、子供ができ、そうやって――俺は老いて、その命を全うしたはずだったんだ。
しかし気がついたら――俺の体は真っ白な空間に漂っていたのである。そしてそこには俺の他にもう一人いたのだ。その人物は黒いローブを身につけていて、そのフードを深々と被っているので顔を見ることはできなかったのだけれど――女性だということは雰囲気でなんとなく理解することができたのである。そんな彼女は俺の顔を見ながら「勇者よ。あなたには勇者としての役割がある」と言った。そして続けて「あなたはこの世界を救わなければならない」とも言ったのだ。
俺は当然困惑をした。いきなりそんなこと言われても「はい分かりました」なんて言えるはずがなかったからだ。そんな俺に対して彼女からの提案がなされる。それが――俺と魔王が戦ったという物語を後世に伝えていくこと。それを聞いた俺は思わずこう質問してしまった。「なぜそんなことを?」と。
「理由は二つある」
彼女は即答してくれた。俺はその返答をしっかりと受け止めてみることにする。
「一つは勇者の力を人々に知らしめることによって、人々に平和をもたらすことだ。もう一つはそれを行うことで私の存在が人々の間で広まっていくことになるためでもあるんだ」
という説明を受けた後で彼女が更に続ける。「勇者の物語というのはいつの時代であっても人々を熱狂させるものだからね。それを私が実行することによって人々は私のことを思い出すかもしれない――というわけだよ」と、そう口にしたのである。それを聞くことによって俺の中で一つの考えが生まれたのだ――『その提案を受けてみても良いんじゃないか』ということにである。
そんな気持ちになっていた俺に対して彼女が告げてきたことは、さらに俺の興味を引くことになる内容だった。「ちなみに私はあなたの力になることもできるんだよね」なんてことを言ってきたのである。それはつまり魔王が勇者を手助けすることができるという意味らしいのだが、そもそも魔王って勇者に手を貸せるような存在なのだろうか? そんなことを疑問として抱きつつも俺はとりあえず話を聞いてみることを選択することにした。そうして彼女は語る。魔王の役割についてを。そしてその話を聞いた俺は、彼女のその行動原理を理解することができるようになるのであった。そして――その日から俺の新たな生活が始まることになる。俺は『勇者としての人生を』歩むことになり、彼女は『俺の人生をサポートする為に』行動することを決めたのだ。
しかしそこで問題が発生する。俺はまだ魔王の存在を知らなかったので、彼女をどうやってサポートしてもらうべきなのかが分からないのだ。そんな俺に対して魔王がこんな提案をしてくれる。魔王の力を貸し与えてあげるので、『魔王を倒せそうなスキルを自分で考えて習得してみる』と良いよと。魔王の言葉に従って俺は頑張った。まずはその力で俺自身を強化する。次に仲間を集めていく。そして俺は魔王に教えてもらった通りの力で魔王を倒すために頑張るのだった。そうすることで魔王に認められた俺は勇者となることができ、人々の支持を受け、勇者の仲間となってくれた人達と共に、俺と俺が集めた仲間達が魔王を倒す旅に出た――というのが大体の筋書きだ。
(あれ?魔王ってそんな設定になっているんだ)
なんて感想を抱いたりもしたが、魔王に言われるがまま、俺もまたその通りに動いていく。そんな流れによって勇者と魔王は出会って――俺の知らないうちに勇者が魔王を倒していたみたいな展開になってしまった訳だが――そんな風にして、俺は勇者として人生を歩むことになったのである。まあでもそんな感じになったところで、俺は別に困ったりはしないし、後悔しているとかそういった感情もなかったからな。ただ『そういうこともあるんだなぁ』という程度にしか思っていなかったんだよな。まあ勇者として生きている間、色々なことが起きたけどな。色々あったんだよ。本当に色々ね。魔王の件とかもあるけど――他にも大きな事件がいくつもあったかなぁ。俺達が世界を救った話とかもたくさんあって、それらも勇者の自伝として残されているくらいだからさ。だから俺にとってはそれらの物語はどれも大切なものだったよ。何年経っても決して忘れることはなかっただろうね。そうやってずっと大切にしてきたんだからさ。
* * *
* * *
* * *
* * *
そんな話を俺は黙って聞いていた。そうして一通りの話を聞いた俺はこう言葉を返すのだ。「大変だったね」と。そしてその言葉を受けて勇者は言う。「でもお前達に比べれば楽なものだよ」と、そして続けて「だから俺と同じような目に合っている奴がいるのなら助けたいと俺は思ったんだよ」と。
勇者は続けて言う。「それで俺達はお前を助けようと思う」と。その言葉の意味はなんとなく分かる。俺には特殊な事情があることを彼は察していたのだ。
そこで俺は「うん」とうなずきつつこんな言葉を発するのである。「俺が異世界から来た人間だということは知っているのか?」と。
「いや、そこまでは知らない」
勇者はそう答えてくれた。俺は続けて「それじゃあ、これから話すことには驚いたりするのかな?」と言うと、勇者は「どうだろう」と言って、こちらを見つめながら言葉を返してくる。俺はそれに対して、自分の境遇についての説明を始めていくのであった。
*
「ふぅーん」と、俺が話し始めるなり勇者が声を上げた。
「やっぱり俺が思っていたとおりだった」
「そっか」
俺はその言葉を受けてうなずくと「それじゃあ改めて自己紹介をしておこう。俺の名前は天海 翔っていう」と、そう言うのである。すると勇者が「それって名字? それとも名前?」と、尋ねてきたので俺は答えるのだ。「名字が先だ」って。そして俺は続ける。「この世界の出身じゃないんだけど――」と。
「ああ」
勇者は短く返事をした。俺はそんな彼の態度に甘えるように続けて話していく。
「実は俺、地球っていうところの日本からこの世界に来ているんだ。で、そこで俺は学生をしていた。そんな時にあの神殿に行って――気がついたらここにいたというか――」
そんなことを話したのだ。
「そうか」
勇者はすぐに俺の話を受け入れてくれたようだ。なのでそのまま話を続けていくことにする。
「俺には家族とかもいるんだ」
その言葉を聞いて勇者の目が丸くなった。
「へぇ~そうなんだ」
「で、その家に帰ると俺の家族が待っているというか」
俺は勇者の反応を見て、このままの流れに乗って話を続けるのが一番だろうと判断する。そして話を続けた。そうして、
「で、帰りたいと思っている。だけど帰れなくて」
俺はそう言って、肩を落としたのだ。それを見た勇者は俺に問いかけてくる。「どうして?」って。どうして帰れないのだろうかと、そう言いたいのであろう。そんな質問を受けて俺は言うのだ。「帰る方法がまだ見つかっていないからだと思う」と。それを聞いた勇者がこう口を開いた。
「どうしてまだ見つからずに帰れないんだ? そんなこと俺だって経験していないんだぞ」
勇者の疑問はよく理解できる内容であった。なので俺もそれについて説明しようと思う。しかし俺の言葉を待たずに勇者の方からさらに質問がなされた。
「なにがあったんだ?」
彼はそう言ったのである。そして俺はそんな彼に向けて「ちょっとした事故があって――」と、そんな風に説明を始めたのだ。
そして俺は語る。今までに起きたことを、勇者の身に起きてしまった出来事と比較するために、俺は彼に語り始めたのである。俺の場合は交通事故に遭ったのがきっかけでこちらの世界にやってきた――ということを中心に、そして、俺が異世界に来るきっかけになった交通事故の内容とその後の経緯についても、俺が知る限りの範囲で勇者に説明するのであった。そうして俺は語るのだ。俺と勇者の出会いについてを。そして――今の状況についてをだ。
俺は目の前の勇者に対して語る。これまでの経緯についてをだ。勇者との出会い方などに関しては特に細かく語ることはしなかったが――それでも大体の事情は理解してもらうことができたと思う。そして、俺の話を聞き終えた勇者はこんな反応を見せてくれるのであった。
勇者は「なるほど」と言ってうなずいた後で「それってつまり――」と、そこで一度言葉を区切ってから――
「お前は――別の世界から――こっちの世界に来た――というわけなのか?」
確認するような口調でそう口にしてくれたのである。それを受けた俺は「そういうことだ」と、そんな短い返事を勇者に向けた。すると勇者は言うのだ。「凄いな。そんなことがあるんだ」と、その瞳を輝かせながら、まるで憧れの存在を見るような目つきで、俺のことを見てきたのである。勇者の目からは俺に対して尊敬のような気持ちが込められているような気がしたのだ。
ただ勇者にそんな表情を向けられると俺は恥ずかしくなってしまって――そんな気分を誤魔化す為に話題を変えてしまうことにする。俺って、なんだか照れ屋さんみたいだよね。自分的にはもっとしっかりしていたいと思ってはいるのに、なぜか上手く行かないんだよな。こういうところだけは改善したいものだと心底そう思っているのだが、でもなかなかにそうならない。でもそんな自分が嫌って訳ではないんだよな。だから、
「勇者様が凄い人なんですよ。俺とは比べものにならないくらい凄くて――それに俺は勇者様に助けてもらっていますからね。本当だったら俺なんかじゃ勇者様を助けるなんて絶対に無理ですからね。でも勇者様に助けられたからこそ今の俺がいるんです」
そう言ったのである。すると――
勇者は笑みを浮かべる。とてもいい笑顔をである。彼はこんなことを言うのだ。
「お前って変わっているなぁー。俺はお前を助けていないじゃないか。俺はたまたまそこにいて巻き込まれたというだけだし、それにお前も俺もお互いが出会う前に何かしらの出来事が起きていて、それがなければ出会わなかったわけだしなぁ。俺は俺がやりたいと思ったことをやっているだけだよ。だからお前を助けたつもりはないんだよ」
そう言うと、彼はこう付け足したのである。
「あと、勇者っていうのは止めてくれないか。勇者っていうのは本来俺ではなく、あの魔王のことを指している言葉だ。俺は勇者に成りきれなかった偽物みたいなもんで――本当の勇者はあちらの魔王様なんだよ」
その言葉に俺は驚いた顔をして勇者の方を向いた。そして俺は言うのだ。「えっ? そうなの? 勇者が魔王を倒す話じゃなかったの?」って。すると勇者はこう言葉を重ねてくれたのである。
「そうだよ。勇者が魔王を倒す物語が勇者伝説だ。俺達が目指していたのはそこなんだけど――魔王を倒せるだけの力を俺が持っていなくてな。まあ、色々と試してはみたんだけどね。それで諦めかけた時に――あいつが現れたんだ」
「あいつ?」
俺が聞き返すと、彼は少し苦い顔になりながら言葉を続けて――
「お前達と旅を共にしていた『魔王』のことだ。まあ俺達の国での話なんだけどな。俺達はあのまま『魔王』を打倒することを目指して旅を続けていたんだよ。それで結局魔王は倒れなくて、勇者は行方不明になってしまった――と、そうなっていたんだ」
そう言ってから彼は俺の目をまっすぐに見つめてきた。その視線を受け止めた俺は、勇者に尋ねてみることにする。
「それはどういう意味なの?」すると勇者が言葉を発しようとする。それを俺の方から制した。そして俺はこんなことを口にしてしまう。
「あっ! 勇者様!」
勇者様って――なんだろう、やっぱり変な感じがするね。でも俺としては呼び慣れているし、これから先ずっとそう呼んでいきそうな予感もある。なのでとりあえずはそのまま勇者様と呼んでおくことにしよう。そう決めたところで彼は俺に向けて口を開く。そして――
「俺は勇者じゃないんだ」
勇者ではないと言い出したのであった。俺はそれを聞いて――思わず固まってしまった。で、すぐに我に返ると、俺はこんな質問を投げかける。勇者様に質問をぶつけていくことにしたのだ。
「それじゃあ誰なの?」
俺はそんな質問をする。そして、
「お前と一緒だよ」
彼はそう言ったのである。そこで俺達は二人揃って首を傾げることになる。そこで勇者がこんな言葉を続けてきた。「俺は異世界からの転移者だ」と、そして続けてこんな言葉まで口にしてきたのである。
「俺の名前は――『天海 翔』だ」
「な、名前!?」
その言葉を耳にして、俺は驚きの声を上げていた。なぜなら俺の目に映るのは勇者以外のなにものでもないからだ。その見た目と格好だけで十分に彼を勇者だと俺は判断している。そんな状況なのだが、その彼に対して名前があると言うのである。その言葉が俺にとっては衝撃的なものであったのだ。
そんなことを言われた俺は、勇者に向かって問いかけの言葉を放つ。その声は震えてしまっているのだ。「それじゃあさ――あなたの名前は?――翔くん?」と、そんな声だ。
「いや、それは俺の名前だろ? 俺の名前は勇者じゃない」
「えっと、だって――勇者だって自分で言ったじゃんか。俺と一緒って――」俺はそんな風に口を動かす。すると勇者改め勇者(?)様が「違うんだって」と言った後にこう言った。
「俺は――この世界の人間で――勇者と呼ばれている」って。
俺は彼の発言を理解するまでにしばらく時間が掛かってしまった。
「勇者? この世界では? 異世界人じゃないのに――勇者だって言っているってことで――」
俺はそう呟いていく。すると彼は俺のことを指差して言うのだ。
「ああ、俺は――お前と同じ地球から来たんだよ」
その一言で俺の中の疑問は晴れていく。そして俺は思ったのだ。なるほどそういうことだったのか――と。確かに言われてみれば、彼の服装には地球の文明と似たような雰囲気が感じ取れて、さらにいえば勇者が身に纏う装備の数々に類似しているように思えたのだ。
俺は目の前の人物が本物の『勇者』だと理解すると同時に――こう思ってしまう。
これは俺の願望なのだろうか? それとも目の前の相手は本当に本物なのだろうか? どちらにせよ、俺は彼が口にする次の言葉を待ったのだ。そして、そんなこちらの心情を理解してくれたのであろう。彼は、目の前の彼はこう告げてくるのであった。
「だから俺を『勇者様』とか呼ぶな。お前だって勇者なんだし」
「でも俺は偽物で――勇者じゃ――」
そこまで言い掛けた俺は、慌てて口を閉じる。それから、自分の発言を誤魔化す為に口を開いた。「そ、そうか――」と、それだけを口にした。勇者に勇者と呼ばれるのはとても違和感があるのだ。だがしかし――
勇者様の瞳は、こちらを真剣な眼差しで見据えてきているのだ。だから俺は黙ることしかできなかった。そうして俺が口を閉ざしたところで――勇者は言葉を続ける。「でもな――」
俺はその続きの台詞を待つ。
「――俺がこの世界で生きていることは間違いがないんだよ」
そして勇者様は、どこか遠い場所を見るような表情を浮かべてから、言葉を重ねてきた。その様子から、勇者は勇者である自分自身のことをあまり快く思っていないような印象を受けることが出来たのだ。彼は続ける。
「まあそんな話はどうでもいいんだ。それよりも、お前が俺の目の前に現れた理由について、教えて欲しい。俺の推測だと、あの『魔王』が何かを仕組んだ結果だと思うのだが?」と、そんな質問をぶつけられてしまった。その問いかけに対して、俺は――
「実は――その魔王を倒したんだよ。それで気がついたらこの場所にいたんだ」
そんな言葉を返したのである。すると――勇者は驚いた表情を一瞬だけ浮かべた後、「そうなのか」と言ってきた。だから俺も彼に尋ねてみることにした。「ねえ、俺ってどんな風に見える?」と。そうやって俺が自分のことを尋ねた理由は二つある。一つは自分の今の外見を確認しておく為だ。もう一つは勇者から見たら今の俺はどのように見えるのか、それが気になったからである。すると――
「そうか、そうか」勇者様は何度かそう繰り返した後、こちらに向けてこんな提案を行ってきた。
「まず最初に言っておきたいのだが、俺はこの世界で長い時間を過ごした。だから俺からすれば、お前のその姿は別段変わったところは見られないぞ。強いて言えば――髪の色が違うくらいかな」
「髪の色?」俺が聞き返すと、彼は言葉を重ねてきてくれた。「俺達がいた世界での黒目黒髪は珍しくなかったけど、この世界でその容姿をしている奴はいなかったからさ」
そうなんだ、知らなかった。そう思うと共に、やはり異世界は地球とは違うんだなという感覚を味わう。そもそも異世界が地球とはまるで違った存在だったという事実を忘れかけていた俺だった。
俺と同じような見た目の存在がいないというのは意外であった。そう思いながらも俺は――
「それで俺の姿が変わっているのは分かったよ。あとは勇者から見て、今の俺のステータスはどのようになっているんだろう?」と、質問を続けた。すると――
勇者はこう言ってきたのである。「レベル一〇〇を超えているので、普通の地球人よりも身体能力は高く設定されていると思う。それに――その見た目だ。おそらくだけど――かなりの加護を持っているだろう。それも凄いやつだ」
「へえ」と声を上げた俺は、自分の体を確かめるべく手を自分の体の上に置いてみた。するとそこには何の変化も無いのであった。つまり――普通である。なので改めて「ステータス」という言葉を口にしてみた。その結果として脳内に文字が表示されたので――
俺はその内容を読み取っていくことにする。
天海
勇 17歳 男 種族:人間
Lv 1 職業:『勇者』『聖騎士(神)』
(称号『全知の神』より譲渡された職業。勇者の上位職であり全てのスキルを扱うことが可能となっている。また『ギフト持ち(『全知の聖女』により与えられた力によって成長している状態のため、通常の勇者とは別次元の存在となっている。現時点では勇者の全てを超える力を持つことになる。なお『全能』ではないため限界はある)』
HP:5億2000万(固定値ではなく能力の上昇に応じて上昇します。現在は『勇者』の能力も引き継いでいるため大幅に増加しています)
MP
:1京8000兆0000万
攻撃:153300(固定ダメージ。相手の強さによっては変化します。勇者の力を引き継いでいますので現在の数値が限界です。今後成長の余地があります)
物理防御:254000(固定値ではない。勇者の力では攻撃力を上げることは出来ないのですが、その代わり防御力は強化されています。ただし魔法による補助を受けている場合や特殊な状況下であれば変動が生じます。また勇者の力が引き継がれていますので現在の数値が限界となります)
素早さ:504200(移動速度と思考速度にプラスの効果が発生します。『勇者』の力でステータスに大幅なプラス補正が付与されています。そのため最大値が飛躍的に増加しました。また勇者の力は受け継がれていますので、本来の上限以上の素早さとなってしまいます)
運勢(幸運/悪運):9999(運が悪い人がいるとしたらこういう人が該当するだろうなぁといった程度の数値。特に意味は無い。また勇者の力で大幅に上がってしまうため本来ならマイナスになりかねない状況でも運の悪さに関しては改善されることでしょう。この力は勇者に引き継がれておりませんのでご安心ください)
固有技能『ステータス』
「なにこのチートステータス――」
勇者様の口から語られた事実に対して思わずそんな感想を漏らしてしまう俺。すると勇者がこちらに近づいてきて、こう口にしてくる。
「いやお前だって似たようなものじゃないか? それにその格好、日本人じゃないな。俺と同じで、転生してきたのか? それとも召喚されてきたのか? なんにせよ日本人だよな?」
そう問いかけられてしまい、どうしようかと考える俺。そこで『ステータスプレート』の画面を表示してみることに。すると――俺の『ステータス』が表示されるのであった。
天海
勇 17歳 男 職業:『勇者』『勇者』(勇者である)
「おいちょっと待て――勇者じゃないのか?」「え? あ、うん」「いやそれって――」
俺の言葉に対して勇者様はとても微妙な表情をされる。そこで俺は『ステータスプレート』の画面に表示されている内容を指で示しながら説明することにした。『この勇者様の目の前にいる俺って一体何者?』って気持ちが湧いてきてしまって、つい口に出して呟いてしまう。
「勇者様って、この世界の人じゃないんですよね? この世界の人じゃないのに、勇者ってどういうこと? それに、俺の場合は名前まで変わってしまっているし――」と。すると彼は俺の顔を見つめながらこう言葉を返してくれた。「そうか――そうか」と、そう何度も呟かれたのだ。
その様子を見ていて俺は「もしかして俺の言っていることが分かるのか?」なんてことを考えてしまうのであった。そしてそんな俺に――勇者様はこんな提案を行ってくれたのである。
「それならば俺と来ないか? 俺はお前のことが気に入った。そしてお前は勇者なのだ。ならば一緒に魔王を倒さないか? 魔王を倒せば、俺は元の世界に帰れるんだ」
そんな言葉を俺に伝えてきた勇者様は、どこか嬉しそうな表情をされていた。
そんな風に喜ばれても困るんだけどな。俺は目の前の人物が本物であるかどうかも怪しいのだと思っているのだ。だから、その人物と一緒に魔王を倒しに向かうなんてことは出来っこないのだ。俺は、その考えを言葉にして伝えたのだ。「それは出来ないよ」って、そう口を動かした。すると――
目の前に立つ人物は少しだけ悲しそうな表情を浮かべると、すぐに表情を変えて、こんな言葉を口走ってきたのだ。
「じゃあ仕方が無い。悪いけど、殺してでも連れて行くよ」と、そんなことを言われてしまったので――俺は慌てて勇者様に殴りかかったのだ。しかし勇者は俺の拳を受け止めると、こんな台詞を俺に吐きかけてくるのであった。
「なるほど――確かにお前は強そうだな。それに、いい一撃を持っている。それにその服――俺が今までに戦った中でも最強クラスの防具みたいだ。その辺の雑魚モンスターの攻撃程度じゃ傷が付かないくらいに強力な防御力を誇っているはずだ。それに俺が勇者だって信じているんだ。つまりお前が本物の勇者だと証明してみろ」と。
「そんなの無理ですよ!」「いいからかかってこい! その力を俺に見せつけてみせてくれ」
そうやって戦闘が開始されることとなったのである。
俺が異世界に転移する前、勇者達は魔王の城の中にいたらしい。
そして彼らは、魔王を倒す為にこの場へとやって来ていたのだ。魔王を討伐すれば元の世界に帰ることが出来る。そういう話を聞かされていて、勇者達は意気揚々と乗り込んできたのだという。その話を聞いた俺は――「へぇ」としか言葉を発することが出来なかった。勇者はそんな反応を見せた俺に向けて言葉を続けてきたのだ。
「だから俺達と共に魔王を倒してくれないだろうか?」と、そんな言葉をかけられてしまった俺だ。勇者のその発言に対して、俺はどんな態度を取るべきなのか分からなかった。とりあえず「えっと、まず確認しておきたいことがあるんですが」そう口にすると、勇者は「なんだ?」と尋ねてきた。だから俺は尋ね返す。
「俺、勇者ではないので協力できないと思うんですけど――」「ああ、それは気にしないでくれ。ただ単に魔王が邪魔なだけだ。別に勇者と魔王の戦いに興味は無い。それに――俺の推測が正しければだが、今の俺とお前の二人なら――恐らくだけど魔王よりも強いぞ?」と。
「そうですね。ステータスはあなたの方が上です」
俺がそう言ってしまえば勇者は驚いたような顔になって、「そこまで分かるのか」と言葉を漏らした。「まあ一応――鑑定スキルを持っているので、ある程度の情報は分かってしまいますよ。それに職業が『勇者』であるあなたのステータスは勇者であるはずの『天海 勇』よりも高いわけだし」そう伝えると勇者は納得したように首を上下させた。
そんな彼の姿を見ていた俺は、改めて勇者に向かって質問を行う。
『どうしてこの人は異世界にやって来たんだろう?』と、そんな疑問が沸いてきてしまって、つい口にしてしまったのだった。その問いに対して彼はこんな感じの答えを返したのである。
この世界にやってきた時、既に俺は魔王と戦うつもりで行動していたのだと。この世界にやって来てすぐのことなのであまり詳しくは思い出せないとのことだ。
ただ――一つ気になっていることがあって「どうして俺はこの世界に来たんだ?」と。彼はそう言葉にした。
そんな彼の言葉を聞いた俺はどうしようかと悩んでしまった。なので、俺は彼に「あなたには魔王の力が眠っている」ということを正直に伝えることにした。それが理由であり真実であることを。すると勇者は、少し戸惑った表情を浮かべた。その後で俺のことを見つめてこんなことを言うのであった。
「お前は何を知っているんだ? この世界のことも知っているようだけど、俺の事情にも詳しすぎるだろう。それに『天海勇』という存在について詳しいのもおかしいしな。まるで、同じ世界にいたことがあるみたいな、そんな感じさえ受け取れるんだよ」
鋭い指摘をされてしまった俺なのである。だけど本当のことは言えないので、どうにか誤魔化すことに。
「それは俺が『全知の神』に選ばれた人間だからだよ。だから、色々なことが分かるようになったのだと思う。ちなみに俺の職業についても理解出来たよ。それで勇者の力は引き継げるのかなって思うんだけど――」そう口にすると、今度は彼が俺のステータスを見て「これは、どういうことだ? 俺の持っている力とは比べ物にならないほどの力じゃないか。俺の力なんてカスのようなレベルだよ」そう口にしてくれたのである。
それから俺は、自分の能力について簡単に説明をした。『勇者』の力と、『回復』と『攻撃』と『状態異常攻撃』と『アイテム作成』『生産』『農業』『鍛冶』『建築』『料理』などだ。これらの能力と勇者の力が統合して存在しているので凄まじいステータスになったんじゃないかと考えている。それを全て説明するのは大変なので、俺の考えを伝えた上で『俺にこの世界でやってほしいことはありますか?』と聞いてみた。そしたら――「そうだなぁ」と考え始める勇者。すると彼は「じゃあ――」と言葉を返してきた。
『お前を俺の従者として扱いたい』と、そんな言葉を向けられたのだ。それを聞いて思わず「はい? え?」と口にしてしまう俺。でもって『勇者』が『俺をこの世界のどこかに飛ばすことは出来ないのか?』と尋ねてきてくれるので俺は『ステータスプレート』を指さしながら「俺の力で移動することは可能です」と答えてみせる。すると――
「そうか。それならば、俺を日本に送って欲しい」
そんな要望を口にしてくれたのだ。それを受けて、俺は困惑した。だって――日本に『勇者』を送り込んでしまうと大騒ぎになるからだ。そんなことをするのは流石に躊躇してしまう。しかしそんなことを考えてしまうと『勇者』はこんなことを言い出したのである。
俺に着いている勇者の称号――『魔王を討伐するもの』は、他の者に移ることが可能だと。そして移し替えれば問題はない筈だと言われてしまう。そこで――『俺のところにも転移することが出来るのか』そう尋ねたら『出来るぞ』との返答を貰った。
「それなら、どうしようかな」と、そう思った。どうしたものかなと悩んだ。しかし――結局は俺は彼の願いを受け入れることにする。理由は――「この世界を救うのに俺一人だけじゃ心許ないと思った」ってところだろうか。
俺が勇者様と会話している間もずっと戦闘は継続されていたのだ。勇者様が魔法を使うとその相手は苦しむのだが――次の瞬間には、すぐに復活してまた襲ってくるのであった。
そんなことが繰り返されていて、俺達は苦戦をさせられ続けていたのだ。
しかし――俺達の方はと言うと、戦闘開始直後に俺の方から攻撃を仕掛けていたので有利に立ち回れていた。それに俺は『回復スキル』と『勇者の剣』(聖具)を所持していて、勇者は『勇者の鎧』、『勇者のマント(装備)』を装備しているから――攻撃力がかなり高いのもあったのであろう。その戦闘はかなりスムーズに行われていた。
だから――あっけなく決着はついてしまうのであった。
「な、何が起こっているんだ!?」勇者が叫ぶ声が聞こえてきたので俺は戦闘を中断させる。そうしてから「もう終わりにしないか? あなたが本物かどうかは、今の戦いぶりを見れば分かるよ」と言葉を紡いだ。それに対して勇者は――
「なるほど。俺の力は、その程度でしかないって訳だな。そうやって俺を偽物として処理するつもりなのか?」と、そんなことを言ってきた。なので俺は「そんなことはしないよ」と、すぐに否定する。すると勇者様は俺に向かってこんな提案を行ってきたのだ。
「お前が俺の言うことを何でも聞いてくれるなら、今回の件は俺に任せてくれないか?」と、そう言われた。その提案を受けた俺は、勇者が本物の可能性を考えながら――
「えっと、どうしますか?」と、そう尋ねる。すると勇者は「お前の好きなようにしろ。俺はお前に賭ける。ただ、もしも偽物であれば――俺の命を奪うんだぞ?」と、そんな風に言われてしまった。でもまあ、そんな感じの人じゃないから俺も信じたい気持ちはあるのだけど。
ただ、それでも勇者に「分かった」とは言わずに「まずは話し合いましょうよ」と言葉を返す。そうしたら「まあ、それもそうかもな」と勇者様が呟くように口にしてくれたのだ。そうやって話を進めていくと『勇者』はこう言ってくれたのである。
「実は俺には婚約者がいたんだ。その婚約者が最近になって姿を消してしまったんだ。だから俺達は必死になって彼女を捜索した。しかし見つからないんだ」
その言葉に対して俺は、「そうなんですね」と言葉を返すことしか出来なかった。そんな俺に向けて勇者は続けてこんな話をしてくれるのである。「この世界は、元の世界と違う。つまり、彼女はこの世界にいるかもしれないと、そう思って来た。そうすればいつか会えると思ってきたんだ」と。その発言に対して「そうなんですね。分かりました」と答えた。すると勇者様は「分かってくれたか」と言ってくれて、「とりあえず、今は休戦ということで」とそんな感じの会話を交わしていた時だった。
『勇者の嫁が現れた』
唐突に俺の中に流れてきた文字はこんなものだったのであった。それは――
『天海勇の妻:佐藤 真奈美。
年齢15才 職業 メイド HP 3400/3400 MP 6200/6800』
『天海勇の仲間達が現れました』
『勇者のパーティメンバー1:加藤 咲。
勇者のパーティーメンバーの一人。勇者と同じ世界の出身であり、年齢は12歳 勇者と同郷であり幼馴染みである。天海勇の婚約者。勇者が魔王を倒せば二人は結婚する約束をしていた』
「うわっ」
俺は突然視界に浮かび上がった表示された情報を前に驚いてしまった。すると目の前にいた勇者がこんな言葉を吐いてくれたのである。「これはなんだ!? どうしてこんなものが表示されたんだ? しかもなんで俺の嫁の名前まで分かるんだ?」
勇者はそう言いながら「どういうことだ? 俺がこの世界に来る前の記憶を、どうして思い出すことが出来たんだ?」と言葉を続ける。そう口にしてくれた勇者に俺は説明を行うことにした。「これはステータス画面といって、自分のステータスを確認することが出来るものだよ」と。そして「俺の能力の一部でもある」そう説明したのだった。
それから――勇者に質問を行った。
『あなたは勇者ではないの?』と、質問をぶつけてみる。そうすると彼は俺のことを見つめてこんなことを口走るのであった。
「俺には、勇者の称号がある。しかし俺は勇者と呼ばれるべき人間ではないだろう? それに俺は――勇者には相応しくないとさえ考えているんだ。だからこそ、俺は自分が本物だと言い切るつもりはない」と、そんな感じの言葉を返されてしまったのだ。
確かに俺が召喚したのは『勇者』だけれども――でも、そんなことは関係ないと俺は思う。それに、この人は俺なんかより遥かに強いのは間違いがないと思う。だから俺は「俺と一緒に行動してもらえませんか?」と、お願いをしてみた。
そうしたら「それはこちらとしても有り難いが――いいのか? 俺は、魔王を倒さないといけないと思っているんだが」と、そう口にしたのだ。しかし俺としては、そもそも俺の目的をこの勇者様に叶えてもらうつもりだったので、それは問題なかったのである。
そうこうしていたら、仲間の一人である咲ちゃんと――それから、もう一人の女性の姿も俺の目に入った。それで、勇者は「彼女達は俺が雇った護衛のようなものだ」と、説明してくれたのである。
そうして――俺は勇者の仲間たちとも合流して、それから王都へと向かったのであった。そこで勇者と話をしようと、そんな考えを抱きながら。
俺と王女は、それからしばらくアルバートと共に歩いていき――やがて大きな屋敷の前に辿り着く。そこがどうやら彼の住んでいる場所らしい。しかし、そこには沢山の兵士が集まっていて何やらいちゃもんをつけている様子であったのだ。そこで王女様が声を張り上げて兵士たちへと語りかけると、兵士達は急に静かになってから俺達に頭を下げてきたのである。どうやら王女様の顔を覚えていたようだ。
しかしそんな状況で俺は、何が起こっているのかを理解して――思わず顔をしかめてしまった。そうすると「あれ、この国の騎士じゃないか?」と、隣を歩くアルフさんが小声で話しかけてきてくれる。その発言を聞いて「えっと、どういう意味ですか?」と、そう尋ねてみると――
「いや、あの鎧を着込んでいる騎士たちは皆が皆――王家に仕える近衛兵だろう?」と、教えてくれるのであった。その言葉で俺は――「ああ、そういうことでしたか」と思い至ったのだ。
「あの人達が王族の方の護衛をする為に派遣されている方たちってことですね」そう口にしてみせると――
「まあ、大体の場合はそうです」との返事をもらった。その返答を受けて、やっぱりなと納得している自分もいるのだけど――しかしそれと同時に『勇者』のことも気になってしまう。『勇者』の身に何かあったのではないかと思ってしまうのだ。だから俺は少しばかり焦ってしまった。なので俺は、慌てて駆け出して『勇者』の姿を捜そうとする――しかし。そこで俺の服が後ろから引かれたのだ。そしてこんな言葉を耳にするのである。
「大丈夫ですよ。私達がすぐに解決してみせますから」
王女は、そんな風に声をかけてくる。
「えっと、そうじゃなくて、その――心配なんですよ」
「それなら、まずは落ち着きなさい。冷静さを欠けば見えるはずのものも見えなくなってしまいますよ?」
「それは――はい。そうします」
「ええ、そうしてください」
俺の答えを聞いた彼女はそう言うと微笑んでくれる。
俺はそんな彼女の笑顔を見届けてから、一度大きく深呼吸をした。すると、心がスッキリとした気分になってくる。そして、改めて勇者を捜しに行こうと思ったところで、
「『勇者』というのは、あなたの知り合いのことなんでしょう?」
今度はそんな声をかけられたのである。その言葉を受けた俺は、王女の方へと顔を向けると――彼女がこう口にしてきたのだ。
「もしよろしければ、一緒に探しに行きましょうか?あなたが一人で動くよりも効率が良いと思いますよ」
そんな提案を受けると、確かにその通りかもしれないと感じることが出来た。なので、
「では、お言葉に甘えて――よろしくお願いします」と、俺は答えるのであった。そうすると――「分かりました。任せておいてください」と王女は笑みを浮かべてそんな風に言う。そうして、俺と彼女は連れ立って歩き出すと――
「しかし、『勇者様の嫁がこの世界に来ているという情報が入ってきているのです』とはいったいどういうことなんだ?」
ふっとアルバートの言葉が耳に入り込んできたのであった。
俺とクレアさんは『天海勇』と名乗る人物に会う為に王宮へ向かうことになった。で、その際にアルバートは俺達の道案内をしてくれた訳だ。そして俺達は彼が案内してくれようとしている場所へ向かっていた。
アルバートの話によると、そこは貴族の屋敷らしいのだが――その場所には『天海勇』という『勇者』の仲間だという人が住んでいるのだという。でまあ、俺達は今からその屋敷を訪ねることになるのだけれど。
屋敷へと向かう途中でも、街の様子は今までに見た事のない感じのもので、やはりこの国は異世界だと俺に認識させてくれた。そしてそんなことを考えながら移動を続けていると、やがて立派な建物が目に入るようになったのである。俺はその建物を見上げる。その屋敷の大きさに圧倒されてしまい、自然と言葉も出てこなくなるのだった。
「さあ、行きましょう」
そんな言葉とともに、クレアさんの足が前に進み始める。
俺はそんな彼女に続く形で歩を進めていくと――門のところまで辿り着いた。
「私はここの責任者に話が通っています。あなたはどうしましょう?」
「俺も同じ場所に用事があるんだ。だから一緒に入れてもらっても良いか?」
「そうですね。構いませんよ」
アルバートはクレアさんの質問に対して即答してくれた。だから俺達二人は、そのまま屋敷の中へと入り込むことに成功する。そうやって屋敷の中にまで入ると――目の前に大きな広間が広がっているのを確認した。俺は、そこの雰囲気を感じ取る。そして、この場所は貴族の住まいであり、それも位の高い人間が暮らす場所なんだなぁと感じることになった。そう思っていた時にだ。
突然、視界の端っこに一人の女性の姿が目に映ったのである。それはメイド姿の女の子だ。金髪で綺麗なお姉さまタイプの女性だなと思ってしまう。年齢は俺達と同じぐらいで二十歳手前くらいだろうか? しかし――
俺がそんな風に思って彼女を見つめている間に、いつの間にかメイドの女性はどこかに向かって姿を消してしまっていたのである。で、代わりにだ。俺の目の前には――一人の男性が現れていたのだった。年齢は俺とあまり変わらないだろう。黒髪の青年が目の前にいる。その男性は、鋭い視線をこちらに向けてくると――こんな言葉を俺に投げかけてくれたのだ。
「あなた方は、どの様なご用件で?」と。その言葉で俺は、自分が目の前の青年から睨まれていることを理解する。で、そんな彼に、
「私はこの国の第一王女であるクレア=クリスティアと申します」
と、クレアさんは丁寧に挨拶を行ったのだった。すると相手は、「この国に一体どのようなご用向きでしょうか?」という言葉を投げかけてくれる。その発言を聞く限りでは敵意はなさそうだと判断した俺は、ここで自分の名を口にする。すると――
「勇者様のお仲間の?」と、彼は驚いたように口を開いてくれたのである。
「えっと、そうなんですかね? まだ良く分からない状況なんだけど、俺の名前は海田明人で――今はこの方々と行動を共にすることになっています」
「そうですか」
俺の発言を耳にしたアルバートはすぐに表情を元に戻した。
「それで本日、ここに来た目的は、この国に滞在している勇者様について話を伺う為になります」
「なに? あいつはこの国に居るのか!? というか、あんたらがそうなのか?」
そう口にした彼は「ちょっと付いてきてくれ!」と、大きな声を上げると、急いで走り始めた。だから俺達二人もそれに従うことにする。すると――少しだけ進んだ先で彼は足を止めたのだ。
「俺は天城武史っていうんだ」
そこで、目の前の青年は自分の名前を告げてきた。それから――こんなことを俺とアルバートに教えてくれるのである。
「実は俺、この国の貴族をやっているんだ」
その発言を受けて、俺は「この国が王族以外にも権力を持っていることは知ってるけど、それでもまさか貴族なんてものがあるんだ」と思うと同時「まあ普通に考えたらそういうものか」とも考えてしまったのである。
「それでだな、実は――お前達に頼みたいなと思うことがあって」
「俺達なんかでいいのか?」
俺の言葉を受けてアルバートが尋ねる。すると――
「ああ。実は、俺は『神族』の加護を持つ『勇者』と縁が深い存在だから、もしもの時のために俺が力になれるような人間を探しているんだ」
「なるほどな。それなら丁度俺が適役かもしれんな」
「俺も同意見だよ」
「で、どうなんだ?協力してくれるのか?」
アルバートがそう尋ねた時――彼の目が真剣なものになった気がした。その瞳の奥底には覚悟の色が垣間見える。だからこそ――アルバートは「もちろんだ」と即答していた。そんなアルバートの返事を耳にした瞬間、天城は嬉しそうに「ありがとう」と言ってきたのであった。そして――
「じゃあ――早速で悪いんだけど、今から一緒にこの王都にある屋敷の方に来てくれないか?」
「えっと、分かった。ただその前に――『勇者』に会いに行くのってどうすればいい?」
俺が質問を飛ばすと――そこで天城は、困ったような表情を浮かべた。何か不味いことでも聞いちゃったかな? と思っていると――そんなことはないよと天城の表情が教えてくれる。そして――彼は、こんな説明をし始めてくれたのだ。
「実は『勇者』には特別な力が渡されている。それが、どんな能力であるかは知らないけど――とにかく『勇者』が危機に瀕するような事態が起きた場合、『勇者』の元に俺達の居場所が分かるようになっているはずだ」
「『勇者』が危機に瀕しているって判断するのはどうやって?」
「ま、そこは実際に『勇者』にあってからの話になるけどな」
「そっか。とりあえずその辺りの情報は――直接会って話を聞いてみることにしよう」
「うん。頼む」
「了解」
俺がそんな言葉を返すと――今度はクレアさんが天城にこんなことを問う。
「『天城』という名前は聞いたことがありますね」
「へえ、そうなんですね」と、天城はクレアさんに対して感心した声色で言う。そんな彼との会話の後で、クレアさんは「私の知人にも天城という名前の者がいまして――おそらくですが、同一人物だと思われます」と言うと――次の質問を飛ばしたのだ。
「ところで――先程から、あなたの傍に居る女性があなたのお仲間なんでしょう? 彼女は何者なんでしょう?」と。そんな質問を受けた瞬間に俺は思う。
――クレアさんの言う知り合いがあのメイド服のお姉さんだよな!絶対に!! でまあ俺は――この屋敷に入った時から気になっていたメイドのお姉さんのことが気になって仕方がなかった訳だけど、どう見ても日本人顔だし、しかもクレアさんの知り合いとなればもう間違いないとしか思えないのだ。
「この子は俺のメイドさんですが?」と答えたのはアルバートだ。すると――天城は「やっぱりか」という顔になると――こんなことを言い出したのである。
「この屋敷には、『勇者』の仲間の一人が住んでいるという話で――そこに行けば確実に会えるんじゃないかと思ってここに連れて来た訳なんだ」
と、彼は言う。
で――その言葉を聞いた俺達は顔を見合わせる。で、アルバートは俺に対してこう提案をしてきたのである。
「天海、これから屋敷に向かうのは良いとして――俺は『勇者』には会った事があるが、君にはないよな? だったら――その屋敷には『勇者』の仲間がいる可能性が高い。だから、その屋敷に入るのは後回しにしてもいいぞ? それに、天海が先に用事を済ませておきたいのであればそちらを優先してもかまわない」と。
その提案を耳にした俺はすぐに考える。アルバートがわざわざここまで来た理由というのは――『勇者の仲間の人に話を聞ければ』と考えたからだ。しかし俺が会いたいと願っている人は今この場に居る。で、今俺がこの屋敷に入ってしまうと――クレアさんの関係者に会う機会を逃してしまう可能性があるのだ。
俺は天海に質問をする。
「俺としてはクレアさんの関係者が気になるんだけど、どうする?」
「ああ。俺は構わないぜ。でも――クレアさんと海田さんも用事があるんですよね?」
天海の問いかけに、クレアさんは笑顔を見せる。すると天城も笑顔になったのだ。でまあ結論は決まったようなものだろうということで、三人揃って屋敷に向かって歩いて行く。その最中、俺達が向かおうとしている場所に、一人の女性が立っているのを発見したのだ。その女性は、金髪の女性だった。年齢的には俺とそれほど変わらない感じである。そんな女性に、俺達三人組が歩み寄っていく形となる。
すると彼女はこちらの存在に気付いたらしく、視線をこちらに向けてきた。するとその女性の目は大きく見開かれ、口を大きく開けながら「嘘だろ」と小さな声で呟くように言ってきたのである。そんな彼女に近付いた俺達四人――その中で最初に動いたのは俺だった。だって彼女が俺の顔を見るなり「明くんなの!?」と口にしたからである。だから俺がまず彼女の方へと足を進め――そのまま駆け寄ると――勢いそのままに抱き締めていたのである。そうしてしばらく抱きしめ合ったままの状態で時間が流れる。そうしてから――ようやく俺は彼女と話すことができたのだった。そうしている内に、
「あなた達二人は、明人とどういう関係なのかしら?」と――そんな言葉を口にしたのは黒髪美人のメイド服を着ている美女――そう、天城の言葉から予想していた通り――『勇者』の仲間でありメイドさんのお姉さんこと――クレア=クリスティアさんだった。そんなクレアさんが俺と天城の関係について言及してくると――
「俺と海田明人がどういう関係かって? ただのクラスメイトだよ。まあ今は――違うけど」
と、俺の隣にいる天城もこんな発言をしてくる。で、そんな発言に俺は疑問を抱いた。だから「ちょっと待ってくれよ」と口を開くことにする。そうしたら俺の声が小さかったのか? クレアさんも、それから天城の耳元まで顔を近づけている俺も、同時に動きを止めてしまう。それから数秒が経過してから俺は声のボリュームを上げ直した上で「一体何があったんだ? 詳しく聞かせてくれないか?」と改めて尋ねた。そうするとクレアさんと天城は「うん」と返事をしてくれた。だから今度は二人の話を順番に聞くことにしたのである。そうすることで、状況を理解していくことができると――俺は思ったのだ。
「で、二人とも、どうして別々の行動を?」
俺がそう訊ねると、クレアさんはこんな説明を行ってくれた。
「私は私達の仲間と一緒に旅をしている途中で、とある場所を訪れているの。そこで天城と出会い――彼と共にこの国を回っているところよ」
「なるほど」
俺は相槌を打っていた。そんな風に話をした後で天城がこんなことを言い出す。
「ちなみに俺はこの国に住んでいるから『天城』という名前で呼ばれているが、本当は『神城武史』って名前があるんだよ。で、この屋敷の主人が俺ってことになってる」
その発言に――俺は思わず「そうなんだ」と口にしていた。
で、その後――天城は続けてこんな説明をしてくれるのである。
「俺の名前は天城武史って言うんだけど、俺の苗字は神城を略して、神城と読ませるんだ。で、天城という名前自体はこの国の神話とか伝説に登場する神様のことで――まあ簡単に言えば俺の先祖の名前ってことになる。それで、この国に暮らす者達は、この世界の人達とは違う名前を名乗ろうと考えているらしい。それが『天上界から降臨した神の名を借りた人物だから『天城』』という名前なんだ」
と、天城が語ってから間も無く――
「そう。その話は――『魔王』を倒すための旅の途中、出会った『天海』という名の男性から聞かされたものと同じですね」
クレアさんはそう述べる。でまあ、俺はクレアさんの言葉に「やっぱりそうなんですね」と言葉を漏らすと――こんな話の流れになったのであった。
俺は天城に質問を行う。
「ところでさ、お前がクレアって呼んでいたそのお嬢様は誰なんだ?」
「えっとだなぁ」と前置きをした天城は「俺の仲間のお姉さんだよ」と答えてくれた。そんな答えをもらった俺が「へえ」と言っている間にクレアさんの自己紹介が行われていた。でまあ、天城はこんなことを言う。「俺もまだあまり話したことが無いんだけど、クレアさんが天上界と呼ばれるところからやって来た天使だと言うことは知っているんだよな」と。そんなことを言ってから天城はこう続けた。
「俺も最初は、天使ってのが本当に存在しているなんて思ってなかったんだけど――『勇者』として選ばれた人間に『勇者』専用のスキルが継承されるとかで――クレアさんは俺の前に姿を現したんだ」
「天城のところに?」
「うん」
天城は小さく首肯すると――こう言葉を続ける。
「俺が『勇者』だと知ったクレアさんが俺に協力を求めてきていてね。まあ色々とあって『勇者』の身体の使い方と『聖痕』のことなんかを教えてもらったりしていて――まあその関係で仲良くなって今に至る」というわけだそうだ。で、天城は更にこう言ったのである。
「だから俺としては――クレアさんがこの世界で『勇者』を封印するために動いているのなら協力するつもりで居る。ただ『勇者』がこの世界に居たら俺達の計画はご破算になる可能性が高いし――だから俺達の方は後回しにしたい」
天城の説明を受けた俺は「分かった」と口にする。そんなやり取りの後で、俺はクレアさんの方へと視線を向ける。彼女は笑顔を浮かべるとこんな言葉を紡いでくる。
「私はクレア=クリスティアです。明人、そしてそちらにいらっしゃるメイド服姿の女性――ええと確か――天海さんだっけ? 貴方達に私の知人が迷惑をかけてしまったようだね。済まない」「いいえ。こちらとしても助かりました。こちらにいらした理由は分かりませんが――この屋敷で働いている『明人の仲間の知人』が私の知りたいことに答えてくれるかもしれなくて」
俺の発言を受けてクレアさんが首を傾げる。そんな彼女に対して俺は、
「先程も申し上げましたように、私が『勇者』と呼ばれている者になります」と告げたのである。そうしたら――
「そうか――それならば話が早い。その知り合いに会わせてもらえないだろうか?」と、彼女はこんな要望を口にしたのである。
俺が『勇者』であることを明かした後の流れを一言で言うのであれば――それは実に不思議な流れだった。クレアさんは俺に対して、まるで何かを試すかのように色々な質問をぶつけてきたのである。そのせいもあってだろうか? 俺は自分の口から次々と「俺には隠しごとなど出来ないのだな」と、思い知らされることとなったのだった。例えば「私にはどんな秘密があってもすぐに見抜かれてしまいそうですね」と言われたので俺は「はい。絶対に見抜いてみせますよ」と、冗談交じりの返答を行ったのだが――その瞬間からクレアさんの雰囲気が一変して「やはり、明人は普通の人と少し違う存在なんですね」と言いながら俺のことを見つめてき始めたのだ。
クレアさんの変化を目の当たりにして、俺も警戒のレベルを引き上げることになった。なので――彼女が俺に何を仕掛けてきているのかを確かめようと思い、「何が目的でそんなことをしているんだ? あんたの目的は何だよ?」と問いかけていた。すると――クレアさんは何も答えないで笑ったのだ。それから彼女はこんな説明を行ってくれた。
「今のあなたはとても素敵だけれど、普段のあなたはもう少し違う印象を受ける気がします。で、そんな雰囲気のあなたの方が本来の姿でしょう? そんな風に感じたので、ちょっと試させて貰ったのです」と。その説明を耳にした俺は「ああ。だから俺は見抜けちゃうのですか。成程。だからクレアさんは俺が『勇者の武器』、『魔封の石』、『勇者の身体』、『魔王の身体』と四つの肉体を持っているってことも、それから――『魔王』の魂を吸収したことで新たな力を得ているってことまで分かってしまったんですね」と言った。そうしたらクレアさんは――再びにっこりと微笑んで「そういうことだ」と言ってくれた。どうやら正解だったらしい。そうやってお互いに確認が取れたところで、俺はこんな話題を振ることにした。そう。この場にいないはずの『勇者』の話である。
「そういえば『勇者』はどうしてるんです?」と、天城へと尋ねると彼は「さっき連絡があったんだけどさ――あいつ『王都で買い物して来るからしばらく待っていて欲しい』とか言い出したみたいで――それで現在進行形でこの屋敷に向かっている最中だと思う」との答えが返ってくる。そんな話を聞いていた俺は――こう思うことになる。
――あの馬鹿は本当に何をやっていたのだろう? と。だから、その件について詳しく聞こうと思った俺は――
「それで?
『勇者』のやつはどこで何を買って来たって?」と、天城へ問いただした。すると天城は「俺もよく知らないけど、とにかく凄いのを買ったらしいぜ」と答えた。その返事を受け止めた俺としては「ふーん」みたいな生返事を行うしかない。そうしたら天城が続けてこんな発言をしてくる。
「ところでさ、どうしてお前はそんな格好をしているんだよ?」
その言葉で俺はハッと気がついた。天城の言っている意味が分からなかったからである。で、改めて彼の姿を目にした俺は、こんな感想を抱く。
天城――『天城』という名前は伊達ではない。
天城武史の外見を簡潔に表現すれば『勇者』だと言えるのだ。
そんな彼だが、今はまだ普通の人間にしか見えない。だけど――よく見ればその正体が人間じゃないってことがすぐに分かるはずなのだ。
まずはその瞳。『赤』のカラーコンタクトを使用しているのか、天城の両目は血のような赤色に変化していたのだ。しかも髪の毛まで真っ黒に染まっているから違和感が半端じゃ無いのであった。まあ天城自身はその見た目が嫌なのか「元の色が気に入っているんだけど」と言っているが、俺は天城と出会って間もない頃「元の世界にいた時の色に戻した方が良いんじゃないのか?」と忠告をしたことがあったが――その時に「いや。俺はこの世界の色に合わせることにした」と言っていたのだ。だからまあ天城本人がそう決めているなら、もう何も言わないことにしている。
ちなみに天城武史は『天』の文字と武を組み合わせて名付けられた名前であり、天城と天は関係が無いと本人は説明しているが、そんなことはないと思うんだよな。そして天城の服装に関してだ。
俺の記憶が正しければ彼が着ているのは白を基調とした神官装束である。しかし、今はその上に鎧を着ていた。それも全身にだ。そして腰にも剣が吊るされているし両手の甲には紋章が入っている。更に言うと靴下は白色だし上履きだって学校指定のものだったりするから、やっぱり『天』の字と『城』の組み合わせで名付けられているような気になってしまうんだよな。まあ本人的には全然気に入っていないようで――
「俺は別に勇者って呼ばれなくても良かったのに、勇者って呼ぶのは勝手だよ」
とか言っていたし、天城に聞いても同じような答えが返ってきそうなので俺はそれ以上突っ込むつもりは無い。それに俺としては――そんな風になっている理由も察することが出来るのだ。
『勇者』として『聖痕』と、勇者専用の『聖装』という装備を与えられたからだと。そして――俺の目の前にいる勇者様は俺が想像しているよりも遥かに『勇者』としての力が強大だということに違いなかった。『勇者の武器』、『魔封の石』、『勇者の身体』、『魔王の身体』を全て同時に使用することなんて、普通は不可能なはずだった。なのに天城はそんなことをやってみせたのだ。
『天城武史(あまぎたけし)』
職業:戦士。
年齢:25歳。身長は180センチ程度、体つきはしっかりとしていて筋肉がついているが痩せすぎずといったところだろうか。顔立ちはイケメンというよりは男前という表現が相応しい気がする。髪の色は黒に近い茶褐色。髪型は少し癖のあるショートヘアー。
「俺には分からないよ」と天城は言う。「俺と『勇者』のお前とでは――根本的な部分が違う気がする」と。でまあ、そんな言葉を受けた俺はこう返答を行った。
「確かにそうだね」
「でも、それでも――」
俺は言葉を繋げる。
「今の状況で言えば『俺』は『勇者』のお前の力が必要になるんだ」と。で、そんな風に語り終えたら天城は笑顔でこんな風に答えてきたのである。
「そう言ってくれると嬉しいよ」
そして俺は、こんな風に会話を交わしながらも戦闘を継続させ続けていたのである。だから俺とクレアさんの間に天城を割り込ませることに成功したのだが――
俺がそんな風に考え込んでいたら天城が俺のことを見ながらこんな発言を行いやがったのだ。
『なあ? 俺に代わろうか?』
そんな申し出を俺は即座に断る。「いいや、俺にやらせてくれ」と。
「そうか? 俺の力を試す必要は無いぞ?」
「そんなわけあるか。いい加減にしやがれって話だろ? そもそも俺は、こんな奴らに負ける気がしないんだよ。『天』の文字がついていれば何でも良いのかよって思っちまうレベルだ。ただ――『勇者』を敵に回すのも、それはそれで厄介だ。その点だけ考えると――天城、悪いが少しの間は我慢してくれ」
俺が天城へと告げ終えると同時、今度は『天城』が俺に向かってこんな発言をしてきた。
「お前が戦う相手もなかなかのもんだぜ。だから頑張れ!」と。
そんなやり取りを行っている最中、『勇者』とメイド姿の女性が屋敷に姿を現した。なので俺と天城も屋敷の外に出たのである。そして『勇者』が口を開いた。
「やあ、こんにちは明人。元気そうじゃないか」と、軽い口調でそんな挨拶を口にしたのである。その態度はまさに『俺』がよく知る『天城武史』その人だったのだ。だから俺は「おう。久しぶりだな。それと――この世界に来るのは随分と早かったんじゃないか?」と答えた。そうしたら天城も似たような言葉を返してくれる。
「明人の世界に俺のクラスメイトが召喚されたから助けに行くんだ。そういうことになってるんだよ。で、まあ俺の方も色々とあってな。とりあえずは俺のことは放っておいてくれないかな?」
「ああ、それに関しては理解しているさ」
「それで、そっちのお嬢さんを紹介して欲しいんだけどさ」
そう口にした途端、金髪碧眼の女性が一歩前に歩み出て自己紹介を行ってくれた。しかし、それを見守るだけで特に行動を起こさない天城のことが俺は気になった訳である。そこで俺は『勇者』に向けてこんな質問を行うことにしたのだ。『おい勇者』と、彼の本名ではなく職業名でだけれどね。すると――天城はにこやかに微笑みながらこんな回答を行ってくれたのだ。『どうせなら普段通りの名前で呼んでくれ』――それが本音だと思われる返事だったからね。で、だから『勇者』のことをこれからも天城と呼ぶことにするとして――俺も同じように名乗りを上げようとしたのだけれど――それよりも先に相手の口からこんな言葉が出てきたのであった。
「初めまして『天城君』。私の方の名前はクレアと言います」と。
その言葉で俺は気が付いたのだ。そうか。こいつは天城の『クラスメート』で――しかも女なのか、ってことに。
「お、おまえは?」俺が思わず問いかければ『天城』は「俺が答える必要はないと思うんだけどな」との答え。俺は更に問い詰めようと思ったが「あの、私達急いでいるんです」という、こちらのセリフを見事に潰されてしまった。そんな彼女達の会話が気に入らなかったのか『天城』は『勇者』の顔つきへと変わってしまう。その瞬間に天城の纏っていた雰囲気も変わるので――俺としても何だか面白くない気分になってしまったのである。だから俺は「急いでいるんならさっさと終わらせてしまえばいいんじゃねえのか?」と尋ねてみたのだ。そうしたら天城は――俺に対してこう言ってきたのである。まるで別人のような声音でだ。
――ああ、そうするさ だから天城の様子がおかしいということがすぐに分かってしまった。『勇者』とメイドの女性はその場から姿を消したのだ。恐らくは屋敷の外にいるはずの王女の救出へと向かったのだと思う。で、残された俺は『天城』と戦うことになったのだ。屋敷の中で『神界通販カタログ』を使用し『天城武史』から受け取った『スキルブック』を使用すれば勝てるのかもしれないが――流石にこの状況でそこまでする程無謀にはなれなかったので『神器解放』の使用を諦めることにした。
「俺も一応確認しておきたいんだけど、本当に『勇者』なのか?」
「違う。俺は『天城武史』だ」
そう答えた直後、『勇者』の姿に変化が生じたのだ。全身から魔力らしきものが噴き出してきたからである。しかもそれだけではない。彼は自分の胸元に手を当ててこう叫んだのである。
「我が身に流れる血よ! 我の意思に従い顕現せよ」
するとその直後『天城武史』は光り輝いたのだ。そして俺の目の前には一人の人物が存在していたのである。そう。先ほどまで『天城武史』だと思われていた存在だ。しかし今はもう『勇者』と同じような格好をしているのだから驚きだ。で、その人物は俺に向けてこんなことを言ってくれた。
「俺の名は勇者。天から授かりし聖剣を携えし勇者。この身には『天』の名が刻まれし聖剣が納められし聖剣帯を身に付けし、聖なる『勇者』だ。覚えておくがいい」
いやはやなんとも大層な名前だよ。俺がそう思いつつ呆れた表情を浮かべていると『勇者』は言葉を続ける。
「まあ、貴様が相手だというならば少しぐらい本気で戦う必要がありそうだな」――そんな言葉を告げた後『勇者』が腰に吊るしていた鞘の中から『刀のようなものを取り出していた』のだ。俺は驚いたよそりゃそうだろ? だって――彼が手に持っていた物はどう見ても日本刀なのだものな? ただ、『刀』と言ってもそれはかなり大きい代物でもあった。まあ俺が持つと両手持ちの大太刀といったところだろうか。
『魔王』に『魔王の身体』という反則級の能力を有している今の天城に敵はいないはずだったのである。だから俺達は魔王軍を相手に勝利を重ねていったのだ。そして今現在、魔王軍は俺の所属する国の領土内にある小さな村に存在していた。そこは魔王軍が支配しようとしている地域の中にある村だ。そんな村の中を『俺』は部下と一緒に歩いていた。魔王軍の者達を倒す為に『勇者の武器』と、それに付与される効果を持つ『武器防具』の数々、更に加えて回復アイテムなどを部下と共に手分けしながら購入していったのだった。
「勇者様にこんな雑用みたいなことをさせるなんて」と不満げに語る部下を宥めつつも必要な道具を購入した後、魔王城がある方向を目指して移動していく俺の前に『魔物の集団』が現れたのである。『ゴブリン』、『オーガ』などの、下級に分類されるタイプの魔獣達が数百体は存在しているようだ。まあ正直に言えば『俺一人』の力であれば問題無く倒すことが出来るような相手でしかないのだが、今回の俺は魔王軍の幹部の一人でもある。で、その事実に感づかれたら厄介なことになってしまうだろう。だから――ここは逃げるが勝ちだな、などと考えていた俺の前で信じられないことが起きたのである。
俺が指示を出す前に配下の者が率先して戦闘を開始したのだ。その結果『ゴブリン』『オーク』などの低級のモンスター達はものの数秒程度で討伐されていた。
『天』の文字が入った武具を装備していれば普通の人間であっても、これくらいの力を得ることが可能だということを俺は知ったのだ。そしてその事実を実感した俺は改めて思う。やはり天城と、その仲間たちに任せていて良かった、ってな。まあ、そんな感じのことを俺は考えてしまっていた訳だ。しかし、その直後に起きた出来事は――
「勇者殿」
背後から俺のことをそんな風に呼ぶ人物が声を掛けてきたのである。なので俺はその言葉に応じる形で振り向いてみる。そこに立っていたのは『聖女』の力を持つ少女であった。ただ、彼女は俺に助けを求めるような様子で話しかけてきているわけではなかった。俺に対して敵対心を剥き出しにしながらこちらへと近づいてくる。そして、こんな言葉を俺へと向けてくるのだ。
「お逃げ下さい勇者様」
そんな風に言われてしまった俺は当然困惑するしかなかった。だが、『聖女』は構わず俺に告げ続ける。
「あの男からは――魔王の気配を感じます」
そう口走った『勇者』のことを俺は見つめてしまう。確かに『勇者』の持つ装備品は魔王の力を秘めたものばかりではある。そして――天城の持つ能力のことを考えると魔王の匂いをその身に宿している、という可能性も考えられるのだ。しかしそれでも俺は信じたくなかった。『天城武史』という男が、まさか『魔王』だとは思いたくなかったのだ。だからこそ――俺はこう尋ねたのだった。
「それはつまり――『勇者のフリをした魔王』ということか?」と。すると――
「はい。そう捉えていただいても差し支えありません」
――そう、返された。『聖女』は続けて言う。
「魔王が召喚されてしまえば『天城君』の命が危険に晒されてしまいます。お願いします! あの方の為にもどうかお逃げください!」
そう懇願してくる彼女の瞳を見返しているうちに俺は気が付いた。
――ああ、そうか。この女も『天城』のことが好きなんだな。ってな。
そう思った瞬間に俺は何だか腹が立ってきてしまった。
「なあ、『聖女』さんよ。俺はあいつに助けてもらったことがあるんだよ。だから見捨てるつもりはないんだ。お前さんの言い分が正しいかどうかなんていうことはどうでもいい。ただ、このまま見過ごすことだけは出来ないんだよ。だからさ――悪いが邪魔しないでくれるかな?」そう答えてから俺は右手を伸ばして彼女の首根っこを掴む。すると『聖女』の顔色が一気に青ざめるので――そのまま持ち上げるのであった。
「ゆっ――」
何かを必死に叫ぼうとしたようだけど声にはなっていない。だから無視をして俺は歩き出した。すると後方から「勇者」の配下らしき連中が集まってきたのであった。俺は彼等にも聞こえる声でこう伝えることにした。
「そこをどけよ」と。
そんな言葉を受けた者達は即座に道を譲ると俺は『勇者』の元へと向かうのだった。
◆ 俺が駆けつけた時には既に決着はついていた。勇者は俺の部下達を全員斬り殺した後だったのだ。『勇者』は俺の姿を見て嬉しそうな笑みを見せながら俺に向けてこんなことを口にしてきた。
「おせえぞ天城。早くこいつらを皆殺しにしてくれ」と。
そんな『勇者』の言葉に呼応するように俺の周囲に集まっていた部下達は動き出す。そしてあっという間に戦いが始まったのだ。その最中で俺は勇者と相対することになったのである。勇者は手に持っていた刀を構え直す。その刃には『天』という文字が刻み込まれており、鞘に納められた状態でもそれなりに大きな力を持っているということが伝わってきていたが、今の俺ならばその程度の剣であれば容易く破壊することが出来るはずだった。だが、それにも関わらず勇者はなかなか攻撃を加えて来ない。そこで俺は彼にこう問いかけることにした。どうしてすぐに俺を殺そうとして来ないのか?と。
そうしたところ――勇者はこう口にする。俺にはどうしてもやっておきたいことがあったのだ、ってな。そう。俺は『魔王城』へ乗り込むつもりだったのだ。魔王を倒すことで世界を救った英雄となり、俺は元の世界に帰る為の扉を開くつもりだったらしい。まあ、それを聞いていた時俺は心の底から笑いたくなったけどな。だってそうだろう? 魔王城には俺が召喚されてしまった原因となった『魔道具』が存在する可能性が高い。そして勇者もそれを知っていたからこそ魔王を倒す為に戦っていたのである。しかし勇者はそれを手に入れることが出来なかったのだ。まあ、仕方の無いことであると思う。そもそもの話、彼はこの世界の出身者ではなく異世界からやってきた存在であるのだから、この世界で流通している貨幣など所持していない。そして魔道具を入手するのには当然金が必要になって来るので手に入れる手段が無いのだ。
ただ――そんな状況であっても彼は『魔王』を殺せば元の世界に戻ることができると考えていたのである。まあ、その方法自体は分からなかったのだが。でも、俺も『天城武史』としての記憶と意識を持ってこの世界に転生してしまっている以上、『魔道具』とやらが手に入るかどうかはともかく魔王を討伐することで元いた場所に帰還できる可能性があると考えていたから、その辺りに関しては勇者と同じ考え方を持っていたのかもしれない。だからこそ勇者に提案をすることにした。
一緒に行こう、と。
この世界にはまだ未探索の土地が存在しているのは知っているな?と、そんな言葉を続けていくと勇者は黙ったまま首を縦に振ってきた。
で、それから俺は続けて言うのだ。そこには『魔導国家』が保有していると言われている、俺達が元の世界に戻れる可能性が残されている唯一の場所である、『魔王の宝物庫』と呼ばれる場所も存在しているはずだ、と。
その言葉を耳にして驚いたような表情を浮かべていた勇者に向かって俺は告げるのだ。
――魔王を倒して世界を救ってみないか、と。
俺は目の前の男と話をしていて理解したのだ。こいつは『天城武史』ではない。しかし『勇者』としての力は間違いなく本物であり、それは俺の持つ天城の力に匹敵するぐらいに強力だったのである。
「お前が本当に天城の魂を受け継いだ存在だと言うのなら、魔王を討伐してみせてくれないか」
だから俺はその願いを『勇者』に対して伝えてみることにする。すると――
「天城は俺の大切な友人だ。その友を俺の手で倒すなんて絶対に出来るはずがない」と、そう言ってのけたのである。俺は少しばかり落胆してしまいそうになるのだが――そんな俺の前で『勇者』はこんな言葉を続けてきたのだ。
「だがな。俺は『勇者』だ。この世界を救うために、魔王は倒さなければならない相手なんだ」――
俺はそんな言葉を聞きながら考える。そして、勇者の言っていることを真っ向否定するつもりはなかった。『勇者』が言うように『魔王』という種族は存在していなければならないのだ、と思ったからだ。そしてその為に俺は魔王城を目指しているのだからな。
だから、俺はこう口にしてみた。
魔王城に俺と一緒に向かってくれませんかね、と。
そう伝えたところで勇者は「はぁ!?」という声を上げると目を見開いてしまう。そんな彼に対して、まあ色々とあってな。詳しい事情を説明することは出来んのだけどな。まあそんな感じのことを俺が説明したところ勇者はしばらく考えた後にこう言ったのである。魔王を倒したら元の世界に戻ってくれるんだな? と。その言葉を聞いた俺は「ああ」と答えてから「俺と共に『魔王城』へ向かってくれるか?」と確認を取ってみるのであった。
『勇者』に同行を求めてきた天城について俺なりの考えがある、ということを俺は天城に報告しておくべきだと考えたのだ。ただ、今すぐそれをすることは出来ないので後日話そうと思っているのだが。なのでまずは天城本人に直接会うことにしたのである。ただ、俺が住んでいるアパートを訪れたところで天城の姿はなかったので彼の同僚にあたる女性に連絡をしてみることにしたのである。すると彼女は「お疲れ様です」という言葉をこちらに送ってきた後に、天城の行方に関して答えてくれたのだった。何でも、今日中に終わらせなくてはいけない仕事がまだ残っているとかで帰宅が遅れているのだという。
そんな風に話を聞いた俺はどうしたものだろうか、と悩んだ結果。一度自宅へと戻ることにする。そして妻である結衣の顔を眺めながら、先ほどの出来事を報告してみた。すると彼女はこちらの手を両手で掴むと真剣な眼差しを向けてきて「魔王城に乗り込んでくるって――どういうことなのよ」と言い放つ。そして――「大丈夫なの?」と尋ねてくるのだ。だから――「分からない」と正直に話す。ただ――「魔王を討伐すれば元の世界へ帰してくれると約束してくれたのでな」とだけ答える。俺がそう説明をした瞬間――「そう、良かった」と、そんな呟きを漏らしてくるのだ。その表情は心の底から安堵をしているようだった。きっと彼女も不安に思ってくれていたのだろう、と思いつつ俺は続けてこう口にしていく。天城にはこの世界で俺が知り合った友人が沢山いるのだと。そして彼等はこの世界で幸せになっている人が大半だとも俺は伝えておく。だから、もし彼等と離ればなれになるのが辛いと感じるのならば俺が何とかするから遠慮せずにそう言えよと、そんな内容の言葉を伝えていく。
すると、妻はこちらを見上げてきたかと思うと、笑顔を見せてくれながら「貴方のそういう優しいところが私は好き」と言ってくれたのである。そして――そのまま抱きついてきてくれるので俺は彼女を抱きしめ返すことにした。ただ、そうやって二人で抱き合いながら時間を過ごしている間に天城は帰宅を果たしたらしく俺達の部屋にまでやって来たのである。その時にはもう普段通りの様子だったので、とりあえず一安心をすることが出来たのであった。
ただ、それでもまだ完全に問題をクリア出来た訳じゃないんだよな。結局、天城と俺とのやりとりは妻の知るところとなってしまったからな。俺としては、この件は二人の間でしか通じ合っていない事柄だと考えていたのでちょっとショックだったのだ。でもまあ仕方が無い。これから先は俺の出番だと思う。だから今後は俺も一緒に行動させて貰うぞと伝える。そうして今後のことについて話をしようとしたところ、天城の方からこんなことを言われてしまうのだった。
――魔王のところにはお前一人で行け。俺は別の所に向かう。と。
何とも天城らしい考えだよな。こいつは基本的に自分の興味のある対象にしか目がいかないタイプの人間だから、この世界で自分が生きていくのに十分な能力を手に入れたのならば、さっさと元の世界に帰ってしまおうと考えているのだろう。そんな風に俺は考えていたのだが、天城の言葉を聞いてから暫く時間が経った頃、俺は天城の発言の真意に気付くのだった。つまり天城は『魔導国家』に存在すると言われるという『魔王城』ではなく、別の存在が所有しているという場所に行くつもりだということが判明したのである。
それが一体どこなのかというと、この世界の『神』が管理しているという領域なのだそうだ。
◆
『聖女』は魔王を討伐するために魔王が治める魔王城へと向かうことになる『勇者』の元に向かい、彼に協力を求めることにしたのだ。
そんな彼女が『魔王』が住まうとされている魔王城に向かおうとした理由はいくつか存在するのだけれど、一番大きいのがやはり魔王を討伐することで元の世界に戻る為に必要な道具を入手することができると言われているのが魔王が所持しているとされる宝玉であるという情報を『魔導国家』が保有する諜報機関によって得ていたためである。
『魔導国家』は『勇者』召喚に成功した際にその国で最高の地位を持つ者を『勇者』の補佐役に据えることを決めていて、その役目を担っているのが『魔導国家』に仕える者達の中でも選りすぐられた存在である、通称――『賢者の一族』と呼ばれている者なのだが――彼ら『賢者』達は魔王の宝物庫から宝具と呼ばれる力を有するアイテムを手に入れる為に『勇者』が魔王の宝物庫へ向かうことを勧めたという経緯がある。そして『勇者』が『魔王』を倒すことで帰還が可能になるということを伝えることで『勇者』を焚きつけることに成功し、見事その目的を果たすことに成功したのである。
だが、『勇者』を『魔導国家』の王族達が囲ってしまって元の世界に帰る方法を知る者が居なくなってしまっていたのだが、そこに登場したのが元『聖教会』所属の司祭であり『勇者』と共に異世界からやって来たという存在であり、現在は天城武史として転生を果たしてしまっている人物であった。
ただ、『勇者』と共に『魔王城』に向かった天城はそこで魔道具を入手したことで元の世界に帰ることが出来ると『勇者』に伝えられて喜んでいる最中、その途中でこの世界の管理者が保管している宝具を手に入れればもっと効率よく元の世界に戻ることが出来る可能性があるのではないかと考え付き、そしてそれを実行したいと考えたのであった。
しかしそんな『勇者』に同行を求めようとした天城の申し出は断られてしまったので、『勇者』は別の場所へと向かっていく。その結果、『魔王』の住む場所とは違った場所に天城が訪れることになってしまうのだ。
天城が訪れようとしていた場所の名前は『女神の領域』。その『女神』とやらがどのような人物であるのかは不明だが、その場所は世界の中心に存在し続けているのだと『勇者』は語る。その場所は『魔王』や魔王城の宝物庫のように特別な力を有しており、天城はその力を使って元の世界へ戻る方法を模索できるのではないかと考えて『魔王』の居城を後にしたのであった。
天城が俺達のもとを訪れてきた翌日、俺は『勇者』と共に旅立った。まあ、元々俺には魔王城を目指して出発するつもりだったから丁度良いと言えば良かったのだが、ただ――天城はどうするのだろうと俺は少しばかり疑問を抱いた。昨日の時点では魔王の城に天城と一緒に行くと言っていたはずなのに――俺が天城にそのことを尋ねたところ彼は少し考えてみる必要があると口にしたのである。ただ――そんな天城の反応は少し予想外で俺は思わず苦笑を浮かべてしまった。
そんな俺に対して天城は怪しげな視線を送ってくるので俺は肩をすくめつつ口を開いた。すると彼からはこんな質問を投げかけられてしまうのだった。それで魔王を倒して戻ってくることができたら元の世界へ帰れるようになると聞いたけど本当か? ああ、俺の友人の話によると魔王が持っていると言われている宝玉を手に入れて使用すれば可能なはずだ、と答える。
俺の言葉を受けてしばらく考えた後に天城がこう提案してきたのだ。お前に同行させろ。俺がお前を魔王城に連れて行ってやる、と。その瞬間に俺は驚いた。何故ならば魔王が居る場所は普通では辿りつけない場所にあるらしく――その入口に辿り着くのは非常に困難なのだ。だからこそ天城は俺に協力を求めた訳で。それに、魔王が住んでいるとされている場所というのは俺が住んでいた『勇者』の世界で言うところのエベレスト山頂付近に位置するのだと言う。ただ、この世界の天城はその辺は自由に移動することが可能なようで俺の住んでいるアパートにまで足を運んでくれたという流れがあった。だから天城ならば確かに俺が向かうべき場所への道を切り開くことが可能だと考えられる。
そんな感じで天城から提案された内容を受けた俺は即座に了承をすることにしたのだった。そして俺達は共に旅立つことにした。そんな天城と俺はこの世界で知り合った人達に対して挨拶回りを行い、俺達の姿を見送ることになった人々に見送られて街を出るのだった。
天城はそんな俺の見送りについて何も言わなかったが、その態度だけで十分に理解できることがある。天城は基本的にあまり他人に興味が無い人間で、それはこちらの世界でも変わらなかったらしい。だからこちらの世界で出会った知人と別れた後も俺達は特に感傷を抱くこともなく先を進んでいくことになった。
そんな風に俺と天城との旅路が始まろうとしていた時のことである。
突然のことだったのだ。俺と天城の元に――俺の妻の加奈ちゃんから連絡が届いたのだ。そのメッセージを確認したところ――「大変なことが起きてしまいました」と書いてあった。しかもその後すぐに――天城と俺に向けて動画データを送り付けて来たのである。
一体なんなんだよ、これ、と俺と天城とで困惑しているところ、送られてきたそのデータの再生を行うことにしたのだ。そうして俺と天城とその動画に目を向けていくと――「どうも、お久しぶりです。私ですよ、えっと、その~、あはははは」という聞き覚えのある笑い声と、見慣れた女性が映し出されたのである。
ただ、それが俺達の元クラスメイトだった女の子である加藤さんであることが判明してしまう。そして彼女の背後には見知った顔の女性も映っていて、彼女から説明が行われるのだった。実はですね、と前置きをした彼女は続けてこういった言葉を告げてきたのだ。私はとある理由から天城くんの元を訪れることが出来なくなってしまったのですが、天城くんは無事、ですか?――と。
そう言って、画面越しの加藤さんは笑顔を見せてくれた。でも、俺の隣にいる人物からしてみれば、とても不愉快極まりない出来事だったことだろう。天城は彼女に敵意を露わにするように鋭い目線を向け始めたのだ。そうしてから、どうして彼女がここに存在しているのだと問いかける。すると彼女はその言葉に答えるように語り始めるのだった。
――私がこうして天城君の前に現れたのは、この世界の管理者様が私に天城君の様子を見てきてほしいとおっしゃってくださったから、というのが理由の一つとしてあります。それと天城君もきっと私のことを心配してくれるかなと思って――ごめんなさい、でも、私は天城君が心配だったんですよ。
天城君はこの世界で色々と酷い目に合っているみたいだし、だから――天城君に会いたかったんです、本当にそれだけなんですよ、うん、そうだ、天城君に会えて良かったよ。
天城君の元気そうな姿を見れたから満足しました。だからそろそろ戻りますね。これ以上長く天城君と話を続けているとそれこそこの世界の神様が天城君の行動を管理できなくなっちゃうかもしれないし。天城君だって自分が今置かれている状況って理解できていると思うんだけど――
天城は彼女の発言を耳にしたところで顔を歪めた。
「お前は俺を舐めてんのか?」と低い声で言ったのだ。
ただ、そんな天城の様子を前にしても彼女からは何も変化は見られなかった。むしろ余裕綽々といった感じの笑みまで浮かべていて――、
「ふふん、舐めてなんていないし。まあ、ちょっとばかりこの世界に遊びに来ているだけであって――、本当はすぐに元の世界に帰らないといけないんだよね。だから天城君にはさっさと魔王を倒してもらいたいと思っているわけで、それがこの世界を救ってくれる唯一にして最高の方法なんだからさ、頑張って、ね!」
そこで彼女はウインクをして見せた。そしてそのまま天城に背を向けると手を振りながら俺と天城の視界から姿を消していったのだ。
残された天城の様子はかなり気まずかったが、それでも俺は彼が落ち込むようなことはないと思っていたので気にせず歩き続けることにする。しかしそんな天城は俺に話しかけてくることはなかった。
俺と天城と、それに勇者の仲間である少女の三人は俺の住んでいた街を目指して旅をしていたのだが――俺が暮らしていたその街の周辺に存在していた森に差し掛かった頃合いになって俺は立ち止まった。理由は単純明白、天城に対して声を掛けたくなったからである。
俺が声を掛けてみると天城は不思議そうな表情をしながらも反応してくれた。それで、どうしたのか?――と尋ねてきた。そんな彼に対して俺はこう伝えた。天城が『勇者』であること、この世界の現状や勇者の役割、それから元の世界に戻るには魔王を倒すことが条件であるという話をした。
ただ、そんな俺の話を聞いていてもなお――天城の反応が芳しくないことに俺は内心驚いていた。そんな彼の様子に何か問題があるのではないかと思い俺は天城に質問を行ってみた。天城の身に起きている問題とは何か? と。
すると天城は答えてくれて、それは俺達が暮らす世界とは異なる異世界の人間であるということ。また俺の住む世界で生活を送っている間にその世界を管理する存在である管理者が俺に対して干渉を始めたらしい。それにより天城と勇者が共に暮らすことになってしまったとのことだ。しかし俺が居なかった期間の間に『魔王』が復活する兆候が見られるようになったらしいので天城は魔王の城に向かうために勇者の力を借りる必要があると考えたようだ。なので天城は俺と一緒に魔王が住んでいるという場所に向かいたいと考えていたようで――
だが俺はここで天城の頼みを受けるつもりはないぞ。俺は元の世界に帰る。その方法は『魔王』が持っているとされている宝玉を手に入れるしかないのだろうけど――俺は魔王と戦うつもりはないから。俺の目的はあくまでも『魔王』を倒して俺の世界を救うことだからな。だから――
天城、お前とはここまでだ。お前には魔王と戦ってもらうことになる。俺と別れても構わないから魔王を倒してきてくれないか。そう口にした後で天城の反応を窺おうとしたところ――、彼はこちらを見つめてきて、そんなこと言って良いのか、とか、そんなこと言って良いと思っているのか、などという言葉を繰り返し発してくる。ただ、その発言内容からは天城の怒りを感じることが出来て俺は身震いをするしかなかった。
俺が黙っていると、今度は天城の方がこちらに問いかけをしてきた。お前が俺の世界で暮らし始めてからどれくらいの月日が経ったのか? 俺は一年程過ごしたと答えた。それを受けて天城は少し考えるようにして、じゃあ俺の方で時間軸を調整することが出来ると伝えて、そうか、わかった。じゃあ俺達を元の世界に戻してくれるか、と言った。俺はそれに同意する。
すると、俺達の足元に大きな魔法陣が出現し始めた。それが次第に大きくなっていき、俺達の姿は消えていく。その直前に俺達の姿を目撃したのであろう、この世界の人々からの声援のようなものが聞こえたが、それに対して俺達は答えることができなかった。何故ならば既に俺達は別の場所に移動を始めていたからだ。
転移を完了した直後は周囲に人の姿が確認できたのだけど、しばらく歩いていると、いつのまにかその気配すらもなくなってしまった。ただ、周囲が静寂に満ちているのは変わらないようで――その証拠に遠くに見えた人影に目を凝らすと――俺と同じ服を着ているのが確認できる。ただ、向こう側に見える人達もどうにもこの世界に馴染んではいない感じで、俺の服装と同じように周囲の人々から浮き上がっている感じがあった。ただ、そうはいってもそんな光景を見慣れていなかった俺は特に疑問を抱くこともなくその場から移動することにしたのだった。
俺は今、見知らぬ世界で天城と共に歩んでいる。その途中では様々な出来事が起こってきて、正直言って戸惑うことばかりだった。そんな状況での出来事だった。俺と天城の元に加藤さんから連絡が入ってきたのである。その内容は、加藤さんが俺と天城を心配するような内容だった。そんな彼女に対して天城はこんな言葉を返す。「加藤さんに俺のことを頼まれたってのがそもそも意味が分からない。あの人が俺にどんな感情を抱いていたかってのが理解できないから」
その天城の発言に、そういえば加藤さんはこの世界の管理者によって別の世界からやってきた女性であったことを思い出し、そして俺もその時に管理者を名乗る謎の存在から説明を受けていたことを思い出す。だから天城が彼女の言葉に対して嫌悪感を抱き、更に不信感を覚えるのは自然な流れのように思えた。
「まあ、確かに加藤さんの言っていることも理解できるんだけどな。でも俺達は元の世界に戻れる手段があるかどうかさえ分からないんだ。それにもし戻る方法が見つかったとしても、今の俺はあそこに帰りたくないんだ。あそこには、なにも、ないからな」
そこで天城は俺の顔を見てくると――
俺の方に近づいてきた。そしてそのまま俺の腕を掴み引っ張ってきたのだ。そんな彼にされるがままについていくことに決める。すると俺と天城は先程の森の中で加藤さんと顔を合わせることになった。
「えっと、どうしたんですか?」加藤さんは困惑気味にそう言うと――、
――あれ、どうして? 私の声って二人に聞こえるんですか?
「ん?」天城がそう呟いた。それから俺と天城は視線を交わし合った後で――、 天城、ちょっといいか? ちょっとこの画面に注目してほしいんだ。そう口にしてから『アイテムボックス』の中にしまってあった俺の学生服を取り出す。すると天城は怪しげに眉根を寄せた。そして俺が手に持っていた学生服を着るようにと促すと、戸惑いながらではあるけれど従ってくれる。
そうした後に、俺は自分の方から画面に映し出した。それを覗き込むような形で天城もそちらを確認すると――途端に驚愕の表情を見せ始めるのだった。そんな天城の反応を確認したことで、この画面に表示されていた人物と俺達が知り合っていたことを理解出来た。
そんなわけで俺は改めて画面に向かって語りかけてみることにする。俺と天城は勇者である加藤さんの頼みを聞いてあげることはできないと思うと、そこでようやく気が付いた。この映像は音声を伝えることは出来るようだけど、その逆は無理だということに。だから俺と天城の会話の内容が画面越しの加藤さんに伝わることはないだろうと思いながらも話しかけると、
――そうなんですね、やっぱりこの世界にやってくるのは難しいみたいですね。私としては残念です。せっかく会えると思ったんですが――。
ただ、そこで彼女は悲しそうな表情を浮かべた。しかし次の瞬間には真剣な眼差しを俺と天城に向けてきてくれた。それで彼女はこう言った。――私にはもう他に方法が残されていないんですよ。魔王を倒す以外に帰る方法は今のところ見つかっていないみたいだし。だから私は天城君に協力してもらいたいんだよね、魔王を倒してもらいたいんだよね。お願いしてもいいかな? 俺はその問い掛けに即座に答えようとしたのだが――
そこで天城はこう言った。
「悪いけど断るよ。だってさ、俺のこの世界での存在意義なんてさ、お前を勇者の世界に帰すことくらいしかないんだぜ。だったら俺はそっちを選ぶよ。魔王討伐だって他の人間に任せる。それが一番良い選択肢なんだろ。だったら俺は俺で勝手にさせてもらうよ」
――そうですか、分かりました。天城君のお気持ちはよくわかりましたので。じゃあ、そういうことだと理解しました。私の力になれることがあったらなんでも言ってくださいね! その時、加藤さんの言葉の調子に変化があったことを俺と天城は同時に気付くことになる。それは俺が彼女に話しかけていた時とは違っているものだったのだ。ただそれはすぐにいつも通りのものに戻った。だからその変化は気にする必要のないものだと思えるようになり――俺はそれ以上気にすることはなかったのである。
天城と俺はそれから森から移動を開始した。その際に俺達は森に潜んでいた盗賊達に遭遇する。人数は八人であり、その全員が武器を所持している状態で俺達を取り囲むようにしていた。そんな彼らに、俺はこんな声をかけた。おい、お前達の目的は何だ?――、と。しかし彼らの反応はなかった。そんな彼らに対し天城は一歩前に歩み出ると、「俺達に手を出さない方がいい。でないと命の保証はできないから」と言ったのだった。
その天城に対して俺が声を掛けようとしたところ、一人の男が口を開いた。彼はこちらの格好を見てこんな風に声を掛けてきた。「その装備はどこで手に入れたものだ!? そんなものを着込んでいては目立って仕方ないだろう」
それに対して俺はこんな答えを返すことにした。
「俺はこれ以外持ってないぞ。この世界にやってきてから、この世界で暮らし始めてから今日までの間にこの世界のお金を稼ぐ機会は一度もなかったからな」――その言葉を耳として捉えた者達はその発言内容に驚いたような様子を見せるのだった。そしてその男を筆頭に何人かは俺達の側に寄ってきたのである。
すると彼等が身につけていた衣服が輝き始め――そして俺と天城の目の前には一枚の金貨が現れた。それは俺達の世界にもあった一円玉サイズの金色の硬貨で――この世界に存在している文字が刻まれている。そしてそれを手に取った瞬間に頭の中に直接言葉が流れ込んでくる。その情報の中には俺と天城に関することが記載されていて、
『この貨幣での支払いは可能である。また支払い金額が大きすぎる場合に限りその価値が半減することあり』と書かれていた。
しかしそんな内容の説明は俺以外の誰にも伝わらず、彼らは俺の手にある貨幣に目をやりつつ、どういう仕組みになっているのか分からずに困惑しているようだ。
「天城君が俺に言っていた『スキルカード』をくれたのと同じような感じなのかもな」
俺はそんな言葉を吐きだすと、天城の方を見る。彼は苦笑しつつ肩をすくめており、
「その可能性があるってことくらいは認めるが、別に俺はそんなの欲しいとは思ってないし」
天城の言葉を受けて、今度は俺の方が苦笑いするしかなかった。そんなこんなで俺と天城は彼等と共に行動することを決めたのだった。それからしばらく森の中で歩いていると町が見つか――その町の中に入ることが出来たのである。
俺と天城が最初に訪れたその街は小さな村程度の規模であり、人口自体も多くないようである。そんな場所での出来事である。俺と天城の元にこの世界に訪れたばかりだという少年と少女が訪れた。二人共俺達の姿を見て驚きの声を上げていたので間違いないと判断できる。二人は冒険者を目指しているようで――俺達と一緒に旅をすることに決めた。
その後、宿を確保する為にもギルドに登録することに決め、三人でギルドを目指すことになったのだけど――俺達は盗賊に襲われることになる。そこで俺達は――特に天城は、盗賊の殲滅を優先したのである。その結果――俺と天城の圧倒的な強さによって襲撃された村の人たちを守ることに成功する。ただその際の怪我が原因でその村の人達が天城に心酔するようになってしまったんだけど、これはまあいいか。
とりあえず俺と天城はその日の内に王都へ向かうことに決めて出発するのだった。だが、道中でも様々な問題が発生していくのだった――。
****
***
異世界に転生して三日目。今日から本格的に冒険者の活動を開始するつもりだ。ちなみに俺は天城と共に冒険者として生きていくことを選んだ。だから今後は彼と二人で行動を共にすることになるわけである。天城と共に生活していく上での問題とかはあると思うけれど、でも彼と共にいられる時間が増えていくのだと思うだけで嬉しく感じるのだ。俺は彼のことをとても大切に想っているからな。そんなわけだからこれからは今までのように学校に行く必要もないわけだし、思う存分天城との生活を満喫したいと思っている。
で、そんな天城なんだけど――彼は今、部屋のベッドで横になっていた。昨日の夜に俺達が盗賊に襲われた際、その戦いにおいて俺が負ったダメージが原因だった。そのせいで一晩中寝込んでいたのだ。そして今もまだ目覚めてはいないようだった。俺の意識の中では彼が起きてくるまで待っていてやりたいと思ってはいるんだけど――俺自身は現在、既に目が覚めてしまっている。だからどうしようかなと考えていたら――天城の瞼がゆっくりと開き始めた。そんな天城の様子を見つめながら――
「あ、おはよう、天城」
と、そんな声をかけてみると――天城は「うぅ~」といううめき声のようなものを吐き出す。その様子がどこか可愛く見えてしまったりして、つい微笑ましいものを感じてしまうのだが――そこで俺はふと、この世界の管理者が俺に言った言葉を思い出した。そういえば、
『君に一つ忠告をしておくとね、もし『大魔剣』を『アイテムボックス』に入れたままだった場合は――この世界での時間が止まる。そのおかげで、この世界にやって来てくれた君の仲間達も年を取らないんだけれどね。あと、その仲間達に何かがあった場合でも同じ現象が発生するよ。例えば死にかけの状態でこの世界にやってきてしまったとしても、『ステータス補正(超)』のおかげで傷口が塞がったりしていれば助かる可能性が高いしね。そして――もしかしたら元の世界に戻りたいという願いを持っている君には朗報になるんじゃないかな? その辺りの詳細については、その『大魔剣』(名称に【?】マークが付くようになっているらしい)に触れながら願えば教えてくれると思うしね。その能力の恩恵でね、僕の権限の範囲内では君の願いが叶えやすくなるんだよね。もちろん限界はあるけど。だから僕はね、『大魔剣』の能力について教えることが出来ないんだよね、残念だけどさ――という感じに説明を受けたことがあるんだよな。それで、今の天城の様子から考えると、恐らく『神界通販カタログ』の機能の一つを利用して自分の意思で取り出すか、それとも誰かに渡した時点で自動的に出現するかの二通りのどちらかで、今は後者の状態なのだと思われるのだ。
ちなみにだけど俺にスキルブックを譲ってくれた『魔王』は、この能力を利用して俺に色々なものをくれるつもりだったみたいなんだよね。それが『魔王城』だとか、『転移魔法』だとか。ただそれらは残念なことに『魔王』の力じゃ手に入らないものだったらしく、だからこそ彼女は他の手段を使おうとしていたんだ。そうしないと、俺は『勇者召喚に巻き込まれた異世界人枠の異世界人なのでこの世界の人とは違ってレベルアップ時に取得するスキルの習得速度がかなり遅い』のだから――」
ただ俺の話を聞いた天城は不思議そうな表情を浮かべるだけだ。そしてこう問いかけてきた。
「俺が眠っていた間に何かあったのか?」――そんな疑問の台詞を彼は俺に向けてくる。
その問い掛けに対して俺は答えることにする。まずはこう告げる――天城が眠っている間、俺はこの部屋で待機していた、ということを。それから俺は自分がどのような経験をしてきたのかを簡単に語っていく。そして、その中でこの世界に存在する貨幣を目にしたことなども話していったのだ。天城はその話を聞きながら興味深そうにしていたが――ただ俺の話が一区切りしたところでこんな風に質問してくる。
その硬貨って一体どれくらいの価値がある物なんだ、と――。
それに対して俺は、天城から金貨を受け取ると『魔王』の能力をフル活用することで貨幣に関する情報を調べ上げ、その上で貨幣の枚数を数えた。で、その結果、 金貨1枚が10万円相当であり――銀貨100円、銅貨100円に相当する貨幣が存在することが判明した。ただ、その貨幣が実際に使用されているところを見たことがなかったため、俺達はその貨幣で買い物を行うことは出来なかったのだ。だから俺と天城はギルドに向かうことにした。そこで依頼を受けて、この世界で使えるお金を手に入れようとしたのだ。
****
――天城と一緒に冒険者になるために街へとやって来た俺はギルドを目指す。そこで依頼を探すために掲示板を見てみると、その全てで俺達でも受けることが出来そうな依頼を発見することができた。そのどれもが魔物討伐に関するもので――しかも討伐系のものだ。そんな依頼を見回していたところで俺は気付く――受付のお姉さんに話しかけられている人物の存在に。
それは黒髪の男性だった。背は高く、そして顔立ちも悪くはない。そんな彼に対してお姉さんの態度は随分と親しげなものである。その二人の様子を見ていたら、何故か俺の視線は二人に向けられてしまっていた。それからしばらくしてその男性はその場を去って行くのだけど、そんな彼を見送り終えたところで、俺達のところに女性がやってくる。その女性は――昨日俺と天城がこのギルドにやってきた際に俺達に対応してくれた女性であった。その彼女がこんな風に言ってきたのだ。
「昨夜はご迷惑をおかけしました。昨日の今日でこの世界には馴染めないとは思うのですが――」
彼女はそこで言葉を濁すと苦笑しながら――それでも、この世界を楽しんでいってくださいね、と。
そんな彼女に対し、俺は思わず「えぇと」と言葉を詰まらせてしまった。何故ならば俺はその言葉に対して「俺が元いた世界に帰れるようにお願いしてくれませんか」とは口に出来なかったからだ。
そんな感じで会話をしている最中に天城の方もギルドに到着した。そこで天城は依頼をいくつか引き受けると俺と別れて別の街へと向かうことになったのだった。俺も天城の後を追うような形で街の外を目指すことになる。そんな俺の目の前で天城はゴブリンに襲われている女の子を発見し、その状況の中で女の子を救出するのだった。
*
***
街を出発してから数時間が経過した後――俺と天城はこの世界で初めて訪れた街まで戻って来ることに成功した。だが、ここで問題が発生してしまう。その街に辿り着くまでに俺達は多くの魔物に遭遇し、それらを退治し続けていたのだ。その途中で天城は『大剣』を手にしていて、それで戦えるようになってからはさらに戦いやすくなったのだが――ただ、そのせいで移動スピードが落ちてしまってこの街に着くのが遅れてしまっており、結局ギルドの開いている時間にギルドへ到着することに失敗したのである。
天城はギルドの開く時間を逃してしまったせいもあって――今からすぐにギルドへ向かう必要がある、と言ってきており、それに俺も同意することにしたのだった。そこで俺達はギルドに向かい、ギルド内に入ると同時に中の様子を伺うのだけど――そこではギルドの人間に指示を飛ばしながら忙しく動き回っている一人の男性の姿が目に入ってしまう。その人は、俺達と同じ年頃の見た目をした美形の男性であり――そんな彼こそが、今回の冒険者の仕事を受けてからここまで同行して貰っている冒険者の男だったりするのだ。
ただ俺としてはこの場では彼に話しかけるつもりはなかったのだけど――天城はすぐに彼に近寄ると声をかけた。すると――「お前らか、丁度良かった」と彼は言う。それから、
「この近くで大規模な魔物の大発生が確認されたそうだ。だからこの近くを訪れている冒険者達を掻き集めろということになったんだよ。というわけで悪いが手伝ってくれ。この近くに居る冒険者は皆出払っていてな、俺一人だと時間が掛かりすぎる」――そんな感じのことを言い出したのである。その台詞に対して俺が返事をしようと思うのだが、それよりも先に天城がこう答える。
「分かりました。それなら一緒に行きましょう。あ、それと僕達に出来ることでしたら手伝いますので」
そう言って俺の手を引いていく天城。その天城の行動は間違っていない。確かに俺だって天城のことが大切だから彼の行動を支持するのだけど――そんなことを思っていられなくなるほどの出来事が発生したのだ。
――その男性の冒険者が「じゃあ付いてきてくれ」と歩き出し、その後に続いて俺達が移動を開始しようとした時だ。
「おい」と声がしたかと思うと、突然現れた男性がこちらに声を掛けてきた。
その声に反応するように俺は振り返る。
そこに居たのは、この国の兵士の一人であり、先程までのやり取りの中に出て来ていた人物――『英雄の右腕』と称される程の実力を持った存在らしい。
「お前らが最近この付近で活躍している『英雄の勇者一行』ってやつか?」と兵士が尋ねてくるのだけど、それを聞いても俺は何も答えられない。天城が何かを喋ろうとする素振りを見せなかったのも理由かもしれないけど――ただ一つだけ分かったことがある。
彼が俺達の名前を知っていたという事だけは確かなのだ。ただその理由については思い当たらないため首を傾げてしまっているのが現状なんだけど――
そんな俺の反応が気に入らなかったのか、兵士の顔色が急に変わる。ただ彼はそんな感情を押し殺すようにして俺達に話しかけてきた。
「俺のことは覚えていないようだな――俺の名はライル。ライル=バルディオスだ。忘れたとは言わせないぞ。貴様のせいで俺は――ッ!」
その怒りの言葉に、ただただ戸惑うことしか出来ない俺。そして俺の代わりに口を開いたのは天城だった。
「すいません、あなたのような凄い人が僕の知り合いにいるとは聞いたことが無いんですけど、一体どういうことですか? そもそも僕は、ここの世界に来てからあまり長い月日を過ごしていなくて――なので『英雄の勇者』がどういった存在であるのかを全く把握できていないので、あなたの口から教えて欲しいです」
その天城の発言に対して――『勇者の左腕』と呼ばれる男性は苛立たし気に表情を変える。だが、それ以上に驚いているのが天城の存在なのだ。というのも、そのライルという男性は、俺や天城と年齢が近いと思われる容姿をしていたのだ。そのライルさんはそんな俺と同じような歳に見えるため、俺と同様に異世界の日本から召喚されてきた人だとは思えず――だから俺は混乱してしまった。
そんな俺を他所に天城がさらに何かを言おうとするが、それより前に天城の声を遮るかのようにライルがこう言葉を放ってきたのだ。
――天城に告げるのは自分の方で構わないと。
「天城聖司よ。お前は知らないだろうが――俺の両親はな、俺の本当の両親じゃないんだ。義理の父さん、そして母さんが実の両親ではない」
ライラはそこで言葉を区切り、そして俺達を見据えるとこんなことを言う。
「つまり――俺は『勇者』と『魔王』の間に生まれた子なんだ。そのことに気がつき始めたのは物心がついた後のことだった。俺の家系はその全てが代々勇者と魔王の子を出産してきたらしく、俺は『異質過ぎる存在として産まれてきてしまったために生まれた瞬間に殺されそうになった。そんな俺を救い上げてくれたのが今の親で、親の勧めによって俺はこの世界を旅し、その果てに英雄の勇姿に憧れて――今はこうして旅を続け、そしてその力を受け継いだ子供と一緒に旅をしているところさ」
その説明を受けた俺達の目の前にはライアがいるのだが――ただ、そんな彼の顔には嘘の色が浮かんでいなかったため俺は少しばかりホッとする。
だから俺が思うに、彼は――
「そうなんですね。それで、その――勇者とか、そのあたりの説明って受けていなかったりするんですか?」と。
俺が気になっていたのはそれだったのだ。もしもそういった説明を受けているのならば俺は納得することが出来ると思ったからだ。しかし、そんな風に思うのも無理は無かったはず。
なぜなら天城から「この世界の仕組みに関して何も教えられず、この世界で暮らしている人々にとって当たり前のようにある『常識』を知らないんですよね、僕達」と、そのことについて相談されたことがあったからである。で、そんな風に言われたからこそ、もし仮に天城の説明不足が原因ならばライナも天城と同じように事情を理解していないことになるため――そこから推測出来ることは二つだけだ。一つは、ライナは最初から『異質な存在』で、そのせいで親からも愛されてこなかったのではなかろうかという可能性で、もう一つは、そもそも親からの愛を受けて育った天城が『魔王』の子供として生まれたライラのことを理解できるとは思えない――ということだ。
まあどちらにしろ――ライルが言ったことが本当だとすればライナは親のことやら何やらについて説明を受けていなかったためにこの世界についての理解が全く無いのだろう。そしてそれは俺にも言えることであり――
「俺はこの世界で生まれたわけでは無い。だからその説明は――」
俺は天城に目配せをする。その天城も俺が何を言いたいのか察したようで「はい。お願いします」と小さく呟くように口にしたのだった。そんな二人を眺めていたライムだったのだけど、そこで天城は思い出したかのように「そうだ」と言ってライラルへと話しかけていく。
「えっとですね。僕達は『勇者の左腕』って言われているライアルさんのことを聞いたことがあるんですよ。ほら、この街に滞在している『勇者の剣』って呼ばれている勇者一行の一員で、それで僕達の憧れでもある英雄なんですけど――」
そこまで言う天城に対して、俺達はその人物から色々と話を聞こうとしたのだ。するとライラルが「ほう」と言い――それから「それなら俺から説明するよりは本人に聞くべきだ」と言う。だが――
「あの人のところには行かない方がいいぞ。特にお前達は――今はまだ」
そう言って俺達はライラに案内されるような形でギルドの建物を出て行くことになった。そこでライナがこんな疑問を口にする。
「そういえば――どうして貴方は自分の出生を俺達に明かしたんだい? それに、その――ライラさんだっけ。その人も一緒になって」
俺達がその問いかけを行った直後だった。俺達の背後から声が響いた。それは、
「そりゃあお前達がこれから俺が面倒を見ることになるからに決まっているだろ」
――その言葉に俺達が一斉に振り向くと、そこに立っていたのは――
「お前らは運が良いぜ。なんせ――俺が直々に指導してやることになってるんだからな」
その台詞が意味するところを理解するのは難しいことではなかった。その男の姿を見た天城はすぐに、
「あ、あれがライラさんのお父さんで、『勇者』――?」と。
そんな天城の言葉を受けて俺も「確かに似ている部分はあるが、でも違う。雰囲気が違うし、見た目が全然」
と、天城と同じ感想を抱いたのである。
だがそんな天城達とは異なりライラルさんは特に気にしている素振りも無く、そのまま俺達に近づいてくるとこう言葉を発した。
「俺の名前はレイル。そしてそこの女は――お前らのことは知っている。その髪の色に、顔立ち。間違いなく俺が昔に助けた女の娘達だからだ。そして俺はそいつの父親だよ」
「なるほどね。だからお前等は俺に着いてきてくれるってことか」
ライラはニヤリと笑みを浮かべながらこちらを見て来る。だからそんな彼に向けて「俺達が勝手に決めてしまうような感じになってしまったからさ、本当に良かったのかと思って」と俺が訊ねると――
「別に構わねえよ。俺としては、そろそろ面倒なことから手を引いた方が良いと考えていた所だったから。というか、この国はもうダメだ。だから、俺は――俺達が『魔王』を倒すために必要だと思うことを行いに行く」
「それじゃあ――『魔王』を倒してから次の国に移動するつもりなのか?」
「ああ。そういうことさ」
「だったらさ、俺も連れてってくれないか?」と、天城がそんな提案を行うと、それに続いてライムも、
「じゃ、じゃあ、私も付いて行って良いですか?」と。
その発言を耳にしたライラルは目を丸くしてから呆れたように息を吐き出す。そんなライアの様子に気が付いた天城とライナだったがライルの方は、
「おいライガ、まさかこいつも連れて行くつもりだってのか? ただでさえ戦力が不足してるっていうのに――お前は何を考えてんだよ」と言ったのだ。
「確かにそうかもしれない。でもさ、こいつはライラルの――いや、俺達にとって大切な仲間なんだよ。それにな――こいつの持っている力は絶対に役に立つ」と、ライラは言い切った。それを耳にして俺とライラの目線が交錯するのだが、俺は「大丈夫。任せておいてよ」という意味を込めた視線を送った後で、今度は自分の意思を伝えることにした。俺のスキルの一つ、「鑑定眼」を使えば、相手のことを詳しく知ることが出来るから、と。すると、
「分かったよ。そこまで言われたら、これ以上は何も言わないさ。というわけで改めて――俺の名はレイラ=レヴァンティン。よろしく頼むよ」
そう口にしたライアの顔には笑顔が戻っていて、その隣にいるライナも微笑んでいたのであった。
そんなこんなで『勇者の左腕』と呼ばれるライアさんと一緒に行動する流れになったわけだが、その前にライザが『聖王国』に戻るかどうかについて話をしたいとのことだったので一旦戻ることになったのだ。
ちなみに、俺達と行動を共にしたライアさんは、その後でライザと合流するとすぐにどこかに向かって歩いて行ってしまった。おそらく『勇者の右腕』のところに戻ったのだろうと思うが、一体どこに居るのだろうかと考えながら街の中を歩いている最中――俺の目に『冒険者』のギルドの入り口が飛び込んできたのだ。その建物の中に『勇者の剣』と呼ばれている勇者のいる場所があるらしく、俺はライヤさんと別れた後はそちらに向かうことになるだろうと考えた。そしてそこでライラさんから「まずはお前等の仲間を集めるといい。それからライガ。お前はまずこの世界に慣れることを優先すべきだろうな。この世界に来て日が浅いって話なんだからよ」と言われてしまった。その発言に俺達は揃って頭を下げる。ライラの発言は正しいと思ったからだ。で、俺と天城がこの世界に召喚されて二週間程しか経過していないのだが、その間は色々と忙しくてあまり実感が無かった。そのためこの世界がどれだけ危険なところなのかを知らなかったのだけど――そんな話をされたら俺も天城も同じ反応になってしまう。だからこそ俺は天城に「天城、俺が言うのもなんだが――お前も慣れておいた方がいいかも」と言うと、天城は困ったように苦笑いを浮かべて――そんなこんなで『勇者』と『魔王』の子供達と一緒に行動することになるわけだが、とりあえず天城には先にライラルと合流してもらおうと考えたのだ。というのも、
「この世界のことを知らなければどうすることも出来ないからさ」
ということだ。なので、俺はその旨を天城に説明してあげると、彼は素直にうなずいてくれた。そして天城は「ライガさんとは何処で合流することになっているの?」と言って来たので――
俺達はそこで『勇者の剣』のライラルと合流していたのである。そして、そこで彼はライラルのことを簡単に説明してくれて、それが終わってから彼はこう告げてきた。
「お前達は俺が鍛える。それはいいとしてだ――俺の『ギフト』でお前達のことを調べさせて貰ったが――ライラの娘が天城と神名か。ライラが言っていたことが正しいとすれば――二人は同じ存在ということか。だとすればお前達に力を与えておけばこの世界を救いやすくなるという訳か」
ライアが言った台詞を噛み砕くならば「俺のスキルを使うための条件は、この世界を救うために必要となる可能性がある」ということになる。しかしそんな風に解釈出来る言葉はそれだけでは無かったはずだと、俺が思うに、きっと、ライアは他にも何かを口にしたはず。例えばこんな言葉だった気がする。「お前等にはライルを助けてもらった恩もある。その分も含めて面倒を見させてもらう」とかなんとか言っていたような記憶があるので間違いは無いだろう。
ライナが口を開き――
「その『勇者の剣』の『剣』の部分を貴方に譲って欲しいのですが」
と要求する。それに対してライアは「俺達『勇者の剣』が持つ剣はそれぞれ特殊な力を持つ。だがその全てを知ることは『勇者』の俺ですら出来ていない」
その答えに対して「それはどういうことでしょうか」と訊ねたのはライナだ。その問い掛けに対してライアは「俺はな、その全ての剣の力を把握している。だが、それでも俺の理解の範囲を超えていた。そしてライラルの『魔導剣王術』は俺よりも優れた力でその能力を操りこなしている。だから、あいつに任せるべきだと判断したんだ。だから悪いな。俺は、この力をお前らに渡すつもりはない。それにお前達の実力が俺に劣ると思っているならそれは勘違いだ」と、言うだけ言ってから去って行ってしまう。
そして残された俺達。それからしばらく沈黙していた俺達だったのだが――ここで俺は、俺と天城の二人だけで話がしたかった。だから、
「ちょっと、俺達だけにして欲しい」と、他のみんなにそう伝えたのだ。
すると天城は驚いた表情を一瞬見せてから「僕もそうした方がいいと思います。だって、その――」と言葉を詰まらせる。その言葉は天城にしては珍しいことのように思えるが、おそらく――俺と天城だけが持っている共通点に気付いたからなのだろう。だから天城が何を気にしているのかは何となく察することは出来たが――俺の方からは特に何も言葉を掛けることなく「行こうぜ」とだけ伝えることにした。
俺達がやって来たのは、とある建物の中だった。
「ライナは?」と訊ねれば天城はすぐに答えてくれる。
「ライガさんが『聖王国』に戻ってしまっているらしいです。でもライラルさんにお願いして連絡を取ってもらうことにしました」と。
「それで、何を話すんだ?」
俺が訊ねると天城が首を横に振る。そして「今はただ――ライガさんに話を聞く前に少しだけ、僕の気持ちを伝えようかと思いまして」と、呟いて俺の目を見てくる。だから、
「お前がライナ達を助けたのって、あの『勇者』に惚れたからなのか?」
そんなことを俺が訊ねた瞬間、ライナの顔に驚愕の色が浮かんだのだ。
「えっと、ライガさんのことが好きというか――」と、そんな前置きをしてから、天城は自分の心境を語る。
ライナは、ライラルと『魔王軍』に連れ去られてしまう寸前に俺に助けられたのだということを。それからというものずっと俺に恩を感じてくれていたという。そして、今回のことでその思いはさらに強いものへと変わったらしい。だから彼女は――俺と同じ日本人であり、同じ世界からやってきた天城と友達になりたいと思ったのだということを話してくれた。その気持ちはとてもよく分かるものだったので俺は微笑む。
俺だって、天城と仲良くなりたいと思ったからな。
ただ一つ、天城の言葉に疑問を抱く。どうしてライラさんはライナに天城を『勇者』に近づけようとしなかったのか。それについては「天城さんのお母さんが『勇者』を毛嫌いしていたみたいでしたから」とのこと。
ライラの口からそのことについては詳しく聞いていなかった。そもそも『勇者』の話自体が初めてだったしな。だから俺の方からは特に質問することは無く、ライラルの方に話を向けてみたのだが、彼女からも「勇者がお前のことを気に入ってしまったせいで、私の立場は危うくなる一方だった」という話を聞かされてしまった。どうやらこの世界の人達にとっても、俺とライラの関係というのは複雑怪奇な状況を招いてしまうようだ。俺の方は「あーそうなんですか」と、気の抜けた返事をするしかなかったが、その話をしてくれた時、ライヤは「私はこの世界に残って、ライラとお前の幸せを祈ることにするよ」と言ってくれたのだ。その発言からして俺達は本当に複雑な人間関係を構築しているようだと再認識することが出来た。なので俺は天城と一緒に『聖王国』に向かうことになった。ライナとは『冒険者』として『聖王国』に行く途中で合流することになったのだ。
そんなこんなで俺達は、『聖王国』を目指すことになるのであった。
俺達二人は『聖王国』を目指している最中なのだが――街の中で、とある集団と出会っていた。いや、正確に言えば『勇者』のライラルと出会ったのだ。俺と天城が彼の姿を見つけると彼はこちらに向かって駆け寄ってきて、
「おい、天城。久しぶりだな。元気だったか?」
「あ、ライラルさん。ライガさんから連絡を受けています。無事に合流することが出来ました。それと天城さんはもうライガさんとは知り合いなんですよね?」
「うん。僕は『魔王』の関係者だしね。それよりもライガが言っていたけど、やっぱりライガと一緒じゃなかったか」
「はい。その――色々と事情があって。でもライラが『魔王』であるライザの協力者であるライラルさんと行動することを勧めてくれたんです」と、天城がライラルに告げると、 ライラルは「そうか、まあいい。ライガの奴が俺に会いたがっているそうだ。俺はこのあと『聖王国』に用事があるからお前らはどうするんだ?」と尋ねられた。
「実はライラルさんの言うとおり、ライラルさんと会うことになっていたので『聖王国』に向かおうと思っています」
俺がそんな感じで答えるとライラルは「だったらちょうどいいな。俺も同行させてもらえないか?お前らの実力がどれくらいのものなのか見ておきたい」
と申し出てきた。
「それは構わないが、俺達は『聖王国』に入る許可証を持っているぞ」とライラルに伝えておくと、彼は「ああ、知っている。でも、そういうことじゃないんだよ。ライガとライラルは仲が良いが、俺はライガの『ギフト』によってこの国で行動できる権利を手に入れて、それで今まで好き勝手やって来た。だが、今回からはそれが制限される可能性もあるかもしれない。だからライガには話しておくべきだと思う」
「分かった。とりあえずライラルの話は聞くが――その判断については俺に任せて欲しい。いいな」と俺は口にする。
するとライラルは「いいぜ。お前が俺のことを考えてくれているのは分かってるつもりだ。だけどな、ライガは俺の親友だ。アイツには幸せになって欲しいんだ」
と、ライラルが言い終わるタイミングで天城がライラルの手を握り締めた。
「天城さん――ありがとう」と、彼女がお礼を告げる。天城はライラルのことも友人として大切にしているようで、「僕の方こそライラルさんの役に立てるように努力します」と言い放ったのだ。
それから俺達は移動を開始。『勇者の国』と呼ばれる『聖王国』へと向かう。その道のりでは、ライナが俺達のために『スキルブック』を使用してくれたり、ライナの仲間達との挨拶が行われたりもした。特に『勇者』と顔を合わせた時の天城の喜び様はなかなか面白いものであった。まぁそれはさておいて――
天城曰く『スキルブック』は『異世界召喚』の際に神名が『魔王』と戦うための武器として用意しておいた代物らしい。それを、ライラルは天城達に使わせてくれるという。もちろん天城にとっては喜ばしい出来事だ。だが『勇者』は天城にこう言葉を伝えた。
「これは『スキル』が習得出来る特別な道具でしかないんだ。だからこの先どんな『職業』になろうとも『剣』を使うことが出来るはず」
と、いうことだ。そして『勇者』は俺達の前に立ち、自分の剣を見せてくれたのだが――その刃が『聖剣』と呼ばれているものであるということを俺は瞬時に理解したのだ。しかし『ステータスプレート』に表示されていた『聖剣』の文字が本物だと確認できたのは、この時が始めてであった。
その瞬間、天城が歓喜の声を上げたのだ。
それからライラルが俺に『聖王国』までの道筋について質問してくる。
「ここからは徒歩になるな。馬車を使っても良いんだが、お前らも『魔王』を倒しに来たわけだからその足がある方が楽なはずだろ」
そんな言葉を彼が発すると、天城も嬉しそうな顔をして俺の顔を見てくる。ただ――ここで天城が「その、僕はあまり運動が得意な人間ではなくって」と口にして苦笑いを見せたので、俺と天城の二人だけであれば『勇者の靴』を使用することも出来る。だから天城が「もし良かったら僕達が持っている『アイテム』をお貸ししましょうか?」と言うと、ライラルが少しばかり悩むような仕草を見せる。
ただ、『勇者』という存在は非常に希少だ。それに、俺達の実力を見ておくというのは、今後の活動において重要なポイントにもなるのではないか。
「よし、ライナに頼んでみてくれ。ライナはお前達に興味を抱いていたから」
「分かりました」
俺の言葉に天城はすぐに答えた。それから俺と天城と『勇者』は一緒に行動するということで話はまとまったのだ。そこで、ライナに連絡を取るということになったのだが、その時に俺達を見ていたライラルが「ん?ライナのやつ何か騒いでいないか?」と言ったので、
「本当ですね」
俺がそんな感想を漏らした。
ライナからの言葉を聞くに――『魔王軍』の幹部の一人である『魔獣使い』という女が突然、姿を消したのだという。その事実をライナはライラルと共有するために『魔族領』まで戻ろうと思っていたのだという。だが――どうにも『魔獣使い』はただ姿をくらませたというわけではないらしく――ライナは『魔族の王』の城に向かい、そこの警備状況を確認すると、
「あの女は――既に『魔王』の元に戻っているみたいだ」と、ライラさんが報告してくれたのである。
ただそれだけならばライラさんがわざわざ『魔王城』まで出向く必要は無いはずだった。
「実はな――」と、彼女の話を聞き、その内容を理解するにつれて俺は眉をひそめていったのだ。というのも『聖騎士』と『大賢者』の『ギフト所持者』を配下にしているというその女の『魔眼』の力が非常に気になったからだ。
俺達四人は今、『勇者』の故郷である『聖王国』に向かって旅をしている。だがそこにライナが合流することになった。そしてライナはライラルの言うとおり、仲間達を引き連れて『魔獣使い』が姿を消す少し前の様子を確認しに来ていたようだが、その時に彼女は『聖王国』の様子を窺っている謎の人物を見つけたのだという。そして『勇者』が彼女に近づき何があったのか訊ねてみたら、どうやら彼女から情報を得ることに成功していたようだ。
それを聞いた俺は「それは『魔王』の配下として動いていた時と、同じ状況じゃないか」と思ったのだ。
『魔獣使い』はその力を利用し『聖王国』に潜入し、ライナから情報を探っていた。そして、このタイミングで『聖王国』の内部に潜入することに成功している――つまり、『魔族』と手を組んでいたのだろうと思われる人物が、『聖王国』の内部に存在するということになる。そのことにライラさんやライナが気づいたことで、『勇者の国』の上層部で騒ぎが起きているのだ。
そんな話を聞いていたライラルも、すぐに『聖王国』の内部で騒動が起きているということが分かったようで、天城と俺の方に目を向けてきた。天城も俺の方を見ながら、「僕達は『勇者』のライラルさんが協力を求めてきているのですから『聖王国』へ向かう必要があると思います。だから『聖剣』の件はライガさんに任せます」と言い切ったのである。
『聖剣』が目の前にある状態で天城は「これさえあれば自分は強くなれる!」と思い込んでいるため、どうしても俺が使うのを渋るような素振りを見せているが、それでも俺の考えは変わらない。
ライラルから「ライガに会ってくれるだけでいいんだ」と頼まれたので、「ああ、分かった」と返答して『聖剣』はライガの手に渡しておいた。ちなみに俺の『スキルブック』も、天城に預けることにしたのだ。
その流れの中で、俺の口からこんな説明を行った。「天城は、これからの俺の相棒でもある。『魔王』との戦いにおいても、お前の『聖属性』と『雷属攻撃』による攻撃は非常に大きな役割を果たす。それに、天城はまだレベルが低いから、そのあたりはサポートをしてもらいたいと思っている」と。そんな風に説明すると、天城は「そうです!ライナさんの『聖騎士団』で頑張りますよ!」と言い放ったのだ。その勢いに気圧され、天城の同行を許した『勇者』であったが、その後『聖王国』の『王都』に到着するまでの間、何度も天城を『聖王国』に入れることについての反対意見を述べてきたのだった――
ライラルが同行することになった天城だが、彼女がライガに対して抱いている印象は決して良いものではない。そのため俺が説得をするのは非常に骨が折れたが、ライガは『聖王国』で『魔王』と相対するための切り札的存在であること。その力を正しく使用してもらうために、ライラルには同行してもらった方が良いことを懇切丁寧に伝えると、最終的には納得してくれて――『聖剣』を手にすることが叶った。ただ――
『聖剣』を手に入れたライラルだったが――俺に「この剣はお前が持っていた方がいいと思うんだ」と言って、俺に『聖剣』を渡してくる。なので俺がその『聖剣』を受け取ることにしたのだが、そのタイミングでライナが合流してきたのである。彼女は『魔獣使い』の女の行方を追いながらも、この『聖国』に戻ってきたということだ。ライラルから聞いた話では、やはりこのタイミングで『聖国』に現れたのは間違いなかったようで、ライナはそのことをライナルドに伝えた。
すると、ライナとライラルはすぐに『勇者の国』の『王都』に向かうことになる。そこで、俺達とはいったんお別れだ。『勇者』は『魔族領』に戻るらしい。『魔獣使い』と接触するべく。ライナ達も、この『王都』で『魔族領』の『王』との話し合いの場を設けるつもりらしい。
それから俺と天城は再び行動を開始する。ただ、『勇者』と天城の仲が良くなったことが嬉しかったようで、天城と会話しながら歩く俺を、ライラルは微笑みながら眺めていた。だが俺達を見つめる彼の表情が少しばかり変わった。その理由はすぐに判明した。
ライナは天城がこの世界にやってきた理由を知っているようで――天城に『勇者』になってもらうようにお願いした。その話を聞いた天城が「でも――」と、少しばかりの抵抗を見せかけたのだが――ライナが俺達の元を離れてこちらに近づいてくる。どうやら、少しだけ話があるようだ。
俺は少し離れた場所に移動して――そこで俺はライラルから一つの提案を受けるのであった。
それは、この世界にやって来てしまった『勇者』に――天城という存在が、『勇者』であることを告げない。もしくは隠し通してほしいという内容であった。理由は、
「ライナの話によると、天城くんは元の世界で普通の生活をしている時に、こっちの世界に呼ばれたみたいなんだ。だけど、その時のことは殆ど覚えていない。そのせいで、この世界の人にとっては彼は異世界人であると思えないんだよね。そんな人間がいきなり『伝説の武具』を使えるようになったりすると、変な疑いを掛けられかねない」
ということだ。だから――
天城と行動を共にしていた俺と天城以外の『異世界召喚組』は『勇者』であるということを隠して生活をしているらしい。そして、今回の天城も俺と行動を共にすることで、『勇者』であることがバレないようにするつもりでいるようだが――正直な話。天城の場合は、『勇者』であることを隠す必要はないんじゃないかと思ったのだ。ただ――ライナの話から推測できる天城の性格を考えると、自分が『勇者』であるということを伝えて欲しくないと望むはずだし、その気持ちを尊重するべきだと考えたのである。
そして俺に「まあとりあえず天城くんにこのことを伝えてくれる?」と言われたのである。
「分かりました」と口にした俺は天城のもとに戻ると、彼に『聖剣』を渡すことにする。「これを使えば、俺がお前に教えなくても『ステータスオープン』のやり方を覚えるだろうから、使ってみろ」と言った。
ただ、その前に俺には試しておきたいことがあったので、
「『スキル』についての説明をしたいから――ちょっとだけ待ってもらえるか」と言うと――
「え?どうしてそんなことを言うんですか?ライラルさんから説明は聞いていますよ」
「いや――」
と言葉を返すが――俺はライナから、この『聖国』の現状を聞かされている。だからこそ、ここで説明を行うと後々、面倒事が起こるかもしれない。そう考えたのだ。だが、そんな事情を天城に伝えるのは難しいため――
「俺にも、確認したいことがあるから、頼む」
そう頼み込むと、ライナは「分かった」と言い、そして――『聖騎士』達と共に、その場を離れていくのである。そして俺が説明を開始した。『聖国』では『勇者召喚の儀式』が行われた場所ということで、『聖教会』が管理していたのだそうだ。だが『勇者』が現れず、しかもライラさんがその情報を隠ぺいしてしまったため、この国は今、非常に混乱している状態だと聞く。
そのため『聖教会』の権威はかなり低下してしまった。そのため『聖騎士団』の影響力が増した。そのことで、元々存在していた貴族達が『聖騎士団』に逆らえずにいる。その事実から、俺がライラルに頼まれてこの場所まで来た時、ライラさんは俺のことを『神の御使い』と呼んだのである。それは、ライナも知っていたことで、「あれもそういう設定だからね」とライラルが説明してくれたのだ。その辺りから考えると『勇者』が現れることを望む『聖国』にとって、『勇者』が出現したことは喜ばしくなく――むしろ、『聖剣』を所持している『聖女』や、『勇者』が現れたことに危機感を覚えてしまう者達がいるのではないかと思われた。そしてその不安は、すぐに現実になるのだった。
ライナに言われていた通り、俺が天城から『ステータスオープン』の説明をしていると――一人の女性が俺と天城に近寄ってきたのだった。そして――その女性はこう言い放ったのである。
「あんたがライラル様を困らせているという、勇者の関係者なんだね!」
と。そして――その女性は剣を抜き放つと、「覚悟しろ!『魔王の手先』め!」と言って襲いかかってくるのだった。それを咄嵯の出来事だったため天城が対処する。だが天城は、女性に対して『聖剣』を振りかざすことなどできず――彼女の剣を受けて弾き飛ばす。
すると女性は、
「な、何をするか!お前のような『魔王の手先』を成敗してやる!」
などと口走る。だが――俺は、
「天城!そのまま押さえつけてくれ!」
「わ、分かった」
と、素直に天城は女性の両手を押さえつけて身動きが取れなくなるように抑えつける。すると、その瞬間――
「何やってるんだい!?早くその『魔王』の関係者を取り囲みな!」
と声を上げてきたのだ。すると周りから多くの兵士が集まり始めてくる。
天城は俺の方を見ると、
「ど、どうしたらいいんだ?」
「俺が説明しておくから、とにかくこのまま大人しくしていてくれ!」
「そ、そうじゃなくて!僕は『勇者』のライガからこの剣を受け取ったから、どうすればいいのかと思って!」
「ああ、そうか」
と言いつつも、その問題についてはすでに考えていたため即座に対応を行った。天城の腰にぶら下げている鞘の中から、一つの剣を抜いたのだ。そう――天城のために『魔族領』の鍛冶屋で用意してもらったものである。そしてその柄を手に取った俺は――
『聖騎士団長ライナルド殿。あなたの娘であり『勇者』であるライガ=レイナード殿から『聖剣』をお預かりいたしました』と、『聖王国』の言葉を口にしたのである。
そして、ライラルの名前を出したところで天城が暴れ出すのだが、それもライラルの名前を告げた途端に大人しくなった。
それから俺は周囲に集まっていた人達に向かってこんなことを言っていた。
『この『勇者』が所持している『聖剣』は――『勇者』しか使うことができない。この『聖剣』を使用するためには――この場にて、この『勇者』が『聖剣』を扱うに足る人間であることを示さねばならない』と。で、俺は続けてこう言ったのである。
『もし、この場に集まった兵士達で――天城 勇太という人間が本当に『勇者』として相応しい人物であるかを判断できないような者ばかりであれば――『聖国』はこの場で滅びることであろう。そうなれば、ライナルド様はどのような責任を取らされるか分からない』と。
それを聞いて周りの人達の視線は俺と天城へと向けられた。するとライナルドが慌ててこちらに駆けてきて俺の手を取ろうとする。
「ちょ、ちょっとまってくれ」
「ライナルド様はご息女のことになると冷静さを欠かれるようです。私を信用するなら、まずはこの場を任せていただきたいのですが」
「しかし――ライラルの名を勝手に持ち出されては困るのだ」
「私は――天城 勇太がライナの名を語る許可を得ています」
と、俺は嘘をつく。天城もライナに「名を使っても良い」と許可を得ていると言っていたからだ。そして――天城の『勇者』としての称号も告げておく。そうすることで、俺の言っていることの信憑性を増す。そしてさらに――俺は言葉を続ける。
「この『聖剣』が扱えるかどうかは、私が見極めさせて頂きます」
「ま、まあそれは構わんが――」
「ありがとうございます」
と、礼を述べて俺は、『勇者』である天城が、『聖剣』を振るうことが出来る存在なのかを調べ始めた。もちろん『ステータス』を開いてもらってからである。その結果、天城はちゃんと『ステータスオープン系アビリティ』を覚えることができたので安心した。ちなみにこの世界の人間は、『ステータスオープン』を唱えることで自身の能力を数値化して知ることができるのだ。そうして判明したのが――天城が習得したアビリティは一つだけ――『鑑定能力獲得』という能力だけだったのである。その効果について、
「これは、どういう能力なんだ?ステータスを見ることができるのか?それにしてもレベルは2か」
「いえ、僕がこの世界に来て得たスキルは、それだけではありませんよ」
天城がそう答えたことでライナは驚くが、俺としては予想の範囲内だ。天城には、他にもスキルを覚えてもらっているのだから。
そこで俺は『天城の持つ聖剣が使えるようになるための条件』を説明することにする。
俺の言う条件とは――『勇者ライガが天城を認めて、『聖剣』を手渡したことを証明するために』、ライナルドの口から、その『聖剣』を受け取ること』であった。そのためには『聖剣デュランダル』と引き換えなければならないと伝えると、俺は聖剣を差し出したのだ。ただ、俺も『魔王』に狙われているため、万全を期して聖騎士の一人に見張りを行ってもらうことにしている。そんな話をしてから――俺はライナルドに質問をする。
「で、この『聖剣』の件についてはいかがでしょうか?」
「うむ。確かに娘から預かった『聖剣』である。しかし『勇者』でないライナに使わせていた『聖剣』でもある。それを簡単には渡す訳にもいかん。ライラルは一体何を考えているのだろうか」そんなことを言うのだが――そんなことは俺にとっては分かり切ったことだ。ライナの考えは明白である。彼女はこの『聖国』を救おうと行動してくれている。だからこの『聖騎士』達を引き連れて、この場に現れたのだから。だがそんな説明はできないため――
「おそらく――天城 勇太の実力を測るために試練を与えようとしているのでしょう。それで、もしこの男が天城よりも力があると判断した場合は、その力を自分の物にしようと考えていたのでしょう。そうすればこの『聖国』を救った『勇者』を自分のものにできるからこその行動なのです」
ライラさんのことを詳しく説明せず、適当な理由をつけてそう話すことにした。だが実際――俺の目から見て、この『勇者召喚の儀式』において現れた『勇者』の中でも『勇者』である天城が飛び抜けて優れているということは理解できる。そのことに気付いているからこそ――ライラさんが、その『聖剣』を渡すことで、ライナルドから、天城を取り上げるつもりだったとしてもおかしくはない。
そして俺はライナルドに『勇者』を『魔王の手先』に取られないようにするためにはどうすべきかということも説明する。つまり、天城のことをライナに任せておけばいいというものだ。
それを聞いていたライナだったが――俺の話を聞いたライナはすぐにこう言ってくれたのである。
「それなら――私がこの『勇者』を育て上げるしかないってことね」と。
ただ――ライナの話によれば、すでに天城の力を見抜いているようだ。その上で『聖剣』を託してくれたのだということは、その態度から察することができた。だからこそ俺はこう思っていた。天城が強くなるまでは、この国に残ってもいいのかもしれないと。
天城には、この世界を救うために『勇者』として成長して欲しい。
それが――天城にとって、この世界にやってきて良かったと思うような結果に繋がると俺は思っている。
「この子が『魔王の手先』だって言うなら――『勇者』の力で退治するまでだよ!」
そう叫ぶ女性に対し――俺は、「いいだろう」と言葉を返したのだ。すると周りから歓声が上がる。しかし、女性は俺に向かって「かかってきな!」と言うと襲いかかってくる。俺は『聖剣』を構えた。
女性の攻撃は速いが『剣術系職業』である天城と比べると遥かに遅い攻撃だった。これなら余裕で防ぐことができるし反撃を行うこともできる。そう思い、俺は大きく横に振り払う。その攻撃をあっさり受け止めた女性が、「くっ!」と小さな悲鳴を上げると俺の身体から離れて距離を置こうとする。だけどそれを逃さない。今度は大きく踏み込むと一気に攻撃を仕掛ける。そうしながら、相手を観察するように視線を向けたのだけど、その顔には焦りのような物が浮かんでいるのが見えた。
(この人は――本当に『モンスター』なのか?)
と思えるほどに弱すぎるように思う。そういえば、前に会ったことのある『モンスター』で強い『モンスター』と言えば『オークキング』と戦わされた時ぐらいだ。でもあの時の俺は『勇者』として戦うことができなかったわけだし、比較にはならないけど、今の俺は『レベル1020』で、しかもレベルが1つ上がっている状態。レベル的には1000を超えている。なのに、今戦った感じでは、まったく『強敵』という気がしなかった。だから疑問が湧いて出たのだが――俺はとりあえず戦いに集中しようとしたのだ。だがそこで俺はあることに気付く。
(ん?あれは、もしかして――)
彼女の胸にあるペンダントのようなものに目が留まったのだ。するとそこで――「あ!そ、それは返して貰いますよ」と小鳥遊さんが言ってきたのである。そして俺に手を伸ばしたのだが――俺がその手を避けたため空を掴むことになった。
「こ、この!なんで避けたのですか!」
「えっと、それは――もしかして大事な物だったりする?」
そう尋ねたのだけど――なぜか小鳥遊さんが顔を真っ赤にしたのだ。そして――いきなり剣を振り回してきた。俺はその剣を軽く受け流して後ろに跳ぶと距離を取ったのである。すると「ちょ、ちょっと何するのさ!」と、慌てて俺と小鳥遊さんのやり取りを見ていた天城が文句を口にする。すると――小鳥遊さんは「ふぅー」と息を整えるようにしてから、天城に向けて言葉を放ったのだ。
「ごめんね天城君。これは、とても大事なお守りなんだ」
その言葉に天城は――
「まあ僕には関係無いことみたいだからいいんだけど」
と、言いながら俺と『魔導士』の女性との戦いへと意識を戻した。するとその隙を狙って『魔道戦士』の女性が魔法を発動したのだ。その呪文を俺は聞き取っていた。その詠唱内容を聞いていると、『風属性』の攻撃魔法のようであった。それも『ウインドカッター』という風の刃を複数発射させる攻撃だ。それを『防御魔法障壁』というアビリティを使用し防ごうとしたのだが――その直前に『土属性』と『水属性』を組み合わせた攻撃だと分かった俺は、それを中断させてその場から離れるように移動を始めたのである。その直後、俺が居た場所に無数の風の矢が突き刺さったのを見て俺は冷や汗を流すことになる。もし『土の盾』とかを使っていれば完全にダメージを受けてしまっていただろうと。それに――俺の移動速度が速かったおかげで『魔導士』の女性の『魔力制御スキル』による攻撃を避けられたのは事実である。
「よくかわしたねぇ」と、『魔術師』の彼女が言うと、「ありがとうございます。助かりました」と、頭を下げておく。
そして再び、剣と『刀』とを打ち合い、剣戟の音が響く中、
「ねえ!どうして僕の言うことを信じてくれないのかな!?この人の方が明らかに怪しいじゃない」
天城の言葉に、ライナは苦笑してしまう。なぜなら天城が、目の前の青年を『人間』だと思い込んでいることが良く分かる発言なのだから。ただ――天城の言葉を聞いたライナは、思わず口にしてしまったのである。「あんたが『勇者』ならわかるだろ?」と。そうすればこの天城は『ステータス』を開いて確認してくれると思っていたので――しかしライナの予想に反して天城は、ライナの予想とは異なる行動をしたのだった。
天城が取った行動――それは――天城のことを庇おうとした小鳥遊 彩乃さんの前に立ちはだかることであり、俺に向かって「それ以上近づいたら許さないからな!」と叫びを上げたのである。
俺は「どうした?」と思いながらも――ライナに言われたことを思い出していた。天城のことを「この子には悪いところがあるから」と言っていたライナのことだ。おそらく俺が、何かしらのスキルを使ったと思ったに違いない。それならば天城のことを守らなければと判断するのは間違いではない。ただライナの考え過ぎである。
「いや、俺はお前が『勇者』であると認めたからこそ――こうして聖剣を手渡しているんだ。だから俺は――その『聖剣』が使えるかどうかを確認したいだけなんだ」
「聖剣?」
その天城の反応に違和感を覚えたライナは天城に視線を向けると――「あ、あれ?この聖剣は?」と言い出す。そんな天城を、ライナは不思議そうな表情で見てしまう。しかし、天城の視線が俺の手の中にある『聖剣デュランダル』に移ったのを確認すると、天城が何を言いたいのかをすぐに理解したのだろう。彼女は慌てた様子を見せたのだ。
「まさか――あの『大魔剣』と同じ存在なのか!?」
そう言った後で――「いや、そんな馬鹿なことあるはずない」と、自分で否定をし始めるライラさんだが――天城の顔色が変わり始めたことでライナも気付いたようだ。この少年が持つ聖剣こそが、伝説上に登場する聖女と共に『勇者』を支え続けたとされる『大魔剣』であることに。
ただ俺は、ライラさんが天城が手に持っている聖剣について何かを言う前に行動に出ることにした。それは――天城達に対して攻撃を仕掛けることでだ。俺の持つ『聖槍ブリューナク』から衝撃波が発生する。それをもろに食らってしまったライナ達が地面に倒れた直後、ライナの首筋に『デュランダル』を突き付けると――「これ以上近づかないようにしてくれ」と彼女に警告を発したのである。
ライナはすぐに立ち上がり「降参する」と言ったのだが――ライナが負けを認めたことにより『聖国』の人々が騒ぎ出したので――俺は、そのまま戦いを続けることになったのである。
(まったく、これじゃあ『模擬戦』どころじゃないじゃないか)
ただそのお陰もあり、なんとかライナルドと『魔族』の戦いに介入されるようなことはなかった。もっともそのお陰でライナルドは『勇者』と『魔法使い』の女性と戦うことになり――俺が『勇者』と『聖剣士』の女を相手にしなければならなくなってしまったのだ。
ただ彼等も『元』勇者の小鳥遊 愛里紗(ことり ゆうしゃのことり ありさと)と戦っていたこともあり、かなり消耗しており、動きが遅くなっていたので――特に苦労することなく倒せるようになっていたのだった。だがそれでもやはり俺は『聖剣』を手にしたままなので、油断できない状態が続いていたのだ。
そんな中、小鳥遊さんだけは、俺に近づいてきたのである。俺は警戒して彼女から離れようとしたが――小鳥遊さんは笑顔を浮かべて俺にこう話しかけてきたのだった。
「さっきの私の質問の答え――教えてくれませんか?あ、でも私、口固いですから。天城君にだって言いふらすことはないから安心してくださいね」と。その言葉に嘘はないと俺は思えたので「そうだな。俺が天城のことを育て上げた理由は――あいつを『最強の冒険者』にしてやりたいって思ってるからだ」と正直に話す。そうすることで小鳥遊さんに余計な誤解を与えずに済むと思ったからなのだが――その瞬間に天城の方へと振り返る小鳥遊さんを見て、俺は天城から『勇者の加護』を奪ったことを後悔し始めた。というのも天城が小鳥遊さんに向けて嬉しそうに笑みをこぼす姿を見ることになったからであり――天城は「ま、魔王を倒した勇者として相応しい称号が欲しいと思って」と俺に告げて来たのだ。
その言葉を俺は――
「そっか」と軽く流すことに決めて――戦いに意識を集中させる。するとそこで『魔術師』の女性とライナの二人に意識を向けた時――「あ!」という小鳥遊さんの声に、俺は驚いてしまった。すると小鳥遊さんの胸にあったペンダントらしきものがなくなっていたのだ。
(あれは『魔力回復薬』か!もしかしてライナの仕業?)
俺は『魔導士』の女性との戦いに集中しながら小鳥遊さんの胸にある『ペンダントのようなもの』を見た時にそう思った。そしてそれと同時に『勇者の仲間である小鳥遊』を狙ったことがバレれば、『聖教会本部』『王都支部』からどんな制裁が待っているか想像もつかなかった。それだけ『聖教会』が『魔王』討伐の為だけに作り上げた『異世界の勇者』には厳しい対応をすることが予想されるからであった。だからこそ――ライナには『勇者』と小鳥遊さんを逃がさないようにする為の行動に出ていただく必要があった。
だから「こっちに来ちゃダメ!」と声を上げる小鳥遊さんを「俺が守ってやるから心配するなって!」と言う天城に、「お願いします。絶対に彼女を死なせないでください!」と、小鳥遊さんが必死の想いで懇願した言葉に――天城は、その願いを聞き入れたのであった。
俺との戦いに集中するライナは、その光景に目を奪われたらしく、「あんたら何やってんだよ!こいつから逃げろ!このままじゃ死ぬぞ!早くしろ!」と、叫びを上げた。
そして、天城は、そんなライナの言葉を聞いて「大丈夫だよ。この人は僕の友達なんだ。きっと僕を悪い奴等から助けようとしてくれたんだと思うんだ」と言ってくれたのである。その言葉を聞いてライナは驚きの表情を一瞬浮かべたが、次の刹那には――小鳥遊さんを抱きかかえ、そして――「頼む!」と言い残してその場から消え去って行ったのである。
俺はそれを見てホッとしたのだが――ライナと天城が姿を消したと同時に『魔導士』の女性の攻撃が飛んできたのを見て――『土の壁』を作り出し防御しようとしたのである。だがその時になってライナが消えたことで動揺していた『魔術師』の女性が我に返ると――ライナを追って走り出そうとしたのである。そして彼女は――天城が残した一言を思い出したのであろう。天城の頼みごとを実行しなければならないという思いが彼女の心の中に強く残ったのかも知れない。
『魔族』と化したライナは、そんな『魔術師』の彼女の腕を斬り落とした。その結果として『魔術師』の彼女はその場に倒れることになってしまう。そして俺は『魔術師』の女性の悲鳴を聞き、彼女がライナの一撃を食らい動けない状態であることを知ると――ライナは天城達の元へ向かって行ってしまったのだ。
ただ天城は、そんな俺を責めるようなことはしなかった。天城は、俺が天城を庇った行動によって天城を危険に追いやってしまったことを詫びたが――天城は「気にしないで」と言いながらも俺に向かって「あなたがこの人を傷つけなかったおかげで――僕は生きて帰れそうです」と笑顔を見せてくれたのである。俺は、天城の優しさに救われた気がしていた。しかしその直後のことである。ライナが突然苦しみ始めた。
『大魔王』となったことで得た「勇者の加護」を失ったことによる拒絶反応が出たらしいが――それでも天城達は俺のことを信用してくれている。なので天城達から逃げる為に『聖剣』を地面に突き刺した俺は『土属性』の力を使って、自分の姿を周囲に紛れ込ませたのだった。これで、天城達が『聖王国』から脱出することができるはずであり、彼等と再会できるのを待つことにした。
◆ 私が、天城君のことを『勇者』だと知った時には驚いたけど、彼は私を危険な目に合わせることなく逃がしてくれて――今こうして生きている。それは間違いなく彼のお陰なのだろうと思っていると――私は不意に「どうして」と呟いていた。「どうした?」という言葉に顔を向けると、そこには私の大切な幼馴染みの天城の姿があり、私の身体は、自然と震え始める。そんな様子の天城くんに思わず抱きつくと、彼から優しい抱擁を受ける。そんな状況に安心を覚えたのか――涙が出そうになっていた。
そして、泣きそうになるのを堪えるかのように、私はこんな言葉を天城君の耳元で発することになる。それは「大好き!」ということ。すると天城君は優しく微笑んでくれると「俺もお前のことが好きなんだ」と答えてくれた。だけどその後で「俺は天城を幸せにしてやりたい」と言った後に――私の首筋に唇を押し当てたのである。ただその時の天城君は、何故か辛そうな表情を浮かべており――「大丈夫」という天城君の言葉が気になりはしたものの、それでも今の天城君の行為に身を任せることにした。
(だって好きな人に抱きしめられてキスされてるのよ。幸せな気分になれたっておかしくないじゃない)
そんな風に思っていた私だったのだけど――気が付くと私の着ていた衣服が全て無くなっていたのだ。
私としては――天城君と一緒にいたいし、天城君ともっと一緒にいたい気持ちが強くある。だからこそ、そんな私の裸体を晒してしまった天城君は、恥ずかしいはずなのに、それでも、天城君とこれからも一緒に居たいと、そんな感情が湧き上がってくると――
私は、その日の夜の天城と真希が過ごす寝室の中での出来事を一生忘れることはなかったのであった。それは『勇者の加護』を持つ少年に全てを捧げることを決意した夜のことだった。
真紀が目を覚ますと、既に隣に天城はいない状態だった。「あれ?どこに行ったのかな?」と少し寂しいような思いを抱いたのだが――「まぁ良いわよね。昨日も朝方まで起きていたから寝坊しているだけだと思うし」と独り言を口にしたのであった。
ただそこで、天城の姿が見あたらない代わりに『魔王』となってしまった親友のライナと――聖女として召喚された少女のアリサが一緒の部屋にいたので――「ねぇ?なんで二人はここにいるの?」と尋ねた。
するとライナとアリサは、天城のことが好きで、彼に付いていくことに決めたという答えが返ってきたのだ。
(へぇ~あの子も天城が好きになったのね。これは私にもチャンスが出てきたんじゃない?)
そう思った直後だった。ライナに、いきなりベッドに押し倒されてしまう。
「ちょっ!ちょっと!なにする気!?あんたが私を襲うつもりなら容赦しないわよ!この前だって散々好き勝手やったくせに!」
真紅に染まる瞳の魔王ライナは――その瞬間に私に対して謝罪してきたのであった。しかも――自分が犯したことを全て認めるかのような言葉と共にだ。そしてその言葉で私は、この魔王が嘘を吐いているように見えず、そのことが本当であると知ると――「分かったわ」と言葉を返したのである。
それから「それで?どうしてあなたは私を襲ったの?それもこんな時間になるまで」と問いかけると、ライナは、天城から『勇者の加護』を奪い取って欲しいというお願いをしてくる。そしてその力さえあれば――魔王の力と勇者の力を宿した存在として世界を統一することが可能なのだと話してくれる。そんなライナの言葉を聞いた時だった。真紀の中に、ふとある考えが浮かび上がったのだ。
(もしかして――『勇者』の力を持つ者を魔王化させてしまうことが出来る『スキル』を持っているってことかしら?)
だから私は「それなら私よりも魔王に相応しい人が他にいるんじゃないかしら?そっちの方が勇者を『魔王』化する可能性が高いはずだもの。それに魔王の力を手に入れたところで、『勇者の加護』を宿した人間がそう簡単に死ぬとは思わないの。『聖剣』の力があるからね。だから魔王の力を得た人間なんて絶対に長く生きられるとは思えないの。そんなリスクが高いことを魔王がやろうとは思わないと思うの」と答えると――ライナは、「確かにその通りだな。お前の言う通りだ」と言ってくれた。なので、私がライナに協力する理由は無くなったわけである。だがライナのお願いを断らなかったのには理由があった。ライナが話してくれた内容は興味深いものであり、それを確かめたいという好奇心が、どうしても抑え切れなかったからである。なので、ライナはそんな私の様子に気付くことなく、「協力して欲しい時は、すぐに連絡を入れる」と言うと――私に背を向け、そのまま部屋の出口へと向かって歩いて行った。
ただその去り際に「あ!でもさ、天城って凄いわよね。『勇者』の力でも魔王の力を手に入れても、きっと死ぬことが無いんだろうから。そういう意味だと本当に羨ましい存在かも」という言葉を残したのだ。そんなライナを見送った後、私は再び眠りについた。今度はちゃんと眠ることができたようだ。
ただ私はこの時――「もし仮にライナの言葉が正しいのだとしたら」と考えてしまっていた。「もしも『聖剣』に『聖女の加護』、更に『大魔王』と『勇者』を取り込み『勇者』の力が増幅することが出来れば――勇者の力を超えることが出来るのではないだろうか?」ということをである。だがこの時の私は、そのことを本気で考えたわけではない。それは、ライナが「俺を恨んでいるのではないか?」といった内容の話をしていたからであり――『大魔王』となってしまったライナを救えなかったことを後悔していたのだ。
ただ私は、自分の中に芽生えた可能性に胸を躍らせていると――突然天城からメールが送られてくる。その内容は、これから天城の両親を『聖王国』に送り届けるという内容のものだった。
そんな天城が『転移』させたのは『聖王国』の王都ではなく、そこから離れた小さな村の宿屋の一室らしい。そのことに少しだけ違和感を覚えたのだが、そのことは直ぐに解決した。『魔王の器』が『聖王国王』として君臨することを邪魔する者が居るらしく、そんな人達を撒く為に敢えて王都から離れた村に移動したということだったのだ。
しかし私は天城の両親のことを考えてしまい、少し複雑な心境になってしまう。すると私の気持ちを察してか――「大丈夫ですよ。天城のご両親は『聖騎士団』の中でもかなり上の地位にある人なんですから」とアリサが教えてくれたのである。そんな彼女に対し「なんで知ってるのよ?」と疑問を口にするが――「そんなの決まってるじゃないですか。私達は聖王国から脱出する際に――色々と調査をしている最中だったのですから。まぁ『勇者の器』を持っていた『聖女』が逃げ出したって話は直ぐに広まったからでしょうけど。まぁそのお陰もあって私達のことも、こうして見逃してくれているわけなんだけどね」とアリサは言ってくれた。
(やっぱり、私が眠っている間に色々な事が起こってたみたい。まぁ、私が天城と会う前に何が起きてたとしても関係ないけど。そんなことはどうでもいいわ。だってこれからは私と天城が一緒に過ごせるんだから。それだけは絶対に変わらないことだもん)
私は心の中でそう思いつつ、嬉しさに顔が緩んでしまうのであった。
そして、俺は真紀とライナを連れて『魔族の塔』の最上階を目指すことになった。
その理由はもちろん、真紀とアリサと合流して、二人を安全な場所に連れて行ってあげようという気持ちが一番強いからだ。それに俺自身が、あの二人が居てくれた方が助かる部分が多いからというのも理由の一つである。
まず、真紀と再会できたことに関しては本当に喜ばしかった。だけど真紀から「どうして『魔王』になってしまったの?」と聞かれた際は焦ってしまったのである。
俺が魔王になった経緯を話すことになるのだけど、俺は『魔王の加護』によって記憶を失うことになり、その時に、この世界に来てからの記憶しか残されていなかったと、いう話をすることにした。まぁ、本当のことを全て話す訳にもいかないからな。
真紀は「そうなのね」と呟いた後で、アリサのことについて尋ねて来た。ただそこで、天城とライナのことが気になっていたのか「今どこにいるの?それにあなた達って、これから何処に行くの?」と聞いてきたのである。そんな彼女の質問に対して「二人は、この世界の『神』のところに行こうとしてるよ」と答えた。ただ真紀の口から出てきた「神様に会えるところってどこ?」という疑問に答えることはできなかったのだけど。
真紀はそんな状況にも関わらず「私は行くよ!私は勇者の力を受け継いだ存在だし。天城君と一緒に戦う!」という意思を見せてくれるのであった。ただそこで――アリサも同じような気持ちなのか――勇者の真紀と一緒に行くと言い出したのである。
(確かに二人の気持ちを考えると、この『神』が支配する世界を旅するのは危険なような気がしないでもない)
そう思って「じゃあ、とりあえず『魔王の神殿』で『聖剣』を手に入れることから始めようか」と言うと二人は「うん」と返事をしてくれる。
ただ、そこで一つ問題があるのだ。『魔王の迷宮』では勇者は、その力を使うことは出来ないのだ。
そもそも勇者が持つ加護は、「大魔王を倒す為のもの」であって、『勇者の力そのもの』を宿すことができるものではないのだ。だからいくらレベルを上げたところで、大魔王の力を得た『魔王』に対抗する力を得られるわけがない。つまり、今のライナや真紀に勇者として『聖剣』を使いこなすことが出来ないということになる。
まぁその辺りは、後々何とかなるかもしれないと思っているのだ。なぜなら『聖騎士』になったばかりの頃のライナが『勇者の力』を手に入れて、それでも大魔王に太刀打ち出来なかったという話しを、昔聞いたことがあるからである。
だから、今は勇者の力に頼らず、自分の力で戦っていくしかない。だからこそ、まずは『魔王のダンジョン』の探索をして、少しでも強くなることが先決だと判断したのだ。そうでなければ、いざという時に大魔王に立ち向かうことができなくなる可能性が高いのである。
ただ、俺もライナとの戦いで受けた傷が完全に癒えているわけではないので、しばらくは休まないといけなくなってしまった。なので、その日は『聖王国』の王都に戻ることにする。そして俺とライナと真紀の三人は、宿屋の店主に頼み込んで一部屋借りることにした。するとその日の夜、何故か、真紀が俺と同じ部屋に入ってきたというハプニングが発生したが――そこはどうにか堪えきった。真紀が寝付いた後で、真紀から「私って魅力無いのかな?天城君の好きなように扱ってくれて構わないのに」という言葉を漏らされてしまう。
(いや、正直、真紀のことを嫌いじゃないって言っただけで――いきなりそんなことを言われたって困ってしまうだけだって。それに俺は『勇者の器』を持つ『元聖女』だから――そういう気持ちを向けられないんだよ。そう言いたいのに――なんて言えばいいのかわからない。もしかしてこれって、『好き』って伝えるより難易度が高くないか?だって、『聖女の加護』持ちは、みんなそういう気持ちで『勇者』を好きになるんじゃないのかよ?)
そんなことばかり考えて眠ってしまったのである。翌朝、ライナが朝食を用意してくれた。ライナは俺が起きる前に起きていて、「朝御飯作ったので食べてください」と言ってくれるのである。俺達が食事を済ませるとライナは、「これから『転移』しますね」と言うと俺と真紀とアリサの三人が、ライナが作った「転移魔法」を使って王都近くの森の中に移動したのであった。そしてライナは「ここら辺なら安心ですね」と言うので、「そうか、ありがとうな」とお礼を言うことにしたのだ。
ただライナが俺とアリサを『魔王の城』の傍に送らなかった理由は直ぐにわかった。
何故なら、俺の目に見えた景色の中に、巨大なクレーターのようなものが存在していたからである。
「これはいったいどういうことだ!?まさか天城が戦った跡なのか?」
ライナの言葉を聞いて、俺と真紀はすぐにライナに詰め寄って事情の説明を求めると――「いえ、私がここに来た時は既にこうなっていました。でも多分ですけど、大魔王を倒した後に出来たもののはずです」と答えてくれた。そんな彼女の話を聞く限り、天城は「勇者の力」を取り戻しただけではなく、大魔王と戦った時の力まで取り戻してしまったということなのだろう。しかも天城の持つ大魔王を圧倒する『ステータス』ならば「勇者」よりも格上の相手とさえ戦うことが可能になっていると思われる。まぁ天城の場合は、大魔王と戦う前の段階で『魔王の加護』が消えて『無職(レベルゼロ)』に戻っていると思うから『スキル』は使えない筈だけど。
「とにかく今は、ここから移動しようか。天城のことは俺に任せてくれ。それより、まずはアリサと合流できるようにしないと。それでアリサには連絡を取ってくれているんだよね?」
「はい。私達の知り合いの『聖騎士団』に所属している人に頼んで、アリサさんのところに手紙を渡してもらうようにしました。その人は私と同じような仕事をしているのですぐに見つけてくれる筈ですよ。ちなみに私の上司でもありまして――私の憧れでもある人なので信用できますよ。アリサさんのことを大切に想っていますから。それにアリサさんのところに行った後はアリサさんの彼氏になってあげて欲しいとも言われました」
「そうなんだ」
(それって、アリサを口説いて恋人になれっていう意味だよな?確かに、こんな綺麗な人が彼女だとしたら嬉しいかも。ただその言葉の裏を考えると『アリサが望んでいる男性像』を知っているみたいだし――なんか、その裏が凄く怖いんだけど)
俺は心の中で少しだけ冷や汗をかいてしまうのだった。
それから俺達は、ライナが案内してくれていた森の外れに移動をするのだが、ここで少し疑問が湧くことになる。『聖騎士団』に所属していた者が、どうして一人で行動していたのかということである。それに気がついた瞬間にライナに対して質問をしたのだ。そうしたら彼女は「この近くに、大きな魔素が漂っていたのです。私はそれを感知することができますから、何か起きているのではないかと確認しにここに来ていました」とのことだった。ただこの近くというのは具体的にどの辺りを指しているのか気になったので質問をしてみると、「そうですね、あちらの方角になります」と言って、指差してくれたのだ。
そしてその場所を『魔王の城』がある方向に目を向けながら見つめるのであった。
『魔王の城』の近くまで来た俺達であったが、さすがにこのまま突入をするのはマズイだろうと判断をして――一度、この近くで野営をすることにした。
ただ、その時である。突然、空から何者かが現れたので警戒することになった。現れた存在は女性であり、白いローブのような物を身に纏っており顔も隠していたので正体はわからなかった。
だがライナの話によれば、「おそらく、彼女が『聖騎士』なのだと思います」とのことであった。俺は念の為にライナに「本当に大丈夫なの?この場を任せても」と尋ねてみると「はい。問題ありません。私の方が絶対に強いので任せてもらえれば」と言われてしまったのだ。だから「わかった。お願いする」と言うとライナが動き出す。まずライナはその『聖騎士』らしき者に接近していくと声をかけるのである。
「貴女は、一体何者なんですか?」
ライナの声に反応した女性はゆっくりと振り返る。そこで彼女の姿が明らかになったのだ。それは『聖騎士』の証とも言えるような銀色の甲冑を着込んでいた。ただ『聖女』の真紀はそんな姿を見るなり「うそ!?あの子って、まさか!」と言い出したのである。そんな様子の真紀に対してライナは何も言わずに首を横に振った。つまり「聖女」であることを明かしてはならなかったらしい。
(ライナの反応を見ると「勇者」や「聖女」の存在を隠すのも理由があっての事だと考えられる。もしかしたら大魔王の力を悪用されない為にも、その秘密を明かすことがないようにと決められているのかもしれないな)
ライナの態度を見たことで、そんな風に思うのである。そして『聖女』のライナが「勇者」の力を持っている『聖剣デュランダルの勇者』に近づいていく。ライナも腰に装備をしている剣を抜き放つ。ライナが持つ『デュランダル』は真紀が所持している『聖剣アスカロン』とは比較にならないほど大きいのだ。
まぁそれだけ『聖剣』という存在が強大な力を持つということだろう。だからライナの持っている聖剣デュランダルが特別だということが理解できるのだ。
ライナの聖剣を見て驚く聖騎士にライナのほうはというと冷静に対処していくのである。聖女のライナの攻撃が炸裂したのだ。ただ攻撃は避けられてしまい、ライナはそのまま後方に吹き飛ばされることになる。そこで今度は俺が動くことにした。まず聖騎士が俺を目視で捉えてきた瞬間に身体を「風属性魔法」によって覆うことで姿を消すことにした。さらに相手の意識を奪う目的で『魔王の手』を使い「眠り毒」を放つ。しかし、その『眠り薬』は効果を発揮することはなく聖騎士に弾き返されてしまったのである。(なっ!?今のは、聖騎士の技か?もしかして俺の「眠り薬」は通じなかったとか?)
「どうやら私の魔法耐性は高いようだな」
聖騎士の一言を聞き取ることができた。その台詞を聞いただけで、彼女が普通の「勇者」とは違う存在であることに気がつくことになる。
(やはり「勇者」より上の強さを持つ「聖騎士」がいるのか?いや待てよ?そういえばライナに聞いたことがある。確か『聖騎士』になるのには『聖女』以上の魔力が必要なはずだって。ってことは、『聖女以上』、『聖騎士団』の幹部より上の実力を持つ奴らが「聖騎士」なのか?)
俺はそう考えた後で聖女に向かって攻撃を仕掛けることにしたのだ。するとライナは聖女と戦いながらも聖女に声をかけたのである。
『私達の狙いはあなたではないです。私達が欲しい情報を持っていると思われる方に会いたいのです』
「なるほどな、そういう事なら話は早い。だが、私が何も話さずに通すとでも思っているのか?そんな訳が無いだろう」
「なら話してくれるの?」
「それは、無理な相談だろうな」
聖女の一言でライナの動きが変わったのである。まるで俺達が話して貰えるような環境を作るかのように。しかし聖騎士は余裕の表情でいるのだ。その証拠に「貴様らの負けだ」と言った次の瞬間にライナと俺に対して攻撃をしてきたのである。
「ライナ!俺の後ろに下がれ!」
俺の指示に反応を示したライナは直ぐに俺の背後まで下がると聖騎士の一撃を回避する。そのタイミングで聖女も俺のところに来る。聖騎士は聖女の後ろを取ったのだ。だが俺のスキルは優秀であり、彼女の移動先を正確に把握することができる。だから彼女の動きに合わせる形でカウンターを行うと、そのまま聖騎士を斬り付けることに成功する。だが――『聖騎士団長』として鍛え上げてきた彼女の肉体が『無職』になった程度でダメージを受けるような柔なものとは思えないのであった。そんな感じで再び俺は彼女と接近戦を挑むことになる。すると聖女が動いたのである。俺の方にではなく、ライナに向かって聖騎士の援護を始めたのであった。
聖女の身体強化によりスピードが増したのが分かる。ライナが聖女と激しい攻防を繰り広げる中、俺の方にも『勇者』である聖女と聖騎士が迫ってくる。そして二人は俺を挟み込む形で立ち塞がると、聖騎士の鋭い斬撃を俺に繰り出してきたのだ。俺には二つの「スキル」があるので「状態異常」を引き起こすスキルを使って二人を同時に行動不能にするべく『眠り薬』を発動させる。聖騎士には「聖鎧」を装備されているから『眠り』の状態異常は通用しないと予想された。なので別のスキルを使用してみることを試みる。
「これでどうだ!?【光よ集え】」
俺の発動させたのは『聖魔法』の『聖閃光』だった。この『聖閃光』ならば、どんな相手であってもダメージを与えられる筈だと俺は思ったのだ。『聖女』である聖女に対しては相性的に厳しいかもしれないけど、その分だけ威力の高い『聖魔法』ならば倒せると予想できたのである。
俺の目論見どおりに『聖騎士』にダメージを与えることに成功したのだが、聖女は俺が放った『聖閃光』の魔法を受けつつも平然と立っていたのである。
(くそ、『聖騎士』だけじゃなくて、聖女も普通じゃないんだな)
俺はそう考えながら聖女との戦いに挑んでいった。
聖女と『聖騎士』のコンビネーションを崩すのは容易ではなかった。だから俺は「鑑定眼」を使おうとも考えたが、今は戦闘の最中であるので「鑑定眼」を使うことができないでいたのだ。なので俺は仕方なく、この二人の攻撃を避ける事に注力することになってしまった。ただ、避け続ければ、いつか隙ができるはずと考えていたのだ。だから俺にできるのは『聖騎士』の攻撃から逃げ続けることだけである。しかし、そう上手く事は進まないものである。徐々に俺に疲労が蓄積されて動きにキレがなくなっていくと『聖騎士』の連撃を避けられない状況に陥ったのであった。そして『聖剣デュランダル』の刃をまともに喰らってしまったのである。
「ぐあっ!」
『勇者』の攻撃を受けたのだ。俺の体力は当然削られたわけである。だが「魔王の手」の効果で俺のHPを回復できる能力があった。だからこそ「聖騎士」に反撃するだけの時間は十分にあった。俺はまず聖騎士の身体に『魔王の手』を巻きつけて拘束すると、そのまま地面に引きずり下ろすことにした。
『聖騎士』を引き摺り下ろしていると『聖騎士』に抵抗される。しかし俺は『聖騎士』よりもレベルが高い。『勇者』に『大魔人』。そんなチート的なステータスがあるお陰で聖騎士の力を振り解くことに成功する。それから聖女に向けて聖騎士に使用していた『睡眠薬』を再び使用しようとした。しかしその前に『聖女』が動いたのだ。彼女は俺に対して「聖槍アスカロン」を繰り出すと俺が作り出した「睡眠薬」を破壊してしまったのである。その結果を受けて「やはり、この程度ではダメなのか?」と思ってしまうが聖女の方は余裕を見せているのだ。
「無駄ですよ。『勇者』は聖属性に対する絶対的な防御力を持っています。例え相手が『大魔王』であっても、貴方の攻撃は『勇者』には効きません」
そんな風に説明をする。その言葉を聞いて「大魔王の攻撃も防いでくれるのか?それは便利だな。まぁその防御を打ち破れば良い話なんだけどな」と思うのであった。だが、俺の目の前にいる『聖女』は、どう考えても油断をしている。俺を侮っているというのもあるのだろう。だから「大魔王の力」に目覚めつつある俺が本気で攻め込んだらどうなるのかを分からせてあげようとも思ったのである。
「そう簡単に勝てると思ったか?こっちはお前達と違って色々と特殊な能力を使えるんでね」
俺の言葉に反応したのは聖女ではなく聖騎士の方だった。彼女は俺のことを馬鹿にするような視線で俺の事を睨んできたのだ。そして聖女を庇うように俺の前に立つのである。だが、聖女が聖騎士を止めなかったのが意外に思える出来事でもあった。そして聖女自身は俺と会話をしてみようと言う姿勢を見せたのだ。
「確かに『大魔王』である貴方なら私達に有効な手を打つことが可能でしょう。ですが、私達は聖剣デュランダルと聖剣アスカロン。『大剣』と『聖槍』の二刀流があります。だから、私達には『聖剣』が二つあるのと同じなんです。それでも、私達が有利だとでも言うのですか?」
「ああ、そうだろうさ」
聖女の質問に答えたのは俺ではない。
聖女の後ろに立っている『聖騎士』であった。彼女は聖女の問いかけに答えることで聖女の注意を引いたのだ。そのせいで『聖女』が俺への攻撃のタイミングを逃してしまう結果となってしまったのである。俺にとって、それは好都合であった。
俺には時間がないのだ。今の状況が続くと俺は間違いなく死ぬことになるだろう。それ程までに勇者の攻撃力は凄まじかったのだ。
俺が持っている「聖盾イージス」の能力で「自動再生」すれば助かるかもしれない。だが俺が「自動再生」を使用したとしても、俺の魔力量を超える攻撃を受けると死んでしまう可能性もある。そうならない為には俺自身も「魔王化」する必要があるのだが、「魔王の力」を解放できないのでは意味が無いのだ。だが俺はまだ諦めてはいない。俺には奥の手を一つだけ残しているからだ。それが成功した場合のみ俺の命が救われることになるだろう。
そんな事を考えていたからだろう。俺は『聖女』から繰り出された一撃を避けることが出来なかった。いや違う。避ける気が無かったのだ。俺が受けたのは『聖鎧デュランタル』から発生した「聖なる波動」であった。
「ぐぅっ!」
「なに!?」
俺の声に反応を示したのは聖騎士の奴だ。だが、俺だってダメージを受けたわけではない。その証拠に聖騎士の『鎧』には大きな亀裂が入っていた。
「くそ、『大魔王』ごときに俺の聖鎧を壊すとは」
聖騎士は悔しそうな表情を見せたが、聖女は「あら、この程度も耐えられないなんて、本当に『聖騎士』の称号を持っているだけの男なんですね」と言いつつ、俺に対して攻撃を仕掛けてくる。しかし聖女も聖騎士も勘違いしていることを理解した。
『聖女』の振るった『聖槍』が俺を捉える瞬間。その瞬間に俺はスキルを発動させていたのである。『闇魔法のスキルを発動させる』そのスキルによって、俺を切り裂こうとした『聖槍』は俺に当たる寸前に『消滅』したのであった。
(『闇の呪い』のスキルを使った。これで『聖女』の使う武器は『全て無力化される』筈なんだが)
そう思っていたが、実際に俺が確認すると俺に向かってきた『聖剣』の攻撃を「光のオーラ」で弾いているのであった。しかも弾き返しただけではなくて『聖剣』の攻撃を『消滅』させたのだ。だから聖女も驚愕の顔を浮かべていた。だが、直ぐに笑みをこぼし始める。なぜなら『勇者』が持つ『勇者の力』を俺が使ったのが予想外だったが、結果的には聖女の思惑通りに進んでいると判断したからである。しかし、それを口にする事はない。なぜなら俺には聖女の考えが分かってしまったからだ。だから、この場は様子見で攻撃を続けようとした彼女の動きに先回りして、逆に「攻撃魔法」を繰り出したのである。
俺の繰り出した「火の玉」は『聖鎧デュランタル』の「聖なる力」に負けることもなく、真っ直ぐに飛んでいき、聖女が身に付けている防具に直撃した。その結果『聖鎧デュランタル』は壊れたのであるが、それで終わりというわけではなかった。
「【燃え上がれ】」
俺は更に魔法を発動させると、聖女は吹き飛ばされたのであった。
『聖女』に魔法をぶつけると「魔法無効化」の力で魔法を消すことができるのだが、今回はそれを発動しなかったようだ。なので俺は魔法を消しきれずに聖女が吹き飛ぶのを確認して、聖騎士の動きも止めることに成功する。それから俺は「魔王の手」を使って聖騎士も捕まえることにした。しかし聖騎士は「聖なる光」を放って、魔王の手から逃れようとする。
「ちっ、流石に一筋縄ではいかないな」
そう口にしながらも俺は聖騎士に「睡眠薬」を使うのに成功したのである。聖騎士に睡眠薬が掛かった事で彼女は眠りに落ちる事になる。そうすると「大魔王」に対して抵抗する術を無くしてしまう訳だ。そして俺はそのまま「鑑定眼」を使用してみた。
名前:リリアナ=エルロード
性別:女性年齢:15歳(聖剣を扱えるようになってから時間が経っているから実年齢はもう少し上かも?)
種族:人間
称号:「大賢者」の弟子にして『勇者』の従僕
LONE :聖騎士(聖剣デュランダル使い/勇者パーティーの一員)
状態:健康 職業「聖騎士」
LUK力補正(幸運力+5)
AGI力補正(敏捷力 +3/移動速度上昇+1)聖属性適性 LV4 勇者属性 聖属性耐性 LV10 固有スキル「聖剣アスカロン」使用可能 ユニークスキル『絶対防御障壁』使用可
(聖女の持つ『大聖槍アスカロン』の上位互換か。という事は勇者と聖女で、この二人のコンビネーションをどうにかしない限り、俺の『大魔王』としての力を存分に振るうことは出来なさそうだな。しかし聖女を眠らせて「鑑定眼」を発動させているのに、どうして「ステータス画面」が開かないんだ?まぁいい。聖女の「勇者の力」さえ抑え込むことが出来れば、後は何とかなりそうだからな)
俺は「魔王の手」を使って聖女の『鎧』を外すことにした。聖女も聖剣も勇者から借りたものだからな。壊すのはまずいと思ったから「魔王の手」を使って鎧を破壊することにしたのである。
「よし、これぐらいの大きさなら収納出来るな」
「大魔王」の力は『大魔人』に変化した時から使えるようになっていた。そして魔王化した際にも「魔王の腕」と「魔王の足」と「魔王の頭」を出現させることが出来るようになっている。まぁ「魔王の首」とかは存在しないけどな。ちなみに今の俺のレベルなら、この『腕』『足』は俺の本体とリンクすることが可能になっている。
そして「魔王の体」と合体することも可能なのだった。そう考えると、やはり魔王というのは、ただ強いだけの存在ではないということなのだろう。まぁ「魔王の力」は魔王を討伐しても、そのまま俺の身体に継承されていくみたいだから、俺にとっては嬉しい誤算でもあるのだ。しかしレベルが上がるにつれて魔王化すると意識を保っていられる時間が減ってきているのが辛いところではある。そんなことを思い出していると――「ん?」俺は聖女から奪った聖剣が少し変化していることに気付いたのだ。どうやら俺が『大魔王』に進化したことで、新たな機能が追加されたらしい。
「魔王の心臓」
これが俺が新たに得た「魔王の力」なのだが、魔王は死ぬと必ず魔王として復活する為の核となるものがあるらしく、それは心臓の中に封印されているようなのだ。この力は俺の意志によって発動可能になっていて、魔王化した時だけ使用可能なのである。つまり「魔王の力」を使えば使う程、俺は強くなるわけだ。ただしデメリットもある。それは自分の意思とは無関係に魔王化していくことになるのだ。例えば「勇者」と戦っていてピンチになるとかだと勝手に体が「魔王化」してしまいそうになることがあるので、そういう場合は魔王化する前に気絶させて倒すしか方法がないのである。俺の「魔王の体」は特別仕様で「聖剣アスカロン」で斬り裂かれたとしても簡単に死ぬことはない。その為、魔王化している間に他の仲間が倒してくれるのを期待してもいいだろう。
ただ、魔王化しても勇者の攻撃に耐え切れるかどうかが微妙なところだが、その問題は後で考えればいい。今は聖女の持っていた「聖槍アスカロン」が問題になっていた。実は俺の持っている「魔王の心臓」と共鳴することで、この「聖槍」も「魔王の力」を得ることになることが判明したからだ。そうなった時に聖女と戦うことになったら俺は間違いなく殺されるだろう。
それに聖女の奴も自分が持つ武器を破壊されると、どういう状態になるのか分からないだろうから、今後は注意しながら戦わないとダメになるのだ。
そんな事を考えながらも俺は聖女から奪い取った「聖剣」を「アイテムボックス」にしまい込み、「聖なる力」を纏った「聖女」から奪った「鎧」を着込むことにする。そうして聖女の鎧を着込んだ後に「闇魔法」のスキルを自分に使用したのだ。その結果、俺が「闇魔法スキル」を使った場合、その威力が大幅にアップすることがわかったのである。しかし俺が使う「闇魔法」はあくまでも相手の防御力を下げて弱体化させるだけだが、それでも俺が聖女と戦った場合の勝率を上げるには十分であった。
こうして準備を整えたところで俺は勇者が目を覚ますまで待つことにしたのである。しかし目覚めた瞬間から聖女との壮絶な戦闘が始まるとは思いもしていなかったのであった。そして俺は勇者が目を開いた瞬間に攻撃を加えることにする。
勇者の目が開かれたと同時に「睡眠薬」が効いた状態で「闇魔法のスキルを発動させた」俺は、まず勇者の動きを止めることに成功したのであった。その後すぐに勇者に攻撃を仕掛けた。
だが、その時既に勇者の方も行動を開始している。『光のオーラ』を使い聖槍の一撃を防いだだけでなくて、そこから反撃に移るだけの隙もあったのだから恐ろしい程の反応力である。しかし、俺はその攻撃を余裕を持って防ぐことが出来たのであった。その理由はこの『鎧』のお陰である。俺の『魔王の鎧』を貫通することは、流石に「聖なる光」でも出来ないようだった。
そう考えた上で俺と聖騎士の攻撃を比べると聖騎士の方が、まだ戦いやすかったのだ。だから勇者に対しては『闇の呪い』を使って動きを封じた上で「闇の玉」を使ってダメージを与えていく戦法を取る事にしたのである。俺が放つ魔法は聖女の鎧を破壊して聖女自身も無傷という状態にはさせないが、『大魔人の腕』で攻撃するよりかは遥かに安全である。しかし、聖騎士を俺に任せてくれたアリアナは違うようで、彼女は自ら動き始めた。彼女は素早い動きで「聖魔法」を使う。しかも彼女の持つ『聖弓アスカロン』の能力は聖女と同じ筈なので「聖魔法」が聖女と同じように効果を発揮する可能性があった。しかし聖女とは違って、アリアナが使った「聖魔法」は効果がないようである。
(やはり『聖女』とは違った方法で「聖なる力」を使用しているようだな。ただ、それならば、やり様は幾らでもあるぞ)
「大魔人の腕」の力を開放して「勇者の体」を拘束して、更にダメージを与えることに集中する。だが、聖女も黙ってはいない。聖女が操る『聖なる鎧』は『勇者の鎧』よりも性能は上のようだ。更に聖女が手にした聖剣の「聖なる光」の力により、俺が放っている「大魔人の腕」によるダメージは大幅に軽減される結果になってしまう。そうなれば勇者との聖女との戦いも激しさを増してくる訳だ。
(さて、どうやって勇者と聖女を潰すかが今後の課題だな)
そう思った俺は二人を相手に「闇の呪い」を発動させ続けるのだが、なかなか決着がつくことはなかった。結局のところ、勇者の『光のオーラ』を解除するには、かなりの時間を必要とする。だから聖女相手には時間を稼ぐという方法を俺は選択するしかない訳だ。そうすると必然的に聖女を倒す役目を負うのは勇者の方に決まってしまう訳である。
「くそっ!『聖弓アスカロン』の力を借りているというのに何故ここまで追い詰められてしまうのだろうか? このままじゃ『大魔王』である彼を倒し切れない。どうにかしないと私達の『使命』を達成できなくなってしまう」
勇者は焦りの色を見せているようだな。だけど俺も『魔王の城』を取り戻す為の時間を稼いでいるからお互い様なのだよ。そう考えると俺達は同じ『魔王軍』に所属する仲間なのかもしれないね。そんな事を思っている間にも聖騎士は聖剣を振るい続けていた。そうやって俺と二人がぶつかり合う事で周囲の建物が崩壊し始めていたのだった。
聖女の「大聖槍アスカロン」は「聖属性魔法」や「聖なる力」による攻撃を強化できる能力を有しているが、俺の使っている武器も「闇属性魔法」を強化して、攻撃力を高めることができるので、お互いに聖女が使う聖属性の力を強化するという展開になっていたのだろうな。しかし「魔王の手」を使っているからなのか「魔王の腕」に宿っていた「魔王の力」も同時に使えたので、聖騎士が扱う聖属性の魔力を徐々に弱めていったのだ。その結果「聖女」は聖剣アスカロンを振り回すことが出来なくなっていたのである。俺は勇者の攻撃も聖女が振るう「聖槍」も受け流すことで対応していたのだ。しかし、それも限界が見えてきていた。俺も「魔王の鎧」を破壊されないように戦うので精一杯で、どうしても勇者に「闇の球」を当てることが出来なくなってきたのである。
勇者の方は「聖剣デュランダル」を上手く使って俺と渡り合っているが、「聖盾」は装備していなかった。それはおそらく聖剣アスカロンの力を抑える為に「封印」しているのだろう。「封印」を解けば本来の力を発揮できるのだろうが、聖剣アスカロンと一体化していない状態の「勇者」に勝ち目は薄いと思ったので俺の方から攻撃を加える機会を待っていることにしたのだ。しかし、そんなチャンスは訪れる事はなく時間だけが過ぎていく。そんな状況に業を煮やしたのが聖女の方であった。
「どうして勝てないのです!? 聖剣アスカロンを使えるようになれば聖槍と対等に戦えるのに、どうして聖女として覚醒できないのですか?」
悔しそうな顔をしながら言う聖女。
しかし、それは逆ギレじゃないのか? と思うが、ここは俺が大人になって話をしてあげようと俺は聖女に向かって言葉を発した。
「おい、いい加減諦めたらどうだ?」
そう話しかけた俺の言葉を聞いて、聖女は「何を馬鹿なことを」というような表情を見せた。それで聖女の顔に視線を向けたまま「勇者に聖女の座を譲り渡せば良かったじゃないか。それが一番簡単で楽な解決方法だと思うけど」と言ってやる。そうしたら聖女は不敵な笑みを浮かべて「貴方のような小物に従うつもりはないです」と言うのであった。どうもこの女には俺に対する敬意が全くないような気がする。それならいっそのこと「魔王の手」で殴り殺してしまうかと考えたところで勇者の攻撃を避けるだけで手一杯の状態なのに、ここで攻撃したら俺の身体が持たないだろうと判断する。なので勇者の攻撃を回避しながら聖女に話し掛け続けた。
「君に『聖女の力』がないのに聖剣と融合しても、ろくな戦力にならないのが分かっていたんだろう。聖女の力があれば勇者とも互角に渡り合えただろうが、聖女の力を持っていない聖女では、そもそもまともに戦えないというのが現実だと分かるだろう。それくらい『聖剣』というものは強力だし、勇者というのは『選ばれた存在』なんだからね」
「ええ、分かりましたよ。私の聖女としての力が足りないから勇者に勝てないことはよく理解しました。でも私は『聖なる力』を操れないといけないんです」
「どうして『聖なる力』に拘る必要があるのか俺には全く分からないんだけど」
そう問いかけたところ、聖女は自分の力について語り始める。
聖女の持つ聖女としての役割は世界のバランスを維持することである。その力を使い勇者と共に行動してきたが、自分の聖女の力を使いこなすことが出来ずにいるらしい。そこで聖女としては自分が持っている『聖なる力』の全てを『大魔人の右腕』の中に封じ込めて、俺の右手と融合した状態で『魔王の手』を『大魔人の腕』に変えて、俺と『魔王』の力を合わせて使うことで「魔王の心臓」を手に入れたのだという。だが聖女の話では「大魔人の腕」だけでは「魔王の力」を上手く使えないそうだ。だから「聖なる力」が必要不可欠だったのだと言い切ったのである。
俺はそれを聞いた上で思った。聖女の役割が「世界の調整」ならば「聖なる力」は関係ないのではないかと――しかし、それは違うらしい。
本来であれば聖女の役目は『魔王』の「心臓」を取り込むだけの筈だったが、俺達のせいで魔王を倒されてしまい、しかもその力を奪われて弱体化させてしまったのだ。そして聖女が俺と勇者と戦うことになったのも、全て俺達がやったことが切っ掛けだった訳だ。ただ、これは仕方がなかったのだ。あの時はまだ『魔王の心臓』が不完全の状態でしかなかったからな。俺が「大魔人の腕」を手に入れていなかったので「大魔人の鎧」を纏うことができなかったし、『魔王の核』を使って『闇の魔法人形』を作り出せなかったのだ。
「そういう事情で、私がこの世界に呼ばれた理由は失われる筈だった『聖女の使命』をやり遂げる為だったのでしょう」
そんなことを言う聖女だが、俺にしてみれば聖女なんていう胡散臭い奴が俺の世界に来たとしても邪魔にしかならなかっただろうな。だって聖女は勝手に『聖弓アスカロン』に吸い込まれたので、そのまま放置していても良い状態だったからだ。しかし俺に召喚されたことによって勇者と一緒に戦う羽目になってしまったのだと思われる。本当に迷惑極まりないとしか言いようがないだろう。しかし『大魔王』が復活するには聖女の「聖女の祈り」が必要らしく、だから俺は仕方なく『大魔王の城』に案内することにした。
『大魔王の城』に戻った後、聖女は「聖弓アスカロン」に聖女の力で「聖なる力」を注ぎ込んだのだが、俺が使っている「大魔人の鎧」と違って、そんな事をして意味があるのかなと疑問を持ったが、一応試してみると効果は抜群だったようで、俺が使っていた『大魔人の鎧』のように聖属性の攻撃に対して強くなったのだ。
聖女の方は俺に文句を言って来ることはなかった。聖女は『聖弓アスカロン』に自分の「聖なる力」を注ぐことに集中している。聖女の聖属性の力は勇者の聖属性の力に近しいものだった。勇者の聖属性の力を強化するというよりは、勇者の聖属性の力を抑える感じになるようだ。そう考えたら聖女と「聖剣」の相性はかなり良い。
『大魔王の鎧』を「大魔王の左腕」に変化させることができた。しかし聖女は『聖弓アスカロン』との同化に成功した訳ではなく、俺と同じように聖属性の力を高めることが出来るようになっただけであった。
「聖剣デュランダル」も「聖剣デュランダル」で『聖弓アスカロン』を扱えるようになったのかというとそうではないようだ。聖剣アスカロンの場合は勇者が持つ「聖剣デュランダル」を使えるようにするという能力を持っているからこそ聖剣デュランダルが「聖剣アスカロン」として使用できるようになっていたのだと思う。だけど聖女の持っていた「聖槍」は聖女の力によって聖剣アスカロンとして使うことができている状態になっている。だから勇者の持つ「聖剣」と「聖槍」の両方を使うという器用なことはできないようである。
こうして勇者との戦いを終えた俺は、「魔王の手」で作り出した武器の性能を確認することが出来た。聖剣アスカロンは強力な攻撃力を持っていた。聖剣デュランダルよりも切れ味は鋭くなっていた。そして聖槍の方は勇者の聖属性の力を抑えられるようになった。勇者の得意技である光の矢を生み出すことができるが、俺にとってはそれほど使い道はないと思う。ただ聖属性の魔法や聖なる武器による攻撃を強化してくれたりするので便利なことは間違いないが、それでも聖剣アスカロンの威力の方が圧倒的に強いのは事実であった。それと俺の闇属性の魔力を強化することで勇者の持つ「聖剣」の力を弱めて戦う事ができた。「闇の玉」を当てるだけで勇者を倒せてしまうのは勿体ないなと思ったので、勇者の動きを封じることだけに集中して戦うことにした。勇者が俺の攻撃を「闇の障壁」で防ごうとした時は「魔王の爪」を盾に変形させて、それで「闇の障壁」を破壊したのだ。勇者も聖剣アスカロンを巧みに使って俺の攻撃を防いだが、俺の攻撃が聖剣デュランダルと聖槍を弾くと勇者も攻撃を防ぐ手段がなくなってしまい、俺の「魔王の手」が勇者を掴まえて「大魔王の心臓」が勇者の中にあるのかどうかを確かめると――そこには間違いなく存在していた。しかし「大魔王の心臓」には大きなダメージが入っていたのだ。これでは聖女は聖剣アスカロンの力を十全に発揮することが出来ないのではないかと思う。
「さあ、これで私の役目は終わりました」
そう聖女が言うのと同時に勇者が「貴様!」と言いながら聖女に切りかかった。それを「聖剣」アスカロンを上手く使いこなしている勇者は「聖槍」聖女が扱うことのできなかった『聖弓アスカロン』を自在に操っている。それで聖女を斬ろうとした勇者は「何!?」と言いつつ慌てて飛び退いた。聖女はそんな勇者に向かって言葉を放つ。
「もう、いいんですよ勇者さん。貴方のおかげで私はこの世界を救うことができたんですから」
「何を馬鹿なことを言っているんだ! 俺は『勇者』としての使命を全うしただけだ」
そんな言葉を残して勇者はどこかに立ち去ってしまう。俺としては「勇者」がいなくなってしまったのでどうしたものかと考える。別に「大魔王の心臓」を手に入れた俺としては聖女の命を取る必要はなく、勇者の事もどうでもいいのだ。だから聖女を殺そうとしたところで問題にはならない。
だが勇者は『勇者』という立場を利用して「大魔王の心臓」を手に入れる為とはいえ『魔王の城』の人間に乱暴をしたりしている。そんな勇者を生かしておいても、いずれ同じことをやりかねないと考えたのである。それに聖女からしてみれば「自分の父親を殺した男」ということになるのだ。いくら勇者に「聖女の力」が奪われてしまったと言っても「聖女」は『聖なる力』を操ることが出来る。それを使えば勇者をどうにかすることができるかもしれないだろう。
「私に構わず殺してください。そうしないと私はいつまでも『大魔王』に支配されてしまいます」
俺はその言葉で「大魔王の右腕」から『大魔王の右腕』に形を変える。そして聖女に向けて『魔王の腕』を振るった。すると――「聖なる力」が働いて、俺が振るう『魔王の右腕』を浄化してしまうのだ。やはり今の俺では、この程度の相手しか倒すことは出来ないのかと理解させられる結果になった。なので俺はその場から離れることにする。
俺がこの世界にやってきた本当の目的は『大魔王』を殺すことだ。しかし『大魔王』は封印されてしまったので今はどうしようもないのだと分かる。聖女を殺していたとしても問題は解消されないだろうし、だからといって放置しておくことも出来ないだろう。そこで、これから先、『勇者』が現れたら聖女に助けを求めるつもりだ。『大魔王』を倒した勇者は、おそらくは『大魔王の心臓』を取り込む為に他の勇者と戦っている筈なのだ。
「え? どうして勇者に聖女のことを頼まれたって分かったんですか?」
勇者に頼んでおいた聖女を助けるようにお願いしていたのが何故かバレてしまったようだ。そこで俺は正直に答える。
「いやだって『聖女』が『勇者』に殺されたら聖女の役割が失われることになるじゃないか」
俺の言葉を聞いて、彼女は不思議そうな顔をしたが「そういうこともあるかもですね」と笑顔で言ってきた。
聖女は自分の持つ聖属性の力を使い「聖なる力」を生み出しているが、それは俺のような「異能者」と呼ばれるような存在が持っていても特に意味のない力だそうだ。勇者が持つ『聖剣』のように『聖なる力』を扱うための武器を作り出すという特殊な使い方をしなければ、ほとんど無価値な力らしい。
聖女の『聖なる力』によって「聖なる剣」を作り出した場合、「大魔人」が纏っていた「大魔人の鎧」と似たような防御力を得ることが出来るらしい。だが勇者の「大剣デュランダル」は「聖剣デュランダル」と同じ素材を使って作られたのに、勇者の持つ「聖剣」よりも攻撃力が弱いようだった。勇者と聖女の持つ『聖剣』は「魔王を倒す為」に作られたものだ。だから、そもそも聖剣デュランダルは、聖剣アスカロンや大魔剣マジンギアといったものに比べて「魔王」に対する威力が高いという特徴があるのだと思われる。
『勇者』と『聖女』の力は『魔王』を滅ぼす為にある。だから勇者が聖女に「聖剣」を与えたのだと思う。
ちなみに、あの『勇者』の持っていた『聖剣』が「魔族」の身体を消滅させてしまうほどの効果を持っていたのだが、その理由については俺でも分からなかった。勇者の持つ力が強いという可能性はあると思う。しかしそれだけじゃない理由があるのではないかと思えるほど、凄まじい力を持っているのだ。そして俺は自分の手元に置かれている『聖剣デュランダル』を見つめる。
『勇者の鎧』に宿っている『大魔人の心臓』と「聖剣」の組み合わせが「魔導兵器」よりも優れている点が分かった。つまり『勇者』が使っていた『聖剣』を奪えば「聖女の聖なる力」が手に入る可能性があるのだ。『聖剣デュランダル』が特別な力を持つ理由は『勇者』の力によるものだったのではないだろうか。『大魔王』は、勇者が使うと『魔王』の力を弱められると気付いていたからこそ「聖剣」の力を無効化するために「聖女」を取り込んだと考えられる。
魔王が「大魔王」の力を取り込みたいと思っているならば、魔王が持っている『聖剣アスカロン』を奪うしかないと思う。『聖剣アスカロン』は魔王の力を弱めてくれるはずだからだ。しかし聖女の持つ『聖弓アスカロン』の力が厄介である。この二つの『聖剣』の力を無効にすることが出来るアイテムを作る必要があった。その為には魔王が持つ『魔王の大腕』、『魔王の大盾』が必要になってくるのだ。
「魔王が持っていた全ての武器を集めることができれば最強の防具が作れるんだけどなぁ」
聖女の力は欲しい。だけど聖女が持つ「聖なる剣」を手に入れるのは大変そうだと俺は考えるのであった。
*******
「なっ、何!?」
「おいこいつは何なんだよ! お前は俺達に何をさせるつもりなんだよ!」
俺達は、突如、目の前に現れた巨大な化け物に対して驚愕した。
そいつの全身は銀色に輝く甲冑のようなもので覆われていて、頭部だけは兜を被っておらず人間の男性の上半身が見えていた。その男の顔を見た俺達は絶句した。なんとその男は、かつて『勇者パーティ』の一員だった男『剣聖アルフォンス』であった。
「まさか貴様は死んだと思っていたが、この世界のどこに隠れていたんだ!?」
勇者の問いかけを聞いた『剣聖アルフォンス』が答えを返す。「この世界は、今この時を持って滅びに向かうことになる。その運命から逃れることはできない」と言いながら、彼は剣を抜くのである。『剣聖』である彼が『魔王』との戦いで命を落としたという話は既に聞いている。
そして『魔王軍』に与して多くの罪もない人達を殺して回っていて――しかも『魔王』を復活させて世界を滅ぼそうとしたのも彼であると分かっていた。そんな『剣聖』が生きていたのだ。これは、とんでもない事態であると思えた。だが、それでも『剣聖』の強さには限界があると俺は考えている。『魔王』と戦えるのは勇者と俺くらいなものであり、勇者は俺に聖女を託してくれた。それなのに俺が『剣聖』と戦うわけにもいかないだろう。
「なあ、俺に任してくれないか?」
という台詞を口にしたのは聖女だった。
勇者が「ダメだ!」と言うのを無視して聖女は「勇者様は『大魔人』との戦いに備えて魔力を残しておいてください」と言ってから『魔王の手』を生み出す。それを『魔王の手』に変化させた聖女は「闇の玉」を作り出した後に聖剣アスカロンと聖弓アスカロンの二刀流を構えた。
聖女が作り出した『魔王の腕』で攻撃しても、勇者の持つ二振りの聖剣には傷一つ付けることは出来なかったのだ。なので聖女が「大魔王の力を取り込んでいるのは私です。貴方の出番はないですよ」と言って笑う。そして『魔王の腕』の攻撃によって発生した衝撃を受け流し――「光の矢」を作り出したのである。
聖属性を帯びた光り輝く矢によって射貫かれた『剣聖』だったが――やはり彼の纏う『聖なる鎧』を突破することが出来なかった。
しかし彼は聖女の持つ聖属性の力によって、かなり苦しんでいるようだった。『聖女』の『聖剣』や『聖槍』で受けた時の痛みは相当なものだと前に言っていたことがあったのを思い出す。だからこそ俺は『魔王の手』に聖女を乗せるようにして移動して、『魔王の手』を変化させた「槍」の先に「闇魔法:ダークネススフィア」「風魔法:ウインドバースト」「水魔法の刃化能力を発動してから放ってみたのだが『聖なる鎧』を貫くことが出来ないようだ。だが「聖なる鎧」にひびが入るのを確認する。
俺は続けて、もう一度、「闇魔法:ダークネスボール」で攻撃を仕掛けることにする。『大魔王』が俺に憑依している時であれば「闇属性」の能力も使用可能になっていたが今は無理だ。それに「聖女」に「魔王の力」を奪われたことで俺に使える力は、ほぼ無くなっていた。
そういえば聖女が持つ『聖なる力』を無効化する「聖なる鎧」を何とか出来ないものだろうか?
「聖剣」が装備できない状態になってしまったら聖女の戦力が大幅に落ちてしまうのだ。だから、せめて「聖なる鎧」だけでも何とか破壊できる手段を見つけたいところだ。俺は「魔王の手」で『魔王の鎧』『魔王の脚甲』を作り出すと、それに聖属性の効果を付与することに成功した。しかし「聖剣デュランダル」でないと効果が薄いらしく、結局は「聖なる鎧」にヒビを入れるだけで精一杯だった。
「うおおぉぉー!」
『勇者』の気合いが入った叫び声と共に「勇者の剣」によって『剣聖』が纏う「聖なる鎧」が切り裂かれ、粉々になる。それと同時に『剣聖』の動きが止まり、そのまま地面に崩れ落ちた。
「終わったな」
俺は「そうだね」と答える。『剣聖』の死体は、そのまま放置することに決めて俺と『勇者』はそのまま先に進むことにした。
聖女が言うには『剣聖』の魂を『大魔人』に利用されない為に「浄化の力」を使って「聖なる鎧」と一緒に「聖なる剣」の中に封じ込めるつもりだったようだ。しかし聖女が「聖なる剣」に『聖なる力』を込めることに成功できず失敗してしまう。それで聖女の『聖なる剣』では聖属性の力しか使えなかったのだ。そこで聖女の『聖剣アスカロン』を貸してもらうことになったのであった。聖女の武器が「聖剣アスカロン」に変化したからといって勇者の『勇者の鎧』が強化できるようになる訳ではなかったが、それでも「聖なる鎧」の強度は上がったらしい。これで少しだけ戦いやすくなると思う。
ちなみに聖剣アスカロンは勇者の剣と同じく非常に攻撃力が高い剣のようで、さらに聖剣デュランダルよりも攻撃力が高いように感じられた。おそらく勇者の持つ『勇者の剣』よりは、この聖剣アスカロンの方が強かったのではないかと思える。
『勇者の剣』が魔王の武器に対抗できるように、『勇者のアスカロン』が聖剣アスカロンに勝ったのだと考えられるのだ。
「聖女が『勇者の剣』を使えないのが問題だよね」
「確かにそれは困った状況だけどさ。聖女さんが、どうにかするって言ったんだし大丈夫だよ」
俺が「そうなんだ」と言うと、勇者は「きっと上手くやるよ」と答えた。そして「勇者の鎧」の性能について話し始めた。
『大魔人の力を吸収して進化した』と言っていたけど『魔王』の力を取り込み続けている俺と勇者が、もしも「大魔人の力」を吸収することが出来れば、その力を制御出来るようになるのかもしれない。そんなことを考えていると『大魔王』が話しかけてきた。
《お二人共、その可能性については十分に考えられます》 俺はその可能性についても考えたことがあると告げる。そして――『大魔王』は「大魔王」の力を完全に取り戻せば、あの聖女を操っている奴を倒すことが出来ると思うんだ。
そんなことを俺が口にすると勇者と『大魔王』は「なあ、その作戦、本当に上手くいくのか?」と言ってきた。それに対して『大魔王』が言うのだ。
「私ならば出来ます」と。それから続けて――
「私の持つ全ての力を解放する為には時間が掛かりますから。それまで、どうか時間を稼いで欲しいのです。私を完全な状態で復活させて下さい。私が完全に復活した後ならば『聖女』を支配する力を持つ者を打ち破ることができると思います」という説明をしたのだ。
「なあ、どう思う?」
「ああやって自信ありげに言っているし大丈夫だと思うんだけどなぁ。とりあえず、やってみて駄目だったら別の方法を考えればいいんじゃないか? ただ時間を掛け過ぎないようにした方がいいとは思うけどさ。でも正直なことを言うと俺は魔王と戦うつもりは無いんだよね。だって俺は『魔王』を倒した時に得られる筈だった莫大な財宝を独り占めするつもりなんだ。その目的がある以上、ここで魔王と戦うわけにもいかないしさ」
「それも分かる。まあ、俺の方から勇者に相談しておくから心配すんなって。あと魔王が持っている「聖なる盾」と「聖盾ハルバード」を手に入れることが出来たんだろ? そいつは、いつ使うんだ? やっぱり魔王との戦いでは必要になってくるのか?」
「その通りですね。その二つを手に入れましたので『大盾』と『聖槍』を作り出させましょうか。もちろん『大槍』や『大鎌』も必要なのでしょうけれど」
「大魔王の力を完全解放するには『聖なる槍』が必要だという話だし『大剣』も欲しいところだね」
「そうそう。それに『聖剣アスカロン』の特殊能力は聖属性の強化だからね。聖属性を強化するには聖属性が付与された剣が必要不可欠なんだよ」
そんな会話をしていた俺たちの元に、ようやく『聖女』が戻ってきたのである。
彼女が戻ってくるなり勇者が聖剣アスカロンを差し出す。彼女は勇者から剣を受け取ると、すぐに能力を発動して剣を強化した。俺が聖女に向かって聞くことにる。彼女の顔が疲労しきっていたからだ。そんな彼女に質問をするべきなのか迷いつつ俺は質問を口にすることにしたのだ。「ねえ、君は、これから先、ずっと勇者にくっついて行動することになるのかな?」
「そういうわけじゃないわ。私は自分の目的を達成するまで勇者パーティを離れることはないと思っているだけ」
聖女の話を聞いていた勇者が何気なく呟いた一言を耳にして俺は驚いた。なんとその言葉を聞いただけで俺は泣き出しそうになったからである。その理由を聞かれても説明することが出来ないのだが、それだけの衝撃を受けたのであった。ただ、どうして泣いてしまったのか自分でもよく分からない。
「じゃあさ」という言葉と共に涙を堪えながら俺は訊ねる。「その目的は、どんなこと? 君の目的が知りたいなと思って」
そんな俺の言葉を聞いて「う~ん、まだ、そこまで教える訳にはいかないけど、どうしても私に協力して欲しいことが発生したら貴方のところに行くこともあると思う」と言ってきたのだ。「えーっと、それって仲間になれっていうこと?」と、ちょっと冗談っぽく言ってみると聖女が真剣な表情で言ってきたのである。
「私にとっては、そうね。だから貴方と貴方のお姉さんの二人にお願いしたいの。『勇者の勇者による勇者の為の王国』を作って、そこに私の居場所を用意して欲しい」と。
俺と『聖女』が見つめ合っている所に勇者が割り込んできた。彼は『勇者』として『聖剣』に語りかける。『勇者の勇者による勇者の為の王国』って何だよって思ったのだが彼は気にせず話を続けていったのだった。「分かった。お前の願いを叶える為に協力するぜ」
「俺からも協力するよ」
俺と勇者の声が重なる。『勇者の勇者による勇者の為の王国』って何か、とても良い感じに思えたので賛成したのだ。そんな俺に対して聖女が笑顔で言う。
「ありがとう」
そんな彼女を見た瞬間、またもや俺は心の中で泣き出した。
聖女に協力してあげたい気持ちもあるし『聖女』も助けてあげたいとも考えている。だけど俺は自分が『勇者』になった理由を思い出す。『大魔王』の望みを阻止すること、この世界を『魔王』の手に渡す訳にはいかなかったのだから。俺は魔王の敵だ。だから聖女に頼まれたとはいえ『勇者』を助けることは間違っていると思ったのだ。だから勇者が『聖剣』から聖属性の能力を引き出して聖女が持っていた「聖なる剣」の特殊能力が使用可能になっていることを知った時、俺は聖女が「勇者の剣」に込めようとした聖なる力を邪魔する魔法を放つことに決めた。勇者が大魔王を倒す為に頑張ってくれることを祈ろうと思いつつも聖女を救う手立てを考え始めたのだ。
『魔王の魔導書』の中に、あの「大魔王」に憑依されていた時に使えていた『闇属性の魔術』について記述されたページがあったことを思い出したのである。それは『魔道大典』を複製した際に、その中にあった『大魔人』が使用していた魔術の記述だ。「闇空間作成」と「暗黒物質創造」の二つの技が記載されている。「魔人族」が得意とする「ダークホール」とかいう闇の中を進むことが出来る「空間」を作り出すことや、その「暗黒物質」とやらを作るのに使用する「エネルギー体のようなもの」は、どうすれば作れるのかは分かっているのだ。
『魔力の玉』を使えば可能だと思う。だけど問題は「暗黒物質」の方だ。
どうやったら生み出せるんだろうと俺は考えた。そこで思い付いたのが「暗黒属性付与」「光属性無効化」「光属性反射」「聖属性耐性低下」「聖属性弱体化(極小)」「聖属性無効化」という六つの効果があるアイテムを作れないだろうか? という発想である。それらの効果は俺が魔王の武器である「漆黒の鎧兜」の素材とした「ミスリル鉱石」から抽出することに成功したものだ。それらを「聖なる鎧」の防御力を上回る装備にして身に付けることが出来れば勇者の攻撃が通用するようになるのではないのか? と考えてみたのだ。その案なら「大魔王の力の一部」を使っても大丈夫だろうから聖女を救い出すことも可能になるのかもしれないと考えたのである。
ただ、これらの効果を持った装備品を用意するためには膨大な時間が必要だった。しかも「大魔王の力の一部」を使わなければならないのだから、それを『勇者の鎧』に使うには大量のMPが必要になるはず。なのでMPを増やす必要があった。しかし、それが出来る方法が一つだけ存在するのだ。『勇者』の持つ『大魔王の魔導杖』『大魔人の魔導杖』を使うことである。その杖の『魔石スロット』を『勇者の魔道具』に変化させて「魔力増幅機能」を付与するのであった。これにより勇者は、かなり強力な魔法の発動が可能となるはずだ。
そして『大魔王の魔導弓』の特殊効果を使うことにした。この弓矢の『魔力の矢』と『光の矢』を使用することが出来る。『勇者の鎧』と『勇者の魔道具』、そして『大魔王の杖』で攻撃することが可能なのではないか? 俺は『大魔王』を倒すつもりがない以上『大魔王』の力を全て使用することが出来ないが、もしも俺が全力を尽くしたら『大魔王』が所持していた全ての力を開放させることも出来るような気がした。つまりは『魔王の杖』で全ての力を完全解放させてやれば、それが可能となるのではと思いついたのだ。そうすると魔王は全ての能力を完全解放させた「大魔王の力」で対抗してくるかもしれないけれど、俺は『魔王』が完全復活するよりも早く勇者の『スキル』を封印して、さらに勇者が持つ全ての能力と、その『大魔王』の力で作り出した最強の防具を破壊する。そして『魔王の大盾』と『魔王の聖盾ハルバード』を回収すれば、その時点で魔王を滅ぼせると思う。
まあ俺の考えなんてものは上手く行けばの話なのだが。ただ勇者と魔王の戦いの結末がどうなるか? それだけでも知りたいなと思ったのだ。
俺は『大魔王』が『聖女の勇者』のために用意してくれた城の中にあった一室を借りて休むことにした。『勇者の従者』という立場になった以上『大魔王』から指示を受けた仕事が色々とあって忙しくなるのだとは思うが今日だけはゆっくりと休みたいと願う。そんなことを考えながら俺は部屋の隅にあるベッドで眠る。ちなみに城の造りは「魔王の宮殿」に似ているが部屋は広い。『勇者』が使うに相応しい広さの豪華な客室が用意されており、そこを俺は一人で利用することにしたのであった。そんな風にして俺は『勇者』と共に行動する日々を送るのである。
『大魔王』との死闘が終わった翌日のことだ。俺の元に一人の人物がやって来た。その人物は言うのだ。「お前が俺の新しい相棒だ」と。そう言ったのは金髪碧眼の女性で、俺と同じか、それ以上に背が高い。そんな彼女の顔には見覚えがあった。彼女は、そう――『聖剣アスカロン』の所有者だ。俺の『アスカロン』と同じく、この世界のものではない別の世界に存在した『聖剣アスカロン』に「勇者の勇者による勇者の為の王国」を作って欲しいという依頼を受けたのだそうだ。「えーっと」と、俺は言葉を失った。どうして『聖女』に「勇者」が二人もいるのかという疑問が生じたのである。それに俺のことを新しい「勇者の勇者による勇者の為の王国」を作って欲しいと言っていた人物と同一人物であると判断することが出来たのは、この『聖女』が「勇者の勇者による勇者の為の王国」という言葉を口にしたことを知っているからである。「お前の名は、なんというのだ?」「俺はクロだ。それで貴女の名前は?」
「俺のことも『勇者』と呼んでくれ。俺は女みたいな名だと言われてきたんだ」と、『聖女』は言ってきた。そんな彼女を見ていたら俺の頭に、こんな考えが浮かんで来た。『勇者』に「聖女」と名前を呼ばれていたのだから、きっと彼女は女の名前だと思われるに違いないと考えながら俺の所にやってきたんじゃないかと。だから俺は彼女に提案することにした。「えーっと、俺も勇者さんって呼んだ方が良いかな?」『勇者』と俺はお互いの顔を見つめ合った後、「勇者」が口を開く。「俺は女のような名前じゃない! 男らしい名前がいいと思っている!」
そんな『勇者』に向かって俺は告げたのだ。「それじゃ、勇者さん。貴女が聖女と呼ばれていた理由が分かったよ。だって聖剣を『勇者』の剣って意味で呼んでいたから」と。俺の言葉を聞いた途端に『勇者』が叫ぶ。
「おい待て! どういう意味だ?」「聖女って呼ぶなって言われたから勇者って呼んだんだよ」
俺の言葉を聞いて『勇者』が少しだけ顔を赤らめる。
俺達二人は今、俺達が寝泊りをしていた「勇者の館」がある場所とは違う場所に移動をしている最中だ。『勇者』と俺で、これから作る『勇者の為の王国』に必要な資材の調達を行うべく『大迷宮都市ラビリオン』へと向かうためだ。そんな旅の途中の出来事だった。「お前に会ってみたいって言ってる人達がいるんだ」
そんな感じで俺の前に現れたのは二人組の冒険者だった。その冒険者達は言うのだ。
この前の件で助けてくれた礼を言いたかったのだという。だから一緒に来てくれないだろうか、この通り頼むと頭を下げられてしまったのだ。俺は彼等に連れられる形で町中にある広場に向かうことになるのだが、そこに待っていたのが先程の話に出てくる三人だった。この人達も以前助けたことがある人で、その時には助けたお返しとして食事に誘われたりしたのだ。俺が助けた相手はこの二人だけでない。他にも何人もいて助けてやったのだ。その中には『魔王軍』に殺された仲間を助けてやって欲しかった、というような内容のことをお願いされた者もいた。俺は自分のことを「勇者の勇者による勇者のため」の勇者ではないのだと主張した。俺は『魔王』の望みを阻止することしか出来ない存在だからである。しかし俺は『勇者』の頼みならばと出来る限り力になってやりたいと思った。だから俺は、この町で知り合った人全員に対して同じことを頼まれたら「善処します」と言って約束しているのだ。だから彼等は俺に会いに来たのだと思う。しかし俺が『勇者の勇者』であることを彼等が知る由もないはずだ。
俺達は「勇者の勇者による勇者のための王国」を作らなければならないのだと説明をしたのだが、それを聞いた彼等は「そういうことだったのか」と呟いた。そして自分達も『勇者』であると俺達に告げてくる。その事実を知らされた俺は驚いたのであるが、同時に納得してしまったのである。この世界の人間ではない。『勇者』と『聖女』を別世界から呼び出している。そして『聖女』は女。
つまりこの世界での男女比率が偏っている理由は「異世界召喚システム」が原因なのだ。そして『勇者』が二人居るということも俺達の世界を創ったのは「女神様」である以上当然のことであると思える。俺の考えが正しいとするなら、この世界に元々存在していた『魔王』の討伐は、本来「勇者の勇者による勇者のため」の「勇者の勇者」と「聖女」に任せられていたはずで、俺がその任務を奪ったということになる。なので彼等に頭を下げられた俺は謝るべきなのだろうが、俺に謝罪をして欲しいとは思わなかった。だからこう言ったのだ。貴方がたの力になれたのなら良かった、これからも良い関係を築けたら幸いです、と。そう口にした後で「でもどうして私に力を貸そうと思ってくれたんですか? 私は勇者様方のように強い力は持ち合わせていません」と続けてみた。すると彼等の一人が「お前の人柄だよ」と答えてくれ、もう一人に至っては「お前が居なかったら俺達の世界は大変なことになっていたかもしれない」と俺に感謝をしてくれた。そしてもう一人の男が言葉を続けてきて、この国に住む人達の気持ちが分からないでもない、と前置きをしてきてから、このようなことを語り始めた。「お前は『魔王』を倒して英雄になろうとは全く考えてなさそうで、むしろその逆のことをやろうとしているように感じられる。俺がこの国に戻ってきたのは、『魔王』を打倒し、この世界から魔王を消し去るためなのだ。その目的の達成には『勇者』の存在が不可欠になるからな。俺が『勇者』であることには間違いないが、『勇者』としての役目を果たすつもりはない。俺がやろうとしている事は、それに近いのかもしれんな」彼は『聖剣アスカロン』の使い手であり、俺と同じように勇者の称号を与えられた者だそうだ。その人物は俺に向かって言うのである。「もしも『魔王の魔導杖』を使う気がないと言うのであれば、この『聖剣アスカロン』の力を授けても構わんぞ」
俺はその言葉に、ありがとうございます、と返答を返した。『魔王』を倒せる可能性があるのは、今のところ、その『聖剣アスカロン』しかない。俺はそう考えている。だからこそ『魔王』と戦う可能性を残す為だけに『聖剣アスカロン』の力を授かるのは、なんとなく申し訳ないというか気が引けるのであった。それに『魔王』が本当に俺の手に負える相手なのかどうかも現時点では不明だ。なので、とりあえずは現状のまま進むべきだと考えているのである。それに『聖女』は『勇者の勇者による勇者の為の王国』を作る為に、色々と忙しい立場なのだから『聖剣アスカロン』を貸してくれるなんて申し出は断った方が賢明であると思う。『勇者』に迷惑をかけてしまうだけだから。
「まあお前さんがそう言うなら仕方あるまい。だが俺は俺なりにお前さんが魔王に勝つ方法を模索していくことにするよ」『聖剣アスカロン』の持ち主は、そんな言葉を返してきたのであった。
俺達は『大迷宮都市ラビリオン』に到着したのであった。
俺が「勇者の勇者による勇者の為の王国」を作りたいという話をしたら「そういうことですか」と『聖女』の勇者――彼女は女だ。しかも見た目的には少女と言えるほど若い――が納得したかのような言葉を口にする。『勇者』も似たような反応を示し、そして彼女は俺の手をギュッと握ってきてから、こんな言葉を口にした。
「クロさん、頑張ってくださいね。この国は貴女のような方にこそ必要だと思います」
『聖女』のその言葉を受けて俺は思うのだ。
きっと『聖女』が勇者と聖女の役割を分けようと決めた背景には、彼女達の世界の問題が関係していたのだと思うと、そう思ったのだ。それはこの世界が『魔王軍』という存在によって危機に瀕していて、この世界を救わなければならないからという理由が、あったからに違いない。きっと俺のような存在が現れると予想して、それならば自分が女勇者となって、俺のような存在に女聖女としての役割を与えようと考えたのだろう。それに『聖女』は女だ。女は子供を産むという使命があるからこそ、その役割分担は正しいのである。
「はい、頑張ります。それで、勇者さんと聖女さんの故郷の問題を解決するために何か良い方法がありませんかね?」
俺の言葉を聞いた『聖女』の勇者は、うーんと考え込んだ後でこんな提案をしてくる。
「魔王軍の関係者に接触できれば、なんとかなるんじゃないかしら?」「確かに。そうすれば魔王軍をどうにかすることが出来るかもしれないですね」「魔王軍の幹部ってことは幹部クラスの実力者だよね。その人達に協力して貰えば何とかなるかも?」
『聖女』の提案を聞いて俺は、そういう考え方もあるのかと思った。確かに俺達の目的は「魔王軍」を打倒すること。その為には魔王の幹部である「六覇」を倒す必要がある。しかし俺達が戦ってきた敵の中には、ただの一兵卒に過ぎなかった存在だっているのだ。彼等は普通に強いので簡単に倒せたりはしないのである。だからこそ『魔王』が俺達の前に姿を現すまでに、彼等をどうにか出来る力を身につけておきたいのだ。
「でも魔王軍の関係者がどこにいるかは分かりません」
『聖女』の勇者が俺の顔を見ながら、こう言ってくる。
その通りだ。『勇者』である俺だって、今、何処に誰がいるのかを把握しているわけではない。
俺が今まで出会ったことがあるのは、あの町にいる『四天王』『七十二柱』といった面々だけである。他にも魔王軍に所属している者は多くいて、そういった連中は今も各地で人間と戦っていたりもするが――魔王軍が拠点にしている場所に関しては把握していないのだ。魔王城が存在している場所は分かるのだが、その周辺には大きな湖が存在していて船で向かうしか無い。だからその船を手に入れなければならないのだが「それって凄く大変なことなんじゃ」というのが正直な感想だ。魔王軍は『六覇』を筆頭に人間に対して敵対行動を取れば容赦なく攻撃を行う集団であるから、その行動は制限されているといっても過言ではない。だから魔王軍の構成員を捕獲するには苦労しそうなのだ。魔王軍の関係者は、それだけ危険を伴うということ。そして彼等に話を聞きに行ったとして、それが本当のことだとは考えにくい。つまり嘘の情報を与えられる可能性もある。それでも『勇者』の『能力』が通用するならば問題はないが、それも絶対とは言えない。俺が戦った『六覇』や『魔将軍』のように、普通の人間とは異なる存在が相手なら『能力』を無効化されたりする可能性も存在する。なので、やはり俺としては彼等をどうにかできる力が欲しいのだ。
『聖女』の勇者が口を開く。「じゃあ、とりあえず、そういう人たちが住んでる所に行ってみましょう」その提案は『聖女』の勇者らしいものだと思った。そして俺達は移動を開始するのである。『聖女』と『勇者』と行動を共にしながら俺は彼等について考えるのだった。『勇者』の勇者である彼女は『聖女』の称号を与えられているだけあって聖属性の力を操る事が出来るそうだ。そして聖女の勇者の方は『神弓アポロン』を所有している。俺の武器と同じ『勇者シリーズ』の一つである『聖槍アポロン』の姉妹機的な位置づけにある武器だ。ちなみに『聖弓アポロン』とは聖属性の攻撃を行える弓で『神器級』に位置する。この『勇者』の勇者が持つ聖属性の攻撃方法は聖杖ホーリースタッフを媒介にして放つ「光の波動」。聖杖ホーリースタッフが杖の形状をしているのには理由があって、この世界における魔法とは、まず聖属魔法の「魔力弾」を放つ為の準備をしてから、その「魔力球」が目標に向けて一直線に進むという過程が必要になる。「魔力弾」の威力は、「魔法耐性が高い魔物」や「物理防御力の高い魔物」であっても、あっさりと撃ち抜いてしまうほどの高威力を誇る。だが、聖杖ホーリースタッフを使うとその過程を全てすっ飛ばし、そのまま「魔法」を行使することが出来るので、より効率よく強力な聖属魔法を発動することが可能なのだ。
そんな『勇者』の勇者が俺達の仲間に加わった。仲間が増えるということは単純に心強いこと。そして俺は彼女から様々な話を聞いたのだ。『聖女』の勇者と一緒に行動するようになってから数日。俺達は目的地に到着していた。そこは「聖王都」と呼ばれている場所で、そこには「教会本部」が存在しているそうだ。
「ここが、そうなのか?」俺の言葉を受けて、そうですよ、と答えてきた『勇者』の勇者――『聖女』が勇者と聖女の役割が分かれている理由は、聖杖ホーリースタッフが関係しているようだ。そのせいか『聖杖ホーリースタッフを持つ聖女』のことを『勇者』と呼んでも差し支えない状況になってきてしまっていて――この世界で「勇者」と呼ばれる人は聖剣アスカロンを持っていることが多い為、聖剣アスカロンを扱える者こそが「勇者」と呼ぶことになっているのだとか。聖女の場合も聖杖が勇者と同じような効果を発揮する為、彼女の事を勇者と呼んでいる人もいるそうな。
まあ、そういうわけで俺は目の前の建物を見るのだ。
その建物の大きさから言って、この場所は相当な規模を持った街であると思われる。『聖王国アルハラ』という国の中にある街であり、その中でも最大と言われている都市だそうだ。「聖女」の説明では『勇者』の勇者の故郷でもあり、聖女と『勇者』が生まれ育った土地だそう。『聖剣アスカロン』の所有者であった「聖女」の父はこの国の王族である「神聖法皇国ルベリオン」の第三王女であったとのこと。そんな事情もあって聖剣の使い手が現れた時、この聖王都で受け入れるように取り決められていたのかもしれない。「でも、なんか意外だな」
俺がそう呟くと『勇者』の勇者と彼女が同時に俺を見た。なんですか? と質問を返してきたのは聖女の勇者だ。「いや、ほらさ、聖女っていうぐらいだし『聖王国』とか『聖女』とか名乗ってるんだから聖教の教えを大事にしていて『魔王』と敵対する存在なんだろうなって思っていたけど――まさか『勇者』の『勇者による勇者の為の国』を作るのに賛同するとは思わなかったんだよ。もっと『魔王軍』に対して厳しい対応をするんじゃないかと思ってたから」と答えると、ああ、そうですか。と彼女は納得するような表情を見せた。
俺が「え、違うのか?」と訊ねると、いえいえ。違いますよ。そんなこと言ってません。という返事があった。どうやら「聖女」は本当に「勇者」の味方になっているだけのようである。『勇者』の勇者の話では、その「聖女」という称号は「聖なる力を操る女性」ということで与えられたもので、特別なものではないそうだ。『聖女』という称号が与えられた理由については諸説あるが、有力なものとしてあげられているのは「魔王軍との戦いの中で聖杖と聖弓を扱うことが出来たから」というものである。『聖女』の称号は聖属性の力を扱えた者が得ることが出来るらしくて、だからこそ『聖女』の勇者という呼び方になったのではないかと考えられている。また「聖女」の勇者という言い方をすれば『聖』が付く人物が複数存在してしまうが「聖杖ホーリースタッフを操れたから聖女となった」という流れがあるから、そのように言われるようになったのかもしれない、とも言っていた。
俺は『勇者』の勇者から話を色々と聞いた結果、『聖女』は「勇者」と「聖女」を分けることで『聖』の字がついた人を増やし、勇者を増やすのと『勇者』の数を増やしたいという考えがあるような気がした。だからこそ彼女は「聖女は『勇者の国』を作らないと駄目なんですよ!」と口にする。
俺としてはそういうのはあまり興味が無いのだが、そういう考え方の人間もいるのかと思うことにしたのである。それに勇者と聖女を分けるのは、悪い考えでは無いかもしれない。
『勇者』の勇者が「とりあえず入りましょう」と言い、建物の扉を開けるのである。その建物は、大きな門構えをした教会だ。俺は中に入り、そして建物内の様子を窺った。『聖女』は慣れた様子で奥へと進んでいき、俺達二人もそれに続くのである。教会の中に入ると俺達三人組は礼拝堂のような場所を歩いて行く。「綺麗ですね」という聖女の勇者の声を聞いて、確かに、と思いつつ辺りを見回す。
この教会内部には沢山の人々がいて、それぞれが祈りを捧げたり、掃除をしたりといった行動をしていたのだ。この教会で奉仕活動を行っている方々なのでしょう。とは『聖女』の勇者の言葉だったりする。俺は彼女に説明を求めた後で、「ここは聖王国内で最大の規模の教会らしいですね」という話を聞くのだった。この聖教会は、聖王国の中でも最大規模の宗教施設で多くの信者を抱える一大宗教でもあるそうだ。そのお陰か「魔王軍の関係者を探す」ということに関しては難航しそうに思えるのだが、それは仕方の無いことであると言える。俺と『勇者』の勇者と『聖女』の聖女とが歩いていると「聖女」の姿を発見した人々が一斉に頭を下げ始めるのだった。
俺達は礼拝を行う部屋まで移動して椅子に腰掛ける。そして「あの人達って、やっぱり『勇者』である貴方に、とても感謝をしているようです」「感謝?」「私達が此処に辿り着けたのは、きっと貴方が救ってくれたからに他ならないのです。だから『勇者』である貴女を拝み奉っています」などと。俺は何のことか分からずに首を傾げる。すると、その様子を見かねたのか、隣に座っている『勇者』の勇者が口を開いた。
「実は『勇者』というのはね。『魔王』を倒した存在の呼び名なのだ。それで私は魔王の討伐を果たしたことで『勇者』として称えられることになったのだ」
その話を受けて俺は驚く。『勇者』とは異世界から来た者だけが成れる存在であり、それ故に『勇者召喚』によって呼び出される存在は俺だけだと思っていたのだ。だが、どうやら違ったらしい。そして『勇者』の勇者は「私は、とある『魔道具』を使って、こちらの世界にやってきたのだ」と、話を始めた。俺達のいた世界では既に魔導技術が発達していて、その技術を応用して「別の世界に人を転移させる魔法」が開発され、実際に使用されていたらしい。ただ『勇者』は「私の世界と君がいた世界の魔導文化レベルが大きく異なる為に魔法を発動する事が出来なくて――その代わりにこの世界に辿り着いた際に与えた力が、今の私が持っている『聖弓アポロン』なんだよ」と語ってきた。
この世界で聖杖ホーリースタッフの所持者となり聖弓アポロンを手にした彼女だったが、しかし魔法を使えないことがネックになっていて――聖弓アポロンを使いこなすには聖属性魔法の素質が必要だという結論に至り、「勇者」の彼女は俺と同じ境遇にあったという訳だ。だが俺の場合は魔法の訓練を積むことが出来た為、「聖剣アスカロンを手にすることが出来るようになるまでに魔法の扱いに長けた者」になれたが、「勇者の剣を手に入れることが出来なかった彼女」はそのまま魔法の素質を得る事が出来ず、結果として『勇者』の称号を持つことが出来なくなってしまった、ということだそうだ。
そんな話を俺と聖女が聞くと『勇者』の勇者が言葉を続ける。
「この世界で生きることは、元の世界に帰りたいという意思を持っている以上難しいことなんだけど――魔法さえ使えるようになっていれば、もっと簡単に生活できた筈なんだ。例えばだけど。この聖弓を媒介にして、この世界を滅ぼせるぐらいの力を持つ存在と戦えば、私は元居た場所に帰れたんだと思う」
「え?」『勇者』の勇者が語った内容についていけなかった俺は疑問符を浮かべてしまった。
すると『勇者』の勇者は少し苦笑いをして言葉を続けて――「いや、なんでもないよ。気にしないで」と言う。
ただ彼女は気になっていたことがあるようで――
「それよりも。さっきから私達は見られてるみたいだけど?」
その言葉で俺も周囲をよく見てみると周囲の人達の視線が『勇者』の勇者と彼女の顔に向けられているのだと理解したのである。ただ、その目は崇拝や憧視といった感じの目であり、その瞳の奥にある光は強い。俺は何事なのかと思ったが「大丈夫ですよ」と答えたのは聖女の勇者だ。「皆さん、『勇者』の勇者である貴女に憧れているだけなので、害はありません」そう言ってから彼女は続ける。「でも流石は勇者の勇者ですね。皆、その凄さをちゃんと分かってるんですね」
俺は彼女の発言を聞いて、そういう考え方もあるのか、と思う。そして、どうにも『勇者』と「勇者」の勇者が混同されているようだと感じたので『聖女』の勇者の方を見ると「そうですね」という反応が返ってくる。どうもこの『聖王国アルハラ』は『聖女』と『勇者』とを区別していないような印象を受けたのだ。「あー、そうだ」
俺がそう言うと二人は俺を見た。
「『聖女』の勇者はこれからどうするんだ? もし『勇者』の勇者と一緒に行動するのであれば、この聖王都に滞在していてもいいぞ。俺は別に急がないから」
『聖女』の勇者は俺の言葉に対して少し考える仕草を見せた。それから数秒程してから「いえ、一緒に旅をしますよ」と口にしたので、分かった、と言ってから「じゃ、まずは何処に向かう?」と質問をするのであった。そうこうしていると教会の扉が開かれて「クレアさんが迎えに来たよ!」と大声を出しながら少女が入ってきた。金髪の少女である。そんな少女の様子を見て、聖女の勇者が「え?」と驚いていたので「あれは俺の『恋人』だよ」と答えておく。俺のその発言で聖女の勇者が更に驚く。そして、どういった心境の変化ですか!? とも訊かれてしまうのだった。
まぁ色々とあったんですよ。とは、そういうことである。俺と『聖女』の勇者が話をしていて『勇者』の勇者が『聖弓』を持って立ち上がった。「じゃ、そろそろ行かないか?」という言葉を口にした後「私の名前は『勇者』の勇者です」と名乗るのだった。「勇者って、あの伝説の勇者とか言われてて」という俺の問い掛けに「そう。あの勇者だよ」と『勇者』の勇者は答えていた。そして『勇者』の勇者は「この世界の人々に、もう恐れられるような真似はしたく無い。だから今後は普通の女の子として生きていくことにしたんだ」と口にした。
そういえば『勇者』の勇者は俺達と初めて出会ったとき、普通の娘の姿で現れたことを思いだす。聖弓を持った時の戦闘姿こそが本来の格好なのではなくって、こっちが本当の彼女の素顔なのだということだろうと思うことにするのだった。
「それでは行きましょうか」というクレアさんの先導に従って、俺は教会を出ることになったのだが――『勇者』の勇者も付いてきてくれることになり、「よろしくね」と言われる俺であったのだ。ただ彼女が普通の娘の姿に戻るには暫くの時間が必要で『聖女の国セイクリッドティア』の王城にて滞在をする必要があるということだそうだが「それは仕方が無いな」と納得することにしたのだ。俺はそんなことを考えながら歩き始めることになるのである。
教会から出た後に俺は天城にこんな言葉を告げるのだった。
俺としては目の前にいる男が『勇者』であることにあまり驚かなくなっていて、そのことが逆に不思議に思えたりしたのだ。だが「もしかしたら、これが慣れっていうものなんでしょうか」などと言いつつ、彼は「それに、俺の本名って『田中太郎』って言うんだけど」と自己紹介を行うのだった。すると「それ、どういう意味?」と俺の言葉に聖女は食いついた。そうして彼女は俺に尋ねてくるのだった。「田中太郎が偽名だったと? それで、本名は一体何と言うのだろうか?」
俺達は『勇者』が泊まっている宿にやって来ていた。『聖王の都エスクラド』にやって来たばかりだという彼には宿泊できる宿が無かったのだが、聖王国最強の『聖弓使い』である彼が俺達に「良かったら私達が泊まる宿屋を手配してもらえませんか」と言うもので――そのお陰で彼の為に用意できた宿泊施設に入ることが出来た訳である。
部屋割りを決める時になって女性陣から猛反発をくらいそうな状況になったが、それは何とか収まった――というか聖弓持ちの青年である彼の一声で簡単に解決してしまった訳だ――ので、部屋に入ってみると――
部屋の中には既に二人の人物が居た。それは俺にとって良く見知った顔の女性二人だ。そして部屋に入ると直ぐにクレアさんが口を開いた。「この人達は誰ですか?」
俺はそんな質問を投げかけられたものだから困ってしまったのだ。すると隣に居る金髪碧眼の『聖剣の巫女』ことアリシアさんは口を開く。「初めまして。わたくしの名前はアリシアです」
俺はその台詞を聞きながら『勇者』が「聖剣は持っていますよね?」と、まるで自分の物の様に言った言葉を思い出す。
『勇者』はアリシアの右手の甲に浮かび上がった『勇者』の印を確認すると満足げな表情を見せて、その印があることに安堵しているように感じたのである。
俺はアリシアの顔を見ながら――彼女は聖王国の関係者じゃないのかな? と思い始めていたのであった。「えっと」
俺は『聖剣の巫女』と名乗った少女をマジマジと見てしまった。その所為かアリシアの方は少し居心地悪そうにしている――というか、なんか警戒心が芽生え始めているのが分かる。でも、この子は本当に誰なのだろう。この世界で俺以外の人間で聖属性の魔法が使えるのって、確か『聖弓』を持っていた『勇者』ぐらいのはずなんだけどなぁ、などと俺が考えを巡らせていると『聖剣の担い手アリシアさんが「この方たちは?」と同じ様に俺に対して同じ質問を繰り返した』。
で、俺はアリシアと同じような言葉を紡いだ訳だ。すると俺の言葉を聞いたアリシアさんは笑顔でこんな風に答えたのだ。『貴方と同じ存在です』と。そんなことを言われたから驚いたのだが『アリシアさんの説明だと「勇者」の称号を所持しているからと言って、必ず勇者である訳ではないらしいのだ』『つまり彼女は別の目的の為に異世界転移してきたという事なんだと推測できる』――「あ、私は勇者じゃないですよ。というか私は元々普通の一般人で」――「うん。まぁ、俺もそのパターンなんだが」「俺は勇者の称号なんて持ってなかったぞ」
聖女の勇者がそう言うと、今度は『聖弓の継承者』である筈の『聖弓の勇者』がこう言った。
「俺だってそうだ」と。そうすると俺は何が言いたいのかさっぱり分からなくなってしまった。なので俺の隣で聖女の勇者が何とも言えない顔を浮かべていると、聖弓の勇者が「この人は聖女の勇者だよ」と口にしていた。俺はその名前を聞いて思わず「へ?」と口にしてしまったのだ。
聖女というのは聖弓を持っている人を指す言葉であって、それが何故「聖女」と呼ばれているのかが理解出来なかったからである。そんな疑問を抱いている俺に対して聖女の勇者は自分のことについて語り始めたのだった。
「実は私の本名、いや真名は『愛乃聖女』といいます。だから、私が『聖女の勇者』と呼ばれることもあり得るんですよ」
「え?」『勇者』の聖女の言葉を聞いて、そう言葉を漏らしたのは『勇者』の勇者であり――俺は何となくだが彼女が何を言いたいのかを理解することが出来てしまっていたのだ――要するに『聖女は自分が聖弓を持つ前から「聖女」という称号を持っていた。でも彼女は「勇者」ではない』という事を主張していたようなのだ。『俺にはそう思えてならない』
そこで『勇者』の勇者がこう言う。「あー、まあ、その辺りは、おいおい説明していくよ」ってな感じで――何だか微妙な空気になったのであった。
そういえば俺は気になっていたことがあるのを思い出したので、そちらに話を振ることにした。というのも『勇者』の勇者が持っている聖弓の弓のことだ。それは俺が以前『勇者召喚』されたときに見たものと全く違っていたからだ。『勇者の証たる聖なる聖槍を手放したからこそ』聖矢しか出ないようになった聖弓は今『勇者の証となる弓の所持者が変わった』ということを意味していたのであった。そんなことを考えつつ俺はこんな質問を『勇者』の勇者にぶつけてみることにする。
で、その結果として「あー、これか」と言いながら彼は聖弓を眺め始めることになったのだ。
「『聖弓』とは本来、『聖女の武器』として存在する代物でね」と彼は言葉を続けた。それからこう説明するのだった。
そもそもの話として、聖弓の力は『聖弓』を扱える者だけが発現できるという力であるらしいのだ。だがしかし聖弓には特殊な機能があって『勇者の力を持った人間が持つことでのみその真の力が発揮されるようになっているんだ』という話だった。
聖弓には『勇者の証たる聖槍』と同様に、所有者を守る機能が備わっているようで――その機能は所有者の精神力を代償とするものだった。そして使用者にその能力を与えるというものらしく、この能力は聖槍にも言えることであるようだ。
「その聖弓が俺のことを『勇者の証だ』と言っているから」彼はそんな風な事を言っていたが、その言葉からは彼が勇者の印に頼りきっていることが読み取れる。そして聖女にそのことを指摘されて慌てている姿は、何だかなぁ、といった感じに見えたのだ――ただ『彼も色々と大変な思いをしたのだろう』ということは理解できるし、それについては同情せざるを得ないのだが――
その後で、勇者達は旅支度を始めたのだった。俺は『聖女の国の王城』にて数日を過ごすことに決めていて――『聖女の国に魔王軍が攻め込むまでは滞在したいと思う。そんな俺の提案に対し「そうですか、じゃあお言葉に甘えさせて貰いますね」と『勇者』の勇者は素直に受け入れてくれて――俺は内心「意外だな」と思ってしまった。ただ俺には一つだけ心配事が残っていた。アリシアのことである。俺がこの『聖女の国セイクリッドティア』にやってきた理由が彼女の護衛であるからだ――なのでアリシア本人には俺と一緒に来て貰う必要があると考えていたのだ。
「俺はアリシア様の護衛任務を受けていてね」俺の台詞を聞いたクレアさんが「アリシアさんの?」と尋ねて来た。その表情は何とも怪しげな顔付きをしているように見えた。
クレアさんとしては、どうして『聖女の国セイクリッドティア』がアリシアさんの護衛を依頼してきたのだろうか、と考えているようで――『聖女はアリシアの事を聖王国からの使者として来たと思っていたらしい。まぁ、それは間違っていないのだろうが』、そして俺の言葉を信じるかどうかはアリシアの判断に任せるという事になったのだが――アリシアの返答は非常にシンプルなものであった。「行きましょう。『勇者』の国を見てみたいですし」
俺が宿を出る際にアリシアを連れて行くことを伝えたところ、彼女達からは「えっ?」というような表情が見て取れた。俺の同行に対して反対の意見が出そうな気がしていたのだが――アリシアが行くなら仕方がない――という感じで意見を引っ込めてしまったように思える。
俺としても一緒に行動する相手が一人増えたくらいどうということはなかったし――それどころか「戦力的に考えれば増えてくれた方が良いかな?」と思ったりするようになっていた訳だ。で、「ところでアリシアは強いのか?」という問いを投げかけてみたのだけれども「さぁ?」という答えが返ってきただけだった。でも、きっと彼女は凄く強くなったのだろうとは予想できてしまう訳で――聖剣使いとなった俺はアリシアからステータス確認の許可を得ることが出来た訳である。そして俺達が屋敷から出ていく際――クレアさんは何か思うところが有るようで少し不安げな様子を見せているように見えたのだった。俺はそんな彼女にこんな風に声を掛けることにしたのだ――『もし良ければ付いてきてもいいですよ』と。するとクレアさんはとても嬉しそうにしてから、そんな提案を受けるのを拒否していたのだ。
勇者の仲間になる為の旅に出掛けるのだと彼女は口にしていたが――クレアさんが本当は何を考えていたのかはよく分からない。だけど、俺と一緒では嫌なのだろうと察することが出来たため――クレアさんの意思を尊重しようと思った。そうやって彼女と別れた後で『勇者』の聖弓持ちである彼と二人で王都を歩くことにしたのである 勇者一行との会話の中で気になった点が二つあった。
『愛乃が「勇者じゃないですよ」と言っていたこと』と、もう一つが、彼の一人称についてだ。
勇者は「自分」という言い方をしていたように記憶しているが――「俺」という言いかたに変わったように感じられる。これは恐らくだが――『勇者』の称号を持っているかどうかの違いで呼び方を変えたのではなく、本来の自分の姿を偽って生きていくことを止めたということなんだと思う。要するに、この世界に来たばかりの頃は『本当の自分を出せていない』状態だったのだと考えられる。だからこそ一人称を変える必要があったのかもしれないのだ。それに俺は「この世界の人達には勇者の姿で接していたんだろうな」と思っている。『この世界』というのは当然『俺の世界』ではない訳で――要するに「この世界で生きていこう」と覚悟を決めたってことになるんではないかと、そんなことを俺は考えたのだ。
そんなことを俺は考えていたのだけれど、『勇者の聖弓の勇者』はこう言っていたのだ。
「この世界に転移してきた時に手に入れた聖剣――いや、元から俺の持っていた武器だから『聖槍』と呼ぶべき代物なのか。とにかく『聖槍』の力は『勇者の力と同等の効果をもたらす力を持っています』だから『俺自身が戦う必要がないんですよ』と、俺はそういう説明をした筈だ」と、彼はそう口にした。
『聖槍』の効果は所有者の身体能力を強化するというものなのだが、使用者が勇者であれば勇者と同じ強さにまで肉体が強化されるのである。勇者との違いは『聖槍に蓄えられた精神力を代償として力を発揮する』ということで、つまり『使用者が使う場合は、使用しても精神力を代償とすることはない』と、そんな感じの説明を受けたのだ。『この聖槍の勇者である俺は「聖弓の勇者」と同じように異世界にやってきていて――そこで勇者として覚醒しているんです。だから勇者は「この世界に存在する聖女と勇者の勇者である俺の二人だけなんですよ」』と――勇者の言葉を聞いた『聖弓の勇者』は「え? でも勇者って他にも沢山居るんじゃないの?」と言ってきた。勇者はそれに対して「いや、俺は「こっちの世界の人間じゃなかったんで」と説明していて、そこで聖女の勇者がこんな疑問を口にしたのだ。「じゃあどうやって聖槍の力を手に入れたのですか?」と。そういえば聖弓は「俺が『聖弓の勇者』だって名乗っているのは『この世界の俺』というだけであって――」という言葉を使っていたように思う。そして聖弓の弓は俺が『聖弓の勇者』だと認めてくれるのだ。だが『元の俺は『この世界の人間じゃない』とかいう言葉を口にしていたのだ――そう考えるならば「聖弓に認められてもいない状態」なのに聖槍を所持しているということになるのだろうか? 俺にはよく分からなくなってしまっていたのであった。
ただ聖弓は――『元の俺自身については特に説明しなかった』からこそ、この場において聖女が首を傾げた理由がよく分かるし――彼女が「他の勇者から聞いた話とは随分違うようですね」「その勇者の名前は?」なんて質問をぶつけてきて――聖弓の勇者も「誰のことだろう?」と言いたそうな顔を浮かべているので――『もしかしたら』という想像が出来上がってしまったのだ。そう――もしかして、聖弓は「元の俺は、俺じゃなくて俺の魂だった」的な発言をしていなかっただろうかと。まぁ聖弓の発言内容を思い出す限りでも「その勇者」は「俺の知っている聖弓の持ち主のことでは無いんだろうな」というのが伝わってくるのだ。なので「聖弓の持ち主だった聖弓使い」が居たのでは無く――聖弓の「元の持ち主の身体を借りる形で俺が存在しているのではないか」と、そんな考えに至ったのである。
その後『勇者』の聖弓持ちは「あっ、もうこんな時間だ。俺は今日はこの村に留まることにするよ。それではまた会いましょう」などと言って俺達のもとから立ち去っていた。ただ彼は俺に対して何か伝えたいことがあるような雰囲気を醸し出していて、そのせいもあって俺の脳裏に彼の発言内容が引っ掛かったのだ。それは――
――「俺は『元の世界の事を覚えています。そして聖女の国に戻らなければならないとも思っている。だが、今はまだその時で無い』」という言葉だ。この言葉の意味するところが、俺にとっては少し不思議に感じられてしまい「今の俺はこの世界の人間では無くて元の俺もこの世界とは別の世界に存在したのかもしれない」という考えが浮かんできたのだが、まぁ『聖女』の聖剣と『勇者の聖弓』の所有者が二人存在している時点で、既におかしいと感じる点がある。で、俺は更に考えてみた訳だ。
そう――「俺とアリシアの二人は、別の世界の出身だと思っていたのだが、どうやらとてつもなく広い意味で見れば俺達は『この世界の一部であり、別世界の存在である』と言えるんじゃないか」と。
俺達は聖女から依頼された仕事をこなしながら日々を過ごしていた。ただ『勇者の国セイクリッドティア』で『魔封の石』の回収を行っている最中、俺達の元に聖女から手紙が届いたのである。その内容は――「勇者が魔王討伐に向けて出発することになった」というものだった。俺は、その文面を見て思わず「やっと出発できるのかぁ。随分時間が掛かっていたけど」と思ってしまうことになる。ただ『勇者の仲間である少女』である『アリシア』からこんな意見を聞くことになった。
「『魔王が復活する前に魔王を倒さなければいけない』と聖王は考えているみたいですから」
「それじゃあその勇者の仲間たちは急いで『勇者の国』まで移動を始めたのかな?」
「はい、私と聖王で相談した結果です。『すぐに出発の準備をしよう』と。で、その結果『準備にもう少しだけ時間がかかると思う』と言われまして」俺と『アリシア』は『勇者の国』を目指して旅をしている途中なのだが――聖王の命令で『勇者の国』へと向かい始めた訳だ。
で、『勇者』は聖王国を出発してから二週間くらいで『聖剣』を手に入れた。それから三日後には聖都に到着していたのである。まぁ、あの『聖槍』は俺と一緒に行動しているので、聖都に着いたときには『聖槍』が既に聖王国にある聖騎士の館に届けてある筈で、聖王が持っているのかどうかは分からないのだけれども。ただ、『勇者のパーティの一員である少女は、聖王国で勇者と共に暮らしている』と『勇者』から聞いている。だから俺は『勇者の居場所は簡単に見当がつくんだよな』と思っているのだ。
『勇者』のステータス画面を確認すると――『天城武史』という表示があった。『この勇者は本当の自分の名前を名乗って生活しているんだ』と思った俺は『勇者』に自分の本名を告げると――「そっか。でも俺は『聖弓の勇者』のままでいいかな」と言われた。
そんな訳で聖王国の『聖女』の関係者と話すことになれば、まず最初に「勇者の仲間として聖弓を受け取って欲しい」みたいな話を持ちかけられる可能性が高いだろうと考えている。そうすれば聖都に向かうことになるだろうし――聖弓の所持者である聖女の勇者にも再会することが出来るのではないかと、俺は考えていたのだ。ただ、そこで「『俺自身が戦う必要がないんです』と、そう言っていましたね」と――『聖槍の聖弓使い』について口にしたのは『聖杖の聖女である彼女』だけだったのだ。
『勇者の国の聖女である彼女』――聖女の『勇者』は『愛乃』と呼んでいたっけ。『勇者の国の聖女は『聖槍の勇者』のことが大嫌いなんだ』って聖槍の勇者は口にしていたんだよね。
そんなことを思い出して「愛乃のことも探す必要があるな」と俺は思ったのだ。
「愛乃が聖女の国に居ないってことは――『他の世界に行った』と考えるしかないんだろうな」
「そうなのですか?」
俺の言葉を聞いて『聖剣の勇者』でもある彼女は、こんな風に言葉を返してくれたのだ。
「はい。実はですね――この世界を創世した神様から頼まれごとがありまして、それで別の世界に行って貰っていたんですよね」『勇者の国』は平和を保っている国である。そしてその国の中に存在する小さな村に俺と彼女の二人が足を踏み入れた時に感じたのは『人の姿が一切見えない寂しい風景だなぁ』というものであった。だけどそこで村の人たちの姿を目にすることになって「おっ! 良かった。人が住んでるじゃないか」なんて思って安心してしまう訳だけれど、そこで村長と思われる老人の姿を見つけたところで俺達は歩みを止めてしまったのだった。そう、そこに現れた村人達というのは――全員が全身血だらけの状態で倒れていたのである。しかもその村人達の近くには――首が落とされた動物やモンスターの死骸が散乱しているのだ。俺はこの異常な状況を目の当たりにすると、反射的に腰に下げている剣に手が伸びてしまっていて、そのまま剣を引き抜こうと柄を握ったのだが――
そこで、その手に何かが触れてくる。
俺の手の上に手を重ねて、何かを伝えたいかのように伝えようとしてくる存在――それは間違いなく聖女の『勇者』である聖槍の勇者だった。彼は「落ち着いてくれ」と言っているようであった。俺と同じような光景を視界に入れていて「落ち着け」という方が無茶な話だと思うのだ。だが――
「聖女に勇者のことを説明して貰ったよな?」
そんな言葉が聞こえてきたのだ。確かに俺は――
――聖女の勇者と、聖弓の勇者の関係についての説明を聞いた。この世界に存在する『神』が聖弓と聖槍を『勇者』に与えたという。『神が人間に直接力を与えるのは非常に危険な行為である』という考え方が広まっていて、その為に人間に対して『神の代理となるような立場に居る人間が、その人間の持つ特別な能力を人々に伝えるのが限界だろうと言われているんだ』とも、彼女は教えてくれたように思う。そして彼女は続けてこう語ってくれた。『だからこそ『特別な力を持つ人間は一人だけで十分』という考えも根強く存在するらしいんだよ』なんて話をしていた筈だ。ただ俺としては――そこまで深く考えていなかったりもする。何故ならその話を聞く限りでも――『特殊な力を使える者が複数存在するより、一人の強力な人物が居る方が良いんじゃないか?』なんて考えたからだ。
ただ「もしも他の世界に行ってしまったとしたら――元の世界へ戻れる可能性は限りなくゼロに近くなると思うぞ」とも言われたのだったか?
「どういうことだ?」と訊き返す俺に向けて――「聖女の勇者と勇者は、お互いの存在を認識し合っている。それに加えて、この世界では神の力を使って何かを行うことが出来る者は二人しか居ない」
そんな説明を行ってくれた。ただ聖女曰く――『勇者様は別の世界にいるのかもしれません』とのことだ。だから――『元居たところに戻りたいというのならば――自力で別の世界に移動しなければいけない可能性もある』と言っていた。『勇者』という存在については詳しく調べないと分かり難いのかもしれない。
聖女は、勇者を別の世界の誰かに預けた可能性があると、そう言いたい訳なのか? そういえば――俺は勇者と別れて聖都へ向かうことになった際に「勇者様に、よろしくお伝えください」とか「私の聖剣をお渡ししています」などと、そんな言葉をかけられたりもした。その時に俺は、勇者に会えるようなら『勇者の身体を鍛え上げて強くしてくれないかとお願いをしてみるのも良いかもしれないなぁ』などと考えてしまっていた。
まぁそれはそれとして「聖女の言う通りだよ。もし聖女や勇者以外の誰かが俺達の世界のことを知っているとするのならば、俺達の存在がバレて俺達をどうにかしようとする輩が現れて襲ってくる危険性がある。聖女と勇者が、そんな危険を犯して別の世界の人を探しに行くと思うか?」
俺にはそんな疑問が頭に浮かんでいた。だが、聖女と聖剣の勇者の二人は俺の言葉を聞いて首を横に振っていた。なので「まぁ聖女や聖女の勇者は、そういうことをやらないんじゃないか?」と思った。だから俺は、とりあえず目の前で起こっている事件について確認することにした。「この人たちは何で殺されたのか分かるのか?」と尋ねると『勇者』である彼女が――「この村は魔物に襲われたようだ。それも――かなり凶暴な生き物に」
そんな説明を行ってくれる。
――んっ?
「ちょっと待って――聖剣って聖女が持つ以外にも存在するんだよな?」
そんな問いを俺が『聖女に勇者』にぶつけると「もちろんあります」と答えられる。俺はそこで『天城武史』に質問をする。
「天城の持ってる『魔刀の聖弓使い』はどうなんだ? あれも『勇者が聖剣と聖槍の両方を持っている』という設定になっていたはずだが」
「うん。それについては問題ない」と、あっさり言われてしまう。そんな彼の言葉を受けて、聖剣と聖杖を『勇者の国』へと届け終えた聖女の勇者が――「えっと、『天城さんに渡された魔刀は『魔封石で作られた刀だと思ってください。それを使って魔王を倒すのが、貴方の役割です。そして魔封石の力が弱まるまで、この世界で暮らしてください』と、そういった感じで私達は聞かされているんですけど」と、そんな言葉を吐いてくる。その言葉を受け止めた『勇者』は、自分の剣へと目を向ける。
それから、自分の剣について『魔王に通用するレベルの武器になる』みたいな発言をしていたことを思い出して、聖剣が本当に凄い性能を誇る代物だったのではないかと思った。
「なぁ聖女」
俺は聖女に声をかけると、聖女の勇者と、勇者に聖槍の勇者である彼が揃ってこちらに顔を向けてくる。
「この村の人たちに一体何があったんだ? 俺は正直なところ、全く分からないんだけどさ」
そんな俺の言葉を聞いて聖女の勇者は「実は私にも分からないんですよ」と、困った様子で言うのであった。
「聖女の勇者でも、この状況は予想できないってことでいいんだよな?」「そうですね」
「そういえば『勇者』である天城は、この村で暮らしていたことがあるんだよな?」
「ああ」
「この村がどうしてこのような状況になったんだか分からないか?」
俺の問いかけに対して天城――勇者の勇者は「うーん」と、悩む仕草を見せる。そこで聖女である聖槍の勇者がこんなことを言う。
「聖女の勇者と聖杖の聖女がこの世界から姿を消して『一ヶ月以上経っている』という話はしたよね」
そう口にしたのだ。その話は確かに聖女と『聖剣の勇者』からも聞いた。
「その話を今一度聞かせてくれ」「ああっ」と、俺は『聖槍の勇者』と聖女の勇者に向けて言ったのだった。その話の中で気になったのは――
『この世界では勇者の存在は特別なものであるとされている』と。この世界の人々は『勇者』に『聖剣』『聖槍』という特別な力を与えられると、そんな風に信じているのだという。その特別な力を与える存在が、この世界に二柱存在している。それは――神と聖女なのだと。だからこそ人々は『勇者の国』と聖女の国が存在する『神聖界』に対して敬意を払わなければならないと、そのようにして教えこまれているらしい。ただ、これは俺の想像でしかないのだけれど――
『特別な力』というものは『神』にしか与えられないものであり、聖女の勇者は神が作り出した特別な存在なんだ。だからこそ彼女は特別な力を与えられたんだ。そうでなければおかしいじゃないか――と、俺はそう考えている。だが――実際に『聖女の勇者』である彼女を見ると「そんな特別な力は持っていないように思える」のだ。ただ俺の感覚からすると『特殊な力を使える者は勇者の他にも居た方がいいのじゃないか』なんてことも思う。ただ――「特別な力を持つ者が複数存在したとしても『勇者はたった一人でいいんだよ!』っていう意見の方が一般的だからね」と、勇者の勇者は、俺に言うのだった。
ただ「僕も聖女の国の人たちがこの村を襲った理由は分からないよ」と言われてしまった。だが「だけど、もしかしたら僕の推測が当たっていて『勇者は聖女の国にいてはいけない存在だ』と考えている連中の仕業だったのかもしれない」なんて話になってきて「勇者が二人も『聖女の勇者』である聖女ちゃんと一緒に行動するよりも、一人だけの方が良いんじゃないか?」といった考えの元、今回の事件が起きたのではないかと彼は言うのだ。
その言葉を受けて聖女の勇者も、「勇者様が『勇者の使命』を放棄する訳がありません!」とか、声を大きくするのだが――
「じゃあさ。聖剣を持った聖女の勇者と一緒だとして『勇者』という称号を捨てることにはならないと思うんだよ」
という彼の言葉で聖女が押し黙ってしまう。
まぁそれはそれで置いておいてだ――俺も天城に尋ねたいことが沢山あったので「ちょっと質問してもいいか?」と言ってみることにした。
天城の答えを聞く限りでは、やはり聖剣や聖弓のような特別な能力を持ってしまった場合、それが誰であろうと『聖女』と呼ばれる女性の勇者と一緒に行動をするのが『決まり』らしい。ただ聖槍と聖斧の聖弓の勇者だけは例外であり『聖槍の勇者』と『聖女』の間に特別な関係は存在しないらしい。ただ――それでも聖女が『特別な力を継承できる人間だと信じている人間は大勢居るだろうし――実際そのように扱われてきただろうと思う』とのこと。
「ちなみに、聖女の勇者が『勇者の使命を放棄して、どこかの世界に逃げようとしているのかもしれない』みたいな話はあるのか?」
その問いに対しても、聖女の勇者は即答するのだった。
「それは、ないですね」
その返事は――俺も、そして聖女の勇者と『勇者の勇者』も納得しているような反応を見せていたので――聖女の勇者が嘘を吐いているとは思えない。だが「どうして、この村は襲われたのだと思う?」という俺の疑問に対しては聖女の勇者は――「おそらく――私の聖杖を奪い取ろうとしていたのでしょう」と答えた。聖女が持っている聖槍の勇者の力が欲しい――そういうことなんだろうと。
そんな話をしていく中で、俺は一つの疑問が浮かんでいく。
「そもそもの話――どうして聖女はこの世界の人たちに狙われることになったんだ?」
俺はそんな疑問を口にした。その問いに対し、天城の勇者が「聖女を騙すような形でこの世界に呼び寄せることが出来たら便利だよなぁ」というようなことを話し始めていた。そんな勇者の話を耳にして聖女である勇者が「勇者さま」と注意を行う。その流れで俺の方へ目を向ける。俺と目が合った勇者の勇者が――「まぁ、それは置いといて――どうして聖女が、この世界の人達に命を狙われるようにまでなったのか――そこについて教えてあげないと駄目だよね」と、そんなことを言うのであった。
俺の疑問には、この世界の『神族』からの依頼で『聖女と勇者の二人の面倒を見て、この世界を救ってほしい』という依頼があったということだった。この世界が滅びそうな理由が色々と存在していた。
この世界が滅びかけている理由について――この世界の人々が知っている情報は少ないようだった。俺が聞いた範囲で言えば、魔族や魔人がこの世界で暗躍をしているらしく――それに苦しめられている状況だということくらいか。それと魔族の領域が拡大しているとも。だから『魔王を倒すための武器である魔刀が手に入ってしまえば良い』という話にもなる。
そんなこんなで、俺が『魔刀』を聖剣の勇者へと渡したことによって『聖女の勇者に魔刀を譲渡したことで、魔剣の勇者を敵に回す可能性があるのではないか?』と考えたこの世界の権力者たちが――聖女の勇者を殺そうとしたというわけだ。聖女の勇者は、魔刀を渡してくれた『魔刀の勇者』に魔刀が奪われたのは、きっと自分の責任であると考えていたようだ。聖杖の勇者である彼女は――この世界に召喚された際に神族より授かった杖を持っていたのだという。だが――杖の魔力をこの世界の人間が使うことが出来ない代物だったために、奪われることはなかったのだという。その杖を俺に見せながら――「杖を返してくれませんか?」と言われた。杖は、俺の所持品欄の中に収納されているから「あー、いいけどさ」と言って杖を渡す。杖を受け取った後「ありがとうございます」と彼女は言った後に杖を使って何か魔法を発動させるのであった。その魔法を受けたことで俺は――『魔王から得た知識の中に存在する回復系の魔法と同じ効力を発揮する』といった情報を思い出せたのだ。その効果によって俺は「ああ」となる。つまり――
この世界の『聖女』と、俺が知る『回復魔法』が使えるようになるのでは? という考えに至ったのだ。そんなことを考えていると聖女の勇者と聖女の勇者の二人はこの場から離れてしまうのだった。俺はどうするかを考えるが――「うん。僕はこのまま村に戻ることにする」との天城の言葉を聞いたことで俺は――『村の中を見学しながら情報収集でもしようかな』と思い直した。
「ああ。また会えるといいな」
俺は、そう口にしたのだ。
天城――勇者は俺に別れの言葉を残して去って行ったのであった。
勇者の国であるこの国には、いくつかの町が存在しているそうだ。その中でも俺達が泊まる宿が存在する町の宿屋に、俺達は戻ってきていた。その道中に聖女が使っていた魔法の説明をしてもらったのだ。それは俺が『異世界転移の際に得た能力の類いだろうか?』と勝手に考えていたものだ。しかし――聖女の説明によれば、この世界ではごく普通の能力なのだという。この世界の人々の中にも使える者が居ると、聖女の勇者は口にしてくれた。ただ、使える者は、とても限られているという話だ。だから聖女の勇者は『自分が使えることが珍しいんです』と口にしていたのだった。
聖女の勇者は、その身に宿っている聖槍の力を『この世界でも使用が可能』なのだという。そして――聖女が使っているのも『回復系統の力だけ』という訳ではないのだという。
その辺りの事情を聞いて俺は、聖女が言っていた言葉を思い出した。
――この世界で私は、神に愛されて生まれてきました――と。ただそれは、この世界に存在する『神』を信仰しているという意味ではなく、『神そのもの』と出逢ったということを指しているのだろう――そう考えた。この世界の人々は神の存在を疑っていないらしい。だからこそ――神と対面した人間は、神と直接対話が可能な存在として扱われるのだという。神と会話をしたという事実は『神の奇跡をこの世に実現することが出来る者だ!』ということになる。そのため聖女の存在というのは、神から直接祝福を受ける者として、非常に貴重な存在であるとされているのだ。聖女の勇者もまた、特別な存在として扱われている。
だからこそ『神に選ばれた存在』ということで『神の御業を実現することができる存在』として扱われ、それに相応しい特別な力を持つように扱われているのだと、そんな話を聞くのである。
ただ――俺からすると「本当に特別な力を聖女は持っていたのだろうか?」なんて考えも生まれてくるのだ。確かに『勇者の証を持つ者と行動を共にした方が、色々と便利なのは間違いないだろうな』とは思えたのだが、それだけではないような気がしてしまうのだ。
実際に『聖女』は、どんな能力を持っていたのかと気になってしまった俺は――天城勇者と別れた後で「クレアさんって『回復魔法』使えたりするの?」と尋ねてしまったのである。すると、聖女はその質問を受けて目をパチクリさせ――「いえ」とか、「あの――その、ごめんなさい」という言葉を口にした。なので――『俺の想像通り、聖杖の勇者である彼女には『回復系魔法を使うことは出来ない』のだろう。だが『他の能力』については確認が取れなかった』と。そして「そうか」と答える。俺はそんな風にしか答えられなかったのである。
「その様子ですと――天樹さんの『鑑定』をしても『回復系』の能力を得ることは出来なかった、と。そういった感じですか?」
俺が「そういうことになるね」と答えると――
「そのことについて――お話ししても良いのでしょうか?」
そんな風に聞いてくる聖女であった。ただ俺は、彼女の方を見て、すぐに視線を戻す。なぜなら――俺のことを心配するような表情でこちらを見つめてきてくれていたから。その反応を見た上で、さらに――「そのこと?」と口にしてしまったのだ。その瞬間に『聖女が俺に伝えようとしている内容を理解していないような言動を取ってしまった』ということを自覚できたので「すまない」と言い、頭を下げる。それから顔を上げると聖女と目が合う。聖女と俺の目線が交差する。そんな俺の様子を見ていて「大丈夫ですよ」と言ってくれたのだった。
その後、聖女は「えっと、私から『勇者さま』にお願いしたいことが有ります。よろしいですか?」と口にした。その申し出に対し「なんだ?」と、尋ねると――聖女は「私と、この世界を救ってほしい」と言うのだった。俺はその発言を耳にしたとき――「どうしてこの世界を救うのか」というような疑問を覚えてしまう。そして――この世界の『勇者の国を救いたいという願いに対して、聖女の勇者が『世界を救うことでこの世界を救ってくれた聖槍の勇者の代わりになるだろうし』という想いを持っていることは分かるのだけれど、それでも――
どうして、俺なんだろうと、疑問を覚えたのだ。そんな俺に対し聖女は、俺に説明をしてくれた。
「『聖杖の勇者』の『聖なる力』を受け継ぐことになれば『聖女様が聖杖の力を継承してくれる』と信じ込んでいる人間は大勢居りまして」
そんな説明の後で――「それにですね。『この国の人達』は、私が貴方と一緒にこの世界に召喚されたことを知っているので、それで、こう――期待してくださっていて」とのこと。その辺りの説明をされたところで俺は納得するしかないと思ったので「ああ、うん。理解はしたよ」と返事をするのだった。
その言葉を聞いた聖女は嬉しそうな笑顔を見せて「では、一緒に世界を救っていただけるのですね」という。
俺はそこで、この世界が滅ぶという危機について思い出した。
『魔王を倒す武器である魔刀を手に入れることで元の世界に帰ることが出来るかもしれない』という話をしていた時のことを思い出したからだ。この世界の『神族』からの頼まれごとは、まだ完了していない状況にあると。そして――『魔族や魔人が暗躍をすることで苦しめられている状況だ』という話を聞いたばかりだったのだ。
俺は「俺が手伝えれば良かったんだけどね」なんて口にしてみた。
聖女の勇者に、俺の考えを伝えるためにだ。だが彼女は俺の発言を聞いて――微笑んでくれるのであった。俺の言葉を受け止めた上で――優しい笑みを向けて、だ。そうやって俺の方を見てくれた聖女の勇者の顔が可愛かったので、俺は思わず見惚れてしまったのだ。ただ、そんな俺の表情の変化に気づいたようで――「どうかしましたか? 私の顔をじーっと見たりなんかしちゃったりとかして」と言われてしまう。俺は「い、いいや。なんでもないぞ!」と答えた。
「ふぅん」といった感じの反応を見せてきた後で聖女は続けて言うのだ。「でも天樹さんは――きっと素敵な『勇者』になれると思います」と。
その言葉を聞けたことで――少し嬉しく思ったのは内緒だ。だけど聖女が俺に好意を持っていてくれていることは伝わってくるのだった。だから、つい「じゃあ」と言ってしまいそうになるが――我慢をした。俺はまだ――自分の世界に戻れる可能性が消えたわけではないからな。そんなことを考えていると、聖女が俺の手を握るのだ。そして――俺のことを見ながら言葉を続ける。
「その――私と仲良くしてくれますよね?」
その問い掛けを受けて俺は――「当たり前だろ?」という気持ちを込めて「もちろん」と口にしていた。すると彼女は――「嬉しい」という言葉を呟いたのだ。その表情は――本当に幸せそうなもので、俺はそんな聖女の表情を見ているだけで『俺まで幸せな気分になってしまうなぁ』なんて考えてしまうのだ。ただ同時に――「聖女の勇者が本当に求めているものは俺ではないんだよな」とも思う。ただ俺だって、ここで諦めてしまうわけにはいかないのだ。俺の『大切な人を守りたい』っていう感情に嘘は無いのだから。そう考えた上で、だ。
俺は改めて聖女を見るのだ。そんな彼女には、どこか不思議な魅力がある。だからこそ俺は『聖女には何か特別な力が有るのかな?』なんて考えるのだが、それがどんな力なのか、分からない。聖女本人に直接質問をしてみたいという気持ちも当然湧いてくる。だけど俺は――この世界を救うための旅に同行して欲しいという聖女の誘いを受けた直後で「どうして聖女は特別な力を使うことができるのか」という疑問を口にすることは、躊躇われたのだ。なので――
その力とはどんな力なんだ?」
なんていう疑問を俺は口にする。
すると聖女は、「回復系の能力が使えるんですよ」と答えてくれた。
「回復系――か」と俺は声を出す。そして俺は気になったことを口にしてみる。「ちなみに――クレアが使っていた『聖槍の勇者の力を引き継ぐことによって得られたスキル』はどういう能力なんだ?」と、そのような内容を尋ねてみることにする。聖女は俺の問いかけを受けて目をパチクリとさせた後で、俺にこう返答してくれたのである。
「回復系統の魔法を使えたりします」と。
「そういえばさ、クレアさんって『神』の声とか聞こえたりするの?」と俺は尋ねた。その質問を投げ掛けた相手とは――『クレア=レオニード』であったのだ。そんな彼女のことを見て「え?」という疑問符付きの返事をした。
「あの、明人くん?」
俺の方を不思議そうな表情で見つめているのだ。それから――
「その、どうして、私の名前を呼んでいるのですか?」なんてことを聞いてくるのだ。そんな彼女を目の前にした俺は――なんて説明しようかを必死になって考えていた。そして、どうにか思いついた内容が「俺、クレアさんの知り合いの天城さんって人のことを鑑定しているんだよね」と、そんな内容のものだった。しかし俺の話を耳に入れた瞬間、クレアさんが急に慌て出す。
「ちょ、ちょっと待って下さい」
両手を大きく振りながら、そんな反応を示すのだ。俺はそんなクレアさんのことがとても可愛く思えてしまって「可愛い」と素直な感想が口をついて出てしまった。するとクレアさんは「うぇ?」と驚きの混じったような反応を示して、そのまま俺を見つめ続けてしまった。俺は慌てて「いや! えっと」と言葉を続けようとした。すると――俺が言いかけた言葉が気にかかったようで「あの――どうしたんですか?」という言葉を口にした。
「え?」
俺は反射的に疑問符を口にしていた。そして「えっと、それはどういう意味?」と聞き返してしまうのだった。そんなやり取りを交わした直後のことだ。聖女の勇者――天城武史が意識を取り戻したようで「ここは――?」なんて言葉を呟いていたのである。その発言を聞き逃さなかった俺は天城の方に駆け寄ることにした。俺と天城の二人がかりで『鑑定』を発動させよう。それで何かが変わるかもしれないと思ったから。ただ、その判断は間違っていたのかもしれなかった。なぜなら――
『俺のことを睨みつけて』きたのである。俺のことを敵視しているような態度だった。
そんな俺と天城を目にしたクレアさんは俺と天城に「えっと、お二人はお知り合いさんですか?」なんて尋ねてくるのである。それに対して俺が口を開きかけるが、それよりも先に天城の方が「あんたら何者だよ?」と言葉を漏らすのだった。俺達のことを知らないようだが、敵意のような雰囲気だけは感じられるため「お前は誰なんだ?」という俺の質問に答えることなく攻撃してきた。『魔刀を鞘から引き抜いて、それを地面に突き刺して衝撃波を放ってきた』のである。
俺は、この攻撃を防御しようと、『障壁』を展開する準備を行った。だが、その直前に――
『魔刀の攻撃はクレアが作り出した『聖槍の壁』によって防がれていた』
それを見て――俺は安堵のため息を吐き出していた。
そんな俺に聖女の勇者が近づいてきて「大丈夫ですか? 怪我はありませんか?」という質問を投げかけてきてくれた。俺は聖女の勇者に「大丈夫です」と答えておいた。そして聖女の勇者は、自分の力を使い、クレアが作り出してくれた壁を破壊しようとしていた。だが――そんな最中に「あー。こらー。勝手に動かない」という女性の声が響くのだった。その直後、
『突然空に出現した女性が空中に浮かんでいた』
その事実に対して――俺の口から「は!?」という間抜けな一言を漏らしてしまった。聖女は『いきなり現れた』と口にしたが――その通りで、いきなり現れてきたのだ。その女性は黒を基調とした服を着用していて、腰元からは『スカートのようなものが伸びているが――そこから下は太ももが見えていて露出が多く、上はへそが出てしまっているほど短いデザインの黒い衣装だった』そんな風な外見をした女性の見た目は『妖艶な大人の美女』と表現することが出来るだろう。そして俺は、そんな姿に目が釘付けになるのだ。だが――すぐに気を引き締める必要があったのだ。俺が見惚れてしまっていたのはほんの数秒程度でしかなかった。俺とクレアが警戒心を顕わにすると――「もう。そんな目つきをしたんじゃ駄目でしょう?」と女性が口にする。その台詞はクレアに向けられているもので――俺に話しかけているようには聞こえなかったので、俺は何も言うことが出来ない。するとクレアが、その人物に「あの――貴女はいったい?」という問いかけをしてくれる。すると彼女は、にやりとした笑みを浮かべて「ああ。そうそう。私は、こういうものよ」と言い、胸元に右手を持っていって何かを掴み上げるような動作を見せた。
『次の瞬間、その右手の中に一冊の本が存在していた』
その光景を目の当たりにしたことで――俺は絶句することになる。そんな俺の様子を眺めながら、目の前の女性が口を開く。
「これは私の『力の一部』であり『本体』じゃないの」との言葉と共に――俺に「私のことは『女神』と呼ぶのが良いわ」なんて自己紹介を行うのであった。
そんな出来事の後だ。クレアさんが、その女神様に「私の知っていることならなんでもお話します」という提案をした。すると神様は――「じゃあ、私の力の一部を授けましょう」と言って――その力でクレアさんのことを抱きしめ始めたのだ。俺はその光景を見届けることしか出来ない状況に陥らせられてしまうことになる。だけど、そこで俺はあることを思い出すことになった。
この場には――聖女が居たんだったなと。だから「ちょ、ちょっと待ってくれ」と叫んでしまうのであった。すると聖女は「え? どうしたんですか?」なんていう反応を見せてくれた。俺は聖女に向けて「あの人は、君のお母さんなんじゃないか?」という言葉を伝えてみた。そうしたならば――
「いえ。違うと思います」
そう即答してくれたのだ。俺は思わず驚いてしまって「そうなのか」と、つい言ってしまうのだ。しかし――そうなると、この状況にどのような説明をつけるべきか、分からなくなるなと考え込んでしまったのだ。そんな時だ。クレアさんと聖女の母が同時に俺の方を向いてくるのだ。二人共『同じ表情をしていた』のである。その表情とは、とても嬉しそうな顔。俺のことを見つめながら笑顔になってくれたのだ。ただ、そんな彼女達を見て――
「うおっ!」
変な声を出してしまうことになった。それは何故かと言うと――クレアさんの姿が変化し始めていたからだ。髪の色は金色に変化を始めていて、そして瞳の色も変化を始めたのだ。さらに耳が長く尖り始め――最終的には――
『銀髪を生やして銀色に輝く瞳を持った超美人になっていたのだ。しかも耳の形が特徴的になり始めており――尖っていた』
そんな変貌を俺は目撃することになったのだ。その容姿の変化を終えた後でクレアさんは「あれ?」なんていう疑問を口にして自分の手を何度も確認するような行動を行い始めたのだった。
「え? あれ?」
そんな声を上げ続ける彼女の姿があまりにも不気味で――俺が声をかけることは出来なかった。しかし――
「明人さん、助けて下さい! あの――」
クレアさんが俺の方に近づいてきて、俺のことを抱きついてくるのだった。そんな彼女に対して、俺はどうして良いのか分からずにいたのだが――ここで俺は思い出すことがあった。それは――
『俺のステータス画面が変化していることに気付いたのである』俺はそのことを自覚した後にクレアさんの身体に触れるのだった。すると彼女の身体に触れた瞬間に俺は『ステータスウインドウ』を開くことが出来たのである。その現象を目の前で見ていた聖女は「あっ」と驚いたような声を上げるのだ。そして聖女は――こんな風に言葉を続けたのだ。
「明人くんは、天城のことだけではなく、私にもスキルを与えることができるみたいですね。つまり『鑑定』のような能力を与えられるのかもしれません」
聖女はそう口にしてから「天城のことも含めて調べた方が良いかもしれないです」という言葉を付け足すのだった。それを聞いた俺は「分かった」と短く答える。そして、クレアさんに対して俺は『鑑定の能力をクレアさんの体内に送り込み込むことにした』のである。その行動は上手くいくはず。
だって俺の頭の中には、そのように説明された文章が流れているからな。しかし――
「んー」
俺は思わず首を傾げてしまった。クレアさんの外見的な部分は変わらないのに――中身だけが変化しているように見えたのである。具体的に言えば『年齢の割には若い感じの美人になった』とでも表現出来るだろうか。そんな彼女が「ありがとうございます」という感謝を口にしながら抱きついて来てくれた。
クレアさんからしたら『急に起きた異変の原因を探る』という意識しかないはずだ。そのため『今の俺の行動を深く考えてくれないのだろうな』と考えることにする。それに、もし俺が何をしているかを理解したとしても――今のように抱きついてくれてはいなかっただろう。きっと『何が起こっているのですか?』とか『どうなっているんですか?』みたいな言葉を口走りながら慌てふためくと思うんだよ。だからこそ――俺がこの『能力を与えてしまう行為』が、彼女に『この場で俺に出来る唯一の方法』だと判断することが出来た。
俺にできることと言えば――『聖女の力を与えることと』、そして、天城のことを鑑定することだけだったのである。そんな俺に『女神様は笑いかけてくるのだった』。そして「この子の名前は何なの?」と質問してくるのである。クレアさんは「あ。申し訳ありません」と言って天城のことを見やったのだ。
「あ、あの、すみませんでした」
天城は俺と女神様のやり取りを見守っていてくれたようだった。その天城に視線を向けた後に――俺はクレアさんが名前を告げる前に口を開くのだった。
「彼女は天城武史です」
俺がそんなことを告げれば――女神様はにっこりと微笑んでくれる。その笑顔が凄く美しく見えてしまい俺は見惚れてしまっていたのだ。
『その瞬間だ』
俺達の周囲に突然『真っ黒な空間が現れた』のだ。その『黒』を見た瞬間に俺は反射的に「クレアさん」と名前を呼んでいた。そして彼女の方へと振り返った時に俺は――また絶句する。先程は、目の前の美女が『大人びた美女へと変貌を遂げた』という事実に驚愕していた。だが――今回は違った。何故ならば『クレアさんが子供の姿に変わっていった』からである。俺は咄嵯に『鑑定』を発動して『目の前で起きている出来事について知ろうと試みた』のだ。
【名前】
クレア=レオノール 【職業】
『勇者』『メイド』『勇者の母親』
【体力:2700/7200
魔力 :13000/39000
攻撃力:800
守備力:1200
敏捷性:2520
幸運値:50 スキル一覧 光属性魔法LV10(+15)
神聖魔法の扱いLV9
(+5)
家事能力LV11 礼儀作法LV6 言語理解LV4 聖剣術LV8(+18)
身体能力強化 剣術技能習得 剣技LV12(+13)
気配察知 危険感知 危機回避 体術 身体加速 縮地 瞬動 無呼吸連打LV16 魔力操作レベル23 魔力制御レベル28 1対多用 状態異常耐性LV22 物理耐性LV14 隠密LV25 気配遮断LV17 罠解除LV30 細工技術LV27 調合士LV29 料理技術Lv32 調理Lv37 2重行動 Lv24 分身LV18(+13)
3次元機動 空中歩行 壁登り 並列思考 集中LV19(+12)
多重詠唱LV7 魔法効果増大LV38 魔法範囲拡大LV39 火属性魔法 火炎魔法 火炎魔術 熱線放射LV16 火矢LV18 火の玉LV33 火槍LV34 火弾LV42 炎嵐 焔波 煉獄 火炎爆発 炎の壁 大炎撃 爆裂炎球 フレアバーストLV46 灼岩紅炎 火炎結界 ファイアウォールLV50(+11)
氷結系 アイスバレット フリージング コールド 冷凍光線 絶対零度(-270C)」
『目視できた情報は、これくらいのものだ』
しかし、それだけの情報を得ただけで俺は、かなりの量の『脳内処理』を必要としたのだ。そして――その結果は『あまり好ましいものではなかった』。俺はその事実に対して舌打ちを行いたい気持ちになってしまった。だけど、その感情を抑えて俺は――俺の方に近寄ってきてくれたクレアさんに「今から少し忙しくなる」なんてことを伝えるのだった。ただ、この説明に対してクレアさんは――何も言わずに俺の方に抱きついて来てくれるのであった。だから俺は――クレアさんを抱きかかえるように抱え上げる。すると彼女は嬉しそうな笑みを浮かべてくれていたのである。
そうしている内に俺の視界が白くなった。どうやら俺は『元の場所に戻ってきている』ようである。そんなことを感じた後で、俺は周囲を確認することにした。しかし、周囲の光景を確認したところで、俺は思わず呆気にとられてしまうことになる。
俺の目の前には大勢の人達がいた。しかし彼等は全員――人間ではない種族ばかりだったのだ。『エルフ』と『ドワーフ』、さらに獣人の姿が確認出来たのである。そんな彼等を目にした俺は、一瞬だけ言葉を失うことになった。そして俺の腕の中には『聖女』がいて、そんな俺の隣には天城の姿もあったのだ。
ただ、聖女は俺達とは離れた位置にいた。そして、そんな聖女と向かい合うような形で――一人の男が立っていたのである。男は白い服を着ていて背中に羽を持っていた。その姿を見て『聖天使様だ』と気がついたのだ。そして同時に――聖女の言っていた言葉を思い出すのだった。『私のいた世界は、もう終わりを迎えようとしています。ですから明人さん。貴方に、私の持つ全てをお渡ししたいと思っています』
そんな彼女の声が、まるで頭の中で再生されるかのように俺には聞こえたのだった。しかし俺は、それを必死で抑え込んだのである。今は状況確認と情報収集が先だと考えたからだ。だからこそ俺は聖女に声を掛けることなく、俺と天城のことを見ていた男に視線を向けることにした。
すると俺と目が合った男の瞳に力が宿るのが分かった。どうやら彼もまた、俺のことを観察し始めたようだった。彼は「ふむ」という言葉を口にしてから――聖女に向かって言葉を発したのである。「クレアよ、お前に何があったのかは分からぬが――お前の力が失われているのは間違いないな?」
「はい」
聖女は聖女の言葉に短く返事をした。その聖女の様子を見て、聖天使は何かを考え込むように口を閉じる。その後で聖女にこう問いかけてきたのだ。
「クレアよ、その『力の喪失』はいつから始まったのだ?」
「一月前、この世界に転移してきた時です」
聖女が口にしたのは『真実である可能性が高い』と感じた。それは聖女が『この世界の時間の流れ方が異なる』ということについて述べてくれたからである。そして俺は――このタイミングを逃すまいと口を開いたのだ。それは聖女に対して「どういう意味ですか?」というような内容の言葉を、俺が口にする前にである。
俺の声を聞いた聖女が俺の方を見やった。その視線が、俺が口にした疑問に対して「今はまだ話せません」という意味を含んだものであったような気がしたから。そんな彼女の様子を眺めながら俺は――心の底から安堵する。何故ならば俺は、今のやりとりから一つの仮説を思いついていたから。
もし俺の仮説が正しいとしたなら、今の段階で『聖女の力』を失うというのは絶対に避けたかったのだ。つまり――今の時点では『クレアさんが天城を助ける可能性』が失われたということになる。もしも、これが正解だとすれば『俺とクレアさんは確実に殺されるだろう』と考えたのである。だってクレアさんは、この世界の住人じゃないんだぜ? 俺と一緒にこの異世界に来て、俺の力を分け与えただけなんだぞ。しかも俺は、『クレアさんと離れたくない』『クレアさんの力になりたい』と考えて彼女に力を渡そうとしたんだ。そしてクレアさん自身も、この異世界に来る時に俺のことを信頼してくれたわけで。それなのに――
そんなことを考えていれば聖女と天城の会話は終わったようだ。
「なるほどな」と小さく呟く聖天使の姿を見れば分かるとおりである。この場にいる全ての者達は天城のステータス画面が見えているようで、誰もが天城に注目することになった。
そのせいで俺は焦ることになる。天城は勇者の称号を複数持っているが、それが天城が魔王であるということに結びつかない可能性があったからだ。しかし――
【名前】天城武史 【職業】『勇者』×99(勇者が使える全てのスキルを取得済み)
【レベル】98 【称号】『異世界勇者』
【HP】2800/2800(勇者が使える全ての範囲防御スキルを習得しているため)
【MP】3900/3900(勇者が使うことの出来る攻撃魔法、神聖魔法、支援魔法、生活魔法などのほぼ全ての魔法を覚えているため)
【攻撃魔法:火系魔法LV20(レベル30まで習得している魔法は――『火炎魔法』)『水氷魔法』など)
【支援魔法:風雷魔法】
【生活魔法】(回復魔法を除く)【状態異常魔法】【状態異常付与】【状態異常解除】【状態異常無効】
【身体加速】【無呼吸連打】【瞬動】【壁登り】【平行思考】
俺には見えるけど、他人にも見えるのだろうかなんて思いながら天城のステータスを確認したのだが、その効果は俺の目から見ても規格外のものとなっていたのである。俺はその事実を確認してから『聖女のステータス画面に表示されている俺の情報ってどうなってるんだろうか?』と考えるようになった。だから俺は聖女に声をかけることにした。聖女は聖女で俺のことが少しばかり気になっているらしく、チラリチラリとこちらのことを見るようになってきたからでもある。
ただ、俺からしてみれば、この状況は好ましくないものだと考えていた。なぜなら、今、目の前には、天城を始末しようとしている者が複数いるということだからだ。しかし――この状況下で俺は、聖女に対して「ステータスを開け」と命令することなんて出来なかった。それは俺自身の存在が怪しく思われる恐れがあったためだ。
なので俺は、まず最初に――聖天使に対して話しかけてみることにする。彼はクレアさんの方を向き直っていて、彼女は聖女の近くに立っている。だから聖天使に声をかけられるのはクレアさんしかいないと判断したためだった。そして実際に俺は聖天使に話しかけることになったのである。しかし当然と言えば当然ながら、俺はクレアさんに助けを求めるように彼女のことを見たのだ。すると彼女は苦笑いを浮かべながら聖天使に近づいていった。「明人さん。この方が『創造神様』ですよ」
「へぇ~、君が噂の――ねぇ」
「『創造神様』よ、この世界で起きていることを説明しましょう」
「ああ、お願いしようかな。それと僕は君のことは、これからは――聖女と呼べばいいのかい?」
聖天使の言葉を受けた聖女は――何も答えなかった。しかしそんな聖女の代わりに俺が聖天使に質問することにしたのである。「『勇者が召喚できる』っていうのは――どういう仕組みになってるんですか?」
俺の問いかけを聞いた聖天使は、その端正な顔立ちに浮かんでいた微笑みを消してしまった。そんな聖天使の態度の変化を目の当たりにした俺は――自分が失言をしたことが分かってしまう。どう考えても俺の言い方では――「お前ら勇者のシステムを作ったのは誰だ?」と言っているようなものじゃないかと気づいたからだ。だけど俺がそんな風に考えていると、聖天使は――俺に対してこう言ったのである。
「その問いに対する答えはとても難しいね。だから僕から出せる言葉は、とてもシンプルなものになると思う。でも、そうだね――『神が作り給うたシステムが勇者だ』というしかないのかもしれない。少なくとも――僕にはそれ以上のことは言えないんだよ」
聖天使が俺に説明を行ってくれた。だけど俺は『本当にそれで説明できているのかどうか』が分からなくて困惑するしかなかったのだ。だって聖天使が説明した言葉には『聖女が言うところの神が作ったシステムで人間が創り出されたんだ』とは一言も書かれていなかったからである。ただ、そう思ったところで俺は気づくことになる。聖天使は、あえて言葉をぼかすことによって、これ以上突っ込んでくるのを避けようとしているのだろうと。そして聖女の方を見ると――やはり聖天使の言葉の意味をくみ取ったようである。そんな彼女が聖天使をジッと見つめていたので俺は慌ててしまった。
そして聖天使の方を見やれば、彼は聖女のことを見やり――「君の考えそうなことだよね」という言葉を口にしていた。俺は聖女の方に視線を戻せば――彼女の方は「私達の世界の事情をお伝えしませんでしたから」なんて口にした。それから聖天使は俺にこう語りかけてきてくれたのだ。
「この世界がどういう経緯で誕生し、今に至ったのかを語ろうと思えば一日程度じゃあ済まないよ。それくらいの覚悟がなければ語ることが出来ない内容だからさ」
その言葉を受けて俺は聖女の顔を見て、聖女と目が合ってしまう。すると彼女は小さく頭を下げてくれた。それに合わせて俺は聖天使に視線を向ける。すると彼は「君はこの世界で生きることを決めたんだろう? ならば自分で考えることも必要だよ」と言ってくれたのだ。どうやら俺と聖女の関係については理解してくれたみたいだった。そこで聖女が俺と聖天使のやりとりを聞いてこんなことを言ってくれる。
「私がお話しするよりも、そちらの世界の神々の方が、より詳しい内容をご存じかもしれませんよ?」
「なるほど、確かにそういう考え方もあるね」
聖天使の言葉は納得出来るものだったので、聖女は続けてこう発言する。
「それに私達の存在にお怒りにならないのですか?」
「それはどういう意味だい?」
「この世界に干渉しない。そして――異世界の存在を認識すらしていなかったと私は聞いています」
聖女の言葉を受けて聖天使は笑った。
「なるほどね。それは僕の世界のルールが、他の世界の者達には適用されないという意味だろう? それなら、その考えを当てはめるのは無理だと思うよ。何しろこの世界に存在する生物が生きている世界は他に無いだろうからね」
「分かりました」
聖女は素直に聖天使の言うことを認めたが、その聖女に対して俺は思わず尋ねてしまったのだ。「それだと聖天使さんと天城は同じ存在ってことですよね?」と。それに対して聖女はすぐに返答を行う。「ええ、そういうことですね」――と。だから俺は確認する。天城の方を向きながらである。「聖天使さんと勇者って同類ってことになるんじゃないのか? 勇者さんは勇者さんであって――天城武史とは違う人間なんだろう? そもそも天城武史って名前自体本名なのか分からないしなぁ」
俺がそんな疑問を告げた瞬間である。聖天使は笑い出す。それも大声で笑い始めた。そして俺に向かって――こんな発言をしたのである。
「なるほど、面白い意見だ! 僕としては、君のことがますます気に入ってしまった!」
そんな聖天使の様子を眺めていた俺と聖女は――目を合わせると、互いに苦笑いを交わし合うのであった。俺の疑問を受けた聖天使は、そんなことを言うと笑い始めてしまった。俺には彼の行動の意味が良く分からなかったけど――聖女には分かったようだ。彼女もまた聖天使と同じように笑い出したのである。そんな状況の中で聖天使が笑い終わった後に、こんな提案を行って来たのである。天城武史について話そうと――。
「まあでも――彼が今、何処にいるかが分からないんだけどね」
天城と聖女、そして俺達は今、天城の部屋に来ていた。天城の住むマンションはオートロックでセキュリティがしっかりしている高級なタイプのものであったのだが、聖天使と天城によって部屋の中へと招き入れられてしまえば、特に防犯装置などが設置されていなくて驚くことになったのである。しかも――部屋の中には俺を含めて5人の人物が集結することになる。それは俺と聖女の他に、俺の仲間でもある聖騎士と魔法使い、さらに勇者の関係者である『クレアさん』の3人と1体。ちなみに『クレアさん』というのは『創造神様』こと『クレアさん』のことである。『クレア』という呼び方をするより『創造神様』と呼ぶ方が一般的らしい。『クレア』はクレアさんにとっての名前だそうだ。そしてクレアさんが何故に『クレアさん』と呼ばれているのかと言えば――彼女は、かつて異世界にて神として崇められた経験があるのだ。そのおかげでクレアさんの称号が『創造神』となったのである。
ただ、今は『異世界転生者』とでもいうべきか、『地球出身』の聖女と同じような感じで『創造神様』と呼ばれるようになったそうだ。しかし俺は思うのだが――クレアさんは、『神界』と『人間界』の狭間にいた時もそうだったが、常に人間の味方をしてきた。『聖女』の『真意』が『女神』と『勇者』にあることは知っているが、だからといって人間を見捨てるようなことだけはしなかったはずだと。そんなことを考えながらも俺は改めて、自分の目の前に座っている二人をジッと観察することにしたのである。
聖天使の方を見やった俺が最初に思ったのは――綺麗だなと。
聖天使の姿は――俺が前世で見てきたどのアニメキャラクターにも勝る美男子ぶりを誇っていたのだ。
しかし――同時に俺は気づくことになる。俺と聖天使は初対面ではないということを。それは聖天使が『異世界』からやって来た勇者であり――俺の目の前に存在している聖天使は、勇者が『創造神様』から与えられた加護の能力を使い――変身能力を行使した姿なのだと。つまり俺の前世の『親友』である『天城武史』に変身することが出来たのだろうと理解出来たのだ。そして俺は「やっぱりお前だったのかよ」という言葉を口にしていた。その言葉で俺は、やはりこの人物は聖天使――もしくは聖天使が化けている存在であるということに確信を持つ。ただ、そうやって冷静に分析をすることが出来る一方で――内心はドキドキと胸の鼓動が高まっていて仕方なかった。それは『勇者が召喚される前に聖天使と出会うことが出来るなんて!』――そんな喜びがあったからだ。ただ、それと同時に不安でもあった。
俺の目の前に存在している『聖天使が変身した勇者』が本当に本物なのかが怪しかったからである。なので、そのことを聖女に問いただしたのであった。
「それで――お前の言う通り本当に勇者なんだな?」
「ええ」
「本当に本当?」
俺の言葉に聖天使は答えてくれなかった。ただ、「その言い方は失礼じゃないかな」という言葉と共に笑みを浮かべたのである。俺はその表情をジッと見やりながら「いや、その、ごめん」と口にすると、勇者は続けてこう言ってきたのだ。
「それでさ、君と会うことが出来て良かったと思ってるんだ」
「そりゃどういたしまして。それで、どうして会えて嬉しいんだよ」
「それは僕が『君のことをずっと心配していた』からさ」
その言葉は、どう考えてみてもありがたいものだった。だが同時に俺のことを心配していたという勇者の発言に嘘はないと感じることが出来たのである。
だから俺は勇者が『俺を気にしてくれていたこと』に感謝の念を抱いてしまうと「俺のことが心配だったんだって?」なんて言葉を発したのだ。すると聖天使は微笑んでから、すぐに真剣な顔になると――こんな話をしてくれたのである。
「実はね――僕は以前、神の世界に行ったことがあるんだよ」
「神の世界?」
「そう、神の住んでいる世界にね」
「マジか!?」
俺は聖天使の話を聞くなり、驚いたような声を出してしまった。まさか聖天使は異世界の神の領域へ訪れた事があるなんて思ってもいなかったからである。だから俺は聖天使に対してこう尋ねる。「それは異世界に行けば、誰だって出来る事なのか?」
「異世界? あぁ――君が元々生きていた世界にも行ったよ」
俺は「俺がいた世界にまで来たのかよ」――という言葉を口にしていた。しかし俺としては『この世界だけに来た』と言われたら逆に困惑していただろう。何しろ、異世界の神と異世界の生物達の間で戦争が起こったりしているのを俺は目にしているのだ。それに俺は実際にこの世界で魔王と戦ってもいたわけだし。だからこそ聖天使が「他の世界でも、僕は自由に動くことが可能な存在だよ」という言葉を口にしてくれたことに、凄く安心したのである。すると俺の隣に座る『聖女』の肩書をもつ女性――彼女は『天上静香様のご息女で聖女の生まれ変わりでもある』とのことだが、彼女の口から聖天使について語られたのである。「あの、私達の世界は今大変な状態なんです」――という言葉が。
俺の視界には、何故か聖女の顔がアップで映し出されている。
俺の顔が徐々に近づき――聖女の顔と唇の距離がゼロになりそうになる――寸前で、彼女は俺から離れてくれた。そんな状況の中で俺は思わず「おぉ~! すげぇ! キスされちゃうのかと思った!」という歓喜の声を上げてしまったのである。
そんな俺の様子を目の当たりにした天城が俺の顔面に向かって回し蹴りを食らわせようとしてきたので――俺はそれを受け止めることに成功する。そして天城に向かってこう言い放つ。
「天城さんよ! あんたが本気で攻撃しようとしてきているのは分かるが、そんな攻撃をまともに喰らうほど俺だって鈍感じゃない!」
俺の言葉に対して天城は「な、何を言ってる? 僕が攻撃しようとしていた?」などと呟いていたが、その発言を聞いた瞬間、俺は天城武史という人物のことがよく分からなくなったのである。俺としては『聖女を俺から守るための行動だ』とかなんとか理由をつけて、こちらを攻撃させようとしてくるものだと考えていたのだけど――そんな考えとは裏腹に、聖女を守ろうとするような言動を天城がとったことに関して俺は混乱したのである。ただ、俺の混乱はそこまで長続きはしない。
「ところで聖女ちゃん。君は聖天使に会ったことはないんだよね?」
俺は『俺から逃げ出そうとする天城を強引に捕まえると抱き着いてやった』のだ。そんな風に無理やり抱きしめられたことで俺と触れ合っていることが気恥ずかしくなったのだろうか、聖女は顔を赤くしながらこんな返答を行う。
「そ、その質問は、ま、まだ、その、答えられないです」
俺の目を見て話そうとしているのか、俺の腕から逃れようとしている聖女なんだけど、俺が聖女の動きに対処して、更には強く抱きしめたものだから聖女は自分の身体を動かすことすら出来ないようになってしまった。なので、しばらく時間が経過した後、俺は聖女が抵抗することをやめたので、そのまま彼女を解放したのである。
ただ――解放された聖女も聖天使も何も言わずに互いに黙ってしまった。そして聖女は「わ、私はこれで帰ります」と口にすると部屋から出て行ったのである。そして聖天使も、聖女に続いて帰ろうとしたので俺は慌てて声を掛けた。
「ちょっと待ってくれ。天城、お前の気持ちは嬉しいけど、少しくらい俺と聖女と二人っきりにしてくれないか?」
「しかし――」
「大丈夫だ。俺には聖女が居るからさ」
「いや――お前は聖天使と一緒なんだぞ?」
聖天使は俺と離れることに抵抗があるのか、「ぼ、僕も行く」と言い出す。それに対して聖騎士は聖天使のことを見つめて「貴方はここで待っているべきでしょう」と言ってくれた。
「でもさ――僕、聖騎士に謝らないと」
「別に謝罪はいりません。それより聖天使、今すぐ貴殿は天上の所へ行くべきではありませんか?」
聖騎士は俺と聖天使を二人で過ごさせてあげたいという意図を持っているのだと思う。でも聖天使は聖女が心配らしく――聖女の後を追おうとしたのである。そこで聖天使は聖女の傍まで移動して――彼女に「僕の傍に居てほしいんだ」と伝えたのだ。
「聖天使様、それでは駄目です。まずは私のことを――」
聖天使は「うん、君のことも大切だから、君にも傍に居て欲しいと思っている」と口にすると――聖騎士の方へと振り返り「僕達二人はここに残ることにするよ」と告げたのである。その言葉を聞いた俺は――心底嬉しく思うと、二人を残して聖天使と共に聖女のいる場所へと向かうのであった。
聖天使と一緒に聖女の向かった先へと向かった俺は「あれ? どこへ行こうとしたんだっけ?」なんて言葉を口にしてしまう。そして自分の今の状態を不思議に思ったのである。というのも俺は、聖天使の変身能力により聖天使に成り代わって聖天使の姿をしているわけなんだけど――聖天使と会話をしていた最中、急に意識を失ってしまったのだ。なので、聖天使の姿に化けた俺がどこに行きたいのかという記憶が失われていたのである。だから――「俺は一体どこに行こうとしていたんだろう?」と疑問を抱いた。すると聖天使が微笑みながらこんな言葉をかけてきたのだ。
「聖天使様、私がご案内します」
「ああ、頼むよ」
そういえば聖天使が変身できるということは、変身していない聖天使が俺を導いているということなのかもしれない。俺は「それで何処へ向かっていたの?」と尋ねようとしたのだけど、その前に聖天使は「あそこに行きましょう」なんて言葉とともに俺の手を引っ張ってきたのだ。
俺は突然の行動に戸惑いながらも、どうにか対応しようとするのだが――そんな時に「きゃー、聖天使様に手を握って貰っちゃいました!」という言葉が聞こえてきて俺は思わず動きを止めてしまう。
俺は恐る恐る声のした方を見やれば、そこには俺に背中を向けた状態で歩く聖天使と、その隣には聖女の姿が存在した。そして――何故か俺に背中を向けている状態の聖天使と俺が仲良く手を繋いでいる光景が目に入ってきてしまったのだ。そんな様子の俺と聖天使の後ろ姿を目撃されたせいなのか「あの、えっと、私達も仲がいいんですよ?」という聖女の発言をきっかけにして、他の人達の俺に対する態度がおかしくなっていったのである。まるで腫物を扱うかのように扱われ始めた。そんな中で俺が気にかかったことは――天城武史が聖女に何かを話しかけていて、それが俺の心に妙に引っかかっていたのである。何だろう? 凄く、変な感じだった。そして天城がこちらに向かってくると「俺達だけで話をしたい。だから、悪いけどライガ達は先に部屋へ戻っておいてくれ」と言ったのだ。
その言葉に俺は思わず「なんで天城はこんなことを言っているんだろうか?」なんて考え込んでしまう。すると天城はすぐに「聖天使の力が安定していないみたいでね。だから聖天使の事を頼んでおきたかったんだよ」という言葉を口にしてきたのである。ただ俺は「そんなこと言われても」――という言葉を漏らすことしか出来なかった。だって聖天使の力の不安定さとかいう意味不明現象によって、俺がこの世界の人間と認識されているかどうかすら分からない状態なのだから。
ただ天城からの提案に対して俺が何も反応を返せなかったことに対し、聖天使と聖女も天城の発言を肯定する素振りを見せるので俺は仕方が無く天城に従う事に決めた。
俺が聖女と一緒に自室へ戻るために歩き始めると「私と勇者様が一緒に歩いている姿は――凄く自然ですね」なんて聖女は口にする。ただ、その言葉を耳にした瞬間に俺は思い出したのである。天城に変身させてもらった時――聖女は「私と勇者が恋人のように振る舞っても良いのですか?」と天城に疑問を投げかけたのだ。それに対して天城はこう回答していた。
――問題無いと思う。それに君は聖女の生まれ変わりでもあって、僕は君を聖女として扱うことに決めたのだから。
この言葉を思い返したところで、俺はある事に気付いたのである。もしかしたら天城は、俺と聖女の事をカップル扱いにしようとしているのではないか?――という疑惑を抱くに至った。でもまあ、別にそんなに嫌だとは思わない。俺は今まで女の子と縁のない生活を過ごしていたのだ。そんな俺が美少女と付き合うことになってしまったという現実を受け止めるには多少の時間が必要になったけど――それでも「まぁ、良いか」と思える程度には余裕を持つことが出来ているのである。だからこそ、俺が「そうだな」と言うと、聖女はとても可愛らしい笑みを浮かべた。そんな笑顔を俺に向けてくれていることが嬉しくなって――俺もまた聖女と同じように笑顔で答えることが出来たのである。
ただ、そんな楽しいひと時は長くは続かなかった。聖女を俺の部屋へと送り届けてあげたら、俺が天城と会う時間はほとんどなくなってしまう。なので俺が聖女を部屋の中に入れた後、すぐに聖天使の待つ部屋の前に戻ることになった。しかし――俺は戻る途中で天城から呼び止められてしまう。
「ライナの所に戻ろうとしていたところ申し訳ないんだけど、少しだけ君と話がしたい」「話とはなんだ?」
「いや、少しだけ君のことを知りたいなと思って」
「俺のこと? ははは、お前に話せることなど何もないが」
「そんなことはないだろ?」
俺はそこで一度言葉を止める。そして目の前の少年――『勇者』にこう言い放った。
「なあ天城、俺が聖女ちゃんに惚れているのは分かっているだろ?」
「いやいや、その件は冗談として流してあげるよ。僕としても可愛い女性に好かれるのは気分が良いしね」
天城の言葉を聞いて俺は心底驚くことになる。
なぜなら天城は俺が『聖騎士団』に入るきっかけとなった出来事を知らないはずだからだ。なので、今の会話の流れが普通におかしいことに気付かれるはずだったのだ。それなのにこの反応――これは絶対に嘘であると確信する。
ただここで追求しても天城は答えてくれるはずもなく――むしろ怪しさを増すだけだと悟った俺は話題を変えることにする。すると――俺達二人の前に見知った人物が姿を現す。その人物は白銀の鎧を身に纏っていて、背中に大きな大剣を携えた騎士――天騎士だった。
俺達の前までやって来た天騎士は立ち止まると、「私は貴方とお話をさせていただいてもよろしいでしょうか?」と口を開いたのである。その問いかけを受けて、俺は「俺も貴方に訊きたいことがある」と答えた。
「私は、貴方に質問されてばかりだ」
「ああ、確かに。でも貴方には確認しておかなければならないことがあったのだ」
「そうか、ならば私が先程貴方にお聞きしたのと同じ内容の問いに貴方はどう答えてくださるのか? それが重要になりますよね?」
俺は天騎士に言われて気付く。確かに俺は先程の会話の中で「聖天使について知りたい」と言っただけで、天騎士が俺の質問に対してどのように答えようとしているのか、まだ聞いていなかったのだ。すると俺の隣にいる天城は「どういうことだ?」と呟く。
「つまり、聖天使は聖女さんの生まれ変わりだという話でした。そして聖女さんはライラ姫の生まれ変わりであり、魔王の娘でもあるという話です。そして魔王と聖女は――恋人関係でもあったと記憶しています」
「ええ!? ちょっと待ってくれよ! 聖騎士!」
聖騎士の言った言葉に対して俺と、何故か隣にいた聖天使が声を上げたのである。俺と聖天使が聖騎士の発言内容に驚いてしまった理由。それは彼が俺達に聖女の事を色々と教えてくれたのに――その事実を隠そうとしたような気がしたからである。そして、俺達が聖天使にそのことを指摘しようとしたタイミングで、聖天使は聖女の姿に変化を解いて――俺の前に姿を見せる。その行動により俺は「しまった!」と思った。俺の正体が聖天使ではないとバレてしまう――と、そう思っての行動だった。だから俺が慌てていると、そんな俺の焦りに天城が目ざとく気付いた。そして彼は聖天使のことを「聖天使」と呼んだのだ。
すると天城は聖騎士に「どうして聖天使のことを知ってるんだ?」と尋ねる。その問いに聖騎士は「聖騎士団に所属する者であれば聖天使様をご存じない方が不思議ですよ」と返答を返す。すると聖女は天城に向かって「そんなわけないでしょ」と言い放つ。すると聖天使は俺に抱き着いた状態で聖女の方に振り返るのだけど、その際に俺に頬擦りするので思わず「んっ!」なんて声を上げてしまうのだけど、そんな俺の声を聞いた天城はニヤリとした表情をこちらに向けてくるのであった。俺はそれに苛立ってしまうのだけど、そんなことよりも今は聖天使と聖女の方が重要なのだ。俺は聖天使と聖女に目配せをしながら小声で話し合った。
「なあ聖天使、なんで変身の魔法を使おうとしないんだ?」
「だって変身は疲れちゃうんですもん。それよりライナとこうしていられなくなることが辛いんですよね」
「おいおい、変身して俺の姿になってくれないと俺は大変な事になるんだよ」
「大丈夫、私がライナを守ってあげますからね」
「頼むぜ。じゃあさっそく変身してくれないか?」
俺が頼みこむようにお願いしたら聖天使が「分かりました」と言って、再び変化の魔法の呪文を唱えて聖女の変身を行った後に俺へと変身してくれたのだが――変身を終えた聖天使の姿を見て俺は違和感を覚えてしまったのである。
まず第一に思ったのが――身長が低くなったことだった。俺と話す時は丁度良かったはずの背丈が――聖女と比べると少し低く感じるのである。それから顔つきの変化も目立つようになっていた。そして何より驚いたのが聖天使の目の色が黒になっていたので「あれ? なんで目の色が変化しているんだ?」と俺は驚きの声を上げるのだけど、その直後に「ライナはどんな姿が似合っていますか?」と問われてしまった。なので俺は――とりあえず聖天使の服装をチェックする。聖天使の服は俺の服を着ているせいで、ブカブカな感じになっているのである。
だから聖天使が身に付けているものはシャツぐらいしかないのだ。あとスカートを穿いているが、それでもやっぱりブカブカである。なので俺は自分の服を貸してやることにした。俺は普段着を複数持っているので、その中の一番小さなサイズのものを貸すことにしたのである。ただその際、俺は聖女からジト目を向けられてしまうのだった。ただまあ――サイズが大きくて、ぶかぶかな服を着ている状態の聖天使も悪くないと思う俺なのである。それに聖女の格好をしている時よりは幾分かマシな見た目になるはずなのだ。
聖騎士と聖女の二人との話を終え――俺と聖女と聖天使の三人は、天城の元へと戻ってきた。
天城は俺の事を部屋に招き入れる。すると部屋の中には既に『勇者』の姿は見当たらなかったのだ。恐らく俺が聖天使に話しかけられている間に天城は天騎士と話をして、その場を離れてしまったようだ。俺はそのことを聖天使に伝えると、彼女は「それなら好都合じゃないですか」と言った。聖天使は天城に会わないほうが良しと判断したようである。
そして俺は天城が座っている席の近くに腰掛ける。そんな俺と向かい合う形で天城は椅子に座っていた。
「それで、君たちはライラのことを知っているようだったが――どういうことだ? 君達は、あの子の知り合いなのかい?」
「はい。私たちは彼女とお友達なのです」「そうですそうです。私は聖女様とお付き合いさせていただいておりますの」と、二人はそれぞれ天城の問いかけに返答をしたのだった。俺の言葉を聞いて聖女は嬉しそうな笑みを浮かべながら、こちらを見つめてくるのである。
ただ、俺は聖天使の発言の内容にはツッコミを入れたかった。何故なら、聖騎士に話した内容については全て嘘っぱちであるからだ。ただそれを目の前にいる相手に言うことも出来ず――仕方ないので「ああ、付き合っているよ」と、ぶっきらぼうに返事を返したのである。すると天城は何事かを考えている様子になり、そして俺にこんな質問をぶつけてきたのだ。
「ところで君は今、『聖天使』と『聖女』と一緒に暮らしているという話だったよね?」
「え? そうだけど? どうしてだ?」
「うん。それならさ、僕と『魔導国家』に一緒に来てくれないかい?」
「え?」「え?」
俺と聖天使が同時に声を上げて驚く。そして聖女の方を見ると彼女も同様に驚いていた。
すると天城はこう言葉を続けて来た。
「実は僕が君と一緒の学園に入学出来ない理由があるんだ」
天城が言ったその一言に俺は「はあ!?」という反応しか出来なかったのだった。
天城は続けて俺達に「これから僕の生い立ちや、僕が何を目指しているのかを話したいんだけど、いいかな?」と言い放ってきたのである。俺はそれに対して首を傾げるしかなかったのだけど、聖天使は違う反応を示したのだ。
聖天使は真剣な面持ちになると、「それは私達にとっても無関係ではありません。どうかお聞かせ願えないでしょうか?」と言う。俺と聖天使の反応を見て何かを感じ取った天城はすぐに口を開いた。そして彼が口にした内容は――あまりにも衝撃的なものだったのである。
天城曰く――聖騎士の話では、かつて『魔王』は聖騎士と共に世界を支配しようと企んでいたという話であった。
その事実に対して聖騎士も、また俺も、何も答えることが出来なかったのであった。なぜなら、俺も聖騎士もそんな話は知らなかったからである。だがそんな俺と聖騎士とは対照的に、聖天使だけは「成程」なんて言葉を漏らしたのだった。その発言を受けて天城は、まるで確認をするかのように聖天使に対して質問を飛ばしたのである。
「どうして貴女だけがそんなにも落ちついた態度をとっているんだい?」
するとそんな天城からの問い掛けに対して、聖天使は平然とした口調で答えたのである。
「え? そんなの当たり前でしょう? だってライナと聖騎士は私の正体に気付いていないんだもの」
「ライナの正体に気付いているのか?」
「当然です」
「そうなのか。なら、ライナと君の関係を訊いても良いだろうか?」
「ええ、もちろん構いませんよ」
そんな会話が交わされた後、天城は俺に対して目配せをしてくる。そして俺に「ちょっとこっちに来てくれるか?」と声をかけてくれたのである。
「なんだよ」と言いながら、天城と聖天使の傍までやって来た俺は、天城の横に座ると聖騎士と聖天使が居る方向に顔を戻した。そしてそこで見たのは――二人の会話が行われている姿であった。聖天使が聖女の姿で聖女の口調を使って天城と話している。その姿を見て俺と聖騎士は驚いてしまうのだが、そんな中でも俺は聖天使から目を離さなかった。
そして、その光景を目の当たりにしながらも、俺は聖天使が言っていた台詞を思い出す。確か、彼女は天城の前では『聖女の姿になっている』と話していたはずだ。なのにどうして――今の今まで気付かなかったんだ? そんな疑問が湧き上がる。するとそんな俺の心の内を読み取ってくれたかのように、天城が俺に「気付いていたらどうしていたんだ?」と言ってきた。俺は天城に向かって返答する。
「そうだな。聖天使が変身の魔法を使っていたんだとしたら気付いた瞬間に逃げ出していたところだろうな」
「ふーん。じゃあライナは変身の魔法を使った女の子と会った事があるってことになるね。それなら、変身魔法を使っている女性とは初対面ではないはずなんだが――君は聖天使が聖天使であることを分かっていたわけじゃないみたいだね」
「ああ、初めて見る変身の魔法だからさ、誰だって勘違いはするものだろう」
俺の言葉に聖女は「ライナったらうっかりさんですね」と笑うのである。その様子はとても聖女の姿になっているとは思えないほどに自然であり、聖天使が本当に変身の魔法を使いこなしていることを思い知らされる結果となってしまった。ただ、それよりも重要なことは――聖天使が変身をしているという事実が周囲に知れ渡ってしまったということであった。聖天使の本当の姿を目にしている天城はともかく、他の人間は彼女が聖天使だとは知らないのである。つまり聖天使は今、自分が『聖天使であると知られてしまっている状態』だということだ。もし、聖天使に聖天使としての行動を取って欲しい場合であれば、俺が彼女の立場なら誰にも見つからないように行動するはずなのだが――俺の予想は外れてしまったのである。そしてそのことを聖天使に尋ねてみると――
「ライナは特別扱いしてあげたんですからね」
と言って微笑んでくるのである。
俺と聖女、聖天使と天城――四人の会話が終わったのはその日の午後のことだった。天城と聖騎士は、今日は学園に戻ることなくこのまま天城に案内をしてもらうということで話が付いたらしい。だからこれから、天城達三人はこの『王都』にあるという『勇者』専用の寮に移動するらしいのだ。
ちなみに俺はこれから、聖女に変わってもらった『魔導士の制服(女)』を着用したまま天城と一緒に、この国の中心でもある王城の近くにある『聖騎士団の学校』に通うことになっている。まあ、天城に言われて仕方なくというか、俺自身が決めたことではある。ただ天城は聖女と天城を一緒に居させたくなかったようだ。
聖天使は俺に「天城と聖女様に迷惑をかけるんじゃないわよ」と言ってくる。それに対して俺は――
「はあ? 俺のことを子供か何かと勘違いしているんじゃないか? それにお前こそ――」と返しかけて、言葉を飲み込んだ。そしてその代わりに、俺は聖天使に向けてこう告げたのである。
「ああ、分かったよ」と。
ただ、それだけでは終わらず俺はさらにこう言葉を付け加えたのだ。
「ただし俺と聖天使が一緒に暮らしていて恋人同士だということに関しては、聖騎士にも、聖城にも話すつもりはないから、そのつもりで」
俺の発言に対して聖天使は何も返さず、そのまま俺に背を向ける。そして部屋の扉を開いて外に出ようとするのだった。そして最後に天城に向かってこんな言葉を残していく。
「それじゃライナ。また学園内で会いましょ」
「うん。聖天使。また後で会おう」
「ええ、それじゃまた」
聖天使はそう言って天城達に背中を見せると部屋を出て行ってしまう。それを確認した俺は椅子に腰掛けると天城に「それじゃ俺たちも行こうぜ」と声をかけたのである。だが天城は首を左右に振る。どうやらもう少しここに残るようで、俺の申し出に対して「先に行っているといいよ。僕は後から向かうことにしておく」と言う。ただそんなことを言われたとしても素直に従う気にはなれなかったので俺は、天城と話を続けることを選んだ。
それからしばらく――二人で会話を続けていた時だった。天城の元に一人の女性が姿を現したのである。天城と同じ制服を着ていることから、その人物が同じ学校の生徒であることが窺えた。そしてその女性の顔を見た俺と天城は同時に驚いたのだった。その相手は、俺達も知る『聖騎士』の顔をしていたからだ。
俺と天城の前に姿を見せたのは――『魔剣士の聖女』の恰好をした聖天使と『聖騎士団長』の顔をした天城であった。しかし、そんな天城の前には、もう一人別の人間が存在していた。そう。その人物こそが俺と天城の前に現れた『聖騎士』の正体であった。その正体は、なんと俺達が探していたもう一人の存在だったのである。そして俺達の目の前に現れたのは、天城の学園生活をサポートしてくれていた聖天使と、『聖女の騎士候補』に選ばれたという男性騎士でもあった。だが彼は、『騎士候補として選ばれてから聖女と出会うまでの間に何が起きたのか』という事情について語る気が無いらしく、「聖騎士様は体調が優れないそうなので、代わりに私が付き添いに参りました」という言葉だけを残して俺達にお辞儀をして去って行ったのである。
「聖天使、あの人は誰なんだ?」
俺の言葉に対して聖天使は「私もよくは知りませんが、おそらく――ライラさんのお知り合いの方なのでしょう」と返事をしてきた。そんな聖天使の回答を聞いて、俺は天城と目を合わせて苦笑いを浮かべてしまう。そしてお互いに同じようなことを考えているような気がしたので、聖天使と俺は天城に向けてこう問いかけることにした。
「とりあえず、僕たちも向かおうか」
「そうだな。早くしないと授業に間に合わないかもしれないからな」
そんなやり取りの後、俺と天城は天城の案内のもと『聖騎士団の学園』へ向かうのであった。そしてそこで俺は自分の置かれている現状を嫌でも知ることになるのだが――今はそんなことなど考えず天城との時間を過ごせるだけで満足だった。だから俺は、俺にとって『最高な世界』にいるんだと感じながら歩き続けることにしたのである。
「ところでライナ君。君の方はどうなっているんだい?」
と、そこで俺の隣を歩いていた天城が俺に尋ねてきた。彼の質問の意図を汲み取るために、一瞬俺は考えてから口を開く。
「どういうことだ?」
「ほら、君は『魔王』を倒すための存在になったって言うのに、未だに『ステータス補正(極大)』の効果を受けているだろう? しかも君は『ステータス上昇値が一桁台に落ち着いた』と言っていた。
だから――君自身は今現在、どの程度の強さになっているのかなって思ってね」
天城の言っていることを理解しようとして、数秒俺は黙り込んでしまう。すると俺が答えるよりも前に、聖天使がこう口にした。
「私も少しは心配していましたけど、まさか『ライナの魔力が極端に減少している』とは思いませんでしたね。
ライナは元々、魔法が使える方ではなかったですからね。
魔法の才能が全く無かったのかもしれません。
だからこそ――私の力を受け継いでくれる可能性が一番高いのですけれど――まあ、どちらにしても『ライナが強くなった』ということは良い傾向ですから、あまり気にする必要はありません」
そんな二人の台詞に、天城は笑顔を浮かべながらこう返答する。
「そうだな。確かにライナは今現在の強さでは勇者である僕や聖女である聖天使と比べて弱い部分もあると思うよ。
だけど――それはライナルドの力が無くなったことで、魔法の威力が落ちていたことが原因だったんだよな。
なら魔法以外の攻撃方法を覚えれば――少なくとも今よりはずっと強くなるはずだ。
それこそ、今以上の実力を手にすることが出来るだろうね」
と、天城が答えたところで俺の視界に『王都』の街の風景が入ってくる。
すると聖天使が「ライナはもうすぐ学校に着いてしまいますね」と言い、俺の方に近づいてきた。そして耳元で囁いたのだ。
「ライナ。今日も頑張ってくださいね」
聖天使の励ましを受けて俺が彼女に「頑張るさ」と伝えようとした直後だった。聖天使は、そのまま天城の元まで戻ると「ライナに何を言ったのですか?」と尋ねたのである。その問い掛けに、天城は「んー。ちょっと応援してあげただけだよ」と答えた。
聖天使はその言葉に対して不満を抱いたようだが――それ以上何かを言うことはなく俺の前から離れて天城と一緒に歩いて行ってしまう。その光景を見送った後、天城と共に学園の門をくぐった。『聖騎士の学校』は、王都の中心にある大きな広場を中心にして作られている学校だ。
俺と聖天使の通っていた『王立聖学院』の『王立学校』と同じく『勇者科』『聖騎士科』があり、その他にも『冒険者ギルド』『錬金術師学科』といった各種専門の授業も存在しているらしい。他にも多くのクラスが存在しているようで、俺がこの『王都』に来た時には全ての生徒の顔を目にすることができなかった。
そんな学園の中に足を踏み入れた俺は「それじゃ、またあとで」と天城に告げると、聖天使と共に校舎の中へと入っていく。そんな俺達の姿に気づいた他の生徒たちが集まってきては聖天使に挨拶をしていき、そして俺にも話しかけてくるのだ。ただ彼等の多くは「聖天使と一緒だとか、ライナルド様が羨ましい」などと言って俺と聖天使を引き離そうとする人間はいなかった。むしろ「あの子と一緒に歩いているのは誰か」とか「あれがライナなのか?」という感じで興味津々に俺のことを眺めてきていた。まあそれも仕方ないだろう。なぜなら俺は、聖女だったはずの聖天使の横に並んで一緒に行動しているのである。それには当然注目してしまうのが普通だろう。そんなことを俺は考えたのだ。そして――そのせいもあったのだと思う。
俺達は教室に着くまでの間、様々な人たちから視線を浴びることになったのだった。そして教室の前に到着すると聖天使は、先に自分の席に向かって行く。その際に、天城に向けて俺のことを頼んでいた。そして俺に対しては、まるで小さな子供を相手にするように優しい笑みを浮かべてから、天城に対してこう言葉をかけていた。
「では聖女様。この子を任せてもよろしいでしょうか? 私は少し、用事が出来てしまったので。
ライナが一人で困っていたら助けてあげてくれませんか? よろしくお願いしますね」
その台詞に対して天城は大きく首を上下に動かし「もちろん」と即答する。そんな二人に対して、俺は何も声をかけることができなかった。聖天使に対して文句を言っても良かったはずなのだが、俺は何故かそれが出来なかった。そんな自分に驚きつつ、結局のところ俺が何も言えないでいると聖天使はそのまま教室を出て行ってしまう。その後ろ姿を俺は無言で見送る。
「それじゃライナ。僕は職員室に寄ってくるから。また後で」と天城も聖天使と同じようにその場を離れてしまう。一人になってしまった俺は仕方なく空いている窓際の机に向かう。するとそこで俺の前に一人の人物が姿を現す。そう。それは聖天使がいつも隣に連れている女性騎士であった。ただ――彼女も、俺のことを見つめては、なぜか固まってしまっていた。しかしそんな状態で時間が経過するのを待っていてもいいことが無いと判断した俺は「えっと――君が、僕の担当になる女性騎士さんなんだよね」と言葉を口にしていた。
すると彼女は「はい。そうですよ。えっ、覚えていてくれたんですか?」と尋ねてきた。
「そりゃあ、君のような美少女の顔と名前を忘れるわけがないじゃないか」
俺はそう口にしたのだが、彼女の方は苦笑いを返すだけだった。
それからすぐに俺は彼女と話をすることにした。まずはお互いに自己紹介をすることになったのである。その結果――俺の担当になってくれたのは、リリスさんという女性だということを知る。聖天使に紹介された時は気付かなかったが、どうやらリリスさんのフルネームは『聖天使騎士団所属 リリス=フォン』ということらしい。
俺はその名前を聞いた瞬間に、以前聞いたことがある名前だと気づく。確か聖天使に聖騎士のことを説明した時に、彼女の話が出て来た気がしたのである。そう考えると、俺が知っているリリスさんが本当の姿というわけではなく、彼女が本来の姿ではないという可能性もありえるかもしれないと思えた。そして俺の方からも彼女に「俺の名前をまだ教えていなかったよな。俺の名前はライナ=バルトルだ」と名乗った。そんな俺の名乗りに対し彼女は笑顔を浮かべると「これから、ライナって呼んでも良いですか?」と尋ねてきた。
「構わないぜ。俺としても『ライナ君』なんて呼ばれるよりは、ライナと名前を呼ばれている方がしっくりくるからな。だから遠慮せずに、俺のことは『ライナ』って呼んでくれ」
「はい! 分かりました!」
そして、お互いに名前で呼び合うことに決める。そんな俺達が会話を交わしていると、ちょうどいいタイミングで担任教師がやってきた。彼は『王立聖騎士学園』で教員を務めている男性である。年齢は二十代の後半くらいに見えるのだが、見た目に反して結構なベテランらしい。まあ、この世界に来て日が浅い俺としては彼が何歳であろうと関係はないのだが。そして彼から俺に学園についての簡単な説明があった後で、早速『授業』を行うことになる。『授業』の内容に関しては、『冒険者ギルド』がやっているような『依頼の達成』と、この『王立聖騎士学園』の卒業生たちがやっている『冒険者の仕事』についてであった。前者は、実際に『王都の外』に出ている冒険者からの体験談を聞くといったもの。後者の場合は、既に王都の中で仕事を探し始めている冒険者たちに混ざって仕事をするというものである。
正直に言うと、俺が『ステータス補正(極大)』を受けているため今更こんな講義を受けずとも十分に戦える。だが、だからといってそれを先生に伝えようとは思えない。なぜなら、その『事実』を伝えたことで、天城と離れなければならないことになってしまう可能性があったからだ。それに天城との約束もある。「俺は強くなってからじゃないと聖天使とは会わない。聖天使と会うのであれば――俺は今のステータスのままじゃダメだ」と言ったのだ。その言葉を口にした時の天城の言葉には、絶対に嘘はないだろう。だからこそ俺は、俺に出来る範囲のことで強くなる必要があった。だから、俺はこうして黙々と学園の『基礎課程』と呼ばれる『勇者科』『聖騎士科』の両方に通っては依頼を受けたりして日々を過ごしているというわけである。
しかし、そんな風に学園で生活をしていたある日のことだった。俺の元に一つの報せが届いたのである。それは――『勇者天城が魔王を倒した』というものであり、さらに詳しい内容を言えば――『勇者天城とその一行が『魔王城』に突入』して『四天王の三人を打ち倒し、そのまま魔王を討ち滅ぼすことに成功した』という話である。つまり、この世界に召喚された勇者天城によって――この異世界の平和が守られたのだった。そして『王都』の人々はその知らせを聞いて歓喜の声を上げていた。そして俺のことも、「あの人は一体、誰なんだ?」といった具合で注目され始めることになったのだった。
ただ天城は、俺のことを「僕が『王都』に戻った時には、ライナはどこにもいなかったよ」と言っていた。なので天城は、俺のことを探そうとしなかったようだ。そのことが俺にとっては救いだったのは間違いないだろう。
ちなみに、ライナルド様は今どこで何をしているのかと聞かれたので――ライナルドが今どうなっているかを簡単に説明したところ、リリスさんが涙を流し始めたのだった。そんなリリスさんに対して俺は「泣くことはないさ。俺だって天城のことが気になっているけど、天城と俺は生きる場所が違うんだから、仕方がないことさ。それに――俺は聖女と婚約をしているからね。天城に構っている余裕なんかないさ」と慰めた。
すると彼女は、天城のことを想っていたせいなのか分からないけれど――俺と天城が幼馴染だということを知るなり「どうしてあなたたちは、そんなに似ているの?」と尋ねてきたのである。
そんな疑問を向けられて、俺は少しだけ考えるとこう答えることにした。
「もしかしたらそれは――天城も同じことを思っていたから、かな? 天城がこの世界のことを嫌いになっていないといいなと思う。
あいつはこの世界に来て――『聖天使』様と一緒に行動していた時は幸せそうだったんだけど、俺と一緒に行動するようになってからは不幸続きみたいだし。
俺と一緒にいることで、あいつが辛い目に遭っていたとしたら、俺はそのことを申し訳なく思う。だけど――やっぱり、俺の傍にいるよりも、天城には天城の居場所があるからね。俺はもうしばらくしたら『聖騎士学校』を辞めるつもりなんだ。そうしたら天城と一緒に過ごすことが出来るようになるはずだ。
それまで待っていてほしいと俺は考えている。
もちろん――聖天使様が許してくれれば、俺はそれでいいと思っている。でも、聖天使様は天城のことを本当に愛しているし、それに聖騎士さんたちのこともあるからな。
俺に何か言える権利があるのかどうかが微妙なところだとも思ってはいる」
俺は、そこまで口にすると一度言葉を切って、リリスさんの顔を眺める。すると彼女は少し涙ぐんでいたが「ライナ君と聖天使が仲良くしてくれた方が、きっとみんな嬉しいと思います」と言ってきた。その台詞に、思わず「ありがとうな」とお礼を言った俺。そんな俺を見て彼女は笑みを浮かべてくれた。しかし俺としてはリリスさんの言葉に納得することは出来なかった。俺は「それなら――俺にチャンスが回ってくるように、努力するよ」と答えてから自分の席に向かうことにする。そう。天城を『魔王討伐』の旅に連れて行ってもいいか聞いてみることにしようと思ったのである。そうすればもしかすると、天城と聖天使の関係も変わってくれるかもしれない。そう考えてから俺は教室を出て行った。
その後すぐに教室を出た俺は聖天使を探すことにした。もしかして天城と一緒にいるのではないかとも思ったのだが――俺が『冒険者ギルド』の扉を開けると天城がカウンターの前で困った顔を見せていた。
「どうしたんだ天城。そんな顔をしていてもお前の魅力が損なうわけではないけれど、そんなにも困り果てた表情を浮かべていたら周りからの視線を集めてしまうぞ?」
「いや、それが――ライナが『冒険者ギルド』に入ってくる前にリリスから聞いていた『ライナと仲がいい人』って言うのはライナのことだよね?」
天城がそう言うと、俺は大きく縦に首を振ってみせる。すると彼は「じゃあどうして、受付の女性の人から睨まれているんだろうか?」と、困惑したような声で言ってきた。
俺はその理由をすぐに理解すると、「リリスさんは俺がお前と親しい関係にあるって知って、怒っているんだよ」と答えた。すると天城は不思議そうな声音でこんなことを口にする。
『リリスさんにそんな権限はないのでは?』
確かに天城の言うとおり、リリスさんには『冒険者ギルド』に所属する職員の『決定権』などはない。あくまでもリリスさんは聖天使の『専属窓口』であって『王立聖騎士学園』の教員としての仕事をこなしながら、他の『王都冒険者ギルド』の支部の職員に仕事を割り振るという仕事をすることになっているのだから。
ただ、そんな常識を知らない天城は俺に向かってこんな言葉をぶつけてくる。
「そもそも僕はリリスとあまり話をしていないから、怒られる謂れはない気がするんだけど」
「まあまあいいじゃないか。とりあえず受付に行って、この世界のことについて話を聞かないか?」
「ライナが良いのであれば構わないよ」
そんな会話を交わすと、俺達は受付へと向かう。すると俺達が近付いてくることに気付いた受付嬢の女性が慌てて立ち上がった後で深々と頭を下げてきた。
「えっと――その、お二人の関係はどういう?」
「ライナとは『勇者科』で同じ授業を受けています。で、彼は『勇者科の特別生』です」
「あっ! そういうことでしたか! これは大変失礼しました! まさか、勇者である天城様にそんな特別なご友人がいるなんて、私には分からなかったんです!」
受付の女性は慌てて立ち上がるなり、再び謝罪をしてくる。それに対して天城は特に気にすることなく――ただ少しだけ困ったような表情になると、こう言葉を続けた。
「ところでリリスは僕のことを知っているんですよね?」
「はい。もちろん、聖天使様の婚約者であることや『王都の冒険者』であるということは知っております。その上で、聖天使様への贈り物をお求めになって来られているのではと予想しておりました。で、あれば、この王都で一番高級なお店を手配させていただきたいとも考えていたのですが――」
「違うんですか?」と尋ねられた天城は苦笑いを見せながらも、「ちょっと聞きにくい質問になるかもしれませんが――」と、こんな問いを投げかける。
「もしかしたらこの世界に来たばかりで何も知らない僕のために――ライナがこの世界で生きていくためのノウハウを教えようとしてくれていたのではないですか?」
天城がそう問いかけると受付の女性は「流石は聖天使様の選ばれた方だなぁ。と、感動してしまいますね。はい。そのとおりでございます。聖天使様から天城様の『世話役を頼まれた』私が聖天使様の代わりにしっかりとサポートしなければと思っておりまして」と、笑顔で語り始める。そしてそんな彼女の話を聞いた天城が「だったら」と言い出すと、リリスさんに対してお願い事をし始めてきた。
「これから僕とライナは一緒に依頼を受けに行くつもりでいるんだけれど――その時に、その依頼をこの人が受けられないようにして欲しいんだ。
その分を別の人に回してもらうことは出来ないかな?」
「はい、分かりました。そういうことでしたら問題ありません。その分の人員を用意しましょう」
リリスさんがそう言ってくれたことで――俺たちのパーティーには天城が入ることになったのだ。その天城はと言えば、「ありがとうな」という俺の言葉を受けてから微笑んでくるのだった。そして天城は早速――受付で手続きを始める。そう。俺達の『初仕事』が決まったのであった。
****
「それにしても驚いたよ。まさかリリスが、この『冒険者』の受付を担当している『冒険者』だったなんて」
「まあ俺達もリリスさんには驚かされてばかりなんだけどな」
「うん。そうだったね」
天城は楽しげな様子で俺の言葉に応えてくれる。すると、その時だった。天城が「ライナの知り合いって誰なんだろう? やっぱりライナに好意を持っている女の子なのかな?」と、口にし始めたのである。それを受けた俺は思わず吹き出してしまうと、こんなことを言い始めていた。
「あのリリスさんだぜ? そんなはずないだろう? あれは絶対に天城に対して好意を持っていると思うけど、そんなリリスさんに天城を紹介しない理由が俺には無いと思うけどな」
俺はそう言うなり天城の顔を眺める。
すると彼は俺の目を見ながら「リリスは、僕にとってライナと同じぐらい大切な女性なんだ」と口にする。そんな彼の瞳は真剣そのものだった。そんな彼に対して俺は思わずドキッとしてしまうが――そんなとき、俺が天城に話しかけるより早く、何者かの声が聞こえて来た。それは――俺と天城がよく知っている声である。しかもかなり慌てた声音だったのだった。
「待って下さい!あなたには聖天使ちゃんっていう婚約相手もいるじゃないですか!? だから私は諦めた方がいいと言ったのにどうしてそこまでこっちの世界の人のことが好きなんですかっ!!」
俺が振り返るとそこには――聖天使様が居た。
聖騎士さんが居るのかと思っていた俺が慌てて周囲を見渡すが、聖騎士の姿は確認出来なかった。どうやら彼女と一緒に来ているわけではないようだ。そう思って安心していると俺の隣にいる天城もまた、俺と同じく聖天使様に声を掛ける前に、彼女の姿を確認することが出来たようで、彼は思わず息を呑むと、そのまま言葉を詰まらせてしまう。
「どうして聖天使がこんなところに――それにどうしてここに来る前に聖騎士に挨拶もせずにここまでやって来たんだ?」と、天城。そんな彼に俺は「お前に会いたくなってしまったんじゃないか?」と言葉を返す。俺のそんな言葉を耳に入れた天城の顔は、少し嬉しそうな顔になっていた。すると聖天使様の方もこちらへと近寄ってくる。彼女は、俺のすぐ傍までやって来て立ち止まると、
「こんにちは、リリス」と言ってきた。
「リリスって言うんですね」
「あ、そう言えば自己紹介がまだでした。リリス=アルブミン。職業は『冒険者』の『受付嬢』。年齢は十六歳で、『聖騎士科』に通っています。趣味は『天城くんと天城くんに関わる人を見ること』。好きなことは、聖天使様の観察と聖天使様のお手伝いと聖天使様と過ごす時間です」
リリスさんが笑顔を浮かべながらそう答えると聖天使様も笑顔を見せる。
「僕は天城一哉といいます。歳は十七で、職業は『剣士』。聖騎士とは仲良くしています。それと、僕の幼馴染に――『聖女リリアナ』さんという方がいまして――」
そこまで言った天城の言葉を聞いて、リリスさんが「もしかしてその人――金髪の美少女ですか?」と言葉を発する。
「ええ、そうです。でもどうしてリリスはリリアナのことを知っていたの?」
「私もその人とは友達になりたかったからですよ」
「そうなんだ。あ、それでね。今日はその人にも手伝ってもらおうと思っていて」
「リリスさんならきっと良いパートナーになってくれると思ったんだよ。だから聖剣を振るうことのできる『天城』の『特別生』であるリリスさんの力を貸して欲しい」と、俺は二人の間に割って入る形で天城に説明する。リリスさんならば聖天使様にも、そして『勇者』の天城にもいい影響を与えることが出来るのではないかと、そう判断したからだ。
だが俺の考えなど全く知らない天城は「ああ、なるほど。そういうことだったんですか」と言うと、聖天使様にこんな言葉を投げかける。
「良かったですね、リリス。ライナがこう言ってくれましたよ」
天城は嬉しそうだった。その表情を目にして俺も嬉しい気持ちになってしまう。
だけど俺と天城とでこんな会話をしている間に、聖天使様がとんでもない発言をしてきたのだ。
「えっと、聖女リリアナ様が『勇者科』の臨時講師になった話は聞いているよね?」と、聖天使様が言ってきたので、
「はい、聞き及んでいます。ですがその話とは関係なく、リリスとはもっと親交を深めたいなと思っているんです。ライナルドから色々と聞きまして、リリスにはお世話になりっぱなしなんです。だからこそ何かしら恩返しをしたいんです」
そう答えたのは天城だ。
それに対してリリスさんは――天城の発言を聞くなり顔を赤くすると、恥ずかしそうにして俯くのだった。天城はリリスさんの反応を特に気にすることなく、
「実は、この世界での生活に不慣れなこともあってリリスさんに相談しようと思っていたんだ」
そう語ると聖天使様は笑顔を見せてからリリスさんに対して、こう言葉を紡ぐ。
「これからライラと二人で、王都の外に出かけようと思っているんです。そこで一緒にモンスター退治をして、素材集めをしたいなと思って」
その話を聞いた瞬間だった。リリスさんの頬が一気に緩んだ。聖天使様の「一緒に出かけたいな」という言葉に対して完全にやられたらしい。リリスさんは天城に向かって、
「そういうことなら、この私が責任を持って、この子たちをしっかりと守り抜いてみせますよ。このリリス=アルブミンの名において約束します」なんてことを宣言したのだった。
そして俺達は王都の外で依頼を達成するべく『魔物の群れ』を相手にすることになった。だがしかし、この『魔物の群』という奴は、天城やライアが戦ったというレベル2相当のモンスターではないらしく、その強さが天城やライアのレベルを超えている可能性があるという。
それ故に、俺と天城でパーティーを組み戦うことにしたのだ。そして、ライラさんが、天城のパーティーに入り共に行動する形となる。そんな俺達の様子を見つめていたライナは、
「本当に大丈夫か?」
と心配してくれていたが、それでも俺たち三人で依頼をこなすと決めていたため、「まあ頑張れ」と言い残してから消え去ってしまう。
そう、俺達の初めてのパーティーとしての戦いが始まったのである。
**
***
リリスはライラと共に街の外にある森の中で、『ゴブリン』相手に戦闘を開始した。リリスとしては天城たちと一緒に冒険者としての初仕事をこなせると思っていたのだが――その期待は見事に裏切られることになる。というのも、天城とライナが共闘する姿に感動してしまい、二人のことを凝視していたせいで注意力が散漫になってしまった結果、攻撃を受けて吹き飛ばされたのだ。そのダメージが致命傷となり、その場でリリスは気絶してしまう。
*
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***
「おい。お前達、どうして俺について来ようとしている?お前達だけで何とかできるレベルの相手だと思うぞ」
俺は今、森の外へと続く道を進んでいる最中だった。俺がそんな疑問を口にすると――俺に同行を申し出た少女――ライラがこんな言葉を発してくる。
「私達の『初仕事』なんだ。ちゃんと見てみたいんだよ。それにね。もしもの時に助けになれるようにしておくべきじゃない?」
「お前は何を言っているんだ?」
ライラは楽しげな笑みを見せると「まあ、私の勘を信じておくべきだと思うよ」と言ってくる。彼女の態度からは絶対に離れるつもりは無いといった意思が感じ取れた。
すると天城とリリスが俺の元へとやって来る。二人は既に武器を構えており、いつでも動ける状態となっているようだ。俺はそんな彼らに対して言葉を発することにする。
「ライラもライナも気を付けろ。『魔物の群れ』の中には俺の想像以上の敵が存在するかもしれない」
俺がそう告げると、天城が「大丈夫だよ。僕だって戦えるようになったんだから」と言うので俺はため息をつく。彼はどうやら、聖天使様と一緒に行動し、彼女を守りたいという欲求が生まれてしまったのだろうと判断した。だがそれは仕方がないとも思う。なぜなら天城はリリスさんのことを――『好き』なのだと自覚したばかりだし、聖天使様の婚約者である『勇者』の聖女様に対しても、特別な想いを抱いているのだと口にしたからだ。
俺にはそれがどういう意味なのか理解できた。だからこそ彼は俺が考えていたよりもずっと成長しており、強くなっているとわかった。だから俺も覚悟を決める。俺が天城を守ればいいだけのことだ。俺にはその自信があった。何故ならば彼は、すでに魔王を単独で倒しているのだから。俺にはまだ無理でも彼なら出来る。だから問題ないと自分に言い聞かせる。そしてそんな天城とライラとリリスが目の前にいる『ゴブリンの集団』を見つめる。彼らは皆一様に緑色の皮膚を持つ小人の姿で醜悪な顔を浮かべながら近づいてきている。そんな連中に対して俺は――「リリスはここで待機していてくれ」と伝えると、リリスが寂しそうな顔を見せたが、すぐに笑顔になると、
「うん、頑張って」と言ってくれた。
「天城も『聖剣』は使わないでほしい」
「どうしてさ!?」
「俺の実力を試しておきたい。お前も知っている通り、今の俺はレベル1の弱い雑魚だ。だから、万が一にも負けてしまうような状況になった時は『聖剣デュランダル』を使う。だが、今は俺の力量を知る必要がある」
俺の言葉を聞いた天城は素直に従ってくれる。「ありがとう」と感謝を告げると、俺は二人を引き連れて前に進むことにした。そして――ライナもまた、ライラを守るために動き出したのであった。
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*
「ねえライナ、ちょっと聞きたいんだけどいいかな?」
私は『勇者科』の生徒であり、私と同じ聖騎士の少女に質問してみた。
「なんじゃ、妾は忙しい。手短かに話すがよいぞ」
「あははっ、分かったよ。えっとね。聖女の私にはライナの姿が『視』えていたの」
「なぬ!?お主は一体何者じゃ?妾の姿を視ることができるとは――『聖鎧』を身につけておらぬのにも関わらず」
そう言ってから私を睨んでくる。だけど私はその眼光を平然と見つめ返すことができた。それだけではない。ライナは『聖鎧』を装着していなかったのだ。彼女はどうしてなのかを問いかけると、ライナは苦笑いを見せてくる。
「お主らは知らないかもしれんのぅ。この『聖鎧』は『聖なる力』によって生み出された防具じゃ」
「『聖なる鎧』のことは知っています。だけどどうしてライナは装備をしていないんですか?」
ライナはその答えを口にしようとはしなかった。その代わりに――「ところでライラ、ライナと呼んでもよいか?」と訊ねてきたので「ええ、別に構いませんよ」と答えておく。すると嬉しそうにしながら、
「では、そのライナよ。これからの『魔王』との戦いに向けて準備をするべきであろう。ライナルドもそう言っていたしな」
「確かにライナルドは言っていたけれど、何か問題があるの?」
「うむ、その『聖なる鎧』を身に纏えば、お主には絶大な恩恵を与えることができる。そしてライナルドも言っていたがお主ならその『聖鎧』の力を最大限に発揮することができるはずじゃ」
私はそこでライラの顔を見てみる。だがライナは「そんなことはないと思いますけどね」なんて言葉を口にするだけだった。そして、ライナは私に対して「それよりも、貴方達はどうしてこの世界に来たんですか?」と聞いてきたのだった。
***
ライラとライナはお互いに視線を合わせていた。そんな二人の様子に天城は違和感を覚えた。何故ならば天城は、先程まで会話をしていた相手が聖天使ではなく聖騎士だということに気付いたからである。ライナは自分が聖天使ではないということを口にしたが、ライナの正体を知っているライラにとっては、聖天使様が目の前に存在するという事実だけで心が落ち着くのである。しかし、聖天使ではないというのに聖天使様そっくりの存在を目の当たりにしたことで動揺してしまった。そのせいで、ライナと天城が話していた時に、邪魔する形となってしまい「お前達、なぜこの世界に来てしまったんだ?」という言葉に上手く反応することが出来なかったのだ。そのためライナに問い返されてしまい――咄嵯に対応できなかったライラが言葉に詰まってしまったことで話は終わりを迎えてしまう。
**
***
天城達は今、『魔物の群れ』との戦闘を続けていた。
しかし『ゴブリン』が放つ攻撃は、俺が『スキル』を使用して戦うことにより、簡単に弾き飛ばすことができてしまっていた。その結果に俺は驚きを感じていた。
だがそんなことよりも――ライナは天城と共に戦いながらも観察を行っていた。そして彼は、その瞳で『ステータスオープン』を表示させて自分の情報を確認した後に『ステータスカード』を懐にしまっていたのが見えたのだ。
「天城さんって『異世界』から来たのよね?」
ライナはライラへと確認を取ると、彼女から「うん」という返事を聞く。
そしてライナは、天城の態度を観察しながら、
(この子なら信用できるかもしれないわね)
そう思い始めるのだった。
***
***
俺達は戦闘を続けるうちに『ゴブリンの群れ』が出現した理由を把握し始めていた。どうやら俺達が倒したモンスター達の魂が集まってしまったことが原因で発生しているようである。そのことから『ゴブリン』以外にも、『スライム』、『コボルト』なども存在していたのだが、それらを倒した時には出現しなかったため、その辺りが原因なのではないかと推測していた。
俺とライラは二人でパーティーを組んでいるので、当然のごとく同じ行動をとっているのだが、ライナが「どうして、妾に戦わせてはくれないのじゃ!こんな雑魚共、妾の相手にもなりゃしないのに!」などと文句を言うのだが――
そんな彼女に対し俺は、「雑魚でも数が多いと面倒だ」と告げておく。実際、天城達とパーティーを組んだ時も同じような問題が起きてしまったことがあったからだ。その時のことを思い出した俺は思わずため息をつくことになるが――「ほれ見よ。妾の実力を侮った罰を与えてやるぞ」と言い残してから、突如として姿を消すのであった。
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ライナは『勇者科』に所属している生徒なのだが――実のところ彼女の『聖鎧』は非常に特殊だった。それというのも聖騎士の鎧である筈なのに――何故か魔法を発動することが可能になっている代物だった。しかも魔法の効果が上昇するように付与されている。そんなライナに対して『聖鎧』を身に着けている生徒の誰もが羨望の目を向けるようになっていた。それはライナも同様であったし、彼女の実家は裕福な貴族であったため、学園に入学できることになったのだ。そして彼女の両親は彼女にこう語ったのだ。
『貴方は才能のある娘なのだから』と。だからこそライナは自分の実力を疑わずに過ごしてきた。そしてある日のこと、『魔物の群れ』がこの国に現れたという報告を受けてから、自分は強いのだという思い込みを強めていく。そしてライナの自尊心をくすぐるように両親も言葉を並べた。だから彼女は『聖鎧』を身に纏うことが出来たのだし、更には上級職の「聖女」にも転職を果たすことができたのだ。そして、自分に相応しい『聖鎧』を手に入れるべく聖天使に会いに行き、彼女が持つ『聖衣』を譲り受けることに成功するのであった。
聖天使は、その日を境に姿を見せなくなりライナがいくら呼びかけても応えることは無かったのである。
ライナはそのことを不満に思ったが、仕方がないと思うしかなかった。なぜなら聖女となった彼女に与えられる『聖鎧』と『聖衣』というのは聖天使様が自らの力で作り出すものなのであり、本来なら聖天使にしか生み出すことが不可能な代物であると聖騎士学校で教えられたからだ。だからライナも納得して、それからずっと『聖鎧』を身につけ続けていた。
そして聖鎧は装着者に圧倒的な力を授けてくれる素晴らしいアイテムなのである。
だから、どんな強敵がやってこようとも返り討ちにすることができると思っていたし、実際にそうなのだから誰も彼女を責めることはなかったのは言うまでもないことだろう。しかし――聖鎧を身につけていてなお、ライナは目の前に存在している「ライガ」の存在感に畏怖の念を抱いてしまっているのは確かだった。
『勇者』を守護している聖騎士が目の前にいるのにも関わらず、その存在がまるで『魔王』のようだと思ったのは、彼が『聖なる鎧』を装着していなかったからでもある。ライナ自身も「なんでライナが聖なる鎧を装備していないのよ」などと考えたが、今は戦闘中である。そして彼女は目の前で戦っているライナの表情に目を凝らすようにして観察すると、明らかに彼の表情は険しかったのだ。
その表情を見て、彼女は気付いたのであった。
「あの男、もしかしたら聖鎧を着こんでいないのではなく、装備できない状態なのかも」
そう考えた直後、彼女はあることを思い出したのであった。
『聖鎧』は『聖なる力』を結集させて生み出された防具である。
だが、全ての者がその装備を可能とするわけでない。
そもそも装備が可能な人数に制限が存在しているのも事実である。
その理由とは『聖なる鎧』を装備することが出来る存在の絶対数が限られているからである。聖鎧には特殊な力が備わっているために装備が出来る者を選ぶのだと言われている。そして、装備可能な人数の制限が存在する。それは『勇者』と聖騎士のみに限られるというものだ。つまり、この世界の人間ではない人間が『聖鎧』を装備したところで何の効果を発揮することもできないということである。そのため聖天使が『聖衣』を貸し与えているのは、あくまでも『勇者』とその仲間だけであるのだ。そのことが『聖騎士』学校の授業では教わることとなっていた。
「だけどまさかライナが聖鎧を装備しているなんて」
ライナの実家は裕福であるが故に聖鎧を手に入れている可能性はある。それにしてもライナの場合は、既に『聖鎧』を授かっていたとしても不思議ではなかったのである。
ライナとライナルドは、互いに背中を合わせるような形で戦い続けた。
その二人を天城達は援護しながら戦っていたのだが――天城は二人の様子がどこかおかしく感じられていた。それというのも天城達は、彼等と行動を共にし始めてすぐにライラの本当の姿が「聖天使様」であることを知ったのだが――天城としては聖天使と会ったことがある訳ではないので、どうしても目の前に存在する「聖剣アスカロン」を持つ青年が、聖鎧を纏った少女と同一人物だという実感を抱くことができなかったのだ。そして天城はそのことに戸惑いを覚えつつも戦い続けていった。
『ゴブリン』の攻撃を俺は『聖槍ブリューナク』から放たれている光のオーラによって打ち消すことに成功した。だがライナが俺に襲い掛かってきた『ゴブリンロード』の攻撃を防ぐことに成功していたので安心感を抱きながらも――
「さすがですね。ライラさんの実力があれば問題ないですよね?」
俺は、聖騎士の鎧を身に着けているライナに向かって確認するように質問を行う。
その言葉を受けたライナは嬉しそうに笑みを浮かべながら俺に返事をした。
「当然じゃ!これぐらい楽勝じゃぞ!」
そう言いながらも彼女は「ライガが守ってくれなければ危なかったかもしれんがな」と言って、隣に立つライナの顔を見上げながら感謝の言葉を口にする。
そんな彼女に対しライナは、「私はライナを守るのが使命なんだ。気にする必要はない」と言い切った。そのやり取りは傍から見ると、ライナのことを大事にしているように見えるが――
俺の瞳はライナの首に掛けられているペンダントに向いていた。そこには『魔道具』が存在していたのである。それに気付いた俺は思わず顔をしかめてしまう。何故ならば――俺は小鳥遊さんに聞いた話を思い出すからだ。
俺達が住む地球とは違う世界『アルター大陸』に住まう種族の一つであるエルフ族の女性。
そのエルフ族の中で「ダークエルフ」という存在がいる。「黒」を意味する言葉だが――その実態は他の者達と何ら変わりはないらしい。見た目が違うというだけの話だ。そのことから、俺は「エルフ族は耳が尖っていなければならない」といった先入観から『ダークエルフ』の存在を否定しようとしたのだが、それは間違いだということをライナが教えてくれたのである。
彼女は俺達に自分の正体を明してくれた。その際に、彼女の首元にあったネックレスの先には『魔導書』が存在したのである。その『魔導書』は『勇者』だけが使用できるアイテムなのではないかと言われていた。なぜならば俺も「魔道具」を所有しているのだが――それはライラも持っているということであった。そしてライナが身に付けていたネックレスこそが「勇者専用」と呼ばれている『聖剣アスカロン』と同等の力を持つ『聖弓ユグドラシル』なのだ。そして『魔道士の杖』や『魔術師』用の『魔法陣』もライナが持っていた。他にも『回復ポーション』などの『薬系』のアイテムや『スキルスクロール』などもライナは所持していた。そのことから俺は思ったのである。
――ライナは、他の世界の住人ではないか。
俺はライナに問いかけてみることにする。しかしライナは、「どうして私に話しかける?私のことを知ってるんだろう?」などと返してきた。そんな彼女の言動を見て俺は確信したのであった。そして同時に、小鳥遊が口にしていたことが本当だったということを確認することができたのであった。
(ライナと『勇者』は別人なんだよな)
そう――『勇者』とライナという存在は同一ではないのである。そして彼女は、この世界で生活している存在でもないのだ。だからこそ、俺の知る『聖剣アスカロン』とは別の能力を有する『聖槍アスカロン』を手にしていることに俺は驚いたのだ。
ライナが持つ聖武器の力は、ライナ自身の魔法攻撃力を増加させるものである。そして『魔法矢』という魔法攻撃が発動可能となっているのが最大の特徴であろう。ただ魔法矢の魔法威力を上昇させる力はそれほど強くは無いため、『魔王の指輪』の能力を使用した『闇の球体』にダメージを与えることは難しいかもしれない。それでもライナが持つ魔法力の高さを考えると『魔王の魔法矢』を打ち消すことは十分に可能であると思う。だから『魔王の魔法弾』を撃ってくる『悪魔』が相手でも問題にはならないだろうというのが、今のところの考えなのだが――問題は聖天使が操る『魔王軍』のモンスターであった。
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「おい、そっちにも行ったみたいだから早くしろよ」
俺達が戦う場所よりも遠くの場所から聞こえてくる声があった。それはライラルの声だったのだ。どうやら『オーク』の姿が見えたようで、ライナと聖騎士達はその対処に追われてしまったのだ。だが、そんな彼等の様子を見ていても聖天使は、焦ることなく「ライラルは強いから心配は不要です。むしろ彼等に任せた方がいいのでしょうね」と言い出す。そして、まるで自分がここに存在する必要がないとでも言うように彼女は、俺の方へ顔を向けたのだ。そして微笑みを浮かべると口を開いた。
「それにしてもよくやりますね。貴方ほどの強者と巡り合えたのも奇跡的なことでしょう。本来なら私が相手をしなければならないはずなのです。ですが貴方が、ここで足止めを食らうようなことがあれば、ライナの障害となりうるかもしれませんね。そうなった場合の保険を用意しておく必要があるかも知れません」
「その通りだと思います」俺は、素直に答えることにした。
聖天使の言葉が気になっていたからだ。もしも、この状況で彼女が『魔王』に力を与える行動に出る可能性があるのではないかと警戒しているのだ。すると聖天使は俺に対して言葉を続けた。
「しかし私は聖天使。この地を離れるわけにはいかない身。『勇者』の側に付き添う聖天使としての役割があるのですから」
そんな言葉を口にする聖天使。だが俺にはその表情が、本当に悲しんでいるようには見えなかった。しかしだからといって、目の前の相手が油断できる人物だとも思ってはいなかったのだ。聖天使の口調からは、まるで聖天使の口から発せられた台詞を疑わせない雰囲気のようなものが存在していたのである。だからこそ彼女は嘘偽りなく語っている可能性が高いと判断したのだが――それでも彼女は「ライナ」の名前を口に出したのである。そのことがどうしても気になってしまっていたのだ。
だが、そのタイミングで、天城の鋭い声が耳に入ってきたのである。
「敵がやってきました!数は『ゴブリン』が五匹。それから、ライナルドさんを狙ってきたのでしょうが『オーク』四体と『コボルト』が一体います」
俺は即座に『探知球』を発動させて敵の数を確認をしたのだが――俺の目には天城が告げていた通りの情報が映し出されている。
「了解しました。ライナ、聖天使、それと俺達の戦い方について説明をしておきたいのだけど聞いてくれ」
俺の提案を聞いた二人は同時に返事をした。
「分かりました」
聖天使が同意を示した。ライナは、俺の説明を聞こうとしないのか『聖槍アスカロン』を構えている。そのため、俺は『光の柱』の能力を起動させたままの状態で天城と共に、迫りくる『魔物』の集団と戦闘を行うこととなったのである。
「ライナルド、俺が『光の壁』を展開する!だから遠慮はいらないから全力で攻撃してくれ!」
「わかった!」
俺の言葉をすぐに信じてくれたのか、天城は迷わず聖槍アスカロンを振るうと同時に魔法を放つ――が、やはり『聖鎧アスカロン』を装備したライナに比べると威力が低いようであった。それどころか『コボルト』の方が一撃では仕留められなかったほどだ。だが、それで構わないと俺は思っていた。ライナの攻撃によって『ゴブリン』が倒れていく中――俺が『光柱』による援護射撃を行っていたからだ。それにより、なんとか戦況を維持できていたのだが、それも長く続かなかった。なぜなら――聖騎士の一人が負傷してしまったからだ。そして聖鎧にダメージを受けてしまったためにライナの動きに僅かな乱れが生じる。それをチャンスと考えたのだろう。『オーク』の一頭が聖騎士に向かって襲い掛かってきたのである。そして俺達の隙を窺っていた『オークジェネラル』が聖騎士に向かい、巨大な斧を振り下ろす。だが聖騎士は素早く反応し、間一髪のところで避けることができたようだ。その瞬間――『勇者』であるはずのライナが聖槍アスカロンの力を使おうとしていたのだ。
(これはまずいかもしれない)
そう感じた俺であったが、その予想は間違っていたのである。
ライナは聖槍アスカロンの穂先を聖剣アスカロンに向けているのである。つまり――
「これで、お前の力を削いでやる!」
そう叫んだライナは聖剣アスカロンの放つ斬撃の衝撃波に飲まれていったのである。その様子を目の当たりにして聖天使は笑みを浮かべていた。そんな彼女を見た俺は――ライナが『勇者』としての力を発揮したことに驚きつつも『魔王の指輪』の能力を使用すれば大丈夫だろうと高を括っていた。しかしその考えは甘かったことを思い知らされることになる。『聖槍』の能力が発動したからだ。
(どういうことだ?)
その疑問を抱くと同時に俺は理解することになる。『聖魔人』という存在が持つ「聖属性魔法耐性」という能力の存在と『勇者』が装備できるアイテムが、この世界に存在する他の存在にも影響を及ぼすという事実を――
(この聖槍アスカロンは、ライナにしか使用できないと思っていたけど違うのかな)
その可能性に気付くと俺は思わず舌打ちをしてしまう。だがそのおかげで聖騎士と聖女にダメージを負わせることができており、彼等を撤退させることに成功していた。
**
***
俺達はすぐにこの場を離れ、真紀とアリサが休んでいる場所へと向かうことにする。そこで俺はライナが「聖魔人」の「聖属魔法抵抗強化」の影響も受けてしまう事実に気付いた。そして聖剣アスカロンについても、「聖魔人」にダメージを与えるためにはライナが持つ聖剣アスカロンが必要ではないかと考えて、俺の推測が外れていないのか確認することにしたのである。だがライナから帰ってきた言葉を聞いて愕然とすることになった。「私の力では、『魔王』と戦うことは厳しいということですね」
俺の言葉に対しそんな返事をするライナ。そして続けて彼女は言葉を続ける。
「ライナから受け継いだ力は確かに強いです。ただその力を完全に使いこなせていなければ宝の持ち腐れということになってしまうでしょうね」
ライナは自分の言葉を確かめるように自分の手のひらを見つめたのだ。だがそんな彼女の手を見て、俺と天城は同時に同じことに気が付いた。
「聖天使の『聖剣』はどこにある?」
俺の言葉を受けてライナはすぐに返答する。
「聖剣アスカロンですか?私の持つ『アスカロン』とは別の場所に安置されているのですが――ライラル様が『転移魔法陣』の封印を解くことに成功したため、この近くには存在しています」「ライラルが?」俺は反射的にそう口にする。すると聖天使も反応したようで――こちらへ視線を向けると彼女は言葉を紡いだ。
「そう言えばまだ貴方に話していなかったことがありましたね。『悪魔』を『悪魔王』が使役していることは説明しましたよね。ですがその『悪魔』達の中には、『聖悪魔』と呼ばれる上位の『悪魔』も存在していて、『悪魔王の右腕』と呼ばれています。そんな彼こそ私が聖武器『アスカロン』を託した人物であり、聖悪魔でもあるのです」
聖天使の話を聞き、天城が呟くように言った。
「なるほど、『悪魔』を操る者がいたとは」
だが聖天使は、天城の反応を気にすることなく、俺と聖騎士に対して話しを始めたのだ。その内容は『魔王』の討伐に向かうための打ち合わせを行うというものだったのである。
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俺達が向かっている場所では、すでに戦闘が開始されていたのだ。
「天城の奴!なんで『転移』を使わずにこんなところに来てるんだよ!」
天城に聞こえないよう小声で悪態をつくと、俺は『探知球』を使って敵の数を確認する。
どうやら俺の視界に映っている『魔物』達は『ゴブリン』と『オーク』ばかりだ。しかし、ライナルドの方に意識が向かったためなのか『魔物』達は、俺達の方を気にしていないようである。だからこそ天城の方に敵が集中してしまっていた。
しかしそれでも天城の方は、余裕をもって対応しているように見えたので問題ないと思ったのだが――俺はその判断に誤りがあったことを知ることになる。なぜなら、ライナルドが聖鎧アスカロンの力で敵を一掃しようとしていた時のことだった。
突然天城の方へ向かって、巨大な斧が振るわれたのである。しかし聖天使の言葉を思い出し、すぐに天城の元へ駆けつけようとしたが――その時には既に、俺の身体は何者かの手によって押さえつけられてしまっていた。それは、目の前にいる『魔王軍』の一人だった。
「離せ!」
だが俺の言葉が相手に伝わるはずもなかったのだ。俺の声など耳に入ってもいないような表情で目の前の女はこう言ったのだ。
「聖剣アスカロンを手に入れて、聖鎧も手に入れたってわけかい。だが聖槍も聖鎧もない状態で戦えると思ってるんじゃないだろうねぇ」
そう言うと『魔王軍』の一人――おそらくは聖天使の仲間であると思われる彼女は、大きな口を開けたのである。
(なんだ?)
俺は一瞬、何をするつもりなのか理解できなかったのだが――その答えがわかると同時に俺は声を上げてしまったのだ。「待ってくれ!仲間に手を出すな!」と――。
『勇者』であるはずの天城が敵に捕まり、そして俺は動きを封じられているという状況だ。しかも聖天使の言葉が真実ならば、天城が装備しているのは『アスカロン』ではなく『アスカロンの鞘』の可能性が高い。なぜなら『アスカロン』の本体ともいえる「聖剣アスカロン」は聖天使の元にあったからだ。そして聖槍アスカロンに関しても聖天使に渡されていた可能性もあるが――今は、そんなことを考えている場合ではないと俺は思い直した。
だが『勇者』であるはずの天城には動揺が見られないのだ。だから天城自身が、俺をかばうつもりで敵と向かい合っている可能性も否定できないと俺は思った。だが、その考えを否定するかのように天城が口を開く。「聖槍アスカロンの能力は知っています。だから、僕が盾になるんで安心してください」
(は?お前が聖槍アスカロンの能力を知っているだって!?)
そう思った俺だったが、聖騎士の天城の言葉に納得してしまったのだ。
「分かった」
ただ俺には、聖騎士の言葉をそのまま信用することはできない事情があった。なので俺は天城に質問を行った。「俺を助けるつもりはないのか?」という問いかけに天城は即答した。「ありますよ」と。
(えっ?じゃあ、あの言い方は?)
そう疑問を抱いたのだが、それを口にする前に天城の行動は開始されたのである。聖槍アスカロンを聖鎧アスカロンにぶつけたのだ。そして『勇者の加護』を発動させた。だが、その攻撃はあっさりと弾かれてしまう。『光柱』の効果が切れかかっていたとはいえ、俺が全力を出して放った一撃でもダメージを与えられなかったのだ。
しかし、俺をかばいながらの戦闘であったため、思うように『勇者の加護』の力を使うことができないようであった。そのため俺は、なんとか隙を突いて拘束から逃れることができたのである。
そして俺は天城をかばうようにして立ち塞がったのであった。だがそのタイミングを待っていたのか分からないが『魔王軍』が俺に向かって攻撃を仕掛けてくる。
(仕方がない)
そう考えた俺は『転移魔法陣』を使い『聖国』に戻ることにした。
**
『勇者』と聖天使を『聖剣』アスカロンと聖槍アスカロンにぶつかる寸前のところで救出に成功した。だが天城の装備が変わっていることや、ライナルドから聞いていた聖魔人の能力についての説明を受けていなかったせいで、俺は窮地に陥ってしまう。そんな俺を救ったのは『勇者』のスキルであり、『大賢者』のスキルでもある『空間転移』を使用したことであった。だがそのおかげで、どうにか『転移魔法陣』の場所まで戻ることに成功する。
そこで聖騎士に天城を任せると、ライナと天城を連れてすぐに『転移魔法陣』を使用して『聖都』へと向かったのである。
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『聖天使ライラル』『聖騎士ライナルド』と『勇者』である『真紀』と俺達三人が『聖剣アスカロン』と『聖鎧アスカロン』とぶつかり合うのを阻止するために、ライナは「魔王の手」を使った。それによって『アスカロン』はライナへと姿を変えたのであった。だがライナも「魔王の手」に宿っている能力のことは分かっていなかったようで、「私の力では、『魔王』と戦うことは厳しいということですね」という言葉を発した。
ライナの呟きを聞いたライナルドが言葉を発する。「『聖魔人』との戦いでは、『悪魔王ライナルト』の力を借りることになるだろう。ただ今の私達の力では倒すことは不可能かもしれないな」
俺もその可能性については同意見だと思った。ライナが持つ『聖魔王の剣』や俺の持つ『聖魔王の心臓』を使って倒せるのはせいぜい二体が限界だと思うのだ。だが俺の言葉を受けて、ライナの態度に変化が現れたのである。「いえ、そんなことはないと思います」と。
ライナの発言を受けてライナルドは驚いたような顔になり、俺達はライナに注目したのである。
ライナから説明を受けたのだが、彼女の持つ『魔王の聖杯』には、俺が持つ『魔王の大聖剣』と同じ機能が存在するようだ。
それは「魔王の身体」を一時的に分離させることができるというものだった。そして分離した状態の「魔王の体」にはライナの意識が残るのだという。その話を聞いて俺はすぐに天城に提案することにした。
俺の言葉を受けてライナが、自分の持っている『聖剣アスカロン』を天城に預けてくれたので、それを天城に差し出したのである。するとライナも天城に「この鞘を渡しましょう」と言って聖槍の鞘を差し出しくれた。そして天城はその聖槍を受け取ると『アスカロンの剣』を抜くのをやめたのだった。
ライナルドも「ライナルドの『聖鎧アスカロン』の能力を、聖女様に使っていただけるのであれば心強いです」と言い、自分の持っていた『アスカロンの鞘』を手渡したのである。
これで全ての聖具が聖天使の元に戻った訳なのだが――ここで天城がライナルドに問い掛けたのだ。
「そう言えば、『魔王軍』が言っていたのですが、魔王軍の首領が聖魔人である可能性が高いのですよね」
その言葉を聞いた俺達三人とも驚きの声を上げる。
「なんでそのこと知っているんだよ?」
その言葉に対し天城は、当然のようにこう答えてきたのだ。
「僕は『勇者』ですよ?『魔王』がどこにいるのかは分かります」
「いや、そういう意味で聞いているんじゃなくて――どうやって『魔王』の存在を知ったんだよ?」
その質問に対しては、聖天使のライナルドは答えてくれなかったが、聖騎士のライナルドが「『転移の羽』を使って、魔王が住んでいる場所を確認したらしいんだ」と説明してくれたのである。
(ああ、そういえば『転移の扉』に反応があったんだよな。てっきり『ゴブリンロード』達が俺達に襲いかかってきていたものだと思っていたけど、その前に俺達の目の前に聖天使の『転移魔法陣』が現れていたってわけか)
俺はその状況を理解すると聖天使に対して、天城に『聖魔人の討伐』についての提案を行ったのである。しかし、それに対するライナルドの反応が微妙なものであったのだ。
その理由は、天城がライナルドに提案したのは「自分が囮となって『勇者』であることを証明しながら戦う方法が一番効果的でしょう」という案であったからだ。
俺はその発言が信じられなかった。
「ちょっと待ってくれよ。それで『勇者』だと認められたら、『魔王』との戦いが終わるまで、ずっと戦い続けなくちゃいけないだろ?もしそれができないっていうなら、俺が単独で『聖魔王』のところに突っ込むぞ!」と言ったのだ。
俺の言葉を受けて、天城と聖騎士の二人は同時に俺を見つめる。だが、二人の視線には敵意が含まれていたのだった。
(え?どうして?)
俺は混乱するのだが、それでも必死になって天城と聖騎士の二人を説得しようとする。しかし、その願いが叶うことはなかった。なぜなら聖騎士が「それはダメなんです」とはっきり俺の目を見て断言したからである。そして続けて「聖魔王は、貴方がたを見逃すとは思えない。だからこそ私一人で行きたいと思っているんです」という言葉を吐いたのだ。
(確かに、そうかもしれない)
そう思うと同時に聖天使が「じゃあ聖魔人の居場所を教えようじゃないか」と言い出してきた。しかし聖天使が聖魔人を封印している場所は『勇者の国』の外にあるのである。
俺はその場所を知っているが、この場所には俺が連れて来た仲間以外、ライナと天城しか居なかったのだ。そして聖天使と聖女の勇者が居る以上、その二人が仲間に加わるのはありえないと俺は考えていた。
だが、ライナと天城が『転移魔法陣』を使おうとしなかったことで俺は焦ったのであった。だが俺のその気持ちを理解していない聖天使は、「『勇者の国』の近くに飛べばいいんじゃないか?それに私は天城さんの仲間だしな。一緒に付いていくことに問題はあるまい」と言うのである。
結局俺が折れる形で聖天使が『聖魔人』の元へ同行することになってしまったのであった。
(まあいいか。ライナルド一人じゃ危ないと思ってライナを連れて行こうとしていたし)
そしてライナに『聖槍アスカロン』を渡す代わりに『聖鎧アスカロン』の回収を依頼し、俺達はライナルドと聖天使と共に聖魔人のところへと向かったのである。
俺達はライナルドが『転移魔法陣』で移動するという提案を受け入れなかったのだ。『転移魔法陣』が『魔王軍』に見られている可能性も高いと俺達は判断していたのである。そのため俺達は歩いてライナルドの後を追いかけたのだ。
「しかしライナルド殿の鎧は凄いな」
聖女ライナがそんなことを言う。俺も同じ感想を抱いたため、聖女に向かってこう言葉を掛ける。
「ああそうだな。あれだけの防御力があれば『魔王』の攻撃だって跳ね返せそうだよな」
そんな言葉を聞いてライナが俺をにらんできた。その視線は俺にこう語り掛けてきている気がしたのだ。
(私の聖鎧アスカロンは、『聖魔人の攻撃すら弾き返すことができる』と、言ったはずです。聖魔王は私が『聖魔人の攻撃』から守ることを約束しましたが、『聖魔人の攻撃から聖鎧アスカロン』が私を守ってくれるかどうかは分からないのですよ)
そんなことを俺に向けて訴えているように見えたのだ。だが、聖魔人の攻撃を弾くことができなければ『聖槍アスカロン』に力を込めることができないのではないかと、俺は考えてしまった。そんな俺の考えを否定するように聖騎士のライナルドはこう言い放ったのである。
「いえ、私にもライナルド様の盾としてお守りさせて下さい。私にできることといえば、そのくらいのことしかないのですから」
聖騎士のこの言葉で俺はハッとしてしまった。俺は『聖騎士ライナルド』を「守る対象」ではなく「戦友」として扱ってしまったのだ。それは聖騎士にとっては失礼な話になってしまうのである。
だが俺は、ライナルドに謝罪をすることはなかった。その代わりに聖騎士に対して感謝の言葉を告げたのであった。その行動を見た聖天使は「ふむ」と呟いてこんなことを口にしたのである。
「なるほどな。君たちが二人でいるのにはそういう事情があるのか」
そして天城はそんな聖魔人の発言を聞くと、不思議そうな顔になり「え?どうゆう意味ですか?」という言葉を口にする。
聖魔人が天城の疑問に答えるために言葉を発した。
「実はこの二人は夫婦なんですよ」
その言葉を聞いた俺は驚くとともに納得もできたのである。
なぜならば聖魔人の『加護』は「聖騎士と結ばれなければならない」という能力だからだ。なので聖魔人は聖魔人であるライナルドと一緒にいることは必然であり、俺達と一緒に旅をする必要はないはずだったのだ。
ただ俺は少し違和感を覚えて、そのことを聖天使に尋ねてみることにした。
「ちょっと待ってくれ。それだと天城が『勇者のパーティー』を抜けて聖魔人に付いたみたいじゃないか」
俺の言葉を受けて聖魔人と聖天使が顔を見合わせる。聖魔人は俺の言葉を否定したかったのだろうが、その言葉を発することはなかった。なぜなら聖魔人の表情が険しく変化していき、まるで聖魔人を守るような雰囲気で聖天使が立ちはだかってきたからだ。
そして聖天使と俺の間には緊張感が走ることになる。すると聖魔人も「仕方ないか」と言いながら、俺に対して説明を始めたのである。
「私はライナルド様の願いを叶える為だけに存在しているんだ。ライナルド様の望みとは――『勇者に勝つこと』なんだ。だからこそライナルド様に『聖魔王になる』と言ってもらったんだ。でも聖魔王になればもう、聖魔王になった時点で『勇者と戦う理由がなくなってしまう』んだ。そうなるとライナルド様は生きる目的を失うことになってしまって、そのまま生きていくことができないと考えたんだよ。だから聖魔王になることを拒否したんだ」
俺は「ライナルドに『聖魔王になってもらう為には』聖魔人であるライナルドが聖魔王になってもらわなければならないってことなのか」と思ったが、ここでライナも会話に参加して「それでは私達のパーティーに入るというのはおかしいではありませんか」という発言をしてくれたのだ。
だがここで聖魔人のライナはこう反論をしたのだった。
「いやいやいや、それが違うんだよ。だって私は、聖魔王に勝った後で死ぬつもりだったんだ。そうしないとライナルド様に申し訳が立たなかったんだよ。それにね、私が『勇者に勝てる力を持っている』と思わせる必要があったんだよ。そのために聖魔王になる必要があるんだ」(そうだったのか。いや、ライナルドは「俺を倒すために聖魔人の力が必要」って言っていたもんな。聖魔人の『勇者に勝ちたい』って気持ちは本物だったってわけか)
俺は聖魔人の言葉を聞いて、ライナルドが嘘をついている訳ではないと確信する。しかし俺はまだ気になっていたことがあったのだ。それは『魔王の呪いを受けた状態で勇者と対面したら聖魔王は倒されるのではないか?』ということであった。だからこそ俺は聖魔人に対して「ライナルドは『勇者と魔王の力を受け継いだ状態で聖魔王と対峙できる』と言ったのはどういうことだったんだ?」と質問してみたのである。
俺の問いかけに対し、ライナルドは顔を背けるだけで何も語ろうとはしなかった。
だがそんな俺とライナのやりとりを見ていた聖天使がライナルドの代弁者となってくれたのだ。
「『魔王』と『勇者』が戦った時、魔王側に『大魔王』が出現したことは聞いたことがあります。つまり『勇者』と『魔王』が戦いを始めると同時に、その戦いに介入してきた存在がいるということになるんです。おそらくそれが聖魔人だったのではないでしょうか?『聖魔王』とライナルド様の関係性は不明ですが、もし本当に二人が愛し合っているなら『聖騎士』と『勇者』が戦う時は、そこに聖魔人の『加護』によって強制的に介入され『勇者の魔王』が誕生することになり、そして同時に『聖騎士の勇者』が誕生してしまうでしょう。だからこそ私はライナルド様に、ライナルド様の『加護』を使って聖魔王になっていただきたかったのです」
「なるほど」
「まあこれは私の想像ですけど」
(ライナルドは、この聖魔人の『聖魔人』と『聖魔人の加護』を使い、『勇者の魔王』に変貌することができる。そして、俺を勇者として認めることで『勇者の勇者』として俺と戦い続ける運命をライナルドに背負わせたかったのかもしれない)だが俺には、聖天使の推測が全て当たっているように感じられたのである。そして俺にはもう一つ確認しておくべきことがあると、聖魔人と聖天使の二人に話しかけようとした。
だがそのタイミングで、天城が声を出したのである。天城は『聖槍アスカロン』を振りかざしながら俺に向かって駆け出したのであった。そして「『大賢者の大盾』『守護神の籠手』発動!!」という言葉と共に、俺の懐に潜り込んでくると聖魔人のライナに向かって『聖槍アスカロン』を突き出そうとしたのだ。
天城の行動が読めなかった俺は焦ったのだが、そこでライナが俺の前に飛び出してくると天城の『聖槍アスカロン』を素手で受け止めて弾き返したのである。しかもそれだけに留まらず、聖天使とライナルドの方へ蹴り飛ばしたのだ。
聖女は「おお!すごいぞ」と感心しているし、聖天使に至っては「さすが『聖女』の力を身に宿すライナルド様ですね」なんて言っているのである。しかし俺は聖女の『加護』の能力について知っていた。それは「身体能力強化魔法が掛かっている」ということである。
(確か『身体加速』という『スキル』を使っていた筈だよな。その能力を使えば、天城の攻撃を防げるのはわかるが――なんで、わざわざ攻撃された俺をかばってくれたのかわからないな)
俺にはそんなことを思う余裕があったのだ。だが、ライナに攻撃を仕掛ける為に走り出しながら「ちっ」と舌打ちをする天城の表情を見て、「まさか!」と俺の頭の中に浮かんできたのだ。そして俺の予想は見事に的中してしまう。俺に向かって「『転移魔法陣』を発動してくれ」と言うのである。俺が天城に「なに言ってるんだ」と答えると「早く頼む。聖騎士様の攻撃が来ちゃうよ」と言ってきたのだ。
俺は慌てて聖騎士ライナルドの方を向く。そこには聖天使の聖鎧アスカロンを手にすると「この剣で貴方を斬ってもいいのですか?」と俺に問い掛ける聖騎士の姿が目に入った。俺に聖天使の聖鎧を使えと言っているようだったが、俺がそれを断ろうとすると聖天使が「この『聖剣アスカロン』を使える人間は『聖鎧』を身に付けることができるんだ」と俺に教えてくれたのだ。俺はライナの言葉が真実なのかと聖魔人に尋ねようとしたが、すでに俺とライナは消え去っていたのである。
俺とライナは『勇者ライナルドの加護』の力で聖騎士から逃げ出したが、天城は「待ってくれー」と叫びながら追いかけてきていて、そして天城は天城の『加護』により聖天使と同じ能力を使用することができるようになっていたのである。
だが俺達は逃げるために使った「転移魔法陣」の影響で『転移先』に飛ばされてしまったのである。そこは森の奥深い場所にある洞窟の入り口のような場所であり――俺は「なんだここ?」と言いながらライナルドに声を掛けた。
「なぁ。ここにも「転移の指輪」を使ったのか?」
俺がそう尋ねるとライナルドは「そうだ。この近くに「聖騎士の隠れ里」があると聞いている。まずはそこを目指すのが良いと思う。それと、天城も一緒にいるんだろ?だったらこの奥に『勇者の祠』があって『転移石』が置かれているはずだ」
「わかった。じゃあとりあえず進もうか」
「ああ」
俺がライナルドの案に賛同した瞬間にライナは「私も行きます」と口を挟んできて、その言葉を聞いたライナルドは嬉しそうな顔になり俺の背中を押してライナルドの後に続いたのである。俺としてはこんな森の中にいるのはごめんだった。
それに聖天使の聖鎧は重すぎたのである。確かに俺の持つ「収納空間」の中には「聖魔王大盾」「魔王の大剣」そして「勇者の大楯」などの装備があるが――それでも「これって聖魔人しか着ることができないのでは?」と思ったのだ。だからライナルドに「お前はこれを持っていてくれ。『魔王の大盾』と交換しよう」と言い出すと、ライナルドは渋々「わかった」と言ってくれた。だが聖魔人は、ライナルドが「勇者の武器」を装備している姿を見て「やはり私の見立て通りですね」と微笑んでいる。
俺としても聖魔人ライナルドは信用しても良いと思っている。だがライナルドに俺の正体がばれているかは微妙なところだと思っていた。
聖魔人は、俺のことを「魔王」だと認識したようだし。でも「ライナルド様の願いの為に」という言葉を信じれば「勇者」に勝ちたいと願っていた聖魔人の言葉を信じるなら「ライナルドの為だけに生きているのでライナルドを裏切るようなことは絶対にないはず。でも「勇者」に勝つためとはいえ聖魔王になったライナルドを聖魔人として認めてもらう必要があるのか?それとも、ライナルドが本当に聖魔人と一緒に「勇者」と戦う必要があるのか」という疑問が生じてしまうのだ。
(俺は、ライナルドに対して嘘をついているわけだしな)
しかしここで俺は一つの事実を思い出す。そう「ライナルドに俺の加護を与えていた」ということだ。そう考えたら、俺は聖魔王と聖魔人の関係については、ライナルドに聞けば答えがわかるのではないかと思いライナルドに質問してみることにしたのである。
俺は目の前で『転移の石』を拾う天城を見ながら尋ねたのだ。
「あの『勇者』は一体誰だ?」と。
天城は自分のことを「勇者」と名乗っていないし、天城もライナと同じように『勇者の国』から逃げてきたと言っていたので、「勇者国」の出身ではないことは確定していたのである。だからこそ天城は、何者なのだろうかと気になっていたのだ。
俺の言葉に反応したのはライナであった。
ライナは「あれは、私の双子の弟である『勇者天城』と申します」と答える。
俺は「ライナの弟?どういうこと?」とライナに向かって尋ねる。
俺に問い掛けられたライナは「天城様が、『魔王』を倒すために聖騎士国の騎士団に入り『聖騎士見習い』になったというお話をしましたよね」と言う。
ライナのその言葉に対し「聞いたけどそれがどうしたというの?」と聞くとライナはこう答えたのである。
「聖騎士見習いとして『聖騎士』の称号を得た時点で、天城様は聖魔人と同等の『加護』の力を得ることが可能なのです。そしてライナルド様が『聖魔王』となったことで『加護』の力が解放されたことで、その『聖剣』を使うことができるようになったんですよ」
(そういう事か。『勇者の勇者』とは、勇者の中の勇者である聖魔人をも超えた『特別な存在』だということなのだな)
「『聖剣アスカロン』を手に入れた『勇者ライナルト』が聖女と共にこの世界に現れたのか。だがどうして『聖魔人ライナルド』は、聖魔人の『聖剣アスカロン』を使えたんだ?」
俺のそんな素朴な疑問に、ライナが笑顔を浮かべる。
「それはライナルド様も、私と同じ聖魔人だったということなのですよ」
ライナが聖魔人と聖天使が聖魔人であるライナルドと同じ力を持っている理由を話し始める。それは「聖魔人と『聖魔王』にはある共通点があるんです」と言った。
聖魔人と『聖魔王』が持っている共通項とは――
聖魔人と『聖魔王』は「勇者の血族」から生まれた『特殊な存在』であること。
ライナの話によれば、『勇者の加護を持つ』者は「勇者の子孫」ということになるのだそうだ。そして「勇者の血筋を引く者が勇者になる可能性はゼロではありません」と補足してくれた。ただ「ライナルドが『加護』の能力を使いこなし、ライナルドとライナルドの母である『聖女神』の間にできたライナルドの妹である『ライナルン』を殺せば、『聖魔王』になれたでしょうが」と口にする。その発言で俺は思い出す。「確かライナと聖天使の母親が『聖女神』だったな」と。
その話に聖魔人も興味を示したのか「『勇者の母親』であるということはつまり『聖魔人の母親』ということです。ライナとライナルンが母親であるのは確かです。ライナが言うにはライナルンを産んだ時にライナのお腹の中にいた『聖なる命の種』は消え去った筈なのに、ライナは何故か『ライナルドの加護の恩恵』を得ることができていると。だから私も、ライナルドがライナルンを殺したことによって『聖魔人』になれると考えていたのです」と言い出す。
ただ俺はライナルドの言葉を聞いて、ライナルドには悪いが俺は「そうか。聖魔人が二人存在するのか。ならもういいんじゃないか?俺は天城に狙われるような事はしてないよ」と伝えたのだった。するとライナルドが不思議そうな顔をしたので俺は聖剣アスカロンについての説明を始めた。
聖天使の聖鎧アスカロンは、持ち主を選ぶが、ライナルドとライナの二人はその力を行使できるが、聖魔人の場合は聖天使の聖鎧アスカロンと聖天使の聖盾は使えないので、天城と戦うのであればライナルドが戦った方が良さそうだと思ったからだ。そして「この聖剣も俺達には必要ないだろうから返しておくぞ」とライナルドに言って聖魔人に投げ渡すことにしたのである。
聖魔人はライナルドから聖天使の羽のついた槍を受け取ると嬉しそうに微笑む。
聖剣は、持ち主にしか抜くことはできないのだが――
聖天使が聖魔人に聖魔人の加護の力を譲渡することで聖魔人が持つことが可能になると説明してくれる。ライナは、自分の母である『聖魔人』の事を俺達に詳しく話し始めてくれた。ライナは『魔王の加護』を扱えるようになってもまだ幼い『子供』だったこと。聖魔人は聖魔王の眷属であり聖魔王の願いを叶えるために生まれた『聖獣』だという話を聞かせてくれる。
そして聖魔人は、俺達が天城から逃げた後で聖騎士国の首都に向かい『勇者国』と同盟を組む為の交渉をしていたそうだ。そしてその結果『勇者の国セイクリッドティア』では、国王ではなく教皇が王として国を治めていたそうだ。
俺は「なるほどね。そういえば俺達の国にもあったなぁ。魔王を倒したら王様が代わってしまう仕組みみたいなのが」と話すと、俺に聖剣を渡した聖騎士が「確かに。その通りですな。私もその話は聞いたことがあります」と同意してくるのだ。
聖騎士の言葉に、俺も思わず納得してしまう。確かに聖騎士が言っていたことは正しかったのだと思ったのだ。だが聖騎士も聖魔人も同じ勇者であるはずのライナルドを魔王だと勘違いしたことが引っかかり俺はライナルドに「聖魔人って、ライナルドのことを『魔王』だと勘違いしなかったのか?」という疑問をぶつけてみる。その質問に対して、ライナルドが答え始めたのだ。「『勇者』や『魔勇者』という称号は、『加護の力』を授ける為に付けられる名称なんだ」と言う。『加護の力』とは――『聖魔王』という存在がいることで発生する現象なのだという。
『聖魔王』の力の一部が使えるようになるというものだ。例えば「聖属性魔法」などが使えるようにもなるし「聖剣デュランダルの力の一部を使えるようになることもある」というのだ。だから「ライナの『勇者の加護』が発現した時に『魔王の力』だとは気付かれなかった。『勇者の力の一部を手に入れた者が現れただけ』と解釈されたんだよ」と説明する。
そこで俺も「俺にだって勇者の力の一部は宿っているんだ。それに俺の持つスキルは聖魔王のものだ。それで俺が魔王だと判断できなかったのか?いや、でも俺は『勇者の魔王』になったはずだ。でも『大魔王の心臓』を持っていただけで、それが原因で魔王になったと思わなかったのか?でもライナの話によれば、聖魔人の聖剣が俺の身体の中にあると『魔王の加護』の力を感じるんじゃないのか?」と疑問を口にする。
俺にそう問われたライナルドだったが少し考えるような仕草をして答えることを躊躇しているような態度を取る。俺はそんなライナルドにもう一度尋ねる。「何か事情があるようだが、俺が聞き出したことは絶対に誰にも口外しない。ライナの不利益になることも言わないと約束しよう」と言うと、ライナは「私の方こそ『聖魔人の聖剣アスカロン』を持ち出して、聖魔王様には多大なご迷惑をおかけしております」と謝ってくるのだ。
ライナが俺達に協力的ではない理由は、「ライナルンとライナルトは実の兄弟では無いからです」と教えてくれる。「それは本当なのか?」と俺は尋ねた。
その言葉にライナは静かに首を縦に振るのであった。その話に「まさか」と驚きながら「俺にはライナがライナルンとライナルドの姉にしか見えないがな」と言うとライナは「私は元々孤児でして孤児院で育っていたんです」と言う。その言葉にライナは続けて、「その私を養ってくれたのが、今の両親なのです」と説明してくれた。
「そうだったのか」
俺が呟くように言葉を返すとライナは「その両親はライナルドの父親である天城さんと一緒になって、天魔国から逃げてきたんですよ」と言う。「天城君と両親が?一緒に?」俺は驚いて尋ねると、ライナは「その前に、ライナルドの父である天城勇樹様のお話からしなければなりませんね」と言い出す。そしてライナの口から驚くべき真実を聞かされることになるのである。天城は聖魔王の息子だったのだという。その事実を知り俺は「そうだったのか」と呟いていた。ライナは俺に、ライナルドの母親について説明を始めていく。その母親は天城の「婚約者」だったらしく、天魔人とは血縁関係にあったそうだ。ライナはその女性との間に生まれた子なのだと説明を始める。そして「私は、実はライナとは血が繋がっていないのです」と言い出してきたのである。
(なるほど。それで聖魔人が聖魔人とは別人だと判断したわけか)
俺は心の中で納得していた。
ライナがどうして「ライナの加護が発現しても『魔王』とは気づかれない筈です」と言っていた理由がわかった。俺とライナが知り合いなのは「聖魔人が魔王と親しい人物の子供だ」と知っていたからか、と。俺は心の中を察知されないようにしながら「なるほど。そういうことだったのか」と答え、ライナが「え?あの」と驚いた顔をしたので俺は「大丈夫。このことは絶対秘密にするよ」と言うとライナの表情は明るくなる。「よかったぁ」と安堵して微笑んでいたのである。そして「じゃあ俺はもう帰るわ」とライナと聖魔人に別れを告げようとした時――「待ってください。聖魔人様!」と呼び止められてしまった。その声に振り返ると聖魔人の隣にいる女性がこちらに向かって歩いてくるところだった。その女性は「ライナルドの加護の力ですが、勇者の力を持っている人全員にあるわけではないですよね。もし『ライナルドがライナルンを殺したことで』加護を得たのなら、その可能性はないはずです。私達は勇者の血筋を引いているが、私も聖天使の加護がありますが『ライナルドのように勇者の力は持ってはいない』ですし」と言う。俺もその意見には同意だ。『加護の力は遺伝性』なのではないかと考えたこともあったからだ。
俺が考え込んでいると、その女性が俺の方を見つめていることに気付き、俺も女性の顔を見ると目が合ってしまう。「貴方、何処かでお会いしたことありましたか?」と言われてしまい俺は「会った覚えはないが、何故そう思ったのか聞いていいか」と尋ねてみた。
その女性は「そう言われても、何故か見覚えがある気がしたので。私の気のせいだったかもしれませんね」と言う。そして俺は、女性のことを見てみるがやはり見たことがないと感じる。しかし俺はその顔立ちが『真希に似ているなぁ』と思ったのだった。俺はその女性を鑑定してみると名前に「聖魔人の恋人」と表示される。その事を伝えたらライナルドは驚いて「私の恋人!?」と言ってしまうのであった。俺がその反応に戸惑っていると「いえ、なんでもありません。それより、これからどうするつもりなんですか?」と聖魔人に尋ねられていたのである。
そしてライナが俺達の事を説明してくれて、聖魔人は「ライナルンは生きている可能性があるということですね。分かりました。私も微力ながらお手伝いさせていただきます」と言ってくれて俺達の手助けを申し出てくれるのであった。
ライナから俺達に『勇者の国セイクリッドティア』で協力体制を取ることを提案する提案を受けて俺も了承した。『大魔王』を打倒した後の世界を想像し俺がニヤけているとライナが真剣な眼差しで「それで、大魔王はどうやって倒せばよいと考えているのですか?」と尋ねられた。その問いかけに対して俺は、まず最初に「俺達の仲間の力を結集することが必要だと思う」と告げるとライナは「聖女と聖騎士の国『セリスタリア』の『勇者』の力が一つになるということですか」という問いに俺は肯定すると、「そういえば、天城君は『魔王』に変身出来るんでしょう。その姿の時は聖剣の力を使えるの?」とアリサが質問してくるのであった。
俺はその質問に対して首を横に振り「いや、魔王の姿になった時に聖剣デュランダルを使うことができるのかどうか分からない」と答えるとライナも俺も、そして聖女まで「そんなぁ~、それでは、この国の協力が出来ないじゃないですか。それに『勇者』の力があれば、大魔王に対抗できるかもしれないと思ったんですけどぉー」と残念がっていた。その様子にライナは俺と聖女達の間に立って俺がアリサの質問に答えたことに対する注意をしていた。
だが、そこで俺が口を挟んでしまったのだ。「ライナはライナルトと付き合っているんだよな」という質問に「それが何か関係があるんですか」とライナは返答してきて、聖騎士は聖女の方を見ている。
聖魔人も聖騎士同様に心配しているような表情を浮かべていた。俺の突然の疑問にライナは戸惑いながら答えるのであった。ライナがライナルドに視線を向けると、その表情を見たライナルドが「まあまあ」と宥めようとするのだがライナは頬膨らせて不満げな感じで黙り込んでしまったのであった。俺が「それでライナルトはライナルンとは、どういう関係なんだ」と質問するのだが、その言葉に聖魔人の恋人である聖女は「えっ、まさか二人ともそういう関係で?いやだ、私そういうことに疎くて」と言うが俺の質問にはライナルドが応えてくれた。ライナが聖女との関係を否定するのを聞いて俺は内心ホッとした。俺の質問の意図が理解できた聖魔人は俺とアリサのことを交互に見ていたのだった。
(なんか聖魔人から変なものを見るような視線を受けているんだが)
そう思ってしまうのだが、その聖魔人の様子を見た聖女の様子がおかしいことに気づいたのだ。
(あっ、これは聖魔人が何か言い出す予感がしてきたぞ)
俺は警戒しながら聖女の反応を見守り、聖魔人が何かを話し出そうとしているのを邪魔しないようにしていたのだが、結局最後まで口を開かなかったのである。
(何を言いたかったのか気になったが、聖女に聞かれたくない内容のようなので俺としては問題ない)
聖魔人が話そうとしていたことが、どのようなことなのか非常に興味があったのだけれど俺は我慢することにして聖魔人と聖女の様子を眺めながら今後の行動について考えていたのであった。そして聖魔人が、これからの行動についての提案を出してきた。
ライナが聖魔人と聖魔人の恋人の聖女と一緒に「魔王討伐の旅に出てほしい」と言い出してきたのである。俺はそれに同意し、魔王が復活していないかの確認と大魔人族の動向を探ろうと考えていた。その考えを聞いたライナは、俺の行動を後押ししてくれるのであった。
「そう言えば、聖女と聖魔人、それと聖騎士は今、どんな職業の加護を身に着けているのか?」と、俺は三人のステータスを確認すると聖騎士の加護に「魔力強化」「防御力増加(聖)」が付いていたのである。そして、この聖騎士の加護は『勇者の加護と同じ効果を持つ加護』であることが判明していたのである。その事実を伝えると、聖魔人は聖女の肩を抱いて喜んでいたのであった。その様子を見て俺達は、とても幸せそうなカップルだと実感した。
ただ、その光景に羨ましいと思ってしまった俺がいたのである。
俺とライナ達が合流した後は『勇者の国セイクリッドティア』の城に戻ることにしたのであった。
『勇者の国セイクリッドティア』に戻るとライナルトが出迎えてくれた。俺の姿を見て嬉しそうな表情をするライナをみて聖女は「あの娘がライナルトの想い人ですか。可愛らしい子ですわね」と言うので俺は「俺の妹だよ」と教えると聖魔人と聖騎士も俺の言葉の意味を理解して「ライナルトンには弟さんしかいないって言っていたから妹がいるとは知らなかった」と驚いていた。
ライナが聖魔人達を自分の部屋へと案内する間、俺は城の外で聖魔人と共に待機することにした。
ライナが「天城君も私の部屋に来ませんか」と言われたが俺は丁重に断りを入れたのである。聖魔人に用事があることを告げると、聖魔人は俺をライナの部屋の前まで送り届けてくれた。ライナと聖魔人を一緒にするのは危険と判断したからだ。聖魔人は『ライナとライナルトが兄妹』だということを知らないようだったからだ。俺は聖魔人に、ライナルトはライナのことが好きだと言っていたことを告げてから、この場から離れていく。俺はライナの無事を祈ったのであった。
その後、『勇者の国セイクリッドティア』を歩き回ることにした。
俺は『勇者の国セイクリッドティア』の現状を把握しようと思い『情報共有』の能力を使って情報収集をしてみることにする。まず『大魔人の腕』を取り込んでいたのは「勇者の加護の力」ではなく『聖魔人の加護の力』だったということが判明した。なので『勇者の加護』を持っているのは『セリスタリア』の方で『大魔王』の配下が暗躍していたのは『セイクリッドティア』の方ということになるのであった。
俺はその事実を知ってから、改めて周りを見渡すと多くの国民達が俺の方に視線を向けてくるのが分かる。俺はその事に少し戸惑っていると一人の少女に声をかけられる。それは俺がよく知っている人物であり俺の仲間だった聖女であった。聖魔人も聖女の側にいるのを確認し、俺は二人に挨拶をしてから聖女と会話をした。
俺は聖女に「この国に何か変わったことはないですか?」と尋ねてみた。
「特に変わりありませんよ。この国は、まだ『大魔王』の脅威が去っていないのに活気に満ち溢れています」と、聖女は笑顔で教えてくれる。
その聖女の返事を聞きながら、やはり俺は「何か違和感があるな」と感じたのであった。聖女も同じように考えているらしく俺が質問する前に聖女は口を開くのである。
「私はこの国の民が『大魔王』に屈することなく生きようとしている姿に憧れて、自分もこの国を守るために戦おうと思っているのです」と話す聖女の姿はとても凛々しいものだったのであった。そんな話を聖魔人の前でしてはいけないと思った俺は話題を変えるために「ところで、ライナルト様とは上手くやっていけそうかな」と話してみたのだ。その問いかけに、聖女は「そうですね」と答えてくれた。聖女の表情は、いつも以上に穏やかに見えるのだが聖魔人が「聖女が、あの無愛想でぶっきらぼうな兄ちゃんの事を好きになった理由を教えてくれないか」と尋ねるのであった。その言葉に聖女が顔を赤くしたのだが、その理由は『勇者』が聖女に一目惚れしたという事実を知ったからではないような気がした。その聖女の仕草に、なぜか俺まで恥ずかしくなってしまい俺の顔にも熱を帯び始めたような感覚に陥ってしまうのであった。
「なあ、俺達は何の為にここに居るんだろうか」
「天城君が勇者にならなかった世界を作るためですよ」
俺は、そんなアリサとのやり取りを思い出させる。俺達二人は、そんなやり取りをしていた頃のことを思い出したのだ。アリサと出会って『勇者』にならずに済む方法を模索しながら二人で力を合わせて魔王を倒して回った日々を。そんな俺達の元に突然現れたのである。魔王と化したアリサが目の前に現れたのだ!
「どうして魔王の姿になったのか分からない。けれど、アリサを助けなければならないと思う」という使命感に襲われてしまうのだ。そんな状況の中、『セリスタリア』にいる仲間と通信が出来る『交信』を発動させて連絡を取るのであった。そして、この世界のどこかで生きているはずの仲間と通信を行い、現状を伝えた上で『交信』を終了させるとアリサの元へ歩み寄ろうとするのだが、その前に立ち塞がるように一人の少女が現れる。その姿は金髪碧眼で、髪は長くストレートで腰の位置よりも下に届いている程の長さだ。その見た目は幼さを感じさせる容姿をしており顔つきには幼い面影が見えるのだが身長はかなり高く170cmくらいはあるように見えたのだ。その体付きを見ると、胸は大きくお椀のような形をしていて、おへそも綺麗な形で、その体はスラリとした印象を抱かせる。
だがその体型を見て思う事は、彼女の胸部が膨らんでいることと、その体のラインに目が行ってしまうことだ。
彼女は俺と目が合うとその瞳を真っ直ぐに見つめてきた。
そして俺の事をジッと見たままで俺に対して「お前も大魔王に魅せられて従っているのだろう」と言ってくる。その言葉を聞いて俺が返答しようと口を開きかけると俺の口から声が出なくなる。その様子を確認したアリサが「私が質問するのを止めたほうが良さそうね」と呟き俺の耳に唇を近づけると小声で話しかける。
「今はまだ喋らない方がいいわ。それに私達は今は戦う必要もない。だから逃げる事だけを考えればいいの」
そう言うアリサの身体を眺めてみると震えていたのである。それを見ていた俺も緊張していたのだけれど何とか落ち着かせようと深呼吸を行うと少しずつ冷静になれた。
俺達の視線の先にいる人物はアリサの事を知っているようだ。ただ「魔王」とか「魅了されている」などという言葉を使っていたが俺と聖女は魔王化をしていないので、そういった言葉を口にする人物に心当たりがなかった。俺達が「魔王化?」と口にすると少女は驚いた様子を見せた。俺の言葉を聞いた少女が動揺していた様子は分かった。だが何に、そんなに驚かれたのかが分からなかったのだ。俺は自分の胸に手を当てて考えてみた結果「そういえば勇者と『大魔人族』のハーフだと、どうなるんだ?」と思い出す。俺は「そういう意味で驚くのかな」と考えながら聖魔人の様子を見ていた。そして俺と目が合ったことで聖魔人の目が大きく見開くのを確認する。
(あれ? 俺のこと知っているんじゃないのかな?)
俺は疑問に感じてしまったが今は戦いたくないと思っていたので無視することにして俺は聖女の傍に立つことにする。聖女の方は先ほどまでの態度とは異なり戦闘体勢を整え始めていたのだった。その姿を見て「聖女の勇者と戦えるなんて滅多に経験できることじゃなさそうだ」と思いながらもアリサが無事であることを願いつつも聖女と共闘することを決める。
俺と聖女は聖魔人と聖女の戦いに巻き込まれないように移動することにした。聖魔人の方は俺達が動いたことに反応したが聖女が睨むと聖魔人は大人しくなる。そんな聖魔人を見ているうちに俺は聖魔人とは初対面ではないのに、なぜ俺達に攻撃を仕掛けてきたのだろうかと思ってしまう。俺は「もしかして、この世界に召喚された時に俺も、あのように聖魔人と戦っていたのかもしれないな」と推測するのであった。そして「そう言えば、あそこに立っている聖女も聖魔人なんだよな。それなのに俺は彼女に対して攻撃をする気持ちになれないしな」と考える。そう考えるのは俺と、もう一人の『聖魔王』の力を受け継いだ聖魔人の違いでもあると思ったのである。
ただ聖女の事を改めて観察すると『大魔王の眷属』を使役できるのが不思議に思えてくる。俺は聖女を見ながら「もしかすると俺と同じように『大魔王の加護の力』を使えるようになっているのか?」と予測をする。もし聖女が「大魔王の加護の力」を行使できれば『聖魔人』として俺の敵に回ることになるのは間違いがない。
そんなことを考えていると聖魔人から凄まじい威圧を感じるのである。その聖魔人を聖女が抑え込んだ。
聖女の方を見てみると額に汗をかき始めている。聖女は「私の手に負えないかも」と言っているように聞こえた。
俺は「俺なら何とか出来ると思うけど協力してくれますか」と聖女に告げてから「聖剣」を抜き放った。その俺の様子に聖女は驚いていたのだ。俺の構えを見た聖魔人は「貴様! 勇者でありながら『勇者殺し』の武器を使うとは!」と、そんな聖魔人の台詞を聞き俺は『聖剣アスカロン』の能力で『聖魔人の呪い』の解除を行うと聖女が聖魔人に止めを刺すために攻撃を行ったのである。その攻撃が聖魔人に命中するが「聖剣アスカロン」の攻撃でも倒すことは出来ていなかったのだった。
俺は聖女の行動を確認してみるが傷口のようなものが出来ていることは確認できたが聖魔人が倒れることはなかった。そして聖女の方を振り返って見ると俺の事をジッと見てくる聖女の表情が俺の視界に入る。その表情から聖女が焦っていることが分かり心配になって声を掛けようとした瞬間だった。聖女と目が合うと同時に聖女は俺に向かって微笑んできた。
「やっぱり天城君は勇者だね。私は君を尊敬するよ」と言い終わるのと聖女の勇者が「魔王の槍」を使ってアリサを攻撃する。
だが、それは既に予想していた行動だったので俺の聖剣は見事にアリサを守ることに成功したのである。アリサの身体を抱き寄せると「大丈夫ですか」と尋ねてみたのだ。だが俺の声が聞こえることはなかった。
俺とアリサの前に立っていた『聖魔人』の勇者がアリサの首筋に手をかざすと首元に「黒い紋様」が浮かび上がるのが見えたのであった。アリサはその『紋様』が出現すると急に苦しみ始めるのであった。そして『聖剣』は『聖女の勇者』の手に渡り『聖女』の手には『大魔王の大盾』だけが残されたのであった。
俺が抱き寄せていたアリサの事を聖女に預けて「後は任せてくれ」と告げるとアリサを頼むと俺は伝えると俺はアリサから離れ『大魔王の神眼の力』を発動させたのだ。その発動の際にアリサから聞いた話を思い出してしまうのだが、それでも発動をさせないわけにはいかないと思った。なぜなら、これから現れる『真なる敵』を倒すには、どうしても俺自身の力が要ると考えていたからだ。
そんな事を考えながらアリサに近寄るとアリサに「アリシアさんから、あなたへ渡すものがある」と言われた。その声に反応した俺の頭に何かの映像が流れる。そこで目にしたのはアリサの記憶であり過去の出来事のようだった。
俺はアリサの言葉を信じて意識を失ったアリサを優しく寝かせることにした。俺の胸の中で眠るアリサを見つめると本当に愛おしく感じる。ただ目の前の現実を受け入れられない状況だ。俺は「アリサがアリシアになるのも時間の問題なのかな」と呟くと俺はアリサの頭を軽く撫でてから立ち上がるとアリサの勇者の方に視線を向ける。その視線の先にいる『聖女の勇者』に聖剣を向けていた。
「もう諦めて、その人を置いて立ち去れ。俺はお前と戦うつもりはない」
俺は「お前に勝ち目は無い。それに戦う理由もないだろう」と告げたのだが、その『聖女』は俺の問い掛けを無視して攻撃してきたのだ。
そして聖女の攻撃に合わせて俺も『大魔王の鎧兜の力』で『黒竜の盾』を作り出し聖女に向けて叩き付けると衝撃が発生して俺の視界を塞ぐ。俺が目を開くと「聖なる光の輝きが俺を包む」。
その光景を見て俺も「同じ能力を持っているんだな。だけど今の俺は以前の俺とは違う」と、そう思うと『魔王の腕』を出して聖女を捕らえようとする。しかし俺が『魔王の拳』を発動させると、俺が作り出した魔王の手よりも聖女の「光」のほうが大きく強かった。その為に俺は吹き飛ばされてしまい地面に転がる。
(以前であれば、これぐらいの攻撃で倒れることは無かったのに)
俺の脳裏に浮かんだのは「アリサの『勇者の力』が俺の力を上回っているということだよな」とそう考えてしまった。そして俺が聖女を睨みつけると聖女が口を開いて俺の質問の返答を行ってきた。
「どうして邪魔するの? 私の事は放っておいて欲しかった。それなのに私の事を守ろうとした」と悲しげに言う聖女の姿が見えたのだ。俺は聖女が涙を流している姿をみて俺は聖女に同情をしてしまった。それと同時に俺は彼女の事を守りたいと思ってしまったのである。俺は『大魔王』の力を使い『大魔王の癒しの力』を行使すると『聖女』に回復を行うと俺は立ち上がり彼女に話しかけた。
「確かに君の境遇には同情はするし守りたいという気持ちにも偽りはなかった。だが俺は勇者で、この世界に生きる人達の為にも負ける事が出来ないんだ。だから、ここで退くことは出来ない。君達の目的は、なんだ?」
俺は真剣な顔付きでそう話す。
聖女はそんな俺の顔を見て微笑みを浮かべた後に涙を拭き俺の目を見ると「貴方を殺す」と一言だけ口にするのである。
「聖女の勇者が聖剣を振るう度に『聖なる光が刃となりて俺を襲う』」その攻撃に対して俺は『大魔王の加護の力』を行使をすることで「闇属性の力」で攻撃を無効化させることに成功する。
そして「大魔王の力」を開放しながら聖女の勇者に近づくと、そのまま攻撃を仕掛けていくのである。その攻撃を聖女は受け止めたが、その威力は今までとは違ったのか聖女は大きく後方に吹っ飛んでいった。
「聖女の加護は強力だけど『魔王の力」を宿した俺は簡単にはやられはしない。君達は、どこまで本気を出すことが出来る? 君達の本当の実力を見せてくれ」
俺は『聖女』に問いかけた。そして聖女は『聖魔人の剣』を取り出すと、そこから凄まじい力を感じ取れた。そして聖女の持つ剣も『聖魔人の剣』と同じように聖剣アスカロンの力を吸収して進化している。俺は「俺も『大魔王』に進化したことで『大魔王の力』を使う事が出来るけど聖女の剣の力の方が上かもしれないな」と俺は考えた。
俺は『魔王の大盾』を構えると『魔王の大楯』の能力を開放すると俺と『聖女』の周りに半透明な膜が現れる。それを見た『聖女の勇者』が攻撃を仕掛けてきたのである。聖女の勇者の攻撃が聖女の勇者に向かうと『聖女の盾』によって防がれるが、それを見ていた聖女は驚いていた。そんな聖女に俺の方から声を掛けたのである。
「俺の能力については気にせずに攻撃をして来てくれ。聖女の攻撃ならば大概の攻撃は受け止められるから遠慮はいらない」
俺が『魔王の大楯』の説明をするとその言葉を聞いた聖女は聖女の勇者に向かって『聖女の加護』を使用したのだ。
だが、その聖女の加護が発動しても何も起こることはなかったのである。その事に驚いた聖女を見て俺は説明をした。
「その『聖魔人の剣』や『聖魔人の剣』と同じ『勇者』専用の剣には『対魔の加護の力が付与されている筈だ。それがあれば聖女の攻撃でも通用しないと予想出来る」と、俺が説明していると俺の考えが正しかったのか『聖女の勇者』の身体を淡い光りが包み込むと『対魔の鎧』『対魔法装甲』を装備出来るようになったようだ。それを確認した俺は聖女に向かって話し掛けることにしたのだ。
(これで『魔王殺し』と、『対魔の鎧』、『対魔法の装甲』を身に着けてしまえば『聖女の勇者』の『対魔』は『魔王の勇者』と同等になるんじゃないかな?)
聖女に『魔王の勇者』に変身してもらう必要があるのだが、どうしたものかと考えると俺はアリサの『聖女の聖槍アスカロン』を思い出す。あの時俺はアリサに「槍」を渡すように指示を出したのだ。
俺の言葉にアリサが首を傾げると、そんなアリサの首にアリサが持っていた『魔王の槍』が出現したのだ。
俺は驚きながら『魔王の槍』を見つめていると聖女に向かって口を開いた。
「その聖魔人の力でアリサさんの持っている『魔王の剣』に呼び掛けて欲しい。アリサさんに渡していただいても構いません」と頼むと聖女は不思議そうな表情をしながら俺を凝視してきた。
「アリサに渡しているのは『聖女』の力を高める為なんですよね。だから今、聖女の力が高まれば良いのですよね。アリサさんを呼んでアリサに持っていてもらった方が確実だと思うんです。ですから聖女さんが持って行ってください」
俺は聖女に提案すると聖女は俺を睨みつけていた。そして「その話、信じられない」と言った後で聖女が『聖女』の姿に変わる。
俺は聖女に「それで、お願いします」と伝えるとアリサに『魔王の槍』を俺に差し出させたのである。そしてアリサが『魔王の剣』を受け取った瞬間、アリサから膨大な魔力を感じたのだ。
俺もアリサに「俺に魔王の姿になる事の許可を出してください」と伝えるとアリサの瞳から涙が溢れ出たのであった。そんなアリサの様子にアリサも『魔王』になるのが嫌なのだと感じ取った。
「大丈夫だよ、俺が居る限り君を傷付ける奴らは許さない」と、そう言うと俺はアリサを落ち着かせる為に頭を撫でると「魔王になる事を許可してくれますね」と再度アリサに聞くと「はい、許可をします。どうか私を守ってください」と涙を流しながら答えてくれたので俺はアリシアに向き直ると彼女の手を掴むとアリシアを抱きしめると俺は口を開くのである。
「俺の側にいて」と言うと俺はアリシアを立たせてから、俺は聖女の方に体を向けると「アリサ、アリシアさんの中に入っても良いかな? 君の事は俺に任せてほしい。絶対に守り抜いて見せる。そして俺は俺の目的を果たすつもりだ」と伝えた。それを聞いたアリシアは少し考えると聖女に向かって声をかける。そして俺は意識を失う事になったのだ。
俺は気が付くと、いつもの場所に居たのだ。
俺は周囲を確認すると目の前に俺に抱きついていた少女がいるのを確認して話しかける。
「ここは、どこなんだ?」
その俺の声に反応したように彼女が顔を上げて涙を浮かべた状態で嬉しそうに俺に笑顔を向けた。
「ここは、私の心の中です」
そう言う彼女は嬉しそうに微笑んでいた。俺は状況が分からずに困惑してしまう。
俺は『聖女の加護』が強化された時に感じたのは、ただ「俺の知っている事が全て思い出せるようになったんだな」ぐらいにしか思わなかった。しかし今、この状況で俺はアリサの事を完全に思いだしアリシアスやクロミナ、そして俺に殺された人間達の事を全て覚えていたのである。それは『魔王』の力を得てしまったからだと思った。
「なあ、アリサ、俺の事を憎んでいるよな」
俺の口から自然にそんな言葉が出てしまうと俺は泣きたい気持ちになってしまった。そして『魔王』としての記憶が戻ったからこそ、俺はアリシアを『聖女の加護』を強化した時に「守ってやりたい」と思ってしまったのだ。
だが、今は「聖女」の『魔王殺し』の力を得る為に俺は魔王の姿にならなければならないのだ。だから俺は『魔王化』してしまおうと考えた。『聖女』が「魔王の力」を持っていると、どんな事になるのか想像出来ない。だけど「魔王の姿に変身するのは魔王の加護を持つ者だけだ」と言われていたので俺が魔王に『魔王の力』を使って変身しなければ問題はないだろうと俺は思ったのだった。
俺は、まず「『大魔王』になった時の服に着替える事」を念じてみたのだ。すると、俺は『魔王の力』を使うことが出来る状態になっていた。
「魔王の力」を使う事で俺は魔王の姿を取れるようになっているみたいである。俺は改めて「大魔王」になって『大魔王の加護』を発動させて『大魔王』に変身を完了させると次にアリシアに声をかけたのだ。そして「俺は『魔王軍』の幹部を一人倒しているんだけどアリシアは何か知ってるかい?」と話し掛けるとアリシアは驚いた表情を見せた後に首を左右に振ったのだ。その仕草を見た後に俺は聖女に対して話しかけることにする。だが既に俺は聖女の心の中にいるのである。なので普通には喋れなさそうだと考えて「俺は『大魔王』の力で話すから普通の方法で話をしよう」と話すとアリシアスが聖女に変わってくれた。そして聖女に対して俺とアリサの関係について質問をした。
その話を聞いてアリサが本当に悲しんだと分かったからなのか聖女の顔が怒りに染まっていく。そんな聖女を見て俺は聖女が俺に対して怒っているのを感じ取ることが出来た。
(なんとなくだけど、分かるんだよな。聖女は俺がアリサを裏切ったと思っているんだろうか?)
俺はそんなことを考えているとアリシアが「私は魔王様と一緒がいいです」と伝えてくれると俺の心が救われた気がした。俺はアリシアの言葉を聞くと自然と笑みがこぼれていた。そして俺はアリサと『魔王の加護』を繋げてあげることにした。その作業が終わった直後に俺が『魔王の姿』に変身した影響なのか俺の中の『聖女の勇者』と「聖女」が反応してお互いに『勇者の証たる聖槍アスカロン』に「魔王の加護」が付与されるように変化したのが分かった。それと同時に俺は「これで準備が全て整った」と思い、最後に確認することにしたのだ。俺は自分のステータス画面を出して「『大魔王』」の項目がどうなったのかを確認してみる。
『魔王(大魔)』
:レベル:328
体力:13万/1億8,960
力:1万8,000
素早さ:15
器用さ:10
魔力:50
精神力:100
最大HP:25
最大MP:45 全魔法属性耐性100%、全武器使用適正99、成長限界無し、獲得経験値増加、アイテムボックス容量無限大 能力値強化系技能効果アップ+500%、成長速度5倍、魔王の武具召喚可能、眷属契約可能数4人、眷属の職業変更不可、魔王の能力吸収 特殊称号「魔神」、「絶対切断」、「聖剣創造者」
:『勇者』の力を宿せし聖槍アスカロン
特殊能力「魔王の聖加護」:
「魔王の使徒」を使用可能、魔王の武具に意思が伝わる これが俺のレベルかと俺は苦笑いしてしまった。確かに俺は魔王になった訳だが『勇者』より下なのだ。それどころか、かなり『大魔王』の方が強かったりするのである。
この事実を考えると『魔王』がどれだけ規格外の強さをしているか理解出来ると思う。
それにしても、これは『魔王軍』の幹部を倒したことで『勇者』よりも格上の存在になったということを意味しているんじゃないだろうか。まぁ、『魔王』という種族自体が他の生き物達からすれば強過ぎる存在であるから仕方ないといえば仕方ないのだが。それでも『勇者』より格上になるというのは、どういう仕組みになっているのか分からないけど、そういう風に進化をしたという事に他ならないだろう。
俺は聖女に向かって話し掛けようとしたところで聖女から声を掛けられたのである。俺は不思議に思いながら聖女を見ると彼女は俺に向かって口を開いた。
「今、何を考えていました?」
そう言う聖女が俺に殺気を向けていた。俺は「えっ? 今、何を考えた?」と聞き返すと彼女は呆れたような顔をした後に俺に向かって「いえ、貴方は何も考えていないでしょう」と言ったのだ。そして聖女が続けて口を開く。
「今の貴方は魔王としての思考回路になっていました。『勇者』である私の前にいる時でも、ずっと『勇者の加護』を持つ者として私と接してきたのに、今の魔王としての貴方は『魔王』としての思考に偏っていたのです」
その聖女の言っている意味がよく分からなかった俺は、どうして「魔王の加護」を持つ俺が『魔王』になった途端に「魔王」の思考に切り替わってしまうのかが分からなかったのだ。しかし、よくよく考えてみれば、今までの俺は「『聖女』として接してきたから、俺と『魔王』の俺を混同しない為に『聖女』の姿になっていた」としか言いようがないのかもしれない。しかし『魔王』の姿になってしまったのだから「魔王の加護」を開放してしまえば『魔王』になってしまうんじゃないかと思っていたのに俺は今現在も魔王の状態で「『魔王』の意識」と『勇者の加護』を内包している存在になっていたのである。つまり俺の体は今現在は「二つの魂」が存在しているということになるのだと思う。だからこそ俺は今現在の自分の体の状況を確認することにしたのだ。
(俺の状態は、ちゃんと確認できるんだろうか? ステータス画面に意識を集中する)
俺がそう思った直後だ。ステータス画面が表示されたのである。それを見た俺は驚きの声をあげてしまうのであった。そして俺は思わず声に出してしまっていた。
(な、なんだよ、これ? なんだ、この異常なレベルのステータスの高さは? 一体どんなステータスに設定されているんだよ!
『魔王の力』が強化されたせいなのか?)
俺は心の中で「魔王の力」の強化について考え始めたのだ。その途中で俺は聖女の事を「アリシアに任せる」と言った時の聖女の態度を思い返していた。あの時は聖女の事が気になり過ぎて俺自身が冷静じゃなくなっていたからこそ聖女の事を放置してしまう結果になったのだと思っている。だけど今は聖女の事を見極めたいと思ったからこそ俺はアリシアに後を任せたのだ。
そして聖女の様子を見ながらも俺は聖女から「俺の側にいてほしい」という言葉を告げた瞬間にアリシアスが自分の中に入っていった事を思い出していた。それは、その時に「魔王の力」が強化されてしまったことが原因なのではないかと思ったのである。
俺は聖女をアリシアスに任せた後に聖女の体の中からアリシアスを召喚してアリシアを聖女と引き合わせたのだった。
「聖女アリシアス、アリシアスは、私の中にいるんですね?」
「はい、魔王様は、これから『大魔王』としてのお姿に変化されます。その時に私が邪魔にならないようにするために一時的に聖女アリサの中にいるのです」
聖女の言葉を聞いたアリシアが俺の体に近づいてくると俺の事を見て微笑んでくれた。だから、そんなアリシアを見て俺は嬉しく感じてしまう。だけど聖女アリシアスが「今は魔王様とお呼びしなければなりませんよ」と言うと俺に頭を下げてからアリシアは聖女に対して返事をしたのだった。
(『大魔王』の加護を持つ者が『大魔王』に変化したら聖女とアリシアの二人はどうなるんだろうな。もしかしたら『勇者』と『大聖剣デュランダル』の関係に近いのだろうか?)
俺はそんなことを思いながら「とりあえず」と言って『魔王の加護』の能力を『聖弓アスカロン』と『聖槍』に使用することにする。すると『魔王の加護』の能力である「『魔王軍』の幹部を倒せば倒すほど『魔王』は成長する」という特性を利用した事で『魔王の加護』の能力である『聖剣』『聖槍』を扱えるようになるのが『聖剣アスカロン』であるならば『聖槍アスカロン』の特殊能力を扱えるようになったのは当然の結果であると思うのだ。その結果、『聖槍アスカロン』は俺に馴染むようになってくれたようである。そしてアリシアにも同じように話しかけることにするが、既にアリサから話を聞いていて準備ができていたアリシアはすぐに自分の中に入ることが出来るみたいだった。そして俺の側にいる二人に向かって「準備ができたようだな」と話し掛けた。
「えぇ、もう私は魔王様のものなんですよね。私は貴方様の所有物になることができて光栄です!」
そんなことを言うアリシアの瞳の奥底で熱い何かを感じることが出来た。だから俺はそんな言葉を口に出した彼女に笑いかけると続けて言ったのだ。
「お前は、もう『聖女』ではないぞ。これから俺に仕えることになった従者『魔聖女』になったんだ! ただ『魔』がつくのが『魔王軍』と同じ名前である為に気に食わないというのであれば俺が変えてやろうか?」
俺はアリシアに冗談交じりで『魔』を外せるか? と聞いてみた。しかし、アリシアには俺の言葉の意味が分からないのか小首を傾げているだけである。そこで、どういう意味で俺の言葉を使ったのかを説明した。
俺の言葉を聞いていたアリシアの顔色はどんどん青ざめていくと「ごめんなさい。私の全てを差し出すから許してください」と言って、その場で泣き崩れたのだった。俺は、そんなアリシアに「冗談だよ。俺は、ただ、これからは、お前を大事にしていくっていう誓いを込めて名前を変更できないかどうかって意味を伝えたかっただけだから」と言って慰めると「本当ですか!?」と言って喜んでいたのである。それから俺は「そうだ。お前の名前だが、今後俺が付ける名前に変更するぞ」と言いつつ彼女から名前を聞き出したのである。そして俺はアリシアの名前を改めて確認する事にした。
「えっと、名前はなんて言うの?」
「わ、私は、アリアドネといいます」
俺はその名前を呟くと自分の記憶を呼び覚ましていた。そういえば「ミノタウロスロード」を倒す際に倒した相手の名前は『勇者』と一緒にいた「僧侶」の女が言っていた。その時は確か『勇者』の仲間の一人だと言っていたはずだが、それが誰だか思い出す事は出来ないままだったのだ。しかし『魔王の加護』を手に入れたことによって『大魔王』としての意識が強くなった影響によってか「勇者」と旅を共にしている僧侶が「アリシア=エルシスという僧侶だった気がする」という感覚を覚えているのだ。しかし『聖女アリシアス=リゼル』として生きてきたアリシアを見ていた為に俺はアリシアのことを「アリシア」と呼んでいたので、その『聖女』を仲間にしている人物を、まさか「アリシア」と同一人物だとは夢にも思わなかったのである。それに聖女と勇者の関係は、きっと「幼馴染」のような関係だろうと思っていて俺とは、また違う関係なんだろうと思い込んでいたからだ。
俺がそんなことを考えていた時に「勇者」の仲間の「僧侶」が俺の配下になったという事実を知ってしまうことになるのは少しだけ後のことだったりするのであった。
(俺に『魔王軍幹部の四天王』と「大魔王」の称号をくれてから消えたのは「僧侶アリアドネ」だったということなのか? それとも別人の僧侶が「勇者」と共に俺の所にやってきたのかな? どちらにしても今の俺に確かめる手段は無いんだけどな)
そして俺の中で考えが纏まると「さぁ! これからが大変ですよ! 魔王様、覚悟は出来ていますね」とアリシアスの声がした。俺は、そんな彼女に視線をやり「ああ」と答えて気を引き締める。(今の状況では魔王軍が優勢だ。だからこそ『勇者パーティーの一員にして聖女のアリシア=アルフォード』、『聖弓アスカロン』、そして『大魔王』の力を使ってでも絶対にこの窮地を脱するしかないのだ。そのためにアリシアスには『聖槍アスカロン』として頑張ってもらわなければならないんだよな。あと、あの子たちは俺にとって大事な人だから守ってあげないと駄目なんだよね。そのための作戦会議でもあるんだよな。だから俺も頑張らないとな!)
◆ その頃の魔王軍は劣勢だった。しかし『魔王軍幹部の四天王』と五人の『元魔王軍最高戦力メンバー』たちの活躍により何とか拮抗を保っていた。しかし『聖騎士』は勇者たちが『聖王都ラトリア』に辿り着くまで『聖女アリシアス』を『魔王城』に近づけさせないために時間を稼ぐことを決意していた。そして「魔王」として君臨した『大魔王ルシファー』に謁見を申し込むことを決意する。その時には「大魔王」の加護の能力を開放する前だったのだが『勇者』との会話を通じて「聖女」の正体を看破したのである。
そして『勇者』の仲間の一人であるアリシアが『魔王軍』を裏切り「大魔王」の元に寝返った事を知ったのだ。しかもアリシアは魔王軍に加担していた時に得た「『聖女』と瓜二つの容姿をしているアリシアはアリシア自身であり、彼女は魔王軍のスパイでもあった」という事実を利用して魔王に近づき魔王の側近になった。
アリシアと魔王の会談は秘密裏に行われていた。魔王の側近に収まったアリシアは、すぐに魔王の側付きとなったのである。それはアリシアが魔王から与えられた能力「魔王軍の幹部である事を匂わせる」を「大魔王ルシファーのお気に入りである事」に変化させて魔王側に「自分は『大魔王』の配下なのだから見逃せ」と言ってきたからこそだった。しかしアリシアの行動を見た魔王が怒りを爆発させた。その結果「大魔王」はアリシアを消滅させるべく動いたのだった。しかし、そのアリシアの攻撃は『魔王の加護』の効果によって無効になり、さらには『大魔王』の加護を得た『魔王軍』と『大魔王』による『大魔王軍』が激突する事になってしまったのである。
「聖女」であるアリシアは『聖槍アスカロン』となって『大魔王軍』の幹部と戦いを繰り広げていた。聖属性による攻撃を行う聖槍に対して大剣は聖属性の耐性を持っており聖属性に対しては、より強く聖属性に対抗できたのである。しかし、聖属性に対して聖属性をぶつけることにより大剣での聖属武器破壊に成功すると、今度は大剣で聖女を攻撃するという戦法を取っていたのである。
それに対してアリシアは聖女が持っていた『勇者の加護』の力を『聖弓アスカロン』に付与することにより聖女の持つ聖槍アスカロンの能力を再現して、それを聖剣アスカロンで強化することで、どうにか互角の戦いを繰り広げる事が出来たのだ。
(勇者の仲間のアリシアが裏切るとかマジ最悪だろ。こいつらの能力は、まだ俺たちには早すぎたんだ。だから俺は仲間を信用できないんだよな。俺が弱いばっかりにみんなを傷つけてばかりで、もう嫌になっちまうぜ! 本当に俺はどうすればいいのか教えてくれよ!!)
俺は、そう思いながら自分の弱さを呪ってしまう。そして「勇者」は聖杖ホーリースタッフの特殊能力を使用して仲間を回復して戦い続けていたのだ。「僧侶」である僧侶アリシアスは勇者と一緒にいる「僧侶」が自分と似たような名前であることに気がつくと、その僧侶が「勇者」の仲間である可能性が高いことを認識したのである。そこで「聖女」の特殊能力で魔王城に居る魔王に話しかけてみる事にした。すると魔王が「お前が裏切り者か?」と言ってきたのでアリシアは魔王と会話を始めたのである。
アリシアの話を聞くと魔王はアリシアを殺さずに拘束する事で決着をつけようとしたのだ。そんな話をしていた魔王軍とアリシアたちの前に『魔王軍四天王筆頭』の四人が現れると戦闘が始まった。そして、その時に現れた「大魔王ルシファー」、「魔王四天王」「元魔王軍幹部最強戦士」との戦いが繰り広げられた。しかし「魔王四天王の一人」の力は『魔王軍』の最高戦力の一人でもあり魔王軍最強の男と言われるだけあって凄まじい強さを見せつけてくれたのである。しかし、それでも「魔王四天王」や『大魔王ルシファー』に比べれば大したことが無かった。だからこそ俺達は、そいつらを撃退することに成功したのだった。『大魔王ルシファー』には『大魔王』の『大魔王』の加護を、その力を与えた『聖槍アスカロン』の一撃を与える事で、ようやく撃破に成功していたのである。『聖女アリシアス』の力だけでは勝てなかったのだ。
こうして魔王城を制圧した『魔王』と『大魔王』は対峙することになった。俺は二人の戦いを見ている。すると、そこで俺は気になることがあったので確認することにした。そういえば『魔王軍四天王』と五人の『元魔王軍最高戦力メンバー』はアリシアを「大魔王」に渡すように言っていた。だが、今の魔王はアリシアを殺すつもりで攻撃していた訳ではなかったし「アリシアが『勇者』と敵対しているから、殺すのではなく捕らえるように」と言っていた。だから俺は「どういうことだ?」と思ってしまった。
(魔王のヤツって何を考えてるんだろうな? 俺は魔王が、あんなに強いのに何でアリシアを殺そうとしなかったのか不思議に思ってしまっていた)
俺は「魔王」を注意深く観察していたが「魔王」も「大魔王」も全く動かない状況が続いたのだ。なので俺は魔王が何か企んでいるのかもしれないと疑心暗鬼に陥り「まさかアリシアと取引でもするつもりじゃないだろうな?」と思っていたのだ。
しかし、そんな事を考えていた俺は「魔王」から突然「『勇者』が俺を倒すと『勇者』は死んでしまうんだよ」と言われたのである。俺は意味が分からず呆気に取られてしまった。しかし「大魔王」の方を見て「それは、つまりは勇者が死んだとしても魔王だけは『聖なる鎧アスカロン』によって死ねない身体になっているという意味ですか」と言うとその言葉に「大魔王」が反応をしたのだった。
(あ~
確かに『勇者』が「大魔王」を倒さないと、この世界に平和が訪れないとかって設定のゲームが昔にあったけどさ。それと一緒だって事か?)
俺の言葉を聞いた『魔王』は「そういうことなんだよ。俺はアリシアちゃんとは約束していた。『大魔王』になったら、この『聖王都ラトリア』を滅ぼすとね。でも『勇者』は俺を倒してこの世界を救ったら自分が『聖女』と結婚できると勘違いして俺を殺しに来たんだ。『勇者』を騙すには、この方法が一番だろ? だから俺とアリシアちゃんが戦う事になったのさ。俺を裏切ったら『勇者』とアリシアを始末するように『元魔王軍最高戦力メンバー』に命じてな。俺は『勇者』を殺してやるって、そう言ってたんだ。だけどアリシアも俺のことを『勇者』と殺し合ってくれるのならば協力するって言うんだよな。まぁ『勇者』の嫁になりたいとか言い出すような変態だし俺に味方をしてくれるとしか思えなかった。まぁ結果的には、それで正解だったみたいだな。アリシアも俺が勝つと信じ切っているようだし、これで『勇者』に殺された時のための保険も手に入れたぜ。『勇者』を欺く為にも絶対に殺されるわけにはいかない。そのために『大魔王』の力が必要だったんだよな。だから『勇者』の野郎が『魔王城』に攻め込んできた時は焦ったぜ。俺としては『聖弓アスカロン』を使ってアリシアを『勇者』の所に連れて行ってもらうだけのつもりだったんだ。でも『勇者』は『聖剣アスカロン』まで持ち出して来やがった。だから仕方なくアリシアの願いを聞いて『勇者』と戦おうと思ったんだ。『聖剣アスカロン』を使えるのは俺しかいないと思ったからな。もしアリシアに使わせた場合、アリシアが『大魔王ルシファー』になった時に『聖剣アスカロン』は使えなくなるし『聖剣アスカロン』は聖女以外が扱うことができないっていう制約もあったしさ。
『聖剣アスカロン』を使うためにもアリシアを『勇者』と会わせるしかなかったんだよ。まぁ結局はアリシアが勝手に『勇者』に寝返ったせいで『聖槍アスカロン』になって戻ってきたから、その能力を利用する事に成功したんだけどな。これで『大魔王』として死ぬ事もなくなったって事だ。そして『勇者』が『聖剣アスカロン』を使いこなせないのは分かっているからこそ、あの技を編み出して使ってやったんだよ。俺の考えた必殺技の一つだ。その名も〈究極消滅〉。あれならどんな奴でも『聖勇者』にでも通用する筈だ。
俺は、そう説明をしてやったのだ。そして「大魔王」は魔王の質問に答えたのである。「俺が勇者を殺すことは可能なのですか?」そう訊いた「勇者」に対して大魔王は「可能だが、お前さんでは、まだまだ『勇者』の力を完全に制御できていない。それに、そんな事をしてしまえば勇者が死んでしまうぞ」と言ってきたのだ。「そうなんですか?」と驚いた様子を見せた「勇者」に対して「大魔王」は更にこう告げたのであった。「『聖弓』の力で、勇者の能力を無効化して殺せる」と、そして大魔王は「『聖槍』の力でも勇者を殺すことが可能だよ」と続けた。すると「勇者」は少しだけ考え込んでいた。そして俺に向かって「どうすれば勇者を殺せますか?」と言ってきたのである。
そこで大魔王は「聖剣で『聖槍アスカロン』を叩き落とせばいいだけだ」と言ったので「勇者」は「やってみましょう」と言って『聖槍アスカロン』に向けて聖剣を振りかざしたのである。そして『聖剣アスカロン』が当たる直前に、まるで『聖槍アスカロン』が自らの意志で避けているかのように軌道を変えていた。それを見た大魔王が「勇者、残念だが『聖矢アスカロンの能力は、その程度ではない』と言い放った。大魔王が「聖矢アスカロンの能力を教えてあげよう」そう言った後、その能力を語ってくれたのである。「聖槍アスカロンの力は、『聖弓アスカロンの力を再現した武器の能力を付与する能力』なのだよ」と、そして大魔王は続けて「つまり勇者よ、お前が持つ聖属性を帯びた聖槍の刃は聖属を持つ物全てを斬ることが出来るのだ」と、そう教えてくれたのである。すると大魔王が、また話しを続けた。
「そして勇者の持つ『聖剣アスカロン』も聖剣としての特殊能力がある。それは全ての聖属性攻撃を吸収できる特殊能力が備わっているのさ」大魔王は嬉々として話してくれたのである。「そして『勇者』が持っている他の特殊能力についても教えておいてやろう」と、そんな感じで俺は『大魔王ルシファー』が魔王軍の幹部だった『大魔王ルシファー』『大魔将軍アスタロット』『大魔術師デヴィルス』に、それぞれの能力を解説し始めたのである。
『大魔王ルシファー』の大悪魔ルシファーには「聖騎士の加護を与える」力があり、その力で聖騎士の力を得る事が出来るのだと、そんな話をされた。『大魔将』の二人である「大魔導士マドゥモアル」「大賢者ダバルプス」には「闇騎士の加護を与える力」と「光剣士の力を一時的に与えて強化することができる能力」を与えられていた。この力は「聖魔師の力」であり、「聖戦士」「僧侶」「神官」「魔術師」「聖術師」「聖女」「賢女」「魔女」の九種の職業に転職させることができるらしい。
『大魔王』の「大魔王ルシフェル」には、あらゆるものを生み出す力を持つ力が与えられており、大悪魔の創造ができるという。さらに魔王軍最強の戦士を作り出すことも可能で、それは魔王四天王にも匹敵するほどの強さの戦士たちを産み出すことが『大魔王』には可能になる。
「まぁ『勇者』の嫁にしようと思って育てていたアリシアは『聖剣』を扱えるようになっていたがな」大魔王は楽し気に笑いながら、そう言ってアリシアの肩を抱き寄せたのだった。
(大魔王ってヤツは一体何を考えてるんだ?本当に意味が分からない)
俺は大魔王の狙いが分からず、そんな疑問を感じていた。すると俺が考えていた事を悟ったように、魔王が「何を考えているのか知りたいか?」と、そんな事を俺に言ってきたのである。「いえ、別にそんなことはありませんけど」俺は正直なところ、魔王がアリシアを使って何をしているのかは大魔王から聞いていたから知ってはいたが「魔王が俺の考えを読んで、わざわざ聞いてくるって事は、やっぱり何かを企んでいるのか」と思いつつも、知らないふりをして返答したのだ。だが俺の言葉を聞いても、魔王は何も言わなかった。そして魔王が何も言わないので、俺は逆に気になってしまい質問をしたのだ。「俺に何を言いたかったのですか?」と、そう問いかけると魔王は俺の方を見て真剣な表情をしながら俺を見てきたのである。
「お前は『勇者』の仲間になったそうだな。どうして、そこまでする?」と、いきなり訳の分からない質問をされてしまった。
俺には意味が解らず「えっ?」っと呆けてしまうと、魔王が更にこんな言葉を投げかけて来たのだった。「私はアリシアを幸せにしてやれと言っているんだ。だから答えろ。なぜ、お前ほどの男が、この女の為に危険に身を投げ出す? この女に騙されて利用されているんじゃないのか? アリシアを騙して仲間にしたんだろ? 違うか?」
(あー。そういう事かぁ~。俺が『勇者』のためにアリシアを利用していたと勘違いしているのか? だから俺を睨んで怒っていたわけだな。しかし困ったな。この誤解を、どうすれば解けば良いのだろうか? とりあえず、そう思われていても仕方がない事を、今までしてきたからな。今更、本当の事を言う必要も無いし、このままでもいいだろう。だけど俺のことを疑う理由ぐらいは聞きたいな。魔王が何を根拠に疑っているのかを知りたい。もし『聖勇者』への嫉妬が原因なら、それも俺としては都合が良いしな)俺は、そう思いつつ返事をするかどうかを考えていたのだが、まず魔王に「俺は確かに、あの女を利用したこともありましたし嘘偽り無く告白しますが、あの女のことは好きじゃありません」と答えることにしたのである。そう答えた後で俺は少しばかり挑発気味に言葉をつづけた。
「それに俺には他に好きな女性もいますしね」俺は魔王に対してそう言い放ち、その次に『勇者』に対して質問をしたのだ。「勇者殿に質問です」と。
勇者はその質問を聞いて不思議そうな顔をして「俺ですか?」と自分のことを指差していた。そんな『勇者』に対して「はい、貴方の事です」と返事をしてから俺はこう尋ねたのである。「勇者殿は、これから先、ずっと『勇者』を続けるつもりなんでしょうか?」と。
俺の問いに「当たり前じゃないですか!」と即答してきた勇者だったが「では何故、俺達のような者にまで協力してくれるんですか? 勇者とは勇者らしく振る舞わないと、みんなが迷惑するのでは無いんですか?」そう質問すると、今度は少し悩んでから勇者は「まあ俺は皆を救いたいとは思っているから、できるだけ頑張るつもりです。そして世界を平和にしたいと思っている。そのために勇者を続けています」と答えたのだ。それを聞いた俺は「ありがとうございます」と言い礼を述べた後、勇者に向かってあるお願いをした。「それでしたら一つ提案があるのですが」と言うと、俺の事を信用してくれた勇者は快く引き受けてくれたのである。
そして「魔王」と『大魔王ルシファー』との話が終わって、しばらくして「魔王城攻略の時の、アリシア様と、お二人の従者達の事を覚えていらっしゃる?」と『聖弓アスカロン』の持ち主である「大勇者カナン」が話しかけて来たのであった。その言葉に魔王と魔王の側近達は黙って耳を傾けていたが『大魔王ルシファー』だけは違った。
『聖剣アスカロン』の勇者と、もう一人の勇者が魔王城に挑み『勇者ルシファー』と「大勇者カナン」に「大魔将軍」「大魔導士」の二名の幹部を討ち取ったのである。そこで勇者が聖剣と聖槍を手に魔王城の玉座の間に向かい――そこで「魔王ルシファー」の亡骸を見つけてしまったのだ。魔王を倒した勇者とその仲間が王の間で魔王の死体を確認した時に魔王の部下たちが騒ぎだし、そして混乱に乗じて逃げようとした者たちがいたらしい。それは魔王四天王と側近達で『大魔将軍』アスタロット『大魔術師デヴィルス』そして「聖魔師マドゥモアル」の三人だ。魔王の側近の中でも特に実力が高い三名である。だが『勇者』は聖剣の『聖属性の刃』の力を『魔王四天王』の一人アスタロットに向け放った。すると聖属性の魔力は、まるで意志があるかのように動き出し、その矛先は「大魔導士」ダバルプスに向かうことになったのである。
聖剣アスカロンの能力に気づいたダバルプスは、咄嵯の判断で魔法陣を描き『聖矢アスカロンの刃』を受け止めたが『聖槍アスカロンの能力をコピー』させた聖剣は魔法陣ごと、ダバルプスを貫通させ消滅させるのに成功したのだ。聖槍の一撃は、その後『聖矢アスカロンの特殊能力によって聖剣アスカロンの威力に変化』して、聖剣の特殊能力で強化された『勇者ルシファー』の技で魔王四天王の一人『大魔導師』マドゥモアルの『聖杖アポロン』も破壊されたのである。
その結果、聖槍の力でアスタロットを倒された魔王は「まさか、このような事態になろうとは完全に予想外でございました。私の完敗でございます」と、そんな言葉を残して、あっさり自害してしまったのだ。魔王が自害した後に、他の魔王四天王と魔王軍の生き残りも次々に自決した。こうして『聖魔王ルシフェル』との戦いが終わったのである。
そして俺に声を掛けてきた大勇者は魔王の死を確認してから、こんな話を始め出したのだった。
「アリシアが生きているかもしれない。私には、その確信があります。魔王が死んだ直後に、あの場にいた全ての者は自害した。ならば誰かに助けを求める事だって可能ではないのでしょうか? 私は『勇者召喚の儀』の日に姿を消したアリシアの行方を探してみる事にしました。そして今日。アリシアらしき少女の姿が街の中に見えまして、追いかけていたのです」
その言葉に俺と『聖勇者』の『勇者ルシファー』は顔を見合わせたのだが『勇者ルシファー』が俺に「クロ殿。これはチャンスではありませんか? この大勇者様と一緒なら、きっと見つかるでしょう。それにこの大勇者様にアリシア様を任せてしまえば大丈夫なのではないですか?」と言ってきたので、俺は『聖勇者』に、そう伝えると大勇者に「この方には聖弓の勇者としての『聖勇者』のお役目があり、俺が付いていくのは難しいと思います」そう伝え、さらに「大魔王から『魔王四天王の加護の力を与える』と言われた聖弓がアリシアの持ち物である事を知っていませんし、それを告げたら余計に混乱しそうですよね。俺は、もう少し探してみてから判断したいと思ってます。それに大勇者には『勇者』の仲間が必要なんですよね?」と、俺は言葉を付け加えた。そんな俺の言葉を聞いて大勇者が口を開く。
「私は貴方が探しているというアリシアという人を知らないけれど、もし見つけることができれば、その時は貴方と力を合わせることを約束するわ」
俺にアリシアのことを託したいと思っていたのだろうか、そんな言葉をかけてきた。
俺達がアリシアを探しながら街の中を歩いていたときだった。ふいに空が暗くなって雷鳴が轟き稲妻が光った。俺が上空に視線を向けると、そこには翼竜に乗った魔王軍が飛んでいた。しかも十体もの数だったのだ。
俺達に攻撃を仕掛けてきた魔王軍だったが、『聖槍アスカロンの勇者』が即座に応戦し撃破するのである。俺が「今の魔王軍は何処の勢力なんだ?」と質問をしたところ『聖槍アスカロンの勇者』は「多分だけど、『魔王軍』じゃないかしら?」と口にした。その言葉を聞いた俺は思わず笑ってしまう。俺が「あははっ!
『魔王ルシファー』が生きていたのか? それとも、あの女が生きてるのか?」と言うと、アリシアの捜索を手伝ってくれると言った『聖勇者』は俺のことを凝視しながら驚いたような顔をしているのだ。俺は何かを勘違いされているのではないかと思い慌てて説明する。「えーっと、俺と、あいつは『幼馴染』みたいなものです。俺は魔王軍と戦うつもりは全くないですし、あいつと敵対する気もありませんよ」
そう説明をした俺は、とりあえず『聖剣』が『魔王』を倒すのを止めたかっただけで、俺の事を恨んではいないと言うことを二人に伝えたのだが、この二人は『聖槍アスカロン』と『聖矢アスカロン』の所持者であり『神具』である二本の武器の持ち主なため、「魔王ルシファーが生きているかもしれない」「だから油断しないように用心しなければダメなのだ」そう俺に伝えようとしてくれたらしい。ただ俺の事は信頼していてくれるのか「貴方の事はとても信じている」という言葉を伝えてくれていたのだ。
俺はアリシアが無事なら、どんな状態でも構わないのだと思っている。だから『魔王ルシファー』が生きていて『大賢者のローブ』を持っているとしたら「魔王軍と手を組むことも選択肢に入れておくべきなのか?」と、そんな事も考えていた。そんな時だ。俺達に向かって魔王軍が迫ってきている事を知った俺は、さすがに「これぐらいの敵なら、こいつらに頼めば楽勝で殲滅してくれるんじゃないか?」と思った。だが念のために俺は勇者の従者であり「俺達の護衛として一緒に旅をしている女性」という設定の二人にも聞いてみようと思い声をかける。
すると二人は、すぐに俺のそばに来て俺を守る為に戦闘態勢をとったのである。そして魔王軍が襲ってきたのだが二人の従者は「この程度、余裕だね」「あっ、そうだよね」と言い、本当に簡単に倒してしまうのであった。その光景を見て魔王軍の連中はかなり動揺していたのは間違い無い。そして魔王軍に命令を出した奴がいるはずだろう? 誰の指示で動いていて、そして、何の目的があって動いているんだろう? 俺達三人で話をしていた時に、魔王軍の攻撃が開始されて、それが終わる頃には俺達は魔王軍の攻撃部隊の全滅に成功していたのだ。すると『聖槍アスカロンの勇者』が「ちょっといいですか?」と俺に声をかけてくる。その言葉を耳にして俺は「はい。どうかされましたか?」と返事をする。すると『聖槍アスカロンの勇者』は言葉を続けたのだ。
どうやら大勇者様は『大魔将軍』アスタロットと『大魔導士』ダバルプスの居場所に、かなり見当がついているらしくその場所に行こうと思っているので俺に同行を求めてきたのである。
そして大勇者が言う場所に俺が向かっていると『大魔導士ダバルプス』は魔王城にある研究室にいる可能性が高いらしい。そこで俺達は魔王城に向かい始めた。
俺達四人は魔王城に向かう途中で「『大魔将軍アスタロット』と『大魔導士ダバルプス』以外の魔王四天王」について話を聞いた。まず最初に出てきた名前は『魔王の影武者アモン』『大魔術師デヴィルス』だった。だが大魔将軍アスタロットについては誰も名前を知っている者がいなかったのである。ちなみに「大魔王の影武者の一人で」とか、そういった説明をされていた気がするが覚えていない。そして、この魔王四天王の名前が出た時に、俺は「あぁ~、そう言えば魔王四天王の一人アスタロットだけは見たことあるぞ」と思うと同時に疑問を感じたのだ。それは俺が初めてこの世界にやって来た日に『聖矢アスカロン』の特殊能力で消滅したはずだと思っていたからだった。だが大勇者の話を聞く限りは「アスタロット」が生きている可能性があるという事であるし、そもそも「魔王四天王」の残りが三人いる事になるからだ。それに魔王四天王には、それぞれ魔王の側近のような立ち位置にいた人物がいたようなのだ。つまり「魔王四天王の一人」ではなくて「魔王の影武者アモン」と「大魔術師デヴィルス」と「魔王の使いの魔女アイ」が生き残っていて魔王四天王になっている可能性もあるのではないか? 俺的にはそう思うのだ。
ただそうなると、その魔王の配下だった『悪魔王ベリドット』の存在もあるわけで、あの『悪魔の王』と言われているベリットが生きているなんて考えにくいんだよな。まぁでも「俺の知っている『魔王』とは、別人の可能性も無きにしも非ず」なので俺が『大魔道師』のベリッドの居場所を知っている可能性は低くても、もしかしたら何か情報を得られるかもなんて思っている。だから俺が「魔王の使いである、あの『悪魔の王』の事は知りませんが」と言って『魔王四天王』の一人であるはずの「『魔王四天王』ベリッド」の事を口にしたのだ。そして俺が魔王四天王である「『悪魔公デヴィルド』の居場所に心当たりはないですか?」と質問をすると、その問いに対して「私は、そんなことは分かりません。でも『大勇者の国の『聖槍』の勇者と『聖弓』の勇者』の二人なら知っていてもおかしくはないんじゃないでしょうか?」と、そんな言葉が返って来たのである。その言葉を聞いた俺は少し考えてみるが「『聖槍アスカロン』と『聖弓アスカロン』の所有者の二人は大勇者なんだろ? それなら『大魔王の城のどこか』に保管されているのが当たり前なんだけどな」と思ってしまうのだった。
俺が大勇者の質問に返答しようとした瞬間に魔王の気配を感知したのである。そして「『大勇者様と従者の女性達、こちらです』と言って、この魔王の波動のする場所へ案内する。その先に大魔王のいる場所がある」と俺に告げる。大勇者にそのことを説明すると「じゃあ急がないと!」と言って大勇者の二人は駆け出す。その後を俺は追いかけるのだが魔王軍が大魔王に攻撃を始めようとしていた。
俺は魔王軍の連中に大声で「おい! 今から俺達、勇者が大魔王と話すから魔王軍は邪魔するなよ! 大魔王と俺達で話をするから大人しくしていれば命は取らない! もし俺達に危害を加えるというならば殺すしかないから覚悟しておけよ! もしそんな事があった場合はお前らは絶対に許さないから覚悟しておいてもらおうか!」と叫ぶ。そして俺は、この魔王軍の動きを止めるために『光の壁』という技を使い魔王軍の進行を完全に止めたのである。そんな状況を見た魔王の眷属であろう女達が口を開く。「貴女達が私達の事を止められるというのかしら?」そんな女達に俺は口を開く。「もちろんだとも」
そんなやり取りをしている時に俺の隣に現れた女性が口を開く。「魔王軍が貴方の敵であるならば、貴方の敵に私がなるまでよ」と、俺に向かってそう口にしたのだ。その女性は『大天使メタトロン』であり俺の仲間になってくれるらしいのである。
そして俺は、この状況を見ているだろう大魔王に対して「俺は、この世界の人間じゃないけど大魔王が味方なら助かる」と伝えたのであった。
「えっ?
『魔王ルシファー』さんは、その女性と知り合いなんですか?」と『聖矢アスカロン』が驚きの表情で、そう問いかけてくる。すると「うーん、まぁ色々とあったんです。詳しい事情を話している時間はありませんが、この方は『私の知り合い』ということで理解して下さい」と『聖剣の勇者』が答える。『聖槍アスカロン』も『聖弓アスカロン』も「えぇ」と言っているのが聞こえた。
俺は二人の会話を聞いて『この世界に来てすぐに戦った『魔王ルシファー』とは違うんだろうな』と思ったのだ。だから俺も大魔王に向かって言う。「この人は、『この世界を魔王軍の支配地にしてしまおうとした人』ではないと思います」と言うと、その言葉を『大魔導士ダバルプス』の『魔王ルシファー』に伝えてくれるらしい。そして魔王は「魔王軍と貴方達は敵対する気はないようね」と言う。魔王の言葉に対して大勇者二人が魔王に対して言うのだが「とりあえず話は魔王城に戻ろう。そこでゆっくりと魔王城に戻る道中で話をしてくれ」と言うのだった。俺は大魔王と一緒に魔王城内部へと戻った。その際「貴方の名前は何ていうのかしら?」そう聞かれたので、とりあえず名乗る事にした。
「私は、大魔王と呼ばれている。名前を名乗る事すらしていなかったわね」と言われたのだが「貴方には名前は無いのか? それと俺達に協力してもらうつもりだが貴方の『部下の悪魔達』にも協力してもらえないだろうか?」俺は大魔王に聞く。すると大魔王は「別に構わないけれど。どうして、このタイミングで魔王軍に協力してもらいたいと思ったの? そもそも『この世界に来たのは初めてでしょう?』」と、そう言ってきたのである。俺の事を『この世界の事を知り尽くしている人間ではない事を理解してくれているようだ』と感じながら俺は言葉を続ける。
「実は俺は、さっき大魔王が言っていた通り『異世界から来た存在だ』。だけど、この世界に飛ばされて来た理由が分からなくて困っているんだよ。それに俺がこの世界で何ができるかも分かっていなければ何の為に生きれば良いかも分からない」と、そう説明をした。すると「そう、だったの」とだけ言って大魔王は、それ以上の事については何も言わずに俺についてきてくれるようになったのだ。俺は、そのまま魔王城の内部にある大魔将軍アスタロットの部屋に向かう。大魔王には「ここで待っているから用事があるならば行って来るといいわ」と言われるので俺は大魔将軍の所へと向かう。そして俺は『魔槍グングニルの勇者』から聞いた情報と『大魔導士ダバルプス』からの情報について確認を行う。その結果分かった事は「魔道士が生きている可能性はかなり高い」という事だった。それから『魔王の影武者アモン』と『大魔術師デヴィルス』については誰も知っている者はいないようだったので、俺達は一度『光の都セイントロードの教会本部』に向かったのである。そして教会本部に到着した俺はライナに話しかける。
「なぁ、ここらへんに誰か『聖弓アスカロン』の気配を感じる人はいるかな?」そう尋ねてみると、やはりこの教会のどこかに存在しているらしく『光の加護』を持つ者は感じることが出来るらしい。ただ「今は気配を感じられないから、まだ来ていないと思う」と言われてしまう。そして、この場にいるライナは『聖弓アスカロンの使い手』として、この教会の中を自由に動けるみたいで他の仲間と共に『光の加護』で気配感知をしながら捜索してくれることになった。そんな俺の側に近づいてきた一人の女性が口を開く。
「あのぉ、私にも何かお手伝いさせてください」
その女性の顔を見て「あれ?」と思い記憶を探ると、大魔王の部下だった大天使の一人で名前は確か――と俺は思う。
「私は『大魔道士』の使いである『大悪魔メドゥーサ』です」
俺は彼女の名前を思い出せないのである。だから『使い』ということは大悪魔の中でも大悪魔公のような地位なのか? と、そんな疑問を抱いてしまったのだ。
大悪魔のメドゥが「どうかしましたか?」と言う。
俺は彼女に大悪魔の階級のようなものを聞くと「私のような上級悪魔には『公』とか『侯爵』なんて呼ばれる事もあります。でも魔王軍の中で『大悪魔公デーモンプリンス』『大魔公爵』などの『大公』の称号で呼ばれる者もいるんです。だから私のことは、そう呼んでください。まぁ、どうせ大魔族って、あんまり変わらないからいいですよ」って言うんだが「それなら、もういっそ『公』のほうで呼びやすいからそう呼ばせてもらうよ」と俺が答えると「分かりました。じゃあ改めて宜しくお願いします」と言い返してくれたのである。
俺は大魔将軍ライナに「何か情報があったら教えて欲しいんだけど何かないか?」と質問する。すると大魔王の部下である大悪魔は「ちょっとした噂ですけど、この教会の裏庭に『勇者様の墓があるらしいんですよ。その場所を教えてもらってないから分からないですけど」という情報を得る。その話を聞きながら『この世界は本当に俺が居た地球と同じような文化を持っている。まぁ、大天使や悪魔が存在しているくらいだし当然なのかもしれないけどな』と俺は思った。
俺が「そういえば、大魔王と大魔将軍達の関係は?」と、大魔王に対して尋ねる。
すると大魔王は「『私は』貴方達と争う気はない。でも、魔王軍とは戦う事になるわ」と、そんな言葉が帰って来たのである。そして、そのあと俺は『魔王ルシファー』という魔王から伝言を預かっていた。それは俺の事が「好きになれそうな予感」だから仲良くしていこうという話になったのである。俺は『ルシファーさんと友達になってくれるのであれば、こんなにも嬉しい事は無いな』と心の底からの本音を漏らすのであった。
俺は大魔王ルシファーに言われたとおりに大魔将軍デビちゃんと魔道士を探す。だが二人とも、どこにもいないのである。俺は大魔王と二人で探していた。
すると「おい! そこの『お前たち、何をしている!』と怒声が聞こえる。俺は大魔王に指示された場所まで走ると『魔導師デビィアス』を発見するのである。だが『魔導師』の姿を見つけたと同時に俺達の背後で爆発が起こる。俺と大魔王は爆発のあった方を見ると大魔王の仲間の大天使の一人『ミカエル』がいた。
大魔王はその人物の名前を「彼は『神の炎ウリエル』と言うのよ」と紹介してくれた。そんな『神の雷ケツアルコアトル』こと『神威ケツァル』と大魔王との話し合いが行われることになる。俺達は魔王城の最上階にある魔王城の主の間で話し合いが行われたのだ。そんな最中、部屋の外で『大天使メタトロン』が現れて俺達に告げてくる。その大天使の言葉を聞いた瞬間「何てことを!」と、そう口にしたのは大天使ミカエルだったのだ。そして「そんな馬鹿なことは止めろ」と大天使が叫ぶ。
俺は『どういうことだ?』と思ったが状況がよく分からなかったのだ。
俺は大天使の言葉を聞いて『この世界の人間にとっては魔王軍は味方なのだ』と考えることにしたのである。「なるほど、そういうことだったのね」
大魔王ルシファーは俺と大魔導士ダバルプスの戦いの最中に乱入してきた『大悪魔ダバルプス』について「私が大魔王だと知らなかったようだし、あの大魔導士は私の部下の誰かだと思うわ」と言ったのだった。それから大魔導士ダバルプスとの戦いが終わった後は大魔将アモンは大魔道士ダバルプスと戦闘を行っていると『大魔導士アモン』が報告を行う。そして大魔王が言うには『勇者アリシアの勇者召喚に巻き込まれた可能性があるわね』と言うのだ。つまり『この世界に来て間もない頃に巻き込まれてしまった』というのが真相のようだった。そして俺の方からも『聖女アスカロンの勇者』について聞く。彼女は「今から六年ほど前ですね。勇者様は行方不明になってしまったんですよ。勇者様の名前は、なんと言うんでしょうか?」という言葉を大魔王に対して行う。すると『聖槍アスカロンの勇者アリシアンヌトレア=シンフォニア』という答えを得たのだった。俺達に対して『聖剣の勇者と魔王ルシファーとの戦いで、もし大魔王が勝ったらこの世界に留まってくれる』という契約を交わす事にしたのである。俺としては断る理由など一つもないが魔王軍に迷惑を掛けてしまうので申し訳ないという気持ちが少しだけ芽生えた。なので「別に魔王軍の戦力が無くなっても良いのか? 俺は、この世界に留まって欲しいと言われているだけであって魔王軍が壊滅しても構わないぞ」そう言ってみた。すると大魔王は「問題無いわ。貴方達が負けたとしても大魔王が勝てば良いのだから、私には関係のない事だもの」と言ってくれたのだった。俺達は、その言葉を聞いて安堵する。すると「ところで、あの魔道具って何なの?」と言われたので俺達は聖女のアスカロンと魔導具『勇者帰還の秘薬』を見せると大魔王の目が光り輝く。そして「これがあれば『勇者』を呼び戻す事が出来るわ。ただし、これは最後の手段として使うべきよ」と真剣な表情を浮かべながら言う。俺もその言葉に同意したのだが「じゃあ、私達と協力してくれている勇者を魔王城へ送る方法を考えるとしましょうか」と言われるのである。そして「大魔王」の魔王ルシファーから『魔王軍四天王』と呼ばれている大悪魔と、大魔王と大魔道士の四人と、魔導師ダバルプスと勇者と俺で、まずは魔道都市マギステルへと赴く事になった。
そこで俺は大魔道士デビィアスと話す事となる。そこで俺は『魔王軍四天王』の悪魔が魔道士と魔導師の関係者であることを知るのである。俺は、この世界で起こっている事をデビィアスから聞く。それから俺はデビィアスから「魔石を集めて魔結晶を作ろう」と提案された。それから『聖槍アスカロンの勇者の持ち物』を探し出すように言われるのである。だが、それは無理難題で俺は困ってしまった。
しかし大魔道士は「それについては私も手伝います。ただ私は『魔法属性』に適性がありませんの。でも魔結晶は作ることが出来ます。私の師匠でもある、魔道博士様が作っていたので作り方だけは分かります。あとは『魔水晶クリスタル』が必要です。それも探し出してきて、ください」と言われてしまう。俺は「大魔王」のルシファーさんに相談すると、すぐに取り寄せてくれた。その魔水晶を受け取り魔道士とデビィアスと一緒に研究を行い魔結晶を作ることに成功し『聖槍アスカロンの勇者』を呼び戻そうと考えたのである。ちなみに、それとは別に大魔将軍の配下の悪魔である悪魔大将軍のコマンダルバが、ある人物を探して欲しいと頼まれた。どうやら『聖騎士』の勇者もいるらしいのだ。
俺は『悪魔』と言う単語を聞くと身構えそうになるが「大丈夫ですよ。悪魔と一言でいっても悪い奴は本当に少数しか居ないから安心して下さい」と大魔導師は俺を宥める。俺は悪魔が居たら問答無用なのだろうか? と思うが、この世界の住人にとって、この世界に来たばかりで戸惑っている『聖弓の勇者』が悪者になる事はないだろう。俺には理解出来ない。まぁ、そんな事より今は『魔王』を何とかする方が重要だよなと、そんなふうに思ったのである。
俺が大魔王の魔王ルシファーの配下であり「悪魔の王」「大悪魔公デーモンプリンス」のメドゥに、この世界の『勇者』が魔王と戦わないのは『勇者が弱いから』とかではなく『魔王の方が強いから』『勇者と魔王の戦いは勇者の役目』であるからだという情報を得て納得する。
そして『勇者が魔王と戦いたいなら、この世界の『勇者』が魔王と戦っても問題無い』ということを教えてもらう。
大魔導師デビィアスに、大魔王ルシファーから預かった魔石を渡そうとするが拒否される。魔導具の核となる魔石がないから使えないのだと。大魔道士デビィアスは「魔結晶さえ完成すれば、後は簡単に出来上がります」と言うのだ。
俺は大魔導師デビィアスから魔導具に必要な魔石の集め方を教えられたのである。だが、魔石が手に入らない状況下だったので俺は魔導具の作成は中断せざるを得なかった。だが『聖槍アスカロンの勇者』の武器である『神槍アスカロン』は大魔王から『預かる約束』になっている。その事で「魔王を倒さないのであれば『神器』である、その聖剣アスカロンを『魔王ルシファー』に差し出してくれ」そう頼んだ。だが『大魔導士』のデヴィは俺の頼みを断ったのである。「それは出来ません」と言い切るのだ。
俺がどうしてなのか質問した所、大魔導師デビィは『魔王が『神の炎』の『大天使』の加護を持っている以上、その大天使の力が込められた『大剣』では無いと意味がないのです』と答えてくれたのだ。
そして『聖槍アスカロン』の武器『神槍アスカロン』を渡すのならば「魔王ルシファーが神の力を手に入れる前に魔王を倒しなさい」という言葉を最後に大魔道士デビアスからの言葉が途絶えた。そして、大魔王の魔王城に戻ってきた時に俺は大魔王から大天使ミカエルについて話を聞かされることになる。
俺は大魔王に、とある場所へ転移するための魔道具を持ってきてくれないかと依頼されたのだ。その行き先は――大天使ガブリエルが暮らしている場所なのであった。
俺は大魔導士の研究室にある部屋の一つで大魔道士の研究成果である「魔力回復の薬」の実験を行っていたのだ。この実験では大魔道士は「『勇者』が魔王ルシファーを倒したら」という条件を出した上で、魔王軍の四天王である大魔道士デビラスは『勇者が魔王ルシファーを倒すための協力を行う』という契約を行った。その結果、勇者の武器の強化は俺の魔法で強化が可能だと判断した。だから、もしも大剣である聖剣アスカロンを強化するのが目的だった場合を考えれば俺は「大魔道士のデビラスが俺の持っている聖槍アスカロンを魔王ルシファーが『欲している理由』が分かるかもしれない」と思い「ちょっと行ってくる」とだけ告げて、大魔王ルシファーが用意した「魔王城の隠し部屋に転送できる魔法陣の描かれた紙」と、この『聖槍アスカロンの勇者』の持ち物である「大剣」と、聖魔道博士の師匠の「大魔道士の作った聖剣アスカロン用の鞘」と「聖槍アスカロンの鞘」を持って行く事に決めた。そして俺達が「魔王城」へ出発しようとしたときに大魔導士デビアスが俺達に付いて行きたいという申し出を受ける。俺は大魔道士の「同行の許可」と「護衛として」という理由で連れてきた。
俺達は大魔道士のデビィアスを連れて大魔導士の研究室へと向かう。そこにはデビィアスの魔導師の弟子が一人居るらしい。俺は『この世界に召喚されてまだ一ヶ月』なので弟子がいる事に驚いた。それから俺はデビィアスの弟弟子の『魔導師』のリシアの案により『聖魔導博士である、師匠の大魔道士デビィアス』は『大魔王ルシファーに魔王軍の一員として認められておらず魔王城に住むことが出来ない』という事実を聞かさせる。そこで大魔道士デビィアスは、このまま魔王軍に居続けるより『勇者と共に行動する事を選びたい。そして大魔道士の地位を返上して魔導師として生きる道を歩みたい』と言う願いを叶える為に俺達は『大魔王ルシファー』へ会いに行く。そして大魔王の魔王ルシファーは『勇者の帰還の為の手段を探す事に協力する事』を条件に俺達への協力を行ってくれる事となった。
俺は大魔王のルシファーに「魔王軍が攻めてくるとしたらの対策を聞かせて欲しい」と頼む。
俺達『勇者一行』は「まず初めに魔王軍が攻めて来たとしても大丈夫だろうと思う場所へ案内するから、そこで準備をして欲しい」と言われたのでその場所に向かう。その場所に到着した俺は「ここで待っていて欲しい」と頼まれたので待つことにする。俺達が今いる場所は魔王の治める国の隣国に位置する「魔族国家ゼレカ王国の首都」である魔都である。
【状態異常付与】(生活)で俺が「状態異常なら何でもあり」にしてしまった。
この『世界を救う旅』の主人公である「天弓勇者セイ」は「ステータス」を覗けばわかるように、かなりレベルが低い設定になっているので、その主人公をサポートする仲間キャラも低レベルで良いだろう。そんな理由で、その低レベルの主人公の仲間になる「ヒロイン」の職業が、「僧侶系」と「戦士」の「2人」が、そのサポート役として登場する事になった。この2人が『主人公セイ』のパーティーメンバーなのだ。
この物語は、勇者の「セイ」と僧侶の少女「ナエ=コトリ」、それに戦士の男『リュウキ』の三人組で『冒険者ギルド』の依頼をこなしながら成長をする話だ。ちなみに、この作品のコンセプトは『ファンタジーな世界で繰り広げられる物語で「ステータス」や「能力」や「スキル」と言った「概念的な部分の説明」をメインにして書いていきたい』との事だ。「ステータス」の設定は、この物語の世界独自の物なので「現実世界でのゲーム等の知識は必要ありませんよ。あくまでも「この世界でのシステムの話なので、現実世界のゲームの知識は忘れちゃってください」とのことだ。
さっそく『異世界の常識』について説明しよう。
『世界の名前:この世界の全ての国は「国名が無い無人の島や大陸」で構成されている』と言う事らしい。ちなみに「この世界の地図」は「大きな一つの球体」のような形をしているらしいのだ。この『大きな一つの丸い星』に大小様々な『小さな星』がある。『小さい方の星』から『大きな星の上に浮かぶ島々』へ行けるそうだ。つまり『大きい惑星の上に存在する小島』みたいな形になっているのである。そして『大きい方の大きな星には名前が無く、この星に住まう生き物は全て「魔物」と呼ばれている存在だ』との事だ。
『大きな星の陸地には何も無いのに、どうして生物が住む事が出来ないのか?』
これは、その昔に『ある出来事』が起こってかららしい。その出来事とは『空から降ってきた「何かの破片が大地に激突」したことで発生した「大爆発」が、巨大なクレーターを形成してしまい、そこに海も山も湖も森も川すらも存在しない場所になってしまった』との事である。だから「誰も立ち入る事の無い無人の地となったのだ」ということだ。
「そして、『無人になった地から「魔物の種」と呼ばれる物が、どこからともなく現れる』のだ」という事も、この時にわかったらしい。だが『何も知らない人々が「魔物」に襲われたら大変』と言う事で「魔物から身を守る術を身につけた者達」が「魔物と戦う仕事」を始めだす。
それが「今の「ハンターギルド」の前身である。」
そして「人々は「この世界の理」を知らずに暮らしていたのだが「魔物に襲われて、それを撃退してくれた人達に感謝」の気持ちを込めて、彼等に報酬を与えるようになった。それが、いつの間にか、今の『ハンターギルド』の原型になっていった」と『この世界を救ってくれそうな勇者候補を探そうと、異世界転生の勇者を探す神様が作り出した作品だからね』との理由によって『主人公が最初から強くても問題は無いよね。むしろチートで楽させてくれるような相手だと嬉しいんだけど』だそうだ。「勇者を活躍させたい」というのが作者の意向なのである。なので『戦闘面』については「勇者にお任せします」とのことである。だが、そのせいなのか、勇者の仲間達は、そこまで『強い』という感じではなく設定されている。だが「ステータス」の「レベル」に関しては少し弄ってあり、他のRPGゲームで言う所のレベル上限に近い値まで上げているようだ。そして、それに合わせた『武器防具』を、ちゃんと勇者に与えられているのだ。この武器は『普通の勇者が装備する様な武器』であり、武器の性能は「普通以下」の「性能しかない武器」だ。この武器は『武器屋に売っていた安物の剣』に【攻撃力向上】と【防御力強化】が付与されているという「強化のオマケ付き」の武器となっている。
『主人公を鍛える方法』について教えて貰えた。
「主人公を強くしたいと思った場合」
『その世界にある「遺跡」を探して「宝箱」を「鍵開け」すれば「強化の道具を手に入れる」事が出来るのですよ』とのことだった。ちなみに「その世界にある、とある場所には【ダンジョン】が存在していて【迷宮】と呼ばれる【ダンジョンマスター】が支配している特殊な「モンスターが出現する領域があります。その中に入ると【階層転移装置】が設置されている場所があり、そこに入る事が出来れば、次のフロアへと行くことが出来るのです』だそうである。
『主人公が強化した武器が使える武器は一つしか無いのですか?複数の種類の武器を使っても良いという事にしてくれれば、色々な武器を扱えます』と聞いてみた。そうしたら『複数種類の武器を扱えるようにしました。でも『剣』だけは固定なのですね。なので「剣士」「魔法剣士」は、どちらかを選んで、もうひとつ「別の剣を扱う武器」を選ぶのが良さそうですね。あと「盾持ち戦士」も選択できます。武器は、この3つだけなら好きなものを選んでくれて構わないので「好き」を選んで下さい。それと、もちろんですけど、どんな剣であっても【剣術スキル】を持っている必要があります』と、答えてくれた。この『剣スキル』の取得方法は、その「異世界の勇者が戦うべき強敵」と戦えば取得可能だという。ただし「このスキルを習得するには、ある程度の熟練が必要」とのことで、すぐに覚えることは出来ず、それなりに時間がかかるそうだ。
『主人公以外の仲間達にも強さを』と、リクエストしたところ『仲間のステータスが気になりますか。では、ちょっと弄りますね』との言葉と共にステータスが変更されていた。
◆ナエ=コトリ(18歳)女性。僧侶。主人公と同じ村の出身という設定。
「勇者様が『レベル1』からスタートするとしたら、私は最初からレベル10くらいになっていても、おかしくないんじゃない?」とか言ってる『聖女』だぞ!
職業:僧侶/賢者。『回復役』担当だな。
HP:300
MP:1000
攻撃力:25。物理防御:15。
魔法力:100
回避:20
運:50
魅力 :60 スキル 【回復支援系スキル群】(Lv5段階)
1回 ヒール Lv2 2回リカバー
(状態異常の回復効果を付属させることが出来る。)
【状態異常付与】
生活 眠り 3回 キュア 麻痺 4回 リフレッシュ 混乱 5回 ディスペル 毒 6回 ザラ 魅了 7回 ディスペル 盲目 8回 ライト 石化 9回 リカバリー 【魔力増加】(LV4段階 各項目2ずつアップする能力)
1回 ファイア ファイリス 2回 アクア アクアリス ウィンディーア ウィンド エアリース アイス イスティス ストーンサンダー テランス アースクラッシュ 【生活魔法の使い手 生活系の生活系補助系特化型の僧侶。僧侶でありながら、その職業レベルを上げてしまえるのが最大のメリットである。攻撃魔法が苦手なので『僧侶としての能力を活かしつつ、戦闘に参加できる』というのが彼女の役割なのだ。そして仲間の中で唯一の回復役でもあるので「回復薬が足りない」と言う時には役に立つはずだ。彼女は『勇者のパーティー』の貴重な癒し枠になるはずである』だそうだ。
ナエ=リュウキ。
『魔族の国ゼレカ王国』の王都に暮らす青年だ。
彼は、主人公と一緒に旅をする『仲間キャラ』の一人である。彼の外見設定だが――「魔族」らしく『美少年』設定で、髪の色が銀に近い『白髪』になっている設定だ。これは魔族は、ほぼ全員が「この設定」で、種族固有で「この色で産まれて来るらしいのだ」との事である。ちなみに彼以外にも『白髪』の設定が有るキャラがいるらしいのだが「全員イケメンらしいんだよねぇ~♪』ということだった。このキャラの特徴は『勇者一行の中で一番の常識人ポジション。そして真面目で責任感が強く正義感のある優しい心の持ち主。困っている人を放って置けない性格。常に一歩引いた立ち位置で物事を冷静に判断出来る』といったキャラクターの設定をしているようだ。なので主人公の成長を見守るのと同時に『仲間の暴走を止めたりする』と言った役割があるらしいのだ。そして、もし、その役目を主人公が果たせなくなった時は『リーダー代理を務める』という大役を勤められる人物という設定にしているということだ。
ちなみに「勇者が居なくなってから、どのようにして彼が魔王討伐を果たしたのか?どうして彼が生き残ったのか?そして今、何処に居るのか、その理由と真相を彼に聞いてみてね。そして勇者から、なぜ「魔族の国で暮らしてみるか?」と言われなかったのかを聞いてみると良いでしょう』と、いう話である。つまり『魔王を勇者の代わりに倒しちゃったからだよ!』という話であるらしい。だが、それならば『勇者』と、まったく同じような存在を作れば良いと思うのが当然だと思うが『そんなことは絶対にしないからね』だそうだ。理由は単純で「そんな事をしたらゲームのバランスが崩壊してしまうじゃないか」ということだそうだ。まぁ確かに言われてみれば「それもそうだな」って納得してしまった。だから『勇者と似たような感じにしようとは思ったんですが「あまりにも似過ぎていて、それは違うだろう!」という結論に至り、こんな感じにしたんですよ』とのことである。なので「勇者を探そうと頑張っている」というのが『神様が考えたストーリー』であるのだ。だが俺にとっては、これはチャンスであった。なぜなら俺は「この世界の事について何にも分からない」からだ。それに「俺をこの世界に連れてきた神から聞いた話を総合すると『元の世界に戻れる可能性は0だと思っていた方がいい』と言われたばかりだしな」ってことである。そして俺はこの世界で生きていくと決めているので、まずは、それが出来るだけの「知識や情報」を得る必要があると思ったのだ。
そこで「質問をしてみよう」と思ったのだが「いきなり何を聞き出せば良いのだろうか?」と悩み始めたところで、ふと思いついた事があった。
『そうだな、まずは、あれを聞くか?『異世界の勇者の身体を借りる形で存在するかもしれない』と言っていたが、それはどういうことなのか?』というのである。なので早速『異世界の神』に尋ねてみた。そうすれば『う~ん、やっぱり「それを知りたいのですね。いいですよ』と言って教えてくれたのが『主人公を強くする方法を教えてくれないか』というのなら教えてくれたのだ。なので『じゃあ、その勇者って奴を探し出して会って見ろ』というのだから驚いたのだ。
そうやって教えられた通りに行動すれば「元の世界へ帰れるようになる可能性があるよ」との事だったのだ。しかも『ちゃんと「勇者が元いた世界」に戻る事が出来たらだけどね』って言うから本当にビックリしたのだった。どうも『そういう事が出来るようになる方法があるのです。だから、もしも勇者と巡り合うことができたなら『その時』は協力してあげて下さい』とのことである。
この『元の世界へ戻る手段を探す方法について』を尋ねるには、また「勇気がいった」のだが、それでも俺は聞くことが出来た。「勇者は、どこで何をしているんだろうな」なんてことを考えながら「何かヒントは無いものかな」と考えていた時「あ! 勇者は今、自分の故郷の村に帰って来てるみたいだぞ?」とか「その村の近くの街にある教会を訪ねれば会えるかもしれませんね。きっと、そこにいますよ」などと言う情報が舞い込んできたのだ。ただ『主人公を、その街に向かわせるかは自由です』との言葉も付いて来た。つまり「行かせなくても良いし、自分で勝手に行くことも出来るので、ご自由にお任せします。でも行っておいた方が良いと思いますよ」ということだな。この辺は、かなりアバウトなのだが、こういう風に選択肢を与えてもらえるというのは「ありがたかった」。なので俺は「ありがとう」と言いつつも『この世界での暮らし方について』『これからの自分の在り方について』も聞いてみることにするのだった。だって「この世界のことについて何も知らない」っていう状態で異世界生活をスタートするのは、流石に不安過ぎるからな。
ただ俺としては「俺の持っているスキルについては聞き出せたらラッキーだと思って尋ねたのだ」が『俺が異世界転移の際に得た能力は『ステータスの全て』では無く『一部の能力』です』とのことだ。つまり『ステータスを見れば、分かる内容では無いです。もっと詳しく知りたいのであれば【ステータス閲覧許可】が必要です。それを貴方に与えます。ただし「他の人間に見せてはいけない能力です。ステータス画面の内容を見てもいいかと思える相手とだけ会話する様に心掛けて下さい。それが無理だと分かった時には、その能力を封印することをオススメする』との事だ。『ステータスを見ても、そこまでの情報を入手できない』と聞かされて安心もしたしガッカリもしたのだ。しかし『勇者が居る街に向かう』というのが「正解なんだな」ってことも分かって、少しだけ気持ちが明るくなったような気もしていたのだ。ただ『主人公の故郷に行っても良いんじゃ無いでしょうか。たぶん勇者は、そちらの方向に行っているハズですよ。まぁ、あの子、結構方向音痴っぽいんで迷子になっている可能性は高いけど』ということだったので、その言葉を信じて向かうことにしたのである。ただ『もし勇者と会うことが有っても、俺が、ここに来ていた理由とか目的とか、その他もろもろのことを説明しちゃ駄目だよ。それは勇者にとって不利になるだけだからね。まぁ、とにかく、そういうことでよろしく頼むわね。勇者が困っている様ならば手助けして上げてね』と釘を刺されてしまったのだ。『勇者は、今頃、何してるんだろうな』と考えながらも「そろそろ寝ないと明日の朝がきついかも」と思ったので『今日のところは眠る事にしよう』と決めたのである。そして『俺は布団に入り込んで眠りについたのであった』。
◆ 翌朝 俺が起きた時には『神様の姿は無かった』。その代わりに手紙だけが机の上に置かれていたのだ。俺は神様からの手紙を手に取り開いて見たのだが、そこには――
【この世界に関する基礎的な説明】
1:主人公は「レベルを上げることが出来ないので成長が遅い」「HPが成長してもMPの成長速度が極端に低い」のでレベルアップの恩恵も受けられないので「普通の冒険者よりは遥かに弱く、すぐに死んでしまう」という設定にさせて貰うね。あと、この世界でも「経験値が手に入らないだけで、モンスターを倒して経験を積むことが出来なくなる訳ではありません」
2:"普通の人間"よりも寿命が長く「病気になりにくく怪我を治す速度が高い(体力回復速度が上昇する)」「身体能力が高くなる」という設定なので「長生き」が出来るようになっています。ただし老化速度は一般的な人間と同じぐらいの設定なので注意が必要だね。
3:"魔法"という特別な力を使えるようになるんだけど、これが魔法を覚えると魔力を消費する。そして消費すると『疲労』という形で現れ、そのまま魔法を使えば『疲労で倒れてしまう』という状況になるね。これは「魔法を覚えて直ぐに倒れてしまうほど弱い魔法使いが主人公だった」って事だからだ。まぁ、この設定に関しては「普通だったら『魔法を覚えたての人間が倒れたりする状況に陥る』と死亡フラグだから仕方ないよね。
あとは主人公が魔法を習得した場合の威力についてだけど『一般人と変わらない程度の威力しかない魔法』と『一般人が使えば即死してしまう様な高威力』との差は、こんな感じにさせてもらうね。1番最初に覚える魔法は「攻撃用の物では無く生活用の水が出る」だけの魔法と「敵を燃やす」だけの炎が灯った杖の二つを用意する。それで、その二つを使った場合に差が開く。この「1番目」の魔法の習得をすることで「2番目」に「生活用」の魔法を「4番目の火属性の魔法の発動体として使用する事で高火力を出せる」という状態になるのである。
4:主人公は特殊なスキルを持っており「どんな敵でも一撃で倒せる程の威力の有るスキルと、そうでない通常のスキルをセットで所持している」という形にして貰うね。ちなみに主人公の場合は【通常スキル『一撃必殺』『連撃の舞』】を所持している。
これらの事を理解しておいて欲しいのですが、もしも『これでは、あまりにも弱すぎる!』と思ったのならば「自分で自分を鍛えれば良い」と思いますよ?「それこそが『ゲームの基本』ですからね。それに「この世界に来てからの時間は現実の時間軸とは異なっている」から、そのあたりも含めて、じっくりと自分自身の強さを考え直して欲しい」とも思うのだ。ちなみに、この世界に来ている人間は全員「同じ時期に、こちらの世界で目覚めて生活を始めている状態だ」と、いう事を忘れないようにね。だから「他の仲間」と一緒になって強くなる事も出来るし、逆に一人で強くなることも、その人の自由だからね。その辺を踏まえて頑張ってくださいね』
なんて書かれていたのだ。なので俺は、まず『自分の能力を確認する為にステータスを見よう』と思ってステータス画面を開いたのだ。そして、そこに映し出されていた内容は――
◆ステータス◆ 名称
『 』
性別 男 種族 人間族 職業
『旅人Lv5』
年齢 20歳身長 165cm 体重 57kg 服装 旅のマント(赤)
旅人の服 腰帯 旅人の小袋×6 スキル
『 』
→『剣術 Lv8』→『二刀流 Lv7』
『格闘術 Lv9』→『打撃武器術 LV10』
(剣と素手での戦闘が出来る技能。拳での攻撃力上昇。素手の防御力アップ。打撃系のダメージボーナス有り。パンチ力の補正有り)
『投擲術 Lv5』→『投槍 LV3』(投げた時に槍を投げるのと同様の威力になる。さらに槍は回収できるものとする)
『鑑定眼 LV2』(様々な物品の価値が判別でき、アイテムの性能や効果も把握可能となる能力。鑑定する為の能力値も必要だが、その能力は「相手の強さによって変動しやすくなる」(=強い相手を見れば、それだけ能力も上がるが、弱い相手だと能力も下がるのである。要するに相手が「格下であればある程に」能力が上がりやすい。そして自分が「相手と互角」と思えるくらいの力を持った相手には能力が下がりやすくなり「勝てるか微妙なライン」だと思う相手には能力が上がって「余裕がある」という風に相手の強さが分かり易いのである。
『言語理解』→このスキルを持っている人は「すべての世界の共通語」を読み書きする事が出来るし会話もすることが出来る。この世界の文字を読む事が出来るという「便利さも兼ね備えているスキルだ」
◆
『ステータスを確認し終えた後で俺の身体の状態も確認してみるとしよう』と思ったので「ステータスの閲覧は止めた」のだ。そして自分の姿も「どう変化しているのか?」という疑問も湧いたのである。なので、そちらも見てみたのだ。すると俺の姿に変化は無い。いや、少し違うところもあった。髪の毛の色が「茶色に変わっていたこと」と「瞳の色が緑色になっていた」こと。この二点だ。
『まぁ、この辺は神様の仕業だろうなぁ』と思いつつも俺はステータスの確認を続けてみることにしたのだ。そして俺は、この世界での「俺が、この世界の事を、あまり知らない状況」で生活していく為に必要な事を把握していく作業を始めていったのである。「まぁ、こんな感じで良いかな。それじゃステータスを閉じるか。ステータスオープン!!」
◆ステータス◆ 名前
『ライナ』
性別
『男』
種族
『人間族 職業 旅人LV1+1(旅人)』
年齢
19 容姿 15歳の状態で転移してきた 身長 164cm 体重 55kg 装備一式 1:黒色のズボン(盗賊が履くズボン。普通の布地より軽い生地を使用している。丈夫さと動きやすさ重視の作りとなっているので頑丈である。しかし見た目が悪すぎて冒険者などからも馬鹿にされることが多い。ただ、ある程度のお金さえ払えば見た目も変えてくれる)
2:黒のコート(普通の旅人が良く身に付ける一般的なフード付きコート。特に防御性は高くは無いが耐久性はある。冒険者や行商人も普通に利用している物であり街の中でも普通に見かけることが出来る。ただ、この服の製作者は、あまり質が良いとはいえない品物を作ったらしい。なので見た目が非常に良くないのである)
3:黒い帽子
(一般的な街で被っているような、ただ頭に乗せるタイプの一般的な帽子。防御力とか実用性とかは皆無なのだが、見た目が少しは良く見えるというだけで「お金持ちが身に付けているような印象を受けるような気がしないでもない」そんな程度のものである。一応それなりに売れてはいるらしい。あと、これも職人が作ったものでは、ないらしい。でも「ある程度は売れて、ちゃんと利益が出そうなレベルのもの」を作るには、こういうものが一番向いているらしく。大量生産が可能なので大量に生産されていて「誰でも手に入るようなものになっているのが現状である」らしい。値段は100G(ゴールド。1円換算で約11g前後)
4:黒色の上着(普通の冒険者が身に着ける普通の上着。防寒用として機能しているが、そこまでの物ではない。しかし普通に使用する分ならば十分に活用できる程度の性能はある。安い。100G。ちなみに、そこそこ売れている。50g~70gぐらいで購入可能。つまり、この上着とズボンを買うだけで、それなりの資金を使う事になるが、それでも旅をしている人ならば購入する価値のある商品であると言える)
5:白のシャツと黒と灰色の中間色のベスト(この世界での冒険者がよく使用する服装の一つ。防汚効果が付与されているので「汚れが目立ちにくいように」という理由もある。見た目も悪くはない)
6:革の手袋(革製の手の平部分だけが金属で作られた手袋。防御力が向上されている訳ではないのだが「手を保護するためのもの」として考えられている。なので普通に使われる事が多いのである。値段としては300Gほどで売られている。これなら一般市民にも購入できる値段だし性能も良いので普通に使う分には特に不満もないレベルである)
7:茶色の長ズボンと白い靴下(この世界で普通に売って居るような長ズボンと白い靴下。防御力はあまり無いので防具としての意味合いは無い。しかし「寒さ対策の為の道具」「雨などで足が濡れない為の道具」といった役割があるので「全く使えないわけではない」のであった)
8:黒色の外套と青色と銀色のベルトと鞘付きの剣
9:赤色のリュックサック
10:黒色の小袋と銀貨が入った袋 ◆称号一覧◆
『旅人』『異界からの勇者』『聖女の使い』『神の御子』『神の加護を受けた少年』『異世界から来た少女の想い』
→『勇者』
⇒『旅人』『聖女』
『神からの使徒』
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
◆
『旅人と、その称号と称号の効果と職業の説明と能力値の設定を完了しました』
「あ、そうなのか?」
俺は「何かが頭に響いてきたぞ?」と思って思わず、そんな言葉を口にしたのだ。だが俺の反応を見てリリスさんが「あの、大丈夫ですか?」と言ってくれたので俺は「うん。もう落ち着いたから心配しなくて良いよ」と答えてから椅子に座っていた状態から立ち上がっていた。すると、そのタイミングだった。突然教室の壁が発光し始めて『ピカッ!!』みたいな音が響き渡ったのだ。だから俺は『何事だ?』と思ったわけだ。だって本当に壁の一部が『光っただけなのに、どうして壁に傷も付いていないのだろうか?』と、いう事を考えていたら俺達の足元に魔法陣のような紋様が現れて――
「おい! なんだ、これは!?」
なんて叫び声が聞こえたのだ。だから俺は、そちらの方に視線を向けた。そしたら一人の男性がいた。そして彼が見つめているのは窓のほうである。いや、違うな。窓ガラスがあるのは扉側のほうだけだし彼の目線だと「ガラスが有る方」ではなく「その向こう」だと思われる方向だ。そこには当然のように「草原が見えた」ので、そこで俺も気付いたのだ。『ああ、彼は窓の外を見ているんだな』と思って彼に向かって声を掛けようとした。
「貴方は誰なんですか? 一体何をしているん――」なんて質問を途中で辞めたのは「いきなり目の前に現れた」女性が「俺達の前に姿を現したからだ」。
その女性は全身を隠すような真っ赤な服を着ていた。そして腰まで伸びた長い銀髪が特徴の「美女」である。年齢は二十代後半か三十代の半ばくらいで肌は透き通るように白く綺麗で唇も赤い。瞳の色は青い色をしていた。顔も整っていて美人だと言える。そんな女性の右手に剣を持っていて彼女は「俺達に向けて剣を構えていた」のである。そんな彼女を見ながら天城は、俺よりも先に口を開いて彼女に言葉をかけていた。「待ってくれ。その女性も悪い人間じゃないんだよ」
そんな風に彼女が言うと彼女は剣を構えたままでこちらの事を睨みつけるようにして見ていたのである。だが彼女の口から出て来た言葉を聞いてみると――
「この男を殺させはしません。この男は、この世界の希望です。その未来を閉ざすようなことだけは許さない。絶対に!」
『え、ちょっと待って。意味が分からない。それに今の声、どこから聞こえてきたのか理解できないんだけど。いや、それ以前に、どういう状況で、こうなったんだろう?』と混乱し始めていた。ただ、そんな中でも「聖天使」は「冷静」な状態で行動していた。「貴殿は誰だ。私の『創造神様』に対して無礼だな。斬られたいか」と言い放ったのである。「な、ちょっ、私は女神で、貴方たちの味方ですよ」
「黙れ!! 私と、その御方の話を盗み聞きしようと画策する者が、どの口で「味方」だというのか!!」
「う、いや、確かに、そうだね。私が、悪かったわ。とりあえず落ち着いてくれないかな」
『あれ? いつの間にか立場が完全に逆転していないか?』
そんな風に思ったのだ。
◆ステータス◆ 名前
『ライナ』
性別
『男』
種族
『人間族 職業 旅人LV1+2(旅人)』
年齢 19 容姿 15歳の状態で転移してきた 身長 164cm 体重 55kg装備一式
1:黒色のズボン(盗賊が履くズボン。普通の布地より軽い生地を使用している。丈夫さと動きやすさ重視の作りとなっているので頑丈である。しかし見た目が悪すぎて冒険者などからも馬鹿にされることが多い。ただ、ある程度のお金さえ払えば見た目も変えてくれる)
2:黒のコート(普通の旅人が良く身に付ける一般的なフード付きコート。特に防御性は高くは無いが耐久性はある。冒険者や行商人も普通に利用している物であり街の中でも普通に見かけることが出来る。ただ、この服の製作者は、あまり質が良いとはいえない品物を作ったらしい。なので見た目が非常に良くないのである。ただ、ある程度のお金さえ払えば見た目も変えてくれる)
3:黒い帽子
(一般的な街で被っているような、ただ頭に乗せるタイプの一般的な帽子。防御力とか実用性とかごぼう性は皆無である。ただ、見た目が少しは良く見えるというだけで「お金持ちが身に付けているような印象を受けるような気がしないでもない」そんな程度のものである。一応それなりに売れてはいるらしい。値段は100G(ゴールド。1円換算で約11g前後)
4:黒色の上着(普通の冒険者が身に付けている普通の上着。防寒用として機能しているが、そこまでの物ではない。しかし普通に使用する分には十分に活用できる程度の性能はある。安い。100G。ちなみに、そこそこ売れている。50gollほど。つまり、この上着とズボンを買うだけで、それなりの資金を使う事になるが、それでも旅をしている人ならば購入する価値のある商品であるといえる。大量生産が可能)
5:白のシャツと黒と灰色の中間色のベスト(この世界での冒険者がよく使用する服装の一つ。防汚効果が付与されているので「汚れが目立ちにくいように」という理由もある。見た目も悪くはない。安い。100G。これなら一般市民にも購入できる値段だし性能も良いので普通に使う分には特に不満もないレベルである)
6:茶色の長ズボンと白い靴下(この世界で普通に売って居るような長ズボンと白い靴下。防御力はあまり無いので防具としての意味合いは無い。しかし「寒さ対策の為の道具」「雨などで足が濡れない為の道具」といった役割があるので「全く使えないわけではない」のであった。値段としては300Gほどで売られている。これなら一般市民にも購入できる値段だし性能も良いので普通に使う分には特に不満もないレベルである)
7:赤色のリュックサック
8:黒色の小袋と銀貨が入った袋 ◆称号一覧◆
『旅人』『異界からの勇者』『聖女の使い』『神の御子』『神の加護を受けた少年』『異世界から来た少女の想い』
→『勇者』
⇒『旅人』『聖女』
『神からの使徒』
→『旅人』
→『旅人』『異界からの勇者』『聖女の使い』『神の御子』『神の加護を受けた少年』『異世界から来た少女の想い』→『旅人』『異世界からの訪問者(迷い込んできた者達)』
→『異世界からの旅人』
◆◆◆◆◆◆
「あ、待ってください」
そんな感じで声を上げたのが、この国の第一王女である「リリス」だ。彼女は、こちらの様子を見守るようにして見守っている聖天使様の方に近付く。聖天使様が座っている机の上に両手を乗せると彼女は彼に話しかけたのである。「聖天使様、申し訳ありませんが『あの』御方を拘束する許可を頂けませんでしょうか?」「え、あ、うん。良いけど、一体どうして?」
「あの者は、どうやら『私達の事を見抜いて』います。このまま放置しておくわけにはいかないのです」
そんな言葉を口にしていたのだ。俺は『ん?』と思っていたが「聖女」であるリリスさんの言葉を受けてから聖天使が「なるほど。確かに『そうですね』」なんてことを口にしていたのである。そして俺の方を見た彼女は言った。「ライナ、君は本当に不思議な力を持っているようだ。だけど『それだけじゃない』」
聖天使は「ニヤッ」と笑いながら俺の瞳の奥を覗き込むように見て来る。そして俺の目と彼女の目が合った時だった。俺は『なんか体が動かないぞ?』と思ったのと同時に意識を失ってしまう。
気が付いた時にはベッドの上で寝転がっていたのだ。起き上がると「うー」みたいな変なうめき声をあげていたのは言うまでもなく俺自身である。俺は自分の手を持ち上げて確認すると腕に刺青があった。そして首筋を見ると『聖天使様の印がある』のが分かる。そこで俺の顔は真っ赤になる。俺は「やばいな」と思ってしまい頭を悩ませることになったのだ。そんな状況で部屋の扉がノックされる。そして扉が開かれると、そこには天城が立っていた。彼は「大丈夫か?!」なんて言葉をかけてきた。俺は慌てて「大丈夫だよ」と答えようとしたのだが「全然駄目だ」と思い知らされることになる。
天城は、かなり慌てた様子で駆け寄ってくると――
「無理をするな! 顔が赤くなって、汗が出てるじゃないか! ほら、これで冷やしてやるからな」
「え、ああ、うん。その、ごめんね」
『う、でも正直、今はそれどころじゃないよな。それに「顔が赤い理由」を説明することが出来ないから、これはもう「謝り倒す」しかないかな』
俺のことを本気で心配してくれる彼に対して「悪いことをしたかな」とは思うが仕方がないと思う。だって今現在「顔が赤い原因」を説明したとしても「何を言ってんだ」みたいに思われる可能性もあったから。それにしても「天城は相変わらずだ」とか「こんな時に何を考えてしまっているんだよ、俺」なんてことを考えながら苦笑を浮かべてしまうのだった。
ただ天城の方は「まったく」と言ってため息を漏らす。「俺が来た時は驚いたぜ。お前に何かが起きたのかと。しかも、いきなり倒れるしさ」と。それから天城は「まぁ、その、なんだ。今は気にしなくていいんじゃないか? とにかく安静にしてろって。それにさっきの聖天使様に事情を聞いたんだよ。だからさ『後で話を聞かせてくれればいいから』とりあえず今は休んでくれ。それじゃまた来るから、その時にでも話してくれれば」と。天城は部屋を出て行くのであった。その言葉を聞きながら、ふと俺は思ったのだ。「この世界に、聖天使以外の天使がいるのは知っているが『聖女』と呼ばれる存在もいる」という情報を思い出していたのである。その瞬間、先ほどの聖天使との出来事を思い出したのだった。
『聖天使の印』
それは聖天使が「気に入った」相手にだけ与えることの出来る『印の力』である。ただ、それを『聖女の使い』でもある『リリス』が手にしている。『聖騎士』の職業についている「リリア」に『女神の祝福』を与えていることから考えても『彼女達も同じような立場にいる』と考えられるのではないか。
『リリア』の職業が『聖騎士団の騎士』だったことや『聖女』の存在。
聖騎士と魔法使いも似たような関係だと考えると、『聖女と聖女の使いのリリスさんも、そういった関係』と考えて間違いはないはずだと。ただ問題は「なぜ『この国には三人の聖女』が存在するのか?」ということだった。普通に考えれば、一人いれば十分だと思えたからである。そんな風に思いながらも「まぁ、別に問題は無いか」と結論を出した。そもそも聖天使が目の前にいたせいで色々と混乱していたが、冷静になってみると俺は聖天使に助けられている。『異世界』に来て早々「殺されかけていた俺の命を救ってくれたこと」だけでも「恩人だ」といえるだろう。なので俺自身は感謝しているのだし、その気持ちに嘘は無い。ただ『少しの間だけで良いから考える時間が欲しいな』と思っていたのである。しかし――「ライナ、入るわね」
「うおぉ!?」
急に声をかけられたことで驚きの声を上げることになる。ただそんな声を上げた後に「あっ、クレアさんだ」という事に気付き安心する。ただ同時に「なんでここにいるのだろうか?」とも疑問に感じてしまったのは当然のことである。だが俺が、そんな疑問を感じるのと同時ぐらいのタイミングで聖女であるリリスが部屋に入ってきたのだった。
彼女は、この国に『三人』存在する『聖女』の一人である。この聖女は、とても可愛らしい容姿をしていた。そして性格も優しく真面目な性格をしている女性で聖女らしい。彼女は俺の方に視線を向けるなり、ニコッと笑う。「おはようございます。調子はいかがですか?」という言葉と共にだ。俺は戸惑いつつも「はい。ありがとうございます」と答えるしかなかった。「あ、あと、その、助けていただき、どうもありがとうございます」と。そんな感じでお礼を口にしたのだ。
「そんなに感謝されることではありません。それよりも、あの者は一体なんなのですか? あなたと一緒で普通の人ではないですよね?」
「えっ?」
「あれは人間という生き物では、ありませんよね」
リリスは、そう口にしたのと同時に鋭い目をしていたのである。彼女は明らかに「敵を見る目」で天城を睨んでいたのだった。そんな彼女に「待った、違うんです」と言うが聞いてくれないかもしれないと思ったが、それでも俺は言わずにはいられなかったのであった。しかし、そんな俺を見て、すぐに聖女であるリリスの方も「失言しました。申し訳ありません」と言いつつ深々と頭を下げてくるのである。そして彼女は「聖天使様に『ライナさんのことを監視するように』言われていましたので、勝手に見させてもらいました。それで分かったのですが、あの方が特殊な方なのは一目瞭然です。そして、ライナさんがあの方に害を及ぼす存在ではないと分かり、ほっとした次第です」と。
聖女様は俺を信用してくれるようで一安心する。だが「でも、どうして聖天使様は俺のことを知っているのだろうか」と考えると頭が痛くなってしまうのも事実だった。俺は聖女の使いであり聖女でもある『聖女』であるリリスの方を見ていたのだ。そして「やっぱり気になります」と口にしようとした時である。部屋の扉がノックされ、一人の人物が入って来たのだった。「うおぅ!」
俺達は声を出す。
そんな風に声を出していた理由は、やって来た人物が「聖天使だったからだ」。彼は、こちらの状況を確認してから「元気になったようですね」と言って微笑みかけてきた。その表情を見やっていると『なんか聖天使って良い奴なんじゃないか?』なんて思ってきてしまうから不思議なものだった。俺は彼に、こんな質問を投げかけてみることにする。
「えっと、一つ教えて欲しいのですが」
「なにかありましたか?」
「あ、いえ。そうではなく、えっと、その、この国に三人の『聖女』が居るという話を聞きまして」
「はい。それが、どうしたのですが」
「そのことについて、どうなのかなって思いましたので」
「ああ。そうですね。まず最初に説明をしなければなりませんが『聖女様の使命』は大きく分けて三つあります」
「三つか。なるほど」
『この世界の『魔王軍の脅威』を排除するために勇者を導くこと。それに『大精霊神教』を布教して信者を集めること。そして最後のは、どういったものになるんだろう?』
俺は「んー」と考えていた。
すると聖天使が口を開く。
「最初の二つは理解できると思いますが、最後の一つについては難しい話になるでしょうね」
『聖天使にも分からないことがあるのか』と、ふと思ったりしたが、そもそも聖天使と話をしたこと自体が「初めてのことだったから」当たり前の話なのだが――まぁ、それは置いといて。とりあえず俺は彼が言っていることが分からなかったのだ。なので俺は、聖天使に対してこんな言葉を発していた。
「聖天使は、この世界を『救うことが出来る』のかな」と。
聖天使は「もちろん」とでも言いたげな笑みを見せる。その瞬間だった。俺の隣に立っていたクレアさんが『聖天使の事を警戒するかのような態度をとった』のが目に映る。そんな様子を確認したからか聖天使の笑顔が消えてしまうのだ。それから「な、何をいきなり言うんだよ。ライナ! まさに、そういうことを話し合うために僕が来たんだよ! 君を助けたのだって僕の善意によるものであってね! それにさっきだって僕は必死になってライナの事を助けようとしたんだよ! それなのに、どうして僕を疑うんだい?」などと口にしてきたのだ。そこでようやく、俺は自分の言葉が「聖天使のことを追い詰めるような発言になっていたのだと気付かされるのだが、後の祭りだった。しかし俺は慌てて謝罪を口にしてしまう。ただそれと同時に聖天使のことを信じることにする。
だって彼からは嘘を感じ取れなかったし、なによりも聖天使に対して疑いの言葉をかけてしまっている現状が嫌だと感じたからである。だから俺は、聖天使に向かって「すみませんでした」と謝ることにした。そして「信じますから、どうか怒りを収めてください」と言った直後だった。聖天使は「いいや。君のその発言を聞けば当然の反応だよ」なんてことを言い出したのである。
「どういうことですかね」と俺は尋ねた。すると「君は勘違いしているみたいだけど、さっき言った『最後の一つ』の話は、まだ誰も達成していないんだ」なんて言葉が返ってくるのであった。その言葉を受けて『そうなんだ』なんて感想を抱いてしまうのは当然である。ただ同時に「聖女が『三人』存在するのは、なんでなのだろうか?」と思ってしまったのも当然の流れだろう。
ただ『俺には関係のないことだろうな』と考え、そのことを口に出すことはなかったのだった。俺は『この世界に来たばかりの新参者だしね』と思いつつ、俺が倒れていた時の状況を聞いてみることにする。だが聖女が、俺に近づいてきて耳元でこんな声を発した。
「ライナさんは私が『聖騎士団に所属する騎士の一人』だと思われたのですよ」と。
その声色と吐息が、俺には妙にエロく聞こえてドキドキしてしまったのだった。そして俺は「それは凄い」という素直な感想を述べる。そんな俺を見て聖天使が苦笑いをするので「聖天使様が聖女だと思われているのなら納得ですよ」と言い返す。すると「そっちじゃないよ!」なんてツッコミを受けてしまい『なにか間違っていたか』と思うことになったのだ。ただ、それは間違いではなかったようで「実はライナが思っているとおりに僕は聖女の使いなんだけどね」と聖天使が口にする。しかし俺は「でも聖女が三人いるわけでしょ?」なんて言葉を返してしまった。聖天使は、そんな俺を見て「そうだね」とだけ答えてくれたのである。
その後すぐに聖天使はリリスの方に視線を向けた後、こんな提案を行ってくる。
「ライナの実力が知りたいので模擬戦をしましょうか」と。
俺とリリスが「え?」と驚きの声を上げる中、聖天使はリリスに剣を渡していた。リリスが受け取った剣を見ながら困惑顔になってしまう。俺もリリスと同じような気持ちだった。
そしてリリスが俺の方を見やる。そんなリリスに対し聖天使が「リリスは剣術に関しては天才的な才能を持っているんですよ」なんて声をかけてくれる。しかし、それを耳にしても『なぜ俺と手合わせを行う必要があるのだろうか?』という疑問は解決されなかったのである。
俺達が戸惑いの表情を浮かべたまま固まっていたら、今度は聖天使がリリスの手から武器を取り上げるのだった。そして「これを使ってみて下さい」と言いつつ、俺に手渡してくるのである。俺は何も考えず、そんな彼の行動を黙って見つめているだけだった。そんな俺とは違い、クレアさんは即座に「これは、あなたが使うための物なのですか?」という質問をしていた。その問い掛けを聞いた聖天使は「いえ。この剣は僕の力の『一部』を宿したものなんです。ですから僕以外の人間でも扱うことは出来るのです」と答えたのである。聖天使のそんな返答を聞く限り「やはり彼は『神の力の一端』を所持しているということだな」と俺は理解できた。ただそんなことを頭の中で考えるよりも先に俺はリリスに声をかけたのだ。「あの、本当に戦うつもりですか?」なんて言葉を――。
しかし俺が声をかけるのと同時に、聖天使もリリスに語りかける。「では、まず最初に軽く攻撃をぶつけ合いながら、お互いにどのような人物なのか探ることにしましょうか」などと言いながら聖天使がリリスに向けて微笑みかけた。その笑みを見てリリスも笑顔で「よろしくお願いします」と答えてしまう。そして「ライナさんも一緒にやりませんか?」と誘ってきたのだ。そんな彼女の声を聞きながらも、クレアさんの方を見やったのである。彼女は聖天使のことを見据えるようにしながら俺に話しかけてくる。
「私は見守ることにさせていただきます。この国には聖天使様に敵対するような勢力は存在していませんが、それでも万が一の場合を想定して、私が立ち会うことになっていますので。もちろん何か問題が起きた時には助けに入ります」
クレアさんの口から放たれたのは、そんな言葉である。俺は「分かりました」と口にしてから、リリスに目線を移すことにした。すると彼女は俺に向かって小さく「ライナさんが本気を出すと殺しちゃうかと思ったので」なんて言葉を向けてきたのだった。そして俺は「えっと」という言葉を発してから『そういえばこの世界に飛ばされた初日に俺はリリスに本気で戦っていたんだった』と、そんなことを思い出していた。その戦闘は、なんとか俺の勝利で終わったのだが、その勝利に『なにかしらの細工』が施されている可能性がないとは言えないだろう。それに、なによりもこの『聖天使の力を使える』と思われる男と戦うのは危険な気がしてならない。『勇者の敵となる可能性があるからなのか』それとも単純に強いからなのか。
「分かった。じゃあ、とりあえず軽く勝負をする感じだね」
そう口にした俺は聖鎧を身に着けると、『光の柱』の能力を発動した。そしてリリスから借りた剣を構える。ちなみに俺の手に持っているのは、俺が作った『聖属性の剣』だ。『闇を斬り裂くことが出来る剣だから』という理由で名づけたが「ちょっと、ふざけすぎじゃないかしら?」とか言われてしまった代物である。だが今はそんなことを思い出してる余裕は無い。俺は『この剣が聖属性を纏うのならば、相手の能力がどんなものであれ『斬ることができる』はずだ』と思いつつも聖天使に向かって踏み込むのだった。
『今の俺に、どれほどの攻撃が可能かは分からないが』と思いつつも『光の聖剣を振りかざして、目の前にいるリリスに向かって駆け寄ったのである。その動きを見て聖天使が反応を見せたが『遅い!』と心の中で叫んだ瞬間、聖剣がリリスに襲いかかりそうになった。しかし『聖天使』を名乗るだけあって聖天使の動きは非常に速く、そして俺と彼の間には大きな実力差があるのは一目瞭然だと思ったのだ。だから俺は、そのまま振り下ろすのではなく聖天使に牽制するように突きを放った。その結果、聖騎士が持つ『光の騎士』としての特性が発動され、刃が輝き出す。
直後だった。
まるで俺が放つ全ての攻撃を防いでいるかのような錯覚を覚えるほどスムーズな動作で剣を横に薙いだリリスがいた。次の瞬間に強烈な衝撃に襲われてしまい体が吹き飛ぶことになった俺。しかも空中で回転しつつ地面を滑ってしまうほどの威力だった。地面に激突する直前になってようやく勢いを止めた俺であったが――その体はボロボロになっていた。
『くっそ! ただの一合でこの有り様だと!?』なんて思いつつ立ち上がった俺の口元からは鮮血が流れ落ちることになったのである。そして視界に入ったリリスの姿を見ると「あれ? さっきまでと雰囲気が違う」という印象を受けるようになっていた。そんなことを思ってしまっていた俺は『さっきまでのは、わざと力をセーブしていたというのか?』と焦ってしまったのだ。そのせいか「なにが起こったの?」みたいな言葉を発することになったのである。すると聖天使が「さすがは聖騎士といったところですね」と言葉を漏らす。するとそんな聖天使を見て、聖騎士の一人が「まさか、そこまでの力量があるなんて、さすがに思っていなかったですよ」なんて感想を口にしていたのである。
しかし俺はそんな聖騎士団達の話を気にしている暇は無かった。なぜなら「次は、もう少し力を抑えてお手柔らかにしてあげようか?」と、そんな言葉を発したリリスに対して『今、リリスは何て言った?』と思うことになったからである。そして『力を抑えるだって?』と声にならない言葉を発する俺の前で聖騎士達が構えを取ると聖天使が言葉を放つ。それは先程の俺が聞いた『最後の一つ』についての話だった。
「ライナは僕が聖女三人を所有していると思っていましたが、違うんですよ。正確には聖女三人ではなく、聖女三柱なんです。僕と、この『光の騎士の神器ホーリーソードマスターの使い手、聖女の三姉妹』こそが三人目の聖女です」
「聖女が、三人いる?」なんて疑問の言葉を発したのは、もちろん俺である。だがそんな俺に対し「その通りです」なんて答えを聖天使は返すのだった。ただ「でも三人とも容姿が全く同じだし」なんて俺は言ってしまったのである。するとリリスが一歩前に出て俺を見つめて微笑みかけてきた。そして「聖女の力には特徴があって、見た目を偽るなんて容易いことなんだよ」と口にしたのである。
その言葉を聞いたことで『確かにそうだな』と納得しかけたが『そもそもなんで聖天使が、そんな重要な情報を簡単に喋っているんだ?』なんてことが頭の中によぎった。しかし、その思考は途中で中断させられることになる。俺とリリスの間に、またしても聖天使が割り込んできたからだ。そんな彼の顔を見たら俺は「あぁ。そうか」と思うしかなかった。『ライナとリリスの勝負を中断させる理由があったので介入してきたのか』なんて思ったのである。つまり『それだけライナとの実力に差が存在しているということか?』なんてことを考えながら再び聖天使の方に視線を向けると彼はこんなことを口にしたのだ。
「さてと、僕の実力をライナも分かってくれたところで改めて手合わせをしてみましょうか」
聖天使は微笑みながら、そう言い放ったのである。
その声が響いた途端、クレアさんがリリスの肩に手を置くと後ろに下がらせていた。そして彼女は「あなたが本気を出してしまえばリリスさんは確実に殺されます。ですから本気で戦わないでください」という忠告のような言葉を告げる。しかしリリスはそんなクレアさんに反論するように声をあげた。
「大丈夫だよクレア姉ちゃん。だって、あのライナって人、全然強くないもん。本気を出したとしても、きっと私の足元にも及ばないはず。それなら問題なく勝てる」なんて言葉を彼女は口にする。そんなリリスを見ていたら「本当にそうなんですかねぇ?」と聖天使が首を傾げてしまう。その表情からは彼が何を考えているのか全く読み取ることが出来ないのであった。しかし、その発言を聞きリリスは「なにか根拠が有るんですか?」と質問してしまう。
その質問を受けて聖天使が笑いながら「そうですね。まあ実際にやってみたら分かりますよ」なんてことを言うのだった。ただ「私も見てみたいから、私達も戦うね」という言葉を続けた聖天使。そして「じゃあ僕達は後ろで見守るから、頑張ってねライナ君」と言って聖天使は仲間を引き連れて後方へと移動してしまったのである。その光景を目にした俺は「あちゃー」という言葉を口にして苦笑したのだ。
「あのままじゃリリスと戦うしかないじゃないか」
「ふふん。いいじゃないですか。どうせ戦わなきゃいけなかったんでしょうから」
俺のつぶやきを聞いて楽しげに笑みを浮かべたリリス。彼女は「それでは戦いますか」と呟くと光り輝く鎧を身に纏うと、背中に白い羽を展開する。そして俺に視線を合わせると「本気でやりあいましょう」なんて口にするのだった。その声が響き渡るのとほぼ同時に俺は駆け出していた。しかし駆け出した直後、リリスの姿が俺の視界から消える。その直後『ガキンッ』という激しい音が聞こえてきて、同時に衝撃を受けた俺は大きく吹き飛ばされてしまったのである。『ぐあっ!』という俺の声と共に『光の柱』が発動されたようで地面が輝きだすと聖属性が発動され俺のことを回復し始めたのだ。
しかし、すぐに俺の前に姿を現わし俺に追撃を仕掛けようとしてくるリリス。彼女の手にしていた剣は眩しいばかりの輝きを発しており『まずいな。聖属性を宿している』と思った俺は『なんとかしないと』という思いから『光の槍!』という言葉を叫んだのである。
次の瞬間だった。リリスが右手を突き出してきたのだが、そこに光が集束していく。そしてリリスの手のひらから発射される光弾を視認できたと思った時にはもう、俺はリリスから光撃をくらっていた。
俺に向かって高速で放たれた光撃をどうにか避けようとした俺だったが『光柱』の効果のせいで思うように動けず直撃を受ける。すると、その威力で俺の体が大きく後方に吹き飛ぶことになった。だが空中で体勢を立て直すと『闇魔法!』という叫びと共に漆黒の盾を複数展開すると『ダークウォール』と叫んで光の壁を闇属性の闇に変換させて盾として展開したのだ。その直後だった。今度は無数の光線が飛んできた。その攻撃を見て『聖属性を光に変換しているのか』と考えた俺。しかし聖属性と闇属性をぶつけ合った場合、相殺できると俺は判断すると、リリスの攻撃を全て受け止めることにしたのである。その瞬間に『ドンっ!』と衝撃を感じた俺は吹き飛びそうになるが、必死に耐えてみせたのだ。すると『まだまだですよ!』という言葉と同時に、俺の視界に一瞬で近づいてくるリリスが映る。その行動に驚いた俺。『まさか!?』なんて言葉を口にしながら『闇を切り裂く剣』を振りかざそうとした時だった。突然、聖天使がリリスに声をかけたのである。
「ストップ!」
リリスに言葉をかけた聖天使に俺は思わず目を奪われてしまっていた。というのも聖天使が、とても慌てた様子でリリスのことを止めに入ったように見えていたからである。そんな彼に話しかけられたリリスの動きが完全に止まってしまうと――聖天使は、こんなことを口にした。
「やっぱり無理だ! これ以上戦ったら死んでしまう! というより僕には彼女を殺すことができない」なんて言葉を聖天使は漏らしたのである。
その発言を耳に入れて動きを止めたリリス。すると、そこで俺の意識は途切れることになった。聖天使の発言の直後に気絶し地面に激突した衝撃が俺を襲ったのである。そんな俺の体にリリスの『ホーリーソード』による一撃が入るが、その一撃によって完全に気を失ってしまうのであった。
*
* * *
ライナが倒れてから少し後のことだった。聖騎士の一人であるアルブムは『どうしてこうなったんだろう?』なんて考えながら頭を抱えてしまう。その横には先ほどまでリリスと手合わせをしていた少年が立っていたのだ。そして「とりあえず僕の勝ちですね」と言い放った聖天使に対して彼は『そうだね』としか答えることができなかったのである。なぜなら、そんな聖天使は、リリスがライナを吹き飛ばした時点で『もう終わりだから、これぐらいにしてあげてくれないかな?』なんて言葉を発したからである。
それから聖騎士達が慌てて駆けつけてくるのを確認すると『この場は引き下がってくれませんか?』と聖天使は口にした。その提案を聞いたリリスは、その提案に乗ることにし『ライナと戦える日を待っていますね』と聖天使に向けて言い残すと、そのまま消えてしまったのである。そんなことがあったのだとアルヴは聖天使から話を聞いていた。ただアルブが話を聞き終えた後もリリスの話題が続くことはなかったのだった。
そして、そんなリリスが消えたことで聖天使はアルブ達にこんな説明を始めたのである。
リリスの正体についてですが、僕と同じ転生者です。
ですが僕の知っている人物ではなく別の世界の人物でしたので、僕の能力を使うことが出来なかったんですよ。
それで僕の持っている能力の一つに聖女の力がありまして。
それをリリスも所有していましたから『もし、ライナと戦ってもらうとしたなら』と彼女に手合わせを申し込んでみました。
しかし結果は僕の負けです。ライナさんを、あれだけ痛めつけたリリスさんの実力は本物ですね。
ただ、僕の方でも聖女を一人捕獲することが出来ました。これで僕は三人目の聖女を所有したことで『聖女の三姉妹』を所有することに成功したんですよ。あと、もう一つ分かったことなのですが。聖魔人の居場所は聖都に存在しているようですね。おそらく聖女は三人だけではなく、他にも存在していそうな気配でしたが、そちらは残念ながら分かりませんでした。
と、ここまで説明した聖天使は微笑むと、さらに言葉を続けてきたのである。
ちなみに聖魔人は僕の予想通り『三人目の聖女の持ち物である聖鎧アスカロンの所有者でもあるみたいですよ』と。それを聞いて「それは本当なのか?」と疑問の言葉を口にしたのは聖騎士長であるクレアだった。
そんなクレアに「本当ですよ」と笑みを見せた聖天使はさらに続ける。「それにしても同じ聖属性を持っているはずなのにライナ君とは、あまり似てなかったような気がしますけどね」
と。そんな言葉を続けて口にするのであった。その言葉を聞いたクレアが質問をする。
「そうか。まあリリスと戦わせてもらったお礼に答えてくれるなら聞きたいことがある」
「いいですよ。なんでも聞いてください」
「お前は『聖鎧アスカロン』を所持しているというが。それが聖魔人の元に運ばれることは間違いないのか?」
その問い掛けに対して聖天使は『はい。間違いなく届けられるでしょう』と返事をした。それを確認したところで聖騎士長である彼女は、さらなる質問を行うことにしたのである。
「そうか。なら最後に聞くが。聖女様が聖魔王様に奪われるのは構わないという事か?」
その言葉を耳にした途端に、今まで笑みを浮かべていた聖天使の顔が真剣なものに変わったのである。
その表情の変化を目の当たりにした聖騎士長であるクレアは『やっぱりか』と思う。それと同時にライナにリリスのことを頼むために聖天使に伝言を頼みたかったが、今はそれすら叶わないかもしれない状況に陥っている事に歯噛みしてしまう。
「あなたは僕が聖魔王側についていると考えていますね? 僕がライナ君の敵側につくことはありえませんよ」
その問いかけに対して聖騎士長は首を縦に振って見せたのだ。その行為を見て、聖天使も納得できたらしく、それ以上追及することはやめた。そしてリリスと戦わせたことについてのお詫びをすると、その場を後にしようとしたのだった。だが、そのタイミングで『ちょっと待て!』と大声を張り上げる者がいたのである。その声に反応するように聖天使は立ち止まり振り返った。その先にはライラの姿があったのだ。
その声の主がライナの姉であり『聖騎士長』という立場に立っている存在だと認識しつつも、聖騎士達は身構えてしまった。すると聖女の一人である聖魔人が姿を見せると聖魔人に話しかけるのである。
聖女は二人しかいないと思っていたが、ここに聖魔人も居たのですか。
と、そこでライナは「おい! ライナをどうするつもりだ!」という言葉を口にしながら聖天使の元へ歩み寄ってきたのだ。そんな彼を見て聖天使は「まだ生きていたのですか。本当にしぶといですね」という言葉を口にするとライナのことを見やり「ライナ君は、どうしようか。このまま死なれたら面倒だから助けておくべきかな?」と口にしていた。そんな聖天使に向かって、ライナは言葉を続ける。
「俺は聖女じゃないが『聖魔人の所持している聖具は俺のモノ』だ。つまり、俺が聖天使と戦うのを止めることは出来ないだろう」と、そこまで言うと彼は「だから俺は、これからリリスと手合わせをしてくる。聖天使! 聖女との聖魔王との戦いが始まるのは数日後のことだぞ。忘れんなよ!」と言い残しリリスの元に向かうのであった。
ライナに『リリスの相手をしてきて』と伝えたのが数時間前のことだった。
リリスとの戦いで気絶させられたライナだったが『闇魔法の使い手が相手なら』と俺はリリスにお願いすることにした。するとリリスの方も乗り気で了承してくれた。しかし聖騎士の一人が『俺達では聖女との手合わせなんて不可能だよ』と泣き言を言って来たので『僕に良い考えがある』なんて言葉をかけてみせたのだ。すると俺が『どんな考えなんだ?』という風に尋ねると『実は僕、ライナさんと約束したんですよ』という言葉が返ってくるのだった。
その発言が嘘だということはすぐに分かる。だって聖天使には聖女の『聖剣エクスカリバー』と『聖鎧セイクレッド』を『ライナ=バルトルの所有物にする』という権利を与えていないからである。聖魔人であるリリスが所有者になったのに『所有権を奪うことが出来る!』とか『所有権を譲ることができる!』なんて言葉を口にしたら絶対に怪しいと俺は判断していた。だから『何を言っているんだ?』なんて感じに返すと、そんな発言をした聖天使は『いえ、特に意味は無いですよ』と、ごまかすような笑顔を見せるのであった。
聖天使がライナに『リリスと戦え』と言った理由は何となく察することができた。
聖女と聖魔人を戦わせる。これは聖魔王の企みだった。聖魔人は聖女の所持する『聖具』に憑依することで力を増していくのである。それ故に聖魔人を手に入れるためならば聖女の命なんて気にせずに戦いを挑んでくる可能性もあった。だからこそ聖騎士長は俺とライナに手合わせを行ってもらいたいと考えていたのだが、その手合わせ相手が聖女だと聖天使が知っている以上、彼は俺がリリスと手合わせを行うように促すしかなかったはずだ。
そんなことを考えながら俺とライナと聖魔人の三人はリリスが待つ聖天使の部屋を訪れたのである。
* * *
* * *
* * *
* * *
部屋の中に足を踏み入れた瞬間――『お兄ちゃん!』という言葉がリリスの口から発せられた。そんなリリスはライナの姿を見て嬉しそうな表情を浮かべていた。ライナとリリスの二人は顔を合わせるなり互いに抱き合い、再開を果たしたことを喜び合った。そして二人が抱きしめ合うのを確認すると聖騎士長は口を開く。
「聖天使様。リリスは私にこう言いました。『お兄ちゃんとの約束を果たしにきた』と」
その言葉を聖天使は黙って聞いていたが、そんな彼の前にライナとリリスの兄妹が姿を現す。二人の登場により聖天使の雰囲気が変わる。
「聖騎士長様から事情は聞いています」
リリスがライナに語りかけると、ライナも彼女に返事をする。
「聖騎士長が?」
ライナが聖騎士長の名前を耳にして驚くと、リリスが『うん。ライナ君をよろしくね』と言うのであった。その言葉を受けた直後、今度はリリスが俺のことを睨みつけるとこんなことを伝えてきたのである。
「それにしてもまさか聖女である私を倒せるような男が現れるなんて思っていませんでしたけどね」
そう口にすると聖魔人こと、聖天使とそっくりの少女が姿を見せるのであった。そして聖天使と同じように笑みを向けてくる。しかし俺は、この少女が『リリス』だと一目見ただけで気づくことが出来た。何故ならリリスとは何度か会ったことがあったし『真意の瞳』の力を使えば簡単に見分けることができるからだ。
だが、それにも関わらず、すぐにリリスが聖魔人だという事実に気がつかなかったのは、リリスに宿っていたはずの聖天使の力が『消えている』としか表現のしようがない状態だったからであろう。
そんなリリスの姿を目にした聖騎士長のクレアが言葉を漏らす。
「聖魔人はリリスだったんですか?」
そんな彼女の問いかけに聖魔人が笑みを見せて「はい。私が『リリス』ですよ」と答えたのであった。
リリスの返答を聞いてクレアは「なるほど」と納得する。その様子を確認した後、聖天使は再び聖女である『リリスと向き直り』「じゃあ僕は、もう行くね」と言葉を残す。そして聖女に別れを告げると聖天使は部屋から出ていく。その際「僕とライナ君が手を組むことはありえないですけどね」という言葉を残していくのであった。
リリスが「どうして?」と疑問を口にすると聖天使は『勇者は一人で十分』と口にしてから部屋を後にしたのである。その言葉の意味が分からず俺が首を傾げてしまう。そして聖天使の言った言葉の真意を聞こうとする。すると聖天使の言葉が俺に届いた。
『ライナ君は僕の物なんだ。僕だけのモノなんだ』と。そんな聖天使の声を聞きながらリリスが言葉をこぼした。
「ライナは誰にも渡さないわ!」と――
* * *
* * *
* * *
その後。俺達はリリスの提案を受けて二人で訓練を行っていた。その内容は模擬戦だったのだ。それも真剣を使用した命の取り合いである。もちろんそれは、聖天使に頼まれたことではなくて、リリスの頼み事によるものであった。リリスは『聖騎士様がライナさんと一緒に居る時は常に危険に曝される可能性が高いのですよね?』と、その事を告げてから、このような提案をしてきたのだ。だから俺は「別に構わないぜ」と言ってしまったのだ。
俺は聖魔人と戦っている時に何度も思ったことがある。もしもリリスと本気で戦える日が来たら楽しいだろうと、そして実際に俺はリリスと戦えたことに満足感を抱いていたのだ。だからリリスと戦うことが決まっても俺は断るどころか、むしろ喜んでいた。だが――リリスと戦うとなれば当然だが俺は死ぬ可能性がある。だからこそ俺は自分の身を自分で守れるようになっておかなければならなかった。だから俺は聖魔人にリリスのことを頼んでおき、聖魔人が『ライナの願い』を聞いた時には、すぐにでも俺を助けに来てくれるような準備をして貰おうと考えていた。だがリリスは『お姉ちゃんにはライナ君のお願いを聞かせた方が良いと思うんだ』と言ったのだ。
その結果。聖魔人はライナに『私のお願いを聞く』という条件で、俺達の味方をしてくれることになった。
「じゃあいくよ」と聖魔人は声を出し「覚悟を決めなさい!」と言い放つ。
そんな言葉を受けつつ、俺がリリスに視線を送ると、彼女は「さぁ。始めましょう」という言葉を俺に対して放ってくる。
「わかった」
俺は短く返事をするとリリスと聖魔人の二人と向かい合う。するとリリスは俺と距離を取ろうと後ろに下がるが、そんな彼女に対し俺は一気に間合いを詰めると聖剣アスカロンで斬りかかった。しかしその一撃は、あっさりリリスの剣によって防がれてしまったのであった。
「なに!? 剣筋が見えなかったぞ!」
俺は驚いたように声を上げた。するとリリスも『お兄ちゃん! 油断しないで! 今のはお兄ちゃんの攻撃に合わせるのがギリギリだったよ』と言い返してくる。それを受けて俺は思わずニヤけてしまった。リリスの口から『今のはギリギリだったよ』なんて言葉が飛び出してきたからだ。リリスの方にも聖天使の力が残っているということなのだろう。その力を使って俺は聖魔人を圧倒しなければならないのだ。その事実を認識したうえで聖魔人は俺の攻撃を余裕で回避できる実力を持っていたのだ。その力を目の当たりにした上で俺は『やっぱり強い』と思わされてしまったのである。
「それなら、もっと本気を出してやろうかな」
俺がリリスに向かって呟くと聖魔人は俺のことを見やり、こう尋ねてくる。
「へぇ。聖剣の力を引き出せてもまだ、そんなセリフを吐けるんだ。ライナ君ってば、いったい、どれくらいの実力者なのか気になるところだけど、そんなこと言っていると痛い目を見るのは君だと思うんだけど、どうするの?」
その言葉と同時にリリスの剣が再び振るわれる。その攻撃になんとか反応することが出来たが、それでも『今の反応速度』は今までの聖魔人のものとは違っていると感じられた。つまり、これがリリス本来の動きだったということになる。そんな状況の中でリリスが口を開く。
「私はお兄ちゃんが死にかけていても助けることが出来ないんだよ。分かってる?」
「ああ。もちろんだ」俺が短く言葉を返すと、今度は逆にリリスの身体が動いたかと思った直後。彼女の右手が伸びてきて俺の首を掴む。そんな突然の行動に対応できず、俺は首を掴んだ腕の力により呼吸が困難になったせいもあって意識を失いかけるが、俺は必死に耐えようとするのだが、そこで聖魔人が「残念だね」と一言だけ漏らすのであった。
次の瞬間。俺の身体から力が抜けてしまい、その場で膝から崩れ落ちてしまう。しかし、その直前でリリスが左手に持っていた杖を振るうと突風が発生したかと思えるほどの暴風が巻き上がる。それによって俺の顔を守っていた砂埃などは吹き飛ばされたわけだが、その直後。リリスの姿が消え失せた。
(消えたのか?)
そんな風に思うが、実際には、すぐに姿を現す。
その姿を見て、俺は驚く。何故ならば目の前に姿を現したリリスは、俺との戦いで見せた魔法を使う前と同じ格好だったからである。そのリリスの周囲には聖騎士達が立ち並んでおり『リリス』と名前を呼びながら彼女を庇ったのだ。
その行動に呆気にとられながらも、どうにか意識を保った状態を維持していた。そんな中でリリスと目が合ったかと思うと彼女は口を開く。
「お兄ちゃん。この子達に危害を加えないで」とリリスが言う。
それに対して聖魔人が口を開く。
「どうして?」と――
「この方達はライナさんのことを本当に大切に想ってくださる方々なんです。傷つけることなんて、できません」
そう言ってリリスは悲しそうな顔をしてみせる。その表情を見て俺は聖魔人の言葉に納得したような態度を見せる。それから俺は立ち上がる。するとリリスの背後からはライナとクレアが姿を見せる。そんな俺の元にリリスが歩み寄ってきて俺の両手を握ると微笑むのであった。
俺達はリリスの案内のもと、魔王城の奥深くにある扉の前に立つ。この先こそがリリスが『真に求めている』という場所なのだそうだ。そして、その扉の向こう側には『真なる勇者であるライナルドが封印されている』とのことだ。その言葉を耳にした時――俺の中には嫌なものが生まれたのだった。なぜなら魔王城から出てきた『魔王』が勇者によって討伐されていたからだ。そして聖騎士長が『聖魔人は勇者ではないから安心しろ』と言っていたのを覚えている。つまり、『聖騎士長の言っていた勇者』というのは『勇者ライナルド』のことであろうと思われた。
だから、もしもリリスの言う『ライナルド』が自分の予想している人物であるとしたら大変な事態になるのである。何せ、あの時、リリスと聖魔人と共にいたライナという名前の人物は聖騎士だったのだ。それが聖魔人だったとするのなら聖騎士長の言っていた言葉の意味が変わってくるのである。それに俺は以前、リリスと出会った時に聖女である『リリスの姉』である人物を紹介されて会話をしたこともある。だからライナという名を聞いて真っ先にリリスの姉を思い浮かべたのである。
ただリリスの話では『勇者は一人で良い』と口にしたことから『リリスの知っているライナ』は『リリスの姉』ではなくて、おそらくは『勇者』であるライナのことを言っているのではないかと考えられた。そして『ライナ』という人物が勇者だとすれば『勇者のライナ』は勇者『ライナルド』であり、ライナルドは自分の妹を守るために勇者として『世界平和の為に戦うこと』を放棄して魔王と結託したのかもしれない――そんな想像に至ったのである。
ちなみに俺の記憶の中では勇者ライナも『聖天使』を宿しており『リリスに加護を与える存在』として存在していたのである。そのことからも俺は『ライナルド=聖天使』であると判断することにしたのだ。ただリリスが嘘をついていないことを証明するために、俺の『勇者の力を封印していた鍵箱』を見せれば一発で終わるだろうが、それをするのも憚られるので、ひとまずリリスが『リリスの探し求めるライナ』かどうか確認するためだけに、その話題に触れることにしようと思ったのだ。
俺はリリスの握っている手に少し力を入れて、自分の意志を伝えようとした。そんな俺の行動を受けてリリスは小さく微笑み、ゆっくりと首を縦に振ると、リリスと手を繋いでいる方の反対の手を伸ばしてドアノブに手をかける。
「それでは、こちらにどうぞ。ライナさんとライナルトさん、お姉ちゃんは私の傍から離れないように注意しながら中へ入りましょう」
そう言いつつリリスは扉を開けて部屋の中に足を踏み入れる。するとリリスの視界の先には巨大な水晶のようなモノが映り込んだ。
俺も慌てて部屋の内部に視線を向けると、そこは真っ白の部屋で窓らしきものは見当たらず。また、俺の正面に見える壁には一枚の板があるだけだったのだ。
俺は思わずその板を見やる。そこには文字が書かれている。
【我が愛する者我が最愛の妻よ 貴女の望むものが、ここに】
と書かれていた。その文章を読んだ俺は思わず「これ、俺達が見ていいもんじゃないよな」と言葉を漏らしてしまった。そんな俺に対してリリスが口を開いた。
「これはですね。私とお兄ちゃんにしか読めなかったんですよ」
その言葉を聞き俺は「え? どういうことだ?」と尋ねるとリリスが続けてこう説明をしてくれる。
「お兄ちゃんが『リリス』という少女を探そうとしてくれていることは知っています」
「まぁ、そのことは、みんなにも言ったけどな」
「それを踏まえて、私が知りたかったのは、お兄ちゃんが本当に、その少女を探し出せるのかという疑問があったのです。ですが、どうやら、それも無理だと思います。だってこのお兄ちゃんに書かれている言葉には意味がなかったんです」
俺はリリスの発言内容について考えた結果。ある一つの可能性に思い至る。それは俺が記憶を取り戻したことにより、俺と『魔王』との関係に何か変化が生じているのかもしれないということである。俺としては『魔王』を殺さないと気が済まないほど、恨みを持っているつもりはないのだ。
そんな俺がこの手紙の内容を見た瞬間。脳裏に浮かんだ光景を『俺は『魔剣』を欲してはいなかったのか?』という言葉だ。つまり『魔剣を扱えるほどの強者がいなかったから』という理由で俺は『魔剣』を求めるのではなく、別の理由で魔剣を求めていた可能性があるのだ。だが、今のリリスの言葉で俺が思い出したことは『聖剣が使えるようになった今、魔剣など必要ないだろう』と、思ったのでは無いかと考えられるのである。
そんなことを考えた俺が無言のまま立ち尽くしているとリリスが俺のことを見やり、そして言葉を口にしてきた。
「私は『リリスという人間の少女を探す手伝い』をしてもらいたいと言ったんです。私は、お兄ちゃんの口からは直接聞いたことがなかったから不安になっていました」
「ん?」
俺はそんなリリスの言葉を受けて小声で言葉を返す。
「ああ。いや、大丈夫だ。お前のことを、忘れていたわけではない。むしろ俺の中でリリスが特別だっていう気持ちは変わっていないからな」
俺の言葉を聞いたリリスは嬉しそうな表情をするのだが、そんな彼女に向かって「それでだ」と言って話を続ける。
「リリス。俺はライナルド様に会いに来たわけだ」
「ライナ、ですか」
そう口にしてリリスは寂しそうな表情を見せるのだが、そんなリリスに構わず俺は口を開く。
「俺の目的は『魔王討伐の件』について話し合うこと。それとリリスが探してるって言うライナルド様に会わせて欲しい」
俺がそう言葉を吐き出すのと同時に、壁際に立っていたリリスの両親が反応したのだった。
リリスの父親は口元に微笑を浮かべながら言葉を返してくる。
「聖騎士長が、そのような話をしてくださったのか?」と――
それに対して俺は素直にうなずいてみせる。その返事を確認したリリスの父親がリリスの方を振り返って目配せを行うと、リリスは父親と同じように微笑む。そして二人は俺の方を見て口を開く。
リリスが口を開くと父親の方がリリスのことを見つめて微笑んでから「娘を助けてくれたことに感謝する」と言い放つ。それからリリスは俺の方に視線を向けてきて、そのままリリスの父親に話しかける。
「実はライナさんは私のことを、ご存知だったみたいなんです」
その発言にリリスの父親が驚いた顔になりリリスに問いかけるのだ。
「本当なのか?」と――
そんな父親の表情を視界に入れたリリスは苦笑いをしてから言葉を発する。
「はい。ライナさんが魔王城から出て行った後に、私は『ライナさん』の手がかりを得るためにお姉ちゃんの持っている日記を読みました。でも、そこにはライナさんが魔王城を去って行く前後の出来事が記されていて、その中に私達の家族が襲われたこととか書かれていました。そして私は、この『リリス=アルブミン』と『ライナルト』という名前の二人が魔王城にいたことを知ったのです。そして魔王城で、魔王の側近である女性と戦った時に、彼女は私に加護をくれまして、それがライナさんの『加護の力』だというのも分かりました。そのことでライナさんのことも分かるかもしれませんね、なんて考えていたのがライナさんに伝わってしまったみたいで、ライナルトという人が、私のことを探そうとしたみたいなんですよ。だけど私自身が『加護の力で、自分の名前は『リリス』という少女だということと、ライナルトという男性とは知り合いでは無い。そして私の探し人とは違う人物だ』ということを伝えられたので安心していたのです。ライナという名前の男性は、私よりも少し歳上で、背が高くて、筋肉質な体形をしていたのを覚えています。あと髪が黒だったと思います。だから私がライナ=『ライナルド』であると考えた理由はそこなのです。でもライナルドさんとライナさんは、あまり似ているところは無かったように思います」と。
そのリリスの説明に納得した様子のライナルト=リリスの父親である人物はリリスに対して優しい眼差しを向けてからリリスのことを見やった。リリスの瞳を見ているライナルトの目には優しさが宿っていた。そんな彼の様子を視界に入れて俺は『あ、こいつ絶対にいい奴だよな。しかもリリスの親父だけあって良い顔をしてやがる』と思ってしまうのであった。
リリスはライナルトのことを見上げながら笑顔で微笑みかけて、ライナルトは優しげな笑みを見せてリリスを見やる。俺はそんな二人の姿を目にしながら心の中で『なんだろうな。俺は二人のことを見ているとイライラしてくるんだよな』と、思っていたのである。その理由を考えていると『ああ、なるほど。リリスは俺が探し続けていた『ライナ=ライナルド』という男性を見つけたが、それは目の前のライナルドではなく、別の『リリスの愛する者』であって俺ではなかったということに苛立っているのだな』と気付く。
リリスの視線の先にいるのが俺であることに気付いた瞬間に俺は、自分が今までにないほどの強烈な感情が胸の内に生まれたことに気が付き、その瞬間に理解してしまったのだ。『俺は、リリスの事を好きなんだな』と――
俺が自分の感情を確かめていると、ライナルトが真剣な表情になってリリスに語り掛ける。「聖魔人である貴方は、まだ、この世界の人間を、信じられていないのではないか? 聖天使の聖鎧アスカロンを持つ聖女よ。貴殿に尋ねよう。貴殿が望むものを手にできるとしたら何を対価として捧げるつもりか? 我の答えはこの身命。我が命は我が最愛の娘を貴公らの世界に住まわせることができるならばそれで十分すぎるものだ」
そのライナルトの発言に対してリリスは微笑んで言葉を返した。その微笑みは俺が見た中でも一番の輝きを放つ笑顔だと感じたのだ。
「お気持ちは分かりました。ですが私はライナルトさんとライナさんの二人で話し合いをしたいと思っています。私にとってライナさんは大切な友人です。ですから彼に確認を取った後にお返事させてください。ですからライナさんと会わせてもらえますでしょうか?」と。
そんなリリスの言葉を聞いてから俺は思わず「ん?」となって首を傾げてしまう。そして俺は隣に立つリリスの顔色を確認するのだが、特に問題無さそうだったので俺は再び前を向いて口を開いた。
「あの、すいません。ちょっと質問があるんですけど、いいですか?」と。
その言葉を口にすると、リリスの父親がこちらを向き「なにかな?」と言葉を返してくれる。そんなリリスのお父さんの方に視線を向けた俺は「俺はライナルト様に会いたかっただけです。俺の探し人はリリスちゃんではないし、リリスちゃんが、どうこうという話じゃないんです。それにリリスちゃんはライナルド様のことを探しているわけでもない」と言い放つ。俺が言葉を発した後。部屋の中には重たい空気が流れる。
そんな中。リリスが俺に言葉を向けてきた。
「ライナさんが魔王討伐の話をしにきたことは分かりました。ライナさんは勇者としての資質を持っているのは確かだと思いますし、だからこそ魔王がこの世界を征服することを許せないのだとは、私にも分かっています。ライナさんの目的を果たすために協力しましょう。私達は、協力する仲間ですから」
「いや、リリスさんと協力関係を結ぶつもりは無いんだ」
「はい?」
俺の言葉に反応を示したリリス。そのリリスに向かって俺は続けて言う。
「俺の目的は魔王討伐だ。その目的を果たすためには俺が強くなる必要がある」
俺の言葉を受けたリリスの父親がリリスに向かって言葉をかける。
「ライナルトとリリス嬢は聖魔人だ。君たちならライナルトを強化できると思うのだが」
そんな言葉を口にしたライナルトに俺は素直な疑問をリリスの父親にぶつけることにした。
「それ、どういう意味ですか?」
俺が問いかけた瞬間。部屋の中の時間が停止したような感覚を覚える。しかしすぐにリリスの父親から言葉が放たれる。
「リリス嬢は、この国にある『神界』へと繋がっているとされる神殿で産まれた子なのだ。そしてライナルトは聖天使と呼ばれる種族から加護を受けている存在だ」
リリスが『加護の力』を得たという場所。リリスの日記に書かれていた内容ではリリスもそこで生まれたらしい。そんなリリスと俺が一緒に居ることが偶然なのか分からないが、もしかすると『加護』というものが関係しているのかと、俺は思ってしまう。そのことから俺は「加護の力?」と言葉を漏らしてしまう。
するとライナの父親はこちらを見やり口を開く。
「ああ。加護とは神の力が具現化された姿だ。その力を得る為の条件を君は知っているかね? まさしく『奇跡』と呼ぶべき条件を。
ライナの父親は、そう口にした後、更に言葉を続けた。
「リリスとライナルトは加護によって繋がった。だから二人が近くにいれば二人は強くなり続けることが出来るのかもしれない」と――
リリスは俺の方を見てから微笑むと「私達が協力して、ライナさんを強くすることは可能かもしれませんね」と言ってから俺のことを見つめてきた。そして俺が、リリスにうなずいてみせた直後。ライナルトの父親である男性がリリスのことを見やって問いかける。
「だが、ライナルトの力をどうやって得る?」
その問い掛けに対してリリスが言葉を放った。
「私は聖魔人なのでライナルドさんの力を私の中に取り込みます。でも、ただ取り込むだけではなく『加護』としてライナルドさんに取り込ませるのです」
その言葉を受けてライナルトの父親とライナルト本人が驚いた顔になった。そしてライナルトが言葉を発する。
「それは可能なのだろうか? ライナの『天職』と『加護の力』を、その娘が取り込んだとしても『勇者』である私の『加護の力』には遠く及ばないはずだが」と。
俺はリリスが言っていたことを思い出し『あ、リリスちゃんの言っていたこと本当だったみたいだな』と理解できた。そして俺はリリスとライナルトの会話を邪魔しないように大人しくしていることにする。
そんな感じでリリスとライナルトが会話をしている最中、ライナルトの父親は俺のことを視界に入れて何かを考える仕草を見せた。そして彼は俺に視線を固定したままこんなことを言う。
「リリスとリリス殿に確認したいことがある。貴殿らが共に居て成長できると言うならば、ライナと行動をともにしてくれないだろうか。ライナには貴殿が必要だ。どうか頼まれてはくれないだろうか」
「それは無理な話ですね」
俺はリリスの父親の言葉を聞いた直後に、即答した。すると俺の返答に、リリスの父親が「何故、無理なのだろう?」と聞いてくる。
そんな彼に俺は言葉を返す。
「俺の探し人はライナルド様なんです。ライナルド様は『俺と一緒にいる』という選択をして、俺と一緒の場所で暮らしています。だからもう俺はライナルド様に会えましたし、これ以上ライナルド様との繋がりを求めてはいません。それに聖魔人であるリリスさんとも一緒に暮らすことも無いので、その提案を受け入れようとは、俺は思いませんでした」
そんなことを言った俺は少し考えてからライナルトのことを見やった。それからリリスと父親の方を見ると口を開いて言葉を吐き出す。
「それに俺は、ライナルドさんの強さが欲しいんですよ。『俺』という人間が生きていくために必要なものをくれる、大切な友人を、助けるために、今よりもっともっと強くなって守らないといけなくなりましたから」
俺の言葉を聞きながらリリスの父親が俺のことを見ながら、ゆっくりと目を閉じた。その様子を目の当たりにした俺は『なんかマズイこと言ったかな?』と思ったのだ。だけどライナが口を開いたので俺はそちらに意識を向けることにした。
「そういえば貴方はリリス殿が言っていたライナルトの探し人と同一人物なのだろう?」と。そんなライナルトの問いかけに対して俺は大きくうなずくと「はい。俺は貴方を探していたライナルト=セイクラルという人間です。リリスさんとは、俺の友人のライナルトを探す手伝いをしてもらっているだけです」と答えた。
そんなやり取りがあった後。俺はライナルトとライナルトの父親に見送られる形でリリスの部屋を後にするのであった。
俺はライナルト達がいる部屋の扉の前に立つと大きく深呼吸をした。それから意を決して部屋の中に入る。すると俺の目に飛び込んできたのは椅子に腰を下ろすようにして足を組んで座るライナルトの姿だ。そしてライナの隣に立つのは先ほどまでの白いドレスではなく青い服に着替えたライナである。
二人から発せられる圧倒的なオーラを感じ取った俺は思わず生唾を飲み込んでしまうのだが、なんとか気を取り直すことに成功する。そんな俺のことを見たライナが「やぁ、ライナさん。お帰りなさい」と言葉を向けてきたのだ。俺は「ああ、ただいまって、ここ、俺の家じゃないからな?」と言葉をかけておく。そんな俺にライナは「分かってますよ」と言い返してきたので「分かってたら良いんだけどさ」と言葉を返してしまう。
するとライナルトが自分の隣に立つリリスのことについて説明を始めた。
「彼女が聖天使族の聖女リリスだよ」
ライナルトの言葉を耳にした俺はライナルトのことを見やる。すると俺のことを見やり微笑みを浮かべるライナルトが「リリス」と彼女の名前を呼ぶのだが、それに反応を示したのは俺じゃなくライナだった。俺が「ライナ?」と首を傾げて問いかけると、俺のことを見やりつつライナルトが言う。
「彼女は僕の妻なんだ」
俺の聞き間違いだと思っていたのだがライナがライナルトの奥さんだということを聞いて「はあ?」という顔をしてしまった俺。
ライナのことは嫌いじゃないし友達になれそうな気がしている。
しかし結婚するとなると話は別になるわけだ。俺はまだ17歳だぞ。
しかも相手が、どう見ても10代の子供にしか見えない女の子だ。いや、リリスの場合は年齢とか見た目と中身が違うんだが。でも見た目がロリのくせに年齢はライナルトと同じくらいだって言うんだぜ。そんなの反則だと思うだろ。まあそんな風に心の中で突っ込みを入れた俺なのだが、俺の言葉に反応したのは、リリスだった。
リリスは自分の胸を手で触り「ライナの好みの女性の外見を想像した結果が、この姿でしたので、私としても嬉しいです」なんて言い出した。そのリリスの言葉を受けて俺がライナのことを見やって「もしかしなくてもライナルトって年下趣味なのか?」と尋ねてみるとライナの代わりにライナルトが「そうらしいんだよ」と答えてくれる。そんなライナルトの言葉を受けた俺は思わず頭を抱えそうになる。俺の知っている常識では考えられないことが目の前で起きていたからである。
「リリスはね。神界の神である神帝様によって作られた聖天使族の中でも特殊な聖天使なんだよ」
リリスの容姿について詳しく解説してくれるライナルト。するとライナルトのセリフを聞いたリリスが自分の胸元に手を置いて口を開く。
「私の本当の姿はこの世界にいる時のような子供ではないのです」
そんな言葉を発したリリスは両手を広げ、自分の全身が露わになるまで広げていく。すると次の瞬間、リリスの身体が淡く光った。その直後、リリスが立っていた場所に、一人の大人の女性が現れる。
「え?」
そんな間抜けな声を出してしまった俺なのである。だが、そんな俺の反応も致し方ないだろうと思うのだ。なにしろ突然現れた女性が、とんでもない美女だったからだ。しかも金髪の長髪に碧眼。スレンダーでありながら出るところは出て引っ込むべき部分はしっかりと引っ込んでいるという抜群のプロポーションの持ち主。さらに着ている服も、リリスのようにフリフリが付いたものではなく動きやすい服装だ。だからだろうか。女性の魅力が更に増して見えるのは。そんなリリスはライナルトと腕を組むような体勢になると、俺に向かって話しかけてきた。
「改めて初めましてライナルト様のお仲間様」
リリスのあいさつに俺が呆気に取られて何も言えない状態になってしまう。そして俺の隣に座っていたライナも驚きの表情をしていた。だがライナよりも驚いた顔をしていた人物が居た。それが俺の正面に居る、ライナルトとライナルトの父親だ。そんな二人を見つめながら俺は口を開く。
「えっと? ライナルトの両親だよな? 何その顔? 何か驚く要素があったのか?」
そんな俺の問いかけを受けてライナルトの父親はハッと我に返り言葉を口にし始める。
「すまない。ライナと私が君から受けた報告を思い出していてな」
ライナルトはリリスを指差しながら「彼女には僕から話すからリリスは黙っていて」と言うとリリスは笑顔でうなずきライナルトから一歩離れると姿勢良く直立不動の体勢を取った。
「ライナはね。この前リリスから、君に関する報告書を受け取ったばかりなんだ」
ライナルトがそんなことを口にした直後。俺は「えっ!?」という言葉を吐き出すとライナルトは苦笑いを浮かべる。
「君は聖剣の力を取り込みすぎたせいで、力を制御するのが難しいだろうと思っていて、僕のほうから聖魔人化はしないようにと注意したんだよ。聖鎧を身につけるだけで精一杯だったはずなのに、それ以上に強くなるために、聖魔人を発現させようと試みるのは危険だと」
そんなことを言われた俺は、思わず「マジでか?」と呟いてしまう。そんな俺の言葉に対してライナルトが「うん」と返事をしてくる。
俺としたことが聖剣の力が強すぎるあまり、俺の意思に反して『ステータス補正(極大)』という効果を与え続けてくれたようだ。俺はライナルトに「それで?」と言葉を向けながら質問をする。するとライナルトが口を開いた。
「リリスの報告書にはね。君の能力の詳細が書かれているんだよ」
そんな言葉を聞いた俺はライナルトのことを見やる。ライナルトはそのあとでライナルトの親父さんの方へ目を向けた。
「それに関してリリスから聞いても良いかな?」と、いった感じにだ。
その言葉を聞いていたライナルトの親父は「ああ、もちろんだ」と答えたのである。
俺は今ライナルトから衝撃的な事実を聞かされたばかりで、混乱状態だったのだが、ライナルトの言葉によって、ようやく落ち着きを取り戻した。
「まず最初に言っておかなければいけないことがあるんだけど、ライナは『俺と同じ転生者だ』ってことを僕は知ったんだ」
ライナルトの言葉に俺は思わず首を傾げて「はあ?」という顔をしてしまう。
そんな俺にライナルトが説明を続ける。
「リリスの書いた『ライナの日記』によると、ライナの前世は聖騎士として異世界を駆け巡る剣士だったらしいんだ」
俺はライナルトの説明を、ライナルトが話してくれた内容と同じように、日記を目にしているはずのアリサの方をチラリと見やった。そしてそんな俺の視線を感じたのかアリサが「え?」と首を傾げる。そんな俺たちのやり取りを見たライナルトが再び言葉を続けた。
「リリスの書いた日記によればね。ライナが暮らしていたのは『勇者と魔王の最終決戦が起きている真っ最中の世界だったんだよ。でも、なぜか戦いの終盤までライナの出番がなくてね。気が付くと、その世界が滅ぼされようとしていたみたいなんだよ」
「はあ?」
俺が素直に思った言葉を吐く。
「でね。最後の瞬間に、『なんかよく分からないけど、このまま死にたくないなぁ~』とか思ってたらさ。神様が現われて言ったんだ。僕と契約しますか? 契約するなら特別なスキルと、僕と会うための能力を授けてあげるよって」
そんなことを語るライナルトに俺は思わずツッコミを入れてしまう。
「いや、お前、それはさすがに騙されすぎだろ?」
するとライナルトが、少し照れくさそうな笑みを浮かべる。
「そうなんだけど、ライナの目の前に居る神を名乗る人物に会って、いろいろ説明された結果、信じることにしちゃったんだよ」
「なるほどねぇ」
そんな会話を交わす俺とライナルト。それからライナルトの言葉を引き継ぐようにしてライナルトの父親が言葉を口にした。
「そんな時に神と名乗る人物がライナの前に現れ、この世界で生きていく上で困らないようにと、リリスが書いたこの日記を見せてくれたらしいのだ」
ライナルトの父親の説明を受けた俺とライナルトが同時にため息をつく。そしてそんな二人を見たリリスが言葉を発する。
「そのおかげで私は救われたんです。それにですね。私自身も、そのライナ様の日記を読み終えたらすぐに信じられるようになりました。なにしろこの世界は私達が居た世界の未来の姿だっていうのですから」
そんな言葉を受けて俺とライナルトは「マジで?」と、またしても言葉が重なるのであった。
俺とライナルトがライナルトの父さんから話を聞いていた、その頃のこと。リスタのパーティーメンバーである天城はリリスと共に行動を開始していた。
王都の中央区にある、高級店が集まる区画に向かう道のりを歩いていくリリス。そんな二人の背後では、聖天使族の聖女の護衛役として付いてきているメイドのレイナが「あのリリスという娘。只者ではありませんね」と呟いていた。するとそんな彼女の傍に一人の少女が現れた。
リリスの幼馴染であり親友の「アイカ」だった。
「ねえリリス。私達のこと置いて一人で行っちゃって大丈夫なのかしら?」
アイカはそう言うと不安そうにリリスの顔を見つめる。そんな彼女にリリスが言葉を返した。
「大丈夫よ。リナルトも、私も、ライナルトも、ライナだって私達よりも強いんだから」
「そうね。あなたたちみんなが揃っていれば負けないよね」
リリスの言葉を耳にしてアイカは笑顔で答える。するとリリスは、ふと思い出したような表情になると言葉を続けた。
「リナルトが言っていたけれど。ライナが、私たちの知らない間に聖槍アスカロンを手にいれていたらしいの」
そんなリリスの言葉を受けたアイカが目を大きく見開く。
「え? あれ? ちょっと待った? リリスが聖魔人になった時のためにリナルから渡された聖槍をライナが使う? えっとどういうこと? というか聖魔人は、聖魔人が持つとされる『聖魔人の武器』を使わないと聖剣と聖槍を扱いきれないんじゃなかったの?」
そんなことを早口でまくし立てると、アイカは困惑の眼差しでリリスの事をジッと見やりながら問いかけたのである。
ライナルトとライナルトの父親から話を聞いた俺とライナルトは「はあ~」と、大きく息を吐き出す。そして俺とライナルトはお互い顔を合わせると無言のまま肩を落としてしまったのだ。そして、しばらくのあいだ、俺とライナルトは、その場で放心状態になってしまう。そんな俺達にライナルトの父親は言葉をかけてくる。
「君たちはどうするつもりなんだい?」
「そうだね。まずはこの大陸に魔王が居るかどうかを調べるところから始めようと思っている」
ライナルトの父親がそんな言葉を返すとライナルトも同意を示すかのように首を縦に振る。
「俺も同意見です」
「うむ。では、君たちの協力を仰ぎたいのだが、どうかな?」
「分かりました。ぜひ協力させて下さい」
ライナルトのその言葉を耳にして俺は「ああ」と言葉を出す。
俺としてもその話はありがたかったからだ。俺達は、これから魔王を探すために動かなければならないのだから、その目的を共にする相手が増えるというのは、非常に都合が良かったからである。だがしかし、俺は一つの疑問を感じていた。なぜ、この世界は「勇者召喚の秘法」などが存在するのだろうか? 俺がそんなことを考えながら、ライナルトと、ライナルトの父親の話を聞き流していると、そんな俺の視線に気付いたのかアリサが首を傾げながら口を開いた。
「ん? どした?」
「あーうん。アリサ。俺ってさ。この世界が、俺が元いた世界によく似た世界なのは分かるんだけど、俺の知っている限り『魔法』とかないんだよ」
俺の言葉を聞いたアリサが、一瞬驚いた様子になる。それからアリサが俺のほうを見ながら質問してきた。
「な、なんのことだか分からんぞ。い、いったいどこが似たんだ?」
俺は「う~ん」と考えるふりをしたあとで言葉を発した。
「えっと。まず『勇者』と『魔王』が存在している時点で、元の世界でもそういうのがあるのかなって。でもって、『魔王軍』『勇者軍』みたいな感じに、対立している組織が存在している点とかね」
そんな俺の答えを聞いたアリサは腕組みしながら考える。そんな俺たちの様子に気が付いたライナルトとライナルトの父親の二人が「おや?」といった感じに目を細めていたのだが、俺はそれに関しては気にせずに話を続けてしまう。
「あと、この『聖天使の国 セフィロト』には『迷宮』と呼ばれる施設がたくさんあるんでしょ? それに『魔物』の存在とか? それにさ。『ステータスカード』とかもそうなんだけど、俺の持っているスキルの殆どは俺の世界に存在していたものだからね」
俺の言葉を聞いた二人は同時に驚きの表情を浮かべる。それから俺は、ライナルトの父親に向かって、こう話したのである。
「この世界で俺は『転生者』という存在なんです。『前世の記憶を持ったまま』この世界に生まれ変わったんですよ」
俺がそんな話を口にすると、今度はライナルトの父親が「本当なのか!?」と声を上げるのだった。
「あ。やっぱり信じてもらえないか。じゃあさ。今すぐ信じてもらわなくてもいいけど俺と握手してください」
俺がそう口にするとアリサやライナルト、アリサの護衛役についているアイカなどが驚いてしまう。まあ。無理もないと思うが、それでもアリサとアリサの護衛役をしてくれている『白猫団 隊長のクロエ』だけは平然としていた。そのことに関して少しだけ違和感を覚えてしまうが今は、それを考えても仕方がないと割り切って、俺が言葉を続ける。
「ちょっと、確かめないといけないことがあるから」
「あ、あの」
俺とライナルトが会話を交わしているところにやってきたのは、聖天使族の聖女「アイカ」である。そんな彼女は、突然に姿を現した「アイカの姿に気付くと、ライナルトが少し嬉しそうに笑う。
「アイカちゃん。久しぶりだね」
「うん。ライナルト。元気?」
ライナルトに微笑みかける聖天使族の娘さん。そんな二人の様子を見た俺がライナルトに話しかける。
「えっと。確かこの子が幼馴染の子だよね?」
するとライナルトが大きく何度も首を振り始めた。
「いや違うんだってば! アイカちゃんとは幼馴染だけど。恋人ではないからね!」
ライナルトが慌てたようにそんな言葉を叫ぶと、ライナルトの父さんや、アイカは、苦笑いをするしかなかったのであった。それからライナルトと、ライナルトの父親、アイカは、この国の現状を話し始める。
なんでも、この国に居る「神獣」の一体が病を患ってしまい、かなり危ない状態らしいのだ。そこで神に仕える者として神から与えられた聖槍アスカロンを使い「神を癒せる力」を持つライナルトの力を借りに来たのだというのだ。
そんな話を聞けば、俺が手を貸したくなるのが人情ってもんだろ? 俺は、そんな話を聞くと思わず笑ってしまう。そして「俺も協力するよ」とライナルトの父さんに伝えると、彼は、とても喜んだ。するとアイカが申し訳なさそうにライナルトに謝罪の言葉をかける。
「ごめんなさい。ライナルトは優しいから、私がお願いすればきっと協力してくれると思って、勝手なことをして。私が悪いんです」
そんな彼女の言葉を受けたライナルトは「い、いえ。大丈夫ですよ」と言葉を返すと、そのまま笑顔でアイカに話しかけたのである。
「アイカさんの事情は理解できますし、なによりアイカさんのおかげで助かったんですから、アイカさんの願いを聞いてあげられなくて本当にごめん」
そう言って、ライナルトはアイカに頭を下げる。そんな二人の姿を見守っていたライナルトの父親も満足げに笑っていた。
俺とライナルトとライナルトの父親に護衛役の『クロネコ隊』のメンバーたちは、アイカに連れられて『天城の都』に存在している教会に向かっていた。ちなみにアリサと『白猫団のみんなは、俺と一緒にいる』
するとアリサは、隣にいるアイカに質問をしていた。
「ねえ。あんたがどうして『ライナス様の同行を願い出たか』教えてくれる?」
するとその問いかけを受けた聖天使族の美少女は小さく息を吐き出すと、こんなことを言ってきたのである。
「実は私。最近になって、ずっと同じ夢を見るようになっていたんです」
「ん? 夢?」
アイカの言葉を受けたアリサが小首を傾げる。そしてそんな彼女に対してアイカは真剣な眼差しを向けながら言葉を続けた。
「はい。最初は普通の女の子が『魔王』を封印するところから始まる、そんな悪夢なんです。そして『私』はその『女の子』の夢を見て目覚めた後に決まって涙をこぼしてしまう。まるで自分が、その『女の子』の代わりに『辛い運命』を背負わされたかのような、そんな感覚を覚えるようになった」
そこまで聞いた俺は「あ、これはヤバイ」と内心で思う。だって俺、アイカと初対面でいきなり号泣したんだよ? いや。それだけならいいんだけど、俺が泣きながらアイナの事を口走ったり、アリサのことを聞いたりしたせいで余計に話が拗れたんだよなぁ。しかもこの話だと、俺はライナルトの事を好きになっちゃっているわけじゃん? だから俺とライナルトとの『愛の絆』が更に深まる可能性がある。
だからといって、俺に「ライナルトのことは、ただ単に『勇者』という特別な存在だから気になっているだけです」なんて言えないのである。だから俺は、「へーそうなんだ」とだけ答えてからアイサのほうを見てしまう。すると彼女は「なんなんだ?」といった視線でこちらを見てきたのである。だが、そんなアイカにアイナはこう話し始める。
「それは、あんたにとって、大切な記憶ってことだよ。だから忘れちゃいけない」
するとアイナは、ライナルトのことを指さして言葉を発する。
「それに、ライナルトと仲良くなりたかったらまずは、『クロネコ』の『隊長』ってところから脱却しないとダメだと思うけど?」
そんなことを言われたアイカは「むっ」とした顔になり「別に私はライナルトと友達になりたいって思ったことなんかありません」と言い返していた。
「え? 違うのか? まあでも、とりあえずライナルトに気に入られたいっていうのなら、あいつが『白猫隊』のみんなを連れて『神獣』の治療に行こうとしているんだ。そこにくっついて行けば良いんじゃないか? ライナとアリサが行くならライナルトだって喜んで付いてくるだろう?」
するとアリサが苦笑いを浮かべる。
俺は「ああ。なるほど。確かにそうだな」と納得しているとアイカが不満そうな表情のまま、こう答えた。
「嫌です」
「え?」
そんなアイカの言葉に驚いたアイサが、目を丸くしている。しかし俺には「ライナルトに迷惑かけたくないからか」という事が分かる。だからこそアイカの言葉の意味を理解すると、こう言葉をかけてしまった。
「ん~でも、その、ライナルトも君と仲良しになってきたって思っていたけど?」
俺がそんな風にアイカに声をかけると彼女は大きく目を開いて、驚いた顔をしてから、俯いて、小さな声で「うぅ」と漏らしていた。
それから俺たちが歩いて教会の前に到着したところで、俺たちはライナルトの父親と、この国の神官たちに引き渡されたのである。なんでもライナルトが、この国に存在する聖武器「聖槍アスカロン」を使用できる人間であるかどうかを調べるためだった。
ただ「聖槍アスカロン」の使用権限については「聖天使」しか持つことができないらしい。そしてこの国の「神」に仕える「神官長」と、ライナルトの父親だけがアスカロンを使用する権利を持っているというのだ。まあ「聖槍アスカロン」というのは、大天使ミカエルの持つ武器の一つで神が生み出したと言われている「聖槍ロンギヌス」のコピー品なのかもしれない。俺はそう思いながらも「そういえば、前に見たアニメの中では聖槍アスカロンを使って、俺の世界に現れた魔物を倒したって話もあったよなぁ」などと口にしていた。
そして俺とアリサ、アイカの三人は『神獣』がいるとされる部屋に連れてこられる。そこにはベッドが置かれていてその上に、この世界の動物たちが寝ているようであった。その光景を見た俺は思わず笑ってしまう。
「あれだ。これこそ『異世界のアニマルパーク』だ」
するとそんな俺の様子に気付いたライナルトが、俺の言葉に反応したようで話しかけてくる。
「うん? 君は、動物の姿が珍しいのかい?」
そんなライナルトに、今度は俺の隣にいたはずのアイカが反応すると言葉を投げかけた。
「あ、ごめんなさい。そういうつもりじゃなかったんですよ。ライナルト様」
アイカがそんな言葉を紡ぐとライナルトは困ったように笑う。それから「気を使わせてしまって、ごめんね」と言ってくれた。俺とアリサとアイカの三人は、そんなライナルトに微笑みかける。
すると部屋の扉が開かれ一人の男性が部屋に入ってきた。
「ライナルト様! お待たせしました。それでは、聖天使族の方々が『天上の光輝』の力によって『神の聖槍アスカロン』を扱えるか試させていただきます!」
その言葉を受けたライナルトは「はい」と答えると『アスカロン』を手に取る。
『探知球』の魔道具を発動させた俺は、その人物のステータスを確認することができた。それによると「神」の力を使うことができる存在らしい。
聖騎士は「神」に愛され、祝福を受けなければ神器を使うことは叶わないのだ。つまり神に仕える神官でなければ、聖剣アスカロンを使用できないということなのだと思う。
「神の力を借りよ。聖なる加護を」
ライナルトがそんなセリフを口にしながら『アスカロン』を『聖天使』の女性に向かって突き立てる。そしてライナルトの手から『光の矢』が発生すると女性に直撃した。するとその女性は眩しい輝きを放ち始める。
それからしばらくすると光がおさまり、女性は自分の手や体を見てから口を開いた。
「ありがとうございます。ライナルト様。おかげで私は、病から回復することが出来たと思います」
そう言い放った女性の姿に変化が生じ始める。肌が綺麗になり、艶が蘇り、瞳に活力がみなぎってくる。そして女性の体は光に包まれていくと背中から純白に輝く翼が現れた。その姿はまるで神話に出てくる『セイント』みたいで俺は少し感動してしまったのである。
「あの『光輝』って奴は、やっぱり凄いな。『神の加護を受ける者』は『神の聖槍アスカロン』を使うことが出来るのか」
そんな俺の発言を受けてアリサも興奮した面持ちで、ライナルトのことを見つめる。アイカも興味深げな表情を浮かべて、ライナルトを見つめていた。
それから『アスカロン』を握りしめながら、俺と目が合うとライナルトが「これで大丈夫なのかな?」といった疑問を口にしていた。すると聖天使の彼女が言う。
「ライナルト様、私の体に力を感じるのです。これが『聖弓アスカロン』の魔力なのでしょう。今ならば私でも聖天使族に伝わる奥義が使える気がするんです」
そんなことを言った聖天使族は目を閉じて集中し始める。すると手に握られていた『聖天使』が持つに相応しい白い弓矢が出現。
すると『アスカ』は彼女の右手に吸い込まれていったのである。
(うわー『魔法のステッキ』を『魔法収納バッグ』に入れたみたいな状況だな。本当にそんな事が出来るんだな)
俺はそんなことを考えていたが、目の前で起きた出来事に対して素直な感想を抱く。そして聖女のライナの方に目を向けてしまう。なぜなら『アスカロン』を召喚して使うところまでは成功したが、『アスカロンの弓』を具現化することはできていないようだからである。そんな様子を確認した俺はアイカに視線を向けた。すると彼女も俺と似たようなことを感じていたらしく小さく呟いていた。
「やはり、まだ『魔王化』していないと、その状態にならないのか?」
するとライナがこんなことを言う。
「聖魔王。『勇者』とは、魔王化する前兆なんですか?」
その問いかけを受けた俺はどうしようかなぁと思いながら、なんて答えようか悩んでしまう。
だがその時だった。
ライナルトの父親が現れて俺たちに告げた。
「みなさんのおかげで無事に『聖天使族の病気』が癒えました」
俺がライナルトの父親から感謝されると同時に「ん? これはチャンスじゃないだろうか?」と思った時だった。
ライナルトの父親がライナルトに言葉をかけたのである。
「ライナルト、今日でお前は一人前の大人だ。この国は、『天界の門番』と『魔族の城』が隣接している場所。故にいつ何が起きても不思議ではありません。だからこそ、『聖騎士団』の『団長』として聖武器『聖槍アスカロン』を扱うことのできたライナルト、君こそが、『聖魔人』を倒せるだけの『聖属性耐性』を持っていると判断しました」
そう言い放ったのであった。
そして『聖騎士』のライナルトの父親は「ライナルト、今日でお前は一人前の大人だ。この国は、もう、君が『聖魔人』と戦うことを期待しています」と告げると部屋を出ていったのであった。
それから『聖天使』の少女に「おめでとう。よく頑張りましたね」という言葉をかけるとライナルトの父親の背中を追うようにして部屋から出ていく。
それから聖天使族の女性は俺たちに一礼すると部屋を出る。そんな聖天使族の女性が退室してからライナルトは聖槍を聖剣アスカロンと交換するとこう言葉を発した。
「僕にも『聖魔人の呪い』が解けるか分かりませんが、僕はこの国に恩があります。ですから『神界樹の葉』を手に入れる旅には付いていこうと思っています」
ライナルトがそんな風に言うと、アイカが心配そうな顔をしているのに気付く。そして俺は「まあでも」と言葉を発しようとして止めた。というのも「俺はアイカの『加護』の力を知ってるから、この世界を救う為の旅に出てくれるんじゃないかと思っているんだよ」などと口にしたら、ライナルトに余計な警戒心を抱かせるだけだろうからだ。だから代わりに俺はこんなことを言っていた。
「俺とライナルトなら、聖魔人に対抗できるかもって思っているからこそ、あんな事を言うんじゃないのかね」
そして俺の言葉を聞いたアイカは、少し安心した顔になったのである。
「はい。きっとそうだと私も思います」
それからアイカは「聖天使族」という種族について話してくれるのだが、彼女は『神界獣フェンリルの巫女』でもあり、聖魔人と戦える聖天使族の血が流れているらしい。
そして『神獣王フェンリルの魂』の継承者でもあった。
「というわけで、ライナルト様に『神の聖鎧』を貸し出してあげて欲しいんです」
アイカの説明が終わるとライナルトはアイカの言葉を聞いて「『神の聖鎧』を!? あれは確か『神獣王国アルスティリア』の聖騎士国『神獣騎士国家』に保管されていたはずですよね」と言う。その言葉を受けてアイカが答える。
「その通りです。だけど聖魔人が『天上界の門』を閉ざしてしまった以上、聖魔人の侵攻を止める手段がないでしょう? それこそ、天上にいると言われる神にでもならないと無理だと思うんですよ」
アイカは「神になる為には、『加護』の力だけでは足りなさ過ぎるんですよ」と語ると「でも聖魔人は神の力を持ってるんですよね」と続ける。そしてアリサに「ライナルト様に貸して差し上げてほしい」と言った。
アリサが俺に「いいよね? ご主人様」と確認してくる。
それからアイカは俺の顔を見るとライナルトは言う。
「聖魔王様の頼みでしたらお受けしたいのですが、一つお願いしてもよろしいでしょうか?」
俺は「なんだ?」と言葉にした。すると彼は「聖騎士国家『神魔帝国』の聖騎士の国『神騎士王国』を治めていた先代の聖魔王が、天上で『神の使い手』に戦いを挑み殺されたという話をお聞きになったことはありませんか?」と話し始める。俺はアイカを見るが彼女は黙って首を横に振った。
ライナルトが俺とライナの反応を確認してから説明を続ける。
「実は先ほどからずっと気になっていたんですが――」彼がそこまで言うと扉が開かれた。
部屋に入ってくると聖槍を腰に下げて防具を身に付けている一人の男性が入ってきたのだ。
そんな男性の容姿は中肉中背。身長は百七十センチほどで髪の色は銀色。瞳の色も銀灰色をしている。
そして彼の見た目から年齢は二十代半ばに見えて、その整った容姿に目を奪われそうになる。
それから聖魔人が俺と聖天使族の女性を見つめながらこんな事を言ってきた。
「ふむ。お前たちが今回の襲撃から逃げ延びた聖魔人と聖天使族なのだな。それにしてもライナルト、お前が此処に来た理由を説明してくれないか?」
俺はライナルトの父親と同じ反応を示した男性を見ながらライナルトの父親と同じように質問をした。
「あんたが『天上界の門』から現れたって聖魔人で、この国の聖武器を管理してる奴なのか?」
「いかにも。我が名は【ルキアス】、聖天使族の中でも上位の存在である」
俺が聖魔人と名乗る男に向かってそう聞くと聖魔人ではなくライナルトの父親の方が返事をしてくれた。だが、そんなライナルトの父親が俺の疑問に答えてくなかったのは、ライナルトと同じようなことを考えていたせいなのかもしれない。なぜなら『アスカロンの弓』を召喚したライナルトのことを見ていたからだ。
(そうか、この世界の聖天使族は、聖槍アスカロンを『召喚魔法』として使えるようになるんだな)
俺がライナルトの父親が『召喚』する様子を思い出しながらそう考えているとライナルトが「父上、僕は聖槍アスカロンの『加護』を得ることが出来ました」と報告をしていた。そんなライナルトの言葉を聞くと聖魔人を名乗った男性は、嬉しそうに笑みを浮かべるとライナルトに近づいていき頭を撫でたのである。
それからライナルトに「さすが私の息子だ」と言って微笑みかける。
ライナルトも父親に「はい」と答えた後に少し頬を赤く染めながら恥ずかしそうな表情を浮かべたのであった。
そんな二人の様子を見ていた聖魔人を名乗る男が俺に向かってこんな事を口にしたのである。
「貴様らは『勇者召喚』を行った者たちなのであろう。我に敵対するつもりなのか?」
俺はそんな彼を見て思った。
(なーんか面倒な相手みたいだぞ。俺には、聖魔人をどうにかできる力はないしな)
俺が「敵対するつもりはないが?」と言うと、そんなことを言ったせいか、目の前の男性が「ふんっ、ならば好きにするといい」と吐き捨てるように口にすると部屋を出ていこうとする。しかし、その背中に聖天使族の女性が声をかける。
そしてライナルトとアリサを紹介するとこう口にした。
「こちらの御二人は、聖槍アスカロンの『所有者』です」すると目の前の男性が振り返り、ライナルトの持つ聖槍に目を向けながらこう言った。
「聖槍アスカロンの、だと?」
そして男は、ライナルトが持つ聖槍をマジマジと見つめながら口を開いた。
「なるほど、この『加護』の力をお前たちは知っているようだな」
その言葉を聞いていた俺は、どうやらこの聖魔人は聖武器の管理者であり、この国の聖武器を扱っている責任者でもあるのではないかと思うのであった。そして俺はライナルトの父親である聖魔人に声をかけた。
「聖槍アスカロンを貸して欲しいんだ」
俺がそう告げると聖魔人は「何に使うつもりだ?」と言い返してきた。俺は正直に『大魔螺旋』を発動させた際に、聖槍に込められた力を解放するには『加護』の力では足りないだろうと言う。だから『聖武器の加護』を持つライナルトに貸し出して欲しいと伝えたのである。
「なるほどな。では、貸してやるが、壊したりはするでないぞ」
聖魔人と名乗る男性は、俺の話を聞いて「仕方がない」といった顔をすると、部屋の隅にあったテーブルの上に置かれている一本の剣と二本の小剣を差し出すと、聖槍と交換してくれる。
「ほれ、こっちは『アスカロン』じゃ」
俺はそんな聖魔人から聖魔人の聖剣アスカロンを受け取る。それから聖魔人は聖槍アスカロンをライナルトに手渡していた。するとライナルトは驚いた顔になると、慌てて「この槍、僕の力に反応しています」と語る。そんなライナルトの様子を見守っていた聖魔人が「それがアスカロンの『力』が、この世界にある聖槍に注がれていくからじゃよ」と語った。
そしてライナにライナルトの聖武器が無事に継承されるのを見届けると言うと「もう用事は終わったな。ライナルト」と言う。そして聖魔人は「帰る前に聖王様に挨拶をしていかないのか? お前のことが心配しているはずだろう」と言った。するとライナルトが「え? 僕、王様と会うなんて、まだ一度も」と言うと俺も言葉を重ねる。
「あ~俺も一緒に行くわ。ついでに王様に俺のことを紹介しといてくれるとありがたいんだけどね」
俺の言葉を聞いた聖騎士国家の王は、「それは構わぬ」と言うと俺たち三人は聖騎士国の首都へと移動を開始した。
ちなみに聖魔人と聖天使族の女性は転移の術式が使用できるらしいので一緒に連れて行ってもらうことにしたのだった。そして首都に到着した後、王城へと向かうことになるのだが――。
聖騎士国家の王城に辿り着くまでに多くの国民たちの姿を見ることが出来た。そのほとんどの者がボロボロの状態なのだ。俺とライナルトが『ゴブリン』に襲撃されていた町を歩いていたときよりも更に酷い状態であった。そして王都に近づくにつれて怪我人を多く目にすることになったのだ。
俺が王城の門前までたどり着くと一人の聖魔人の兵士に案内された。
その兵士の案内で王城内に入ると謁見の間と呼ばれる部屋に通されることになる。
そんな王室内に入ると同時に一人の聖女が現れた。
「よく来てくださいました」そんな彼女に対してライナルトが言う。
「母上!?」
そう、その女性は聖女の証である白い法衣を身に付けている。
だが、その白かったはずの衣服は赤黒く染まっていた。そんな彼女は息子の姿を目に入れると安心した表情を見せる。そしてすぐにライナルトに近寄ると彼を抱きしめたのであった。
俺はそんな親子の様子を見ながら言う。
「ライナルトのお母さんは聖天使族なんだ」
俺がライナルトに話しかけると彼は、俺と母親を見比べて、どうして聖魔人と一緒にいるんですかと尋ねてくる。すると母親が説明を始めた。聖魔人によって召喚魔法により、この世界に呼びだされたこと。召喚魔法で呼び出された先で聖天使の『加護』を得たが、召喚の『代償』で肉体が崩壊し、聖武器を保管する『神の聖域』に封印されている状態になっていること。その状態で『神の聖域』を管理している聖天使から、自分の代わりを務める存在が召喚されるのを待つしかなかった。だが『神の使い手』が『天上界』へ旅立つ直前に召喚が行われ、ライナルトに宿った聖天使の加護の力を感じてこの世界に戻って来たのだと話す。
そして俺が聖魔人ルキアスに尋ねると「そうだ」と答えてくれた。
その後、聖魔人は『神の加護』を受けた『勇者』について話し出した。
この世界の人間は、生まれつき体内に微量ながら聖なる光を纏っており、『加護の力』という聖なる力が宿っている。
しかし聖魔人ルキアスは「お前は特別製なのだ」と語りだしたのである。
まず、聖魔人と聖天使族の二つの血を引いたライナルト。彼が持つのは【天上界の門】を開き『勇者召喚』を行えるだけの聖天使族の『聖加護』である。しかし彼が扱える『聖槍』アスカロンに注ぎ込まれるのは聖天使族の力ではなく聖天使そのものなのだと語ってくれたのである。
それから次に聖魔人と名乗った男は、ライナルトが持つ【神装武具】の聖剣アスカロンに目を向けて語り始めた。そのアスカロンにはライナルトと同じ聖天使族としての血筋を持つ者でなければ扱うことができない特殊な『加護』が備わっていた。その加護の名前は【アスカロンの導き】。これは聖天使族の持つ加護の一つで、武器の所有者となるべき人間を選ぶ加護なのである。そんな加護を持つ武器を手にしたライナルトを聖魔人を名乗る男に聖槍アスカロンを譲渡した理由を語った。
(なーるほど、だから聖槍アスカロンをライナルトに貸し出さなければ『召喚魔法』による『召喚』が行えなかったわけか)
そんなことを思った俺は聖槍アスカロンに目を向けてから質問した。
「なぁ、聖槍アスカロン。『聖加護』は二つしか持っていないのか?」
すると聖魔人は俺に向かって言う。
「ふむ、貴様、面白い奴だな。この聖槍アスカロンのことをアスカロンと呼んだり、そのように気軽に話したりする者は初めてだ」
俺は「まあ、そうかもな。ところでどうなんですか?」と返すと聖魔人は次のように語ったのであった。このアスカロンは、他の槍のように持ち主を選ぶことがないと答える。ただ「この世界には聖加護を持つ人間が限られているため、この聖槍は『魔王』との戦いが始まる前までには別の人物の元に行くことになろう」とも語る。
俺の『大魔螺旋』で消費する力を補填するには、その聖槍アスカロンの特別な力を使う必要があると知った俺は、ライナルトから聖槍アスカロンを受け取らない方が良いのではないかと考えたのだった。
聖魔人からアスカロンを受け取ったライナルトだったが俺は聖武器の回収方法について尋ねたのだった。
そして俺は聖魔人から、聖剣アスカロンを受け取るのに相応しいと思われる人物が誰なのかを知ることができた。それは聖魔人と聖女が『聖加護』を与えた相手であり、俺と同じように『勇者召喚』を行える資格があるということであった。その条件とは、
『天上の扉を開けたもの』『この世に存在する全ての聖加護を所持しているもの』『天上の扉を閉じられるだけの強い精神力の持ち主』の三つが揃うと、俺と同様に『聖武器』に力を蓄えることができるのである。そして俺は目の前の聖魔人に、もしも俺以外に『聖武器』の力を解放できる者が出現したら『聖加護』を与える気はないのかと尋ねると「そのような人物は現れない」と自信たっぷりに言い放つ。
(もしかしたら聖魔人にも分からないことがあるってことか?)
聖魔人のその言葉を耳にした俺の心の中に、なぜか「このままでいいのだろうか?」という考えが生まれるのであった。
聖魔人の元を離れた俺とライナルトは、ライナルトの母親と別れることになった。その際に彼女は「息子の命を救ってくれてありがとう」とお礼の言葉を口にしてくれた。そんな彼女の感謝に対して俺は気にしないで欲しいと言うとライナルトと王城から出て行った。
王城の外に出た俺とライナルトは首都の町へと移動する。そして町の様子を見回した。すると多くの民たちが怪我をして苦しんでいる様子が見て取れた。そのことに俺が言葉を失っているとライナルトの方から口を開く。
「僕の町を襲ってきた連中の仲間がいるかもしれません」
そんな言葉を聞いた俺は、聖騎士国の首都に潜伏していた『黒衣の悪魔』のことを思い出す。そこで、この場に留まっていても何も出来ないと悟った俺とライナルトが、その場から立ち去ろうとするとそのタイミングで声をかけられた。
「あなた方はもしかして『魔王の配下』と戦っていた人たちですか?私を助けて頂き本当に有難うございました」
そう口にして近づいてきたのは一人の女性である。そして女性は自分が『聖騎士国家の姫』だと俺とライナルトに告げてきた。するとライナルトが、女性の身分が分かった瞬間「姫!?」と驚いている。それからライナルトが女性と何かを話し合いを始めると俺一人が取り残された。俺は二人に声をかけようと思ったのだが二人の真剣な雰囲気を察したので遠慮したのだった。そんなとき俺の背後に現れた存在があった。その気配を感じた俺は振り向くと、そこには聖魔人の『聖天使族の力』を受け継ぐ女性が立っていたのだった。そして彼女は「先程の戦い、素晴らしかったですよ」と語る。
俺と『大魔人族の王の娘』と名乗る女性はお互いに名乗ることにした。俺は彼女の名前を『セフィア』だと言うことを知ったのだが、そんな彼女に対して「あなたのことは『セフィロトさん』と呼ぶことにするわね。これからよろしくね。『大魔王』さん。でも『お父様』と私の前では呼ばないようにしてね」と言ってきた。俺がその発言に疑問を抱いていると彼女はこう答えたのである。
実は『大魔人族の国』において魔王と呼ばれているのは『魔人族』の王なのであって本当の魔王ではないらしい。そして魔人の王は『魔族』を束ねる王であり『大魔王』と呼ばれる存在である。そして魔人は『聖騎士国』や、この大陸を支配する『魔人族』とは別種の生き物であると説明したのである。
そんな説明を俺にした彼女は「今度時間があれば私の部屋に遊びに来てちょうだい。それと聖武器について相談に乗ってあげるからね」と言って俺と別れたのだった。
「聖魔人ルキアスってのは何者なんだ? あいつのせいで俺が聖槍アスカロンに力を与えられないんじゃねぇか!」
そんな言葉と共に、俺の頭に『天上界の扉を開いた者』と、ライナルトに告げられた時の言葉が浮かんだ。
(天上界に繋がる門を開けたのは『聖加護』の【アスカロンの導き】のおかげだってライナルトが言っていたな。そのせいで『勇者召喚』が行えないってことか)
そのことが事実ならばライナルトが『聖槍アスカロン』の使い手に選ばれたのは偶然だった可能性が高いと、このときの俺は思っていた。そして俺は『大魔王』と自称した女性に話しかけられて少し興奮している自分に気がつき恥ずかしくなった。
(いかんな、俺としたことが少し取り乱しすぎているな)
俺の頭の中から雑念が消え去ったことで俺は冷静になった。
(だがライナルトの母と話せてよかった。ライナルトの母はライナルトのことを愛していてくれたようだ。それを知って俺は嬉しかったよ)
そんなことを考えているうちにライナルトとの話しを終えたセフィロトさんの話し相手が戻ってきた。その男性の姿は『聖騎士国家』の兵士だ。その兵士の姿を目に止めたライナルトが「彼は僕に聖槍アスカロンを貸してくれていた『聖加護』を持っているんです」と俺に伝えてくる。その話を聞き終えた俺は、兵士が持っている【聖弓ユグドラシル】に興味を示した。
「おい、見せてもらえるか?」
俺の発言を受けてライナルトとセフィアナが顔を見合わせた。そしてライナルトの方が先に動き出すと俺に向かって「彼に触らないでください。『聖弓』を悪用される可能性がありますから」と言う。俺はその言葉を耳に入れると聖弓の方に視線を向けてみた。そして俺は思わず驚きの表情を浮かべてしまう。聖弓が俺の目に入った直後、聖弓から膨大な魔力が溢れ出しているように感じ取れてしまったのだ。
俺は「悪いが聖剣も見せてもらうぞ」と言って聖剣アスカロンに触れる。そしてその瞬間に聖剣からも、聖槍アスカロンと同様の強大な力を感じ取ることが出来た。その結果、聖剣アスカロンを自分のものにするのは止めておいた方が良さそうだと理解する。
(どうも、こっちの聖剣アスカロンを、この世界の誰かが扱えるようには思えねえな)
俺は聖剣アスカロンを天城に渡したくないと思い始めていた。聖槍アスカロンの件があるので聖槍アスカロンを俺が使うことになるかもしれないが聖矢アスカロンの力については誰にも知られない方が良いと考えたのである。そこで俺は天城たちに「聖魔人と聖女が聖武器を与えた人間なら、その能力を使いこなせる可能性があるな」とだけ話しておくことにした。聖槍アスカロンの能力が、そのまま聖矢アスカロンに受け継がれるとすれば天城たちは聖魔人の加護を受けた者として、他の聖属性を持つ聖槍アスカロンを使用できるはずだからだ。
そして俺は『聖弓アスカロン』の所有者の男性から、聖槍アスカロンを返してもらうことになった。それから俺が聖魔人と『大魔王』を名乗る女性が同一人物だと明かすと、彼らは驚く。特にセフィリアは俺に対して「お会いしたかった」と涙を流しながら感謝の言葉を伝えてくれた。
その後で俺は、ライナルトの父親から頼まれていた『黒衣の悪魔』について質問をする。俺からの問い掛けを聞いたライナルトが父親の死を伝えた。そしてライナの父親が殺されてしまった原因は、ライナルトがライナルルンを殺された怒りから我を忘れてしまったことにあったと説明する。俺は「その責任は全て俺にある」と言った。するとセフィアスが、俺に謝ることなど無いのだと俺に告げたのであった。
セフィシアから「私にも貴方のような『聖加護』を持っていて、聖武器の能力を使うことができる人間が他にいれば協力する気があるのかしら?『聖魔人ルキアス』さん」という言葉を聞く。そして「もしそういう人物がいたとしても『聖武器』の力を開放できないと思うぜ」と答える。その返答に驚いたような表情を見せたセフィーアが俺に聖武器について語り始めた。そして『聖加護』を持たない者でも、聖武器に蓄えられている『勇者召喚に必要な力の結晶体』を使用することは可能だということを教えてもらったのだった。その話を耳にして俺は聖弓アスカロンがライナルトの母親を救う手助けをした理由を納得したのである。そしてライナルトの母親と聖魔人の関係は知らないと教えてもらって、そのことについても俺はセフィアと会話を交わす。
そして俺はセフィアに頼みごとをすることに決めて彼女に伝えたのであった。すると彼女は「私の願いを聞いてくれるかしら?私はあなたを気に入ったの」と言って微笑みかけてきた。そのことに俺は「いいぜ」と答えて彼女に頼み事をすることにしたのである。そして俺は彼女と取引を行った。
『大魔王』を名乗った女性は「セフィアでいいのよ。それに、私のことは『お母様』と呼んでね」と言うと微笑む。その彼女の笑顔を見た瞬間に、俺はこの女性に恋心を抱きそうになった。俺は今まで生きてきて、これほどまでに惹かれた女性のことを思い出せなかった。そんなとき「あー! セフィロト様ずるいわ!」と言って俺と彼女の元に現れたのはアリサだ。俺と彼女の関係を知らないアリサは「抜け駆け禁止ですよ!」と叫ぶ。そんな彼女に「抜け駆けじゃないわよ」と言い返したセフィロトは、俺に向き直ると「これからは、あなたの事『セージ』と呼ばせてもらうわね」と言ってきた。俺は「好きに呼んでくれ」と答えた。そして俺は『セフィロド王国』に向かうことを提案した。俺としては『聖騎士国家』よりも『聖魔人の王』であるライナルトと繋がりがあったほうが何かと便利だと考えたのである。
それからライナルトとセフィアと、セフィアの息子のライナルトと一緒に王都に戻るために馬車に乗って出発する。その最中俺は、天城の様子を見てみると彼女だけは浮かない顔をしていた。そんな彼女はライナルトに対して「『勇者召喚の儀式』を行うと決めたのは私だから、そのことに関しては私が責任を取ります」と、そう言って謝罪をしているところだった。
しかし、俺がライナルトに事情を説明したことでライナルトと天城の仲は良くなっているようだ。天城はライナルトに、どうして俺の言う通りにしたのかを問われて『勇者召喚の儀』を行わなければ国が滅ぶ可能性があったことを説明していた。
(それって、ただ単に俺を頼っただけの気がするんだが、俺の勘違いかな?)
ライナルトの母親は「そんなことありませんよ。『魔人族の王の娘セフィロト』は『魔人族の王』と敵対関係にある種族の王ですから、私たちの味方には違いなかったのです」と語る。俺は「魔人族の王? どういう意味なんだ?」と、そのことについて質問をする。その問い掛けにライナルトの母親が答えてくれる。彼女は魔人族の王の娘であるが故、『聖加護』が使えるらしい。そんなセフィアスがライナルトの母親に向かって「そんな、ご自身の身が危険なときに、なぜライナルトの為に?」と、ライナルトの母に疑問を口にした。その疑問を受けたライナルトの母は、「愛する家族のためなら当然のことです」と断言したのである。その言葉を聞いたライナルトと天城の顔色が一気に変わったのだった。そして、セフィアナの夫であり聖矢の使い手だった男性を俺が殺してしまったことに関して俺に謝罪してくれたのだった。
(俺のせいだって責められると思って覚悟を決めていたけど、よかった。ライナルトの家族に感謝されたみたいで嬉しいな)
そのあとは俺の提案通りライナとライナルトと聖天使の三人で『セフィロド王国』へ向かうことになった。ライナたちが聖弓アスカロンを使えない状態でも『聖矢アスカロン』の力を使いこなせたらライナルトたちに渡せば良いだろうと考えたのだ。聖矢アスカロンは俺の所有物になったわけだが俺の力で聖矢アスカロンが使えなくなるわけではない。
聖矢アスカロンを使うためには使用者であるライナルトたちの加護が必要ということにして、俺はライナルトに聖矢アスカロンを渡した。そして俺はセフィアスに向かって「俺たちの事は信用してくれてるんだろ?」と言うとセフィアスが嬉しそうな顔になる。その反応に満足を覚えた俺は、それからセフィアスとライナルトの会話を黙々と聞いていたのだった。
そしてセフィアスがセフィアナに「ライナルトを『聖騎士団長』に任命してあげて欲しい」と頼むと、セフィアナは驚き戸惑っていた。
その後セフィロトにライナルトを任せることにした俺は「俺は天城と一緒に『大魔王』を名乗る『魔人族の女性』の元へと向かうことにする。その『大魔王』の正体を俺は知っているからだ」と言って、セフィアナとライナルトたちから離れようとした。
その俺の行動を見て、セフィアスは「あら? 一緒に付いてきてくれないの?」と寂しげな表情で問いかけてくる。俺は「俺はこれから、ある場所に向かいたいから、その用事が済んだら必ず戻ってくる」と答えてセフィアスとの別れを惜しむのであった。
(それにしてもセフィアスって、こんなに綺麗な人だったっけか?)
俺は今になって、俺はセフィアスのことを見つめながらそんなことを考えている。そんなとき、セフィリアが俺をセフィストの元に案内すると、俺の腕を取って引っ張るのである。そんな俺とセフィアスが楽し気に話しているのを見かけたセフィロトが嫉妬するような目で睨んできた。俺のその行動が余計なことだったのだとセフィロスに悟らせたのだった。そして俺とライナルトはセフィロトに連れられてセフィロド王国へ向かった。
その途中で俺はライナスに天城に話しかけていたセフィアナのことや、彼女が魔王の協力者だった可能性があるかもしれないことを話す。するとライナスが「その件について、私にお任せください。『聖女アリシア様』に会えば分かるでしょうから、そのときに調べさせましょう」と答える。俺は「よろしくお願いします」と返答するとセフィリアにセフィストのところへ早く連れて行けと急かされてしまうのであった。
◆ ライナ視点 ◆ 私の名はライナス=ハーティス。『大魔導士ダバルプス』の魔法による『呪い』によって『聖騎士国セイクレッド』の『騎士見習い』として『魔王』を倒すための訓練を受ける羽目になってしまった。しかし私は『勇者召喚の儀式』の生贄にされるはずだったのだけれど何故か、私だけ生き残りこうして聖弓アスカロンを手にして聖騎士国の王宮へと戻ることになったのだった。そして聖魔人と聖女の二人と行動を共にしながら魔王城に向かっていたのだが聖魔人と聖女は『魔王城での戦いは自分達に任せてくれ』と申し出てきた。その申し出をありがたく受け入れて私達は聖弓アスカロンを使って魔王の『四天王の一人デヴィルス』のいる魔王城の近くの町へと向かったのである。そしてこの町の近くで『四天王』の一人である『闇属性の魔女マミラス』を退治するために聖剣エクスカリバーを開放する儀式をすることになった。聖弓アスカロンには特殊な効果があるようで『聖なる加護を持つ勇者が使用した武器ならば、誰でも聖弓アスカロンを開放させることができるのではないか?』という仮説を立てた聖魔人は『大魔導師アルザード様』の協力の元でこの儀式を成功に導くことに成功した。
私はこの聖魔人が聖槍ゲイボルグも開放できないか確認をしてみたが聖魔人の回答は予想通りのもので「私は、まだ聖魔人の力を上手く扱えないのよ。聖武器は私の武器ではないし、聖矢アスカロンのように私の能力と一体化していない武器だから、私が解放できるのはこの二つの聖武器だけよ」と聖槍ゲイボルグも聖矢と同じように、この聖魔人の力を受け付けないという答えをもらった。私はそんなやり取りを思い出していた。
そんな状況の中『大魔導士アルザード様』の魔法が『大魔人セフィロト』の体に吸い込まれるようにして消えていくのを確認した瞬間『勇者の勇者』の力が聖魔人に継承された。聖魔人の外見が変わり身長が伸びると、まるで別人のように見える。そんな彼女の雰囲気は先程までとは違い威圧感を感じるようになったのだ。そして聖魔人に向かってライナルトの父親が「ライナルト、あの聖矢の使い手は『セフィロト』様に何か関係があるのか? あれほどの力を持つ聖魔人様と面識があるのか? そして何故お前だけが『セフィロト』様の『聖矢アスカロン』に選ばれたのかを教えろ!」と言ってきた。そんな父親の言葉を聞いたライナルトは「俺も詳しくは分からない」と口にしたあと、聖矢アスカロンと聖魔人の関係を語り始めた。その説明を受けた父親は納得したように「そうだったのか。まさか、このような繋がりがあったとは」とつぶやく。
そして聖魔人が「ライナ、あなたのお母さんの名前は?」とライナルトに尋ねる。その問いかけに対してライナルトが答えを返すと「やっぱりね、ライナのお父さんは私の兄だもん」と答えた。そんな二人のやりとりに父親や、その場に居た全員が唖然とするのであった。ライナルトとセフィロトの二人は親子で聖矢アスカロンを使っていたことになる。ライナルトの母親と、聖矢アスカロンは、セフィロトの母から贈られたものらしい。ライナルトの母は聖魔人の娘だったようだ。
それから聖魔人と聖魔人の仲間であるセフィロトの二人が魔王の城へ向かって行く。その道中の雑魚敵は聖魔人にとっては物足りないらしく聖矢アスカロンの矢だけで片付けてしまったのだった。聖魔人たちは魔王城の近くに転移してきた。どうも聖魔人によると『転移の術』ではなく別の移動方法があるそうだ。それはセフィロスも初めて知る方法らしい。その方法は聖武器の能力を発動させることだという。つまりライナスの持っていた『光り輝く翼』や、聖矢の使い手の『聖弓』を、どのように使うのかということだろう。
セフィロスとライナルトが聖魔人たちが『魔王城にいるであろう四天王の一人デヴィルス』を倒す前に、『大魔人』のセフィロトと話をして『魔王軍の関係者』かどうかを確認するという話になっている。聖矢アスカロンの能力は凄いものだったがライナルトの持つ聖剣の力は弱いままのようだった。
◆聖矢アスカロンは、ライナルトが魔王の城に着いて、聖魔人と出会うまでは使いこなせなかったみたいだけど聖魔人が現れてからというもの、すぐに使いこなすことができるようになっていたのだった。聖矢アスカロンの力というのは、ライナルトの聖矢アスカロンと聖魔人の聖矢アスカロンの2つの武器を使う事ができるというものだったのだ。聖矢アスカロンを聖剣と融合させたことで「聖矢アスカロンを使えているのに聖剣は使えていない」状態になってしまったライナルト。聖矢アスカロンは聖剣が使えないライナルトに「私ならあなたが使えなかった聖矢アスカロンを使う事が可能ですよ。私をご利用になりますか?」と語り掛けてきて聖矢アスカロンがライナルトを気に入ったために「じゃあ頼むよ、相棒」と話すと聖矢アスカロンと融合したのである。聖矢の力とライナスの力が混ざって『聖矢の勇者』になったライナルトは魔王軍の幹部を倒したあと、セフィロトが「勇者として目覚めるために、ライナと聖魔人が協力してください」と言ってライナルトに聖魔人と握手するように告げる。
ライナルトと聖魔人が聖魔人から与えられた試練を受けて、二人で協力して「闇の女神ダークネス=ザハークの加護」を授かったときに、ライナスの持っている『光の加護』も覚醒していたのであった。
(それにしてもライナスの父親に質問されて、なぜ聖魔人は母親の名前を答えられなかったんだろう? まぁいいか)
◆聖魔人は聖矢アスカロンが自分になついていることを確信すると「私がライナルの勇者と認めるわ。あなたを私の勇者として受け入れてあげる。でも勇者として目覚めたばかりで力が不足しているようなので『闇の加護』を与えましょう」と宣言すると、聖魔人と聖矢アスカロンの力でライナルトが新しい『闇の加護』を授かるのである。聖弓アスカロンに聖弓と聖剣が合体したときに聖剣と一体化している状態で新たな『闇属性の加護』を貰ったのだ。聖魔人の言葉通りなら、この『聖矢アスカロン』を『勇者が装備』することで、聖弓に備わっている様々な効果を発揮させることができ、さらには、より強力に進化した『聖なる加護を持った勇者』のみが使用可能な『聖剣エクスカリバー』の本来の能力を引き出すことができるようになると聖魔人は言っていた。聖弓アスカロンを手にしたことによって、勇者としての力が強化されたのだ。そしてライナルトと聖魔人は聖武器の勇者となった。そして『聖魔人の聖矢アスカロン』を手に入れたことにより『大魔導士セフィスト』から授けられるはずだった「大魔王」の力が使用可能になっていたのだった。セフィロトの『大魔王の錫杖』はセフィストの手に渡ったままだった。セフィロトは聖魔人に「大魔王は大魔王様が復活されるまでの間、勇者が預かってもらえませんか? 勇者の勇者様ならば大丈夫でしょう」と頼み込み、勇者が魔王の城に到着するのを待とうという結論に至る。
そんなときだった。突如魔王城の門が開いて巨大なモンスターが現れた。この世界の魔王の配下には「悪魔」「巨人」などの強大な力を持つ種族がいるというが、この『魔王軍幹部の将軍ジェネラル』と呼ばれる『魔王の四将』の一体の姿を見て驚愕する。この『魔王軍幹部の将軍ジェネラル』は、他の魔王軍の将軍と比べても一回り大きいサイズなのだ。その巨体を見てライナルトと聖魔人は驚き、セフィロトの仲間たちや『聖騎士国セイクレッド』の騎士たちは腰が抜けていた。
この『魔王の四天王のデヴィルス』だが見た目は醜悪そのもの、体は人型のデブデブだ。デヴィルスは「俺はデヴィルス、四天王の一人だぜ。お前たちが『四天王の四天王のデヴィルス』と呼んでいるヤツだよ。さて、勇者様よ。俺の部下になる気は無いか? お前は強い! だからお前は、この俺の仲間になってくれよ。悪いようにはしないぜ」と口走る。ライナルトは、いきなり現れて仲間になれと言われても「何言ってんの? 誰がお前なんかに!」と答えると、デヴィルスが「おいおい、お前の相手は後だ、先ずはお前たちだ」と言うとライナルトたちに襲い掛かってくる。しかし聖魔人が間に入るとライナルトを守る盾となる。そんな聖魔人に対して「女に守られて恥ずかしくないのか?!」と言い放つが、それに対して聖魔人が一言だけ答える。
「別に恥に思わないけど。私が、あなたを倒すから問題はないわ。私が、あなたを倒してから、ゆっくりと話をしましょう」と余裕たっぷりの聖魔人の発言に『魔王軍の大将軍ジェネラル』デヴィルスが激怒する。
そして『聖槍ゲイボルグ』を振り回し始めると、ライナルトの体を目掛けて投げてくる。ライナルトも『聖矢アスカロン』を素早く引き抜いて迎撃をする。ゲイボルグの攻撃を聖矢アスカロンの防御結界が弾いたのだ。聖魔人もライナルトを守るために戦いを始めた。聖魔人の『聖矢アスカロン』の力が炸裂した。それはライナルトの持つ全ての武器の中で最強だと思える威力を持っていた。聖魔人が放った一撃によって『魔王の四天王』の一人『デヴィルス』は消滅した。それを見たセフィロトが「ライナ、あなたの勇者としての覚醒を祝います。私からプレゼントをあげましょう。受け取ってください」と言うと聖魔人からライナルトに『魔王の錫杖』が贈られる。ライナルトの武器は聖矢アスカロン一本のみ、それも『光の勇者』であるライナルトしか使う事が出来ない最強の武器だった。聖魔人はライナルトと別れ際にライナルトはセフィロトと握手をした。
聖矢アスカロンをセフィロスに返してライナスがセフィロスに「父さん、お願いがあるんだけど、良いかな?」と尋ねてから聖魔人の事を頼むと、そのセフィロスとセフィウスが聖矢アスカロンを使ってライナルトの援護をするために聖魔王城へ向かったのであった。ライナルトの勇者としての旅立ちが終わりを迎えようとしていた。聖魔王の城へと向かおうとするとライナルトが聖矢アスカロンを地面に突き刺すと、そこに魔法陣が出現してそこから聖矢アスカロンが飛び出してきたのである。どうやら『転移の術』と同じで、あらかじめ『聖魔人』が用意してくれていたということだった。
それからライナルトはライナと聖魔人と別れを告げると聖魔王の城に出発する。魔王城を後にしてから数日が経過したが、なかなかライナに会うことができなかった。なぜならライナが『聖魔王の四天王の一人』を一人で討伐に向かったからである。
◆ライナルトが、ライナが魔王の城に行っている間にライナが所属している国の『騎士の国グランゼ王国』の王都に向かうことにする。ライナルトが『転移魔法陣』を使って、まずは『騎士の国グランゼ』の王都へと向かうことにしたのであった。王都内に入るのには、やはり冒険者登録が必要だ。そのため王都内に入ろうとすると衛兵に止めれられたのである。
ライナルトの所持していた身分証はセフィロトに作って貰った偽造のものであるために、セフィロトが居なければ、おそらく入国すらもできないだろうと思われた。ライナルトが「セフィストが居るはずなんだ。彼に連絡を取ってほしい。セフィアス殿に取り次いで欲しいんだ。そうじゃないと困るんだ」と訴えるが、取り合ってもらえずにライナルトが「そこを通してくれ」と懇願するが、結局ライナルトが押し通ることができないままで、仕方なくライナルトが門番に対して剣を抜いて脅しをかけようとした時だった。後ろから声をかけられたのだった。「貴公、その若さで剣を振るうつもりなのか。見たところまだ若僧だというのに」と話しかけてきた男こそ、この騎士の国の騎士長を務めているライナの義父である『グランディアの騎士王 レイナルド』である。ライナルトはレイナルドが持っている「グランディアス騎士団」という騎士団に所属している騎士であることを知って「あなたが、あの『勇者殺しの剣』を使いこなしていると言われる、この世界では知らない者がいないほどの剣の達人
『勇者』の称号を得た剣豪の『ライナス』という者で合っているのでしょうか」と、確認すると「いかにも、私がその剣の名を与えられた勇者『勇者殺しの剣』を操る『剣豪』ことライナスだ」と名を名乗ると剣を構えて見せた。そして二人は手合わせを行う。剣の腕前でいえば『ライナス』の方が上なのだが、『ライナス』の攻撃をライナルトは全て防ぐことに成功したのである。そして二人の勝負に終止符がつくとライナルトと『ライナルト』の会話が行われた。「俺は勇者の力を得て『聖騎士ライナルト』として生まれ変わったのだ」と語ると、それに答えるかのように『聖剣エクスカリバー』が輝きを放つ。そして『勇者エクスカリバー』は聖剣エクスカリバーと聖矢アスカロンの二刀流となった。
その後、この騎士の国の国王から「お主を騎士として認める。我が娘の婚約者となってくれまいか。そして我と共に、魔王を倒そうではないか」と言われたライナルトは、すぐに承諾をするのだが「俺は俺の仲間と旅に出る。その仲間を待たせることはできない。なので、仲間が待っている場所に連れて行ってもらいたいのだが?」と告げると、レイナルドに「わかった。しかし、ここから離れた場所にいる者たちは仲間に加える事は出来ぬぞ」と忠告を受けるが、「大丈夫です。もうすぐ合流できると思います」と答えるとレイナルドがライナルトに向かって『魔王の錫杖』を手渡す。
『魔王の錫杖』を手にしたライナルトに『魔王軍四天王』の残り二人を倒す力が与えられたのであった。この錫杖はセフィロトがライナルトのために作り出したものらしい。この『魔王の錫杖』に魔力を流し込むとライナルトに強大な力が解放される。
そして魔王四天王最後の一人を倒すとライナルトの新たな旅立ちが、ついに始まろうとしている。ライナルトの前に、この世界の『勇者』にして、かつて共に戦ってきたライナルトの親友のライナスが現れた。ライナの肉体は『勇者』ライナに殺されたはずだったのである。
この『聖魔王』になったライナルトがライナと再会することになるとは思ってはいなかったのであった。この世界で『勇者』になったのはライナルトではなくライナであり、ライナは既に死んでいて『勇者の体』を魔王の『デヴィルス』と名乗る存在が操っていた。そんな真実をライナルトはまだ知るよしもないのであった。
俺は『ライナルトの記憶』を見て驚愕する。なんせ俺の目の前に現れた男は俺と親友のライナルトだと言うのだ。
そんなはずはない。ライナがライナを殺すなんて事はあり得ない事だと思っていた。しかし目の前の男が言うのだから間違いはないのかもしれない。でも本当に、こいつは俺の知っているライナではないのか。ライナは死んだはずだ。俺が殺したのだから、だが目の前の男から感じられる波動のようなものを感じることができる。それが何を意味するのかは分からなかった。俺は「ライナルトなのか? どうしてお前が、こんな姿に変わってしまったんだ?」と質問をしてみた。
するとライナルトは「何を言ってるんだ。お前が倒したはずの『光の勇者』であるお前の幼馴染みは、お前と別れた後、お前の両親と一緒に魔王軍に殺されてしまったんだぜ。俺は勇者の力に目覚めていたんで、魔王軍の連中を倒しまくってたんで、勇者の力で蘇ることができたんだけどな」と語った。
「それなら何故ライナルトの意識を封印してライナが表に出てこれたんだよ」と言うとライナルトは「それはライナの心が『聖魔王』として目覚めたことで、魔王軍の奴らにライナの体が奪われないようにするためだったんじゃないのか?」とライナルトが答えた。
ライナがライナルトに質問をした。「私も勇者の力を手に入れて聖魔王になることが出来るわよね。聖魔人セフィロトから、そう聞いてるけど。私はライナルトに私の体を譲ればいいわけね?」と聞くとライナルトは首を振った。「残念ながら君に聖魔王の力は使えない。『聖魔王の加護』は俺にだけ与えられる物であって、俺以外が持つことは許されないものだから、たとえライナちゃんが『聖女』の力を持つ女性だったとしても無理なんだ。ライナには聖女の力は宿っているけど、それはあくまで『聖女』の力しか持ってないだけだ。それだと、聖魔王の器としては不完全なんだ。それでは、ただ単に『聖魔王の力を扱える』だけの器になってしまうだけで意味がない」とライナルトは言ったのだった。
そしてライナルトはライナに向かって「聖魔人は『聖魔王の力を扱える聖天使』だ。つまり聖魔人が聖魔人の鎧に変身することで聖魔王として聖天使の力が使えるようになる」と説明したのであった。俺はライナルトの話を聞いて思ったのである。もしかしたら『勇者』と『聖魔人』とが融合して新しい勇者が誕生するのではないかと。俺は、もしかしてと思った事をライナルトに伝えた。
「なるほどね。確かに聖魔人ライナの体の中に聖剣アスカロンの核が存在しているから『勇者』と融合した状態でも聖魔人に変身することが可能だと思う。聖魔王の力を扱えなくても聖剣アスカロンの『聖魔人を聖魔王にする力』は使うことができると思う。ただし、あくまで聖魔王の力を扱うための修行は必要だろう」とライナルトは話した。
俺は『聖剣エクスカリバー』の所持者『勇者』として覚醒し聖剣エクスカリバーと一体化してしまった『勇者』ライナルトは聖剣エクスカリバーと聖剣アスカロンが聖剣と聖弓の二刀流で戦うことの出来る『二刀流の聖剣士』だったのだという事を知った。それだけではなく、ライナルトと融合した状態であれば『勇者ライナルト』と『勇者』の称号を持っている人物のみが習得できる『光輝』の能力も使えるのであるとライナルトが説明したのである。そして『勇者ライナルト』に聖女の力を与えてくれたのが聖女の勇者『聖剣エクスカリバー』であると知った。
俺は『聖剣エクスカリバー』を手にすると聖女が持っていた聖剣エクスカリバーは『聖剣アスカロン』へと変化した。ライナルトが言うように『聖剣エクスカリバー』に『聖女の勇者』が『聖剣アスカロン』の核が取り込まれると『聖魔王の剣』と『聖剣アスカロン』が合体し、新たに『聖剣エクスカリバー アスカロンフォーム』が誕生した。ライナルトの話からすると、これは『勇者と聖女の力を持った勇者の剣』という感じのようだ。
俺は聖魔王と聖騎士の二人から「魔王四天王を倒したので俺に『魔王の錫杖』を渡して欲しい」とお願いされた。『魔王の錫杖』を俺が持っていると『魔王四天王を倒せばライナルトが魔王になれる』と言われてしまいそうな気がしたので、俺は二人の願いを受け入れることにした。俺は『魔王の錫杖』を受け取ると「ライナルトよ。ライナと共に世界平和のために旅立ってくれ。俺も近いうちに旅立つ。魔王を倒すためにな」と、告げると俺は「『ライナルトの魂』と『勇者の身体』はどうすればいい? このままにしておくか?」とライナルトに尋ねるとライナルトは『ライナルトの肉体』を俺に返して欲しいと言った。
俺が「ライナルトの身体を元通りにしたら、またライナの中に戻ってしまうんじゃないか?」と聞くと、「いや、『勇者の力に目覚めたばかりの頃の俺』に戻るだけだから大丈夫だ」とライナルトは答えたのであった。俺はライナルトに、ライナルトの『聖魔王の力の使い方と技の説明』と『勇者の力の使い道についての説明』と『ライナルトの記憶と経験が書き込まれたデータ』が詰まった水晶を渡すと、ライナルトは「ありがとう。俺はこの力を完全にものにするために『聖魔王城』に向かうことにする。ライナは俺が守って見せる」と言って、俺に『魔王城の玉座の間』へと続く通路を作り出したので俺は『魔王城に足を踏み入れる』。
俺の目の前に現れたのは、俺にとって因縁の深い魔王軍四将軍の三人が俺を出迎えてくれてたのであった。俺は三将軍と『四天王の長』に案内されて『玉座の間』へと向かうとそこには魔王が待っていて俺に挨拶をする。俺はライナルトの意識の中で魔王と戦ったことがあるからこそ、その実力を知っているのである。魔王は強い。
『四天王』の二人を倒して手に入れた『魔王の加護』を使って『魔王四天王の二人』と融合しなければ勝てないほどの圧倒的な強者だったのである。しかし、この『加護』を手に入れた後にライナルトが、この魔王に挑むとは考えにくいのだ。なぜならば魔王が『ライナルトの勇者の力に目覚めた頃の強さ』より『今のライナルトの強さの方が、ずっと強くなっているからである。それに魔王の力を、ほとんど手に入れていない状況での魔王戦は厳しいものがあるはずだ。
魔王は、かなり弱くなっているはずで、それほど苦戦するようなことはないと思っていたのだが予想に反してライナルトはかなり苦労していた。だがライナルトは『光の勇者』の『勇者の体』と聖剣エクスカリバーの『聖魔人を聖魔王にする能力』が合わさることで『光の聖魔王』と化すことができた。
そして魔王を倒してしまうとライナルトは完全に消滅してしまったのでライナルトの記憶とライナの記憶は俺が引き継いで、そのまま『ライナルトの故郷』に帰ることになった。俺は、まだ見ぬ新天地で新たな生活を送ろうと思っている。まずは俺自身のレベルを上げることが優先課題なので頑張るつもりだ。
『勇者の力を受け継いだ者』『聖魔王の力を受け継ぐ者』の二人が融合することで誕生した新しい聖魔王が誕生したのだ。しかし、ここで予想外の出来事が起きるのだった。
ライナルトの幼馴染みのアリシアスが「私、聖魔人になってみたい!」と言い出したのだ。俺は「聖魔人にはライナルトのように意識がない状態にはならないからダメだよ」と注意したのだが、聖女と聖騎士の力を持った『聖女の騎士』が「私が『加護の試練』を合格して『聖魔人になる資格がある』と言われたらライナルトは私を『聖魔人にしてくれたのに、私は拒否するの?』って、アリシアスは言っていたんだ。そして『聖魔人のライナが聖魔人にならないと、私は聖魔人になることを拒否する』って言っている」と教えてくれた。そして、その話を聞いた聖魔王はライナルトに対して質問をしていた。
聖魔王は『ライナの身体から出る方法を教えてやる』と約束したがライナはそれを断ると聖魔王が、ある『提案』をしたのだった。聖魔王の言うとおりに、その方法でライナの身体から脱出すると聖魔人と聖女が融合したライナがライナの前に現れた。その姿は『聖魔人ライナ』である。ライナに「これから聖魔王として俺がお前の力を貸してもらうことになる」と言うとライナが答える。「うん。よろしくね。それと『勇者』の力は『聖魔剣アスカロン』と『聖弓エクスカリバー』と『聖魔弓エクスカリバー アスカロンフォーム』の3つだからね」と答えたのである。
そして、その後ライナルトは聖魔人として覚醒して『光輝』の能力を完璧に使えるようになったのであった。俺は『魔王城の地下にある隠し部屋に行く』と聖魔王と聖騎士の鎧が保管されていた。ライナと俺は聖魔王と聖魔人の『力』を合わせて融合することで新たな聖魔人が誕生しライナの身体から外に出ることができることを、そこで聖魔王に教えられたのである。聖魔王と聖女の力が融合して生まれた新たな『勇者の聖魔人』の誕生だ。
『魔王』と『聖魔王』とが合体すると『聖魔剣エクスカリバー アスカロンフォーム』が手に入るということが分かったので『聖魔剣アスカロン』と聖魔人が合体できる可能性を考えることにした。しかしライナルトは「ライナは聖女と融合した聖魔人であるけどライナの体は『聖剣アスカロン』の剣の部分でできているわけではない。ライナはライナであって聖剣アスカロンに変身することはできない。『勇者の力を引き継いだ者が聖剣アスカロンに触れると一体化することが出来る』というのは、このことだな。つまり聖魔王が『勇者の力を引き継ぐ』か『勇者の力と聖剣が一体化する』かどちらかしか無理なんだ」と話したのである。俺は、そう聞いて残念な気持ちになっていた。聖剣エクスカリバーは聖魔王の力を吸収することができないということが分かってしまったからである。
俺は、あの魔王に「勇者の力を引き継ぎ」とかいう言い方をされた時は、すごくイラついたし、俺もライナルトに『勇者の力を引き継いで欲しい』と頼まれたが「俺は、そういうやり方は好きじゃないし俺の力で誰かを救ってあげたいし」と思ったのだ。俺も「俺も勇者になったのに俺だけ、あんな扱いされるのは我慢できない」と思いつつライナの体から出た。俺はライナと別れると聖魔王に『勇者の力を受け継ぎ』について尋ねた。すると『勇者の身体』と『勇者の魂』が、ともに聖魔王の中に入ったときに聖魔王の中に『勇者の力の継承の仕方』というデータが入っているという。それを知った俺は「じゃあ、俺にも勇者になれるチャンスがあるかもしれないんだね?」と嬉しくなって言うと聖魔王から、「ああ。『勇者の肉体』と『勇者の魂』のどちらも持っていないと勇者になれない」という話を聞く。
しかし『勇者の肉体』はライナルトと融合しているので、ライナを殺さない限り奪うことは出来ない。俺は、ライナを殺すことはしない。俺に『命を助けてもらった恩義』があるからだ。それに『仲間を見捨てて逃げるような男』を俺の仲間にして『仲間達の信頼』を失うような真似を俺は絶対にしない。俺は『自分の力で、なんとかするしかないかぁ』とため息を漏らしながら呟いたのである。
『勇者の魂』は、ライナルトの体に宿っているが「勇者の肉体」は俺の肉体に「魂」も、ちゃんと移されているのだろうか?
「俺もライナと同じように『勇者』にならなくちゃいけないのか? まあいいか。『聖魔人』が勇者の身体の所有権を俺に譲渡すれば俺がライナに身体を貸してもいいってことなんだろう」俺は聖魔王と聖女に聞くと二人は、「そうだ」と返事をしたのであった。
俺が『勇者の力を引き継ぐために、この世界のどこかにいる俺と同じぐらいのレベルの存在に『聖剣アスカロン』を使って触れなければならない』ということをライナとアリシアに話すとアリシアが「私が勇者になって勇者の肉体に触れれば良いのね」と言ったので、俺は慌てて止めに入る。俺の言葉を聞いてアリシアは、ちょっと怒った顔で俺をにらむ。
俺は「アリシアは俺が『魔王を倒すまで待ってくれ』と言っていた時に『魔王を倒しに行け』と言って『ライナやライナルトと一緒に戦わせてくれ』と、お願いしても聞き入れてくれなかったから、俺の事が信用できなくなったんだよな」と俺は思い出したのだ。それで俺は「『魔王を倒して平和になるまで一緒に居させて欲しい』と頼むつもりだった」と嘘をついて説明したら「そんなに私の事を思ってくれたのね。嬉しいわ」と急に笑顔になり抱きしめてきて俺の顔に顔を近づけてきたので「違う! 誤解だー!」と俺は叫んで必死に離れようとしたのだが離してくれないのでアリシアに文句を言う。しかし、その時「いいぞもっとやってしまえ」というような目でライナルトは見ていたのである。結局「私達は夫婦だから何も恥ずかしがることは無いよ。ライナルトの前で、たっぷりとイチャイチャしましょ♪ キスしましょう」と言われて何度も濃厚なラブコメみたいな感じで唇を奪われてしまったのだった。なんか、この世界に来てから本当にモテ期が来たみたいだなと改めて思うのだった。それにアリシアは超絶美人だし俺は満足してしまう。でも俺には、まだライナルトが居るので浮気なんて出来ないと心に誓うのだった。
俺は『聖魔人ライナと合体』するために『聖魔王』に言われたとおりに『ライナルトの故郷』に戻ることにしたのである。俺はライナルトを連れて行こうと思ったが「ライナの故郷に行ってみたい」とアリシアに言われて仕方なく連れて行くことにするが『ライナがアリシアに気があることは知っていたが俺よりもアリシアの方を愛しているみたいだ』と感じたのだ。俺は「ライナの事は好きだから『恋人』になりたいけど、アリシアには勝てる気がしなかった。俺の気持ちはどうなるんの!?このままアリシアと結婚してしまうことになるんじゃないだろうな」と心の中で思いながらも、とりあえずアリシアと共に『ライナルトの故郷である王国』に向かったのである。
『ライナルトの故郷である国』『聖魔剣アスカロンが保管されていた隠し部屋』『聖魔人の肉体』『聖魔人の鎧』『ライナルトが魔王城地下で封印されていた隠し部屋』には、この国の王女『リリアンヌ』が滞在していた。そして『リリアナ姫はライナルトの恋人なのだ』ということも俺は聞いていたのである。そしてライナルトの実家に向かう道中に、その事実をアリシアに話すと、その話を聞いていた『アリサ』が反応する。
俺は、どうして『ライナの生まれ故郷の『王国』』にいたのに、あの『聖魔人』は『魔王』になっていたのだろうかと考えたが「聖魔人ライナは魔王軍の一員でありスパイだった」という可能性があるとライナとライナルトは考えていたらしいが真相は不明のままである。とにかく『ライナ』が、どうやって『ライナルトの生まれ故郷の国王である兄を裏切った』のかは不明である。
そして、この王国の王族の1人で『勇者』でもある『王子ライナルト』と『魔王軍の幹部である大魔王のライナ』は、なぜ仲良くしているのかという謎が俺の中に残ってしまう。ライナルトは、いったい何者なのか。この世界に来たばかりなのに、なぜ大魔王になったのか。ライナの故郷に行ったときに疑問を解消したいと思うのであった。
俺はライナルトが、この国の王と王妃の息子だと知ったのは『大魔王』になる少し前のことだった。
「俺の親父は大魔王『勇者』だよ」と言われた時はかなり驚いたが俺は「大魔王を倒した後に勇者と会うことがあるかもしれない」と思っていたのでそれほど動揺はしていない。俺にとって「俺も、この世界に勇者が召喚されるって聞いたから異世界からやって来たんだよね。だから、あんまり驚かないなぁ」と思っているだけだった。だけど「そうかぁ。やっぱり大魔王も俺の知り合いなんだなぁ。ライナのお母さんも大魔王だし、ライナのお姉さんも大魔王だし、ライナと、ライナルトは、俺にとっては身内のような存在なんだね」と呟くとライナも、そう思ったようで、お互い笑みを浮かべる。俺の、お婆ちゃんに当たる人の名前が「アイ」というのを聞いたライナルトは俺に、この世界のことをいろいろ話してくれたのである。この世界で魔王と言えば、ライナルトの母親が、そうだったことを思い出していたのだ。
『勇者は、どの時代になっても存在するのだ。つまり勇者の使命とは、いずれ来る魔王との決着をつけることである。しかし『勇者は死ねば生まれ変わるのだ』』
ライナルトは俺達に、そんなことを語ってくれたのだった。俺達は、その後、しばらくライナルトと旅をして俺達の住む街に戻り、俺の家に戻ってきたのであった。俺の家に入ると、そこには、この国の王様がいる。俺達が家に帰ってきたことに驚き「勇者ライナルト、アリサ殿。ご無事ですか」と心配そうな顔で俺達を見るのであった。
俺は「勇者ライナルト、ただいま戻りました。勇者の力をライナに引き継ぎます」と言うとライナのお父さんと母さんの二人が嬉し泣きをしながら「よくやったライナルト」と言って俺と握手を交わすのであった。そして、俺も自分の両親のところに行くが両親は俺を見て涙を流すのである。
俺がライナの故郷の国に行ったのに『ライナとアリシア』の姿が見えなかったので俺が不思議に思っているとライナルトの父親が「実は『勇者の肉体』と『勇者の魂』の二つの能力が必要なのだが、『勇者の肉体』だけあっても駄目なのだ。だからアリシアは『魂』を探すために、ライナルトの故郷である国に残り『魂を探しに行かせてほしい』と言って出ていった。それから3年が過ぎているがアリシアはまだ帰ってきていないので、アリシアのことが、かなり気になっているみたいだ」と説明してくれたのである。俺はライナに聞くと「アリシアなら大丈夫だろう。あいつも勇者として戦えるぐらい強い。それに俺より、よっぽど『聖剣アスカロン』を使いこなして魔王軍と戦っていたしな」と言ったのであった。
『勇者の肉体』が無ければ『ライナルトと合体して勇者の力を手に入れることが出来ない』と『聖魔人ライナ』に言われた俺は『俺の肉体』は今どこに存在しているのだろうかと考えていた。
「『勇者の身体は魔王軍に奪われたのではないのか?』と考える」俺が独り言を呟いた瞬間にライナが「それは無いだろう。勇者を倒せるほどの『強敵』が現れない限り魔王軍が『勇者の身体を奪うことは無いはずだ」と言うとアリシアは「それは、どうでしょうか?私も勇者に成り代わって勇者を倒し、勇者が所持する最強の武器を私が手に入れ、私の手で魔王軍を殲滅しようと考えていたのでは?と疑いたくなります」と言い「それに、勇者の肉体を手に入れたら私でも『聖魔人』になれるかもしれません」と、とんでもないことを言う。しかし、アリシアの話に『魔王』である『アリシアの父』と『ライナの母』が反応する。「『アリシアが聖魔人に進化できるかもしれない。だが聖剣アスカロンがないとダメなのだ』」と二人は言い合うと俺達は「聖剣アスカロン」が何処にあるのか知っていると思われるアリシアの方を見ると彼女が説明してくれるのだった。
俺はアリシアの話を「そんなに簡単には『聖剣アスカロン』の能力は得られないんじゃないかな」と思っていたのである。『聖剣アスカロンはライナが、もともと持っているスキルで『ライナルトの体の中にあるから俺には使えない』ということらしい』と俺が言うとライナルトは少し考え込んでいたのである。
俺は『聖剣アスカロン』の能力を詳しく知らなかったのでライナルトから聞いてみる。『聖剣アスカロン』の『真の使い手である者だけが使える特殊能力』が凄い。その力を使えば、どんな魔物でも倒せてしまいそうだと、その時は思っていたのだが『聖剣』の能力が俺には『全く使うことができなかった』と俺が言うとライナルトは俺に謝ってくる。そしてライナルトは俺に説明するのである。
『ライナの話を聞いたが『勇者が聖剣を持つことができるようになる条件』は『聖剣の本来の主になる者』『聖魔人になることが条件』『勇者は死んだときのみ聖剣を扱える』ということを俺は知ったのだった。俺はアリシアを見つめながら「なるほど。それでライナは俺と合体したことで聖剣を使えるようになったわけだな」と言うとアリシアは「はい」と答えて笑うのである。ライナは「そういうことだ。俺には勇者の力は使えなかったけどな」と答えると、今度は『聖剣アスカロン』について話を始めたのである。『この『聖剣』アスカロンが何故、こんなに優れた聖剣なのかは分からない。だがこの剣は伝説の聖女が使ったと言われているが、その真実を誰も知ることができない』と言っていた。そしてライナルトは『魔王の四天王の一人が『聖女の勇者である俺を倒せば、すべての能力を手に入れられる』とか意味不明な事を言い出して戦いを挑んできてな。俺の仲間たちも殺されたが、何とか倒すことに成功した。俺が聖魔人になったのは『聖女の勇者の力を手に入れる』ためだったのだ。聖魔人は聖魔人にしかなれない。そして聖魔人になると『聖魔人の力』を得られるが聖剣アスカロンが『俺のもの』となる』というのを聞いて俺は納得した。
しかし、そう考えると「俺が倒した『魔王の配下』の四天王の一人であるダークネスクイーンという奴は、この世界のどこかに生きている可能性が高いということだよね」と言うとアリシアも同意して「はい。確かにライナルト様に倒されて生きていれば、どこかに潜伏している可能性は高いと思います」と答える。ライナは俺の問い掛けに反応すると俺に質問してきた。
「ライナルト。『魔王の四天王』の中で最強と呼ばれる『暗黒竜ダークフレイム』を倒したときに手に入れた能力は何だったんだ?」とライナルトがライナに質問されライナが「ライナ。魔王の配下の四天魔王が『勇者によって倒された時』に得た能力はそれぞれ違うんだ。俺の場合は『勇者』の能力と、もう一つが『魔王軍の四天王として魔王から受け継いだ力』があった。そして、この世界で魔王を倒すために必要な『三種の神器の一つ』でもあるんだ」と、いう。
俺はライナに聞くとライナも『勇者の肉体と聖魔人の力で魔王を倒しても聖剣アスカロンが手に入らないかもしれない」と言うので俺は、それを聞くとライナは俺の方をジッと見つめた後に、さらに説明を続けたのである。
『そもそも魔王とは一体何なのだろうか?と不思議に思ったことはありませんか?』と、言われ「うん。そう言えば、なぜ、この世界にいる全ての人が魔王の存在を信じているんだろうか。本当に魔王がいると思っている人達もいるようだし」と俺が疑問に思ったことを言うと『はい。この世界に居る人たちは魔王を心の底から恐れています。その理由は勇者しか魔王を殺すことができない。それが、すべての理由になります』とアリシアが言うと『勇者』以外の人で魔王を殺すことのできる能力者は存在していないのかと、俺は聞くとアリシアが『いえ、この世界の人間で魔王を滅ぼす力を持つ勇者以外で唯一の例外が私です』と言ったのだ。
アリシアの説明によると『勇者の加護』を持っている勇者の仲間は『勇者の従者』として認められていて勇者と『魂の契約』を交わすことによって仲間になれるが、『魔王の魂』に侵食されると魂は消滅する。だから勇者は『勇者の身体』と『勇者の魂』を持った存在であり勇者で無くなってしまう。だからアリシアは「私が魔王の魂に侵されたら私の中の魔王は消滅し私は、また新たな聖女に生まれ変わることでしょう」と教えてくれた。だから俺はアリシアンヌトレア=シンフォニアという『この国の初代国王が聖剣の力を封印して作り出した聖槍アスカロンの持ち主の聖女』と俺は初めて出会った時に聖魔人と聖魔人になる方法を知るために戦ったのだが、俺は『魔王の肉体と聖魔人になれば聖剣が使えるのでは?』と考えた結果、俺は魔王を消滅させて、この世界に平穏をもたらしたかった。
俺はアリシアの話に聞き入っていると「魔王ルシファーと、もう一人の『聖魔人の魔王』であるダバルプスは、もともと『この世界の住民』ではなくて別の世界に住んでいた種族が、こっちの世界に流れ着いて『闇の魔力』に浸食され、生まれたのが『あの二人』なんだ」と言われ、アリシアの話を聞き続ける。
俺はアリシアの話が終わると「アリシアさんが『勇者の身体』と融合することで聖剣の使い手として認められる可能性があるかもしれないんですね」と言うとアリシアが「はい。その可能性が十分にあると、私も思います」と答えたのであった。
俺は、その後ライナの両親と話をして、ライナの家に一泊して次の日に帰ることにした。俺はライナのお父さんとお母さんに「俺が聖剣を使うことが出来ない理由は、やっぱり『聖剣』が俺に合っていないのか、俺には勇者の力が無いからなのかは分かりませんが、それでも、もし俺に『聖剣を扱うことが出来る力』が宿ったら必ず魔王討伐の旅に出て魔王軍を倒します」と言って俺は、その場を後にしたのだった。そして俺がアリシアを抱きしめようとしたら、ライナが後ろから俺にタックルをしてきたのだ!俺とライナはその勢いのまま地面の上に倒れたが俺はすぐに立ち上がり「ライナ!」と言うと同時に俺はアリシアを引き寄せた瞬間、ライナの右手に光の玉が出現した。その光の玉を見て「しまった。もう、そんなに時間は無いのか?ライナの体の中に入り込むつもりだぞ」と思いライナと聖魔人になるのを阻止するべくライナの元に駆け寄ろうとすると、ライナの手の平に浮かんでいた光がアリシアに向かって移動してアリシアの中に入って行ったのである。アリシアの胸に光が入り込んで行くと「くぅー」という声を上げたのを、俺は見逃さなかった。その光景を見たライナが「お前は誰だ!?聖魔人にでもなったのか?」と言うと、その言葉を聞いた聖魔人が笑い出すと「残念だったなライナルトよ。聖剣の使い手になるには条件がある」と言う。
「条件だと?」とライナが聞くと聖魔人は「この少女に聖女が持っていた武器である聖剣を渡さなければならないのだ」とライナに伝えると聖魔人は、アリシアの方に手をかざすと『魔王の四天王である聖女の勇者の肉体を乗っ取った俺が聖剣を手にするためには、その肉体が無ければダメなのさ。だから、これで、やっと俺の肉体が手に入るのだよ』と言い出した。
すると聖魔人の肉体に聖魔人から出てきた黒いモヤのような物がまとわりついて『魔王の力』を吸収し始める。その様子を見てライナも「おい、ライナルト、あいつは危険すぎる。早く逃げろ」と言う。
だが、俺は「俺達は、あんな雑魚に負けない」と言うと聖剣を手にした聖魔人が聖剣を鞘から抜くと、刀身が銀色に輝きだすと「これが、伝説の聖剣だ。素晴らしいだろう」と聖剣アスカロンをライナルトに向ける。すると聖剣アスカロンに雷が纏い始める。それを目にしたライナの両親がライナルトに逃げるように言うと「父さん、母さん、安心して俺が守って見せる」と、ライナルトは聖剣アスカロンに斬りかかろうとした。
聖剣アスカロンに、ライナの体から流れ出た魔王の力が聖剣に流れ込むと、聖剣アスカロンに魔王の力が注ぎ込まれ、さらに聖槍ホーリースタッフにも聖女の勇者であるライナの肉体から出た聖魔人の魔王の魂が聖剣に吸収されていく。すると聖剣の刀身に『漆黒の闇』と、呼ばれるような『邪悪な何か』が聖剣の刀身を包み込んでいく。それを見るとライナは「まずい。このままでは聖槍も奪われてしまう」と思った。
聖槍は聖なる力を内包する『神の加護を受けた武器』であるため、魔王が所持することは許されない代物でもある。なので『この世界の神である大魔王が創り出し勇者が使う事の出来る唯一の道具が『神器』と言われる』聖槍の所有権がライナルトに移ったのである。しかし聖女の聖女は魔王が持っていても大丈夫だったのだが『勇者の身体』を持つ者が持つと魔王になってしまうという『呪い』のようなものがかけられているのかもしれない。だからこそライナは焦っている。
俺とアリシアは魔王の身体から魔王の精神体が抜け出すことを確認するとアリシアの胸の中に魔王の魂が入り込もうとしているのを確認したので俺とアリシアは『魂の契約』を交わしてから『魂の契約印』が浮き上がるので『魔王との契約の儀式』を行ったのであった。そして、それが終わると魔王は、俺と『魂の契約を結ぶ』ことに成功したので魔王に話しかけた。
「これからは、俺が君の名前を付けてもいいかい? それと君は、俺に名前をつけてほしいんだけど良いかな?君のことは俺の命に代えても守り続けるから」と俺は言い魔王が「じゃあライル、私は貴方の名前をもらうね。私の名前は、この世界に来れたことにちなんで『ルーシャ=レイアース』としよう」と言うと「うん。俺は今日からルーシャの守護霊みたいな存在になると決めたからよろしく」と、俺は言って握手をした。
そうしているうちに、俺と魔王が契約を結んだことによって聖槍と聖弓が契約主となったのである。そして俺はアリシアの方を確認すると「アリシア、聖魔人を頼む」と言ってアリシアは聖魔人に飛びかかると聖魔人は俺の『魔王の加護』の力と聖剣アスカロンの力が混ざった『聖魔法』でアリシアを攻撃するが『魔王の加護』で強化されているアリシアには『聖魔人の力』は全く通用せず、アリシアの『聖魔法』に飲み込まれたのであった。俺は聖槍と聖弓が契約をしたことで『聖槍と魔王』は聖女に返さなければならなくなる。俺は、その聖剣と聖槍に俺が使っていた『聖剣と聖矢』を渡す。
すると聖剣アスカロンに『魔王の加護』が吸収されて『魔王の加護』が付与されて俺の手に戻ってくる。そして聖弓も聖剣アスカロンに吸収されて『魔王の加護』が付与されると『聖弓と魔王』は、またライラの手元に戻っていったのである。そして聖槍と聖杖を俺が受け取ったのである。
アリシアの方はアリシアが、この世界に来た時の服と、そして武器が戻ってきた。俺と魔王が聖女から渡された聖槍と聖剣と魔槍はアリシアの元に戻ると『勇者の肉体と融合した時の記憶を全て消去される』のだがアリシアが俺に微笑みかけると「全てを覚えています」と言うと「ごめん。本当に」と言うと「ライナルト、そんな顔をしないでください。私が、もっと強ければ『勇者の力』に侵されなかったはずなのに。でも今は、もう過去の出来事として、あの事は忘れました。それに、この力は、もうライナルトのモノですよ」と言った。
俺も「ありがとう」と言いながら涙を流した。すると、アリシアが俺の事を抱きしめて頭を撫でてきた。
「私だって不安で怖かったけど『勇者の魂』を受け入れて、そして、これから私達『三人』は、どんな運命を辿るのか解らないけれど『勇者の力』を受け入れることが出来ました。これは、ライナルトと『一緒に戦おう』と言う約束を果たすためです。ライナも一緒にね」と笑顔で言うのだった。
俺も「そうだね。三人とも力を合わせることが出来たら、きっと負けないはずだよね。俺とアリシアがアリサの分も頑張れば良いんだしね」と言うと「アリシアさんが『聖女様』ですか?」と言うとアリシアが「え?違うよ?『元』が付きますが聖女のアリサが聖女だったのよ」と言うとアリシアとアリナに抱きしめられると俺は恥ずかしくなり、照れ隠しで「とにかく皆の所に戻ろう」と言うのだった。
「魔王とアリシアが『勇者の力』を手に入れたことで魔王軍の幹部クラスに太刀打ち出来ると思うよ。あとアリシアは、アリッサに、ちゃんと謝ることを忘れないようにな」と俺は言うと「もう、大丈夫です」と言って「聖魔人の魔王が、あんな奴だったなんて、こんなの絶対許せない」と言うとアリナも「あんなに綺麗な子なんですよ」と怒り心頭である。そして、ライナの家に帰り着くと、俺は両親に聖槍と聖弓を渡したのである。するとライナの両親は泣き出したのを見て俺はライナの方をチラッと見ると、やはり嬉しかったようで涙を浮かべていた。だが、まだ終わりではないのだと伝えるために「父さん、母さん聞いてほしいことがある。聖女とライナルトの話だよ」と言うと二人は真剣に俺を見て話を聞こうとしていた。そして俺は聖槍の勇者の記憶で見た『聖女の世界で起こった事実』を俺なりの解釈で伝えていったのだ。ライナとライナの母親と父親も黙って聞いていた。
話を聞き終えた両親が「まさか、聖女の勇者が、お前と同じ『日本人』だとは知らなかったよ。しかし『魔王』を『聖女』の力で封印して『勇者と魔王の戦いを終わらせる為に召喚』された『異界の勇者』か。
でも『魔王を討伐して聖女の勇者が帰還すると元の世界では無くなっている』という現象が起こった理由が分からないな」と言う。
俺はライナの父親と母親が『聖槍と聖剣』の勇者に『この世界に来てからの真実』を伝えられずに『勇者の使命を果たせなかった聖女と勇者の無念を晴らしたい』と言っていたのを思い出し「それは俺にも、どうして、そういう状況になってしまったのかは分からない」と伝えた。
そして俺は『聖弓』の勇者の事も、ライナルトから聞くまでは全く知らず、ライナルトに教えてもらうまで、その『聖女と聖剣の勇者の悲劇の真相』を、ライナルトから教えられた時は驚いた。『聖槍』と『聖弓』と、それぞれ同じ名前を持つ『勇者の武器が実在していた事』、『聖槍と聖弓』の勇者が俺と同じように転移してきた日本人である事に驚いた。
だが、聖槍と聖剣と聖弓の伝説が本当であれば聖槍と聖剣と聖弓に『魔王の力を吸収する能力』が付与されていることになる。
しかし聖槍が『魔王殺しの聖槍』であり、俺が持っている限りは俺の『魔力量が増える』だけで済んでいる。それに加えて魔王化しても理性は保てるし『魔王殺しの聖槍の能力』によって吸収した魔素も俺の体内にある『聖魔法』で相殺出来ているため俺は、この『魔王殺しの聖槍』を持っている限り大丈夫だと確信している。だから俺はライナルトと一緒に魔王を倒し『魔の森』に住む魔物を倒してレベルを上げつつ冒険者ランクをあげてお金を稼ぐことにしようと思っている。そうすれば聖女の勇者ライナは、この世界の人たちの為に魔王と魔人と戦い続けることは無くなり『普通の女性として生きていけるだろう。それに聖女が『普通の生活』を望むのであれば俺達は全力で助けていくつもりだし』と決意表明を行った。そして「とりあえず俺のレベルを上げる為と金稼ぎの為に冒険者として登録するために街に行きます。アリシアは聖女としての公務もあるから『勇者』は俺一人でやります。だから、まずは、この街のギルドで冒険者にならなければならないから明日にでも俺一人だけで行こうと思います」と伝えるとアリシアが俺の方に振り向いて何かを言いたそうな顔をしていたが「ライナと二人きりになりたいんですね。アリシアは分かりました」と笑顔で言うと、それを聞いた俺は顔から火が出るぐらいに赤くなっていた。
「それじゃ、また後ほど連絡を入れます」と言うと俺は、そのまま、すぐに宿に戻ったのであった。俺は部屋に戻る途中もずっとドキドキが止まらなかった。
ライナルトは『俺がライラのことを好きだから告白を断ったのか?』と俺が思っていることをアリシアに伝えると「私は最初から知っていたよ。私もアリナのことは友達以上だけど妹みたいにしか見ていないから安心してください。それと私は自分のことは自分で決められるように頑張ります。ライナルトがライラさんの事を好きな気持ちを大切にして欲しいです」と言ってくれていた。
「ありがとう。俺がライラの事を好きだった理由は前世の時の話なんだけど、実は俺、中学の時に初めて恋をした女の子がいたんだ。その子がライラに瓜二つなんだ。そして性格もライナと似ていて優しいんだ。そしてライナが『魔王軍』との戦いが終わるまでに、その子を見つける事が俺の夢になっていたんだよ。
でも、そんな時にアリシアが現れて俺はアリシアの事しか見えなくなってしまったんだ。そして、この世界に来る前に俺には婚約者が居て来週結婚式を挙げるはずだった。それがアリシアとの『魔王退治』で全てが滅茶苦茶にされてしまったんだよ。
まぁ今は魔王も、もう倒してしまったのは間違いないと思う。そして俺とライナとアリシアの三人が、この世界に飛ばされてきて三人だけ仲間になったから三人が離れてしまうのは絶対に嫌だと思うんだ」とアリシアに打ち明けるとアリシアは、いきなり「もう、そんなの決まってますよね」と言うとアリシアは急に立ち上がって部屋の外に行くと「アリシアが、ここに来た時から私の事は分かっていたんですよ。だからアリナの事はライナに任せます。そして、アリナの事も私が守るので任せてください」とライナルトの部屋に向かって言うのだった。そして俺は慌てて扉を開けるとアリシアとアリナとライナの三人が「お兄ちゃん」と「ライナルトさん」と呼ぶのだった。そしてアリナも「私、もう我慢できない。もう無理。今晩は皆で、お泊り会をするよ」と言うと俺は、もうどうなっても良いと思ってしまうのだった。
翌朝になると俺達『四人のパーティメンバー』は宿屋の前で落ち合うとアリナの案内で街のギルドへと向かったのである。するとライナもアリシアも「え?ライナってギルドに登録できる年齢じゃないでしょう?」と言うと「大丈夫ですよ。私も『大賢者』様からギルドの登録を許可されております」と言うので、その言葉を信じて俺達はライナと共にギルドの中に入って行くと「ライナさんですね」と受付の女性から話しかけられたのである。
ライナも、なぜ自分の名前を知っているのか?と言う表情をしていたのだがアリシアが俺に耳打ちしてくれた。それは『ライナが持っている冒険者カードには、まだレベルが書かれていないけどライナの冒険者のランクは『SSS』になっている。つまり、それだけ『魔王殺し』という称号の恩恵が凄い』と言う事を教えてくれたのだった。
俺は、そこで「あ! アリシアは知っていますよ。俺は魔王城に乗り込んだ際に魔王の幹部を一人で全て倒していましたので『勇者の力』を手に入れた時には、もう既に『SS』を超えていたので、その後、レベルが全然上がらなくなっていましたが、もう魔王を討伐した時点で俺は勇者のランクでは無くなったようです。
それに『SSS』以上の強さを持つ者は『神格化』して『女神』に進化します。これは人間を辞めるということではなく、あくまでも『勇者』よりも強くなってしまうと『女神に転生』出来るということです」と俺の説明を聞いて受付のお姉さんも驚いていたが、「それでライナさんのカードは出来ています」と言って俺達はライナに冒険者カードを渡してもらうと、やはり、そのカードには何も書かれていなかったのである。
すると、その時にライナの顔色が変わると「どうしてですか?」と声をあげる。そして受付嬢がライナからカードを受けとると、そこに『Bランク』の文字が記載される。その事にライナは、とても嬉しそうだったが、俺は受付嬢さんに質問してみる。
「ライナのレベルは本当に上がっているのか教えてくれないか」と言うと、すぐにライナにカードの書き換えを行いライナのレベルを確認したのである。するとライナも「レベルが一気に20にアップしています。それも、かなり強い」と驚きの声を上げていたが俺は「ライナはレベルは問題ないのですが『勇者の力』を持っているライナは『魔王討伐』のために特別に冒険者ランクがCになるそうです。でも、俺の分も合わせてアリシアと一緒に『B』まで上げておいて下さい。お願いします」と伝えると二人は、快く了解してくれてギルドで冒険者登録は終わった。そして俺達はギルドでクエストを受注する事にしたのだった。すると受付の女性から「冒険者にはランクがありまして最初は『F』から始まります。そして冒険者が受けられるクエストの種類は様々ですが、基本的には冒険者は『パーティーで行動する方が望ましい』のと依頼をこなすスピードが速くないと冒険者として生活していくのは難しいのです」と説明を受けると「確かに俺の場合は『S』ランクの冒険者で魔王を倒したことで『英雄扱い』をされていたから簡単に依頼を受けれたし『聖女アリシアと聖弓の聖女の勇者であるライナ』も同じなのでは?」と思った。
「でも冒険者は自由を愛する人たちの集まりだと思っている。俺は一人で行動したい」と言うと、それを聞いたアリシアとアリナも「ライナと同じ考えだよ」と言い出し俺以外の全員が『ソロ』での行動を希望しだしたのである。俺は仕方がなくアリサに連絡をして「俺も『ソロ』で活動したいんだけど一緒に『魔の森』の中で、レベルを上げてから魔素を大量に吸い取ってくれ」と頼むと『アリシアが俺の傍から離れないように気をつけます』と言われてアリシアも「魔素の吸収作業なら私も参加させてください」と志願してくれたので、まずは俺の従魔である『フェンリル』のリリスに俺が『魔王の魂玉』を渡すと魔の森に向かうことにした。
だが俺は魔の森に到着するなり「リリスは、ここでレベルを上げながら待機していて欲しい」と言うとリリスは「分かりました」と答えて俺とアリシアとアリナは『魔族領』に足を踏み入れた。だが俺達は「『冒険者の力』を使って魔王城を探索しよう」と提案をする。
そして『魔王』を倒して『聖女の力』を取り戻した時に『勇者ライナ』の力が弱まり『聖女アリシア』は、その時に『女神アリサ』と融合した為にアリシアも『勇者の力』を失い『アリサ』がアリシアから分離した事で俺が『勇者の証』と一体化していた。そして『大賢者』から『神の指輪』『魔法のネックレス』と『魔法袋』を受け取った俺は『賢者』の称号も得ているので『魔力』も大量に持っているので魔王城の内部構造を探るために【空間移動】で俺達が転移した場所は魔王城の入り口である。
俺は二人を引き連れて「まずは『勇者ライナの剣』を入手すべきだと思う」と俺が言うと二人共、納得したので魔王城の宝物庫へと向かうことにする。俺は魔王城内を進むと俺の感覚で地下3階くらいの場所に宝物庫を見つけたので「ここだと思うんだ」と言うと俺が先に中に入り扉の前に『結界』の魔法を発動させるとアリシアとアリナが扉を開ける。そして、そこにあった物は一本の大太刀であり『聖勇者の武器:白虎』であった。そして俺が「これで間違いないはずだ」と言うと俺は手に持って鞘にしまうと【解析鑑定】の魔法を使うと、この刀の名前は『天羽々斬』で攻撃力は9999もあり俺には装備出来ないので俺の『勇者の力』に収納する。
俺がアリシアを見るとアリシアは俺が『勇者の力』に回収したことを察知して、もう『白虎の牙』も『麒麟の鱗』も『不死鳥の尾羽根』と『フェニックスの涙』も既に手に入れていたので魔王城に居る必要は無いと言うので「一度、外に出ようか?」と提案すると、それに同意する形で外に出ることにした。
そして魔王城の外で一息ついた後で俺達は冒険者ギルドに行き俺達のギルドのカードを受け取ってから宿に戻り今日の報告を行う事にする。ギルドに着きアリシアとライナのギルドカードを作成して貰うと俺も自分のギルドカードを受け取り受付の人に、俺と『魔王の魂玉』を見せながら確認して貰った。受付の女性が俺が持っている物を確認してくれたので俺は「これが何か知っているんですね」と聞いてみると彼女は「それは、間違いなく本物の『魔王の魂玉』です。それを何処で入手したのでしょうか?」と尋ねてきたので、俺は「それは『魔王城』の中に入る事が出来れば誰だって入手可能ですよ」と伝えると「そんなバカな事があるわけないでしょう」と言われたので俺は、その言葉に対して俺の持つ『魔王の力』を見せてやると言って受付嬢さんに俺の手に触れるように指示をする。すると受付嬢は「こんな事は、初めてです。私では『神の力』を持つ者に対抗できません。どうしたら良いのでしょう?」と言うと、その言葉に俺は驚いてしまう。
受付の女性は「失礼いたしました。あなたは『大賢人様の使い』ですね」と言うと、すぐにギルドマスターを呼びに行く。すると数分後にギルドマスターらしき人物が現れた。俺はギルドマスターを見て、どこか懐かしい雰囲気を感じてしまう。
するとアリシアが「あ!あの人は、確か前に私がお父様に連れて行かれたパーティーの時に会った事のあるギルドマスターじゃないのかな」と小声で教えてくれたのである。
そうしているうちに受付嬢さんが、さっきとは違った意味で興奮しながら俺に話し掛けてくる。すると、やはり、やはりアリシアが「あれ?やっぱりそうだよね。私の顔見覚えあります?ほら以前、パーティーに参加した時に一緒だったと思いますけど」と言うと、いきなりギルドマスターが頭を下げたのである。俺達は完全に混乱して、なんで、こうなったのか訳がわからず戸惑っていたのだが、俺が、やっと落ち着いたところでギルドマスターに質問することにした。そしてギルドのギルド長から説明を聞く。
なんでも昔『魔王軍四天王』を倒したのは「冒険者だった俺の父」らしいが「父の仲間は皆、行方不明になってしまった」と聞いていた。でも俺の記憶には「魔王の幹部と戦って仲間を失った冒険者がいた記憶がある」と思っていた。それを聞いたアリシアが「その話、聞いたことあるわよ」と言い出してアリシアから話を聞いた。
そして、やはり『大賢者』は生きていたのだと、この時に理解できたのである。そして「大賢者」と「大魔道師」の話をしている時に、ギルド長は「実は私は『大魔導士様の使い』です。どうか助けてください」と俺達に懇願してきたのだ。俺は、どうして俺が『大魔導士の使い』になったのか分からなかったし「なぜ、そこまで必死なのか?」とも思った。
俺は、とりあえず落ち着いて話すように促すと、その理由を教えてくれたのである。すると俺は「そう言う理由があったのか」と思うと同時に俺は、この世界を平和にするために『大魔道士』と協力して「勇者ライナ」を倒すことにしたのである。
俺が「勇者を討伐する事が、どうしても出来ないと言うのであれば『魔王討伐依頼書』を発行して貰えるか、もう一度俺の方に来てくれるか」と言うと、ギルド長が俺の元に再度やってきて、俺と二人で話をすることにして俺に魔王討伐依頼書を発行してくれて、俺は、そのまま受け取る。
そしてギルド長は「ライナのパーティーを全員殺さずに捕らえておいて欲しいのです。ライナに会えば、貴方もきっと分かるはずです。お願いします」と言うので、俺は「まぁ何とかやってみるよ」と答えた。すると、すぐに「よろしくお願いします」と俺に伝えて立ち去った。
その後、俺はアリシアとアリナを連れて宿屋に戻る。
「ねぇアリシアちゃんって『勇者』と一緒に居て辛くならなかったの?」と言うと「別に何とも無かったし、むしろ楽しくもあった」と、とんでもない事を言ってきたのである。それでアリナの方に目を向けると「僕は辛いと思ったし、何度も死にたいと思った事もあるんだよ」と言うのである。だから「俺が『魔族』の味方をした時は、かなりキツかったでしょ」と言うとアリナが「確かに、そうかも」と答える。
アリシアは俺の手を握り「大丈夫だよ、私も一緒に戦うから、どんな困難にも負けずに頑張ろうね」とアリナに言うとアリナも「僕も、もちろん一緒に戦います」と宣言する。それから俺は二人に俺の秘密を二人に伝える。俺は「前世で死んだときに女神に異世界転生させてもらったんだ。それで今の姿に生まれ変わったんだ」と言うと二人は、あまり驚いていなかった。それどころか「うん、知ってた」と、まさかの発言で「へっ!?」と思わずに俺は驚いた。
そして、アリシアとアリナは、俺の本当の名前についても教えてくれたので、今後は『大魔剣士:アリサ』ではなく本名の『斉藤壮馬』と名乗ることに決まった。
アリシアとアリナは、この世界で俺の事を知っている存在であり、この世界での俺の初めての友達になる存在である。
アリサは『聖剣』を使いこなして【空間移動】を覚えたり【聖魔法】と【光魔法】を覚えるなど魔法面も鍛えながらアリナとの『絆のネックレス』でアリナの能力の一部を得る事でアリナと同じように強くなっていたので、この世界に来なければ俺より強いんじゃないかなと俺は思っていたくらいだ。だが、それは「俺がチートスキルで『勇者ライナの魂玉』を手にした時点で、もう勝てなくなってしまった」と改めて認識した瞬間でもあったのである。
アリシアは、まだ「『勇者ライナ』の『魂玉』を持っている」事は言わなかったが「『ライナの力』は取り戻したので『魂玉』も『ライナの力』を取り戻した時に私の身体に取り込む」と言った時には「もう、すでに『勇者ライナの力』を取り戻しているじゃないか」と、この時に初めて俺は気づいた。俺は『ライナの力』を手に入れていたのに『聖剣:ライナの魂玉』を持っていたが故に『聖剣』が『勇者の力』として吸収されなかった事に驚きを隠せなかったのであった。
(しかし『勇者の力』を取り込めばアリシアの身体に影響が及ぶ可能性もあり得るので俺は「今は、このままにしておこう」と、あえて言わない事にしたのである)
そんな事を思いながらも、とりあえずは「『勇者ライナの力を取り込んだら危険』なので絶対に、そんな事だけはしないように約束をして貰わないと困る」と、この場で伝える。そして俺は「アリシア、アリナの二人の命を助けてくれて本当にありがとう」と伝えたのである。アリシアもアリナもこの世界の住人であり「俺にとっては大切な友人なんだ」と伝えてから『魔王』についての説明を始める。まずは俺の正体について説明する。『ライナルト王子が転生者である事』を俺が知る経緯を説明した。それから「魔王軍幹部の大悪魔が、なぜか『魔石』では無い俺の命を狙っていて攻撃してきているから、その対策として『ライナの力を取り込み』俺の力を強化する必要があって、それが終わるまでは『魂玉』は『アリシア』の魂の中に入れておいて、なるべく『ライナの力』を使わないようにしていてほしい」と言うとアリシアが納得して受け入れてくれたので安心して、これからの対策を考えようと思い俺の持っている『大魔王』の知識から何か役に立つ情報がないかなと思って「『魔王』と、その部下達の能力について何か情報がないか?」と『大魔王の意識体』に問いかけてみると、いくつか分かった事があり「『魔王軍』と魔王の配下達の能力は『神の領域の力』を持つ『魔王軍四天王』の方が強力だけど『魔王の力』の使い方は『大賢者』が一番上手だと思う。それに『勇者』は、あの子(ライナルト王子の転生体のことだろう)と同じような『勇者』の力が使えるようになるかもしれないけど『魔王の力』については使えない可能性がある。だから一番危険な相手なのは『勇者』なんだけど『勇者の力』さえ使えれば『神に近い領域』には入れるみたいだから気をつけて欲しい」と言われてしまったのである。
そこで俺は「『勇者ライナ』が、なぜ他の人間とは違う『神に近い力』を手に入れたのか、また『勇者』にだけ現れる特別な力は一体何なのか」を詳しく聞いてみることにした。すると『大魔王』の記憶では「おそらく勇者は『聖天使の力の一部を受け継いでいる』から『勇者だけが使える特殊能力がある』のではないかと思うが確証はない」と言われた。
そして、さらに『魔王軍』と『魔王軍四天王』の現在の居場所は分からなくてもいいので『ライナ』の現在居る場所は調べて欲しいと頼むと『大魔王』の記憶を覗くことで『魔王軍四天王の現在の居場所を調べることができるので任せてくれ』と頼まれたのであった。
俺は『魔王軍四天王が、もし自分の仲間になったら戦力強化のために仲間にしたいな』と思っていた。ただ俺は「あの四天王が、そこまで悪いヤツではないとは思うが『魔王の四天王』である限りは、いつ裏切るかわからないのが不安」だとも思った。そして俺は『勇者は、いったい何を考えて『聖女や僧侶』の味方をするのか分からないから、あの子は敵に回すと非常に厄介だ』と改めて認識するのである。
「俺は勇者の仲間にはなりたくない。だって、あの娘(こ)達は俺にとって『勇者のパーティー』では無く『敵』でしか無かったからね。でもアリシアやアリナとは戦いたくないと思っているよ」と二人に伝えた。すると「アリナも『大魔導士様の使い』には、なってもいいけど勇者様は『魔族の王』になるべき存在で『魔族だけの王国を作る』と言っていたし『魔族だけで平和に暮らしたいから魔族以外を滅ぼし尽くすのが正しい事だと言っている』し私は『魔族のため』だけに生きると決めてるし私は勇者様の使いにはならない。私が仕えるのは、この世界でたった一人だけだからね」と、はっきりと答えてくれた。それを聞いて「やっぱり、アリナはアリシアが言ってくれたように心が強いな」と思う。そして「アリシアは俺に対して、そういう事を言わないし俺に、そこまで興味が無いのか?
それとも俺に魅力がないのだろうか?」と、つい考え込んでしまうのであった。俺は『聖剣:ライナの魂玉』を持っていても「俺自身が強くなったわけでも無いので俺は『魔族』の味方をしている。『大魔道師:クロ』という『勇者のパーティー』を裏切り、『大魔王』の手先に寝返った人物』と思われて嫌われていても不思議ではない。俺は、それでも良いと思っていたのだが、そう思えない部分もある。なぜなら俺は、どうしても『勇者ライナ』の転生体に『俺を認めさせて俺の実力を見せ付けてやりたい気持ち』があるからだ。「認めさせたら俺が最強になれる」と、どこかで感じてしまっているからである。
そう思ってしまっている以上は俺は俺の考えを貫くつもりでいた。「そうか、アリシアがそう言ってくれて助かるよ。あと『ライナの力』を使う事は『今は、まだ止めてほしい。俺の方で準備が出来次第連絡するので俺に預けてほしい。もちろん『アリナのネックレスに俺の力を少し入れてあるのでネックレスを通して『アリナ』にも俺の意思は伝わる』と言っておく」と、俺は言う。
それから俺は、この世界の情勢についての情報を貰うことにする。この世界の歴史を紐解き「どうして人間が滅ぼされたのかという歴史を教えて欲しい」と頼んだところ「私の記憶にある知識から教えるね」と言って話を始めたのである
「かつて人間は神々によって創られた生き物であると言われていたの。だけど創造主だった神様達も寿命を迎えると天界へ昇り天国へ行ったと言われているわ」という話から始まった。俺は「それで続きをお願いします」と言い、その言葉を待っていました! と言わんばかりに大魔王が話を続けて「そして残された人間の子供は自分達の国を作り人間同士による争いが起こったりもしていたけれど最終的には国同士が団結して魔王軍を倒すことに成功したらしいの。でも生き残った人々の中にも魔物は居て人間と共存する事を決めた者も大勢いたみたいなの」と説明するのである。「ちなみに俺と、その魔王軍が戦った時も俺と魔王軍の戦闘の最中に魔王が突然現れて『人間との共闘』を提案されたのを思い出した」と言うと「えっ!? あの魔王が共闘を持ちかけてきたのですか? そんな馬鹿な!!」とその話は信じていないようだったが「確かに信じられないかもしれないが本当なんだ。俺も最初は罠だと思い警戒をしていたが俺と魔王が手を組んで魔王軍を倒せるならば魔王軍に勝てると俺は判断したので『俺を信じて付いて来てくれ!』と言ったら本当に付いて来てくれたんだよ」と伝えた。「まさか本当に魔王軍と和解できたなんて信じられない」と言ったものの俺は「あの時の俺は必死で魔王と握手をして協力体制を築いたからな。俺は絶対に魔王に勝つ自信があった。魔王軍と戦って勝てる見込みが無かったら俺と手を組まないはず」と考えていた。
(だが、その後、すぐに『大魔王ルシファー』、『魔王四天王』の「『大魔王ルシファーの四天王最強の力』を持っていた元『四天王最強戦士』のリリス』が現れて『大魔王ルシファーの加護の力』を得た俺は「魔王と互角」くらいの力が出せていたので俺と魔王の一騎討ちとなり魔王を倒した。しかし、そこで『聖女アリア』の妨害が入り俺を仕留めることが出来ずにいた。しかし俺は「魔王が復活するまで『魔族の領地は、このまま人間側に残してもらおう』」と考えて、あえて人間側の領地に『魔王軍幹部』を配置し『魔族への敵対勢力』が出来ないようにする対策を行っていたのである)
(この世界が滅びたのは魔王の『魂玉』を使って俺に力を与えすぎたのが原因かもしれない)
俺がアリシアやアリナと話し合い「これからの事」を考えようと思い「これから俺達はどうするかを相談しようと思う」と提案するとアリシアとアリナが「アリナが『魔人族と亜人の国』を作るので大魔王様に協力して貰いたいのですが駄目でしょうか?」と言う。俺は「アリナ、そんな国を作って『俺が支配者』になりたいのか?」と聞くとアリナから返事はなく、その沈黙を肯定と受け取る事にする。
それから「魔王の城に行く時に倒した『四大将軍』と呼ばれる魔王の腹心の将軍達が『大魔王に忠誠を誓い配下になった』事を覚えているかな?」と聞くと「えぇ、覚えていますよ。でも、それがどうかされましたか?」と返される。そこで俺は「今、その四天王の一人であるリリアと言う『大魔王ルシファー四天王』が『大魔王に敵対する魔王』の部下になって『魔王復活の儀式を行っている事』は知っているか?」と確認をする。
それを聞いた二人は驚いていたが俺は、さらに続ける。「『魔王を復活させる儀式を行っている事』と『勇者と大魔道師デビィ以外の魔族を抹殺しようとしていること』を伝えた。すると「魔王を復活させて世界を滅ぼそうとするなんて絶対にさせません!」と二人とも言い切った。それを見た俺は安心したのである。
そこで俺達は「この大陸には『大魔王が復活した事』を伝えて回ろうと思うが何か良い方法はないか? 俺の『使い』は使えないし『勇者ライナ』は行方不明になっているみたいだから誰か『勇者ライナに使える聖天使』を探したいんだが、どうやって『聖天使』を見つけるかは、いい方法があれば聞きたいんだけど教えてくれないか? 頼む。このとおり」と頼むとアリナが答えてくれる。
アリナが「まず、この辺りで一番近い都市がある『魔族が支配していた王国』は『南にある『魔王軍』が拠点にしていた国がある都市:アルーシャの街』で『大魔王軍』と『勇者パーティー』の最終決戦が行われた『魔王の都』は北の方です」
それを聞くと俺は(あれ!?
『魔王の魂玉』を使えば『大魔王ルシファーの居場所』が分かるかも?)と閃き『大魔王の魂玉』を取り出そうとした瞬間に『聖剣:ライナの魂玉』が輝きだして『ライナ』の記憶が流れ込んでくる。そして、それを確認すると『ライナ』と『ライナが使っていた『勇者ライナ』の魂玉』の波動の波長が同じだったので、それを利用した。すると、まるで目の前の景色が変わるような感覚になり俺が『ライナの記憶の中』に入った。すると、そこに『大魔王ルシファー』が立っていたので俺は、そいつと向かい合うと、なぜか、こいつが「大魔道士様、貴方様なら私の事を知っているはずですよね?」と言ってきた。なので俺は、お前は誰だ!? と答えると「そうでございましょう。私の名前はライナス。初代勇者であり『魔王討伐軍総団長』『大魔道士デビィアス』の息子『ライナス=デビィアス』と言えば思いだしてもらえますよね。私が貴女の師匠でございます。ライナ様」と話しかけてくる。
そしてライナが言う「俺はお前のことなんか知らん。何者だ!?」と言って俺はライナの記憶の中に居たので「俺の名は魔王ルシファー!
勇者である、おまえに倒され封印された大魔王だ」と名乗る。そして俺は『聖剣:アスカロンの力』を発動させる。そしてライナが「なぜ復活した?」と質問をしてくるので俺は「ライナ、貴様に復讐する為だ! そして勇者でありながら裏切って魔王の味方をしている裏切り者の勇者、ライナ。貴様は許さんぞ」と、俺は『聖魔龍神モード』に姿を変えてライナは俺を睨み付ける。ライナ「お前を必ず殺す!!」と言い、戦闘が始まったのであった。
俺も魔王を名乗る男に攻撃を仕掛けて戦う。お互いに譲らない展開になったがライナが攻撃の構えをとるとライナスの身体が急に消えてしまったので、どうなっているんだ? と思っていると魔王と名乗る男の気配を『魂の力』で感じる事が出来たので、そっちを見ると奴の姿が無い。俺は【心を読む能力】を使い魔王の心の声を読み取ると「今の俺は、もう昔のように『魔力操作のスキル』で自分の姿や声を変える事が出来なくなってしまったのだ。だが、それでも、この世界に生きている人間の中で一番強いのが大魔導師ライナだった。だが俺には、まだ隠された力があったのでな。それで、このような姿になる事も可能なんだよ」と、言う。
俺は「それは、どういう意味なんだ?」と尋ねると魔王が「大魔道士の『固有魔法』は、『魔力の鎧を着込む』事が出来るはずだ。それが『固有魔法の鎧化の秘技である』事は知っているか?」と言い放つ。そして「大魔道士は、その魔法を使って姿を偽る事が可能なのだよ。大体、どんな人間でも自分より格下の者には、その『魔力の鎧を纏った状態』を見せるはずなのだ。つまり大魔道士と勇者の二人以外にとっては『その『鎧を脱いだ状態の大魔道士』が、そのまま本当の大魔道士の本来の姿で認識している』という訳さ。大魔道師と、その弟子である勇者の二人でも『大魔道師が本物の大魔道師だと認識していれば問題ないのだが。大魔道師の『魔力の鎧を身に着けた』姿を見た人間は『魔力の籠もっていない』武器での攻撃をすると大怪我をしたり最悪死んでしまうかもしれない』と言った」俺は「そんな危険な力を隠し持っていたのか!?」と驚愕してしまう。すると魔王が「だから、俺は最初から本気で戦ったら勝てる自信が無かったので手を抜いて戦っていたのに、大魔道士の力が、これほど凄いものだと思っていなくてな。まさか、ここまで苦戦させられるとは思わなかったよ」と言ったので、それに対して俺は何も言えなかったのである。
俺は「魔王を倒す」為に、あの場所に行く。そして、その前に『魔人族と亜人の国を作る』事を相談しに来たアリシア達と合流しようと思い彼女達の所に行き、合流を果たす。そこで俺の話を聞いた二人が驚きの表情を見せながら『大魔王ルシファーが生きていた事』を告げて俺の『使い』では連絡が出来ないという事を説明する。すると二人共「分かりました」と言ってくれてから、俺がアリシアとアリナに「この辺りで一番近い都市がある『魔族が支配していた王国』は『南にある『魔王軍』が拠点にしていた国:アルーシャの街』で、魔王の城はこの大陸の北側に存在するから俺の使いの者が行けば良いのかもしれない」と告げると二人は、すぐに「じゃあ早速行って来てくれませんか? 大魔王様に会えるかもしれませんから、お任せします」と言う。
それから俺達は、それぞれの準備を行い、出発する事にする。するとアリシアが「セイ様は、どこに向かうのですか?」と言うので、俺は「魔王軍から離反する者達を説得するために魔王の城がある大陸の最北端の都市:アルーシャを目指す」と言うと、そこで俺は『聖弓アスカロン』と『聖剣:アスカロン』の「二人」と別れる事にした。『聖剣:アスカロン』は、「自分は聖天使を探すためにアルーシャに行くつもりだ」と言っていたからだ。そこで『聖槍:アスカロット』は俺に同行することになった。俺は二人の「これからの目的」を確認して納得したので「じゃ、行こうか」と声を掛けると「はいっ」と、二人が同時に言った。
そして俺が、しばらく『魔王城』で滞在して『ライナの魂玉』の力でライナの記憶の世界に入った時に見た事を伝えると魔王ルシファーが「えっ!? 本当に『大魔道師ライナス=デビィアス』なのか!? ライナスは父さんと親友同士で俺が小さい頃から面倒を見て貰っていたのだけど、俺が旅に出る少し前の日に『魔王討伐軍の副司令官に任命されて忙しいから、しばらくの間会うことが出来なくなるけど寂しくても泣かないで欲しい』と言われて別れたんだが『大魔道師』として俺の前に現れたのは初めて会った時に驚いたんだよね。でも『ライナス』は、あんなに弱かったかな?」と言ってくる。
俺も「そうなんですよね。ライナスさんって、あんなに強いのに『大魔道士ライナス』と名乗っていたんですかね?もしかしたら『ライナス』という名前を名乗っている別人なんじゃ?」と思っていたのである。すると「それは違う。間違いなく、あの時の『大魔道士ライナス=デビィアス』だと思う」と言ってきた。
そして魔王ルシファーは「俺の父と、お前の父が『幼馴染』の関係だという事も聞いた事があるし、俺の父と、お前の父は仲が良く俺が産まれる前から、しょっちゅう遊びに来ていたと聞いていた」と話す。なので「俺は、あいつの正体を探るために『魂の力』を発動させて、ライナの記憶の世界で、ライナの幼少期の頃の記憶を見る事で、ライナス=デビィアスの正体を確かめようとしたんだけど、そこには、お前の記憶は無かったぞ?」と俺が答えると「そうか。それなら、おそらく『勇者』と旅をする前は『大魔道師ライナス』で間違いないだろう」と言う。
俺は「お前は『ライナスが使っていた大魔道士の力』について何か知ってるか?」と尋ねてみたのだ。すると魔王ルシファーが「大魔道士の力の事だろ。大魔道士が使っている『魔力の鎧』の事は分かるだろ?」と言うので俺は「ああ、そうだな。あれは『大魔王ルシファーが使った大魔法:デストラクションバーストと同じ原理の力だな?』と聞くと魔王は、こくりと、うなずいて「そうだよ。あの力の発動方法は、その鎧の表面に魔力の壁を作り出していて、その壁に、ある程度以上の攻撃が当たれば吸収されて無力化され、その壁を壊そうとすると攻撃した者に『大魔道士の魔力による反撃を受ける』という仕組みになっている」と説明してくれた。
俺「なるほど、それで、その鎧を『聖魔龍神モード』に変身している俺は破壊することが出来たという訳だな?」と尋ねると魔王は「いや、無理だよ。『魔力の鎧の魔法防御力を超える攻撃力』が無いと大魔道士の防御を突破して攻撃を当てる事は絶対に不可能だ。そして『聖魔龍神モード』でも無理だっただろう。そもそも、あの『大魔道士の力』は『魔力で出来た障壁』を自分の身を覆う鎧にして身体強化を行うという力だ」と言ってきて俺は少し考えてから「つまり『魔力で出来ている魔力の塊』のようなモノだから破壊できない?」と魔王に尋ねると魔王が「まぁ簡単に言うと、そういう事になると思う。それにしても『聖魔龍王モード』とやらになれば倒せるかもしれない」と言い放つ。
俺は「じゃあ、そっちの形態になるのに必要なアイテムは、どこに隠されているのか?」を魔王ルシファーに質問してみた。すると「そんな事は分からない。俺が生まれる前の事だ」と言い放ったのだ。それで俺は、この魔王城の地下には、あの場所へと繋がる隠し通路が存在する事を、その昔『大魔道師』が言っていたような気がしたが、今は関係ないので言わないでおいた。
魔王ルシファーに「その、ライナが持っている大魔道士の『魔力の鎧を着込んだ姿』が本来の姿だとすると、大魔道士と、その息子である『勇者』以外の者が見ても、その本当の姿を見ることが出来るはずだ。なのに魔王軍は、その姿を見た者が、いないのは何故なんだ?」と質問をしてみると「父さんと勇者以外に『大魔道士の本来の姿を見ることが出来る人間』は、存在しないのだから、当然だろう」と言い放つ。そこで「いや、待て。勇者は、どうなったんだ?」と言うと魔王は「勇者は死んだはずだ。だが、その後、勇者の子供と名乗る『大魔道士の弟子を名乗る人物』が現れたという噂を聞いている」と言う。
俺「その噂の信憑性はあるか?もし事実ならば大魔道士は、生きている可能性が高いという訳だな?」と言うと魔王は「その通りだ。ただ、それは俺の予想でしか無いが」と言うので「大魔道士の居場所については心当たりは無いか?大魔道師が生きていた場合の行き先とか?」と聞いてみる。
すると魔王ルシファーが「俺は会ったことは無いから分かんないな。大魔道士が、この城に住んでいた時期も短いし」と言う。
そこで俺は「魔王城の地下深くに『この大陸に点在する魔族の国』への入り口がある場所があるのは知っているか?」と聞くと「えっ!? マジですか!? 初耳なんですけど!?」と魔王が驚いていたのであった。俺が「大魔導師ライナスが魔王城を出てからは誰も行っていないはずなので、知らないのは当たり前だと思うけど」と俺が口にすると魔王ルシファーは「じゃあ、なんで俺が知らない事が、分かったんだ?」と首を傾げていたのである。
◆リリス=ナエ=アルーシャ(20歳)女性
僧侶→大魔道士:聖女。主人公とは『村が同じ年に生まれた幼なじみ』という設定。ライナルトに恋をしていたが『勇者ライナルト』に奪われて諦めたが、『勇者』が大魔王に討ち滅ぼされてからは「私の愛しい人」と言って、セイの恋人に立候補したりするが「セイを幸せにする役目」を魔王ルシフェルに奪われて「セイの事は、もう諦めるしかありません」と、自分に言い聞かせるように呟いていたりする。しかし本当は『大魔王を倒した後で、魔王になったセイの伴侶になって共に生きる事』を望んでいるのだが『大魔王』を倒して世界を救ったとしても、セイの望みは「普通の女の子として、セイと共に暮らす事」なので実現は難しいのが分かっていたりする。
実は『セイの使い』として現れた大精霊神教の司祭から、「聖女の『真の役割』」と「真の使命」を聞かされてから聖女としての活動を始めており、セイとの「約束の地:新大陸アルーシャ」を探すために旅立ちたい気持ちもあるが『魔王軍の脅威を取り除くために活動しないといけない』『アルーシャを目指す前に世界を回りたい』という、それぞれの思いもあって葛藤していたりするので、すぐに行動に出る事は出来ずにいた。そして、まだ『自分の想いを伝えていない事』を後悔していたが、すでに遅いとも思っており複雑な心境でもあった。
種族 ヒューマン。身長 164cm 体重 51kg 服装 白いマント。腰に細剣を装備している。
武器
『白き光の聖剣』
防具 聖なる魔法の鎧。腕に盾を装備する。背中に弓を背負い矢を入れる。
特技
『回復』
性格 生真面目な性格。正義感が強いタイプで融通が効かない。頑固。
容姿 黒髪で肩までのショートカットに青い瞳をしている美少女。
特徴ライナスとライナが幼かった頃からの親友であり恋人同士でもあったが、ある理由から、別れるしかなかった。ライナスの死後は、大魔王ルシファーが「魔王」となっても「大魔道士ライナスの仇」を討とうとしたライナスの配下である四天王を『闇の魔力を持つ存在』として処刑して回っているのを止めるため、ライナスの『弟子』を名乗って行動をともにしている。
『ライナ=ナエ=アルーシャ=大魔王ルシファー=サタン』(享年不明)
男性。故人。大魔王の生まれ変わり。主人公の父親の友人だったが主人公が産まれると同時に他界した。生前の名前は「大魔道士ライナス=デビィアス=魔王ルシファー=サタン」(通称ライナス。大魔道士ライナスの別名はデビィアス=悪魔の意味を持つ)
年齢は不詳。
髪型 黒のオールバック。
目の色は青。顔の彫りが深いのが特徴 種族 悪魔族 身長 180cm 体型 引き締まった肉体 装備 漆黒の鎧 黒い鞘に入った短めの片手用の長剣。魔王の証の宝玉が付いている。大魔道士だった頃は銀色の大杖を持っていたが魔王に堕ちて大魔王となった今は『闇属性の魔結晶の指輪』を左手の薬指にはめている。
魔法
『暗黒魔法:ダークインフェルノバースト』。自分の魔力の5倍までの範囲に対して発動可能。威力は発動させた者の力量に比例する。範囲攻撃型の攻撃魔法。
備考『大魔道士の力を受け継いだ後継者』、『大魔王ルシファーの双子の弟:ルシファーの息子』
大魔道師の力を受け継ぎ、魔王の力を得た『魔王』
大魔道師の力を使いこなし『大魔道士の力を持った魔王の力』と大魔道士の力が融合して生まれた最強の大魔王ルシファーに変身する事も可能となる。『魔王モード』に変身することで大魔道士の力と大魔道士の記憶を全て取り込んでしまうため『魔王モード』になる度に記憶を失うというリスクを抱えている。そのため『聖剣』を使うと『大魔道士の力を解放することが出来るようになる』という能力もある。魔王モードでいる時間が多いほど「本来の大魔王としての覚醒が近づいている状態」とも言えるが『魔王の力を解放しなければいい』だけの話しでもある。ちなみに普段は魔王としての力を抑えている。しかし完全に封印している訳ではない。なので「力の一部を魔王の証の魔宝石を身に着けた指輪で封印している状態である」
『魔力量の上限が無く、魔力の最大値が「大魔道士時代の約3倍の力」を持っている。また全ての魔法属性の攻撃や耐性の魔法攻撃に対する魔法防御力が「大魔道士時代と同じ強さ」になる』。つまり「魔法防御が大魔道士レベルと同等」になるという事で魔法攻撃による弱点も無くなり、魔法防御が最強クラスの防御力になるため物理攻撃で倒せる可能性は極めて低くなってしまうのである。ただし「魔力」を消費するのは変わらないため大技を発動させ続けるような使い方はできないというデメリットもあり長期戦には不向きだが「一撃の火力」では、ほぼ無双状態になると言えるのである。大魔王の力を解放した時は、大魔王ルシファーの姿に変わるが『大魔王ルシファーの姿は、その魂の本質的な姿では無い』らしく「本来の姿を現せ」と『魔王ルシファー』が言うと、この姿に変わるが「この姿の方が本当の姿なのか?」と聞かれると「俺にもよく分からない」と言い切る『もう一人の自分』としか言いようがない『魔王ルシファーの心の一部』らしいのである。
魔王ルシファーと魔王ルシフェルと魔王ルシファーの息子で『大魔王の力を持つ』『勇者を裏切り大魔王ルシファーについた』勇者と仲間達の復讐のために動き出した大魔王。魔王の力を受け継いでいるが『聖女リリスの恋人で、聖女の伴侶に立候補』する為に、リリスの「聖天使の力」を宿すための『鍵の役割をするアイテムを手に入れるために旅に出た勇者ライナルトの師匠の勇者ライナ=ダバルプスに化けていた』。ライナルトがライナとして行動していた時は常にライナに成りすましていた。魔王として覚醒したライナと戦うために『魔王化』したが、最後はリリスに『大魔道士ライナスの魔力の鎧:聖鎧フルプレートメイル』を装着した『勇者の力と聖剣を手に入れた聖騎士の力を合わせた状態の大魔王ルシファーの本気モード』になったライナの必殺技で討ち滅ぼされてしまった。だが実は、この時にすでに大魔王ルシファーとして復活を果たしており魔王の『力を受け継ぐ者』として再び、復活するのである。
しかし「聖女と伴侶になる」という望みは叶わなかったものの「聖女が大魔王ルシファーと結ばれる運命であるならば仕方ない」と諦めて、その後は大魔王の眷属達を従わせて「勇者」を裏切った勇者一行への復讐の為に行動を開始していたのだった。そして『聖女の『聖槍アスカロン』の使い手候補である聖槍の勇者を探し出して鍛える為の手助けをしていた』が、そこで出会ったのが聖剣アスカロンと聖剣アスカロンの鞘を手にした勇者ライナスだったのだ。
「俺はライナとライナの父さんとライナの母さんの仇を取ろうとしただけだ」
『勇者ライナスが聖剣アスカロンを手にした』事により「俺は聖剣アスカロンが手に入る前にライナを殺してしまおうと思った」と言う。ライナを殺した後に『聖剣アスカロンを手にいれる』つもりだったようだが「聖剣アスカロンが手に入らない状況になって、それなら聖槍アスカロンも俺の物にすれば問題無いと考えた」のだとライナは思っている。ライナスの両親を殺したのが大魔王ルシファーであると知った時に「どうして俺の家族を殺したのか」と聞いたら「それは『聖女』と結ばれて『勇者』になり、幸せになれると信じていたからだ」と答えられる。そして、その言葉を聞いた時には「怒りと憎しみの気持ちしかなかった。だけど、なぜか『魔王』として復活していても『憎む』気持ちになれなかった。むしろ『同情』する感情しかなかった」と語る。それからライナスと行動を共にして大魔王ルシファーとして「勇者」と「魔王の使命を全うするために動いている存在」、「聖女の使命を遂行しようとする聖天使リリス」の三組で争いあう事になったのである。ちなみに「大魔道士の力を継承した後継者で『大魔王の力と記憶を持つ存在』」でもあるが『大魔道士の力を引き継ぐ事と、魔王になる事は同じ意味ではない』とライナスが語っている。『魔王』になったのは「父から『大魔王ルシファー』を継承する際に大魔王ルシファーが暴走して世界を混沌と破滅の未来に導いたため、父が命を賭けてでも封印する事でしか『世界を滅ぼさない』という方法しか思い付かなかったから」だという。『大魔王ルシファーが、かつて「世界を滅ぼすため」だけに生きていた存在だった。だから自分の意志とは無関係に大魔王となった後は『自分が世界の滅びの原因』となってしまう。だから『自分が生きている間は絶対に『世界の滅び』は防いでみせる』という想いで『世界を滅亡させない為に大魔王の使命を果たす』事にしたという。ライナスは魔王化した大魔王ルシファーを見て「まるで魔王ルシファーの『心の弱さの部分』を『闇属性の邪神ダークルシファー』として具現化した存在である」と例えている。そして大魔王ルシファー自身も『魔王ルシファーの力を受け継いだ者』ではあるが『自分は魔王ルシファーとは全く別の人間』だと考えているらしい。
魔王の『闇の属性』と魔王ルシフェルの持つ『光の女神』の力が合わさった状態で生まれるのが『大魔王ルシフェル』であると言われている。『大魔王ルシファー』には、もう一つ『大魔王ルシフェルとは別の存在として存在している』説も存在する。
『魔王ルシフェル=大魔王ルシファー』で『聖魔大乱編のストーリー』で魔王ルシフェル=大魔王ルシファーは登場せず「『魔王ルシフェル』が、大魔王となった姿である」という説が存在したが、魔王の真実編では『大魔王ルシフェル=大魔王ルシファー』であり『魔王ルシフェルの『心の弱い部分』が闇属性の邪神の邪念によって具現したのが『大魔王ルシファー』なのだ』という事が判明した。そのため魔王ルシフェル=大魔王ルシファーという事は『最初から分かっていた設定』なのだが、この『魔王の正体に関する新情報は「大魔王の秘密」でのみ明かされていたのに、その大魔王が魔王ルシファーに「魔王ルシファー=大魔王ルシファー」である事を気付かれてしまうという失態を演じたため、物語に若干の齟齬が出てしまっているので、ここで改めて補足しておく』
魔王ルシファー(大魔王ルシフェル)と魔王ルシフェリオンと魔王ルシファーの息子で『大魔王ルシフェルと魔王ルシフェルの『両方の血』を受け継いだ』存在である。魔王ルシファーと魔王ルシファーの息子であるため『魔王の力を持つ者同士』で、あるが魔王ルシファーの息子であるため『聖剣や聖剣の力を得た者には攻撃出来ない』のである。『大魔王の力と記憶を持つ後継者で聖剣アスカロンの持ち主の勇者を探し出す為に動いていたが聖女リリスと聖槍アスカロンの持ち主の聖騎士が出会うまでは何もできなかった。
ライナスの復讐対象の一人で「ライナの父親を死に至らしめた」ライナの父の師匠にあたる「元勇者パーティの一員で勇者と共に冒険をしていた聖女リリスの従者の賢者で魔法使いの男」で、リリスから『聖槍アスカロンを託されて聖槍の勇者となった男』で聖女リリスの恋人で聖女リリスに『聖剣アスカロンの鞘となる宝玉を渡した聖剣の勇者』の『聖槍アスカロンの持ち主』。
元々は勇者一行で、勇者の仲間だった時は、それなりに『強い力』を持っていたが『勇者一行でいる事を辞めた途端に、ただの「落ちこぼれ勇者に寄生するクズな雑魚キャラ」になってしまったのである。だが「勇者」に裏切られた事を知った時には『もう既に手遅れ』だったので復讐の為に『魔王』に変貌し「魔王ルシファーに忠誠を誓う」。『魔王』と化した後にも勇者への復讐を諦めず『大魔王の復活を目論む』。
しかし、その時に現れたライナスの『本当』の実力を見て絶望する事になる。『ライナス』は「聖剣アスカロン」の力で『聖女』と『聖天使』と融合することで、一時的に『聖女の本気モード』になったのだ。つまりライナスが『勇者の剣と融合した状態の本気モード』になった時に「魔王化していて本気モードでは無い状態のライナスに」は『敵わない』と理解したのである。そして『勇者』と『聖女』の力を持っている『大魔王ルシファー』に対して『大魔法』を放つ事で『時間を稼ぐ』事に必死だったのである。『大魔王ルシファーは、この時に大魔法の一撃を食らってしまうと消滅する』のだが「ライナスがライナス自身に向けて放たれようとした聖槍の一撃を防ぐ為に大魔王としての魔力を全開放して大魔法の攻撃を相殺する事に成功し、その結果、ライナスに「聖槍アスカロンを預ける形」で死ぬことになる』
魔王は聖剣や聖剣の鞘などを手に入れるために暗躍しているが「聖槍」を手に入れた時にも、また別の理由で「勇者と伴侶になる者を探して、その人物を見つけ出すために動き出していた」のだが「聖女リリスが自分以外の者を選ぶ」と思っていなかったライナスと出会ってしまい「リリスの心を奪いたいがために、ライナスの心を奪おうとしていた」事がバレてしまい「魔王として生きるライナスと戦う羽目になる」という経緯があり、ライナスがライナになった後も一緒に行動しているのである。
そして「魔王ルシファーの配下で、大魔道士の側近を務めていた」が、今は「ライナの従者の一人」になっている。ライナが魔王化してもライナスとライナスの従者達とは「ライナスが『大魔王の力と大魔王ルシファーの記憶と人格を併せ持つ存在』」になってからも「友達のような付き合い方をしてきた」のである。ライナスが魔王化してしまったため「大魔道士の後継者」という役割が「魔王の眷属が担う事になった」ため「ライナスの配下の魔物」達は「聖槍の勇者を探す必要」がなくなった。そこでライナスの眷属の一体となったのである。
そして『魔王化したライナスが魔王軍から離反した後にも魔王の使命を果たし続けていた』という「実はライナスの眷属の中では一番の苦労人だった」が「最後は魔王ルシファーの消滅に巻き込まれて、そのまま消滅したはずだった」のが、なぜか魔王化したライナスの「闇の属性」の力が強すぎて復活を果たしたという謎の展開になっていたりする。
ライナスの現在の目的は「大魔王ルシファーを復活させる事」であり「魔王化した後の勇者が、どのように成長していくかを観察する事」でもあったが、その過程で勇者の両親を殺すような事態になってしまい、それが「勇者の怒りを買って」しまう結果となり、結果として、ライナスは「勇者」と戦わなければならなくなったのである。そして『勇者ライナスが勇者ライナスを倒す方法』を見つけるのが今のライナスの目的なのであった。
「聖女様が勇者様と夫婦になる運命」の「お二人の出会いの場」を邪魔する事は絶対に許さない!私は聖槍アスカロンを受け継ぐ資格があった。だから「勇者様に私の愛を伝える」つもりだったのよ。「大魔王ルシファーが目覚めてしまった今」は私達が生き残るための「最後のチャンス」だと思う。だから私はライナスさんと一緒に行動するのが一番良いと思うのですが、それでも「私に従え」なんて言いません。でも「貴方の大切な仲間を守る為には、私が貴方に協力する方が良いのではないか?」と私は思っているのです。だって『この世界で生き延びるために必要なものは全て』私の方が持っているのですからね。
ライナスは聖女リリスに、そんな言葉をかけられていた。そしてライナスは「確かにそうだ。貴女の言葉には一理あります」という返事を口にすると「俺のことは『師匠』と呼んでくれ。これからは師匠と弟子の関係でいよう」という言葉を続けた。それに対してリリスは、にっこりと笑顔を浮かばせると、こう口にしたのだ。
『ありがとうございます。これから、よろしくお願いします。ライナルト様』
『魔王化してもライナスとライナスの配下達と友人関係を続けるのは変わらなかった』のはライナス=ルシフェン=ドートゥリシュである。『魔王化』という現象で『人間』だったライナスの精神が崩壊してしまい『魔王そのもの』となって、この世界に出現したのだが「大魔王ルシファー=『魔王ルシフェル=大魔王ルシファー』であり魔王ルシフェル=大魔王ルシファーの息子で魔王ルシフェリオンと魔王ルシファーの娘である魔王ルシファー=大魔王ルシファーは『魔王化』によって、すでに崩壊寸前の状態で存在していた』という真実を知る事ができたのである。そのため「自分の命を救ってくれた恩人であり友でもあるリリスに何かあれば、それは同時に自分自身が『大魔王』となってしまう可能性があるという可能性の示唆であり恐怖感を覚えてしまっていた。
「まあ。そうかもしれないですね。ただ俺は、あまり戦いたくないと思っているんですよ。『魔王』という種族を倒せるほどの『大魔法』なんて無いと思いますからね。それなのに戦うなんて無謀ですよ」
ライナは「自分が大魔王になってしまったとしても大魔王ルシファーは大魔王ルシファーなのだ。この世に生きている限り大魔王の魂が宿り続ける事になるが、大魔王が復活するためには『心の奥底にある欲望を満たさなければならない』らしい。つまり『ライナ』として生きてきた頃の心の中に残っていた欲を満たす事さえできれば、大魔王は蘇る事はないはずなんだ」と考えていたのだ。
「なるほど、そういう理由があるのか。それにしても、よく、こんな状況の中で冷静でいる事が出来るよね。君の強さが、どれほどのものなのか僕も興味があるんだ。僕は君の力に興味津々で仕方ないんだよ」と『聖天使ガブリエル』は嬉しそうな表情で話していたのだった。
ライナスの口からは、こんな台詞が出てしまう。
「大魔王の事は、この際置いておいて、今は大魔王ルシファーに、この世界を滅ぼしてもらうのは困るので協力しよう」と、そんな感じの言葉を漏らすとリリスが少し悲しげな顔をしながら「本当に、それだけなのですか?本当は『聖槍』を手にしたいという思いがあっての発言じゃないのですか?」と言ってくる。そして「勇者様の剣は、やはり勇者が持つべきなのでしょうか」とも呟いていた。
『リリスが言っている「聖槍の勇者」はライナスが魔王化する前の時代の人物で『聖剣アスカロン』を持っていた人物である。だが「その時代では既に『魔王化した聖剣アスカロン』を持っていた』。そのせいで「ライナス」もライナになってからも「聖騎士として生きていた頃の仲間」達と行動を共にするようになっていたのだ。だが、その時には既に聖天使ガブリエルとライナスの仲も親密になっていたのである。聖天使はライナスに惚れていて「いつか自分と結婚してくれると思っていたのに、ある日突然「大魔王になって聖剣を手にしたい!」とか言い出して大魔王ルシファーの所に向かったっきり帰ってこなかったの」である。それで聖剣アスカロンの使い手は「大魔王ルシファーを倒した後の時代にも引き継がれていき『初代の聖槍の勇者』となったのであった。つまり「初代の勇者が大魔王ルシファーと戦った時に使用していた聖槍アスカロンこそ本当の聖槍の勇者という訳だ。だからリリスが心配するような問題ではないのである』
という説明をした。しかし『魔王化してしまう前の時代に聖剣アスカロンを持っていた人物がライナスであり、ライナスこそが聖剣アスカロンを持つ正当な持ち主だった』という事にリリスが気付かなかったので、このようなやり取りが発生していたのであった。だからライナスは「今は、まだ聖槍の勇者は必要ないし聖槍アスカロンが、どこにあるか解らなくても探し出すのに手間がかかるだけだから探さなくて良いよ」と言ったのである。
「しかし聖槍アスカロンが『聖剣アスカロンと同じ』物だと判明した時は驚いた。あの槍には『聖槍』って言う名前を付けて大事に使わせてもらおうかな」
「その方が聖剣も喜ぶでしょう」
ライナスは、そう答えると聖女リリスは笑顔になり「私も喜んでくれると嬉しいです」と言っていたのである。その後、リリスと話をしてからライナス達は魔王軍の配下や「元仲間達」と共に『大魔王城の中を探索し始めた』のであった。そこで「大魔王ルシファーが残したとされる『禁断の書』を発見する」事に成功する。『大魔王ルシファーの書いた手記』が本棚の本に挟まれている状態で置かれていたのであった。
「まさか魔王軍が大魔王城の地下に大迷宮を作っていたなんて驚きだよな」とライナスは言葉を漏らす。すると「確かに驚くような仕掛けが施されていました」とリリスは同意していた。そんな二人に対して「地下大迷宮に挑んでいた魔王軍の生き残りは全滅しているみたいだけどな」と聖槍ガブリエルが言った。そして「聖槍の使い手が大迷宮の最下層に行けば『聖槍の力を解放する方法』が、分かるかもな」なんて言葉を口にしたのである。「どういうことなんだろう?」とライナスが疑問に思っていると「この世界のどこかに存在していると言われている伝説の武具は全部で三つあると噂されている」と言い出した。
『魔王の心臓を封じ込めて作られたと言われる「聖魔剣レーヴァテイン」。
魔王の心と魂を閉じ込めて作り上げられたと言われている「暗黒魔杖デモンスタッフ」。
全ての始まりにして最強の存在とされている「神滅剣アロンダイト」
これらの三つが存在してて「どれも魔王の力を持つ者に受け継がれていくと伝承されてきた。その言い伝えが「勇者伝説の始まりでもあるんだが、それが真実か偽物の話かは誰にも分からなかった」と説明するのである。そして「もしも聖槍アスカロンを大魔王の魔力で具現化できたならば『聖槍の力を解放し、勇者の力を取り戻す』事が出来るかもしれないな」と口にした。するとリリスが反応を示す。
「大魔王の力を具現化した武器なら『大魔王の力を受け継いだ者が所持して初めて』力を発揮できるんじゃないんですか?」と口にしていた。
ライナスも「確かに大魔王が持っている時だけ発動するようには見えないな」と口にしていた。
そしてライナス達が『禁書』を読むと『禁書に記されていた内容は大迷宮の秘密について詳しく書かれているものであった。それを見たライナスと聖天使ガブリエルが「これは、もう封印を解除して使うしかないな」「そうしないと『この世界に生きる全ての存在が滅ぼされかねない』からね」なんて事を言っていた。
リアリスは「大天使様達が仰られるなら『聖女』である私にも協力させていただけないでしょうか?」とお願いをしていた。
そしてライナスが『聖剣アスカロンが保管されている大迷宮の場所に記された地図を聖天使ガブリエルから渡された』。それを見ると「ここから一番近くにある大迷宮は、ここから北東の方角にある場所にある」という話になる。
それからライナス達は『勇者の伝説に纏わる話を聞きながら旅を続ける』事になった。そんなライナスが聖天使ガブリエルと二人で『聖剣アスカロンの隠し場所へと向かうための準備をしている時にリアリスも合流して一緒に準備を始めてくれる。そんな最中にライナスは、こんな会話を行っていた。
「ところでライナス殿、ライナと名乗っていた頃に『勇者の仲間の一人だった聖騎士ライナスと同一人物だ』という事に気がついてくれた女性はいたのかしら?もしいるなら私は凄く嬉しいのだけれど」
リリスは、そんな風に尋ねてきた。そんなリリスの言葉を聞いた瞬間に『大魔王ルシファー=大魔王ルシフェルの娘である魔王ルシフェリオン=大魔王ルシファーは「勇者の仲間だった聖騎士が魔王になって復活したという事例を知っている。だからこそ父である魔王ルシフェルは『勇者の仲間』と、どんな形であれ接触を計ろうとする可能性もあったからな。それにライナス=大魔王ルシフェルが勇者の仲間だった頃の仲間の事を調べていたから、それもあって気付いた可能性はある』と思っていたのである。
リリスが勇者の仲間の『聖騎士ライナス』として現れた事で「自分が『勇者のパーティーメンバーだった聖剣アスカロンの所有者ライナス』だという事に気付かれたら、この世界に存在する全ての人々が「ライナスは聖剣アスカロンを所持していないはずだ。なぜならライナスは『魔王化』して魔王軍に加わったのだから」と思ってしまう可能性があるのだ。しかし『ライナスは魔王化していない』ために聖剣アスカロンを所持する事ができる。そのため「リリスには『ライナスが魔王ルシファーだと気付く者が現れないで欲しい』と考えていたのである。
「え?そんな人は一人もいなかったと思いますよ?ライナの時の知り合いだった人達とは、あまり関わりませんでしたし。でもどうしてですか?」
「だって、あなたにだけは、どうしても、お聞きしたい事があるのです。あの、勇者が持っていたと言われる剣なのですが、ライナスが魔王化した後になって魔王城に現れたのですよ?それで私が聞いた話によると、その剣が勇者が使っていたとされる聖剣と同じものだと分かったんですよ。それで勇者が本当に生き返ったという事になりますし。それにライナス、勇者の事、大好きでしょ?私、知ってるんだよ。ライナスは勇者に告白までしたけど、振られちゃうんだよねぇ」
聖女リリスが、そんな風に問いかけた。その問いを受けた俺は、少し考えてしまう。確かに勇者が『生きていた頃』の事は、それなりに思い出に残っている。そして聖女から『好きだった』とか言われた事もある。しかし聖剣アスカロンが「勇者が所有していた剣と同名で同じものだと思われる物」が『魔王城』に現れてしまうのは、かなり不味い展開だと感じているのだ。「聖剣アスカロンの事は黙っていてくれ」と聖天使ガブリエルとリリスに伝える。しかしリリスは「大丈夫、聖剣アスカロンをライナスの剣だと、ちゃんと見抜いてくれる人がいるはずです。私のように。私だけが、ライナスと勇者の関係を分かってあげれる存在になれると嬉しいですね」と意味深な発言をしてきた。それで「もしかするとリリスは勇者と関係を持っていたりするのか」と思いリリスが勇者と関係を持っていた場合の『その後の展開』を考えてしまった。それで聖剣アスカロンが見つかった場合は「リリスが持っているという事にしよう」と決めて『聖剣アスカロンは魔王城の中にあるので、その場所に行く』のであった。
そして「魔王城の地下深くに存在する大迷宮へと辿り着いた」のだが、その地下大迷宮の入り口は厳重な封印を施されていて、誰も入れない状態になっていたのであった。そんな状態で「どうしたものか?」と頭を悩ませているライナス達の元に『魔王軍の元幹部の一人で魔獣の軍団を指揮する将軍』である「聖竜ファウエルド」が現れる。
そして聖剣アスカロンは『この大迷宮の奥底に安置されている』という話になり、それを知る唯一の人物が『魔王軍四天王の一人で聖剣アスカロンの製作者の師匠である魔王の師匠である人物から「大迷宮の管理者』の地位を引き継いだ「白竜王グラン」なのだ』と言う説明をする。そんな話をされたライナス達は「グランなら知っているんじゃないかなぁ?」と思った。そこでライナスは聖女リリスと一緒に『魔王城にあるはずの聖剣アスカロンを探しに』大迷宮に足を踏み入れたのであった。
「さて、これから聖槍ガブリエル、魔王の使徒リリス、大天使様の御三方は、どうされようとされているのですか?」
俺が大魔王の使徒と大天使にそう質問を行うと『自分達が大魔王城に保管されていた禁書の内容を熟読して知った情報を他の者に話す事なく共有していた。そんな二人の話を聞いた俺は、その内容に対して驚いてしまった。なぜなら「大魔王が作り出した禁断の大迷宮が、この場所で管理されていたのか?」と驚く内容だったからだ。そして『もしも聖槍ガブリエルが勇者の仲間に回収されてしまったら大変だな』と思うと同時に「もしも勇者が蘇るのなら、それは大魔王にとっても、この世界にとっても良いことだから、まあいいか」なんて思ってしまう。そして『もしも大魔王が復活したら勇者の仲間達が全員集まらない限りは倒せないだろうから復活しない可能性もあるかもな』と考えるのである。だが念のために『魔王の力』について調べてみる。その結果『魔素を大量に吸収することで一時的に魔王の力を扱える存在になれるらしい。ただし「レベルが10以上にならないと扱えない上に魔王の力を使った後は「体力を大幅に消耗する」というデメリットもある」事が分かるのである。そして大魔王ルシフェルの娘魔王ルシフェリオンは「レベル20の勇者よりは確実に強い」のは間違いない事実だ。しかも「今の俺では絶対に勝てない存在」だと理解できていた。しかし、だからこそ大魔王の復活を阻止する必要があるのだと感じたのである。
そんな感じで、ライナスが魔王の力を調べると『もしも魔王の力が使えるのであれば勇者が生きているかどうか分かる』事を知り、魔王の力で『聖剣アスカロンがある場所に辿り着く事が出来るか』を確かめたいと考えていた。しかし、その試みは失敗した。その理由について簡単に説明していく。その方法を使えば聖天使が聖剣アスカロンのある場所まで案内できるという情報は聖天使から聞いていて、実際に確認も出来た。だが魔王の力は『勇者の仲間が持っている剣の場所が分からなかった』からである。それを受けて「これは勇者に何かあったのか?それとも大魔王ルシフェルが死んだ事で勇者に与えられていた力が失われたのか?」なんて事も考えた。そしてライナスとリリスは『聖女リリスが「この世界で最強と言われている存在」である事』を思い出す。
それから「もしリリスが『この世界で最も弱い勇者』を倒せたのならば、勇者に残されている力をリリスが吸収出来るのかもしれない」と考えた。
だからライナスは『この世界で最も強い勇者を倒すためには、どうしたらいいだろうか?』と考え始めるのである。
ライナス達は「大魔王が作り上げた聖槍ガブリエルが納められていた聖迷宮に、もう一度足を運んでいた。そんなライナス達は『リリスには勇者が聖剣を手放すような出来事に心当たりがないかな』と思って「聖剣アスカロンを勇者が所持していた時代があったのか?」という事を確認しようとした。
すると「魔王ルシファーが聖魔王として存在していた時代の魔王城の中にあった聖具庫の中で聖剣アスカロンを見付け出して勇者に託した」という事実を教えてくれたのだ。
ちなみに魔王ルシファーの時代に魔王城に存在した「魔王ルシファーやルシフェルに関係する品物は、どれも伝説級の性能を持つ超高級品の道具だったのだ」と教えてくれた。つまり『魔王ルシファーは、かなり良い物を揃えていたのだ』と俺は考えながら「もしかすると、そんな伝説のアイテムの中に勇者が聖剣を持っていた時代があるのかもしれんな」と思うのである。そんな感じでライナスは『聖剣アスカロンの隠された秘密を探る』のである。そして「勇者の仲間の誰一人として『魔王が持っていた剣の鞘だけを所持していた』者はいなかった」という事を思い出した。それを踏まえてライナスは聖剣アスカロンを「勇者以外の者が所有している可能性もゼロじゃないよな」と思う。だけど、そんな聖剣アスカロンを持っている勇者が聖騎士時代に告白して振られた相手というのは、いったいどんな女性なのか想像ができないのであった。
ライナスが魔王城で保管されている聖剣アスカロンの事を考えると「聖剣アスカロンの所有者がライナスだと知られれば大変な事になるよな。リリスは聖女で『ライナスは勇者が好き』と皆に認識されて、そんな勇者を魔王化させてしまったのはリリスだしな。勇者はリリスを許せるか?」と思ってしまうのである。しかし聖剣アスカロンが魔王城の宝物庫に安置されているのは「魔王が勇者に与えたものだから、その魔王を殺した聖槍ガブリエルでも回収は無理だったのかな?でも『聖女の杖は、ちゃんと大天使の手に渡っているんだよな。でも勇者に告白して振られちゃうんだよね』って思い出してしまうのである。
そして「もしかすると聖女に聖剣アスカロンは使いこなせなかったのかな?聖剣の勇者だった聖騎士ライナスと勇者のパーティーメンバーに聖槍ガブリエル、聖弓ラファエル、聖剣エクスカリヴァーンが、あの大迷宮にいたんだよな」と思い聖剣アスカロンの事は一旦諦める事にした。だが聖剣アスカロンは、そのままの状態で「魔王城の地下大迷宮の奥底にある隠し扉」が閉じられていて見つける事は出来ない状態になっていたのであった。そして大迷宮の管理権限を引き継ぐ白竜王ファウエルドは「魔王城の地下大迷宮の奥深くで聖剣アスカロンを見つけた場合のみ『管理者が、この世界に顕現しない限り』封印を解除して取り出せるように細工をした」と言う。しかし、そんな話を聞いて「聖剣アスカロンを見つけて封印を解かないと聖女が大魔王を滅ぼせない可能性があるから『聖剣アスカロンを探しに行かなくてはダメか?』と考えて、ため息が出てしまうのであった。しかし聖女リリスから「もしも聖剣アスカロンを手に入れたら私に下さいね」と頼まれてしまう。それで『もしも聖女が魔王を滅ぼすのに成功したのなら、その時に俺が、もしも勇者の剣を持っていた場合、どうなるか?』を考えてしまう。
そんな事を考えてしまうと『勇者の仲間たちの誰かが大魔王の剣を持っている可能性を考えてしまう。その場合に、どうしたら良いかを考えないと、まずいことになるのではないのか』と考えるようになる。そんな状況になってしまう。そこで聖女に「勇者が大魔王を倒したのは、いったいいつ頃なのか?」と尋ねるのである。
そんな感じにライナス達は大迷宮の奥底にある聖剣アスカロンを目指して、もう一度大迷宮に挑むのであった。
そして大迷宮の最下層へと到達すると『リリス』の体に宿っていた『大魔王の力』が暴走し始める。ライナスは『勇者の聖槍アスカロンを手放してしまった事をリリスに伝えないといけないのか』と考えながら『聖女がリリスが大魔王ルシファーから譲り受けた力で「大魔王を討伐した事実」を伝えるべきなんだろうな』と思った。しかし大魔王の使徒である聖天使が、なぜか『大魔王ルシファーが聖剣をリリスに譲渡したのは間違いない事だ!』と主張した。それに加えて聖天使は『もしもリリスが魔王を滅する事が出来るなら「勇者と同じような立場に立てるかもしれない」と考えた。そして『もしかしたら勇者に復讐する事も可能なのではないか』なんて考えてしまうのであった。
だが『もし本当に勇者と似たような力を手に入れられるという可能性が出てきたら俺だったら絶対に使わないぞ』とも思った。なにしろ大魔王ルシフェルは大魔王として君臨するまで多くの魔王達を従えて世界を支配していたらしい。そんなルシフェルから力を貰ったりしたら、それはもう世界を支配しているのと同じことではないか!そう思うと同時に、もしも聖女が勇者のような力を使えるようになったとしたら、それは世界の支配につながるだろうから危険だと考えたのである。だから「リリスさん、気を付けてくれ」という言葉を向けていた。
だがライナスの願いは叶わないのであった。リリスはその体を使って大魔王の力を使い始めると「大魔王の力に耐えられなかった肉体が崩壊する」という悲劇が起こったからだ。リリスはライナスの前で死んでしまい、その後を追うようにしてライナス自身も死を選ぶことになった。
それから聖天使の使徒である聖騎士は『俺が勇者の代わりになって世界を救い、魔王を倒してやらないとな』と思うのである。それから「勇者に復讐するのは、まだまだ先になりそうだな」なんて考える。なにせ聖剣アスカロンが「勇者が所持していた剣が行方不明で聖剣アスカロンを持っている勇者は存在しない。それなのに勇者に復讐するためには勇者以上の力を持つ必要が出てくるのだ。
しかし「もしも聖女から大魔王の力を貰って勇者より強くなることが出来れば、聖槍で魔王を滅ぼした勇者よりも、もしかしたら勇者より強くなれるかも?」という考えもあったのだ。だが『もしも魔王より強い力が手に入るとしても勇者への復讐のために魔王になるつもりはないな』なんて事も考えていたのだった。
聖天使の加護を受けた聖鎧を装備したライナスが『大魔王』として目覚めるとライナスの配下となる『七柱の天使』と、それぞれ契約を交わしていくのである。
『ライナスが聖剣を持つことで魔王の力に覚醒した場合、大魔王としての力も得る。また勇者の力を吸収することも出来る』という話は聖天使ミカエルの話から聞いていたが『聖剣アスカロンの本当の力を解放できるのは聖剣アスカロンを持った者だけである』という話を聞く。
それから「もしリリスが大魔王の力で復活できるのならば『聖槍ガブリエル』も復活するのだろうか?いやいや『聖剣アスカロンで勇者の持つ聖槍ガブリエルを復活させられないのならば『聖槍ガブリエル』は大魔王の力で復活した場合にのみ使用できる聖具なのだろうか?』とか考え始めてしまい「そもそも、こんなに色々な疑問が出て来るのならば大魔王に目覚めた状態で『リリスを復活させるかどうか?』を決めてしまえば良かったかもしれない」と思う。そんな風に考えたライナスだったが、それでも大魔王に覚醒すると聖剣アスカロンの使い方が理解できるようになり『聖槍ガブリエルが使えなくなる』と聞いているから『もしかすると、そんな能力も持っているのかな?』と思ってしまうのである。ただ『聖剣アスカロンが聖剣ガブリエルの鞘として存在している』というのが信じられないので、やっぱり聖剣アスカロンに聖槍ガブリエルの能力を封じ込めることが出来るという事には半信半疑だったのである。そんなライナスが大魔王の姿で聖女リリスを生き返らせようとして聖剣アスカロンを手にして「この剣で大魔王として覚醒してから、すぐに『聖槍ガブリエルの鞘』に出来るのか試すのもありなんじゃないか」という発想になった。そんな時に聖天使ガブリエルが「魔王化しない方法もあるよ」と言ってくれた。
それだけではなく聖女は『聖剣を魔王化せずに保管する方法があるよ』と言うのであった。ライナスとしては「大魔王化した後に聖剣を鞘にすることが出来ない場合に備えて魔王化を防ぐ方法が有ったほうが安心だ」と感じるので聖女の案に従う事にした。
そんなわけで大迷宮の最深部に大迷宮を管理するために用意された『大迷宮の管理者が管理を行う部屋』へと行くと、そこでライナスは聖剣アスカロンを抜くと聖槍ガブリエルの封印を解くことにした。
そんな感じに大迷宮の管理を引き継ぐと「大魔王となったことで聖天使が、ちゃんと見えるようになってくれたんだよな。それに大魔王に覚醒したせいか、いつもと違って「大魔王としての記憶がある」っていう状態に変わってしまっているんだ。でも、これが『普通の状態なのか、そうでないのかが分からない』という不安に駆られてしまう。だが大迷宮が聖槍ガブリエルが封じられているのが分かるのである。そして聖天使の姿を見て「この人が聖天使だったんだな」なんて思って『大天使様は凄く優しい人』という記憶があると気が付き「なんだ?この記憶は?」と思ってしまっていた。
だがライナスは聖女を大魔王に覚醒させるために聖剣を抜こうとしている最中なので「この聖槍ガブリエルを使えば大魔王としての力とかは関係なく大魔王を聖女の体に宿せるかもしれない」と考えてしまう。
しかし、その時である。大迷宮の最下層までたどり着いたライナスを邪魔しようと聖剣エクスカリヴァーンを持つライナスの宿敵である『勇者』が最下層にやって来たのである。そして聖女リリスの復活を阻止するために『勇者のエクスカリヴァーンで斬りかかろうとしている』という状況になってしまう。だから「これは困ってしまうぞ」と思い聖剣アスカロンで「勇者が持つ聖槍ガブリエルを鞘から抜いた」ら聖女は大魔王ではなく「大魔王ルシファー」としての肉体を持って復活を果たすのであった!しかも、なぜか勇者が聖槍で滅ぼすべき相手であった筈の大魔王を自分の力として取り込んでしまったという「ありえないような出来事」が発生したのである。
それどころか勇者は大魔王ルシファーと融合する事によって勇者としてのレベルが上がるのであった。その結果としてライナスと聖騎士が戦っていた頃よりも数倍強い強さを誇る『究極進化』を果たしてしまう。それから、さらに「ライナスが持っている勇者の聖剣は『勇者の聖剣』では無く、もともと勇者ルシフェルの持っていた聖剣だったのではないか?」と言う可能性が出てきたのだ。そしてライナスとライナスの従者は「聖剣アスカロンを勇者の手に戻す事が出来ないのならば大魔王ルシフェルと融合することで『大魔王と聖女の力』を手に入れる事が出来るのではないか?」と考えて「大魔王と勇者が融合してしまう前に勇者から聖剣アスカロンを奪わなければ」と行動するのであった。
そんなライナス達は大迷宮を駆け巡る事にして「もしかしたら、どこかの宝物庫みたいな場所に入って『聖剣アスカロンを手に入れたら大魔王の力を得て大魔王ルシファーとして復活します』というメッセージが表示されて『大魔王の力で復活しますか?YES/NO』という選択肢が出るのではないか」と思ったのである。
しかしライナスは、そんな展開にはならずに聖騎士に大魔王ルシファーとしての力を譲り渡すのである。そして聖天使は「大天使ミカエルの力を貴方に譲るよ」とライナスに伝えた上で「もしも貴方が自分の手で世界を変えられるほどの力を得たのならば、きっと貴方の望み通りに世界が変わると思うから頑張って欲しいね」と伝えたのであった。
そしてライナスと大天使ミカエルと融合した大魔王は大魔王ルシファーに変身して『七柱の天使と契約を結ぶ』ことに成功するのであった。そんな時、たまたま大天使と大魔王の目の前に現れたのは、かつてライナスに聖槍ガブリエルを貸し与えた張本人である天使のルシファーだった。そんな天使のルシファーに、ルシフェルとルシフェルが融合を果たした存在は話しかけると聖槍の鞘を渡してくれるように頼み込むのである。もちろん断られると、あっさりと立ち去って行くのだった。
その頃、俺は大迷宮の探索を進めていた。そして大天使ミカエルの力を受け継いだ大魔王ルシファーと出会う。そんな大魔王に対して『聖天使ガブリエルが作り出した聖槍の鞘を差し出した』ら「俺の体を聖槍の鞘にしろ」と言い出すのである。そんな大魔王に聖魔人は「そんな事をしたら貴様は消えてなくなってしまうぞ!」と言ったら大魔王に「それで良い!お前に勇者と大魔王の両方の力が使えるようになったら勇者と俺の力を合わせた力で世界を変えていけ!勇者は聖剣エクスカリヴァーンの勇者の力で世界を支配しようとしているが、それは間違っているから俺と力を合わせろ!それが本当の意味での平和に結びつくからな」なんて言う。そんな大魔王の言葉に「わかった。やってみよう。私は、そのために大魔王に生まれ変わったんだからな。勇者と手を取り合うのも面白いかもしれんな」と答えると聖槍ガブリエルを使って自分の中にある勇者の魂を吸収しようとする。しかし『聖天使ガブリエルの槍』を抜けば、たちまち大悪魔ルシファとして覚醒すると分かっていたが大悪魔の力を自分の物とするために『聖天使ガブリエルの槍』を抜いて自らの魂を消滅させたのである。
しかし『ライナスは大魔王として覚醒した時に聖剣アスカロンを『鞘』として聖天使ミカエルの力を封じている』という状態だったので『大魔王が聖天使ミカエルの力を鞘にしたことで大魔王は消滅した』と言う状態になる。つまり大魔王が聖剣アスカロンを鞘にしていると聖天使の力を抑え込めるが、もし聖天使ミカエルの力を聖剣アスカロンで解放していたならば聖天使の力も吸収できた可能性がある。そう思ったライナスは自分が『聖天使の力を全て手に入れたい』と思っているなら大天使ガブリエルの持つ聖剣で聖天使の力を封印してしまえば聖剣アスカロンは聖天使の力を吸収することが出来るのではないかと考え、聖槍ガブリエルの『鞘にされている』と知った時点で聖槍ガブリエルで聖天使の力の全てを奪ってしまう作戦を実行した。
大迷宮で復活したライナスの配下は聖剣の加護を受けている聖騎士や聖槍ガブリエルで聖女の魂の全てを取り込んだことで聖女と同等の力を手に入れた『大魔王ライナス』と聖剣の加護を受けておらず『勇者の力のみしか持たぬ聖騎士ライナ』の二人が対決することになってしまった。
それから、その勝負では聖槍ガブリエルを持ったライナは圧倒的な強さを見せつけていたのだが聖剣エクセレントを抜いたライナスの猛攻を受けて窮地に陥ってしまう。それでも聖女が復活していないために聖女が『大魔王と一体化して聖剣で大魔王を殺すこと』で聖剣の加護を受けることが出来ると考えた。だが聖女リリスの復活を阻むための結界が張られているため大魔王は『聖剣で殺すことが出来ない』という状況になってしまっていたので『このまま戦い続けるだけでは自分は敗北してしまう』と判断したのである。
そこで聖天使の力を使う事にしたのである。そんなライナスを見て「聖天使と一体化すれば聖騎士よりも、さらに強くなれるんじゃないか」と考えて大魔王ルシファーが『自ら死を選んだのは間違いではないのではないか?』と思ってしまった。
大魔王は『聖天使ガブリエルと同化しても自分の意識を保ち続けたまま』聖槍を自在に扱うことが出来た。だから聖剣と大魔王は互角に戦うことは出来た。
そんな二人の戦いは決着がつかずに終わるかと思われた。だが大魔王の『聖槍ガブリエル』が『勇者が聖女を殺した際に、たまたま大迷宮に落ちた事がきっかけでライナスに貸し出される運命だったのかもしれない』なんて思ってしまったら大迷宮の管理者は「それだ!」と言って勇者と聖女の力を一つにした『究極合体』をさせる事に成功をした。
それによってライナスは勇者と大魔王の両方の力を宿した存在になった上に『聖天使の力が使えるようになっている』のである。それから大魔王の方は聖天使の力は扱えても聖槍ガブリエルは『本来の姿』に戻った事で使用不能状態になり、そしてライナスに聖天使の力を貸すことは出来るようになるが大魔王が聖天使の力を使えない以上『大魔王の力を聖槍ガブリエルの鞘にすることは不可能』となってしまったのである。そんな状況で大魔王ルシファーと勇者ルシフェルの魂を融合させた存在は「これで終わりか」と思って諦めかける。
だけど聖槍ガブリエルと聖天使ガブリエルが、それぞれ『聖剣と大魔王を倒せる武器』に変化して、それぞれに大魔王ルシファーと大魔王が持っている『聖剣アスカロンと聖剣エクスカリヴァーンを殺せる唯一の剣』へと変化したのであった。そんな『二種類の神が作りし剣を所持する聖剣使い同士』が激突した戦いが始まる。
その結果、大魔王が使っていた聖剣アスカロンは勇者が持つ『聖剣エクスカリヴァーン』によって破壊されてしまうのであった。そして大魔王も大魔王ルシファーの力も完全に消滅させられてしまうのであった。
そんな聖天使ルシファーと融合を果たした『大魔王ライナス』が聖槍ガブリエルと融合を遂げた『大魔王ライナス』と戦う。そして両者の聖槍が激突した時「ライナルト君、君は『大魔王と勇者の力を両方使えるようになった大魔王ライナス』に聖剣の加護を持つ者より強いんだよ。でも大天使ガブリエルは『聖剣に加護を与える』聖女リリスが大天使ミカエルを『聖剣で斬って殺したから聖剣アスカロンの加護を得る事が出来る』ようになった聖剣の『鞘』として作られたから、ライナス君の持っている聖剣に『大魔王が聖剣アスカロンに宿ることを許してあげる機能がある』という訳だよ」と、大魔王は説明する。
そして大魔王は聖天使ガブリエルが変化した大魔王ルシファーの力を込めた大天使の槍を振るうと大魔王は、あっという間に劣勢に追いやられていく。しかし、ライナスが聖剣エクスカリヴァーンを使って攻撃している時は、いくら聖剣の力を込めて聖槍を使ったとしても、どんなに強い攻撃力があったとしても、その攻撃は全く通用しなかったのだ。そしてライナスの攻撃を防ぐ事は出来なかった。
そんな大魔王はライナスの聖剣に聖剣エクスカリヴァーンを破壊されてしまう。だが大魔王ルシファーと聖天使ルシファーの力を併せ持つ聖槍と融合を果たしたライナスも大魔王と同じように聖槍と聖剣の融合を果たせるようになったのである。そして両者は聖剣アスカロンと聖剣エクスカリヴァーンを持って聖剣の力を使いまくり聖槍を繰り出しても『勇者の力を使っている大魔王に聖槍が通用しない』という状況になってしまう。しかも聖剣アスカロンには『勇者の魂』が、そして聖剣には『聖女の魂』が融合しているため聖剣は簡単には壊れないのであった。しかし両者が融合した大魔王には聖槍ガブリエルと融合した『ライナスの体には聖槍アスカロンと融合した聖騎士と融合したルシフェルが融合を果たしていて、さらにその融合したルシフェルが大魔王と一体化したために聖天使ガブリエルと融合した大魔王の体にも聖槍アスカロンと融合した大魔王がいる。そのように『同じ存在を別の肉体に入れる』という現象が起きた』ことによって聖剣と聖槍は互いに互いの体を壊せない状況になっていたのだった。
こうなったら大迷宮に仕掛けられていた『どちらか片方に勝利をもたらす』ような『奇跡的な偶然が起こらない限りは大魔王は大天使の力を使うことが出来ない』と言う状況を作り出すために大魔王ルシファーは『ライナスに対して自分が使った事のある魔法を全部使えるようになる力を与えた』。すると『大魔王は、さらにライナスを追い詰めようとしてくるのだろう』とライナスは思いながら『この世界から大魔王を追い出す方法はないか』と考える。
その頃、大魔王の『闇魔法の使い手が相手なら』という言葉を聞いた聖天使ガブリエルは大魔王に対して『私を貴方の『聖剣の鞘にしていただいた御礼として聖槍を貴方に差し上げましょう』と言い出した。だが大魔王は、その言葉を聞き流した。
『お前に聖槍を渡したら大魔王が聖剣の鞘になるのだから、それだと困ると思ったから』
しかし大魔王は「俺の勝ち目は、これで確定したも同然じゃないか」と思い大魔王の『闇魔法』で聖天使の『闇の力を借りる事が出来ればライナスの弱点が分かった』ので大魔王は自分の配下に『闇魔法』で洗脳を施したのである。そうして配下を操った後で聖天使の魂の集合体がライナスの元に向かったのだが、その聖天使は「聖槍を返してほしいです」と言ったのである。それに対して大魔王は「いいよ。僕に聖槍を渡してくれ。ただし僕の配下を全員殺してからにしてくれるかな?」と答えた。すると配下の一人は「ライナス様、私は絶対に負けません。必ずやライナス様に聖槍をお渡しいたします。ただ私が負けた場合は聖槍ガブリエルは、ライナス様が使っていただきたいと思います」と言ったので大魔王は、そいつの言葉を聞いて『ライナスと配下の戦いを見て楽しむことにしよう』と思う。そして聖天使と大魔王の戦いが始まる事になったのであった。
それからライナスと聖槍ガブリエルの融合を果たして大魔王となった大魔王ルシファーと聖天使ガブリエルが戦いを始める事になる。だが、その戦いの最中で聖天使が聖剣で大魔王の事を『聖剣の鞘にしてあげたんだ』という感じのことを言った。それにライナスは聖槍に聖天使の力を纏わせる事で、ようやく『自分の体が傷つくこと無く聖槍と聖剣を使う事が出来る』のに聖天使の力で戦う大魔王に、なぜ大魔王は『闇魔法』しか使う事が出来ないのだろうと疑問に思った。そこで聖剣エクスカリヴァーンに聖女の力を込めると大魔王ルシファーを攻撃する。大魔王の体に聖剣を突き刺すと「やっぱり、この剣も効かないか」と呟く。そして大魔王は「いやあ、君の持つ聖剣が凄すぎて僕は聖剣アスカロンの加護を受ける事が出来なかった。聖剣アスカロンに聖女リリスの魂が宿っているから『リリスの力を使えば、どうなるか分からないから』という理由で聖槍ガブリエルの鞘になったんだよ」と言うと聖剣エクスカリヴァーンに『聖女リリスの力を込めた』のだ。それにより聖剣エクスカリヴァーンは『リリスの力を持った』聖剣に変化した。それで大魔王ルシファーは「なに!?聖剣エクスカリヴァーンに、そのような力が秘められているのか!?それは知らなかった。ならばライナスに、それを使わせてみよう」と聖槍ガブリエルの『聖女の力を扱える器になった聖剣エクスカリヴァーン』を渡すことにした。だが大魔王ルシファーの配下が聖剣エクスカリヴァーンの加護を受けたライナスに攻撃を行うとライナスは「なんなんだ?今の力は?これが聖剣の力なのか。だけど俺は聖剣アスカロンに加護を受けているはずだぞ」と思って自分の聖剣を見ると聖剣アスカロンの『光の力を帯びた聖槍』に変化を遂げていた。大魔王ルシファーの『部下たちが聖剣エクスカリヴァーンに宿っていたリリスの力に聖槍ガブリエルの力を加えて『聖剣エクスカリヴァーンに宿るリリスの力』を発動して、その状態で聖槍ガブリエルを振るうと聖槍アスカロンを振るうよりも、かなり高い攻撃力を発揮した』
聖剣エクスカリヴァーンを大魔王ルシファーに返すライナスだったが聖剣アスカロンが、どんなに強くとも大魔王ルシファーが聖槍アスカロンを持っている以上、その力で勝つことは出来ないと考え『なんとか聖槍アスカロンと聖剣アスカロンの融合を果たそうとして』みたが、やはり融合することは出来なかった。だが大魔王はライナスに向かって「聖剣アスカロンに聖天使の魂を憑依させた聖剣エクスカリヴァーンの使い手の君は、この聖剣と聖剣アスカロンの両方を同時に使えなければ『僕の体の中に居る二人の聖女の力を同時に扱う事は出来なく』なったんだよ。それが君の運命だよ」と、いう。しかしライナスが「俺が大魔王を倒せるチャンスが有るかもしれないだろ。やってやるさ」と言うと聖剣アスカロンと聖剣エクスカリヴァーンを合体させる事に成功するのであった。その結果『聖剣アスカロンに聖天使リリスの魂』と『聖剣エクスカリヴァーンに聖女ユリナの魂』を宿した状態になり聖槍と聖剣が合わさって新たな聖剣となる『聖天使の魔槍』へと変化して、その『聖天使の魔槍に宿る力を使いこなせば』大魔王を倒すことが出来るようになったライナスであったが、それを見ていた大魔王は聖天使の力は『リリスとユリーナの力』だけではなく他にも様々な『特別な力がある』ことを察知する。
その頃ライナスは自分が今手にしている『聖なる力と魔の力を持つ聖剣エクスカリヴァーン』をどのようにすれば大魔王に勝てるだろうかと考えていたが、その事を考えていた時に大魔王の部下である闇の魔法使いたちは一斉に魔法を使ってきた。だが、その時にライナは大天使ルシフェルの力で闇魔法の使い手に対して『耐性を得ている』ため魔法攻撃は全て弾かれたのであった。
だが闇の魔力によって強化されている武器攻撃に対しては聖剣アスカロンが使える聖槍のように全ての属性に対応できるわけではなく防御できるのは魔法だけで物理攻撃に対しては防御力が低い状態だったために魔法による攻撃を防ぐことが全てできても、すぐに攻撃が来るだろうと思い「大天使様」と呟いた後に「私を助けてください」と言ったのだがライナの体から発せられた『白いオーラと黒い影が混ざったモノ』を見て驚いた大魔王ルシフェルは、これは何かが起こると思いながらライナの事を観察する。
そしてライナスの体に『白い鎧』を纏うと大魔王は「そんなバカな!!その鎧を出せるのは僕とリリスだけしかいないはずなのに、なぜ貴様にその力が宿った!!」と言いながら聖槍を繰り出した。だがライナスは大魔王ルシフェルの聖槍の攻撃を剣で防いだ後で「俺は、これから聖剣と聖槍で戦おうと思っている。その力を見せてくれるかな?」と言う。大魔王ルシファーが「見せてくれよ。聖槍と聖剣の力を合わせた新しい力を見せてくれないかな?」と言う。
ライナスは聖剣エクスカリヴァーンに、もともと宿っていた聖女リリスと聖女ユーリーの二人に意識を向けるが『リリスも、もう既に消滅していて今は、この剣には二つの命しか宿っていないのか』という事を理解する。それでもライナスは『大魔王と戦うための新たな力を欲した』のだが『どうやったら、この二つが融合したような力を使うことができるんだろうか?』と考える。そこでライナスは『俺が今使っている聖剣は聖剣アスカロンと聖剣エクスカリヴァーンが合体したもので、その力を上手く使えないだろうか』と思った。そうして聖剣と聖槍の融合を試みる。すると、あっさりと成功した。だが、ここで大魔王の配下の魔法剣士の集団の攻撃を受けるが聖剣エクスカリバーは『ライナスの体を守り通す力も持っていた』ため大魔王の配下たちによる攻撃を全て跳ね飛ばすことが出来た。そうして聖槍と聖剣を一つにした聖剣エクスカリヴァーンで大魔王に攻撃を仕掛けるのだが大魔王ルシファーは、それを受け流してしまう。しかし聖槍アスカロンと聖剣エクスカリヴァーンの威力が高い事が分かった大魔王ルシファーも、この組み合わせは予想外だったらしく、そこで大魔王は『聖槍と聖剣の力が宿っているライナスは、それほど強くないはずだ』と思うとライナスの体を斬りつけた。
ライナスの体は、そこまでダメージを受けていないようだったが『大魔王ルシファーは油断している』と考えたライナスは聖槍アスカロンと聖剣エクスカリヴァーンに、それぞれ宿っている聖女の加護を使うことにした。聖天使の力にリリスの力を使う聖剣と聖槍を、どうやって使ったのかというと聖槍は『リリスの加護』が『リリスとユリカ』の力を使うので、聖剣の方では『聖女の加護の力を扱う』という事になる。だから大魔王は『リリスの加護を使った聖剣は、大魔王の敵ではない』と判断して油断していたが、大魔王は『聖女の加護は『聖女の魂』を使っているリリスの加護と相性が良かったが、その聖剣と聖槍が合わさる事により聖槍アスカロンは、かなり攻撃力が高められていた』ことに気付かなかった。
そこで聖剣エクスカリヴァーンの力によって強化された聖槍アスカロンと『光の力をまとった聖剣エクカリパーン』の組み合わせによって攻撃する事に成功したが「こんな馬鹿な、ありえん、あり得ないだろ。お前は聖槍と聖剣に宿っていた二人のリリスの力を同時に操れる存在になってしまったというのかい!?」と大魔王が驚く。
聖剣と聖槍が合わさり最強の剣になると同時に、そこに宿っている聖女と聖女の加護の力は大魔王を倒せる程の力を持った。その事で大魔王ルシファーを圧倒したライナスであったが聖女の力だけでは、この聖剣エクスカリヴァーンの力を使いこなすことは出来なくて『闇を斬ったり、闇に捕らわれている人を助けることが出来ないか』と考えてみた。そこで聖槍アスカロンの『光を闇から守る力』は使えると気付いたのである。それで大魔王の隙を狙って聖槍アスカロンを聖剣エクスカリヴァーンで破壊した後に「さあ大魔王よ、ここからは、このエクスカリヴァーンの力と聖剣アスカロンの力と聖女の力の合わせ技を使って戦う事にしよう」と言うと大魔王の体を貫き大魔王を倒す。
こうして大魔王ルシファーを倒すことに成功する。しかし『ライナスは、これで戦いが終わったとは思っていなく』大魔王ルシファーを倒したとしても世界が救われるわけではないので大魔王ルシファーを、この世界の支配者として君臨してもらい、その大魔王ルシファーの手足となって動いてくれる大魔王の側近をライナスが倒すために聖天使の力を使う事を決意したのである。
ライナスは大魔王を封印する為に必要な道具を集めていたが『聖女と聖女の騎士の装備』と『聖女が使う魔法のアイテム』が必要だと考えると、それらを入手すべく動くが、まず最初に『聖剣アスカロンの加護を持っているのは聖天使であるリリス』であり『聖剣アスカロンと聖剣エクスカリヴァーンを合体させたことで、その両方の能力を受け継いだ聖槍アスカロンを作り出したのが聖天使リリス』だと考えていた。そして聖女と聖女を守る騎士団の装備を探そうとした時に「あのねお兄ちゃん、実はユリナの事は『ユリナのお姉さんに、おまかせしたから大丈夫だよ』っていう感じなんだ」と言う。
そう言われたライナスが『そう言えば、この聖騎士の装備品をユリナのところに持ってくるように頼まれていたんだっけ』と思い出したので聖剣アスカロンと聖剣エクスカリヴァーンの合体を果たさせて聖剣エクスカリバーンになった聖剣を、そのまま聖槍アスカロンに変化させると聖槍をユリナに渡してからユリナと一緒に聖女と聖女を守るための装備を集める旅に出る。そうしてユリナがユリナの姉と再会した頃にはライナスが聖剣エクスカリバーの力で集めてきた『光の武具』も集まっていたのであった。
大魔王を倒して『闇に囚われた人たち』を救う為に、これから何をすればいいのかを考えてみる。そうすると『リリスとユリーナが消滅した後に、どうすれば二人が救えるのだろうか』と考えると『ライナスの体が乗っとられる前の世界に戻るしかないのかな』とも思う。しかしライナスの体の中には大魔王ルシファーの力も入り込んでしまった状態になっていたが、大魔王は、このままの状態でライナスの体を乗っとり自分の肉体を取り戻す事を考えると『俺の体は返してもらうよ』と言い始める。だが、そこでライナスは『聖天使の力を使えば何とかなるんじゃないか』と思い大魔王に対して『俺が聖魔人の体に乗り移られた時に、どうなったのか』を思い出してもらうことにしたのだった。
大魔王は、その出来事を思いだすとライナスは「どうやら聖天使の力があれば大魔王の呪いを打ち消す事が出来るようだな。それなら大魔王ルシファー、お前は、もう既に死んでいる人間なのだ。だから、もう大人しく眠っていれば良いんだよ。大魔王の力が消えても、また別の形で大魔王ルシファーが復活するかもしれないが、それも絶対に起こらないようにする方法がある」と言うと「それは本当なのか?」と言うのであった。するとライナは大魔王ルシファーを封じ込めることを決める。
そして「ライナ様は一体何が出来るというのです?私達も今まで戦ってきたというのに貴様だけには頼らない」という発言をした女性聖騎士の言葉を聞くとその女性の方に向き直ると言い出したのだ。そしてライナが言葉を口にすると彼女の姿が変化することになったのだが、その様子を見た彼女は「貴様は、いったい何者だというんです。私達の聖騎士隊の中に聖戦士はいないはずなのに何故」と言いながら倒れてしまった。それを見た聖女は彼女を抱き起こすと意識を失っていることに驚き「どうして聖騎士隊の人達は気絶しているの?」と言うと聖剣アスカロンが答えてくれた。
聖剣が教えてくれるとライナスが大魔王ルシファーと戦う前に聖女リリスが言っていた事を思い出した。
「私は聖天使に覚醒しているんですよ。なのでライナス様と大魔王との戦いが終わった後に、その力が暴走してしまう可能性があります。ですのでライナス様は私が大魔王と戦おうとしている最中、私の側にいて頂きたいのです。もしもライナス様に大魔王との戦いで死なれでもしたら大変な事になるので。そうなった場合、大魔王との戦いでは無くなってしまったライナスの命も戻ってきて大魔王に奪われたライナスの魂も戻ることになりますので。そうなると、どうなるか分からないのですよ」と言っていたことを思い出すと『リリスの言う通り、俺は、まだ生きている』と考え始めたので、どうにかしなければと考える。すると大魔王に「おい、そこの女、今から『俺が元居た世界の時間』に戻って大魔王ルシファーを封じ込むことにするけど、お前は大魔王ルシファーを封じ込めるために必要な事をしてくれるか」と質問をする。すると大魔王ルシファーは「まぁ出来る範囲の事でしたら、なんとかします」と答えたのだった。それを聞いてライナスは『聖天使に宿っていた時の記憶があるのか』と思って驚いていたが、そこでライナスは『リリスの記憶は封印されていたんだし、この世界での記憶も消されているはずだから何も問題はないのか』と思ったが、それでも念の為に確認する事にする。
「えーと、俺の体の中に聖剣アスカロンが入っていると思うんだけど。それと融合することが出来るのであれば融合したいんだが、出来るかい」と言うと「もちろん、その事は可能です。大魔王ルシファーをライナスが倒した後でライナスの中に入った時と同じように、今度は大魔王ルシファーの方からライナスの中に入ることだって可能なわけだし」と言ってくれる。
それを聞いていたライナスは心の中で「やはり、そういう事になるよな。しかし問題はリリスの方だろう」と思っていたが「リリスの方はユリナに任せてあるから安心して欲しい」「それよりも早く行動に移した方が良いよな。まずは俺の世界に戻るとするか」という会話をした後は聖槍アスカロンとエクスカリヴァーンの力を使って『俺のいた世界』に戻ったのである。しかし戻った先は『この前まで住んでいた世界とは違う世界』であったのだ。
ライナスは自分の姿を目にするなり驚いた様子で声を上げる。すると自分の体の中から「大魔王が消滅した影響で次元の壁が崩れ落ちているから、その影響だと思うよ。それに、その崩れ落ちた穴から『別の世界に行く事もできるかもね』という話もしたよね。だけど、まさか本当に別世界に飛ばされるとは、僕も思ってなかったけど」という言葉が聞こえると「とりあえず、まずは『ライナスが生きていた世界に戻るために何をすればいいか』だ」と考えると聖剣アスカロンが「それなら大丈夫。さっき話していたように『俺が元居た時代のライナスの体に入る方法を考えれば問題ないよ』なんて言ったら大魔王ルシファーは『その方法は、どういう方法で?』と尋ねていたのだよ。だから、そこで聖天使アスカロンを融合させて俺が大魔王ルシファーが生きていく為の器として『ライナス』の肉体を作り直すことにしたのである。
そこでライナに憑依してしまったルシファーと話し合いをしてライナの肉体を使い続けさせてもらいつつライナの体に憑依したままの状態で、ライナスが暮らしていた元の世界を探りに行きライナスの体を見つけると『自分の世界に戻りたかった』と言い出す。そしてライナスに体を返す事を決めるとライナスの体に入り込んだのであった。そうして自分の世界に帰ろうとした時に『ライナス』の姿のままだと何かと不便だから大魔王であるルシファーが自分の体を改造してくれないかと頼み込んで来たのだ。そこでライナスは『自分が使っていたエクスカリヴァーンの力で肉体年齢を変えられないかな』と考えてみた結果「やってみる価値はありそうだ」と言い出した。
すると大魔王が「じゃあ僕の肉体を若く作り替えるから試してほしい」と言うが、そこでライナは少しだけ考えるが「いや、それは駄目だ。俺と同じぐらいにしておいて欲しい」と言うと大魔王は「分かった。その方が俺がライナスを乗っ取った時にライナスとしての行動をしやすいと考えたからだね」と言う。それに対してライナは「いや、それだけじゃないよ。俺は、この世界に来てからの自分を振り返る事が出来たから。そして俺の肉体は、もともとの俺のものであって、俺だけのものだから。自分の体を勝手に改造されたりしたら嫌だなって」と答えるが大魔王ルシファーは「そっか、そう言って貰えると俺も嬉しいよ」と言うとライナが「それでは俺の体が見つかれば、また戻ってくる。それまでは『この世界で、ゆっくりと休むんだな』と告げてからライナの体が保管されて居る場所に向かうことにしたのだった。
大魔王ルシファーの力を取り込んだことで自分の体が変化したのを見てライナスが呟く。
「これは、これで面白い姿になってはいるけれど、これだと目立つから困ったな」と考えていると大魔王ルシファーが「確かに聖騎士隊にいた頃の姿を思いだす限り、ライナスの体は『金髪に青色の瞳』という外見をしていたはずなのに今は『赤髪に紫色の眼』という見た目になっているもんね。まぁ俺としては『赤』の方が似合うとは思うけど」と言うとライナスは大魔王に「俺って聖天使になった影響なのか髪の毛の色とか目も変わってるんだけど大魔王は、そういうところに変化は無いみたいだな」と言うと「うん。僕は『聖天使』と『闇を司る魔王』のハーフでもあるからライナルトよりも変化は大きいんだよ。だから、そこまで変化していないライナスに違和感を覚えたのは仕方がないと思うんだよね。でも聖天使が覚醒した時に僕と似たような姿に変化しているライナを見慣れてるせいで、そこまで大きな反応はしないで済むかもしれない」と答えてくれる。
大魔王は、そんな事を言うと「それよりライナスの体を探して自分の世界に帰りたいのは理解しているからライナスが、この世界でライナスが生活するのに不便が無いような体を作ろうと決めていたんだよ」と言うと「それなら俺が頼んだことに対して、もう完成してたりするの?」と尋ねると大魔王は「もちろん、もう完成済みだよ」と言い出したのでライナは自分の体の状態を確認する為に大魔王の城の中に有った訓練場に移動する事にしたのである。
すると大魔王は「とりあえず、この姿でも戦闘が出来るように身体能力を強化するのは、ちゃんと出来ているはずなんだ。だけど確認するにしても『聖属性の力を扱う』という点においては、まだまだ未完成なんだ」という事を口走りだすと「そうなんですか? それなら大天使ルシフェル様の力を貸してもらえませんか?聖天使アスカロンの力も扱えるようになりますし」と頼む。すると大魔王は「うーん。まぁそれも良いんだけどね。それじゃ面白くないし、やっぱりライナスには聖魔人ライナスの時に習得した力を使って戦って欲しいし。ライナスには聖天使の力は必要ないんじゃないか?」と言ってくる。
大魔王は、その言葉を聞いた後に「それなら、俺が元居た世界で俺達が戦った時の映像を見せてくれないか?」と提案をする。ライナスが「その方が分かりやすいな。それだったら『大天使の遺産』で映像を映せるから」と言うとルシファーは、そんな言葉を聞いて嬉しそうな表情をしながら答えを出す。
『大魔王の遺産を手に入れた者へ。貴方はこの『聖天使の遺物』を手中に収まることになりましたね。この『聖天使の遺跡』を、どうか役立ててください』
ライナスがルシファーに案内されて来たのは『俺が住んでいた世界の景色』だった。その世界は俺が、こちらの世界で過ごしていた時に『俺が住んでいた世界』であり『地球』と呼ばれていた場所でもあった。
そこでライナスは大魔王から借りたカメラで撮影を開始した。そして俺が、そこで撮影した物を見ながら俺とリリスの戦闘の様子を確認した。そしてリリスとの決闘が終わり、さらにライナスと聖槍アスカロンと融合した状態で、大魔王と戦った記憶も、この時に確認していたのである。
ライナスが大魔王ルシファーと融合した状態になってから「さてと、どうしたものかな」と考える。しかし自分の肉体が封印された場所を、この大魔王ルシファーの魂に探らせる方法を考えていたのだが「とりあえず、ここが何処なのかを確認してみる必要がありそうだな」と言う結論に達したライナスは自分の足で移動することにする。
そう考えた後に、どうにか移動を開始する。それから少し時間が経過した時である。ライナスは目の前に大きな扉があるのを発見したのである。
『これが『聖天使の遺産』を手に入れる為の入り口なのか?』と心の中で考えていたが、すぐに違う可能性を思いついて声を漏らす。「まさか、ここに俺の肉体が保管されていたりしないよな」と考えていたのだ。しかしライナスが、この場所で何をするかという決断を下した瞬間に、この場所から動けなくなってしまうのであった。そして次の日、その部屋が何者かに発見されることになるのである。
そして聖騎士隊が調査を行い始めたが「ここは誰も知らないはずの場所なので調べたところ何かが出てくるとは思えませんでしたよ」と口にする者がいたが、しかし何時まで経っても何も見つからないことに苛立ちを感じ始めていたライナは聖剣アスカロンを使い自らの姿を、その部屋に隠してしまうことにしたのである。
そうすれば自分の姿が消えると思っていたからである。
大魔王が『とりあえず僕の力を使ってみた方が良いかな』と言った瞬間『聖天使アスカロン』の力が発動したのと同時に大魔王の姿が変わった。そうすると大魔王は「これで僕の体から力を使えるようになったはず」と言い出す。ライナスが「そのようだね。それなら、まずは何が出来るようになったのか試してみて良いかな?」と質問をしたら大魔王が「そうだね。とりあえずは僕がライナスの体を動かす練習をしてからライナスに体を返すつもりだから、それまでにライナスの肉体を探す方法を試せば良いんじゃない」と答える。
大魔王の言葉に納得をしたライナスは、とりあえず自分の体を見つけられる方法が無ければ話にならないと思い大魔王に尋ねたら『ライナスの肉体』を探し出せる『聖魔人の体と一体化できる能力を持った魔物を創ろうかな』と言う提案をし出す。
大魔王がそう言い放った直後『大悪魔の召喚』というスキルを使用しだしたので「ちょっと待ってくれないか?大魔王は俺と一緒に旅をしていた仲間の一人を呼び出したことがあるみたいだけど、それは可能だったりするの?」と質問をしてみると、ライナスの仲間に成り済ましていたという『悪魔』が姿を見せる。その者は全身を黒い衣装で覆っている男であり「この姿を見たということは『勇者』であるお前か。俺は『大魔将軍』として魔王軍の四天王をやっていたのだ」と言うと大魔王はライナスの肉体を見つける為に協力して貰えるかどうかについて相談を行うと彼は二つ返事で協力を承諾してくれる。
そこで大魔王が「君の名前は?」と聞くと「俺の名はソロモン。偉大なる『七十二柱の悪魔』の一人である大魔将軍。俺の他にも『六十六の大悪魔』が存在していてな。その全てが魔王に仕えているということになっている」と言い出すが「大魔王ルシファー様よ。その魔王とは、どのような奴だ」と質問をすると「魔王は俺の肉体に封印されていたのを先ほどライナスから譲られたんだ。魔王を倒せる存在に魔王が封印されている。この事実を知って魔王軍も慌てたらしいがな。だが俺に勝てる者がいるわけが無い」と言うのだった。
そして『魔王』は『ライナスの体』が見つかるまでの間は『大魔王ルシファーの体』で過ごせと言われる。そんなこんながあり、それからしばらくの月日が流れた。俺は、いつものように訓練をしていると、そこに聖天使の鎧を身につけているリリスが現れる。
すると聖女クレアも「お兄ちゃんは、もう大丈夫なのかしら?聖天使になったのでしょう? それに、これからの戦いに備えて私も、お手伝いしますね」と言うと、ライナスのことを見やり、その後、俺の方にも目線を送る。聖天使に成れるのは、あくまでも『天使族』の王族だけであると聞いている。しかし聖天使の力を手に入れたという事は、『人間族の聖天使』の可能性がある。
「あぁ。俺は問題ないぜ。聖天使の鎧を手に入れてからは、さらに体が軽くなった気がするな。それでクレア、手伝ってくれるのは有り難いけど無理はするなよ。聖天使の力は強力すぎる。まだ俺も上手く扱えてないし、そもそも今の俺でも『この世界に存在する生物で』聖天使の力に耐えきれる者が存在しないのは確かだからな」と言うと聖騎士隊の面々は俺に話しかけてくる。
そして聖女のライナスも「その聖天使の力を操れない状態で俺達を相手にして無事な訳がない。そんな化け物が相手だとしても俺達は負けはしない。絶対に俺達の勝利で終わるだろう」という発言をするとライナとクレアは俺に攻撃を仕掛けようとするのであった。
そしてライナスが俺に向かって剣を構えて「聖天使の力を扱えるようになれば俺も、あんな化け物に苦戦するような事は無い」と叫び、さらにライナは聖剣アスカロンに魔力を流し込んで、そのアスカロンを振りかざすと同時に聖属性の攻撃を繰り出した。するとライナの聖魔人が姿を現したので聖魔人の姿を確認する事に成功した。
「聖天使アスカロンの力は確かに凄まじい威力を秘めているようですね」とライナスが言葉を放つと「あぁ、本当に、この聖剣の力を使いこなせるようになるまでが大変だったよ」と答えると、その直後、俺の元に光の光線が降り注ぐと、その直後には聖槍のアスカロンを手にしたライナが姿を現す。その光景を見て、俺は「ライナスは聖天使の力を使えるようになっている。だとすれば、あの二人相手に戦うしかないな」と言葉を発した直後にライナスは「リリスは、どうして俺の邪魔をするんだよ! リリスは聖天使の遺産を手に入れたのなら、もう戦わないと決めたはずだ」という言葉を口にした。
しかし聖天使ライナスは、この世界を救う為には聖魔王の力と聖天使の力を持つ者の力が必要不可欠だと思っている。その為、俺達の味方になることを決断したのだ。ただ、それでもライナスは自分が俺の足を引っ張るような真似だけは避けたかったのである。
そしてライナスは俺に攻撃を放ちながら自分の目的を果たすことだけを考えていたのである。そんな最中に『大悪魔』が突然現れたかと思うと、そのまま、こちらの状況を確認したのか大悪魔は大魔王と聖騎士長に対して戦闘を行う意思を見せる。
しかし次の瞬間に大魔王と聖騎士長は聖槍アスカロンの能力を使い『光槍』を作り出す。その槍を使って攻撃を開始した後に、聖槍アスカロンの槍で大魔王を貫こうとしたのだ。
しかし大魔王は『悪魔の召喚』で呼び出した悪魔を利用して自分の身を守った上に悪魔の力を借りて『闇壁』を作り出されてしまうと二人の攻撃を受け止めることに成功する。その結果、二人は武器の能力を解除させられることになる。それから、その隙を狙いライナスが大魔王ルシファーに接近するが、それに気付いた大魔王ルシファーはライナスから距離を取るように動くが、すぐにライナスが間合いに入り込むと、すぐに蹴り技を叩き込んだ。
そうして大魔王はライナスに殴られたことで吹き飛ばされるのだが「ふむ。どうやら僕も少し本気で相手をした方が良さそうだね」と口にしたのだ。その発言を聞いたライナスが大魔王を倒そうと大魔剣で大魔王を斬りつけるが、大魔王は大魔盾と大魔楯で大魔刀を防御してしまう。しかし、ライナは大魔王ルシファーに反撃されるよりも早くに『転移』を使用したために距離を離すことに成功したのである。しかし『大悪魔』に命令を下すことによって『大悪魔』が『転移』を発動させると、ライナスはライナスに抱きつかれてしまうことになる。
「お前は何者なんだ?」ライナスが質問をしたら大魔王は笑い声を上げると「あはははは。何者? それは『勇者』が答える質問じゃないよね」と言い放つ。大魔王の言葉を聞いて、ライナスは悔しそうな表情を浮かべながらも大魔王を見つめるしか出来なかったのである。
「じゃあそろそろ時間も無いから、僕の力を開放させてもらうよ」そう言った瞬間、俺は大魔王ルシファーに殴りつけられた。
そして俺は『聖天使の体』を手に入れる。そうして大魔王が、また別の存在に憑依しようと動き出したので『悪魔王の翼』を使用することにした。そうして『大魔王ルシファー』が大悪魔の姿に変わると同時に、ライナスに「お前は逃げても良いんだぞ。ここは俺に任せてくれ」と言い出すとライナスは、その場から離れるのであった。そして俺は大魔王と戦うことを決意する。
ただ、そうはいっても『魔王』という存在には特別なスキルが備わっており、この『大魔王ルシファー』は『魔皇帝』と呼ばれる最強の存在である。
「さすがにライナス一人を相手にするわけにもいかないからね」そう言って『魔皇ライナス』はライナルトの元に向かおうとする。そうして『大魔王ルシファー』が移動しようとした時『転移』のスキルを使用してライナスの事を拘束する事に成功をした。
それからライナスが、どのような状況に置かれているのかを理解すると「俺の体を奪い返せる可能性があるというのなら協力はしようじゃないか。だがな。この俺の肉体を操っている大魔王をどうにかしない限りは俺の体を取り戻せないぜ?」と言う。そこで俺は、この世界に来て手に入れた『勇者の称号』を俺が取得することで新たな勇者が誕生する可能性を示唆したうえで俺は、ライナスと話し合いを行い、これからの戦い方を考え始めることになったのである。
◆【外伝】◆聖魔人の旅~ライナとクレアの物語1~
(リリスが、もしもクレアだった場合のお話です)
------ーーーー 私はライナ様の口から『聖魔人になれる方法を見つけた』と言われた時は嬉しかった。だって好きな人に、そこまで信頼されていたんだって分かったんだもん。だから私は、ライナ様にお願いをして私を『聖魔人』にしてほしいと言ったの。そうしたらライナ様は私を抱き寄せて頭を優しく撫でてくれる。
それだけで幸せを感じちゃうんだよね~
それから私の願い通りに私を聖魔人化してくれたんだけど。私が想像していた聖天使になると思ってたから残念に思ったりもしたけどライナ様が『この姿でも問題はないから大丈夫だ。リリスと、こうして一緒の時間を過ごす事が出来るようになったんだ。それだけでも俺は十分に嬉しいからな』と、言われて安心することができたの
「ねぇライナ。ライナにとって私達は仲間? それとも友達かな? 」ライナに甘えるようにして聞いてみると『友達として、リリスとは仲良くしたいと思っているぜ』と返事をしてくれて、それで私は満足できたの。ライナに嫌われたくないのもある。そして『魔王』との戦いに決着がついた後は一緒にいたいと思ったから。それで私は聖女になったライナと一緒に暮らしていく事を決めたの。だけどライナの側にいる事が出来れば私は幸せなんだよ? だから、もっと頑張っちゃおっかなぁ♪ ----------
そして俺の名前は聖騎士ラウス=カルヴァーンでございます。俺達の世界では聖天使の力を使える者が生まれることが稀にありますが。しかし俺のような聖騎士長の立場にいる人間で、なおかつ天使族の王家の血族であり。更には聖女の家系でもある人間でも、そんな聖天使の鎧を身に着けるなんて聞いた事がありませんね。
まぁ俺としてはリリス様が、その聖天使の力を使いこなすことができた事は喜ばしい限りです。これで魔王の脅威に対抗する力を手に入れましたからね。
そして俺は聖剣アスカロンの力を使って大魔王を撃退すると、聖天使の力を扱えるように訓練を行う事に決めたのです。ただ、その前にリリスさんが、もしも俺の姉であるリリス様なのであれば確かめておきたい事もあります。それは『ステータスカード』に記載されている俺の名前が間違っていなかったのかということなんです。もしかしたら姉が聖天使になっているかもしれない。そんな考えが頭の中に浮かんできてしまった為に俺は確認を行ったのですよ。ただ、やはり、というべきなのか俺の記憶通りの名前でした。なので俺は少しばかり安堵感を覚えたと同時に複雑な心境に陥ってしまう。
それから俺はライナスさんを『悪魔王の翼』で捕まえてから話をし始める。すると『大魔王ルシファー』に乗っ取られていた大悪魔は姿を消してしまい、それと同時に大魔王の姿が変わると「あはは。まさか『悪魔』の『魔王種』が相手だったなんて驚いたよ。それにライナスまで僕と同じ聖魔人になれたのには本当に驚かされたな」と笑顔で話しかけてくるのだった。その言葉を聞き、ライナスが「お前の言っていることは嘘だらけだ! この場に現れた理由を教えろ! お前の目的は一体なんなんだ!?」と問いかけると、その問いに答えたのは大魔王ではなかった。
そう。そこに居た人物は大魔王ルシファーではなく、別の女性だ。しかも見た目は少女といっても差し支えがないような可愛らしい顔立ちをした美少女だ。しかし俺は彼女の正体が分かっているので、彼女が誰なのかを聞くまでは黙っていたのだが。彼女は「はじめましてライナス君。そして久しぶりね。元気にしてたかしら?」と言いながら近づいてくるとライナスに対して優しい口調で話し掛けてきたのである。
◆【外伝】◆聖魔人の日常。
(クレア視点)
---ーーーー 私はライナ様に抱き抱えられると、すぐに意識を失ってしまい眠りについてしまったようだ。
そのあと目が覚めた時には自分の家に戻っていて、そこには両親が居たのよね。どうやら『勇者』の称号を持つ者が『大悪魔』を退けたという報告を受けたライナルトが王都に戻り『聖魔人の体』を手に入れる為に準備をしていたようで『大魔王』の力が宿る『大悪魔』の体を手に入れたライナスに『勇者の称号』を授与させるつもりみたいだったのよね。
だけど、ライナスはその事を事前に知っていたらしく『大魔王』に自分の肉体を奪われるよりも早くに大悪魔がライナスに乗り移る。
それが原因でライナスが『勇者』の体を手に入れることが出来ずに、その場で大魔王に殴り飛ばされてしまう。その時に『大魔王ルシファー』は、その場から離れようとしたが、それを見逃さずに私は大魔王ルシファーを捕まえることに成功したのだ。そして大魔王が逃げようとしたのも無理はなかったのよね。『魔王』である存在が本気で暴れまわったら王都内の建物は崩壊するだろうから、そうなってしまったら被害が凄いことになるもの。
そして私は、ライナスを大魔王ルシファーから取り返すとライナスに、お礼を言いたかったのでライナスの元に向かう。
そこで私はライナから、ライナスは私の兄であることを告げられた。その話を聞いて嬉しかったの。だって、私の家族が、こんなにも早く見つかったのだから嬉しくないわけが無いわよね。だからライナに感謝を伝えようと思ったんだけどライナは『俺には俺の目的があるから感謝される筋合いはない。お前がクレアだったというだけで俺は十分に助かったと思っている。それよりも俺はライナスの肉体を取り返さないといけないんだ。あいつに聞きたいこともあるからな』と、言って私と会話をしている暇は無いのだと伝える。
でも、このままライナスを見送る訳には行かないので私は聖女の力で『転移』のスキルを発動して『大魔王』ルシファーと対峙することにする。
そう。私達が戦うのならライナの近くに行った方が良い。
そして私はライナスから、もしもライナスに危険が迫ったときは、いつでも助けに入れる場所に移動したのよ。
ライナスが聖魔人になった事で、これから戦いになるんだろうな、と思って身構えていると、なぜか『大魔王』のルシファーは笑い声を上げてライナの事を殴りつける。それも『大魔王』が全力を込めてだ。
そんな事をしたらライナが死んじゃうと思って心配していると、大魔王ルシファーはライナスに拳を振り下したのとは逆の手でライナスの体を持ち上げると、まるで人形でも持ち上げるような感覚なんだけどライナスの事を空に向かって放り投げたのである。それから大魔王は『大魔王ルシファー』は姿を消したのと同時にライナスが大悪魔の姿で現れると『聖天使』の姿に変化したライナがライナスを助けに行こうとするのだけどライナスの体が宙に舞っていて、今にも地面に衝突しようとしていた。
ライナスを助ける為に聖剣アスカロンを手に持つと私はライナスが地面にぶつかる直前にライナスを抱きかかえる。すると聖剣アスカロンの力を使った影響かライナスの体は、そのまま聖女の『転移』の力を使うと私はライナと一緒に聖天使になったライナが戦っている場所に転移をするのである。
そして聖女である私でも、この聖剣の力を使ったせいで私の力が大きく削がれてしまった事に気がつくのであった。
そして私が『大魔人ライナ』の戦いを見て、これからライナの戦いが繰り広げられるんだなと思って覚悟を決める。それから私は『ライナの戦い』を見守っていくのだった。
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「くっくっく。これで俺の体を奪った『ライナ』が、この俺に殺されたら『俺を操ろうとしたライナが悪い』ということで、この世界に『俺』が居た記憶を消す事が出来るってことなのか? という事は俺が世界を征服できるってことだな」
「何を寝ぼけたことを言っているのよ貴方。私は絶対に許さない」
私は『悪魔王の翼』を展開すると大魔王が作り出した魔法障壁を破壊するために攻撃を繰り出したのだけど簡単に避けられてしまうの。だから大魔王の攻撃を避けきれるとは思っていなかったけれど、やっぱり私は攻撃を当てることが出来なかった。それどころか私は大魔王の動きが遅く感じてしまい攻撃を仕掛けることが出来る。だけど大魔王の方からは私を攻撃する気配が無くて不気味だったけど私は諦めずに何度も攻撃を繰り出す。
だけど大魔王の方は私の攻撃を受け流したり回避をしたりしていて、なかなかダメージを与えることが出来ない。すると、そんな時になって大魔王ルシファーは、いきなり大声で笑うと「あっはっはっは! こうも上手く行くなんて俺様は運が良いみたいだな。まぁ俺が乗っ取った相手が弱すぎるだけだからかもしれないけどな」と楽しそうに言い放つとライナスの体に魔力を送り込むと「聖魔人の力を取り込んだおかげで、こうしてライナスに『加護の力』を与えることも、その力を奪うことも俺の意思で行う事が可能になったんだよな」と言う。
そう言った直後のことだったわね。急にライナスの体の周りに闇属性の魔力が発生し始める。そしてその瞬間には私も見たことがある現象が起きていたのである。
その光景を見たのは初めてではないのよね。
なぜなら私は以前一度だけ目にしていたから、あの時の状況と同じだという事にすぐに気が付けたのだ。しかしライナスと大魔王ルシファーが『加護』を授けあった後に何が起こるのか知っているはずなのに私は驚きを隠すことができない。なんでなら『聖魔人の肉体を得たはずの人間が悪魔になってしまったからです』
そして、それこそが私が目の前にいる悪魔と化した男性を倒さなければならない理由でもあるのである。
ただ『悪魔王』と呼ばれる存在になってしまう『聖魔人』と『悪魔王』の違いは『悪魔王』の場合は聖魔人が持っている『聖天使』の称号が使えないだけであって『魔王』としての称号を使えなくなるわけではないのよね。それに大魔王のように『聖天使』の称号を使いこなすことも可能になっているの。それに大魔王の時は『魔王種の称号』は使っていないのにステータスを見ることが出来るのは不思議に思っていたのよ。その説明を聞いたときには納得してしまったんだけど、その理由については分からなかった。ただ一つ言えることは『聖魔人は人間の姿に化けることができるという事』であり、それは大魔王ルシファーも同じ事がいえたのである。
そう考えると目の前に現れた男の正体が何者であるのかが、なんとなく分かっているの。しかし私はその事実を受け入れられない。だって、こんなことはあり得ないと思うものね。そう思った理由は単純で目の前に現れた男がライナスであるはずがないと分かっているからだ。だって彼はライナスではなく『大魔人ライナだった者』でしかないからね。だからこそ「貴方は何をしたんですか?」と問いかけたのだけど、男は「ああん? なんだお前はこのガキの仲間じゃないって事なんだろ? というか仲間がいたとしてもお前には俺を倒す手段がねえし意味無いし、俺が『悪魔王の称号』を手に入れた事で俺にダメージを与えた奴は一人もいねぇし俺を殺すことが出来んぞ」と言ってニヤッと笑って見せたの。
確かに私の攻撃は当たらず相手は悪魔化しているのよね。だから『悪魔王の羽』を展開して攻撃をしているのに傷を与える事も出来ていない。でも私としては、そんなのは関係無かったの。『ライナを取り戻すことさえできれば、後は私が頑張れば良い』と思っていたから、それほど必死になって攻撃を繰り返してライナを取り戻したいと考えているから、それだけの理由で私は戦っているようなものだから。
そして大魔王が聖天使に『加護の力』を授けたことによって、どういう原理でライナの体が変化することになったのか分からないんだけど、その力のせいでライナに異変が起きたということだけは分かる。だけど私にとってみれば、そんなの関係ないのよね。
そして私は『聖天使』に変化しているライナが『聖槍』を構えながら言う。
「俺は『大魔王ルシファー』お前には絶対に勝てる。この俺に『大魔王』を倒せるチャンスが来てくれたのは正直に言えば、かなり助かった。だが俺には『俺自身の肉体』が必要だった。だから『魔王の肉体』を手に入れる為に、俺はお前を倒して手に入れることにした」
聖天使が大魔王に対して「俺は『大魔王ルシファー』お前には絶対に勝てる。この俺に『大魔王』を倒せるチャンスが来てくれのは正直に言えば、かなり助かった。だが俺には『俺自身の肉体』が必要だった。だから『魔王の肉体』を手に入れる為には、お前に『俺自身の肉体』を渡す訳には行かない。俺は必ず俺自身をお前に渡すつもりはない」と言った。その言葉を聞いた私は「何をバカなことを言っているのよ。ライナが『自分の肉体が欲しいから大魔王と戦うんだ』なんて馬鹿げた話を私に信じさせる気? そんなの私に信じることが出来るわけないでしょ!」と言い放ったのである。
「アリサ。ごめん。今は詳しく話している時間は無いんだ。俺は大魔王ルシファーから『ライナの体を乗っ取る力』を奪い返さなければいけない。そうしなければ俺が大魔王ルシファーを殺せないしライナを助けることが出来ない。だから悪いけれどアリサは少しの間、俺の事を待ってくれ」
ライナの言葉を聞いている最中にも大魔人ライナは聖魔人に変化したことで手に入れた『魔王の翼』の力で宙に浮かび上がると、その動きに合わせて私はライナの後を追いかけるのだけど私は追いつけなかったの。
それこそ聖剣アスカロンの力を使えば簡単に追う事は出来る。
しかしライナを追いついたところで私は何もできないだろうし、下手したら大魔人を足止めする事が出来ずに逃げられてしまう可能性すらもあった。そうなってしまったら私一人でライナを救えないのよ。だけど今なら私一人で何とかできると思ったの。だから私はすぐに行動に移すためにライナに向かって駆け出したわよ。
「なに!?」
私を見た大魔王は驚いていたけど私のスピードは大魔王なんかでは捉えきれる速さではないのよね。そして『神眼』で確認した限りでは『悪魔化』した影響もあってか、大魔王が私の動きについてこられていないことが分ったの。そして大魔王の反応が遅れている間に聖剣アスカロンを振りかざすと大魔王に向かって振り下ろすのだけど、大魔王が聖剣アスカロンで防御するために剣をぶつけ合う。すると私は大魔王の剣を振り払った直後に聖剣アスカロンの刃の部分にある『聖天使の祝福』の能力で大魔王に切りつけたのである。すると私の攻撃を受けた大魔王の体のあちこちに聖天使の光による斬撃の跡が出来上がる。
しかし私は聖剣アスカロンを振るって大魔人に追撃を行うと、それを聖魔人ライナが受け止める。
そして「邪魔するんじゃねぇー!!」と叫ぶと聖槍を突き出してくるのである。
聖魔人化した影響で腕力が強すぎて、その威力が今まで以上に凄まじい事に驚きを隠せなかったけど、それでも大魔王より強いとは思えないのよ。それに聖魔人の体を得たことで身体能力や魔力などが強化されていて、それだけではなく『悪魔の翼』という新たな力まで得ることが出来たのだから、いくら大魔王ルシファーが強かろうと負けるはずが無い。
「くそ!! な、なぜだ!
『聖天使』と聖剣が有っても俺様が勝てないだと。しかも、こいつはレベル100を超える聖天使のはずなのに、どうして聖魔人化したはずの俺様が圧されているんだ。まさか聖天使に進化してステータスが上がっただけじゃなく『加護の力』まで手に入れた俺様よりも弱いのか? ふざけるな! 聖天使が聖剣を持っていれば魔王なんて簡単に倒せなきゃおかしいだろ! なのに何で聖天使が、こんなに俺様の事を圧倒してんんだよ。ありえねえよ」
聖魔人になったはずの大魔王ライナルトの方が『聖天使』の力を授かった大魔王ルシファーに負けていたのよ。
しかし、そんなライナルトに対してライナスは「確かに聖天使の力を授けられても、お前の能力は大魔人になっていた時と比べて大幅に弱くなった。しかし俺も聖魔人の体を手に入れて初めて分かることがある。俺はライナスだった時に比べて、今の俺のほうが遥かに強くなったということを理解出来たのだ。それに大魔王ルシファー、いやライナスといったか。お前は俺のことを『加護持ち』と呼んでいたが『俺には聖魔人の力』があるからお前に俺を『殺す』事はできないぞ」と言う。
そして俺の言葉を受けたライナスは自分の背中を見ると「これはいったいどうなってるんだ?」と口にした。
そんな大魔王の疑問に対して俺は「それは大魔王ルシファーから聖天使の力を取り戻せば、お前の身に何が起こったのかを理解できるだろうよ」と言う。それから続けて大魔王に向けて口を開いた。
「そして聖魔人になって得た『悪魔の翼』の力もあるから、これからは聖天使に変化したからといっても、聖魔人が空を飛べることを忘れるなよ」
聖魔人が『聖天使』の力を得て空を飛ぶことが可能になるのは事実であり、『聖天使』の力によって空を飛んでいる聖魔人が空にいる間は聖魔人も魔法を使うことが不可能であるという特性を持っているので、ライナスが聖天使の能力を使おうとしてもライナスには聖天使として使う事が出来る能力が無かったので、この事実を知らないのならば、ライナスに空中に居る間、ライナを攻撃され続ける事になるから聖魔人となったとしてもライナスにとっては厳しい戦いになることは間違いなかったのであった。
そして俺は大魔王に向かって駆け出す。
「聖天使の力と聖剣で大魔王にダメージを与える事が出来たか。やはり聖魔人の力を得た事で『聖天使の肉体』が俺の意思に従うようになっているんだろう」
ライナの言葉を聞きながら俺は大魔王に接近した。
「ライナは私の大事な仲間だからね。だから必ず取り戻す。それがどんなに大変でも私は諦めたりしない。大魔王、貴方に私のライナを取り戻すことを妨害することは絶対にさせない」
私はそう言ってライナが大魔王に奪われないように聖剣を振るうのだけどライナの『魔王化』が更に進行していく。
そしてライナの変化が終わる前に、なんとか大魔王を倒す必要があった。そうしなければ大魔王に勝つことは出来ないからね。だから聖槍を構える大魔王に私は聖剣アスカロンを振り下ろしたの。そして私が振り下ろしたことでライナに聖天使の力の影響なのか、いつもより明らかに強力な一撃となって大魔王に襲い掛かるのだけど、その攻撃をライナが聖槍アスカロンを使って受け止めたのである。
その結果を見て私は思ったの。
大魔王が聖天使の攻撃を防いで見せた事に驚いたんだけど、それよりも、あのライナの攻撃を防いだことに衝撃を受けるのと同時に、私がライナの攻撃を受け止めた瞬間に私は聖剣アスカロンの特殊能力が使えなくなっていたことに気づいたの。だから「ライナ。聖槍の特殊効果はもう終わったんだね」と、すぐに確認をしたわ。
そしてライナは私の言葉を聞くと私に対して返事をしてくれた。
「ああ、そうだ。聖槍の効果は、あと数分くらいで終了する」
「そうなんだ」
「だがアリサが俺のために聖剣アスカロンを振り上げてくれなければ俺は聖槍アスカロンの能力を使うことは出来なかったんだ」
「そうなんだ」
ライナの返事を聞いた私は『大魔王に勝つためには大魔王に勝てるかもしれない唯一の方法』が失われていたことに少しだけ動揺してしまった。しかし私はまだ諦めるわけにはいかない。だからライナの方に振り返ると、もう一度、聖剣アスカロンを構えた。すると大魔王が「そんなバカな!? 大魔王たる俺が聖天使の力に負けるというのか? ふざけんな! この力は魔王の力を取り込んだから手に入ったはずだ。俺だって聖魔人に進化したんだから、それなら俺の方が聖魔人であるライナよりも力があって当然だろうが。それに聖天使の能力は『俺を傷付けられない』筈なんだ。俺を殺すことが無理なら逃げるだけだ」と言って聖槍を構えなおした。
そして私はライナに聖天使の剣を振り下ろすのである。するとライナは私の動きに合わせて聖剣アスカロンで聖天使の剣を受け止めるのだけど私は大魔王に攻撃を仕掛けるのをやめなかった。すると聖魔人に姿を変えたばかりの大魔王ルシファーは聖天使の力でライナを守ることが出来なかったらしく、私の剣が大魔王の体を切り裂くのであった。そして私の攻撃を受けた大魔王ルシファーが口から血を流しながら言葉を発した。
「まさか俺がこんなところで敗北するとは思ってもいなかったぞ」
そんな大魔王の言葉を受けて俺は聖魔人ライナスに聖槍を向けて「これで聖天使の力と大魔王ルシファーの力は、どちらも失われた」と言った。するとライナスが大魔王に向かって言葉を放つ。
「お前に大魔王としての力が残っていたのは驚きだな」
「聖魔人ライナスよ。俺は貴様には聖騎士が宿っていると思ったからこそ、その体に手を出さなかった。しかしその必要はないな。今の聖天使の力を持った俺様には聖剣を持つ聖魔人のお前にも勝機は無いのだからな」
「いいや、聖魔人の力だけじゃない」
すると大魔王は聖魔人の姿を見て笑い出した。
「なに? どういう意味だ? 」
「聖天使の剣で聖魔人を貫いた。その時点で俺の勝利は決まったということだ。それに聖天使の加護を受けた今の俺に聖天使が宿ったとしても聖天使に操られることなどないのだから」
すると大魔王の体に変化が起こる。
「なんだ? この光りは」
そして光に包まれる。そしてライナの姿が見えなくなった後に光の塊が姿を現す。そして光が収まると大魔王は姿を消して代わりに『金色の髪の少女』が立っていたのよ。その姿を確認した瞬間に私は、その子が『聖天使リリス』だということを理解する。それと同時に聖魔人が居たはずの場所には『ライナルト』ではなく金髪碧眼の幼い美少女が現れていた。その姿を見て私は「え? あれ? な、なにが起こったの? 」と呟く。
そして私の視線の先に立っている少女の瞳は赤く、額に角があった。
聖天使の体を手にしたリリスが俺に向けて言葉を発する。
「久しぶりね。聖魔人」
俺はリリスが言った言葉を直ぐには信じることができなかった。なぜなら彼女は大魔王によって肉体を乗っ取られていたはずなのに、今の彼女が大魔王ルシファーに体の主導権を握られてしまったようには見えなかったからである。しかし俺の考えは間違っており、実は大魔王によって彼女の意識は既に奪われていたのだが大魔王が彼女の体を支配した事で聖天使としての能力が使用可能になったのである。なので『今の俺には聖魔人が勝てる相手ではないので大魔王ルシファーが彼女の体に宿る事で彼女の精神が破壊されてしまわないか心配していた』。そんな俺の心配も、ただの取り越し苦労だったという事になり安堵したのである。しかし聖天使に変貌を果たした今の俺であれば『俺自身の意思で戦うことが出来るので』大魔王を圧倒することが出来る。
そして俺がそんな事を考えていたら、大魔王は俺に話しかけてくる。
「まさか『俺に勝つために聖天使の加護を手に入れた』とか言い出すんじゃねえだろうな?」
「そんな事はないさ。俺は大魔王と戦う時に『俺がお前を倒してやろうと思って』聖天使の力を手に入れてきたんだ」
「ほう、なかなか言うじゃねえか」
「お前のことは俺が倒すって昔から決めているからな」
そう口にした俺に向かって大魔王は口を開いた。
「そういや、お前の仲間の『聖魔人の女剣士』から聞いたんだが、どうやらとっくに聖天使の力は取り戻しているらしいじゃねぇーか。だがよ。お前の聖剣は折れたんだろ? どうやって大魔王の肉体にダメージを与える事が出来るっていうんだよ」
俺は聖魔人のライナスから聖天使に変化したリリスの方に目を向けると彼女に声を掛けた。
「ライナ。君の武器は聖剣アスカロンだ。それは分かっているんだよね」
するとライナだった少女は俺の言葉に対して首を横に振った。その動きを見て俺は大きく溜息を吐き「やっぱり、ライナは、ちゃんと説明していなかったんだね」と言う。それから続けて言葉を放った。
「いいかい。ライナ。よく聞くんだよ。聖剣アスカロンには特殊な能力が備わっているんだ。それは聖剣アスカロンに聖剣を触れる事で、その聖剣の持ち主に聖天使の力を与えてくれるんだ」
「そ、そうなんだ」
俺は「まったく、説明をしていないじゃないか」と言いながら頭を抱えてしまう。
そんな俺に向かってライナの体を操っている聖天使リリスが聖剣アスカロンの使い方を説明し始める。
「ライナの剣が触れている物は全てライナの支配下にあることになる。そして大魔王ルシファーの体は聖天使に変わっているのだけどライナの支配する肉体に変化しているからね。だからライナが聖剣を振れば『ライナの意思に従って動く物体』になるから聖剣を振るい続けることが出来ていれば聖天使の能力を行使できるようになるのよ。分かった? ライナ? 」
そんなライナの言葉に対して大魔王は信じられないと言わんばかりに「馬鹿なことを言うな。そんな話を信じられる訳がないだろう」と言う。すると聖天使となったライナの口から言葉が漏れる。
「それなら実際にやってみればいいわ。ライナ、やってちょうだい」
そう言ってライナが聖天使の力で俺に斬りかかってきた。そんな攻撃を俺はアスカロンで受け止めると「なるほどな」と、うなり声をあげる。その言葉を聞いた大魔王が「なにが、なるほどなんだ? 言ってみろよ」と言ってくる。だから俺はライナに指示を出すことにした。そしてライナがアスカロンで斬撃を飛ばす。すると大魔王ルシファーが俺に聖剣で対抗しようと聖槍アスカロンを振り上げたので、その隙を突く為にアスカロンで突きを放つと聖天使の力で大魔王ルシファーが生み出した障壁を打ち破ることに成功した。そして俺はライナに「ライナ。次は俺が大魔王の防御を打ち破った所に攻撃するように聖剣を振ってくれるかな」と言う。
するとライナが俺に問いかける。
「私、もう限界なんだけど」
そんな言葉を受けて俺も「うん。俺も疲れてるから休んで良いと思うよ」と答えた。しかし聖天使の力を使いこなす事が出来ない状態であっても大魔王の力を上回っている。それどころか、大魔王の力を弱める事も出来ているのだ。しかし俺はライナに質問をした。
「ライナの体調が戻ったら『ライナの体の中に戻って』貰って、また大魔王と戦ってもらってもいいかな」
するとライナが答えてくれた。
「ライナの中に戻る必要は無いのだけど、でも私が大魔王を倒した方が良いでしょうね」
そんな事を言われても大魔王ルシファーは納得してくれない。「そんなこと出来るわけがねえだろうが」と言って俺の方を睨んできたので俺は言葉を発した。
「じゃあ、試してみるしかないね」
そしてライナに聖剣を使わせることにする。ライナの体を操っている聖天使のリリスも一緒に聖天使の力を使っているみたいで聖天使の力を俺も使うことができる。俺は『魔槍グングニル』を取り出した後にライナが聖槍を聖魔人に渡してくれと言ったのである。俺は魔槍をライナに手渡す。するとライナの体に宿っているリリスは、俺に「聖魔人ライナス様の魂は、すでに聖天使の体に溶け込んでしまった。そして、あなたの手の中には魔族最強の戦士である『魔槍使いの魔王バアル』の魂が眠っているの」と語り掛けてくる。俺は魔槍グングニルが『魔王』の魂を持っていることを知っていたので、聖魔人が魔槍を持っていたとしても不思議ではなかったけど、だからといって大魔王が持っていた聖天使の力を取り込めるとは思えないと考えていたら、やはりリリスの言葉が正しかったらしく魔槍を触り終えた後で、大魔王ルシファーの体が眩しいほどの光を発し始める。
すると聖魔人の力を手に入れたはずの大魔王ルシファーは苦しむ。
「なぜだ? なぜ聖天使が俺の体に入って来れねえんだよ? 」
大魔王ルシファーが悲痛な叫びを上げたのと同時に俺の中に『魔王バハムートの魂』が入って来た。そんな俺を心配そうに見つめていたライナは、大魔王の体を見つめる。
「まさか大魔王ルシファーも聖天使の力で自分の体を変化させようとしているんじゃない? そんな事をしたら肉体が崩壊しちゃうかもしれないよ」
俺もそんなライナの意見に同意したかったのだが大魔王ルシファーは「俺様にも『聖天使の力が宿っている』と? 」と言いながらニヤリと笑う。そして俺が「なんで笑えるんだ? 」と尋ねると大魔王ルシファーは、そんな俺のことをバカにした表情をして言葉を返してきた。
「聖天使の力を得たからって俺に勝てると思っているのか? この体はまだ俺の支配下に置けるんだよ。だから今すぐ俺の命令に従いやがれ」
大魔王ルシファーの言葉を聞き流していた俺だったが聖天使の力を手に入れる前の大魔王だった頃と比べて『支配権』を取り戻した時に『肉体を操られている人間の心を支配することができるようになっている』という変化があったことを思い出した。なので俺は大魔王ルシファーに向かって話しかける。
「その『人間』とは誰の事を指しているんだ?
『ライナの体に宿ったリリスの精神を支配しようとして』いた時とは違って『今の俺は』お前の心に語り掛ける事が出来るんだぞ? お前は、そんな状態のお前の心を支配できるのかどうか疑問だね」
そんな俺の発言を鼻で笑った大魔王の体は眩しく輝いているように見える。そして彼は俺に向けて口を開いた。
「いいか聖魔人とやら。俺はお前みたいな雑魚に殺される程弱くはないんだ。だが俺が負けを認めない以上戦いを続ける事はできまい」
「お前が負けを認めるのならば、お前の部下の悪魔たちを撤退させても良いよ」
俺が大魔王にそう言うと大魔王は「ハッタリかますなよ」と言ってきた。俺は「ハッタリなんかじゃないさ」と答える。
すると大魔王の体は聖魔人の肉体を聖天使の力で作り変える作業に入る。その様子を見守ると、やがて彼の体は完全に俺の物へと変化する。それから大魔王が作り出した配下たちに撤退命令を出すと部下たちが撤退して行く。俺は「お前たちに逃げ場があると思ったのか?」と尋ねた。
「俺を殺せば、お前たちは逃げられなくなるものね」
俺がそう言葉を発すると同時に、俺は魔剣エクスカリバーを引き抜く。すると大魔王も俺に向かって剣を抜いてきたので、俺は「剣を構えろよ」と彼に促す。だが、なぜか大魔王は自分の手を俺に突き出すと、その手に握っていた剣を投げ捨てたのである。その行動の意味がわらなかったので俺は「武器を捨てて何をするつもりだ」と問いかけると、俺に対して「命乞いでもしてやろうってんだよ」と言う。俺は「ふざけんな」と言って魔剣を構えたのであった。そして俺は聖剣アスカロンを振りかざすのだけど、聖天使の力で生み出された聖剣アスカロンの攻撃では大魔王ルシファーの肉体を傷付けることは出来ないようである。俺は大魔王ルシファーに対して攻撃する事を諦めて聖天使の力を解除した。そしてライナの体の中から聖剣アスカロンを回収した。
「どうやら俺と戦わない方が、あんたにとっては都合が良いらしいね。まあ『大魔王の肉体を乗っ取る能力』を持っているようだから仕方が無いよね」
俺は聖天使の力を失った大魔王ルシファーに向かって言葉をかけたのだけど彼は、まだ俺と戦うつもりのようで拳を構える。だから俺は「逃げるなら追わないから、俺の言葉に従うなら、このまま見逃してもらえないか? 」と言葉をかけてみたのだけど、やっぱり大魔王の返事は同じである。
そんな事を考えていたら聖天使のリリスの肉体に変化が起きたみたいで俺の体を覆っている光が弱まり始めるのが感じ取れたので「聖天使の力は消えていないみたいだけど大丈夫なのかな? 」とライナの体から抜け出したリリスに質問してみる。すると彼女はこう答えてくれたのである。
「ライナの中に戻ったのだけど『私』の存在を維持するために『私の精神エネルギーを使ってライナの中に留まり続けているだけの状態』になっているからライナの意識が無くなれば私は消滅する事になるの」
リリスの言葉を聞いて驚いた俺は、大魔王ルシファーとの戦いに巻き込む事をライナに謝った後にライナに頼み事をする。
「ライナには悪いんだけど大魔王ルシファーに『ライナに俺を殺す気がないことを説明して欲しいんだ。そして『俺と大魔王の肉体を入れ替えても大魔王が死ぬとは限らないってことも教えて欲しい』んだけど頼めるかな」
「ライナは、そんなので納得できない。だって自分の体の中に入り込んだ他人がいる状態で生活なんて嫌でしょ」
俺がライナにそう告げたら大魔王ルシファーは言葉を口にする。
「俺は別に構わないけどね。それに、もうすぐ聖天使と魔族の力を持った者が誕生するわけだから『魔王』の俺の肉体が破壊されても『新しい魔族』が誕生すれば『聖天使の力』は『魔王の魔族』に引き継がれるから安心しろ」
「そうなの。じゃあ、もう良いや」
大魔王ルシファーの言葉を聞いたライナも大魔王に『自分がライナである』と伝えることにしたようなので、俺は大魔王ルシファーの体を魔剣で切り刻んだ。しかし大魔王ルシファーの肉体をいくら傷付けようが再生して元の状態に戻るので、すぐに俺は大魔王の体に魔剣を突き刺し心臓を破壊した。
そんな事をしても大魔王ルシファーは死なないのだけれど、俺が大魔王ルシファーにとどめを刺そうとしていることを悟ったリリスが、聖天使の『精神力』を使い自分の『精神力』をライナの『精神力』に変換して俺に渡してくる。
そしてリリスの聖天使の力を受け取った俺は魔剣を手放した後に大魔王ルシファーの体に触れ、彼が宿している『魔王の力』を全て自分の『魂』に移し替えた。そんな大魔王ルシファーの肉体を切り裂くと大魔王の肉体と入れ替わるように、大魔王ルシファーの魂と入れ替わってしまった俺の『魔王の力』とライナの中にいた『大魔王ルシファーの肉体』が消滅してしまう。
そんな大魔王を倒した後、俺に魔槍グングニルを手渡してくれた『聖天使』の肉体を持つ少女の『リリス』と大魔王に憑依された影響で『人間』から『聖天使』になった『ライナス』と聖天使の力で聖天使になりかけていたリザードマンの少年『リグル』の三人は、これから先も聖天使として生きていくことになるのだという。リリスによると聖天使の力は聖魔人が持つ力よりも強力な力であり聖天使の『聖加護を受けた人間は聖魔人を倒せる存在となるの』とのことだ。
リリスの説明が終わった直後にセフィアスが「これで私たちの世界が危機に陥る心配がなくなったわね」と言うのだが俺の考えとは、ちょっと違うと思うのは俺だけなのだろうか?
(お読み頂きありがとうございます)
◆◆◆
「この世界には魔王と呼ばれる悪の種族が存在していることは知っていた。だから魔族が、この世界に存在していることに不思議はなかった。魔王は俺と同じ『人間』から生まれたんだ。だから、その事実を知るまで魔王の正体が魔族だったと知って驚きだった」
俺の話を聞き終えたライナが質問をしてきた。それは俺が魔王ルシファーを倒して『魔王』を『勇者』が討伐したという出来事に関するものであった。
「でも、なぜライナ様は魔王を倒す必要があったんですか? その方が平和的に解決できたはずです」
俺は、そう問いかけてくるライナに、この世界には人間の敵として存在する魔物という生き物も存在している。そんな彼らが人間を襲わないとは限らず。もしも、その事が人間の世界で起きれば多くの人間が被害に遭うかもしれないと説明した。するとライナとセフィリスは納得をした様子だったのだけど『魔王』を倒さないという選択肢は無かったのかという問いかけをされてしまう。そこで俺は少し考えてからライナに答えた。
「そうだね。『人間』を守るために魔王を討伐しなければならない理由があるとするならば、俺は間違いなく『人間を守るための理由』を優先するよ」
「その魔王というのは人間と敵対関係にあるのですよね? なのに、どうしてですか?」
俺はライナの言葉を聞き「うーん」と考えてから言葉を発する。
「その魔王と俺が『同じ世界の出身なんだよね』と伝えたら信じてくれるかな?」
「「え!?」」
驚く二人に俺は同じ世界を旅をしていた事を話す。俺がいた世界では『魔王が異世界より召喚されて現れることがあるらしい』ということを話したのである。
俺が説明をすると二人は理解できない表情をしている。
「でも、その話が本当なら、なぜ貴方はその魔王と争うことを選んだのですか」
俺は、そう口にするライナに答える。俺が魔王と戦うことを決めた理由を説明する前に、まずは、なぜ魔王が他の生物から嫌われているかについて説明する必要がある。
俺はライナと、リリスに、魔王が誕生した経緯と『魔王の誕生方法』について説明することにする。するとライナは「それは本当なのか?」と俺に尋ねてきた。だから俺は本当のことだと答えた。すると俺が魔王と戦うことを決意して魔王と戦った理由を理解するのと同時に『勇者が魔王と相打ちになる』という事実を知りショックを受けていた。そんな二人の様子を確認してから俺は口を開く。
「俺と魔王が戦った場所は『地獄界』と呼ばれる場所で、その『魔王』と俺は戦っていた。そして魔王と俺との決着が着く寸前に『魔王の眷属である悪魔たちが突然現れて、そいつらとの戦いに集中できなくなってしまったんだよ』
ライナとリリスに、その事を説明したのである。そして俺が戦うのをやめたことで、俺は戦いの途中で殺されてしまうのだけど、俺は死んではいなかった。そして死んだと思っていた俺は気が付けば『地獄界』で生きていたんだよ」
俺の言葉を聞いたリリムが「まさか!『神の領域』に入ったのか? いや、ありえない」と言った後に続けて「でも『神の導きにより別の世界に移動する事ができる能力』を持った者が存在する可能性はあるので否定は出来ないけどね」と言ってきた。
「それって俺が『神によって別の世界へ転移させられた能力』って事かな?」と俺は疑問に思った事を尋ねてみた。しかし、どうも俺の能力に関しては『聖魔人の力』という特殊な能力を持っていなければ使用できないものなのでリリスも、そこまで詳しい知識は持ってないみたいでリリムも答えられなかった。
その後で、ライナが「それで魔王と『魔王の眷属である悪魔たちが現れた事で戦闘を中断した』のですか? 」と聞いてきたので「うん、そうなるね」と俺は答える。
「でも、それじゃあ『魔王ルシファー』は魔王の眷属の悪魔に操られている可能性が高いわけだ」
ライナの言葉を聞いたリリスが、すぐにライナの言葉を肯定したので「そういうことになるね。まぁ、あいつらの目的は『俺を魔王ルシファーに会わせる事だった』ってのもあるんだけど」と俺は言ったのであった。
それから俺は『俺が魔王と争わずに共存するという道を選んでいれば魔王と敵対する事も無かった』ことをライナたちに説明する。俺は魔王と会話を交わしてみて分かったことが『魔王は自分から誰かを殺そうとする気は無い』ということだったので俺自身が『争いを望むわけではない』という気持ちを伝え魔王ルシファーが、俺を殺す気が無くなったら、お互いに戦う気が無いことを示すために『俺たち二人がお互いの体を入れ替えること』を提案すると魔王ルシファーが了承し『魔王ルシファーの体を俺の体に、俺の体を魔王ルシファーの体に変える』事になったのだと話す。
そんな事をすれば魔王の力が、この世界に影響を及ぼす事になるのだが『大魔王ルシファーの力は全て俺が引き継いでる』と伝えると、この世界の人たちには何も問題無いので『この世界に大魔王ルシファーが現れても何も問題は起きない』のだと伝える。
俺は大魔王ルシファーから『大魔王ルシファーの体を宿している間に魔王ルシファーが暴れたら俺の体は消滅するかもしれない』と言われたのを思い出した。だから大魔王ルシファーの『体』を手に入れたとしても俺は大魔王ルシファーのように好き勝手に行動するつもりはないのである。俺は大魔王の肉体を手に入れても魔王ルシファーのような存在になりたいと思っているわけでは無く、あくまで『平和的な手段』で世界を守っていければいいと考えているのだ。しかし大魔王の肉体に魂が乗り移ったことで『俺は魔王ルシファーの記憶が脳裏に浮かび上がってきて大魔王の力を使えるようになっているのかもしれない』と思った。しかし俺自身は『魔王ルシファーが俺に乗り移るまでに記憶が流れ込んで来ていないのは何故なんだろう?』とも考えていたのである。
そんな話を終えた直後、俺は「あっ!」という叫び声をあげたのであった。そして俺の叫びに反応するライナに対して俺は、とある事を伝える。
「ライナさんに『聖弓アスカロンの力を扱える資格があるかどうか試す必要がある』とリリスから言われたんだけど、どうしよう?」
俺がライナに向かって『大魔王ルシファーを憑依させた状態の俺の体』と『今の俺自身の体が融合した時に何が起こるのか予想ができないから聖弓アスカロンを扱える人が近くに居て欲しいんだ』と伝えるとライナが聖武器アスカロンを手に取る。するとリリスはライナの手を取り、リリスから光が発生する。そんな光景を見ていた俺は『聖天使リリスがライナの『加護の力』を自分に取り込んだんだ』と理解したのである。
その後、聖天使の『力』を宿したライナを見て『これで安心できる』と思った直後に、ライナの体からは光が発せられライナの頭の中に『何か』の声が響いたようだったのだがライナの様子は変わっていなかった。その出来事から俺は『俺と同じようにライナの体の中に入って来たのは、やはり『聖魔人ライナスの肉片』が変化したものだった』と確信したのである。俺は『魔剣グングニルも似たような状態だったのだろうか? それともグングニルが、その状態になってしまった原因に関係があるのかも?』と考えてしまった。そしてライナの聖魔人の力に関してリリスとリリスに付いている護衛役の『アリサ』、『白猫団 隊長のクロエ』とライナ本人とリリス以外の皆が『驚いた』と言わんばかりの表情を見せた。
俺は「そういえば『勇者が魔王と戦わなければならない』理由は話していなかったっけ」と思い出しながら『魔王の配下である悪魔の襲撃』と『勇者が魔王と相打ちになる』という二つは、その魔王が現れるまでの過程として必要だと判断したからである。そんな説明をした後に俺は『魔王が俺と同じ世界の出身だった』という話を二人にした。
俺が説明を終えると「信じられないです」と口にするリリスとライナに俺は魔王との遭遇と会話をした際の状況を説明してから、俺が戦った魔王は『魔王として生まれてきただけで『他の種族と敵対して世界を支配しようだとか滅ぼしてしまおうという考えを持ってはいない』と思う』と話したのである。
「それじゃあ貴方と『神の領域』で出逢った『悪魔王ベルゼブブ』も貴方に敵意は無かったのですか?」ライナが、いきなりそんな事を聞いてきたので俺は、その時の出来事を説明するとライナは「確かに、その話を信用しなければ『勇者の魔王討伐を妨害』するために、貴方が異世界から来た人間であることを利用して貴方を異世界へ召喚しようとしたのだと考える事ができます」と言った。
そしてライナは俺の話に納得したようなのだけど『魔王ルシファーが、もしも、そのような意思を持っていないならば貴方に魔王を討伐する必要はないはず』だとリリスが言い始めた。
「そうだよなぁ」
俺はライナとリリスの言葉を受けて呟く。そして『大魔王ルシファーと融合してしまった事で、そのように思えてしまうのかなぁ』と思いながらも『魔王の眷属が襲ってくる可能性があるから、その対策は考えておかないといけないよな』と考えた。
「そうですね。魔王ルシファーと戦う意志が無ければ戦わなくても良いかもしれませんね。魔王の力は、かなり強力なものなので普通の人間が敵う相手ではありません」
俺の言葉を聞いたリリスがライナの意見に賛同したのであった。そんな事があった後に馬車の中で、ふと俺はある事を思いついたのである。
「リリス。今のうちに俺の力について話しをしておいた方が良いんじゃないの?」
俺の言葉を聞いたリリスが少しだけ困った顔になったので「俺が持っている力は、この世界にとっては異常な能力なので隠していた方が都合が良いかと思ってたけど。でも、もう隠しておけないレベルまで状況が変化している気がするんだよ。だから早めに、この能力についても、ある程度詳しく伝えておかなければならないと思ったんだけど。ダメだったら、ごめんね」と俺は謝罪してからリリスに伝えると「いや、こちらこそ気付くのが遅くなって申し訳ありませんでした」とリリスが謝ってきた。
そして俺の『勇者が使う魔法が使えない体質』のことや、ライナと天城の持つ『加護の力』を使える理由や『俺の体に聖矢アスカロンを扱える資格がある』と分かる前に聖槍グングニールを手にした事を説明した。さらに、それが原因で、あの『地獄界の門番をしている鬼族が持っていた聖剣アスカロン』が、この世界に出現する事が出来たのではないかとも俺は考えていると説明した。
その後、俺が『地獄界』で見た地獄の様子なども話すとリリスは真剣に聞いていた。俺は『地獄には俺の世界にあった『アニメ』で出てきたような悪魔は存在しなかった』こと。俺の体に取り憑いていた『魔導人形の魂が宿っている石板に宿っていた大魔王ルシファー』は『神に敵対する意思はない』『俺の事を自分の後継者』として扱ってくれていたことなどを話した。
「それで俺は、そんなルシファーに対して自分が『魔人族の国で国王をやっていたけど魔王ルシファーとは仲良くなれそうにない』と感じていた事を伝えた。すると『それは違うぞ。ワシの『肉体をお前が手に入れたなら魔王城へと向かってこい』という言葉は『魔王ルシファーを殺さずに共存する道を選べ』という意味を込めたものだ』と言われてさぁ、どうしたら良いのか悩んでるんだけど、どうすればいいんだろね。俺は大魔王ルシファーから『神の使い手になる資格を手に入れたら教えてやる』と言われていたんだけど」
俺の話が終わると「私はライナルト様が『大魔導師アルザードの力を受け継ぐ資格がある人物が現れた時は私の元へ来てくれ』という伝言を受け取った時に『この方と大魔王ルシファー様の関係に気付かなかった自分を恥じています。大魔導師のアルザード様に会ってみたい気持ちが強くなったので是非とも大魔導師のところへ向かいましょう』と言い出したリリスが俺の方に視線を向けたので俺が苦笑いを浮かべると彼女は口を開くのである。
(あれっ? この感じどこかで覚えている。どこだったかな?)
リリスは聖弓アスカロンを手に取った状態で、じっと目を閉じながら考え込んでいたので俺は『どうしたんだろう?』と思っているとリリスは目を開いた。
俺は聖弓アスカロンを持ったリリスの様子が変化したことに気づいた。しかし俺の見立てが間違ってなければ『今の状況は聖天使の力をリリスが自分の中に抑え込むことに成功した』ということになるのだがリリスは何も言わずに黙ったままだったのである。するとリリスは突然、涙を流す。俺は驚いてしまい慌ててしまったのである。だが俺より先に慌てたのはライナであった。
俺は聖武器の扱い方を習ったことで『加護』の能力に目覚めたが聖天使の力では無い。しかしライナが持つ聖弓が反応したのは『リリスの加護である』という結論に辿り着いたからだ。リリスから溢れ出た光がライナの手に触れた時、弓の形へと変化したのである。
俺は「弓に変化したということは、ライナさんがリリスの加護を受け取れる資格を得たということだよ」と言うとリリスは、とても嬉しそうな笑顔を見せたのだった。
ライナの『勇者としての資格』を確認した後に俺たちは目的地に向けて旅を再開した。するとライナはリリスに「リリスは、いつもリリスなのか? それとも今の姿がリリスなんだよね?」と聞く。するとリリスは微笑みを返し、こう答えたのだ。
「私の本体は『聖天使の錫杖』の方で『聖天使の錫杖の天使リリス』です。普段は『加護の力を封印している状態』でライナルトさんの加護の力を受け取ることができる状態にしています」
ライナの疑問は当然の事だと俺は思ったのである。
聖剣アスカロンがライナの手に渡り『ライナが聖剣を使いこなすための訓練』をしなければならないという課題ができた。そこでライナから「まず僕は何をやったら良いでしょうか?」と言われたのである。俺は、その質問に答えるためにリリスと相談することにした。
「俺の考えなんだけど、まずリリスに付いてもらって『俺と同じように、この世界の人達を幸せにする』っていうのが一番だと思うんだよ。リリスは、そう思うよね」俺はリリスの顔を見ながら言った。リリスは「そうですねぇ。それが一番手っ取り早いですね。ライナさんが加護の力を使いこなせるようになるまでの時間も短縮できるはずです」と答える。そして俺は「リリスが『聖女』と認定される前って『聖女』になるために修行をしていたのかい?」と聞くとリリスは首を左右に振った。
リリス曰く、彼女が幼い頃には両親は既に亡くなっており彼女の育ての親は、とある『大魔法使いの弟子』として生活していたらしい。その『大魔法使い』というのが『聖槍グングニール』に認められ『大賢者』と『神格』を持つ人物だという事なのだ。
俺は「その師匠の名前を聞いても、俺の記憶にある人の名前は出てこなさそうだ」と思いつつリリスの育ての両親である『二人の夫婦』は、どのような人なんだろうとも考えていた。
「私が、その人の元を離れていた間に何かあったのでしょう。私は、あまり詳しくは知りませんがライナスが言うには『師匠の二人が死んでしまった後に弟子だったリリスを引き取ることになった』と言っていたそうです」とリリスは語ったのである。俺は「そっか。じゃあライナルトの父親も俺と同じような『異世界からの転移者』だった可能性が高いのかもしれないね」と言ってライナと天城に『ライナルトが持っている聖弓に宿っている天使リリスと融合して力を得る』という話をするべきじゃないかと思ったが今はライナルトは一人になりたかったようなので『ライナが自分なりに納得するまで考えてから話をするべきだよな』と思ってリリスと話をするのを中断して馬車に乗り込んだのである。
そしてライナはリリスと一緒に馬に乗ることになり俺の隣で話を聞いていたのだけど、なぜかリリスはライナに向かって話しかけていたのである。
リリスがライナに「私の本体が使っている能力について、少し説明させていただきますね。リリスの本体は今の状態のように『加護の力を制御できるようになった後』は『大魔導師の使う魔法と同じことが出来る』ようになりました。それと聖矢は魔法を使うために必要な魔法陣を描いてくれる機能もあるのですが私の場合は『加護の力で生み出された魔法陣しか魔法を使うことが出来ない』ので注意が必要だと思います」と丁寧に教えていた。俺はそんな二人のやり取りを見て『まるで親子みたいだ』と思って眺めていたのであった。
それから三日ほどかけて目的の街『サンランド共和国の首都』に到着した。俺は街の入口にいた衛兵に冒険者証を見せようとしたのだが衛兵に「失礼します」と声をかけられてから手渡された紙を見る。すると『聖騎士の称号』を持っているリリスに、この街では『勇者の仲間の『聖天使』が泊まるような宿』を探してもらうように頼まれてしまった。そして、しばらく待っても、なかなかリリス達が戻ってこなかったので心配になってしまった。そして街の中心まで来たところでライナルトが「僕の家は、この通りだから。僕も家に帰るよ。リリスとアスカロンと、あとセフィロトにもよろしく言っておいてくれるかな」と言ったので俺は彼の申し出を受け入れた。
ライナと別れた俺はリリスに、これからの行動をどうしようか聞いてみた。リリスは、この都市に宿を取っているという。
「私もリリスなので宿を取っています。リリスは『大魔導師の宿で泊まっているので会いに来てください』と言っているんですけど一緒に行っても良いですか?
『大魔導師の宿』というのはライナスの実家なんですよ」と言われて、ついていくことにした。
(俺が聖弓アスカロンに認められる前に『ライナスの師匠だった人が経営していた宿がリリスの宿なのか?』と俺の頭の中はハテナだらけだった)
俺とリリスは、まずは冒険者ギルドに向かった。するとリリスは『リリスの聖武器』である錫杖と『加護の力が封じられている魔石が埋め込まれた腕輪』を受付嬢に見せて『冒険者のランクを上げて欲しい』と話していたのである。俺はリリスが持っていた聖武器を見ると、その錫杖の柄の先端部分に埋め込まれている魔石から溢れ出るオーラを感じたのだ。そしてリリスは『加護の力を解放している』のだと理解したのである。俺は、その様子を見た瞬間に俺の持つ大魔螺旋の力や、この世界にある全ての『聖なる属性の魔力』を吸収したとき、この魔石に蓄えられた『光の女神』の力と『魔族と魔王の魂の結晶である闇魔人の魂』によって『魔王の大魔螺旋』という技を生み出すことができるようになると確信したのだった。
俺は「聖剣に認められたライナは、俺の知っている中で最高に勇者に近い存在になっているのかもしれないなぁ。俺は『魔王』として『闇の王』にならなくちゃならないのか? でも、どうしたら良いんだろう?」と思っていたのだった。すると俺の心を読んだかのようにリリスは、俺の方を見ていたので俺は、その言葉に驚いた。
(まさか、心の声がリリスに聞かれているなんて思わなかったぞ。しかも俺は無意識で思っていた言葉を口に出していたみたいだし、ちょっと恥ずかしいなぁ)と俺が照れているとリリスは俺の方を向いて微笑んでいたのである。
俺とリリスは『聖魔人の宿』と呼ばれている場所に到着する。しかし、その場所の扉には鍵がかかっていた。俺は「もしかして今日、営業しない日なんじゃないかな?」と思い、そのまま引き返そうとしたら、建物の奥からライナの父親であるライナスが出てきたのである。
「おぉ。君たちがリリスとアスカロンを連れ帰ってきたのだな。久しぶりだが、ずいぶん雰囲気が変わったようだな」と笑顔を見せる。するとリリスは「ライナス。元気そうで良かったわ。私に会いたいっていう話は本当だったんでしょう?」と言う。ライナは「父さん。どうして『聖魔人の宿』は閉まっているの? 何かトラブル?」と質問をした。するとライナの父親が「それは、私が、この街にいる間の拠点としていた宿なのだ。ここ数日前から急に、あの店に来る商人たちの姿が見えなくなってな。気になって様子を見に来ていたんだよ。それで君は『聖魔人の加護を受け取れる資格』を身に着けたそうだね」とリリスの顔を見ながら質問した。
「そのことだけどね」リリスは少し間を開けて「ライナルトくんが、この国の『大魔人族の王の城で暮らしていた『魔人族』の王の娘』を倒せたら私の本体に力をもらえることになったの」と説明した。ライナスが「なるほど。そういう話だったわけか。それならば私の仕事も、すぐに終わりそうだな」と言いながらライナスは建物の中に入りカウンターの裏の部屋に俺とリリスを招き入れた。
そしてリリスに「聖剣に認められる前の君は『勇者』になるつもりはなかっただろうが、今では勇者のような振る舞いをしていると思うよ。私は『勇者ライナルト』を尊敬するね」と笑いかけながら言うのである。俺には「なぜ今、リリスはライナに勇者の真似事をさせたかったんだろうか?」と不思議に思ったがリリスは何も言わずに俺とライナが部屋から出て行く姿を見守っていたのであった。そして『ライナが泊まる宿の部屋』を教えてくれた。俺が『大魔神の神殿』で修行していた頃、『魔王軍の幹部の配下』の『聖女ミリア』が『大魔神』と一体化して、俺を殺しにやってきたことがある。そのとき『魔人と化していた大魔神様』が俺の体を借りて戦っていた。『俺と融合した状態』になると俺と魔人は一体になり戦うことができた。だから俺が『大魔神と同化すれば魔人化したライナと戦うことが可能なはずだ』と思い俺はリリスに『魔人の力』について詳しく聞きたかった。
ライナスの話では、魔人の力の源となっているのは『邪悪で強い負の感情をエネルギーに変えて力に変換することができる体質』なのだという。俺の推測が正しければ『魔人族は聖天使族が、この世界に送り込んだ』存在ではないかと考えた。俺とライナスが建物を出て歩き出すと「私はライナルトくんと、しばらく二人きりになりたいから貴方達は宿に戻らない方が良いかもね」と言われた。ライナが「じゃあ、そうするね」と答えて俺達とライナスは別れることになったのだった。そしてライナと別れたリリスが「私は、しばらく一人で『リリスの聖武器』としての役割を果たしてきます。それと、リリスの『本体』のところに戻った後はライナルトくんと一緒にいると良いと思います」と言って姿を消した。
俺は、ライナが宿に戻っていく姿を見てから宿に戻ることにする。そして俺は「そういえばライナにリリスのことを任せたままにしてたけど大丈夫かな?」とライナのことを心配していた。すると『リリスが宿に戻りましょうか?』と声をかけてくれたので俺は「そうだね。とりあえず『ライナのお父さん』が泊まっている宿に向かうことにしようか。それにしてもリリスって『加護の力を制御する』ことが出来ていたんだね」と話しかけた。
リリスは俺に向かって「はい。私の場合ですと『加護の力を制御する』というよりも『加護の力で作られた魔法陣に魔力を流すことが出来るようになった』という感じだと思います。でも『加護の力で魔法陣が発動できる』のと『加護の力で魔法陣を作ることが出来る』ことは、まったく別物だと思います」と答えたのである。
俺はリリスの説明を聞いて『聖弓アスカロンやリリスの聖槍は、この世界に存在する全ての聖魔人が使うことのできる聖武器ではないのか?』と気になっていたのである。なぜなら、もしも、そんな聖武器が大量に存在するとしたら、とんでもない脅威になりかねないからである。
俺とリリスはライナが『ライナス』が泊まっていた宿に着くと宿の中に入っていく。俺は、さっきまで、この街の大通りに居たはずなのに宿屋に入ると『見慣れた風景』が広がる不思議な空間に入った。俺は、そのことを不思議に思いながらも、ライナスと会う約束をしていた『リリスが泊まっている宿の最上階』にたどり着いた。
俺が宿の部屋の扉を開ける。すると『リリスが着ていた服と同じ服を着て聖弓アスカロンを持つ聖騎士ライナスが立っていた』。その姿を見て、すぐに俺は「あれ? ここは宿の一室じゃないの?」と疑問に思って「リリスの宿の部屋の扉が開くと別の部屋に移動したような気がしたんですが、どうしてですか?」と聞く。するとライナスが微笑みながら俺に向かって語り始める。
「ふっ。君の言っている通り、この部屋は宿の最上階の個室で間違いはないよ。この『リリスの聖武器』が使えるのは、この場所だけなんだ。それ以外の場所では、たとえ『リリスの聖武器が使えない場所』であっても聖剣と聖弓が反応して持ち主である私を呼び寄せることは出来ないから安心して欲しい。君に『大魔螺旋の使い方』と『魔人としての力を制御する方法』を教えた後に『リリスとライナに会ってほしい場所』がある。そこでなら私は『リリスの分身と、この世界に現れるであろう聖魔人ライナスに対抗出来るかもしれない手段』を話すことができると思っている。だが今は時間が無いので後回しにする。だから先に、ライナが持っている聖剣『聖剣アスカロン』を私に渡してもらえないだろうか?」と俺に頼み込む。
俺は『ライナの持っていた聖剣を聖魔人に渡す意味は理解できない』と思いつつも、とりあえず聖剣アスカロンを渡すことにした。俺は、まずはライナスの話しを聞きたいと彼に話しかける。彼は「わかった。私の知っている『大魔神族の秘密の隠し部屋』の場所についても教える」と言うと部屋の奥の方へと進んでいく。俺も彼のあとをついていく。
部屋の奥の方にある壁の前にたどり着くと「この壁に聖弓を当ててくれないか」とライナスが言ってきた。俺は聖剣でも良いんじゃないかと思ったが聖魔人の力が込められた矢なので『普通の武器』だと壊れてしまう可能性もあると考えて俺は言われた通りにすることにした。俺は聖剣アスカロンを構えると聖剣アスカロンから光が放たれて、そして俺とリリスの体が消えてしまったのである。そして俺とリリスの目の前には巨大な『リリスの本体と瓜二つの聖女の姿』が浮かんでいた。リリスは驚いていたが俺はすぐに「これは、いったい何が起きたの?」と質問をした。しかしリリスにも俺にも、この状況は、まるで分からなかったのである。
俺とリリスがライナスに連れてこられたのは、どうやら『ライナスの家』のようだ。部屋の内装からすると『リリスが聖剣と一体化して、俺の前に現れた部屋』のようだが俺が、よく覚えている部屋の中の雰囲気とは違っていた。俺の記憶の中では、ここにある家具類は高級品ではなく安っぽいものだった。しかし俺とリリスがいる部屋の中央付近に置かれているテーブルとソファーは、かなり高そうな作りになっていて『部屋を飾っている装飾品』なども『金が掛かっている』ように見える。
俺はライナスに質問をする。すると「あぁ。これかい? これらは『私の妻』が好きだったものでね。妻の命を奪った『魔人族の王が私の元を訪れてくる前に買った』んだよ」と言う。俺は「なるほど。それで『魔人族に、あなたが狙われていること』と関係が、あるのですね」と言う。俺の言葉を聞いたライナスは真剣な表情を浮かべると「実は魔人族の王の『娘と魔族たち』がこの大陸で暗躍している。私も聖槍の力を使えば戦うことができるのだが、この街を守るためには聖矢アスカロンが必要で、それを使うためには『聖魔人の加護』が必要だという。それで『私の娘である聖矢アスカロンを使いこなすことができる勇者』を探していたのだよ」と俺達に説明してくれた。
ライナスが「君は魔人や魔王と互角に渡り合うだけの力を身につけることができたはずだ」と言うと、なぜか突然俺とライナが戦わなければならないことになってしまう。ライナスは「その話は、もう少し落ち着いてからだ」と言った。俺には、どうしてなのか全く理由が分からなかったが『今の状態ではライナスの本音を聞くことはできないだろう』と思って黙っていた。するとライナスがリリスのほうを見ながら話し始めた。
「君が、その『聖魔人と戦える存在』になる可能性があるのならば『聖魔人が召喚されるときに備えて聖天使様が『神の領域』の扉を開いてくれている間に』戦わなくてはならない。それには私が、この『神の聖域』で管理をしている聖天使の力を封印してある宝玉を破壊しなくてはいけない。私は『天上界への旅立ち』の日に聖武器と共に『聖天使の宝玉』を破壊するつもりでいる。だから、その時までは魔人王と戦うつもりはないので、どうか私に協力して欲しい」とリリスに向かって頼む。
俺にはライナスの話を聞いていて、ライナスの行動が「聖魔人がこの世界を蹂躙すること」を防ごうとしているように感じていた。リリスも同じことを考えていたのか「分かりました。でも魔人は倒しますけどライナスさんの娘は倒しませんよ」と言ってくれた。ライナスは俺とリリスの顔を見ると「本当にありがとう」と言って感謝したのであった。
俺が「ライナスさんはライナに、この世界の平和のために協力してくれないんですか?」と聞くとライナスが少し暗い顔になると俺とリリスから目を逸らすと「私は妻と娘の仇を絶対に許さないんだ。私は魔人に殺された妻に誓った『二度と聖武器を扱えない人間として生きることは選ばない』と『必ず私の力で魔人を一人残らず皆殺しにしてやる』ということを」と言いながら自分の胸を両手で押さえて悔しそうに歯を食いしばると拳を力強く握りしめていた。そして「もしも魔人の中に『魔獣を操ることができる者』がいた場合のことも考えたが、この世界で魔人の動きを止める方法は今のところ思いつかなかった」とも答えてくれた。
俺は『なぜ、そこまでして魔人が、この世界に来るのを阻止したいのか』についてライナスから詳しい話を聞いたほうが良いと思っていたが「ライナスさん。今は、それよりも大事なことがありますよね。まずはこの世界に『現れると言われている魔人達』が『どんな人たちで何を目的としているのか』を教えてください。それによっては魔人を倒した後でも協力できそうだと私は考えています。それとリリスも、お願い」と言う。
リリスは俺が何を考えているのか理解したようで何も言わずに黙ってくれた。ライナスが言うには『大魔神族という魔人族の組織があり、大魔神族は魔王の協力者のような立場にあるため魔王は大魔神族のことは『気に入らないが放っておいて問題無い連中』だと考えていて大魔神族側も大魔王の指示に従えば問題にはならないのでお互いに手を出す必要もない。そして、そもそも大魔神様以外の全ての魔神や邪神などは、ほとんど大魔神族とは無関係』なのだと言う。
俺とリリスが、そんなライナスの説明を聞いて「えっ! 大魔神様以外は関係ない? それはいったいどういう事なんですか?」とライナスに質問する。ライナスが、その理由を俺たちに教えてくれた。
ライナスの説明によると『大魔神様と大魔神族だけが他の魔神達と敵対する関係にある』のであり『それ以外の魔神達は大魔神様が創った存在だから味方同士で仲間意識が強い。しかし敵対関係の魔神同士も争いあうことはない。ただし大魔王と魔人たちは別だ。大魔王の目的は『すべての魔神を殺し世界を支配すること』だと伝わっているらしい。つまり『魔人族の目的とは真逆の目的』ということなんだ。だからこそ魔人は大魔王のことを敵とみなしているようだ』とのこと。
ただ『現在確認されているだけで、もうすぐ誕生するはずの新しい聖魔神と七柱の聖天使は、どうも『違う考え方を持っている』ようだ』と話していた。俺は「それじゃ、もし俺が、その『聖魔神』と『新たなる聖天使様』に出会うことが出来たとしたら俺の考えを伝えることが出来るかも」と考えたことを話す。ライナスは「ふむ。それは面白い。それなら、もしも聖魔人に会えたら私からも話をしてみよう」と約束してくれた。
ライナスが『私達が倒さないといけない敵は聖魔王と大魔王様だけだ』という話をした。ライナスの口から聖魔人の話題が出た瞬間に俺はライナスの目を見て「ライナスさんは、もしかして聖魔人とは戦ったことが有るのではないのですか?」と尋ねるとライナスは驚いたような顔をすると俺を見つめた。
俺の質問に対して「聖矢アスカロンを使いこなせるようになるために私と『私の元を訪れた魔人族の男性』との『修行』の際に彼は現れた」と言う。「彼は『聖魔人様が復活なされる前に、あなたが、この世界を救ってくれることを願う』と言っていたよ」と俺に伝えたのである。そして「聖魔人の力を手に入れた勇者と、私との戦いで私が死んだ場合は、そのまま私が持っている聖矢アスカロンを聖魔人の手に渡して欲しい。そのように頼まれて聖矢アスカロンを受け取ったのだ」とも説明をしてくれた。俺は「ライナスさんの話しを聞いても俺は納得出来ません」と言うと「ライナの本当の気持ちは『自分が聖魔人になるか聖魔人を倒す』かの二択しかないと思います。ライナスさんがライナに何かを伝えたところでライナは、どうせ聖矢アスカロンを使って戦う道を選ぶと思います」と言った。
俺とライナスの会話は「リリス」や「聖弓」にも聞こえていたので『リリスが俺とライナスが会話をしている途中で口を挟んできた。俺のほうは聖魔人のことを『倒す対象』と捉えている。しかしライナスの言い方は「聖魔人を、これから戦う相手」としか捕らえていない気がしていた。リリスの質問に俺は答えると「リリス、ライナスは『聖魔人と戦うための修行』をしている時に、たまたま魔人が現れたので戦いになっただけのことだ。だから俺にとっては、あの魔人が言った台詞と『聖魔人の復活に備えて俺が、あなたに、この世界の平穏を約束しましょう』という言葉は『同じこと』を意味していると考えているんだ」と言う。リリスは「私も、そう思っていたわ」と言うとライナスも「あぁ、そうだね」と答えた。
ライナスが俺の目をしっかりと見据えながら真剣な表情になると話し始めた。「ライナ君が今のままの状態で、このまま戦いを続けていけば、ライナ君は間違いなく『魔王の力に目覚めることになるだろう』」とライナスは断言した。そしてライナスが言うには「もしも『魔王』として『魔の王の加護』を受けた者が聖魔人に覚醒した場合に、どのような行動をとるか分からない」と言うのであった。
ライナスが「君に一つだけ確認したいことがあるんだが『聖魔人と魔人は、この世界の支配者になるために戦おうとしているのではないか?』という疑問を抱いているかい?」と俺に尋ねてきた。
俺はライナスの問いかけに「はい。俺の感覚的なことで言えば、その可能性は高いと考えています。だから『聖魔人が聖天使の宝玉を破壊しようとする』理由もそれではないかと」と答えた。ライナスは「そう考えるのならば『聖魔人が復活する前に聖天使の宝玉を破壊する』という考えは正しいかもしれない。私は、もしも『聖魔人が復活してしまった場合に備えて聖魔人と戦う方法を見つけ出しておく必要がある』と考えて、こうして『神の聖域』にいる聖天使のセフィアスに会いに来たんだよ」と答えてくれる。俺は「でも『ライナルトさんが、どうしても聖魔人が聖天使の宝玉を壊す前に必要な力を身につける必要がある』と判断した場合は聖魔人と戦うことにします。その時のために、まずは、どのタイミングで『聖魔人』が、どのようにしてこの世界に現れるのかを教えて欲しいんです」とライナスに向かって頼む。
ライナスは俺の願いを聞くと少し悲しそうな顔になり「実は私も正確な時期を知っているわけではないんだ。ただ私の場合は魔獣が突然、増え始めたときに『魔人が召喚された』と確信したので、それから何日後かに聖天使の宝玉が砕かれたという事だった」と話す。
俺はライナスの答えに、かなり驚いた。「どうして、そんな曖昧な情報で判断したんですか?」と思わず質問をしてしまうとライナスは「私は『大魔神様』が私の前に現れて、この世界を『聖魔人』が支配し聖魔人によって平和が訪れた後の世界を『創造する手助けをする役目を与えられて生まれ変わった』と教えてくれた。それで私は魔人に騙されて妻を殺し娘を奪われた」と言う。
そしてライナスの話を聞いて俺は『なぜ、ライナスさんの妻を殺したのが『魔獣を操ることができる存在』なのか? それが分かれば大体の推測ができるはずだ』と考えたのである。しかし今は情報が少なすぎる。そのためライナスに「『ライナスさんが、もし魔王の力で聖武器を扱うことができたら、どんなことが出来ますかね?例えば、ライナが聖魔王の力を得たら何が出来ると思う?」とライナスに聞く。ライナスが「そうだね。『魔の王が司る全ての属性魔法を使う事が出来るようになり全ての魔法の力が飛躍的に上昇する』はず」と答えてくれたので俺は『魔の王』の力を上手く使えたら凄く強くなるだろうとは思った。ただ『全ての属性魔法を使いこなせるようになって全ての魔法の力を急激に上昇させる』だけでは、それほど強い能力だとは感じないのも事実だ。俺はライナスとの話の中で『聖魔王の力』について詳しく知る機会があったら良いのにと考えていた。そして俺は「それでは『聖魔王』と『新たなる聖天使様』が融合した場合に使える力とは一体、なんでしょうね?」とライナスに尋ねた。するとライナスが俺の顔を見つめると真剣な顔をする。ライナスは何かを考えていたようだ。
しばらくしてライナスが「私の憶測だが、『聖天使と聖魔人の融合は可能だ』と思うよ。もしも可能なのであればライナ君とリリスさんの二人で『新たなる聖天使様』と融合できる可能性が高いと思う。その場合、おそらくはリリスさんが『大天使サリエル』の聖槍アスカロンを使うことができるだろう」とライナスが答える。そして「私や『魔王軍の六将』が使っているような魔剣や聖斧などの聖武具も使うことが出来るはずだ。そして私達の持つような強力な力を持った神器の聖杖や聖弓、聖刀なども使用可能になるはずだ」と言うと「それとね。この先の戦いを考えて聖魔人と戦うためには『聖矢アスカロンのような特殊な能力を持つ弓が必要だ」と俺に言った。「ライナくんは今まで多くの『聖魔人候補達との戦いの経験を積んできた』のでは無いのかな?だからこそ分かることもあるはずだ」と俺に質問をしたのだった。
俺がライナスの質問に「聖魔人候補として『七柱の大悪魔』と戦ってきた経験を生かして考えるのなら、『七人の魔人達は『七聖勇者の能力』に似た聖天使の宝玉を持っていると思われる』ということですね」と言うとライナスは真剣に話を聞いていた。ライナスの質問に俺は「聖魔王や大魔王は『七つの聖勇者の特殊能力が有る』と俺も考えている。『聖矢アスカロンがライナルトと融合した際に、どのよう に変化するのか』を考えれば聖矢アスカロンの特殊能力も予想できると思っている」と言うとライナスは俺の話しを聞いて「そうか!聖魔人に対抗する方法は有るという事だね」と言うと俺に礼を述べた。俺はライナスに「『聖矢アスカロンは『七聖勇者が持つ力と同じ性質を持っていて全ての聖勇者と一体化が可能だ』と考えるとライナルトとライナスさんはお互いに手を取り合うだけで『聖魔人と互角に戦うことができる』と思います」と伝える。
するとライナスが真剣な表情になると俺の目を見て「確かに君の考えは一理あるな。私は、ライナ君から『勇者』として認められるまでは『自分が本当に聖魔人に勝てるほどの強さがあるのか』を試したいと思っていた。だから私が一人で戦えるように修行をしているときに魔獣の異常繁殖が起こって『大魔人』が現れたと私は考えていたんだ」とライナスが俺の質問に答えるとライナスが「だから、あの時は魔人の気配を感じた時に『すぐに逃げずに、もう少しだけ魔人との闘いを続けたほうが、よかったのかもしれない』と思ったりもした」と言うと「私は魔人が現れてから3年もの歳月をかけて修行を行いましたが聖弓は、あまり私とは馴染まなかったんです」と言う。
俺がライナスの話を興味深く聞き入っているとライナスは「私は自分のことを天才だと自負しています。でも、どうにもならないことがあるんですよ。でもライナ君は聖天使の力を取り込んだとしても『自分が強くなれたか?』とかは、わからないよね?」と聞いてきた。
俺は、そのことを考えると『ライナは『聖魔人を倒して平和を取り戻す』と考えているが俺は違う。ライナは、あくまでも魔人の殲滅を目的にしている』ということをライナスに伝えるために「ライナ。君はライナスさんのことを天才だというけどライナスの言う通りだよ。でもライナだってライナスが言うように『聖天使と融合して『新たな聖天使となったライナが強くなるのかどうか』なんて分からないだろ?」と言ったのだった。するとライナスは俺に対して「君の言葉には、もっともだと思う部分もあるがライナ君が聖魔人に覚醒して、それから強くなったのか?それは分からない。だけど、もしもライナ君が聖魔人に覚醒した後に強くなるのならば、この世界に生きている者は皆が強くなる可能性が、きっと生まれるだろう。私は『これからの世界は、さらに戦いが激しくなると思う。だから今よりも、もっと多くの人々が戦いに身を投じることに成ると思う』と言う。俺はライナスの答えに少し納得すると同時にライナスが聖天使の宝玉が破壊されることを想定しながら話していた事が理解できた。ライナスが俺に向かって「そういえばライナスは、どうやって『大魔人を倒すための方法』を見つけたのですか?」と俺が尋ねると「大魔王の居場所は分からなかったが魔人が聖魔人になるために必要な情報だけは入手出来たんだよ」と答えた。
俺は、その言葉を聞くと少し驚いて「どうしてライナスは、そんな情報を得られたのですか?」とライナスに尋ねるとライナスが、しばらく考えると「私の家族を殺した魔人を『絶対に許さない』という思いが、その時、初めて湧いてきた。その時の私の気持ちは『魔人は皆殺しにしなければ』という思いだけだったんだよ。そして、たまたま『魔王軍が『神の聖域』の近くで野営をしていた時に遭遇した』魔人が聖魔人へと進化して、そいつの持っている聖武器の力に私は気がついたんだ」と言う。
ライナスが続けて「私もライナ君と同じように『魔王軍を滅ぼすことが一番の目的なんだ』と思ってしまった。しかし冷静になって考えたら、このまま『魔王軍を放置したら、いずれ魔王軍に殺されるのは私たちの方だ』と気がついて『魔人たちの計画を邪魔をしてやろう』と決意したんだよ」と教えてくれた。
俺が「それではライナスは魔王軍を滅ぼさなければ魔人に襲われると考えたんですね」と言うとライナスが首を横に振る。
ライナスは「私に言わせれば魔王軍の六将軍たちは魔人の中でも最弱の存在なのですよ。『聖天使の力を手に入れた今の私の敵ではない』と私は考えています」と言う。そして「それに、もう魔人たちは聖魔王と聖天使様の力で魔族から進化した聖魔人となって、かなり強くなった。『これ以上の時間を浪費するのは危険すぎる』と判断して私は行動を起こした」と話す。ライナスが「聖武器アスカロンを手にした聖魔人の力は凄まじいものがある」と呟いた。
俺は「『聖魔人』に勝つ方法ってあるのかな?」と言うとライナスが「そうだね。聖矢アスカロンを持つリリスさんの実力次第だが『新たなる聖魔人に聖剣アスカロンで融合して、ともに闘うことが出来れば勝機はあるだろうね』と答える」と答えてくれたのである。そしてライナスが真剣な表情をすると「私やリリスさん以外の者が魔人と戦う場合には『魔人から手に入れた能力を最大限に活用することが必要になる』だろう」と語った。
そして「私も聖魔人と戦って倒すためには『ライナ君の力を、より強力にするために協力しなければならない』と思う。しかし私では聖魔王や新たなる聖天使様のように強力な聖武器を生み出すことができない」と言うと俺は「聖魔人の力を削ぐための有効な武器が作れないか?」とライナスに尋ねる。
俺が「俺の持っている『魔の聖盾』、『魔の聖鎧』、聖矢アスカロンなどを強化する方法は、ないでしょうか?」と聞くとライナスは「聖矢アスカロンは私も欲しいと思っている。もしも私が聖矢アスカロンを作り出すことが出来るのであれば『聖矢アスカロンの能力を聖魔人に対抗することができるものに改造する』ことで、より強化することができるだろう」と言ってくれた。俺はライナスに感謝すると「それじゃ、まず最初にライナスに、やってもらいたい事があるんだけどいいかな?」と頼んだ。
ライナスが俺に「私に、できることがあれば喜んで手伝うよ」と言うと「俺達の戦いを見守りながら、みんなに指示を出して、ライナスの配下たちを指揮して欲しい」と頼む。ライナスが俺の話に驚きながらも「もちろん引き受けるよ。任せてくれ!」と笑顔で言う。
そしてライナスは俺達に「私は『大魔人の六将』や『七人の魔人達』から得た知識を活用して聖魔王や新たな聖天使様に負けないように、できるだけ早く戦力を整えるつもりだよ」と言うと俺は「それならライナスが作る武具を俺が使いたいと思っている」と言う。
俺は『ライナスが作った聖槍ゲイボルグも使えるのではないか?』と質問したがライナスの返答は「ライナルト君の持つ聖魔人に対抗できる唯一の手段かもしれない聖矢アスカロンを『魔族の力で作った武器』と融合させるのは難しいと思う」と答える。俺は「そうですか。残念ですが仕方がないですね」と肩を落とす。
ライナスが「それなら『新しい魔道具』を作って、その魔具を使えば聖矢アスカロンも扱えるかもしれないよ」と言うと俺は嬉しそうな顔になった。ライナスが言うには、どんな魔獣も簡単に倒せる『魔物殺しの大弓』を作った魔人がいるらしい。俺とライナスは『聖魔人に対抗する魔導兵器を作る』ために協力して作業を行ったのだった。
『魔導士アリシア』がライナと『聖弓』の力を融合させた『聖矢アスカロン』を使ってライナと一緒に『魔人』と戦っている映像を見ながら俺達は「やっぱり『聖矢アスカロン』を使うライナ君はカッコイいな」と、いつも俺が感じている事を口にしたのであった。
『魔の王城の宝物庫の宝箱から聖剣アスカロンを取り出すこと』が目的なので、俺は聖魔王に言われた通りに、ライナルトを連れて『勇者』として認められて『勇者』となった証である『勇者の紋章』を手にするため『大魔人の六将軍』を倒しに向かうことにした。俺は聖魔王から『大魔人の6体の六将は『魔人の中でも強敵だ』と言われている』という情報を聞いていた。そのため「勇者」として戦うのは不安があったが俺は「聖魔王とライナルトが『魔人に勝てる勇者を育て上げることに成功したら俺とライナは元の世界に帰る事ができるかもしれない』と言っていたので頑張ってみよう」と思いながら『魔王の試練のダンジョン』へと向かった。
俺は『魔王の城』にある宝物庫の中にあった宝箱の中から聖剣を取り出そうとすると宝箱を開けると聖魔王が持っていた物と同じように豪華な造りをしている金色の聖槍が入っていた。俺は『これは、まさか聖魔王が持っていた伝説の『聖剣』ではないだろうか?』と思った。そして宝箱から取り出した後『鑑定』の技能を使いアイテムの情報を表示させようとした時に宝箱の中にあった『金の杯に入った聖水』と『金の指輪に入っている魔力を回復させる聖薬』が目に付いた。聖魔王に『魔王の試練の攻略』のヒントを聞いて『聖魔王は「魔王を倒すことの出来る勇者を育てるための訓練施設」だと話していた』という話を思い出したので「勇者の紋章」と、いうものは『魔王を倒して得られる紋章』だと考えた。
俺はライナルトの体の中で、しばらく眠っていて「大魔王の六将軍の一人『六魔将軍』の『炎獄のバフォメット』を倒した」と報告を受けて『ライナの故郷を滅ぼした奴らの生き残りが、ついに死んだ』と思うと少し嬉しい気分になっていたが、それよりも聖剣が『聖槍』だったので『ライナルトは、これから聖魔人と戦うときに有利な装備を身につける事が出来るようになる』と安心できた。
俺が「ライナがライナルトに『大魔王に勝てるほどの強い戦士を育てたい』と話していたから、俺はライナルトとライナに会えて本当に良かった」と言うと聖魔王が「聖武器は魔人を倒すことが出来るけど『魔人の王の力』に聖武器では太刀打ちできない可能性がある。だから『魔王の六将』の六体は絶対に『六聖剣の魔王の力を持った剣』を持っていて強力な『魔の魔王の力を扱う能力』を持っているはずなんだよ」と言う。そして「私は聖魔王や、その仲間のライナと『魔族の国で平和を乱している原因』である魔人と戦い、それを終わらせたら私の役目は終わるはずだ。その時が来たならば私の仲間になってくれ」と聖魔王に言われて俺は『ライナや聖魔王と共に生きる人生もありかな?でも仲間になるとは具体的に何をするんだろう』と疑問に思ったのでライナルトは『俺に何か隠し事をしてるのかな』と感じた。そして俺はライナルトに「俺もライナルトに『隠していること』がある」と話すとライナルトが「リリスに告白された件については私は気にしていない。リリスは昔から『ライナのこと大好き!』と言ってリリスに、いつも私は怒られていた」と、あっさりと言う。
そしてライナルトは「リリスに告白されたのはリリスにとっては良いことだと思っている。私のことは気にしないで大丈夫だよ。それにライナの事は私だって気になる。もしリリスから『恋人になりたいと思って好きと言われたのか?』なんて質問をされると答えに困ってしまうしね」と笑いながら話す。
俺は『この話題に触れると、どうなるかわからない気がするので今は触れないようにしよう』と考えると俺は『魔人について聞きたい事がある』と話を逸らすと「魔人は『悪魔族と天使族から進化する魔人の二種類の魔人が居て』悪魔の魔人と天使の魔人に分かれるんだ」と聖魔王が説明してくれる。
俺は『天使族は俺の知っている「天の天使族」で、おそらく俺達の世界で言う所の「光の種族」なのではないかな?』と考えた。そして聖魔王が「天使の魔人が生まれるときは天使族の女性から生まれた子供が天使族の場合がほとんどだけどね」と教えてくれた。そして「天使の魔王と魔人の王も存在はするが『光の神』に、あまり敵対的ではないので滅多なことでは現れない」とも話してくれた。
俺は『俺が、もしも魔人になってしまった場合には魔人の王が現れてしまう可能性が高い』と思うと怖くなったが「リリスは聖女なのに、なんで魔人を浄化しようと思わないのだろう?」と質問すると聖魔王が答えてくれる。
「リリスは優しいから魔人の存在を許せないのだと思っている」と聖魔王は言う。そして聖魔王が「魔人も元々は『善の心を持』っていた者達の子孫であり人間なのだ。だが私達は魔人になった者達を決して認めようとせず討伐の対象として殺してきた。それは私達が過去に犯した過ちの一つだ」と言う。
そして聖魔王が「私にも後悔はある」と言う。
「ライナ君の世界に転移する前に君に、ちゃんと伝えておくべきだったことがある」と聖魔王が言う。俺は『何の事なのか』解らず聖魔王の顔を見ると「私がライナ君に対して『魔王の加護』を渡すために、君にキスをするときに私が渡した唾液の成分は魔族の血液に含まれる物質や『大魔王の六将』が持つ特別な『魔の王の力を操るための特殊な細胞の一部』なども含まれているから『魔人の魔人化』を引き起こす可能性が非常に高い。だからこそ、それを避けるためにライナ君は私から唾液を貰っても飲み込んではいけない」と聖魔王に真剣な表情で言われたのである。
ライナスが俺の『魔王軍の幹部将軍』との融合の力を改造する事に成功して『聖魔人』を倒せるような力を手に入れてから数日が経ち、俺と聖魔王は『魔の王城』の『謁見の間』で俺が「聖魔人と戦う準備は出来た」と言うと「魔人との戦いの決着は早く付けたいと思っている」と魔王様が言ってくれた。
俺は「ありがとうございます。早く戦いを終わらせる為に、さっそく魔王城に侵入者が来ました。聖魔人が、もう、この場所を探し当てて襲撃を仕掛けてきたようです」と聖魔王と俺とで魔王の城の警備を強化していた。聖魔人は『勇者の紋章』を手に入れる事を目的として『魔導国のダンジョン』の最下層に眠っていると言われる『大魔剣グランゾディア』を目指しているらしいが、すでに聖魔人に狙われている『勇者』がいるという情報が流れているのは事実なので俺が『勇者の紋章を手に入れたとしても聖魔人に奪われてしまう可能性がある』と魔王に伝えた。
聖魔人に勇者を奪われるのを阻止するために、俺は「魔人の血の濃い者を勇者にする」という作戦を実行することになった。聖魔王の『魔王の血脈に連なる者なら魔人になっても理性を失うことなく勇者の力を扱えるかもしれない』という考えからだ。魔王は俺と、聖魔王が考えた方法に賛同してくれて俺と聖魔王の二人と魔王とライナルトの四人で、それぞれの血脈に『魔人の勇者』を生み出す儀式を行った。その結果は成功である。魔王の息子は「魔人になった後にも意識が残って」いたのだ。聖魔人の方は完全に聖剣を扱えなくなり、その状態で魔人を倒していくしかない。だが魔王は「魔人が持っている聖剣は魔王の力に抗うことは出来ないので聖魔人以外の敵から守ってもらえるように『魔人に、なるべくならない方が良い』」と言っていた。
そして、それから三か月後ついに聖魔人に俺と聖魔王が『魔王の紋章』を使って『勇者』となった者の体を乗っ取る事が出来る能力を与えることに成功した。俺は自分の体と融合したライナルトに「これから聖魔王と戦う」と伝えるとライナルトに、すぐに『魔王の城』に来てくれるように連絡すると「わかった。すぐに向かう」と返事が返ってきた。
魔王の城を防衛するためにライナルトが来るまでの間、俺たちが戦うことになるが魔王は聖魔王には勝てる可能性があると思っていた。聖魔人は魔王の『六聖の魔人の王の力を持った聖剣アスカロン』を持っていないのだから『六聖の魔王の力を持った魔剣エクスカリヴァーン』を持っている俺と『聖魔人との最終決戦』に向けて俺が魔人から魔王の魔人の能力を奪うために魔王から与えられた魔王の加護を持つ『聖魔人への魔剣の力の譲渡』のスキルが発動できる条件は『俺と、同じ加護の持ち主の魔剣エクスカリバー』を持っている者との魔剣を使った勝負に俺が負けて魔剣を奪われなければ聖魔人に対抗する事が出来る可能性が高くなると考えていた。
聖魔王が「聖魔人と戦う時は私の命は保証出来ない」と聖魔王に宣言されていた。そして「もし私とライナが魔人の力を得て魔人として生きるのであれば私達を殺してほしい。ライナは私を、この手で殺してもライナの記憶を消して、また『魔王の六将の四天王の一人だったリリスと恋人だった』という事実だけを残すつもりなんだ。でも、私はリリスに殺されるのは仕方ないと思ってる」と俺は「俺は魔王と聖魔王が『仲間にならない方が良かった』とは思ってませんよ。俺は二人のことを信頼していますし一緒に居て楽しいと思える存在ですからね」と言う。
聖魔王が「ライナが仲間になってから私とライナが出会った時の記憶は失くしてしまうけれど、それでライナの幸せになるならば、それでも良いかな」と言い俺は聖魔王に『俺の仲間たちとリリスの事は頼んだ』と聖魔王に言うと聖魔王は微笑みながら「もちろんだよ」と答えてくれた。
そして俺はライナに「俺はライナのことを忘れてしまうけど俺の事を恨まないでくれ」と話しかけると「恨む訳がないじゃないか」と言って笑った。俺は「ありがとう。これで俺はライナに『魔王の六将 聖王 ライナルトの全てを受け継ぐ』ことができるはずだ」と言う。
聖魔王は「そうか、リリスとライナの戦いが始まるのだね」と寂しそうな顔で言う。俺は聖魔王の顔を見ると聖魔王の悲しげな表情に胸が苦しくなるのを感じて「ごめんなさい」と言う。聖魔王が俺に「いいんだ。気にしないで」と言う。そして聖魔王は俺の顔を見ながら「ライナと過ごした日々はとても幸せな時間であった。だからこそ君に謝りたかった」と俺に言った。
そして聖魔王が俺に対して『六魔将の六将』を一人倒すごとにライナの加護を強化すると言ったが俺は「俺は聖魔人と戦って勝つためにライナルトの魔人の力を貰いたいんです」と答えると「そうだね。君はライナルト君との絆も手に入れたんだよね」と言うと聖魔王は「私からの六人目の魔王としての使命は終わった」と言い俺に向かって笑顔を見せた。そして聖魔王は俺の顔を見つめながら「ライナ、今までありがとう。そして魔王として君と過ごせたことは私にとって人生で最も楽しかった時だ。君は、まだ子供だったから私が大人の女性として君のことを守ってあげないと駄目だね。だから君は私の分も生きてね」と涙目で聖魔王は俺に伝えた。俺は「うん」と泣きながらも答えた。
そして聖魔王の体が光に包まれていき、その光が消えていくとその場所にいたはずの聖魔王の姿は無くなってしまった。そして「リリス様、今こそ私も『魔の王城』へ向かわせてください」と俺が言うと魔王の城で待機していた魔王と魔王の娘が駆け付けてきて「大丈夫?」と俺に声をかけてくれると「はい。僕は、これから戦いに行ってきます」と言うと魔王は「気を付けてね。無事に帰ってくるのを待ってるから」と言うと「ありがとうございます」と言うと「じゃあ行ってくるよ!」と言うと『魔人化』した状態のまま『魔王城の外に出て魔王の城から離れた場所で俺は聖魔人と『魔人の勇者』の『魂』が融合した状態で俺の前に姿を現した。
聖魔人が俺の前に現れた瞬間俺は聖剣を抜き放ち聖魔人に攻撃を仕掛けたが聖魔人は『聖剣エクスカリバー』を持っていたのである。だが俺は『魔人』の状態では『聖剣』を扱えないと知っているので俺は自分の持っている聖魔人の『魔王の力の結晶:大魔剣エクスカリバー』に自分の意思を融合させ、そのままの状態の『魔剣エクスカリバーン』を手に取り、それを勢いよく振り払うと魔剣は輝きを放ち、そのままの状態から魔剣を横に振るうと魔剣エクスカリバーの刃は魔人の姿をしている聖魔人を真っ二つにした。
俺は聖魔人が俺の攻撃によって倒れ込む前に魔剣で『聖魔人を倒した』ので俺は「俺の勝ちです」と言う。
聖魔人は倒れた状態で俺を見て「やはり貴様が、この『魔王』の魔剣を手に入れてしまったのか」と俺の方に視線を向けた。俺は「俺と貴方との戦いは終わりです」という。
俺は魔剣『魔王の錫杖』を手にした後に『大魔王ルシファーの力』を手に入れた時に魔人の勇者であるライナルトが『大魔王ルシファーの力』を使って聖剣エクカリバーに自分の魂を宿らせた事を思いだす。そして「聖剣と融合した状態で魔剣を振るうことで、この『魔王の六将の聖魔人』を倒す事ができた」と呟くと聖魔人も俺の言葉を聞いて何かを思ったのか「私は、ただ、自分の持っている聖魔人の『大魔王の力』に自分の精神力と魂の一部を使って自分の体を強化していただけで魔王軍の幹部の一人が魔人の力を利用して『魔人化』した私を倒して自分の体の強化を解除していた」と言う。
俺は聖魔人の話を詳しく聞こうとしたその時、聖魔人の肉体が砂になって崩れ落ちて地面に散っていったのであった。
『聖魔人と戦う事になった俺の作戦』は『聖剣と融合した状態ならば魔人の力を扱えるはず』という考えに基づいて聖魔王の加護を得た状態の俺が『魔剣エクスカリバー』を使い聖魔人と戦う事で、どうにか『聖魔人に打ち勝てるかもしれない』と思った。そして、それが上手くいき俺は魔人の力で聖魔人と戦うことができたのだ。その結果、魔人化した状態で魔剣エクスカリバーを振り回すことで『魔王の六将である聖魔人』は倒せたのである。
だが『俺の勝利』というわけではなく俺は、このままでは聖魔王が聖魔人に取り込まれたまま死んでしまう可能性があったので俺は「この場で聖魔人に聖魔人と戦える唯一の存在になっている俺の体に聖魔王を同化させて救おうと思っている」と言うとアリシアが「そんな事ができるのですか?」と心配しながら質問をしてくると俺はアリシアの方を向いて微笑みかける。すると聖魔人が聖剣アスカロンの鞘からアスカロンを抜く。
俺は『俺の魔人の力の源でもある聖魔王の精神力を俺の体内に閉じ込める事が出来る魔人の技を使う事が出来るはずだ』と考えていて『魔剣エクスカリバー』の柄を強く握りしめると聖剣アスカロンの刃が輝き始める。俺は魔剣エクスカリバーに『魔剣エクスカリバーに、もう一体の大魔王の力の核が存在する聖魔王の人格が封印されているのであれば『大魔王の力の源となっている魔人の能力の核も存在するはずだ』と思い魔剣エクスカリバーで魔剣エクスカリバーに触れると俺の考え通り聖剣アスカロンの鞘の中に魔剣エクスカリパーに存在しているのと同じように、もう一つの『聖魔王の力の核が存在している聖魔人』の人格を聖魔王の『聖魔人の力の全てを受け継いだ者が持つことの出来る特別な能力:魔王の宝玉が作り出した『聖魔王』の身体の中にある精神力が保管されている空間』とでも言うべき場所に俺は魔剣で触れたのである。
そして俺と聖魔人は『聖魔人ライナルト』が聖魔人として生まれ変わる前の人間であった頃の人格が『聖魔人ライナルト』が『聖魔人の器』に『魔王の六将 四天王の一人のリリス』の記憶を融合された姿になっていた。そして俺は『聖魔王の魂』を救う為に俺は魔剣エクスカリバーに聖魔王の力を宿らせるために俺は魔剣に魔力を込めたのであった。そして俺は魔剣エクスカリバーンの刀身に聖剣アスカロンから流れ込んで来た『聖魔王の精神』を流し込むと俺の持つ魔剣エクスカリバーが俺と『聖魔王』の精神が混ざり合うように輝き始めたので、俺は自分の持っている全ての力を解放し魔剣に注ぎ込み聖魔王に聖魔王の『全て』を受け入れてもらうための準備を行うのだった。
俺は『俺と聖魔王が混じり合った存在に聖魔人』になり俺が、この『魔の王城』の中で『聖魔人を魔王にさせる儀式』を行うために魔族の国の中を移動していた。だが、俺が魔族と人間の戦争を終わらせるために必要な『聖魔人』を魔王軍の幹部の一人であるリリスを仲間にする為の儀式を行っていると、いつの間にか俺が倒したと思っていた聖魔人の人格が俺の前に現れた。
そして俺は『俺が魔人の姿から元の姿に戻った後の戦い』で聖魔人に勝つことはできたが俺は聖魔人と『聖魔王』が一つの肉体に融合して共存している『聖魔王人』を魔王にさせなければいけないという事を改めて思いだし「聖魔人の精神力を封じ込めた『聖魔人の力』と『魔王の魂の力』が融合した状態で聖魔王の人格を聖魔人の身体の中から外に出せばいいんだ」と言うと聖魔人は「私が聖魔王に取り憑いた状態で私の魂を開放したら聖魔王の意識を消滅させてしまうかもしれないぞ」と言う。それに対して俺は「それじゃあ駄目なんだ。今から、この『魔の王城』の何処かに隠されていた魔王を復活させないようにするために必要な『魔王復活に必要な力』を宿らせた聖剣と魔剣の二つを取りに行くから、その聖剣と魔剣に聖魔王とライナルトさんの人格が一体化した聖魔人の力で、その二振りの聖剣と一振りの聖剣で、この魔の王国の全ての大地に存在する魔物達を完全に倒す必要がある。だけど俺もライナさんもこの『魔界』で、どれくらいの間『勇者』として活動できるのか分からないから、とりあえず、ここにいる間に出来る限りの事を行ってから戦いに望む事にしよう。だからライナルト君に協力してもらって『聖魔人』の力に聖魔王の力を加えた『聖魔剣』を作る。その後は、ライナルト君は魔王城の外に出て魔物を全て倒し、その後、俺が、これから作る聖魔剣を持って再び『魔の王国』に入り、聖剣エクスカリバーの鞘の中に入っている『大魔王の力の核となっている大魔王の力の全てを聖魔人ライナルトに託す』事にしたんだ」と言う。
すると聖魔人は「そうか、だが今のままの状態では私一人で、この『魔王城』の外にいる魔人達を相手にする事は、まだ出来ないな」と言うと聖魔人は、まず自分の精神力を回復させるために自分の中に残っている精神力と体力を使い
異世界の魔王に、最強の『回復スキル』を譲渡したら世界中から追われるようになったので逃亡します。~それでも俺は仲間達と一緒に世界を回るんだ! あずま悠紀 @berute00
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