花火大会の迷子の女性

それから祐介は家に戻りラフな服に着替えると大きな花火大会にやってきた。

田舎と言えどその花火大会はわりと有名だからか他の地域から人がやってくる。


「相変わらず、すごい人だなぁ…」


大通りには露店も並び、誘導のためにDJポリスも騒がしかった。

仲のいい中学生の頃からの友人である太一からメッセージが届く。どうやら、仕事がやっと終わったらしく今からムカッとのことだ。


「なんだよ…」


祐介はあと30分近くこの人混みの中で時間を潰さねばならないことに、ため息が漏れた。

花火の開始時間までは2時間以上ある。

仕方なく、また祐介はあの神社に向かおうとした。

踵を返し方向を変えた瞬間、胸元にドンと何かがぶつかった。


「あ!ごめんなさい!前見てなくて…」


ぶつかったのは浴衣を着た女性の頭だった。

あたふたと、頭を下げる。


「あぁ、いや。俺も周りを見てなかったから。」


女性は困ったように頭を上げ祐介の顔を見た。

祐介の顔を見た瞬間、ハッと息を飲んだように見える。


「あの…どこかでお会いしたことって?」


「え?すみません。人違いか何かをされてます?」


祐介の言葉に女性は横を向き俯く。

その表情はどこか悲しそうだった。

なぜ、彼女が悲しそうな顔をするのか分からなかった。

しかし、その横顔はなぜか懐かしさを感じた。

悲しいことがあると横を向いて俯く、癖があった人を思い出したからかもしれない。

ふと、祐介は辺りを見回した。

そういえばこの女性には、連れがいないのかと思ったのだ。


「あの、おひとりなんですか?」


「え?」


女性は顔を上げると周りを見渡した。


「あ、そういえば。えっと、友達と来たんですけど…はぐれちゃったみたいですね。」


そう言うと、スマホを取りだし電話をかけた。

コール音が鳴るが出る気配がない。

女性はため息を吐く。


「仕方ないですね。良ければ近くのスペースにでも座りますか?まだレジャーシートくらい敷ける場所はあると思うし。あと、何か食べますか?」


女性は困ったように辺りを見回した。

どうやら少し警戒しているみたいだ。

その様子を見た祐介は自分がいかに怪しいヤツかようやく察した。


「あ、あぁ!無理にとは言いません。

ただ…この人混みの中、1人で回るのは危ないかと?」


女性は少し考えてから「ご一緒願いたく思います。」と頭を下げた。


「食べ物なんですけどアイスがいいです。」


「アイス?」


「はい、焼きそばとか美味しそうなんですけど…

帯がちょっとキツくて…。

垂れるといけないから、パピコとかがいいです。」


祐介はそのチョイスに驚いた。


(いや、たまたま…だよな?)


かつて詩歩もよく、パピコを選んでいたから。

決まって、2本のパピコの1本を祐介に差し出した。

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