第5話 屋上のカギGETだぜ!

 作戦会議も終わり二日後。朝のHR後の休み時間、空人そらとはなは最終確認をしていた。今日は屋上のカギ入手の決行日である。


「いいか末田すえだ。くれぐれも、勘ぐられるなよ。さりげなくだ」

「分かってまっせ―。おまかせくださいなー」

「じゃあ、スマホから目を離そうか。人の話をするときは目と目を合わせるって習わなかったか?」

「そしたらポ○モンバトル始まっちゃうじゃーん」

 尚もスマホをいじりながら花がこたえる。

「あのなぁ。ふざけてる場合じゃないぞ。ここで失敗したらどうなるか分かってんのか。もう、うわーって感じでドーンってなってバーンだぞ!分かるか?」

「うん、なんか空人ってたまに語彙力下がるよね。くだらない効果音つけて何とかなるのは中学生までだよ」

 的確に痛いところを突かれた空人は狼狽うろたえる。

「そ、そういうのは今はいいんだ。とにかく失敗だけはするなよ」

「はいはーい」

 花の気のない返事で最終確認は終わった。



 放課後、職員室前。末田花は迷っていた。ターゲットについて。

 候補の一人目は新卒の女性教師で担当科目は数学。歳が近いこともあり、親密度も高い。

 候補の二人目は四十代独身の男性教師で担当科目は歴史。俗にいう、おっさんで優等生の花ならばうまいことできるだろう。

 そして、花が一番苦手とするのが体育科の熱血教師。優等生を演じているような花からしてみれば向こうは純粋無垢。何をしてくるか、何を考えてるかが分からない。

 そんな風に花が思い悩んでいると、


「なんだ、末田じゃないか。どうしたんだ」

 体育教師である。一番あたりたくないところをビンゴで引いてしまうのは、さながらフィクションでありそうな展開だ。

「あっ、熱海あたみ先生。こんにちは」

 すかさず花は優等生スマイルを顔に装備し、体育教師熱海圭吾あたみけいごとの戦闘を開始する。

「こんにちは。それで、用件は?」

「いやぁ、その…えっと……」

 相手の先制攻撃に防御が間に合わず、花は攻撃をくらってしまう。

「なんだ、らしくないな。もしかして、俺に用事か?」


(そんな訳ないでしょ!少しは頭を使え!)

 間違えて自爆技を使いそうになり、思わず口をつぐむが、花は脳をフル稼働させて考え直す。


(ここは、こいつに話があったことにしてイメージアップを図るか。上手くいけば鍵も手に入るかもだし)

 この間1秒。思わず「おそろしく速い思案。俺じゃなきゃ見逃しちゃうね」と言いたくなってしまうだろう。


「実は、そうなんですよ。先生にお願いがあって。先生じゃなきゃダメなんですよ」

 花は「丸め込む」を使った。

「そうかそうか。忙しいから手短に頼むぞ」

 熱海圭吾には効果がないようだ。


(なっ、こいつ私がここまで言ってるのに手短にだとぉ!)

 思わず破壊光線を打ちそうになった花だが、思いとどまる。


「そのぉ、美術の課題でスケッチが出てて、屋上から街を描きたくて…。だから鍵を貸してほしいんですけど…」

「何を言っているんだ?」


(今の私の説明で理解できなかったわけ?頭どうなってるの?)

 花は思わずギガインパクトを打ちそうになるが、やはり思いとどまる。思わず口にしてしまうほど馬鹿ではない。


「だからですね。屋上の鍵を貸してほしいんですけど…」

「いや、お前本当に何を言っているんだ?屋上に鍵なんかついてないぞ。なんなら立ち入り自由だが…」

「へ?」


 何が起きたか説明しよう。実は愛米まなごめ学園、屋上への立ち入りは自由である。

 しかし、何故花はおろか、いつきですら知らなかったのか。

 理由は単純。ただの噂である。何代か前の上級生たちが屋上ではしゃぎすぎたときに怒られて以来、生徒たちの間で屋上に入ると怒られるという考えが芽生え始めた。そして、いつしか屋上に立ち入る生徒はいなくなったというわけだ。



 そうして、無事(?)に屋上の鍵(?)を手に入れた花は何とも言えない気持ちで帰路につくのであった。

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