第21話 朝食
朝日が窓から差し込み、部屋全体を柔らかな光で包み込んでいた。アレトとアイは既に目覚めており、「聖なる癒しの館」から届けられた朝食のトレイを前に座っていた。
トレイには、見慣れない紫がかった色の薄いパンケーキのような食べ物が積み重ねられ、その横には青みがかった液体の入った小さな陶器の壺があった。
「これは...何だろう」
アレトは首を傾げながら呟いた。
「ルナフラワーのパンケーキと、スカイベリーのシロップです。珍しい食材を使った料理ですね」
アイは穏やかな表情で答えた。
「へえ、アイは知ってるんだ。じゃあ、これの中に入ってる材料を当ててみるよ」
アレトはパンケーキを一口食べ、慎重に味わった。
「うーん...ルナフラワーの他に...ブルームーンの蜜と...エアリーナッツの粉?」
「素晴らしいです、アレト様!全て正解です。本当に味覚が鋭いんですね」
アイは嬉しそうに微笑んだ。
「へへ、道具屋で色んな材料を見てきたからね」
アレトは少し照れくさそうに答えた。
「アレト様は料理もお上手そうですね。これらの材料を知っているなら、きっと美味しい料理が作れるはずです」
「そうかもしれないな。今まで料理をする機会がなかったけど、挑戦してみるのもいいかもしれない」
アレトは考え込むような表情をした。
二人はゆっくりと朝食を楽しみながら、窓の外の街並みを眺めていた。朝もやの中、徐々に活気づいていく街の様子が見えた。
「アイ、体の具合はどうだ?」
「はい、おかげさまで大分良くなりました。アレト様のおかげです」
アイは微笑みながら答えた。その笑顔に、アレトは少し胸が痛んだ。
「そうか...良かった」
アレトは目を逸らしながら言った。昨日までの死線をくぐり抜けた緊張感が徐々に薄れていく中で、アイとの関係について考え始めていた。
「アレト様、これからどうされますか?」
アイの問いかけに、アレトは我に返った。
「そうだな...まずは情報収集だ。この街のことも、俺たちの状況についても、もっと知る必要がある」
「承知しました。私にできることがありましたら、なんなりとお申し付けください」
アイの言葉に、アレトは複雑な思いを抱えながらも頷いた。
「ああ、ありがとう。でも、まずはゆっくり休んでくれ。俺たち、ここまで本当に大変だったからな」
アレトの言葉に、アイは少し驚いたような表情を見せた。
「アレト様...」
二人の視線が絡む。そこには言葉では表せない何かが流れていた。
しかし、その瞬間はすぐに過ぎ去り、二人は再び朝食に集中した。窓の外では、新たな一日が始まろうとしていた。
食事を終えると、アレトは改めて自分の状況を確認しようと思った。
「UIのこと、もう一度確認してみようか」
と心の中で呟くと、視界に透明な画面が浮かび上がった。
[名前:アレト・サクリフ]
[レベル:2]
[クラス:農民の子供]
[HP:80/80]
[MP:20/20]
[力:15]
[敏捷:18]
[知力:12]
[体力:14]
[スキル:
基礎格闘術 Lv.2
]
「やっぱり出てくるんだ...」
アレトは小さく呟いた。
「どうかしましたか、アレト様?」
アイが心配そうに尋ねた。
「いや...その...実は頭の中に不思議なUIみたいなものが見えるんだ。でも、お前には見えないんだよな」
アレトは少し躊躇いながら答えた。
「UIですか?私にはそのような機能があるとは聞いていませんが...」
アイは驚いた表情を浮かべた。
アレトは自分の状況を詳しく説明した。レベルアップのこと、ステータスの表示、そしてクエスト欄のモヤがかかった部分のことも。
「このUIの謎、そしてクエストについて...もっと情報を集める必要がありそうだ。街に出てみようか」
アレトは深く考え込んだ。
「はい、そうしましょう。きっと有用な情報が得られるはずです」
アイは頷いた。
二人が部屋を出ようとしたとき、廊下でシスターとすれ違った。
「お二人とも、お出かけですか?」
シスターが優しく微笑みかけた。
「はい、少し街を見て回ろうと思いまして」
アレトが答えた。
「そうですか。どうぞお気をつけて」
シスターが会釈をしようとした瞬間、足を踏み外してよろめいた。
「きゃっ!」
「あっ!」
アレトは咄嗟にシスターを支えようとしたが、勢いあまって二人で倒れこんでしまった。
「う...」
目を開けると、アレトの顔はシスターの豊満な胸元に埋まっていた。甘い香りが鼻をくすぐる。
「ご、ごめんなさい!」
アレトは慌てて体を起こした。
「い、いえ...私の不注意でした」
シスターも顔を赤らめながら立ち上がる。
「アレト様、心拍数が急激に上昇していますが、大丈夫ですか?」
この一部始終を見ていたアイが、少し首を傾げながら言った。
「え?あ、ああ...大丈夫だよ」
アレトは慌てて答えた。
シスターは軽く会釈をして去っていった。アレトは大きく息を吐き出し、アイの方を向いた。
「さ、さあ...行こうか」
そうして、アレトとアイは「聖なる癒しの館」を後にし、活気あふれるラーマ市街へと足を踏み出した。アレトは心の中でUIを呼び出し、クエスト欄を確認した。まだモヤがかかっているが、街に出ると何か変化があるかもしれないと期待を抱いた。
新たな冒険の幕開けを前に、アレトの胸は期待と不安で高鳴っていた。
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