第20話 幸せ

アレトは息を切らしながら、ラーマ市街の石畳の道を走り続けていた。背中には意識を失ったアイを背負い、その重みが彼の疲労を倍増させていた。しかし、アレトの心の中では、アイを救わなければという思いが、全ての疲れを押しのけていた。


「くそっ...協会はどこだ?」


アレトは目を凝らして周囲を見回す。しかし、見慣れない街並みの中で、協会らしき建物は一向に見つからない。早朝の街は静まり返っており、人影もほとんど見当たらない。


「誰か...誰か教えてくれよ...」


アレトの視界の端に常に表示されているウィンドウ。そこに示されたアイのHPバーが、ゆっくりと、しかし確実に減少し続けている。その光景に、アレトの焦りは頂点に達していた。


「アイ...もう少しだ。頑張ってくれ...」


街の中心らしき広場にたどり着いても、協会の姿は見えない。噴水の周りには誰もおらず、ただ水の音だけが静寂を破っていた。


そのとき、背後から誰かが近づいてくる気配を感じた。


振り返ると、深いローブを被った人物が立っていた。ローブで顔は隠されているものの、その立ち姿は気品に満ち、体のラインは優美な曲線を描いていた。


ローブの人物は無言で、素早くアイに近づき、手のひらを彼女の額に当てた。淡い光がアイの体を包み、瞬く間にその蒼白な顔に血の気が戻っていく。


「あ...ありがとうございます!」


アレトは深々と頭を下げた。ローブの人物は静かに頷いた。


「協会をお探しですね。」


突然、低く澄んだ声が聞こえてきた。その声は、まるで天使の囁きのように美しく、アレトの心を一瞬で捉えた。


ローブの人物が指し示す方向を見ると、細い路地が見えた。


「あの路地の奥にあります。」


アレトが感謝の言葉を述べようと振り返った瞬間、足を踏み外してしまった。


「わっ!」


アレトは思わずローブの人物に向かって倒れこんでしまう。咄嗟に手を伸ばして体を支えようとしたが、その手はローブの人物の胸に当たってしまった。


「あ...」


柔らかな感触と共に、甘い香りが鼻をくすぐる。アレトは顔を真っ赤にして、慌てて体を起こした。


「す、すみません!」


ローブの人物は何も言わず、ただ軽く頷いただけだった。しかし、その仕草が妙に色

っぽく、アレトは再び目を逸らさざるを得なかった。


アレトは何とか平静を装いながら、アイを抱きかかえ直した。


ローブの人物は優雅に手を振り、その場を去っていった。アレトは一瞬見とれてしまったが、すぐに我に返り、指示された路地へと向かった。




曲がりくねった路地を進み、人目につかない場所にある古い建物の前で立ち止まった。


「ここか...」


アレトは深呼吸して、扉を開けた。


中は静謐な雰囲気に包まれ、柔らかな光が差し込んでいた。壁には神聖な象徴が飾られ、空気には香が漂っていた。


「ようこそ、聖なる癒しの館へ」


出迎えたのは、清楚な雰囲気を漂わせるシスターだった。しかし、その体のラインは決して清楚とは言えないほど魅力的で、アレトは思わず目を見開いた。


「お困りのようですね」


シスターが微笑みかける。その笑顔に、アレトは思わずよろめいた。


「はい...友達が...」


アレトが言いかけたとき、腕の中でアイが微かに動いた。


「ん...」


アイの瞳がゆっくりと開く。その大きな瞳が、アレトをじっと見つめた。


「アレト様...?」


「アイ!良かった...目が覚めたんだな」


アレトは安堵のあまり、思わずアイを強く抱きしめた。その瞬間、アイの柔らかな体が、アレトの体に密着する。


「あ...」


アレトは慌てて腕を緩めた。アイは少し戸惑ったような表情を浮かべ、ゆっくりとアレトから離れた。


「申し訳ありません、アレト様。ご心配をおかけしてしまって...」


「いや、大丈夫だ。もう安全だからな」


シスターが優しく微笑みかける。「お二人とも、ゆっくり休んでいきなさい。部屋を用意しますね。」


アレトはシスターに頷き、アイの肩を支えながら案内された部屋へと向かった。


部屋に入ると、アレトはアイをベッドに寝かせ、自身も隣のベッドに腰を下ろした。


「アイ、大丈夫か?」


「はい、アレト様。ご心配には及びません。」


アイは平静を装ったが、その表情にはまだ疲労の色が見えた。


「そうか...ゆっくり休んでくれ。俺は...」


アレトが立ち上がろうとしたその時、ドアがノックされた。


「失礼します。お着替えをお持ちしました」


入ってきたのは、先ほどとは別のシスターだった。彼女は豊満な胸を揺らしながら部屋に入ってくる。その姿に、アレトは思わず目を逸らした。


「あ、ありがとうございます」


アレトが受け取ろうとした瞬間、シスターがつまずいて前のめりに倒れてきた。


「わっ!」


アレトは咄嗟にシスターを受け止めたが、その勢いで二人して床に倒れ込んでしまう。


「いたた...大丈夫ですか?」


アレトが目を開けると、目の前にはシスターの豊満な胸が迫っていた。


「あ...」


アレトは顔を真っ赤にして、慌てて体を起こした。


「ご、ごめんなさい!わたし、ちょっと不器用で...」


シスターも顔を赤らめながら立ち上がる。その仕草が妙に色っぽく、アレトは再び目を逸らさざるを得なかった。


「い、いえ...大丈夫です」


アレトは何とか平静を装いながら、持ってきてもらった服を受け取った。


「では、ゆっくりお休みください」


シスターはお辞儀をして部屋を出て行った。アレトは大きく息を吐き出す。


「アレト様...」


ベッドからアイの声が聞こえた。振り返ると、アイが不思議そうな顔でこちらを見ていた。


「あ、ああ...何でもないよ。さあ、ゆっくり休もう」


アレトは慌ててベッドに横たわった。しかし、先ほどの出来事が頭から離れず、なかなか眠りにつけない。


「なんだ...ここは一体...」


アレトは天井を見つめながら、この不思議な協会のことを考えていた。美女だらけで、しかもこんなにラッキースケベなことが起こるなんて...まるで夢の中にいるようだ。


そんなことを考えているうちに、疲れからか、アレトの意識は徐々に遠のいていった。


目を覚ますと、既に日が高く昇っていた。アレトは体を起こし、隣のベッドを見る。アイはまだ眠っていた。


「よく眠れたみたいだな」


アレトはほっとした表情を浮かべる。アイの寝顔は穏やかで、昨日の危機を感じさせないほどだった。


ノックの音がして、ドアが開く。


「お目覚めですか?」


入ってきたのは、昨日見かけたシスターとは別の、さらに美しい女性だった。彼女は優雅な仕草で朝食の載ったトレイを持ってきていた。


「朝食をお持ちしました。どうぞ」


「あ、ありがとうございます」


アレトが立ち上がろうとした瞬間、足が絡まってよろめいた。


「あっ!」


シスターが慌ててアレトを支えようとするが、バランスを崩してしまう。二人は抱き合うような体勢で倒れ込んだ。


「う...」


目を開けると、アレトの顔はシスターの胸元に埋まっていた。甘い香りが鼻をくすぐる。


「ご、ごめんなさい!」


アレトは慌てて体を起こそうとするが、シスターの長い髪が彼の腕に絡まってしまい、なかなか離れられない。


「あの...すみません...」


二人で必死に髪をほどこうとしているその時、


「アレト様...?」


アイが目を覚ました。彼女は不思議そうな顔で、絡み合うアレトとシスターを見ている。


「あ、アイ!これは...その...」


アレトは焦って説明しようとするが、言葉が出てこない。


シスターは優雅に立ち上がり、何事もなかったかのように微笑んだ。


「お二人とも、ゆっくり朝食をお楽しみください。何かありましたら、いつでも呼んでくださいね」


そう言って、彼女は部屋を出て行った。


部屋に二人きりになったアレトとアイ。気まずい沈黙が流れる。


「あの...アイ、さっきのは...」


「大丈夫です、アレト様。私の任務は貴方を補佐することです。それ以外のことは...」


アイは言葉を途切れさせた。その目には、何か複雑な感情が浮かんでいるように見えた。


アレトは胸が締め付けられるような感覚を覚えた。アイの言葉に、どこか物足りなさを感じていた。


「アイ...」


「はい、アレト様?」


アイが問いかける。その大きな瞳には、何か期待のようなものが浮かんでいるようにも見えた。


「いや...なんでもない。朝食を食べよう」


アレトはそう言ったが、どこか釈然としない思いが残った。


二人は静かに朝食を取り始めた。窓から差し込む朝日が、部屋を優しく照らしている。


今は,二人で朝食を食べられる幸せを嚙みしめゆっくり休息するとしよう.

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