第19話 覚醒
*ピロリン♪ ピロリン♪*
その瞬間、アレトの世界が一変した。時間が止まったかのように、周囲の動きが緩慢になる。
「な...何だ?この感覚は...」
アレトの体内を、不思議な温かさが駆け巡る。傷口が僅かに塞がり、筋肉が少し引き締まるのを感じる。
「これは...まさか...レベルアップ?でも、俺はレベルアップできないはずじゃ...」
[レベルアップ!]
[レベル 0 → レベル 1]
[全てのステータスが少し上昇しました]
[新しいスキル「基礎体術」を習得しました]
アレトは困惑し、パニックに陥りそうになった。「農民の子供」というクラスで、レベルアップは不可能だと聞いていたのに。
レベルアップの効果が消えると、時間の流れが元に戻った。アレトは周囲を見回した。ハイエナウルフたちがまだ多く残っている。
「グオォォォ!」
突如、獣たちの凄まじい咆哮が響き渡る。その声は地面を震わせ、アレトの骨の髄まで震えさせた。
「くそ...まだ終わってないのか」
アレトは魔法袋に手を入れ、果物ナイフを取り出した。戦闘用ではないこの小さな刃で戦うのは難しいが、今は他に選択肢がない。
最初のハイエナウルフが跳びかかってきた瞬間、アレトの体が反射的に動いた。わずかに体を傾け、獣の攻撃をかわす。同時に、果物ナイフを構え、獣の脇腹に突き刺す。
「キィィィ!」
獣が悲鳴を上げて倒れる。その声は金切り声のように耳に突き刺さった。
二匹目、三匹目と次々に襲いかかってくる。アレトは低く身を屈め、獣の下をくぐり抜けたり、瞬時に後方に跳んで攻撃を避けたりする。その動きは以前よりも明らかに洗練されている。
しかし、まだ多くの獣が残っている。アレトは周囲の環境を見回し、とっさの判断で近くの川に目をつけた。
「水を利用すれば...」
アレトは川の浅瀬に飛び込み、獣たちを誘い込む。水しぶきを上げながら、彼は素早く動き回る。獣たちは水に濡れた体で動きが鈍くなり、足場も不安定になっている。
アレトは水流を読み、獣たちの動きを予測する。一匹が攻撃してくると、彼は水中で身を沈め、獣の腹の下をくぐり抜ける。浮上する瞬間、果物ナイフで獣の喉元を切り裂く。
「はっ!」
血が水面に広がり、獣の悲鳴が響く。アレトは次々と獣たちを倒していくが、長時間の戦いで疲労が蓄積していく。
「くそっ...まだか?」
そのとき、岸辺に特に大きなハイエナウルフが現れた。その眼光は鋭く、明らかにこれまでの獣たちとは違う。
「ガオォォォン!」
その咆哮は、まるで地獄の底から響いてくるかのような恐ろしさだった。アレトの体が思わず震える。
「あれが...ボスか」
獣が一声咆哮を上げると、残りの小型の獣たちが一斉に後退した。アレトは水から上がり、ボス格の獣と向かい合う。
緊張が走る。アレトは果物ナイフを握り締め、全神経を集中させる。
突如、獣が猛スピードで襲いかかってきた。その速さにアレトは目を見張る。
「なんて...速さだ!」
かろうじて体を捻り、致命傷は避けたものの、獣の鋭い爪がアレトの腕を掠める。
「ぐっ...」
痛みをこらえながら、アレトは反撃の機会を窺う。獣の動きを必死に読み取り、わずかな隙を見つける。
「今だ!」
アレトは全身の力を込めて果物ナイフを突き出す。ナイフは獣の肩に刺さったが、致命傷には至らない。
獣は怒りの咆哮を上げ、さらに激しく攻撃してくる。アレトは必死に身をかわし続けるが、徐々に追い詰められていく。
「このままじゃ...」
窮地に陥ったアレトの目に、近くの蔓植物が映る。彼は咄嗟にそれを掴み、獣の首に巻きつける。
獣は暴れるが、アレトは必死に蔓を引っ張り、獣の動きを制限する。しかし、獣の力は強大で、アレトは徐々に引きずられていく。
「くっ...!」
足を踏ん張り、全身の力を振り絞る。獣との力比べが続く中、アレトの頭に一つの作戦が浮かぶ。
彼は急いで魔法袋から「火炎草の粉」を取り出す。獣が勢いよく近づいてきたその瞬間、アレトは粉を獣の目に投げつけた。
「くらえ!」
獣は一瞬ひるみ、激しく頭を振る。アレトはその隙を逃さず、全力で獣に突進する。
「終わりだ!」
果物ナイフが獣の急所を捉えた。獣は大きな悲鳴を上げ、その巨体が地面に崩れ落ちる。
アレトは激しい呼吸を繰り返しながら、周囲を見回した。全ての敵を倒したことを確認すると、その場にへたり込んだ。
「はぁ...はぁ...やった...」
そのとき、再び聞き覚えのある音が鳴り響いた。
*ピロリン♪ ピロリン♪*
[レベルアップ!]
[レベル 1 → レベル 2]
[全てのステータスが上昇しました]
[スキル「基礎体術」がレベル2になりました]
アレトは驚きながらも、自分のステータスを確認した。しかし、その時、彼は別の欄に気づいた。
[パーティメンバー:
アレト・サクリフ(自分) 健康
アイ 危篤
]
「アイが...」
アレトは慌ててアイの元へ駆け寄った。アイは依然として意識を失ったままだった。
その顔は蒼白だが、唇は艶やかな桃色を保っている。アレトはアイを抱き上げようとして、思わず息を呑んだ。
アイの身体は驚くほど軽く、しなやかだった。その曲線美は、戦いの疲れを忘れさせるほどだ。豊満な胸が、アレトの腕に柔らかく当たる。
「く...」
アレトは赤面しながら、急いでアイを背負った。背中に感じるアイの柔らかさと体温に、アレトの心臓が激しく鼓動する。
「持ちこたえろよ、アイ」
アレトは複雑な感情を抑えつつ、全速力でラーマ市街へと走り出した。新たに目覚めた能力と、アイを救いたいという強い思いが、彼を突き動かしていた。
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