第17話 遭遇

 こんな時、超人の様に足が早かったら。


 もし、俺が何か才能を持って転生することができたのなら、今頃カボタ村で平穏に生涯を送っていたと思う。


 息が苦しい。


 かれこれ20分くらい走り回っている。


 体中が痛い。


 草木に服や肌を裂かれ、暴走列車の様に未だ走ることをやめない足はボロボロだ。


 ーーアイを助けないと…。


 こんな時に限って、自分に無い力を恨んで現実逃避をしている。


 今、唐突に覚醒して発現する能力があれば、アイを目の前に呼び出してハイエナモンスターをぶっ飛ばす能力が欲しい。


 アレトは、前世の時にやり込んでいたスコクエのことを思い出していた。


 ーースコクエだったら、呪文で仲間を呼び出すことができるんだけどな。


 遠い夏の日、スコクエ内のモンスターに仲間を全員吹っ飛ばされ、そのモンスター共に虐めかの様にミンチに遭い、そして死んだ。


 辛い思い出も今となっては良い思い出だが、次作で出たスコクエからは吹っ飛ばされた仲間達を呪文で呼び戻すことができる仕様になった。


 アレトは走りながら思い出に浸っていたが、ふと足を止める。



 「そうか…。」



 ーー呪文だ。この世界の呪文は使えないけど、俺にはアイがいる。


 アレトの頭の中。


 それは、アイを大声で呼べばなんか来るんじゃないか。


 そんな安易な発想だった。


 というのも、最初アイはシステム的にアレトのことを仲間と認証しているかにみえたし、アイの規格外の能力に賭けてみたいと思った。


 というか、何も無いアレトにはそれしかなかった。


 アレトは酸素が不足している肺に目一杯空気を注入する。


 そして、



 「来い!アイ!!」



 アレトが発した言葉は風に乗って天高くに響き渡った。


 何かシステム音みたいな音が聞こえると、天高くに召された言葉が白い一筋の光となって目の前の大地に突き刺さった。


 一体何が起こったのか分からなかったが、直ぐに考えが的中したと分かった。


 それと同時に絶望でもあった。


 アイが呼び出しに応じたのは間違いないが、目の前には独特の強烈な獣臭と聞きたく無い呻き声、そして複数の影がちらついていた。


 目の前の光景が可愛い女の子1人だけであってほしい。


 しかし、絶望は待ってくれない。


 目の前の、その白い光が晴れると中から意識を失った裸のアイ、そしてその周りにはアイを犯そうとするハイエナモンスター達がいた。


 動物の交尾というのは、テレビ特集の画像で少し観たことがあるくらいだったが、モンスター共もアイに覆い被さろうとしている。


 ハイエナモンスターは何が起こったかまるで分かっていないようだった。


 目の前のご馳走にしか意識が向いていない。


 ハイエナ共はアレトなんて全く見えていなかった。



「■■■■■!!■■■■■!」



 ハイエナ共の鼻息が荒く、アイは涎塗れになっていた。



 「うおぉぉ!!!」



 アレトはハイエナ共に負けじと雄叫び返す。


 既に『恐怖』は発動している。


 しかし、アレトは勇敢な雄叫びをあげることで自身の中から恐怖を勇気で支配した。



 アレトは近くに落ちている折れた枝と鋭利な石を拾ってハイエナモンスターの群れに突っ込む。



 アレトの全力をモンスター達にぶつける。

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