第15話 道具屋

「これは…」



  毒だ。


 ボアウルフは確率的に攻撃時において毒状態を付与してくることがあった。


 また、この毒はスコクエ内屈指のダメージ量として知られている。


 毒状態になることは稀だが、毒状態に陥った場合、体力が大幅もっていかれて死亡なんてこともある。


 アイは完全試合を成し遂げたと思っていたが、どこかで掠って毒をもらってしまったと考えられる。


 しかも、その一発が毒に当たってしまうとは持っているのか持っていないのか分からないな。



 アレトはアイが毒に蝕まれてしまった原因を考察しながら、カボタ村から持ってきた自前の薬道具を用いて的確に治療を進めていた。


 足りないものは適宜、周りの草木を物色し補った。


 道具屋の息子としての、仕事を手伝った経験が大いに活きた。


 最初、アイが倒れた時はどうしてしまったのか、焦燥感が高まったが、傷口を見た瞬間行動に移していた。


 傷口を見た瞬間からの切り替えが恐ろしく早くて自分でも驚いていた。


 恐らく、クラスによる補正もかかっているんだろう。


 道具屋の知恵からどう対処すればいいか的な。


 普通はどうすればいいか分からず助けを求め誰かを呼びに行ったり、誤った治療法で悪化させたりするだろう。


 もしくは、呪文が使えたらこのような自前の道具で治すなんてする必要はないと思うが。


 俺は呪文が使えない。


 つい最近、自分が何者か思い出したので呪文を覚える暇が無かった。


 いや、暇は沢山あったのだが…。


 呪文を覚えようとして図書館に篭り、エレナに馬鹿にされてから、なんやかんやで今に至るからな。


 流石に、呪文ぐらいは覚えられるよな…。



 アレトはアイの傷口に清潔な布をあて、一通りの応急処置を済ませた。



「これで、毒による命の危機は去ったな。あとは、体力を回復させる為にポーションとかあるといいけど。」


 

 応急処置は済ませたが、完治はできていない。


 アイの身体は無傷に近いが、毒によって体力を大幅に持っていかれている。


 また、毒を完全に取り除くことはできていない。


 なるべく早く医者か毒に詳しい専門家に診てもらう必要がある。


 その為にも、本来の目的であったラーマ市街に一刻も早く着く必要がある。


 しかし、ナビゲートはアイに全て任せていた為、ここからは自前の地図でラーマ市街にたどり着くしかない。


 しかも、完全にダウンをしたアイをどうにかして運ばなければならない。



「ブノウさんの時よりはきっと軽いよね…。」



 治療に専念していてあまり意識していなかったが、アイの姿は殆ど全裸みたいなものだった。


 見えてはいけないところが見え、おまけに相手は意識が朦朧としている。



「…」



 アレトはアイを見ながら大きく唾を飲み込んだ。


 アレトはきっと柔らかい胸に手を差し伸ばそうとして、そして、その手を直前で止めた。



「…自制心。早く連れて行こう。」



 アレトは切り替えて、アイに自前の衣類を羽織らせてあげた。


 そして、左手に地図、背中にアイを載せて、邪な感情を捨てていく。


 大きな柔らかさを背中に感じながら、ラーマ市街の方向へと歩み出す。


 ここからはアイに頼れない。


 もし、モンスターに遭遇した場合それが俺の最期となるだろう。


 持ってきた道具を見ても数日ともたない。


 だからこそ慎重に、冷静に。


 俺を救ってくれたアイの為にも、あらゆる手段を使ってラーマ市街にたどり着く。



 アレトは歩み続ける。



 森林を超えた先にあるだろうラーマ市街へと。

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