第13話 後悔
「…俺って強くなれないの?」
「はい。しかし、問題ありません。私がいますから。私を頼って下さい。」
アイは自信に満ち溢れているようだ。あくまで、アイは無表情なのでそういう雰囲気ということだが。
アレトの気持ちを知らず、アイは補足を付け加える。
「アレト様。レベルアップはクラスに依存します。よって、レベルアップできる者も限られており、大体の人は固定のレベルがついております。」
「じゃあ、アイは何でレベルアップできるのさ?」
「私はこの世界にとってイレギュラーの存在であり、アレト様をお守りする為に神から授かった能力であるからです。」
「アイがだんだん俺tueeになっていく…」
「また、クラスとはその人の使命であり、クラスによっては使える能力、装備が異なってきます。例えば、アレト様は武器の類いを使用することが出来ません。しかし、道具屋商人の適正があります。」
「武器使えないの?!」
確かに、勇者ロアの従者達と相対した時、攻撃という攻撃が効かなかった。
スコクエのNPCは、兵士であればある程度イベント戦とかで戦闘するから戦闘能力があるけど、町村のモブキャラ共はモンスター達に狩られる立場であるから戦闘という概念が無い的なことかもしれない。
そうなれば、この世界で生きていく上で一生怯えて暮らすしか無い、ニート生活に逆戻りということになる。
それでも、道具屋として何かできることがあるかもしれないが…
「アイ、教えてくれ。俺はどうしたら強くなれる?」
「アレト様は強くなることが出来ません。また、強くなる必要もありません。私がいますから。」
「だからそれだと困るんだよな…」
俺はこの世界で本気で生きるって決めたんだ。カボタ村の意志も背負ってる。
そんな奴が、この先女の子の後ろで守られて生きていくなんてごめんだ。
道具屋商人として、どうにか強くなるしかないのか…。
アレトは眉間に眉を寄せ考えながら、アイに疑問をぶつけていく。
「でも、戦闘が出来ないことは無いよね?」
「はい、戦闘に参加することは出来ます。しかし、戦闘力が皆無という理由もありますが、戦闘に参加する際に一般市民のクラス特性故に恐怖属性が付与されてしまいます。」
「それって、戦闘手段が無い人達は、恐怖で動けなくなるということだよね?」
「左様でございます。しかし、問題ありません、私がいますの…」
「うん…頼りにしてるよ。」
アイから喜びの雰囲気を感じる。あくまで、雰囲気だけど…。
聞きたく無い事実を受け止め、それでも足掻こうとするアレト。
道具屋商人として、戦う術をどのようにして手に入れるか。
そんなことを若葉を見つめながら考えていると、視界の端でモンキーゴブリンが過ぎ去っていくのが見えた。
アイはどうやら気づいていないらしい。というかなんか、上の空だ。
戦闘力皆無のモブキャラがどこまで戦えるのか試してやろうじゃないか。
アレトは果物ナイフを握り締め、モンキーゴブリンが走る跡を気づかれないよう追いかけた。
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元いた場所から、だいぶ歩いたと思う。体感30分ぐらい歩いたところで、モンキーゴブリンが何かを見つけ立ち止まった。
青々しい木々が空け、洞窟前の少し開けた場所。
モンキーゴブリンが見つけたもの、それは死後何日経ったか分からない少女の遺体だった。
少女の顔は崩れ、衣類を纏っておらず、その状況を見ても、とても酷い目に遭ったとしか思えない状態だった。
だいぶ腐蝕が進んでおり、酷い匂いがあたりを充満している。
そんな少女の遺体を見つけたモンキーゴブリンは、少女の生殖機能が無いことを見極めると、腐蝕した肉を喰らい始めた。
そんな凄まじい光景を目の当たりにしたアレトは、吐き気に催され嘔吐した。
正直、気を失わなかったのは幸いだったのかもしれない。
発狂寸前になるのを止めたのは、目の前の少女。
その少女を、ちゃんと弔ってあげたいと思った気持ちが、アレトの意識を留めた。
アレトは一気に吐いた後、果物ナイフが手にあることを確認し、モンキーゴブリンとの距離を詰めるように走り出した。
実際、スコクエのゲームの世界では、モンスターなんてレベル上げと金集めの糧にしか思っていなかった。
でも今は、憎悪と全てのモンキーゴブリンは駆逐しなければないという使命感が湧く。
あと3メートル。一気に頭を割ってやる。
アレトこの瞬間、主人公になったような気分だった。
誰かを思って行動する、それが死者の弔いの為の命掛けた戦いというものに、自分自身酔っていた。
モンキーゴブリンはアレトに気付き、こちらに振り返る。
アレトとモンキーゴブリンの目が合う。
モンキーゴブリンの目は悪魔のような目だった。
そんなモンキーゴブリンの目を見た瞬間、アレトは動けなくなった。
まるで、死を目の前にしている感覚。
アレトは今までの行動を今更ながら後悔する。
所詮モブキャラに過ぎなかったということに。
アレトが動けないことを構わず、すぐさまモンキーゴブリンはアレトに攻撃を仕掛けてきた。
アレトは、モンキーゴブリンの鋭い爪で肩から腰のあたりまで引き裂かれた。
そのまま、衝撃で後方に転がるアレト。
一瞬何があったか分からなかったアレトだったが、じわじわと自身の服が紅く染まっていくのを見て、事の事態を把握していく。
とてつもなく痛い…。
…怖い。
死が間近に迫る恐怖。
兵士達と相対した時とは違った恐怖。
モンキーゴブリンはアレトとの距離を近づけて来る。
「--っ!」
逃げないと…。
早く逃げないと殺される…。
あの少女のように殺される…。
這いつくばりながら、モンキーゴブリンから逃れようとするアレト。
しかし、腰は抜け、まともに立つことが出来ない。
お構いなしに、モンキーゴブリンが飛び込んでくる。
「やめろぉ!!」
アレトの命乞いも虚しく、モンキーゴブリンは鋭い爪を覆い被せてくる。
自分が死ぬ瞬間から逃れるようにアレトは目を瞑っていた。
痛さからも、少女を弔うことからも、現実からも逃げるように。
しかし、アレトの元に痛みや死は訪れなかった。
「アレト様!!直ぐに傷の手当をします!!しっかり意識を保って下さい!!」
ああ、またか。
アレトが閉じた瞼を開けると、銀色の剣を持った猫のように可愛い女の子が立っていた。
また、守られてしまった。
アレトは自分に失望するかたはらに周りの状況を見定める。
モンキーゴブリンの頭が横に転がっているということは、一発で仕留めたのだろう。
転がっているモンキーゴブリンの歯茎に少女の肉が挟まっている。
その光景を見て、先ほどの死体喰いのモンキーゴブリンを思い出してしまった。
アレトは再び発狂しそうになり意識が遠のいてくる。
そんなアレトの状態を見て、アイは必死でアレトの意識を留めようとする。
「アレト様!!気をお確かに!!」
アイが意識を留めようとひたすら声を掛けてくる。
しかし、アイの呼びかけが急に聞こえなくなった。
アレトはとうとう意識を失ったかと思ったがそうでは無かった。
少女の遺体が転がる先の洞窟。
耳を塞ぎたくなるような獰猛な唸り声が重なるように大きく聞こえてくる。
そして洞窟の中から鼻がひん曲がるような獣臭と共に、夥しい数のモンキーゴブリンが出てくるのであった
アイはそんな悪夢のような状況を見ながら顔色を変えることなく、
「モード『sord』」
と、アイが唱え、臨戦態勢に入るのであった。
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