第12話 序

「アレト様。疲れているようでしたらおぶりますがいかがですか?」


「だからいいって。女の子におぶられてる男とか、なんか恥ずかしいだろう?」


「…。かしこまりました。いつでもおぶりますのでお申し付けください。」


「多分ないとは思うけど、ありがとう。」


 アイは相変わらず表情を変えないが、少し悲しそうな雰囲気がした。


 アイはアレトのことをおんぶしたかった。そんなアイの気持ちを気づくことが出来ない童貞アレトは疲れを隠すように、



「アイの気遣いはとても嬉しいよ。でも、俺は何でも人に任せたくないんだ。自分のことくらい自分でやりたいんだ。」



 アレトは少しカッコつけながら言う。本当は歩き慣れない山道を歩いて脚が痛いというのに。


 しかし、ここで弱音を吐いてアイに任せっきりにしたら今までの俺と変わらない。


 もう二度と誰かの重荷になりたくない。


 そんなことを再び心の中で決意をしていると、先頭を歩いていたアイが急に止まった。



「どうし…」



 アイに何があったのかと思い、声を掛けようとした刹那、突然視界の前に何かが通り過ぎた。


 そして、アイが徐ろに手を頭上に上げ、凛とした声で言い放つ



 「モード『sword』」

 


 その瞬間、アイの上げた綺麗な右手が銀色に変色していき、やがてその手の中に一本の剣を手にしていた。



「アレト様下がっていて下さい。」



 大きく実った胸を揺らしながら、剣で風を切る。顔だけ見たら美少女の子供なのだが、今は物凄く頼もしく見える。


 そんなアイが見据える先にいるのは、ゴブリンとサルを合体して2で割ったようなモンスターだった。


 獣臭が凄まじいモンスターの爪は鋭く、涎を垂らしながら凶悪な歯を剥き出している。


 (最初の敵はスライムが定番でしょ。)



 スコクエで最初に戦うモンスターは黄色いスライムだった。だから、こうして目の前の如何にも強そうなモンスターに相対すると少し怯んでしまう。


 そんなアレトを見て感じ取ったのか、アイは目の前のモンスターを目の前にして悠長に解説し始めた。



「データベースによると目の前のモンスターは『モンキーゴブリン』と呼ばれます。このモンスター自体は然程強くありません。冒険者ギルドに寄せられるEランク帯のクエストでよく討伐対象になっている程です。ただ…」



 アイは一度区切りを入れると、嫌悪した眼差しでモンスターを捉え、一気に前へ踏み出した。



「モンキーゴブリンは村娘を攫って繁殖する、毎日発情期の害虫です。」



 そう言うと、一気にモンキーゴブリンの首を銀色の剣で刎ねた。


 その一連は閃光のようにそして美しかった。


 アイが発した言葉より、アイの一連の動きに呆気に取られていたアレトは、正気を戻すように赤い血で彩られた剣を持つアイに近寄る。



「アイ、凄いね。強くてびっくりしたよ。」


「お褒めのお言葉ありがとうございます。」


「でも、モンキーゴブリンって弱いんだね。見た目だけ見たらとても強そうに見えたけど。」


「そうですね、私のデータベースによるとモンキーゴブリンはあまり人前には出てくることが少なく、あまり目撃情報が少ないことから冒険者ビギナーからは見た目に圧倒される人が少なからずいるそうです。」


「それってもしかしてだけど、弱いが故に自分より弱そうなやつを見つけて襲ってるということだよね。」


「その通りです。その為、村娘や子供が狙われることが多く、その被害も甚大だそうです。」


 だから、子供2人で歩いていた俺たちを襲ってきたということか。


 しかも、アイは色々アレだからな。年中毎日発情期のモンキーゴブリンからすれば目に毒だよな。


 改めて、アイについては規格外だなと思う。


 年齢は分からないが、多分俺の2個上ぐらいの子供の割に胸は大きい。艶のある黒髪のミディアムで俺より背丈は少し大きく猫みたいに可愛い。そしてAIだと言うからな。


 そもそもAIってなんだ?人工知能ってことだよな。ということはあれか?予めあの胡散臭いジジイ(神)が学習させたということか?


 アイについて考えていると、アイがアレトの様子を伺いながら何か伝えようとする。



「アレト様。お考えのところ申し訳ございません。少しお話したいことがあるのですがよろしいでしょうか?」


「うん?あ、全然いいよ。世界の理について考えていただけだから。」


「…?ありがとうございます。」



 アイのことを考えていたと素直に言えず、意味わからないことを言ってしまった。


 けど、困惑したアイ可愛いな…。


 アレトが猫を愛でるかのようにアイを見ていることお構いなしに、アイは語りだす。


「私は先程の戦いでレベルアップした模様です。具体的にはレベル1からレベル2です。」


「人工知能だ!凄いじゃん!やったね!アイ!」



 レベルアップ。やはりこの世界にもそのような概念があるのか。これは、この世界がスコクエなのかどうかを吟味する上で重要な要素だと言える。


 そして、俺がこの世界で生きていく上で必要不可欠な要素でもある。


 これまでこの世界で生きてきてレベルアップという言葉を聞かなかったから、満を辞してところか。


 でも、アイがレベルアップして俺がレベルアップしなかったのはなんでだろう。


 単純に戦闘に参加していなかったせいなのか、システムでパーティを組む必要があったとか、色々考えることできてしまったので、この疑問は心の中に一度しまっておくことにした。


そして、アレトは改めてアイに問い出す。



「なんかレベルアップに伴って、出来ることとか増えたりした?」


「はい、身体能力と検索機能が強化されました。具体的に言うと名前を教えて頂ければその人の情報について調べることが出来ます。」


「それってさっきのモンスター検索と似たようなやつ?」


「そうですね、モンスターについては私が実際に見ればそのモンスターについて分かる範囲内で調べることが出来ます。しかし、今までは人間の詳細情報について同じ様に検索することが出来ませんでした。」


「しかし、それについて可能になったわけだ。」


「左様です。宜しければどなたか検索しますか?」



 そうだな。俺が知っていてかつ生きている人は少ない。また、エレナやレイについては検索する程でもないだろう。


 だとすれば…。



「オッケー、アイ、勇者ロアについて教えてくれ。」


「かしこまりました。勇者ロアはこの世界における11傑勇者第11席、『太陽勇者』と呼ばれる11人いる中のクラス『勇者』です。問題を抱えている町村に訪れは次々と解決していく様と、勇者の人当たりの良さからまるで闇を照らす『白い太陽』と言われています。」


「世間帯からは凄くいいように言われているんだね。」


「しかし、村を救った夜には村中の若い村娘を自身が泊まっている宿屋に招き、一夜にして全ての村娘と関係をもったそうです。そんなこともあることから、『女遊び人』『奴隷勇者』とも裏では言われているそうです。」


「『奴隷勇者』?」


「勇者ロアは気に入った村娘を奴隷にする趣味があるらしく、一度その件で歯向かった村人が殺されただけで無く、村そのものも潰したそうです。」


「…」



 勇者ロア。予想以上にやばいやつだな。『太陽勇者』って呼ばれているのも、全部力で捩じ伏せている結果なんだろうな。


 誰も止められない圧倒的な力を持つ勇者ロアについてもっと知る必要があるな。



「ありがとう、アイ。今度はロアの強さについて可能な限り教えたくれる?」


「はい、勇者ロアのレベルは35で、『太陽勇者』と呼ばれているように炎系の呪文を多く使います。因みにレベル35の冒険者はこの一帯では勇者ロアしかおらず、勇者の固有スキル共に無類の強さを持っております。」


「道理で誰も歯向かえ無い訳か。因みに勇者固有スキルって?」


「それは、神から送られるギフトで勇者それぞれに異なったギフトが送られています。また、その固有スキルがどのようなスキルかまでは調べることは出来ません。」



 アイの話を聞けば聞く程、ロアについて戦慄していく。


 まず、ギフト。これはおそらくあのジジイがよこしたチート能力だと思う。


 そして、レベル。ここら一体で現状1位のやつとか、レベルが上がったことない無いやつが勝てるはずがない。


 勇者ロアに勝つ方法。まず、自身の強さを改めて把握しなければならない。



「アイ、俺のこととかも調べたりすることができるの?」


「はい、アレト様についてお調べしますね。」



 アレトは内心緊張しながら、アイの返答を待つ。


 これで、とてつもないチート能力を持っていて、俺tueeの展開になってほしいところだ。



「アレト・サクリフ。カボタ村のクラス『農民の子供』。このクラスに該当する者は多数存在します。また、村の中ではよく本を読んでいたことから『本の虫』とも呼ばれています。」


「『本の虫』って…、まぁ褒め言葉かな。」



 前世のダメ人間、建成からしたら褒め言葉であり、満更でもない気持ちになった。


 しかし…



「しかしながら、アレト・サクリフは『農民の子供』が故、レベルという概念が有りません。よって、明確な強さがありません。」



 衝撃な事実がアレトを無慈悲に突き刺すのであった。


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