第9話 悪夢

「----」



 アレトの目の前には悲惨な光景が広がっていた。勇者と兵士達は立ち去った後だった。

 村の家屋は元の形が分からないほどに崩壊しており、畑の作物を荒らされ、家畜の死体と何かしらの匂いで村の空気を充満していた。

 アレトがカボタ村に着いた時、真っ先に目に入ったのは、村の中心で燃えている大きな火の山だった。

 アレトはその火の山に近づけなかった。見知った親しい人達の顔がそこにあるかもしれない。目の前の現実を受け入れたくなかった。



「--だ...れか、たす...け...」



 どこからか、声がした。まだ、生き残っている人がいるかもしれない。


 アレトは走り出した。声のする方向へ。


しかし、待ち受けていた運命は更に悲惨の現実と向き合わされる。



「と...父さん...?」



 それは、真っ黒に燃え焦げた四肢の無い父親だった。

 一体何をすればこんな酷いことができるのか、父親の息は痛みから逃れるように息が弱まっていく。



「--その声...アレトか?」



「父さん!喋らないで!今、助けを呼びにいくから...」



 アレトは誰かに助けを求めようと、周りを探しに行こうとする。

 そんな切羽詰まって再び走り出そうとするアレトの腕をアイが掴んだ。

 振り解こうとしても、この細い腕からは見合わない力によって振り解くことができなかった。



「アイ!離せ!誰か助けに呼ばないと!」



「アレト様。その者はもう助かりま...」



「うるさい!そんなのわかってるよ!」



 そう。分かっていた。

 最初、声のする方に向かった時、アレトは誰だかわからなかった。また、その人の状態を見てももう助からないと感じていた。

 じゃあ、なんで父親だと分かったかと言うと、父親の側にアレトが届けるはずだったお弁当があったらだ。

 お弁当箱を見た瞬間、アレトの頭の中が真っ白になった。

 だから...



「じゃあ、アイが助けてよ!俺を助けたみたいに!まだ、何かしらあるんだろ!」


「先程も申し上げましたが、道具はもう何もありません。また、私は現在pouseの影響で何もすることができません。」


「だったら!」



 だったら、いっそハイポーションを父親に使ってあげたかった。

 俺は動けなかっただけで、より重篤な父親に使ってあげたほうがよかった。


 いつもこうだ。


 こっちの世界に来ても何も変わっていない。


 自分のこと優先。


 ハイポーションを使う前に、村の人達のことも考えられたはずだ。



 アレトはアイに腕を掴まれたままその場に膝から崩れた。



「あ...アレト。本当は今日...お前の好物のトマトが採れたからあげようと思ってたんだ...」


「--!父さんが居ないとトマトも美味しくないよ!」


「...はは、アレトごめんな...母さんもお前の友達も助けることができなかった...」


「...」


「勇者達に連れていかれちまった...」


「でも...最後にお前の声が聞けてよかった...」


「...!」


「...父さん...臆病者だから...一人は怖いからな...」


「父さん!!」


「アレト...成長したな...どうか...この先も...たくまし...く...生きて...」










-------------------------------------------








 アレトはアイと協力して、カボタ村の人々のお墓を2日かけて作った。

 アレトは休もうとせず、ひたすらにカボタ村に転がる死体を運んだ。

 お墓を作り終えた後、アレトは地面に吸い込まれるように倒れそのまま丸3日寝込んだ。

 寝ている間、アイが俺のことを守ってくれていたらしい。

 時折瞼を開くと、血で汚れた手を拭っているアイを見かけることがあったからだ。

 そんな、アイに感謝をしながら、このまま俺も村のみんなと同じ場所に行きたいと思った。

 それか、今までの出来事が全部悪夢だったらいいのに。




 アレトはそんなことを思いながら、再び意識を闇の中に潜るのであった。

 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る